説明

車両の自動ブレーキ制御装置

【課題】自動ブレーキの作動中において障害物検出手段の検出不能と障害物の移動に起因する急な消失とを的確に判別し、判別結果に応じて自動ブレーキの継続または解除を適切に実行できる車両の自動ブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】先行車との衝突回避する自動ブレーキ中においてレーザレーダが先行車を非検出状態になったとき、衝突までの予測時間から求めた補正後衝突予測時間Taの経過以前に衝突したときには(S18がYES)、レーザレーダの非検出状態が自車のノーズダイブにあると見なして自動ブレーキを継続して衝撃緩和を図り(S20)、衝突せずに補正後衝突予測時間Taが経過したときには(S16がYES)、レーザレーダの非検出状態が先行車の右左折による消失にあると見なし、自動ブレーキを解除して後続車の追突を防止する(S10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車前方の路面上に存在する障害物、前方を走行中の先行車、或いは前方で道路を横断中の他車等(以下、これらを障害物と総称する)と自車との関係に基づき、運転者のブレーキ操作に関係なくブレーキを作動させる車両の自動ブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、レーザレーダ等により検出した自車と障害物との相対距離や相対速度に基づき、自車が障害物に衝突する可能性があると判定したときに、衝突回避や衝突時の衝撃緩和を目的として自動的にブレーキを作動させる自動ブレーキ制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
上記特許文献1の技術では、自車と障害物との関係に基づいて衝突回避可能であるか否かを判定し、衝突回避可能なときには、車両停止または運転者による所定の操作(例えばアクセル操作)を条件として自動ブレーキを解除する一方、衝突回避不能なときには、衝突による制御系等の破損に起因する自動ブレーキの解除不能を想定して、衝突直前に自動ブレーキを解除している。
【特許文献1】特開2005−82042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、例えばレーザレーダでは、レーザ光を前方に照射して障害物により反射させて照射タイミングと受光タイミングとの時間差に基づき相対距離を検出する原理を採っているため、測定可能な距離に下限が存在し、下限を越えて障害物に接近すると検出不能に陥る。また、自動ブレーキの作動は自車が前部を沈み込ませるノーズダイブを引き起こし、障害物に向けて照射されるべきレーザ光が下方にずれて反射を受光できなくなることも、レーザレーダの検出不能の要因となる。このような問題はレーザレーダに限らず種々の障害物検出手段で発生するが、結果として自動ブレーキの作動中の何れかのタイミングでレーザレーダは検出不能に陥る。
【0004】
一方、例えば自動ブレーキの作動中において、障害物が先行車のときには先行車が右左折して自車の前方より急に消失する場合があり、障害物が道路を横断中の他車のときには他車が横断を終了することで急に消失する場合がある。上記したレーザレーダの検出不能時には、障害物は依然として自車の前方に存在するため、自動ブレーキを継続させて衝突回避や衝撃緩和を図る必要があるのに対し、この障害物の消失時には、自動ブレーキを継続させる必要がないばかりか、急減速した自車への後続車の追突防止のために自動ブレーキを解除することが望ましく、双方の状況では全く逆の対応が要求される。
【0005】
しかしながら、自動ブレーキを制御する制御装置側では、何れの状況もレーザレーダが障害物を非検出状態となったとしか認識されずに判別不能なことから、結果として状況に応じて適切に自動ブレーキを継続または解除できなかった。特許文献1の技術では、衝突回避可能か否かに応じて自動ブレーキを切り換えているが、上記した問題に関しては一切想定していないため適切に対応できないことは言うまでもない。