説明

車両の熱管理装置

【課題】より効果的に燃費を改善可能な車両の熱管理装置を提供する。
【解決手段】エンジン3の排気より回収した熱を車載された熱機器に供給する熱ループの設けられた車両において、熱交換器であるヒーターコア5、ウォーターウォーマー6及びオイルウォーマー7への熱供給による燃費の向上代と、熱電発電器9への熱供給による燃費の向上代とを比較し、熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器を熱ループの熱の供給先として選択するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部を循環される熱搬送媒体を介して車載された熱機器に熱を供給する熱ループが設けられるとともに、熱搬送媒体を一方の対象として熱交換を行う1つ以上の熱交換器と、熱ループを通じて供給される熱で発電を行う熱電発電器とを熱機器として備える車両の熱管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載する車両において、エンジンの廃熱を回収して再利用することが考えられている。従来、そうした車両の熱管理装置として、特許文献1に記載の装置が知られている。同特許文献1に記載の車両の熱管理装置では、廃熱回収器に複数の熱ループを設けるようにしている。そして回収したエンジンの廃熱を、ランキンサイクル機関に供給して熱を動力に変換したり、エンジンに供給してその暖機を促進したりするようにしている。また従来においては、例えば特許文献2に記載のように、エンジンの廃熱を回収し、その回収した熱で発電することが考えられてもいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−191624号公報
【特許文献2】特開2008−062911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたエンジンの廃熱の再利用によれば、車両の燃費性能等を改善することができる。しかしながら、これら従来の車両の熱管理装置においては、回収した廃熱の利用効率が最適化されているとは言い難く、未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、より効果的に燃費を改善可能な車両の熱管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1に記載の発明は、内部を循環される熱搬送媒体を介して車載された熱機器に熱を供給する熱ループが設けられるとともに、熱搬送媒体を一方の対象として熱交換を行う1つ以上の熱交換器と、熱ループを通じて供給される熱で発電を行う熱電発電器とを熱機器として備える車両の熱管理装置をその前提としている。そして上記課題を解決するため、本願請求項1に記載の発明は、熱交換器への熱供給による燃費の向上代と、熱電発電器への熱供給による燃費の向上代とを比較し、熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器を熱ループの熱の供給先として選択する選択手段と、を備えるようにしている。
【0007】
上記構成では、熱交換器に熱を供給する場合と、熱電発電器に熱を供給する場合とのそれぞれにおける燃費の向上代が求められる。そして、熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器が、熱ループの熱の供給先として選択されるようになる。すなわち、上記構成では、熱ループの供給する熱エネルギーをそのまま利用して媒体の加熱に用いる場合と、その熱エネルギーを電気エネルギーに変換して利用する場合とのそれぞれにおける熱供給の効果を、燃費の向上代という同一の尺度でそれぞれ評価するようにしている。そして燃費の向上代が最も高くなる熱機器を、熱の供給先として選択するようにしている。そのため、上記構成では、燃費が最善となるように、熱ループの熱の供給先を選択することが可能となる。したがって、上記構成によれば、より効果的に燃費を改善可能となる。
【0008】
なお、燃費の向上代を表すパラメーターとしては、熱ループからの熱供給を通じて軽減されるエンジンのエネルギー(仕事率)を用いることができる。例えば熱電発電器への熱供給を行って発電を行う場合には、その発電量分の発電をエンジン動力で行うために必要なエンジンのエネルギー(仕事率)を、燃費の向上代の指標値として用いることができる。また熱ループからの熱供給によりエンジンやトランスミッションの暖機を行う場合には、その暖機によるエンジン/トランスミッションのフリクショントルクの減少分に応じたエンジンのエネルギー(仕事率)を、燃費の向上代の指標値として用いることができる。更に熱ループを通じて供給される熱を車室内の暖房に使用する場合には、電気エネルギーを用いて同等の暖房を行うときに必要な電力をエンジン動力により発電するために必要なエンジンのエネルギー(仕事率)を、燃費の向上代の指標値として用いることができる。
【0009】
ちなみに、上記の熱ループとしては、エンジン冷却水の循環ループを用いることも可能ではあるが、そうした場合には、冷却水全体の熱容量が大きいこと、冷却水の温度に制限があることなどから、熱の搬送効率をあまり高くすることができないことになる。そこで請求項2によるように、エンジン冷却水の循環ループとは、独立した熱ループとして熱ループを構成すれば、熱搬送媒体としてより熱容量の小さいものを使用したり、熱ループの作動温度を高くしたりしてより効率良く熱の搬送を行うことが可能となる。なお、そうした場合の熱ループの熱搬送媒体としては、粘性及び比熱の低いシリコンオイルや蒸気化された水などを用いることが考えられる。
【0010】
なお上記の熱交換器としては、請求項3によるように、エンジン冷却水と熱搬送媒体との間で熱交換を行うウォーターウォーマーや、トランスミッションオイルと熱搬送媒体との間で熱交換を行うオイルウォーマー、車室内に送風される空気と熱搬送媒体との間で熱交換を行うヒーターコアなどが考えられる。
【0011】
