説明

車両の走行制御装置

【課題】惰性走行を実施する頻度を増やし燃費を向上させることができるようにした車両の走行制御装置を提供する。
【解決手段】
エンジン1と、エンジン1と駆動輪7の間に介装された動力断接手段2と、惰性走行開始条件が成立したら動力断接手段2を動力遮断状態に制御し惰性走行を開始する惰性走行制御手段130とを備え、惰性走行開始条件には、車両の走行路が下り坂又は所定条件を満たす上り坂であることが含まれ、惰性走行制御手段130は、車両の前方に上り坂の頂上があるか否かを判定する頂上判定手段124と頂上判定手段124により頂上があることが判定されると車両が惰性走行を開始した場合の車両の走行速度の変化を推定して惰性走行によって車両が頂上に到達した際の走行速度Vが下限速度Vlow以上となることを所定条件として惰性走行の開始を判定する惰性走行開始判定手段125とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の惰性走行を制御する走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン(内燃機関)を駆動源として走行する車両(自動車等)において、車両の燃費を改善するため、下り坂等では、所定の条件下において自動クラッチ等のエンジンと駆動系との動力伝達を自動で遮断して惰性走行を実施する技術が知られている。
走行中に動力伝達が遮断された状態では、エンジンの出力及び回転数は車輪と連動せず、エンジン回転数をアイドル回転数に維持すれば、アイドル回転数に応じた燃料消費がなされることとなる。
【0003】
一方、動力が伝達された状態では、エンジン回転数は車両の走行速度に応じた回転数となる。このため、車両の走行中にアクセル操作が無ければ、エンジンブレーキが作用して車両走行の負荷となるため、車速の維持を妨げることとなる。
したがって、走行中にエンジンと駆動系との動力伝達を遮断してアイドル回転数を維持すれば、エンジンを負荷とせずに、車両の運動エネルギーを有効に利用して燃費を向上させることができる。
【0004】
このように、動力伝達の遮断をクラッチの遮断により実施し、惰性走行を制御する技術が特許文献1に示されている。
この技術は、惰性走行指令スイッチの状態,車両の速度,アクセル操作やブレーキ操作の有無及び車両の加速度に基づいて、惰性走行指令スイッチがオン状態であることを前提に、車速が所定速度以上であって、アクセル操作及びブレーキ操作がされておらず、車両の加速度が所定加速度以下の場合に、クラッチを遮断し惰性走行を実施するものである。アクセル操作及びブレーキ操作が無い限り、この惰性走行実施条件は、下り坂がはじまってから下り坂の後に連続する上り坂の途中までで成立し、この期間は惰性走行を実施するものといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−226701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の惰性走行実施条件のうち、車速が所定速度以上の条件は、車両の停止時にはエンジンブレーキを併用して車両が円滑に停止できるように考慮したもので、アクセル操作及びブレーキ操作がないことの条件は、ドライバの加減速意思があったらこれを優先させるためであり、車両の加速度が所定加速度以下の条件は、車速が過剰に増加しないように配慮したものと考えられる。
【0007】
このように、種々の惰性走行実施条件を与えて、車両の運行に支障がない範囲で惰性走行を実施することが必要となるが、これらを考慮しながら、惰性走行を実施する頻度をさらに増やして、さらに燃費を向上したいという要望がある。
例えば、車両の走行する走行路は、上述のように、下り坂の後に上り坂が続く場合が多いが、上り坂の後に下り坂が続く場合も多い。上り坂の後に下り坂が続く場合、上り坂の頂上近くでは下り坂に入ってなくても車両の運行に支障がない範囲で惰性走行を実施することも考えられる。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたものであり、惰性走行を実施する頻度を増やし、燃費を向上させることができるようにした、車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の車両の走行制御装置は、エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間に介装された動力断接手段と、惰性走行開始条件が成立したら前記動力断接手段を動力遮断状態に制御し惰性走行を開始する惰性走行制御手段とを備えた車両において、前記惰性走行開始条件には、前記車両の走行路が下り坂、又は、所定条件を満たす上り坂であることが含まれ、前記惰性走行制御手段は、前記車両の前方に上り坂の頂上があるか否かを判定する頂上判定手段と、前記頂上判定手段により前記頂上があることが判定されると、前記車両が前記惰性走行を開始した場合の前記車両の走行速度の変化を推定して、前記惰性走行によって前記車両が前記頂上に到達した際の前記走行速度が下限速度以上となることを前記所定条件として前記惰性走行の開始を判定する惰性走行開始判定手段とを有することを特徴としている。