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、自動ブレーキの作動中において障害物検出手段の検出不能と障害物の移動に起因する急な消失とを的確に判別し、判別結果に応じて自動ブレーキの継続または解除を適切に実行することができる車両の自動ブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両前方の障害物を検出する障害物検出手段と、運転者のブレーキペダル操作に関係なく車両のブレーキを作動可能なブレーキ駆動手段と、障害物検出手段の検出結果に基づきブレーキ駆動手段を制御して車両に制動力を発生させるブレーキ制御手段と、障害物への自車の衝突を検出する衝突検出手段と、ブレーキ制御手段によるブレーキ作動中において、障害物検出手段の検出結果に基づき障害物への自車の衝突タイミングを予測し、障害物検出手段が障害物を非検出状態となったときに衝突タイミングと衝突検出手段の検出結果とに基づき、ブレーキ制御手段にブレーキ作動を継続または解除させるブレーキ継続・解除手段とを備えたものである。
【0008】
従って、障害物検出手段の検出結果に基づきブレーキ制御手段によりブレーキ駆動手段が制御されて車両に制動力が発生し、これにより障害物への衝突回避や衝突時の衝撃緩和等が図られる。このブレーキ作動中において、障害物検出手段の検出結果に基づき障害物への自車の衝突タイミングが衝突タイミング予測手段により予測され、障害物検出手段が障害物を非検出状態となったときには、衝突タイミングと衝突検出手段の検出結果に基づきブレーキ継続・解除手段によりブレーキ作動が継続または解除される。
【0009】
例えばブレーキ継続・解除手段は、衝突タイミングとして衝突に至るまでの時間を予測し、この衝突予測時間に所定の遅延時間を加算した時間が経過する以前に衝突検出手段により障害物との衝突が検出されたときには、ブレーキ作動が継続される。この場合、障害物検出手段の非検出状態の要因が先行車への接近や自車のノーズダイブに起因する障害物検出手段の検出不能にあると判別でき、障害物検出手段では検出されていないが自車の前方には先行車が存在し、この先行車に衝突したものと見なせ、ブレーキ作動の継続により衝突開始以降にも制動力が発揮されることで最大限の衝撃緩和作用が奏される。
【0010】
また、例えば衝突検出手段により障害物との衝突が検出されることなく衝突予測時間に遅延時間を加算した時間が経過したときには、ブレーキ作動が解除される。この場合、障害物検出手段の非検出状態の要因が先行車の右左折等による急な消失にあると判別でき、自車の前方に先行車は存在していないと見なせ、ブレーキ作動の解除により後続車の自車への追突が未然に防止される。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1において、ブレーキ継続・解除手段が、ブレーキ作動中において障害物検出手段の検出結果に基づき衝突タイミングを順次予測して更新し、障害物検出手段が障害物を非検出状態となったときには更新した最新の衝突タイミングに基づき処理を実行するものである。
従って、ブレーキ作動中には障害物検出手段の検出結果に基づき衝突タイミングが順次予測・更新され、障害物検出手段が非検出状態となったときには更新された最新の衝突タイミングに基づきブレーキ作動の継続または解除が実行される。予測値である衝突タイミングには誤差が含まれるが、自車が障害物に接近するほどその信頼性は高まる。よって、順次更新された最新の衝突タイミングに基づき処理を実行することにより、ブレーキ作動の継続または解除を一層適切に実行可能となる。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項1において、ブレーキ継続・解除手段が、ブレーキ作動中において障害物検出手段の検出結果に基づき衝突タイミングを順次予測し、障害物検出手段が障害物を非検出状態となったときには、その時点までの衝突タイミングの変化履歴に基づき以降の衝突タイミングを推定し、推定した衝突タイミングに基づき処理を実行するものである。
【0013】
従って、ブレーキ作動中には障害物検出手段の検出結果に基づき衝突タイミングが順次予測され、障害物検出手段が非検出状態となったときには、その時点までの衝突タイミングの変化履歴に基づき以降の衝突タイミングが推定されて、推定された衝突タイミングに基づきブレーキ作動の継続または解除が実行される。障害物検出手段が非検出状態となる以前の衝突タイミングの変化履歴に基づき、以降の衝突タイミングが推定されるため、実際の衝突タイミングに近似する信頼性の高い衝突タイミングを推定可能となり、推定した衝突タイミングに基づきブレーキ作動の継続または解除を一層適切に実行可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように請求項1の発明の車両の自動ブレーキ制御装置によれば、自動ブレーキの作動中において障害物検出手段の検出不能と障害物の移動に起因する急な消失とを的確に判別し、判別結果に応じて自動ブレーキの継続または解除を適切に実行でき、もって、障害物への衝突時には最大限の衝撃緩和作用を実現でき、障害物が存在しないときには後続車の追突を未然に防止することができる。