また請求項4によるように、熱ループを介して、車載された熱源(エンジンなど)の廃熱を回収したものを車両各部の熱機器に供給するように構成すれば、廃熱を燃費の改善に有効利用することができるようになる。
【0012】
なお熱機関と電動機との2つの駆動源を備えるハイブリッド車両では、通常のエンジン車に比して熱機関の稼動率が低くて発熱量が小さいため、車室内の暖房やエンジン、トランスミッションの暖機等に使用する熱が不足しがちとなる。そのため、請求項5によるように、そうしたハイブリッド車両に本発明の熱管理装置を適用すれば、より顕著な効果が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る車両の熱管理装置の一実施形態についてその全体構造を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態に採用される熱管理制御ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の車両の熱管理装置を具体化した一実施形態を、図1及び図2を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態の熱管理装置は、熱機関であるエンジンと電動機との2つの駆動源を備えるハイブリッド車両に搭載されるものとなっている。
【0015】
図1は、本実施の形態の熱管理装置の適用される車両に設置される熱ループの構成を示している。この熱ループは、エンジン冷却水の循環ループとは、独立した熱ループとして構成されている。なお本実施の形態では、熱ループには、粘性及び比熱の低いシリコンオイルが熱搬送媒体として循環されている。
【0016】
同図に示すように、この熱ループには、同ループに熱搬送媒体を循環させるポンプ1と、廃熱回収器2とが設けられている。熱源であるエンジン3の排気通路4に設置された廃熱回収器2は、排気通路4を流れる排気の熱をエンジン3の廃熱として回収するとともに、その回収した熱で熱ループの熱搬送媒体を加熱する。
【0017】
また熱ループには、ヒーターコア5、ウォーターウォーマー6及びオイルウォーマー7の3つの熱交換器と、熱搬送媒体の熱を蓄える蓄熱器8と、熱搬送媒体の熱で発電を行う熱電発電器9との5つの熱機器が設けられている。ヒーターコア5は、車室内に送風される空気と熱搬送媒体との間で熱交換を行う熱交換器となっている。またウォーターウォーマー6は、エンジン冷却水と熱搬送媒体との間で熱交換を行う熱交換器であって、熱搬送媒体の熱でエンジン3を暖機するものとなっている。更にオイルウォーマー7は、トランスミッション10のオイル(トランスミッションオイル)と熱搬送媒体との間で熱交換を行う熱交換器であって、熱搬送媒体の熱でトランスミッション10を暖機するものとなっている。
【0018】
一方、熱ループには、5つのバルブ11〜15が設けられている。バルブ11は、ヒーターコア5に熱ループの熱搬送媒体を流すか否かを切り替える切替弁として、バルブ12は、ウォーターウォーマー6に熱ループの熱搬送媒体を流すか否かを切り替える切替弁として、それぞれ設置されている。またバルブ13は、オイルウォーマー7に熱ループの熱搬送媒体を流すか否かを切り替える切替弁として、バルブ14は、蓄熱器8に熱ループの熱搬送媒体を流すか否かを切り替える切替弁として、それぞれ設置されている。更にバルブ15は、熱電発電器9に熱ループの熱搬送媒体を流すか否かを切り替える切替弁として設置されている。
【0019】
これらのバルブ11〜15は、機関制御を司る電子制御ユニット16により制御されている。電子制御ユニット16は、中央演算処理装置(CPU)、読込専用メモリー(ROM)、ランダムアクセスメモリー(RAM)、入出力ポート(I/O)を備えている。ここでCPUは、機関制御に係る各種演算処理を実施し、ROMは、機関制御用のプログラムやデータを記憶する。またRAMは、CPUの演算結果や車両各部に設けられた各種センサーの検出結果等を一時的に記憶する。
【0020】
こうした電子制御ユニット16の入力ポートには、エンジン冷却水温Te を検出する水温センサー17、トランスミッション10のオイル温度Ttmを検出する油温センサー18、外気温Tair を検出する外気温センサー19の検出信号が入力されている。また同入力ポートには、熱ループの熱搬送媒体の温度(媒体温度Tm )を検出する媒体温度センサー22、蓄熱器8の蓄熱媒体の温度(蓄熱温度Tc )を検出する蓄熱温度センサー23の検出信号も入力されている。
【0021】
なお、こうした熱管理装置を搭載する車両には、車室内に送風される空気を加温する手段として、上記ヒーターコア5に加え、PTCヒーター20を備えている。PTCヒーター20は、電気エネルギーを熱に変換して、車室内に送風される空気を加温する加温装置となっている。またこの車両には、発電器として、上記の熱電発電器9の他に、エンジン3の動力を用いて発電を行うオルタネーター21が設けられてもいる。
【0022】
以上のように構成された本実施の形態の車両の熱管理装置では、ヒーターコア5、ウォーターウォーマー6、オイルウォーマー7、蓄熱器8及び熱電発電器9の各熱機器の中から、廃熱回収器2の回収した熱の供給先を任意に選択することができるようになっている。こうした本実施の形態において電子制御ユニット16は、各熱機器に熱を供給したときの燃費の向上代をそれぞれ求めるとともに、燃費の向上代が最大となる熱機器を選択して熱供給を行うようにしている。
【0023】
以下、各熱機器に熱を供給したときの燃費の向上代の推定ロジックを説明する。
1.ヒーターコアへの熱供給による燃費の向上代の推定
まず、ヒーターコア5への熱供給による燃費の向上代の推定ロジックを説明する。この推定に際しては、まず、要求された暖房能力を確保する上で、PTCヒーター20のみでは賄い切ることのできない熱量が、絶対必要ヒーター分配熱量ΔQm_heat_must として、下式(1)により算出される。なお下式(1)において「ΔQheat」は、ヒーター要求熱量を、「ΔQptc_max 」は、PTCヒーター20の最大発生熱量をそれぞれ示している。
【数1】