【0010】
また、前記車両は、前記車両の走行する走行路の勾配を検出する勾配検出手段と、前記勾配の変化率を検出する勾配変化率検出手段とを備え、前記頂上判定手段は、前記勾配が正であり且つ前記変化率が負である場合に、前記頂上があると判定することが好ましい。
また、前記車両は、前記車両を自動で定速走行させる定速走行指令手段(例えば、オートクルーズスイッチ)と、前記定速走行指令手段により定速走行が指令されると、前記エンジンの出力を操作して、前記車両の走行速度を指令された指令速度に維持する定速走行制御を実施する定速走行制御手段とを有し、前記惰性走行制御手段は、前記定速走行制御手段による定速走行制御時に、前記惰性走行開始判定手段により前記惰性走行の開始が判定されると、前記惰性走行を開始し、前記車両の走行速度が、前記指令速度よりも予め設定された速度差分だけ高い上限速度と前記指令速度よりも予め設定された速度差分だけ低い前記下限速度とで規定された幅を持った速度帯内にある限り、前記惰性走行制御を続行することが好ましい。
【0011】
また、前記定速走行制御手段による定速走行制御時に、前記頂上判定手段により前記頂上があると判定されると、前記車両の走行速度を前記指令速度から予め設定された速度差分だけ高い速度へ上昇させて前記惰性走行の準備制御を実施する準備制御手段を有することが好ましい。
また、前記惰性走行制御手段は、前記惰性走行制御中に、前記車両の走行速度が前記速度帯から外れると、前記惰性走行制御の終了を判定する惰性走行終了判定手段を備え、前記定速走行制御手段は、前記定速走行が指令されると、前記車両の実走行速度と前記指令速度との偏差に基づくフィードバック制御によって前記エンジンの出力を操作することが好ましい。
【0012】
また、前記惰性走行制御手段による前記惰性走行中に、前記車両の走行速度が前記速度帯を下回ったことにより前記惰性走行終了判定手段が前記惰性走行制御の終了を判定して、前記定速走行に復帰する場合に、前記車両の走行速度が前記指令速度に上昇するまで、前記定速走行制御時に前記車両の走行速度を前記指令速度に上昇させる際の出力増分よりも大きい出力増分となるように前記エンジンの出力を制御する復帰手段を有することが好ましい。すなわち、前記復帰手段は、フィードバック制御のフィードバックゲインを通常の前記定速走行制御時よりも増大して制御を実施し、現状の勾配の走行路を前記指令速度で走行するのに必要な出力トルクが得られるように、前記エンジンの出力を切替えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両の走行制御装置によれば、車両の前方に頂上があることを判定すると、車両が惰性走行を開始した場合の車両の走行速度の変化を推定して、車両が頂上に到達した際の走行速度が下限速度以上となることを惰性走行開始条件とするため、車両の速度が大きく低下しない範囲(下限速度以上)で、頂上の手前から惰性走行を開始することができる。これにより、惰性走行を実施する頻度を増やすことができ、燃費を向上させることができる。
【0014】
上り坂の頂上の次には多くの場合下り坂があるので、この場合、頂上の手前からその後の下り坂まで連続して惰性走行を実施することができ、動力断接手段の制御を円滑に行なうことができる。また、燃費を向上させる上でも有利である。
車両の走行速度が上限速度と下限速度とで規定された幅を持った速度帯内にある場合において頂上の手前からその後の下り坂まで連続して惰性走行を実施すれば、車両の走行速度は、通常頂上の手前から頂上までは減少し、その後の下り坂で増加して上限速度を超えると、惰性走行を終えることにするが、下り坂進入時に車両の走行速度が減少していると、その分、進入時の車両の走行速度が上限速度に対して余裕を持つため、より長い区間にわたり惰性走行を実施することができる。これにより、より燃費を向上させることができる。
【0015】
また、頂上判定手段は、勾配が正であり且つ勾配の変化率が負である場合に、頂上があると判定するため、確実に頂上の手前で頂上があることを判定することができる。
また、車両の走行速度が、指令速度を中心に上限速度と下限速度とで規定された幅を持った速度帯内にある場合において惰性走行を続行すれば、高い頻度又は長い期間にわたり許容し易い速度帯内での惰性走行を実施することができ、ドライバビリティを確保しながら燃費を向上させることができる。
【0016】
また、車両の前方に頂上があると判定されると、車両の走行速度を指令速度から予め設定された速度差分だけ高い速度へ上昇させて惰性走行の準備制御を実施すれば、惰性走行によって車両が頂上に到達した際の走行速度を速度差分に応じて高くすることができ、頂上に対してより手前から惰性走行を実施し、惰性走行を実施する期間を長くすることができる。これにより、より燃費を向上させる上でも有利である。
