車両の衝撃吸収装置
【課題】車両の衝突時の衝撃エネルギーを十分かつ効率的に吸収可能な衝撃吸収装置を得る。
【解決手段】螺旋状の段部3を有して径が軸方向へ漸次変化する筒体からなる車両の衝撃吸収装置1において、小径端部に底部10が一体形成されている。
【解決手段】螺旋状の段部3を有して径が軸方向へ漸次変化する筒体からなる車両の衝撃吸収装置1において、小径端部に底部10が一体形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時の衝撃エネルギーを吸収する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時の搭乗者に対する衝撃を緩和するために、例えば、車両のバンパリインフォースと車体フレーム(サイドメンバ)との間に衝撃吸収装置(クラッシュボックス)が介装され、その塑性変形により衝撃エネルギを変形エネルギに転換して吸収する技術が知られている。本出願人は、衝撃エネルギの吸収性能に優れる衝撃吸収装置として、段部を有して径が軸芯方向へ漸次変化する筒体からなるとともに段部が筒体の周りに螺旋状に形成された衝撃吸収装置を特許文献1にて提案している。
【0003】
【特許文献1】国際公開番号WO05/075254
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衝撃吸収性能に優れる衝撃吸収装置に要求される特性は、図6に示されるように、変位に対する荷重特性図において、車体フレームの耐力F0を上回ることなく(車体フレームよりも衝撃吸収装置を先に変形させるため)、かつ、初期変形に対し荷重が急激に立ち上がるとともにその後の変位の増加に対し高荷重を維持する線図、すなわち、図6の斜線部分の面積をできる限り大きくし、衝撃エネルギの吸収量を大きくすることである。
【0005】
上記特許文献1に開示される衝撃吸収装置では基本的に上記特性を満足し得るが、図9に示すように、衝撃吸収装置70の端部が蓋(底部)のない開口端部71,72の場合は、衝撃荷重が加わる初期段階において衝撃吸収装置が軸方向へ塑性変形(圧潰)し始める前に、図10に示すように、比較的剛性の低い開口端部71自身が口変形を起こしやすく、図6(I)の初期ピークがbの位置へ下がってしまうことがある。
【0006】
そこで、上記開口端部71,72の口変形を抑えることが可能な構造として、図11に示すように、別部材である蓋部材73(別体の底部)を開口端部71に外嵌し溶接により固設した衝撃吸収装置80が特許文献1に開示されている。しかしこの構造では、開口端部71と蓋部材73との嵌合ラップ部74における剛性が高くなり、また溶接ビード75自身の硬度も高いことから、嵌合ラップ部74及び溶接ビード75が軸方向へ塑性変形し難いデッドスペース76となり、実質的に変形ストロークが減少してしまう。尚、図示しないが、開口端部71の板厚端面に板状の蓋部材を当接して溶接する非嵌合式の固設構造であっても同様である。
【0007】
そこで、本発明は上記の問題を解決する車両の衝撃吸収装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、螺旋状の段部を有して径が軸方向へ漸次変化する筒体からなる車両の衝撃吸収装置において、筒体の小径端部に底部が一体形成されていることを特徴とする車両の衝撃吸収装置である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、螺旋状の段部の存在により衝撃吸収装置の軸方向への塑性変形(圧潰)が筒体の小径側から大径側へ螺旋状に漸次連続的に進行し、変位に対する荷重線図が起伏の緩やかな安定した線図となるとともに、衝撃吸収装置の小径端部に底部が一体形成されていることにより端部の口変形が起こりにくく、しかも塑性変形しにくいデッドスペースを有することなく衝撃吸収装置が軸方向全長に亘って無駄なく効率的に塑性変形し、優れた衝撃エネルギ吸収特性を有する車両の衝撃吸収装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を図1乃至図8に示す実施例に基づいて説明する。
【0011】
図1は本発明の衝撃吸収装置を示す斜視図、図2は図1におけるA−A線縦断面図、図3及び図4は図1における実施例に対し他の実施例を示す対応のA−A線断面図、図5は本発明による別の実施例の衝撃吸収装置を示す斜視図、図6は衝撃吸収装置における実験結果を示す特性図、図7及び図8は図1の衝撃吸収装置の取付け例を示す図である。