【0024】
ここで絶対必要ヒーター分配熱量ΔQm_heat_must が「0」よりも大きければ、すなわちPTCヒーター20のみでは、必要な暖房能力を確保できないときには、最低でも不足分の熱量を熱ループからの熱供給で補うこととする。そしてこの場合には、このときの熱供給による熱搬送媒体の温度低下量ΔTm_heat_must が、下式(2)により算出される。なお下式(2)において「Mm 」は、熱搬送媒体の熱容量を、「Gm 」は、熱ループにおける熱搬送媒体の流量を、それぞれ示している。
【数2】

【0025】
次に、熱搬送媒体の温度(媒体温度Tm )の初期値、すなわち初期媒体温度Tm_pre として、現在の媒体温度を設定した上で(Tm_pre =Tm )、温度低下量ΔTm_heat_must を媒体温度Tm に反映させる。すなわち、下式(3)により媒体温度Tm の値が更新される。
【数3】

【0026】
続いて、現状のヒーター要求熱量ΔQheatの値を初期ヒーター要求熱量ΔQheat_preに代入した上で(ΔQheat_pre=ΔQheat)、上記絶対必要ヒーター分配熱量ΔQm_heat_must 分の確定された分配熱量を除いた残りの要求熱量に、ヒーター要求熱量ΔQheatの値が更新される。すなわち、ヒーター要求熱量ΔQheatの値が、下式(4)により更新される。なお、更新後のヒーター要求熱量ΔQheatの値は、PTCヒーター20の最大発生熱量ΔQptc_max と一致する。
【数4】

【0027】
(燃費の向上代の推定)
続いて、上記更新後のヒーター要求熱量ΔQheatの値の熱量を、熱ループからの熱供給により賄うとしたときの燃費の向上代の推定について説明する。この推定に際しては、まず、熱ループからヒーターコア5に供給可能な熱量の最大値が、ヒーター熱分配供給限界熱量ΔQm_heatとして、下式(5)により算出される。なお、下式(5)において「Tair 」は、外気温度を示している。
【数5】