【0017】
車両の走行速度を指令速度から予め設定された速度差分だけ高い速度へ上昇させる際、燃費消費率(単位出力あたりの燃料消費量)の良いトルク域でエンジンを制御すれば、走行全体としての燃費を向上させることができる。
また、車両の走行速度が速度帯から外れると惰性走行を終了すれば、ドライバビリティの低減を回避することができる。
【0018】
車両の走行速度が上限速度よりも大きくなって惰性走行を終了すれば、例えば下り坂でのこれ以上の加速を防止することができ、安全性を確保することができる。
また、下限速度を下回って惰性走行を終了して指令速度で走行する定常走行に復帰する場合に、定速走行制御時の出力増分よりも大きい出力増分となるようにエンジンの出力を制御すれば、すなわち、定常走行時の通常時のフィードバックゲインを増大すれば、速やかに定常走行へと移行することができる。この場合、現時点の車速を指令速度へと復帰(加速)する走行に必要な出力トルクが燃費消費率の良いトルク域となるようにエンジンを制御すれば、走行全体としての燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる燃料消費率を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御の開始又は終了の判定を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御の全体を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態にかかる頂上判定にかかるルーチンを示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態にかかる頂上前惰性走行条件(所定条件)にかかるルーチンを示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御のルーチンである準備制御を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御のルーチンであるノーマルオートクルーズ走行制御を示すフローチャートである。
【図9】本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御のルーチンである復帰制御を示すフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御のルーチンである惰性走行制御を示すフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態にかかる車両の走行路に合わせて、車速,クラッチの断接状態,エンジン回転数及びエンジンの出力トルクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
〔一実施形態〕
図1〜図11は、本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御装置を説明するもので、図1はその全体構成を示す図であり、図2は燃料消費率を説明する図であり、図3〜図10は車両の走行制御を示すフローチャートであり、図5〜図10はそのルーチンを示すフローチャートであり、図11は車両の走行路に合わせて、車速,クラッチの状態,エンジン回転数及びエンジンの出力トルクを示す図である。なお、図3は車両の走行制御の開始又は終了の判定を示し、図4は車両の走行制御の全体を示し、図5は図4のルーチンである頂上判定を示し、図6は図4のルーチンである頂上前惰性走行条件の判定を示し、図7は図4のルーチンである準備制御を示し、図8は図4のルーチンであるノーマルオートクルーズ走行制御を示し、図9は図4のルーチンである復帰制御を示し、図10は図4のルーチンである惰性走行制御を示す。
【0021】
〔全体構成〕
まず、本実施形態にかかる走行制御装置が適用される車両の構成を説明する。本実施形態にかかる車両は、例えばトラック又はバスといった自動車である。
図1に示すように、車両は、駆動輪7を回転駆動する駆動系として、エンジン(内燃機関)1,クラッチ(動力断接手段)2,変速機3,プロペラシャフト4,ディファレンシャルギヤ5及びドライブシャフト6を備えている。
【0022】
エンジン1は、例えばガソリンや軽油を燃料とする内燃機関であって、その出力回転が図示しない出力軸に出力される。
クラッチ2は、エンジン1と変速機3との間に介設される。詳細は図示しないが、クラッチ2は、エンジン1の出力軸と結合された入力側プレートと、変速機3の入力軸と結合された出力側プレートとをそなえ、両プレートが摩擦係合する接続状態と、両プレートが離隔する遮断状態とに、図示しないアクチュエータによって切り替えられる。走行中にクラッチ2を遮断すればエンジン1は車両の駆動系から切り離されて動力伝達はされず、クラッチ2を接続すればエンジン1は車両の駆動系に加わり動力伝達がされる。