【0012】
衝撃吸収装置1は、図1及び図2に示されるように、径(軸4との直交面5で切断したときの幅)が軸4の方向へ漸次変化する小径端部2a、中径部2b、大径部2cが同軸で連続してなる四角錐状の筒体であり、この筒体には、一条の連続面から構成される螺旋状の段部3が筒体の軸4の周りに一体的に形成されている。尚、段部3の螺旋ピッチ、条数は任意である。
【0013】
そして、段部3は、図2に示されるように、筒体の軸4との直交面5に対し傾斜角θを有する傾斜面6上に形成される、すなわち、テーパ状に形成されている。傾斜角θ、段部3の高さH、段部3の幅Wは任意であり、図1のA−A線縦断面に限らず軸4を含むどの縦断面でみても、傾斜角θ、高さH、幅Wは各々一定である。あるいは、図1に示される段部3の一端部7から他端部8へかけて、傾斜角θ、高さH、幅Wを連続的に増加又は減少させてもよい。
【0014】
小径端部2aには底部10が一体的に形成されている。図示の実施例では、底部10は筒体の軸芯4と直交する平坦面であるが、これに限定されるものでなく、例えば、取付け対象物たるバンパリインフォースの形状に応じて傾斜面であってもよく、筒体の外方へ膨出したドーム状であってもよく、逆に筒体の内方へ凹ませた形状であってもよい。また、衝撃吸収装置1における設計上もしくは製造上の理由で底部10に貫通孔の形成が必要となる場合、衝撃エネルギ吸収性能に対し支障のない範囲で貫通孔を形成してもよい。また、段部3の一端部7を底部10の縁部10aまで形成することにより塑性変形におけるデッドスペースをより少なくすることができる。
【0015】
一方、大径部2c側端部にはフランジ11が一体的に形成されている。そして、フランジ11には取付穴12が形成されており、後述する車体フレームに対し、取付穴12を通じてボルト及びナットにより強固に固定される。また、段部3の他端部8をフランジ11の根元11aまで形成することにより塑性変形におけるデッドスペースをより少なくするとができる。
【0016】
図示の実施例では、小径端部2aのみに底部10を一体的に形成しているが、大径部2c側端部にも底部10を一体的に形成してもよい。すなわち、衝撃吸収装置の少なくとも変形起点側である小径端部に底部が一体形成されていればよい。
【0017】
また、図示の実施例では、衝撃吸収装置1は四角錐状の筒体であるが、その他の多角錐状でもよく、後述する図5に示すような円錐状や、その他の楕円錐状、長円錐状でもよい。あるいは、筒体の一端部から他端部にかけて多角錐状から略円錐状へ徐々に形状が変化する筒体でもよい。
【0018】
衝撃吸収装置1の材質は、例えば、日本工業規格(JIS)のSPH270C、STKM11Aや、高張力鋼(通称、ハイテン材)や、軽量化を図るためにアルミニウム材等が使用される。板厚は、例えば2mmである。
【0019】
螺旋状の段部を有するとともに底部が一体形成された衝撃吸収装置1の製造方法として、例えば、予め金属板材をパンチとダイスを用いる公知のプレス深絞り加工により有底筒体を形成し、次に別のパンチとダイスを用いて有底筒体を軸方向にプレス加工して螺旋状の段部を形成する方法や、有底筒体の外周に転造工具(ロール)を押圧して螺旋状の段部を形成する方法等がある。これらの製造方法以外にも、公知のスピニング加工や、液圧バルジ加工(ハイドロフォーミング)により製造してもよい。尚、金属板材が高張力鋼等、加工し難い材質である場合には、加工前や加工途中に熱処理(焼鈍、温間プレス加工等)を施すことにより加工性が向上する。
【0020】
段部3の他の実施例として、図3に示されるように、段部13の軸14を含む断面形状を、軸14に対し直交するように形成してもよい。段部13の高さHは任意であり、図1のA−A線縦断面に対応する断面に限らず軸14を含むどの縦断面でみても、高さHは一定である。あるいは、段部13の一端部(図1の一端部7に対応)から他端部(図1の他端部8に対応)へかけて、高さHを連続的に増加又は減少させてもよい。本実施例によれば、段部13の塑性変形が確実に生じやすくなる。また、本実施例においても衝撃吸収装置の端部に底部16が一体形成されている。
【0021】