【0028】
ここで、ヒーター熱分配供給限界熱量ΔQm_heatがヒーター要求熱量ΔQheatを上回っているのであれば(ΔQm_heat>ΔQheat)、ヒーター要求熱量ΔQheat分の熱量が熱ループからの熱供給にて賄われることになる。そこでこの場合には、その熱量をPTCヒーター20に発生させたときの電力分に相当する利得が生じることになる。この電力分の利得ΔQf_heatは、下式(6)により求めることができる。なお下式の「ηele 」は、オルタネーター21の発電効率を指している。
【数6】

【0029】
またこの場合には、ヒーター要求熱量ΔQheat分の熱量の供給による媒体温度の低下量ΔTheatが下式(7)により算出される。
【数7】

【0030】
そして現状の媒体温度Tm の値を初期媒体温度Tm_pre に代入した上で(Tm_pre =Tm )、媒体温度の低下量ΔTheatを媒体温度Tm に反映させる。すなわち、下式(8)により媒体温度Tm の値を更新する。
【数8】

【0031】
なお、この場合には、ヒーター要求熱量ΔQheat分の熱量を供給しても、供給可能な熱量が熱ループの熱搬送媒体に残ることになる。そこでこの場合には、余剰した熱量をウォーターウォーマー6やオイルウォーマー7等に供給するようにしている。そしてこのときの熱ループからの熱供給による燃費の向上代は、すなわちヒーターコア5等への熱供給により削減可能なエネルギーの量(ヒーター分配改善エネルギー変化ΔQfh)は、下式(9)の通りとなる。なお下式(9)における「ΔQfe」は、熱ループからの熱供給でエンジン3の暖機を行うことによるフリクショントルクの低下を通じて改善される仕事率である、エンジン改善フリクション仕事率を示している。また下式(9)における「ΔQftm 」は、熱ループからの熱供給でトランスミッション10の暖機を行うことによるフリクショントルクの低下を通じて改善される仕事率である、トランスミッション改善フリクション仕事率を示している。なお、ΔQfe及びΔQftm の推定ロジックは、後述する。
【数9】

【0032】
一方、ヒーター熱分配供給限界熱量ΔQm_heatがヒーター要求熱量ΔQheatを下回っているのであれば(ΔQm_heat<ΔQheat)、熱ループから供給可能な熱量の全てをヒーターコア5に供給することになる。このときのPTCヒーター20の電力分の利得ΔQf_heatは、下式(10)により求められる。
【数10】

【0033】
またこのときのヒーター分配改善エネルギー変化ΔQfhは、下式(11)により算出される。
【数11】

【0034】
2.ロックアップを可能とすることによる燃費の向上代の推定
ところで、本実施の形態の適用される車両には、エンジン3とトランスミッション10とを直結(ロックアップ)するロックアップクラッチが設けられている。ロックアップを行えば、エンジン3、トランスミッション10間の動力伝達効率が高まって燃費が改善されるようになる。ただし、こうしたロックアップは、トランスミッション10のオイル温度Ttmが、既定のロックアップ許可温度T_L/Uに達するまでは、禁止されている。そこで、ロックアップが禁止されているとき(Ttm<T_L/U)には、熱ループからの熱供給でトランスミッション10の暖機を行い、ロックアップの許可を早めることで燃費の改善を図ることができる。以下、そうした場合の燃費の向上代の推定ロジックを説明する。
【0035】
このときの推定に際しては、まず、ロックアップ許可温度T_L/Uまでオイル温度Ttmを加熱するために必要な熱ループの供給熱量ΔQtm_L/Uが、下式(12)により算出される。下式(12)において「Mtm」は、トランスミッション10の暖機部分の熱容量を指している。
【数12】

【0036】
続いてロックアップを可能としたことによる、車両動力伝達系のフリクショントルクの変化量ΔTftm_L/U が、下式(13)により算出される。なお、下式(13)の「MAP_Tftm_L/Uless (Ne ,Ttm)」は、ロックアップを行わない状態での車両動力伝達系のフリクショントルクを示しており、その値は、既定の演算マップを用いてエンジン回転速度Ne とトランスミッション10のオイル温度Ttmとから算出されるようになっている。また下式(13)の「MAP_Tftm (Ne ,T_L/U)」は、ロックアップを行った状態での車両動力伝達系のフリクショントルクを示しており、その値は、既定の演算マップを用いてエンジン回転速度Ne とロックアップ許可温度T_L/Uとから算出されるようになっている。
【数13】