【0023】
したがって、クラッチ2が接続(完全接続)された状態では、変速機3の変速段が一定であればエンジン1の回転数(Ne又はエンジン回転数ともいう)は車両の走行速度に応じた回転数となる。このため、通常走行時(中速以上での走行時)であれば、アクセル操作が無ければエンジンブレーキが作用する。また、クラッチ2が遮断された状態では、エンジン1は動力系から切り離されて駆動出力は不要となるため、エンジン回転数をアイドル回転数(idle)にして、惰性走行を実施することができる。
【0024】
クラッチ2には前述の図示しないアクチュエータが付設され、このアクチュエータの作動を後述の車両ECU100により制御することでクラッチ2の遮断及び接続(以下、「断接」ともいう)は自動的に行なわれる。つまり、クラッチ2はアクチュエータにより断接される自動クラッチである。
変速機3の入力軸は、クラッチ2と接続されており、この変速機3の出力軸はプロペラシャフト4,ディファレンシャルギヤ5,ドライブシャフト6等を備えた動力伝達系を介して駆動輪(個々では左右の後輪)7に接続されている。
【0025】
〔制御系の構成〕
エンジン1,クラッチ2及び変速機3の制御は、車両に関連する各種のセンサ類からの情報に基づいて、車両ECU100による電子制御によって行なわれる。
車両ECU100は、CPU,ROM,RAM,入出力回路等からなるコンピュータであって、各種のセンサからの情報に基づいてエンジン1,クラッチ2及び変速機3の各制御司令値を算出して、この制御司令値に基づいてエンジン1,クラッチ2及び変速機3を制御する。
【0026】
また、上記センサ類には、勾配センサ(勾配検出手段)10,APS(アクセルポジションセンサ)20,フットブレーキSW(フットブレーキスイッチ)30,車速センサ40,オートクルーズSW(オートクルーズスイッチ、定速走行指令手段)50及び惰性走行許可SW(惰性走行許可スイッチ、惰性走行許可手段)52がある。まず、これらのセンサ類を説明する。
【0027】
勾配センサ10は、車両が現時点で走行している走行路の勾配を勾配値θとして検出するもので、ここでは傾斜センサを用いている。この場合、路面に対する車両の傾斜(前上がり,後上がり等)を推定し、これにより傾斜センサにより検出された値を補正すれば、より高精度に勾配値θを検出することができる。
勾配センサ10が検出した勾配値θが正であれば走行路が上り坂であることを示し、勾配値θが負であれば走行路が下り坂であることを示す。
【0028】
なお、この勾配センサ10に代えて、ハイトセンサ,加速度センサ,GPSやジャイロセンサ又はこれらの組み合わせを用いてもよく、走行路の勾配値θが検出可能なものであればよい。
例えば、ハイトセンサや加速度センサを組み合わせれば、車両前部及び後部のそれぞれに設けられたハイトセンサにより検出された車両の前部及び後部の車高に基づいて、走行路に対する車両の前後方向傾斜と走行路の勾配値とが定められたマップを参照すれば、勾配値θを推定することができる。この場合も、加速度センサにより検出された加速度により推定された勾配値を補正すれば、より高精度に勾配値θを検出することができる。
【0029】
また、GPSを用いれば、GPSにより時々刻々と取得される車両の位置(緯度,経度,標高)に基づいて勾配値θを検出することができる。さらに、GPSをジャイロセンサと組み合わせれば、GPSにより検出される車両の位置情報のサンプリングレートを更に向上することができ、より精度よく勾配値θを検出することができる。また、例えばトンネル内等でGPS信号が受信不能な状況であっても、ジャイロセンサにより車両の進行方向(旋回方向)の変化を検出し、直近にGPSにより取得された高度情報等の位置情報をジャイロセンサにより検出された車両の進行方向変化により補完すれば、勾配値θを算出することができる。
【0030】
APS20は、運転者により操作されるアクセル操作量を検出する。なお、本実施形態では、APS20により運転者の加速意思を検出する。すなわち、検出されるアクセル操作量が微小な閾値以下であればアクセル操作がされておらず、運転者による加速意思が無いものとする。
フットブレーキSW30は、運転者により操作されるフットブレーキ操作の有無を検出し、フットブレーキ操作があればONとなってブレーキランプを点灯し、フットブレーキ操作がされなければOFFとなってブレーキランプを消灯する。ここでは、フットブレーキSW30からの信号がONであれば、ブレーキ操作がされており、運転者による減速意思があるものとし、フットブレーキSW30からの信号がOFFであれば、ブレーキ操作がされておらず、運転者による減速意思が無いものとする。
【0031】
車速センサ40は、車速を検出する。この車速センサ40としては、例えば、各従動輪の回転速度を検出する車輪速センサを適用でき、この車輪速センサの場合、検出された各従動輪の回転速度の平均速度を算出することにより車速を算出することができる。