また、段部3の更に他の実施例として、図4に示されるように、段部23の軸24を含む断面形状を、U字の折返し形状に形成してもよい。段部23の高さHおよび段部23の幅Wは任意であり、図1のA−A線縦断面に対応する断面に限らず軸24を含むどの縦断面でみても、段部23の形状は一定である。あるいは、段部23の一端部(図1の一端部7に対応)から他端部(図1の他端部8に対応)へかけて、段部23の高さH、段部23の幅Wを連続的に増加又は減少させてもよい。本実施例によれば、段部23の塑性変形が更に確実に生じやすくなる。また、本実施例においても衝撃吸収装置の端部に底部20が一体形成されている。
【0022】
また、段部3の更に他の実施例として、図示しないが、衝撃吸収装置(筒体)の内部へ突出する螺旋状の凹溝や、外部へ膨出する螺旋状の凸条に段部が形成されてもよい。凹溝及び凸条の形状は特に限定されるものではない。
【0023】
本発明による衝撃吸収装置の他の実施例として、図5に示すように、小径端部32a、中径部32b、大径部32cが、同軸で連続してなる円錐状の筒体からなる衝撃吸収装置31としてもよい。この衝撃吸収装置31には、一条の連続する螺旋状の段部33が形成されている。段部33の螺旋ピッチ、条数は任意である。本実施例によれば、筒体が円錐状であるのに伴い、段部33が同心円で滑らかに連続する螺旋状となり、図6の(II)に示される特性図において、起伏が消失もしくは緩和された線図となる。また、本実施例においても衝撃吸収装置31の小径端部32aに底部30が一体形成されている。
【0024】
図1に示される衝撃吸収装置1の実験結果(変位に対する荷重線図)を、図6の(II)に示す。衝撃吸収装置の変形起点である小径端部に底部が一体形成されていることにより端部の口変形が起こりにくく、変形開始点(初期変位)において車体フレームの耐力F0を上回ることなく高荷重の初期ピークaを有し、それ以後の変位の増加においては、段部が螺旋状であることにより、多少の起伏が発生するもののほぼ横這いの線図となり衝撃エネルギ吸収特性に優れた衝撃吸収装置が得られた。また、衝撃吸収装置1の端部に塑性変形しにくいデッドスペースが存在しないため、衝撃吸収装置が軸方向全長に亘って無駄なく効率的に塑性変形し、特許文献1に記載の衝撃吸収装置の線図(I)に比べ図中α(図中の格子状ハッチング領域)分、衝撃エネルギの吸収量を大きくすることができた。
【0025】
尚、図1に示される衝撃吸収装置1は四角錐であり、一般部(面)に比べ高剛性である稜線部9が周上に4箇所存在するため、稜線部9が変形する際に、荷重線図に多少の起伏が発生してしまう。そこで、図5に示されるような円錐状の衝撃吸収装置であれば、前述のごとく、この起伏を消失もしくは緩和することが可能である。
【0026】
図7は、前記図1及び図2に示す衝撃吸収装置1の底部10が軸4に対し傾斜する面で構成される衝撃吸収装置41を、バンパリインフォースを用いないで車体へ取付けた例の側面図を示す。
【0027】
図7において、段部43を有する衝撃吸収装置41の一端部には傾斜させた底部40が一体的に形成され、他端部にはフランジ42が一体的に形成されている。そして、フランジ42には取付穴44が形成されている。車体への取付けは、例えば、フランジ42を車体フレーム(フロントサイドメンバ等)51のフランジ52に対し、前記取付穴44を通じてボルト53及びナット54により強固に固定する。
【0028】
底部40は傾斜面に形成されており、外方へ突出する突部45が形成されている。この突部45の直後に段部43の一端部46が連続的に形成されている。本構成によって、車両が前方の物体と衝突した際には、その衝突面(バンパの内側)55に突部45が最初に当たり、そのまま最初に段部43の一端部46へ衝撃荷重が集中してかかるため、一端部46を塑性変形の起点として段部の塑性変形が始まることとなり、その後順次段部43の変形が進行し易くなる。
【0029】
図8は、前記衝撃吸収装置41を、バンパリインフォースを用いて車体へ取付けた例の側面図を示す。図8に示す実施例は、前記図7と同様に、段部43を有する衝撃吸収装置41の後端がフランジ42によってフレーム51のフランジ52にボルト53及びナット54により強固に取付けられている。また、この図8に示す実施例は、バンパリンフォース60を用いる場合であり、衝撃吸収装置41の底部40がバンパリインフォース60へ溶接などにより固着されている。また、このバンパリインフォース60の外周面61にバンパの内側が接するレイアウトになっている。