【0015】
請求項2の発明の車両の自動ブレーキ制御装置によれば、請求項1に加えて、順次更新した最新の衝突タイミングに基づきブレーキ作動の継続または解除を一層適切に実行することができる。
請求項3の発明の車両の自動ブレーキ制御装置によれば、請求項1に加えて、障害物検出手段が非検出状態となる以前の衝突タイミングの変化履歴から以降の衝突タイミングを推定し、推定した衝突タイミングに基づきブレーキ作動の継続または解除を一層適切に実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した車両の自動ブレーキ制御装置の一実施形態を説明する。本実施形態では、障害物として自車の前方を走行する先行車を想定しているため、以下の説明では障害物を先行車と称する。
図1は本実施形態の車両の自動ブレーキ制御装置の全体的な構成を示すブロック図である。自動ブレーキ制御装置は自動ブレーキ用ECU1により制御され、このECU1の入力側には、自車の前方を走行する先行車を検出するレーザレーダ2(障害物検出手段)、及び車速を検出する車速センサ3等の各種センサ類が接続されると共に、車両に搭載されたエアバッグを制御するエアバッグ用ECU4(衝突検出手段)が接続されている。例えば、レーザレーダ2は車両の前部中央に設置され、周期的に前方にレーザ光を照射して、先行車から反射する反射光を受光するように構成されている。ECU1では、レーザレーダ2から入力される照射タイミングから受光タイミングまでの時間差に基づき自車と先行車との相対距離を算出可能であると共に、相対距離を微分することにより自車と先行車との相対速度を算出可能となっている。
【0017】
なお、障害物検出手段としてはレーザレーダ2に限ることはなく、例えば電波レーダ等の他の周知手段と代えてもよい。
周知のようにエアバッグ用ECU4は、車両の衝突時に以下の手順でエアバッグを作動させて乗員保護を図る。まず、車両の各所に設置された加速度センサにより所定値以上の衝撃が検出されると、その衝撃が車両の衝突に起因するものであるか否かがECU4により判定される。衝撃が衝突によるものと判定されたときには、ECU4からステアリングホイール等に設置されたインフレータに作動信号が出力され、この作動信号を受けてインフレータが点火されてエアバッグを展開させる。展開したエアバッグにより乗員が受け止められ、ステアリングやインストルメントパネルへの乗員の2次衝突が未然に防止される。
【0018】
車両にはエアバッグとして、ステアリングホイールやダッシュボードに設置された前突対応のエアバッグ、或いはサイドルーフに設置された側突対応のエアバッグ等が備えられおり、衝撃を検出した加速度センサの位置に応じて展開するエアバッグがECU4により選択され、選択したエアバッグのインフレータに作動信号が出力される。そして、エアバッグ用ECU4は、前突対応のエアバッグを展開させるときには、そのエアバッグのインフレータのみならず自動ブレーキ用ECU1にも作動信号を出力するようになっている。従って、車両の前突時、例えば先行車に衝突(追突)したときには、衝突開始と一致するタイミングでエアバッグ用ECU4から自動ブレーキ用ECU1に作動信号が入力される。
【0019】
一方、自動ブレーキ用ECU1の出力側には、運転席に設置された警報用のスピーカ5が接続されると共に、油圧アクチュエータ6(ブレーキ駆動手段)を介して車両のブレーキ装置7が接続され、その他にも種々のデバイス類が接続されている。例えばブレーキ装置7としては、運転者のブレーキ操作に応じてマスタシリンダで発生した油圧をマスタバッグにより増圧して各車輪のホイールシリンダに伝達し、この油圧を利用してホイールシリンダにより各車輪に作動力を発生させる一般的な構成が採用されている。上記油圧アクチュエータ6は、ブレーキ操作とは別個にマスタシリンダに油圧を発生可能に構成され、ECU1からの指令に基づきマスタシリンダに油圧を発生させることにより、自動ブレーキとして各車輪に任意の大きさの制動力を発生可能となっている。
【0020】
なお、ブレーキ駆動手段としては油圧アクチュエータ6に限ることはなく、例えば電気式のアクチュエータを利用して、上記ブレーキ装置の油圧回路とは別個に、各車輪のブレーキを直接的に作動させるように構成してもよい。