【0037】
このときの燃費の向上代は、すなわちトランスミッション改善フリクション仕事率ΔQftm は、下式(14)に示される通りとなる。
【数14】

【0038】
次に、ロックアップを可能とするための熱量ΔQtm_L/Uをエンジン3に供給する場合を考える。このときのエンジン冷却水の温度変化ΔTe_L/U は、下式(14)より求められる。下式(15)において「Me 」は、エンジン3の暖機部分の熱容量を指している。
【数15】

【0039】
そして、このときのエンジンフリンクショントルクの低下量ΔTfe_L/Uは、下式(16)より求められる。下式(16)において「MAP_Tfe(ne,te)」は、エンジン回転速度が「ne」、エンジン冷却水温度が「te」のときのエンジンフリクショントルクを求めるための関数となっている。したがって、「MAP_Tfe(Ne ,Te )」は、熱ループからの熱供給によるエンジン3の暖機を行わなかったときの、「MAP_Tfe(Ne ,Te +ΔTe_L/U )」は、熱ループからの熱供給によるエンジン3の暖機を行ったときの、エンジンフリクショントルクの大きさをそれぞれ示すことになる。
【数16】

【0040】
このときの燃費の向上代は、すなわちエンジン改善フリクション仕事率ΔQfeは、下式(17)に示される通りとなる。
【数17】

【0041】
3.エンジン3への熱供給による燃費の向上代の推定
次に、熱ループからの熱供給でエンジン3の暖機を行ったときの燃費向上代の推定ロジックを説明する。この推定は、ロックアップが許可されているとき(Ttm<T_L/U)に行われるものとなっている。
【0042】
この推定に際しては、まず、熱ループからエンジン3に供給可能な熱量の最大値、すなわちエンジン供給可能熱量ΔQm_e が下式(18)より算出される。
【数18】

【0043】
続いて、下式(19)に示されるように、エンジン供給可能熱量ΔQm_e をエンジン3の暖機部分の熱容量Me で除算することで、熱ループからの熱供給によるエンジン冷却水温Te の変化量ΔTe が算出される。
【数19】

【0044】
このときのエンジン3のフリクショントルクの変化量ΔTfeは、下式(20)に示される通りとなる。
【数20】

【0045】
そしてこのときの燃費の向上代、すなわちエンジン改善フリクション仕事率ΔQfeは、下式(21)に示される通りとなる。
【数21】

【0046】
4.トランスミッション10への熱供給による燃費の向上代の推定
次に、熱ループからの熱供給でトランスミッション10の暖機を行ったときの燃費向上代の推定ロジックを説明する。この推定も、ロックアップが許可されているとき(Ttm<T_L/U)に行われるものとなっている。
【0047】
この推定に際しては、まず、熱ループからトランスミッション10に供給可能な熱量の最大値、すなわちトランスミッション供給可能熱量ΔQm_tmが下式(22)より算出される。
【数22】

【0048】
続いて、下式(23)に示されるように、トランスミッション供給可能熱量ΔQm_tmをトランスミッション10の暖機部分の熱容量Mtmで除算することで、熱ループからの熱供給によるトランスミッション10のオイル温度Ttmの変化量ΔTtmが算出される。
【数23】

【0049】
このときのトランスミッション10のフリクショントルクの変化量ΔTftm は、下式(24)に示される通りとなる。
【数24】

【0050】
そしてこのときの燃費の向上代、すなわちトランスミッション改善フリクション仕事率ΔQftm は、下式(25)に示される通りとなる。
【数25】

【0051】
5.熱電発電器9への熱供給による燃費の向上代の推定
続いて、熱ループから熱電発電器9への熱供給によって、発電を行ったときの燃費向上代の推定ロジックを説明する。
【0052】
この推定に際しては、まず、下式(26)に示されるように、熱ループから熱電発電器9への熱供給によって発電される電気エネルギー(発電量Qm_eg)が、既定の演算マップを用いて推定される。なお、この演算マップは、熱ループの熱搬送媒体の温度(媒体温度Tm )、その流量Gm 、及び外気温Tair と、熱電発電器9の発電する電気エネルギーとの関係を示すものとなっている。
【数26】