【0030】
本発明の衝撃吸収装置を、例えば、車両のバンパリインフォースと車体フレーム(サイドメンバ)との間に介装する場合は、先に変形する小径端部2a,32a側をバンパリインフォースに接続し、後に変形する大径部2c,32c側を車体フレームに接続すると、搭乗者に対する衝撃の緩和の点で有効であるが、反対に接続しても特に問題はない。
【0031】
上記の本発明は、車両の衝撃吸収装置へ広く適用することができ、例えば、自動車用のプロペラシャフト等にも適する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の衝撃吸収装置の一つの実施例を示す斜視図
【図2】図1におけるA−A線断面図
【図3】本発明による他の実施例に係る図1におけるA−A線断面図
【図4】本発明による他の実施例に係る図1におけるA−A線断面図
【図5】本発明による衝撃吸収装置の他の実施例を示す斜視図
【図6】図1における実施例を含めて衝撃吸収装置の実験結果を示す特性図
【図7】図1及び図2に示す衝撃吸収装置の取付け例を示す側面図
【図8】図1及び図2に示す衝撃吸収装置の他の取付け例を示す側面図
【図9】従来の衝撃吸収装置を示す斜視図
【図10】従来の衝撃吸収装置の変形イメージを示す概略図
【図11】蓋部材を有する従来の衝撃吸収装置を示す斜視図
【符号の説明】
【0033】
1,31,41 衝撃吸収装置
2a,32a, 小径端部
2b,32b, 中径部
2c,32c, 大径部
3,13,23,33 段部
4,14,24 軸
5,15 直交面
6 傾斜面
7 段部の一端部
8 段部の他端部
9 稜線部
10,16,20,30,40 底部
11,42 フランジ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時の衝撃エネルギーを吸収する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時の搭乗者に対する衝撃を緩和するために、例えば、車両のバンパリインフォースと車体フレーム(サイドメンバ)との間に衝撃吸収装置(クラッシュボックス)が介装され、その塑性変形により衝撃エネルギを変形エネルギに転換して吸収する技術が知られている。本出願人は、衝撃エネルギの吸収性能に優れる衝撃吸収装置として、段部を有して径が軸芯方向へ漸次変化する筒体からなるとともに段部が筒体の周りに螺旋状に形成された衝撃吸収装置を特許文献1にて提案している。
【0003】
【特許文献1】国際公開番号WO05/075254
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衝撃吸収性能に優れる衝撃吸収装置に要求される特性は、図6に示されるように、変位に対する荷重特性図において、車体フレームの耐力F0を上回ることなく(車体フレームよりも衝撃吸収装置を先に変形させるため)、かつ、初期変形に対し荷重が急激に立ち上がるとともにその後の変位の増加に対し高荷重を維持する線図、すなわち、図6の斜線部分の面積をできる限り大きくし、衝撃エネルギの吸収量を大きくすることである。
【0005】
上記特許文献1に開示される衝撃吸収装置では基本的に上記特性を満足し得るが、図9に示すように、衝撃吸収装置70の端部が蓋(底部)のない開口端部71,72の場合は、衝撃荷重が加わる初期段階において衝撃吸収装置が軸方向へ塑性変形(圧潰)し始める前に、図10に示すように、比較的剛性の低い開口端部71自身が口変形を起こしやすく、図6(I)の初期ピークがbの位置へ下がってしまうことがある。
【0006】
そこで、上記開口端部71,72の口変形を抑えることが可能な構造として、図11に示すように、別部材である蓋部材73(別体の底部)を開口端部71に外嵌し溶接により固設した衝撃吸収装置80が特許文献1に開示されている。しかしこの構造では、開口端部71と蓋部材73との嵌合ラップ部74における剛性が高くなり、また溶接ビード75自身の硬度も高いことから、嵌合ラップ部74及び溶接ビード75が軸方向へ塑性変形し難いデッドスペース76となり、実質的に変形ストロークが減少してしまう。尚、図示しないが、開口端部71の板厚端面に板状の蓋部材を当接して溶接する非嵌合式の固設構造であっても同様である。
【0007】