そして、自動ブレーキ用ECU1は、車両の走行中において、各種センサ類やエアバッグ用ECU4からの情報に基づき、自車の先行車への衝突を防止すべくスピーカ5による警報や油圧アクチュエータ6による自動ブレーキを作動させており、以下、この衝突防止のために自動ブレーキ用ECU1により実行される制御について説明する。
【0021】
図2は先行車への衝突回避及び衝突時の衝撃緩和を目的として自動ブレーキ用ECU1が実行する自動ブレーキの制御モードを示すマップであり、この図に基づき自動ブレーキの概要について説明する。
ECU1により実行される制御モードは、音声警報モード、ブレーキ警報モード、緊急ブレーキモードの3種に分別されており、各制御モードの切換は、自車が先行車に衝突するまでの時間を表す衝突予測時間T、及び自車と先行車との相対速度に応じて実行される。衝突予測時間は、レーザレーダ2からの検出情報から求めた先行車と自車との相対距離を相対速度により除算して得られる。
【0022】
音声警報モードは図中の音声警報ラインに基づいて実行され、音声警報ラインよりも衝突予測時間Tが大のときには、何ら制御を実行することなくブレーキ操作も運転者に委ねられる。この状態から先行車への自車の接近に伴って衝突予測時間Tが次第に減少して音声警報ラインを下回ると、音声警報モードが開始されてスピーカ5からの音声報知や警報音により運転者に先行車への接近を警報する。音声警報ラインは、自車の先行車への接近により衝突の可能性が生じているものの、運転者の操舵やブレーキ操作で余裕をもって衝突回避できる領域に設定されており、通常であればこのスピーカ5による警報を受けて、運転者により適切な操舵やブレーキ操作が実行されて先行車への衝突が未然に防止される。
【0023】
また、音声警報モードの実行にも拘わらず運転者により操舵やブレーキ操作の対処が実行されないときには、衝突予測時間Tがさらに減少してブレーキ警報ラインを下回った時点でブレーキ警報モードに切り換えられ、油圧アクチュエータ6によりブレーキ装置7が作動する。ブレーキ警報ラインは、運転者が通常の操舵を行って先行車への衝突を回避可能な限界付近に設定されている。このためブレーキ警報モードでは衝突回避のために制動することが望ましいが、衝突までの時間的な余裕が比較的あるため、下記の緊急ブレーキのような衝突回避のための制動とは異なり、主に運転者の注意喚起を目的として比較的低い制動力を発生させる。制動時の減速感により運転者は先行車への注意を喚起されてブレーキ操作し、これにより先行車への衝突が未然に防止される。
【0024】
また、ブレーキ警報モードの実行にも拘わらず運転者によりブレーキ操作が実行されないときには、衝突予測時間Tがさらに減少して緊急ブレーキラインを下回った時点で緊急ブレーキモードに切り換えられ、ブレーキの制動力が強められる(ブレーキ制御手段)。緊急ブレーキラインは、緊急時の急激な操舵により先行車への衝突を回避可能な限界付近に設定されている。よって、緊急ブレーキラインを下回った緊急ブレーキモードでは衝突回避のための緊急の制動が要求されるため、自動ブレーキとして高い制動力が適用される。これにより自車は急減速して先行車への衝突速度が大幅に低減されることから、衝突時の衝撃が十分に緩和される。
【0025】
本実施形態では、このときのブレーキ制動力としてフルブレーキング相当の値よりも若干低い値が設定されており、フルブレーキング相当までの余裕分だけ増加可能な余地が残されている。
一方、緊急ブレーキモードにおいて自動ブレーキが開始されると、自動ブレーキ用ECU1は図3に示す緊急ブレーキモード制御ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。当該ルーチンでは、レーザレーダ2による先行車の検出状況、自車の先行車への接近状況及び衝突の有無等に応じて、自動ブレーキの継続や解除(中止)を行っており、以下、当該ルーチンに基づくECU1の制御について説明する。
【0026】
まず、ECU1はステップS2でレーザレーダ2が先行車を検出しているか否かを判定する。例えば、レーザレーダ2が測定可能な距離には下限が存在するため、自車が先行車に次第に接近して下限を越えるとレーザレーダ2は検出不能に陥り、一方、自動ブレーキの作動により自車が前部を沈み込ませるノーズダイブを発生すると、先行車に向けて照射されるべきレーザ光が下方にずれて反射を受光できずレーザレーダ2は検出不能に陥り、何れもレーザレーダ2により先行車が検出されない(先行車を非検出状態)要因となる。また、先行車が右左折したときには自車の前方より先行車が急に消失することから、これもレーザレーダ2により先行車が検出されない要因となる。