【0053】
次に、下式(27)に示すように、発電量Qm_egをオルタネーター21の発電効率ηele で除算することで、エンジン3の発電負荷の減少により削減可能なエネルギーの量(発電負荷エネルギー変化量ΔQeg)が算出される。
【数27】

【0054】
6.熱供給先の決定
熱ループの熱供給先の決定は、以上により算出されたΔQfe、ΔQftm 、ΔQeg及びΔQfhの比較を通じて行われる。すなわち、熱ループからの熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器が、熱ループの熱供給先として決定されるようになる。
【0055】
図2は、こうした本実施の形態に採用される熱管理制御ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、エンジン3の始動時より電子制御ユニット16により実行されるものとなっている。
【0056】
さてエンジン3が始動して本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100において、車両各部の温度計測が行われる。具体的には、このときには、エンジン冷却水温Te 、オイル温度Ttm、外気温Tair 、媒体温度Tm 、及び蓄熱温度Tc の計測が行われる。
【0057】
次のステップS101では、エンジン3及びトランスミッション10の暖機が完了しているか否かの判定が行われる。具体的には、定数として設定された暖機判定水温をエンジン冷却水温Te が超えており、且つ定数として設定された暖機判定油温をオイル温度Ttmが超えていることを条件に暖機が完了したと判定されるようになっている。ここで暖機が完了していれば(S101:YES)、ステップS106に処理が進められる。一方、暖機が未完了であれば、ステップS102に処理が進められる。
【0058】
ステップS102に処理が進められると、そのステップS102において、各熱機器に熱ループの熱供給を行ったときの燃費の向上代の算出が、すなわちΔQfe、ΔQftm 、ΔQeg及びΔQfhの算出が行われる。そして続くステップS103において、熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器が熱ループの熱の供給先として決定される。
【0059】
続くステップS104では、熱ループの熱が暖機に利用され、すなわち熱ループの熱の供給先としてウォーターウォーマー6及びオイルウォーマー7のいずれかが選択され、且つ蓄熱温度Tc がエンジン冷却水温Te 又はオイル温度Ttmよりも高いか否かが判定される。すなわち、ここでは、蓄熱器8に蓄えられた熱によるエンジン3又はトランスミッション10の暖機が可能であるか否かの判定が行われる。そして、このステップS104において否定判定されれば(NO)、処理がステップS106に進められ、肯定判定されれば(YES)、処理がステップS105に進められる。
【0060】
処理がステップS105に進められると、そのステップS105において、蓄熱器8に蓄えられた熱が、ステップS103において選択された熱の供給先に供給される。そしてその後、処理はステップS106に進められる。
【0061】
処理がステップS106に進められると、そのステップS106において、蓄熱器8の蓄熱が完了しているか否かの判定が行われる。具体的には、定数として設定された蓄熱判定値を蓄熱温度Tc が超えていることを条件に蓄熱完了との判定がなされるようになる。ここで蓄熱が完了していると判定されれば(S106:YES)、処理がそのままステップS103に戻される。また蓄熱が未完了との判定がなされれば(S106:NO)、ステップS107において蓄熱器8への蓄熱を実施した上で、処理がステップS103に戻される。
【0062】
なお、こうした本実施の形態では、電子制御ユニット16が「選択手段」に相当する構成となっている。また本実施の形態では、エンジン3が「車載された熱源」及び「熱機関」に相当する構成となっている。
【0063】
以上説明した本実施の形態の車両の熱管理装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、電子制御ユニット16は、熱交換器であるヒーターコア5、ウォーターウォーマー6及びオイルウォーマー7への熱供給による燃費の向上代と、熱電発電器9への熱供給による燃費の向上代とを比較し、熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器を熱ループの熱の供給先として選択するようにしている。すなわち、本実施の形態では、熱ループの供給する熱エネルギーをそのまま利用して媒体の加熱に用いる場合と、その熱エネルギーを電気エネルギーに変換して利用する場合とのそれぞれにおける熱供給の効果を、燃費の向上代という同一の尺度でそれぞれ評価するようにしている。そして燃費の向上代が最も高くなる熱機器を、熱の供給先として選択するようにしている。こうした本実施の形態では、燃費が最善となるように熱ループの熱の供給先を選択可能となる。したがって本実施の形態によれば、より効果的に燃費を改善することができるようになる。