そこで、本発明は上記の問題を解決する車両の衝撃吸収装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、螺旋状の段部を有して径が軸方向へ漸次変化する筒体からなる車両の衝撃吸収装置において、筒体の小径端部に底部が一体形成されていることを特徴とする車両の衝撃吸収装置である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、螺旋状の段部の存在により衝撃吸収装置の軸方向への塑性変形(圧潰)が筒体の小径側から大径側へ螺旋状に漸次連続的に進行し、変位に対する荷重線図が起伏の緩やかな安定した線図となるとともに、衝撃吸収装置の小径端部に底部が一体形成されていることにより端部の口変形が起こりにくく、しかも塑性変形しにくいデッドスペースを有することなく衝撃吸収装置が軸方向全長に亘って無駄なく効率的に塑性変形し、優れた衝撃エネルギ吸収特性を有する車両の衝撃吸収装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を図1乃至図8に示す実施例に基づいて説明する。
【0011】
図1は本発明の衝撃吸収装置を示す斜視図、図2は図1におけるA−A線縦断面図、図3及び図4は図1における実施例に対し他の実施例を示す対応のA−A線断面図、図5は本発明による別の実施例の衝撃吸収装置を示す斜視図、図6は衝撃吸収装置における実験結果を示す特性図、図7及び図8は図1の衝撃吸収装置の取付け例を示す図である。
【0012】
衝撃吸収装置1は、図1及び図2に示されるように、径(軸4との直交面5で切断したときの幅)が軸4の方向へ漸次変化する小径端部2a、中径部2b、大径部2cが同軸で連続してなる四角錐状の筒体であり、この筒体には、一条の連続面から構成される螺旋状の段部3が筒体の軸4の周りに一体的に形成されている。尚、段部3の螺旋ピッチ、条数は任意である。
【0013】
そして、段部3は、図2に示されるように、筒体の軸4との直交面5に対し傾斜角θを有する傾斜面6上に形成される、すなわち、テーパ状に形成されている。傾斜角θ、段部3の高さH、段部3の幅Wは任意であり、図1のA−A線縦断面に限らず軸4を含むどの縦断面でみても、傾斜角θ、高さH、幅Wは各々一定である。あるいは、図1に示される段部3の一端部7から他端部8へかけて、傾斜角θ、高さH、幅Wを連続的に増加又は減少させてもよい。
【0014】
小径端部2aには底部10が一体的に形成されている。図示の実施例では、底部10は筒体の軸芯4と直交する平坦面であるが、これに限定されるものでなく、例えば、取付け対象物たるバンパリインフォースの形状に応じて傾斜面であってもよく、筒体の外方へ膨出したドーム状であってもよく、逆に筒体の内方へ凹ませた形状であってもよい。また、衝撃吸収装置1における設計上もしくは製造上の理由で底部10に貫通孔の形成が必要となる場合、衝撃エネルギ吸収性能に対し支障のない範囲で貫通孔を形成してもよい。また、段部3の一端部7を底部10の縁部10aまで形成することにより塑性変形におけるデッドスペースをより少なくすることができる。
【0015】
一方、大径部2c側端部にはフランジ11が一体的に形成されている。そして、フランジ11には取付穴12が形成されており、後述する車体フレームに対し、取付穴12を通じてボルト及びナットにより強固に固定される。また、段部3の他端部8をフランジ11の根元11aまで形成することにより塑性変形におけるデッドスペースをより少なくするとができる。
【0016】
図示の実施例では、小径端部2aのみに底部10を一体的に形成しているが、大径部2c側端部にも底部10を一体的に形成してもよい。すなわち、衝撃吸収装置の少なくとも変形起点側である小径端部に底部が一体形成されていればよい。
【0017】
また、図示の実施例では、衝撃吸収装置1は四角錐状の筒体であるが、その他の多角錐状でもよく、後述する図5に示すような円錐状や、その他の楕円錐状、長円錐状でもよい。あるいは、筒体の一端部から他端部にかけて多角錐状から略円錐状へ徐々に形状が変化する筒体でもよい。
【0018】
衝撃吸収装置1の材質は、例えば、日本工業規格(JIS)のSPH270C、STKM11Aや、高張力鋼(通称、ハイテン材)や、軽量化を図るためにアルミニウム材等が使用される。板厚は、例えば2mmである。
【0019】