【0027】
これらの状況が発生せずにレーザレーダ2から検出情報が入力されているときには、ECU1はステップS2でYes(肯定)の判定を下し、ステップS4で上記した衝突予測時間Tを算出すると共に、前回処理時の衝突予測時間Tを今回処理時の値に更新する。続くステップS8では自動ブレーキを継続し、その後ルーチンを終了する。
一方、自動ブレーキの作動中において、上記した先行車への接近や自車のノーズダイブによりレーザレーダ2は何れかのタイミングで検出不能に陥り、ステップS2の判定がNoとなる。但し、レーザレーダ2により先行車が検出されない要因としては、先行車の右左折に起因する可能性もあり、この時点では何れの要因によるものであるかは判別できない。ECU1はステップS12に移行して上記ステップS4で順次更新された最新の衝突予測時間T(非検出状態となる直前の値)を今回の衝突予測時間Tと見なし、続くステップS14では、この衝突予測時間Tに対して信号伝達時間及び作動遅れ等を考慮した所定の遅れ時間を加算して補正後衝突予測時間Ta(衝突タイミング)を算出する。
【0028】
その後、ステップS16で補正後衝突予測時間Taが経過したか否かを判定し、続くステップS18でエアバッグ作動信号に基づき自車が先行車に衝突したか否かを判定する。補正後衝突予測時間Taが経過せず且つ衝突もしていないときにはステップS16,18で共にNoの判定を下し、ステップS19に移行して自動ブレーキを継続した後、上記ステップS16に戻る。
【0029】
また、補正後衝突予測時間Taの経過以前に自車が先行車に衝突したときにはステップS18でYesの判定を下し、ステップS20に移行して自動ブレーキの制動力を上記余裕分だけ増加させる(ブレーキ継続・解除手段)。これによりフルブレーキング相当の制動力が発揮されることになる。なお、一連の衝突過程が全て終了した後の自動ブレーキの解除はどのような手法を採ってもよく、例えば先行技術と同じく運転者により自動ブレーキを手動解除してもよい。
【0030】
また、自車が先行車に衝突することなく補正後衝突予測時間Taが経過したときにはステップS16でYesの判定を下し、ステップS10に移行して自動ブレーキを解除する(ブレーキ継続・解除手段)。
次に、以上のようにECU1により緊急ブレーキモードが実行されたときの車両のブレーキの制御状況を説明する。
【0031】
緊急ブレーキモードが開始されると、先行車への衝突を回避すべく自動ブレーキが作動する。これにより自車は減速状態に移行し、先行車への衝突予測時間Tが順次算出・更新される一方、この衝突予測時間Tに基づき衝突を回避不能と判定する限り自動ブレーキが継続される。そして、自動ブレーキの作動中の何れかのタイミングで、先行車への接近や自車のノーズダイブ或いは先行車の右左折に起因してレーザレーダ2が非検出状態となり、ECU1はステップS2からステップS16,18に移行する。
【0032】
補正後衝突予測時間Taが経過せずに先行車への衝突も発生せずにステップS16,18の判定が共にNoのときには、自動ブレーキが開始当初の制動力を持って継続される。これにより、自車は先行車への衝突以前に可能な限り減速されて衝突時の衝撃緩和が図られる。
また、補正後衝突予測時間Taの経過以前に自車が先行車に衝突してステップS18の判定がYesになると、ステップS20で自動ブレーキの制動力がフルブレーキング相当まで増加される。この場合、レーザレーダ2が非検出状態となった要因が先行車への接近や自車のノーズダイブに起因する検出不能にあると判別でき、レーザレーダ2では検出されていないが自車の前方には先行車が存在し、この先行車に衝突したものと見なせる。
【0033】
ここで、衝突以前の自動ブレーキによる制動が、自車の先行車への衝突速度を低減して衝突時の衝撃緩和に貢献することは無論であるが、衝突開始以降の自動ブレーキによる制動も衝撃緩和に十分に貢献する。即ち、先行車に対して後方より衝突した自車は衝突の瞬間に完全停止することなく、先行車を前方に押し退けながら衝突後も前進し続け、加えて衝突による先行車及び自車の変形分も前進し続ける。これらの現象は衝突開始以降にも自動ブレーキの制動を継続することにより軽減され、結果として衝突開始以降の制動も衝撃緩和に貢献する。
【0034】