【0064】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、熱ループに設けられる熱交換器として、ヒーターコア5、ウォーターウォーマー6及びオイルウォーマー7の3つの熱交換器を備える構成となっていたが、熱ループに設けられる熱交換器の数や種類はこれに限らず、適宜変更することもできる。その場合にも、そうした熱交換器への熱供給による燃費の向上代と、熱電発電器9への熱供給による燃費の向上代とを比較し、熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器を熱ループの熱の供給先として選択するようにすれば、より効果的に燃費を改善可能となる。
【0065】
・上記実施の形態では、エンジン3の排気から同エンジン3の廃熱を回収するように廃熱回収器2を構成していたが、排気以外の媒体からエンジン3の廃熱を回収するようにしても良い。
【0066】
・上記実施の形態では、エンジン3の廃熱を回収するようにしていたが、車載されたエンジン3以外の熱源、例えば電動機やインバーター等の廃熱を回収するようにしても良い。
【0067】
・上記実施の形態では、車載された熱源の廃熱を回収して車両各部の熱機器に熱を供給するように熱ループを構成していたが、熱源の廃熱以外の熱を供給するように熱ループが構成された車両にも、本発明の熱管理装置は適用可能である。例えば蓄熱器8に蓄えられた熱を車両各部の熱機器に供給するように構成された熱ループを備える車両においても、熱交換器への熱供給による燃費の向上代と、熱電発電器への熱供給による燃費の向上代とを比較し、熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器を熱の供給先として選択するようにすれば、より効果的に燃費を改善可能となる。
【0068】
・上記実施の形態では、熱ループに、熱搬送媒体としてシリコンオイルを循環させるようにしていたが、熱ループの熱搬送媒体としてそれ以外の流体を用いることも可能である。例えば蒸気化した水を熱搬送媒体として熱ループを循環させるようにしても、高い熱搬送効率を得ることができる。
【0069】
・上記実施の形態では、熱ループをエンジン冷却水の循環ループとは、独立した熱ループとして構成していたが、内部を循環される熱搬送媒体を介して車載された熱機器に熱を供給する熱ループとして、エンジン冷却水の循環ループを利用することも可能である。
【0070】
上記実施の形態では、熱機関と電動機との2つの駆動源を備えるハイブリッド車両に本発明を適用した場合を説明したが、本発明の熱管理装置は、ハイブリッド車両以外の車両にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…ポンプ、2…廃熱回収器、3…エンジン、4…排気通路、5…ヒーターコア、6…ウォーターウォーマー、7…オイルウォーマー、8…蓄熱器、9…熱電発電器、10…トランスミッション、11〜15…バルブ、16…電子制御ユニット(選択手段)、17…水温センサー、18…油温センサー、19…、外気温センサー、20…PTCヒーター、21…オルタネーター、22…媒体温度センサー、23…蓄熱温度センサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を循環される熱搬送媒体を介して車載された熱機器に熱を供給する熱ループが設けられるとともに、前記熱搬送媒体を一方の対象として熱交換を行う1つ以上の熱交換器と、前記熱ループを通じて供給される熱で発電を行う熱電発電器とを熱機器として備える車両の熱管理装置において、
前記熱交換器への熱供給による燃費の向上代と、前記熱電発電器への熱供給による燃費の向上代とを比較し、熱供給による燃費の向上代が最大となる熱機器を前記熱ループの熱の供給先として選択する選択手段を備える
ことを特徴とする車両の熱管理装置。
【請求項2】
前記熱ループは、エンジン冷却水の循環ループとは、独立した熱ループとして構成される
請求項1に記載の車両の熱管理装置。
【請求項3】
前記熱交換器として、エンジン冷却水と前記熱搬送媒体との間で熱交換を行うウォーターウォーマー、トランスミッションオイルと前記熱搬送媒体との間で熱交換を行うオイルウォーマー、及び車室内に送風される空気と前記熱搬送媒体との間で熱交換を行うヒーターコアの少なくとも1つを備える
請求項1又は2に記載の車両の熱管理装置。
【請求項4】
前記熱ループは、車載された熱源の廃熱を回収したものを前記熱機器に供給する
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の熱管理装置。
【請求項5】
前記車両は、熱機関と電動機との2つの駆動源を備えるハイブリッド車両として構成されてなる
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の熱管理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−190750(P2011−190750A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57690(P2010−57690)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】