螺旋状の段部を有するとともに底部が一体形成された衝撃吸収装置1の製造方法として、例えば、予め金属板材をパンチとダイスを用いる公知のプレス深絞り加工により有底筒体を形成し、次に別のパンチとダイスを用いて有底筒体を軸方向にプレス加工して螺旋状の段部を形成する方法や、有底筒体の外周に転造工具(ロール)を押圧して螺旋状の段部を形成する方法等がある。これらの製造方法以外にも、公知のスピニング加工や、液圧バルジ加工(ハイドロフォーミング)により製造してもよい。尚、金属板材が高張力鋼等、加工し難い材質である場合には、加工前や加工途中に熱処理(焼鈍、温間プレス加工等)を施すことにより加工性が向上する。
【0020】
段部3の他の実施例として、図3に示されるように、段部13の軸14を含む断面形状を、軸14に対し直交するように形成してもよい。段部13の高さHは任意であり、図1のA−A線縦断面に対応する断面に限らず軸14を含むどの縦断面でみても、高さHは一定である。あるいは、段部13の一端部(図1の一端部7に対応)から他端部(図1の他端部8に対応)へかけて、高さHを連続的に増加又は減少させてもよい。本実施例によれば、段部13の塑性変形が確実に生じやすくなる。また、本実施例においても衝撃吸収装置の端部に底部16が一体形成されている。
【0021】
また、段部3の更に他の実施例として、図4に示されるように、段部23の軸24を含む断面形状を、U字の折返し形状に形成してもよい。段部23の高さHおよび段部23の幅Wは任意であり、図1のA−A線縦断面に対応する断面に限らず軸24を含むどの縦断面でみても、段部23の形状は一定である。あるいは、段部23の一端部(図1の一端部7に対応)から他端部(図1の他端部8に対応)へかけて、段部23の高さH、段部23の幅Wを連続的に増加又は減少させてもよい。本実施例によれば、段部23の塑性変形が更に確実に生じやすくなる。また、本実施例においても衝撃吸収装置の端部に底部20が一体形成されている。
【0022】
また、段部3の更に他の実施例として、図示しないが、衝撃吸収装置(筒体)の内部へ突出する螺旋状の凹溝や、外部へ膨出する螺旋状の凸条に段部が形成されてもよい。凹溝及び凸条の形状は特に限定されるものではない。
【0023】
本発明による衝撃吸収装置の他の実施例として、図5に示すように、小径端部32a、中径部32b、大径部32cが、同軸で連続してなる円錐状の筒体からなる衝撃吸収装置31としてもよい。この衝撃吸収装置31には、一条の連続する螺旋状の段部33が形成されている。段部33の螺旋ピッチ、条数は任意である。本実施例によれば、筒体が円錐状であるのに伴い、段部33が同心円で滑らかに連続する螺旋状となり、図6の(II)に示される特性図において、起伏が消失もしくは緩和された線図となる。また、本実施例においても衝撃吸収装置31の小径端部32aに底部30が一体形成されている。
【0024】
図1に示される衝撃吸収装置1の実験結果(変位に対する荷重線図)を、図6の(II)に示す。衝撃吸収装置の変形起点である小径端部に底部が一体形成されていることにより端部の口変形が起こりにくく、変形開始点(初期変位)において車体フレームの耐力F0を上回ることなく高荷重の初期ピークaを有し、それ以後の変位の増加においては、段部が螺旋状であることにより、多少の起伏が発生するもののほぼ横這いの線図となり衝撃エネルギ吸収特性に優れた衝撃吸収装置が得られた。また、衝撃吸収装置1の端部に塑性変形しにくいデッドスペースが存在しないため、衝撃吸収装置が軸方向全長に亘って無駄なく効率的に塑性変形し、特許文献1に記載の衝撃吸収装置の線図(I)に比べ図中α(図中の格子状ハッチング領域)分、衝撃エネルギの吸収量を大きくすることができた。
【0025】
尚、図1に示される衝撃吸収装置1は四角錐であり、一般部(面)に比べ高剛性である稜線部9が周上に4箇所存在するため、稜線部9が変形する際に、荷重線図に多少の起伏が発生してしまう。そこで、図5に示されるような円錐状の衝撃吸収装置であれば、前述のごとく、この起伏を消失もしくは緩和することが可能である。
【0026】
図7は、前記図1及び図2に示す衝撃吸収装置1の底部10が軸4に対し傾斜する面で構成される衝撃吸収装置41を、バンパリインフォースを用いないで車体へ取付けた例の側面図を示す。
【0027】