一方、自車が先行車に衝突することなく補正後衝突予測時間Taが経過してステップS16の判定がYesになると、ステップS10で自動ブレーキが解除される。この場合、レーザレーダ2が非検出状態となった要因が先行車の右左折等による急な消失と判別でき、自車の前方に先行車は存在しないと見なせる。
緊急ブレーキモードでの自動ブレーキは、先行車への自車の衝突防止及び衝突時の衝撃緩和に貢献する反面、自車の後方に後続車が存在するときには急減速した自車に後続車が追突する要因にもなる。発生するか否か判らない後続車の追突よりも確実に発生する先行車への衝突防止が重要との観点の基に、緊急ブレーキモードでの自動ブレーキが実行されるのであるが、上記のように先行車が急に消失した場合には自動ブレーキを実行する意味がなくなるので、後続車の追突防止のために自動ブレーキを直ちに解除した方が得策となり、これにより後続車の追突を未然に防止できる。
【0035】
そして、このように本実施形態では、補正後衝突予測時間Taの経過以前に衝突が発生したか否かに基づき、レーザレーダ2が非検出状態となった要因がレーザレーダ2の検出不能か或いは先行車の右左折等による急な消失かを判別し、その判別結果に応じて自動ブレーキを継続または解除している。従って、自車の前方に先行車が存在するか否かに応じて的確に自動ブレーキを継続または解除でき、先行車が存在する場合には、自動ブレーキの継続により衝突回避や衝撃緩和作用を最大限に実現でき、また、先行車の急な消失の場合には、自動ブレーキの解除により後続車の追突を確実に防止できる。
【0036】
特に本実施形態では、先行車が存在するときには、衝突後に制動力をフルブレーキング相当まで増加させるため、一層確実な衝撃緩和作用を実現することができる。但し、ステップS18での衝突判定を契機とした制動力の増加処理は必ずしも行う必要はなく、例えばステップS20の処理を廃止して、衝突開始後も衝突前と同様の制動力を維持するようにしてもよい。或いは、自動ブレーキ作動の当初よりフルブレーキング相当の制動力を発揮させてもよい。
【0037】
また、自動ブレーキ中に衝突予測時間Tを順次算出・更新し、レーザレーダ2が非検出状態となったときには、更新した最新の衝突予測時間Tから求めた補正後衝突予測時間Taに基づきステップS16,18で自動ブレーキを継続すべきか解除すべきかを判定している。衝突予測時間Tは自車の先行車への接近状況に応じて時々刻々と変化し、衝突時点に近い最新の衝突予測時間Tの信頼性が最も高いが、この最新の衝突予測時間Tを適用することにより、自動ブレーキの継続または解除を一層適切に実行することができる。
【0038】
ところで、上記実施形態では、レーザレーダ2が非検出状態となった後に最新の補正後衝突予測時間Taを判定に適用しているが、上記のようにステップS16,18の判定には、可能な限り衝突時点に近い信頼性の高い衝突予測時間Tを適用することが望ましい。そこで、レーザレーダ2が非検出状態となる以前の衝突予測時間Tの変化履歴に基づき、非検出状態となった以降の衝突予測時間Tを推定し、推定した衝突予測時間Tから求めた補正後衝突予測時間Taに基づきステップS16,18の判定処理を行ってもよく、以下、この場合の衝突予測時間Tの推定手順について説明する。
【0039】
図4は衝突時の衝突予測時間Tの変化状況を示すタイムチャートである。図中の細い実線は実際の衝突予測時間Tの変化状況を示しており、ある時点でレーザレーダ2が非検出状態となって衝突予測時間Tを算出不能となるが、レーザレーダ2以外の検出手段を用いた衝突試験により、実際の衝突予測時間Tは検出不能時点から細い実線のように変化することが判明している。例えば、非検出状態となる以前の衝突予測時間Tの変化方向を参考として衝突予測時間Tを推定した場合、破線で示すようにレーザレーダ2が非検出状態となる直前の衝突予測時間Tの変化方向に倣った直線状の衝突予測時間Tの変化状況しか推定できないため、実際の衝突予測時間Tの変化状況とはかけ離れた推定値になってしまう。
【0040】
そこで、この別例では、カルマンフィルタを用いて衝突予測時間Tを推定している。カルマンフィルタは、時系列的に変化するデータの履歴から次にとるであろう値を予測するためのアルゴリズムである。カルマンフィルタの演算自体は周知のものであるため詳細は説明しないが、カルマンフィルタによる予測アルゴリズムを利用することにより、レーザレーダ2が非検出状態となる以前の衝突予測時間Tの変化状況に基づき、非検出状態となった以降の衝突予測時間Tの変化状況を太い実線で示すように推定でき、この推定結果は、実際の衝突予測時間Tの変化状況に極めて近似するものとなる。結果として、この推定した衝突予測時間Tに基づきステップS16,18での自動ブレーキを継続すべきか解除すべきかを判定を一層適切に実行することができる(ブレーキ継続・解除手段)。