図7において、段部43を有する衝撃吸収装置41の一端部には傾斜させた底部40が一体的に形成され、他端部にはフランジ42が一体的に形成されている。そして、フランジ42には取付穴44が形成されている。車体への取付けは、例えば、フランジ42を車体フレーム(フロントサイドメンバ等)51のフランジ52に対し、前記取付穴44を通じてボルト53及びナット54により強固に固定する。
【0028】
底部40は傾斜面に形成されており、外方へ突出する突部45が形成されている。この突部45の直後に段部43の一端部46が連続的に形成されている。本構成によって、車両が前方の物体と衝突した際には、その衝突面(バンパの内側)55に突部45が最初に当たり、そのまま最初に段部43の一端部46へ衝撃荷重が集中してかかるため、一端部46を塑性変形の起点として段部の塑性変形が始まることとなり、その後順次段部43の変形が進行し易くなる。
【0029】
図8は、前記衝撃吸収装置41を、バンパリインフォースを用いて車体へ取付けた例の側面図を示す。図8に示す実施例は、前記図7と同様に、段部43を有する衝撃吸収装置41の後端がフランジ42によってフレーム51のフランジ52にボルト53及びナット54により強固に取付けられている。また、この図8に示す実施例は、バンパリンフォース60を用いる場合であり、衝撃吸収装置41の底部40がバンパリインフォース60へ溶接などにより固着されている。また、このバンパリインフォース60の外周面61にバンパの内側が接するレイアウトになっている。
【0030】
本発明の衝撃吸収装置を、例えば、車両のバンパリインフォースと車体フレーム(サイドメンバ)との間に介装する場合は、先に変形する小径端部2a,32a側をバンパリインフォースに接続し、後に変形する大径部2c,32c側を車体フレームに接続すると、搭乗者に対する衝撃の緩和の点で有効であるが、反対に接続しても特に問題はない。
【0031】
上記の本発明は、車両の衝撃吸収装置へ広く適用することができ、例えば、自動車用のプロペラシャフト等にも適する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の衝撃吸収装置の一つの実施例を示す斜視図
【図2】図1におけるA−A線断面図
【図3】本発明による他の実施例に係る図1におけるA−A線断面図
【図4】本発明による他の実施例に係る図1におけるA−A線断面図
【図5】本発明による衝撃吸収装置の他の実施例を示す斜視図
【図6】図1における実施例を含めて衝撃吸収装置の実験結果を示す特性図
【図7】図1及び図2に示す衝撃吸収装置の取付け例を示す側面図
【図8】図1及び図2に示す衝撃吸収装置の他の取付け例を示す側面図
【図9】従来の衝撃吸収装置を示す斜視図
【図10】従来の衝撃吸収装置の変形イメージを示す概略図
【図11】蓋部材を有する従来の衝撃吸収装置を示す斜視図
【符号の説明】
【0033】
1,31,41 衝撃吸収装置
2a,32a, 小径端部
2b,32b, 中径部
2c,32c, 大径部
3,13,23,33 段部
4,14,24 軸
5,15 直交面
6 傾斜面
7 段部の一端部
8 段部の他端部
9 稜線部
10,16,20,30,40 底部
11,42 フランジ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状の段部を有して径が軸方向へ漸次変化する筒体からなる車両の衝撃吸収装置において、筒体の小径端部に底部が一体形成されていることを特徴とする車両の衝撃吸収装置。
【請求項1】
螺旋状の段部を有して径が軸方向へ漸次変化する筒体からなる車両の衝撃吸収装置において、筒体の小径端部に底部が一体形成されていることを特徴とする車両の衝撃吸収装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−261557(P2007−261557A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119807(P2006−119807)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(390010227)株式会社三五 (148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(390010227)株式会社三五 (148)
【Fターム(参考)】
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