【0041】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、自車の先行車への接近に伴って音声警報モード、ブレーキ警報モード、緊急ブレーキモードの3種のモードを順次切り換えたが、これに限ることはなく、例えば音声警報モード或いはブレーキ警報モードを省略してもよい。
また、上記実施形態では障害物として先行車を想定して説明したが、障害物はこれに限ることはない。例えば、自車前方で道路を横断中の他車が存在する場合でも、他車が横断を終了することにより自車の前方から急に消失する現象が発生する。従って、このような場合でも、本発明を適用することにより同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
また、上記実施形態では、エアバッグ用ECU4からの作動信号に基づいて衝突判定したが、衝突を判定可能な情報であればこれに限ることはない。例えばエアバッグシステムの加速度センサを自動ブレーキ用ECU1に直接接続し、加速度センサの検出情報に基づき衝突判定してもよいし、或いは、車両前部(例えばトラックの場合にはキャビンのフロントパネル、乗用車の場合はフロントグリル等)にタッチセンサを設け、車両衝突時のタッチセンサの検出情報に基づいて衝突判定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態の車両の自動ブレーキ制御装置の全体的な構成を示すブロック図である。
【図2】自動ブレーキ用ECUが実行する自動ブレーキの制御モードを示すマップである。
【図3】自動ブレーキ用ECUが実行する緊急ブレーキモード制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】衝突時の衝突予測時間の変化状況を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 自動ブレーキ用ECU(ブレーキ制御手段、ブレーキ継続・解除手段)
2 レーザレーダ
4 エアバッグ用ECU(障害物検出手段)
6 油圧アクチュエータ(ブレーキ駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方の障害物を検出する障害物検出手段と、
運転者のブレーキペダル操作に関係なく車両のブレーキを作動可能なブレーキ駆動手段と、
上記障害物検出手段の検出結果に基づき上記ブレーキ駆動手段を制御して上記車両に制動力を発生させるブレーキ制御手段と、
上記障害物への自車の衝突を検出する衝突検出手段と、
上記ブレーキ制御手段によるブレーキ作動中において、上記障害物検出手段の検出結果に基づき上記障害物への自車の衝突タイミングを予測し、上記障害物検出手段が障害物を非検出状態となったときに上記衝突タイミングと上記衝突検出手段の検出結果とに基づき、上記ブレーキ制御手段に上記ブレーキ作動を継続または解除させるブレーキ継続・解除手段と
を備えたことを特徴とする車両の自動ブレーキ制御装置。
【請求項2】
上記ブレーキ継続・解除手段は、上記ブレーキ作動中において上記障害物検出手段の検出結果に基づき上記衝突タイミングを順次予測して更新し、該障害物検出手段が障害物を非検出状態となったときには更新した最新の衝突タイミングに基づき処理を実行することを特徴とする請求項1記載の車両の自動ブレーキ制御装置。
【請求項3】
上記ブレーキ継続・解除手段は、上記ブレーキ作動中において上記障害物検出手段の検出結果に基づき上記衝突タイミングを順次予測し、該障害物検出手段が障害物を非検出状態となったときには、その時点までの衝突タイミングの変化履歴に基づき以降の衝突タイミングを推定し、該推定した衝突タイミングに基づき処理を実行することを特徴とする請求項1記載の車両の自動ブレーキ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−51241(P2009−51241A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216993(P2007−216993)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】