オートクルーズSW50は、運転者により選択操作されるスイッチであって、オートクルーズSW50がON操作されればオートクルーズモードが許可され、OFF操作されればオートクルーズモードが禁止される。なお、オートクルーズモードについては後述する。
【0032】
なお、オートクルーズSW50がON状態であっても、運転者の加速や減速の意思が判明すると、すなわち、APS20によりアクセル操作量が検出され、又は、フットブレーキSW30によりブレーキ操作が検出されると、OFF状態(オートクルーズモード禁止状態)に切り替えられる。
オートクルーズSW50がON操作されると、後述する車両ECU100は、この操作時に車速センサ40により検出された車両の走行速度(以下、車速ともいう)Vを指令速度Vstとして設定する。
【0033】
惰性走行許可SW52は、運転者により選択操作されるスイッチであって、オートクルーズSW50がONになっていることを前提条件に、惰性走行許可SW52がON操作されれば惰性走行が許可され、OFF操作されれば惰性走行が禁止される。なお、オートクルーズSW50がOFF状態であれば、惰性走行許可SW52をON操作することはできない。
【0034】
これらのSW50,52は、それぞれ別個に設けられたスイッチを適用してもよいし、オートクルーズモードと惰性走行モードとオートクルーズモードの走行及び惰性走行(制御走行)禁止モードとの中から1つを選択できる単一のスイッチを適用してもよい。
また、車両ECU100は、制御走行開始判定部105と、勾配変化率算出部(勾配変化率検出手段)110と、オートクルーズモード制御部120と、惰性走行制御部(惰性走行制御手段)130とを有し、これらを制御する。
【0035】
制御走行開始判定部105は、制御走行の開始及び終了を判定する。
制御走行の開始条件には、オートクルーズモードの走行を開始する条件と、この条件下における惰性走行を開始する条件とがあり、惰性走行開始判定部105はこれらのそれぞれの開始条件を判定する。
オートクルーズモードの走行開始条件は、APS20によりアクセル操作がされていないことが検出され且つフットブレーキSW30によりフットブレーキ操作がされていないことが検出されることに加えて、オートクルーズSW50がON状態であることである。つまり、運転者には加速及び減速の意思が無く、運転者がオートクルーズモードを許可していれば、オートクルーズモードの走行開始条件が成立する。
【0036】
惰性走行開始条件は、オートクルーズモードの走行開始条件に加えて、惰性走行許可SW52がON状態であることである。つまり、惰性走行開始条件はオートクルーズモードの走行開始条件が成立した上で成立するため、惰性走行はいわばオートクルーズモード配下で行なわれる。
制御走行の終了条件にも、オートクルーズモードの走行を終了する条件と、惰性走行を終了する条件とがあり、惰性走行開始判定部105はこれらのそれぞれの終了条件を判定する。
【0037】
オートクルーズモードの終了条件は、APS20によりアクセル操作がされることが検出される、フットブレーキSW30によりフットブレーキ操作がされることが検出される、又は、オートクルーズSW50がOFF操作されることである。つまり、運転者には加速若しくは減速の意思が生じ、又は、運転者がオートクルーズモードを許可しなければ、オートクルーズモードの走行終了条件が成立する。
【0038】
惰性走行終了条件は、オートクルーズモードの走行終了条件に加えて、惰性走行許可SW52がOFF操作されることの何れか一つでも該当することである。すなわち、惰性走行はオートクルーズモードの走行終了条件が成立しても終了する。
制御走行開始判定部105は、制御走行中であっても通常走行中であっても周期的に制御走行の開始及び終了条件を判定している。
【0039】
車両ECU100は、惰性走行開始判定部105により各開始条件が成立することが判定されると各制御部120,130に走行制御を実施させ、また、惰性走行開始判定部105により各終了条件が成立することが判定されると各制御部120,130による走行制御を終了させる。
勾配変化率算出部110は、勾配センサ10により検出された勾配値θの時間変化率(勾配変化率)dθ/dt(以下、単にdθともいう)を算出する。上り坂で勾配変化率dθが負であれば、徐々に勾配値θが緩やかになる上に凸の走行路であり、上り坂で勾配変化率dθが正であれば、徐々に勾配値θが急になる下に凸の走行路である。なお、勾配変化率算出部110に代えて、勾配変化率dθを直接検出するセンサを用いてもよい。
【0040】
オートクルーズモード制御部120は、オートクルーズモード中の各走行を制御し、これらの各走行を制御する各制御部及び各種の判定部を有する。
上記の各制御部には、ノーマルオートクルーズ走行制御部(定速走行制御手段)121,準備制御部(準備制御手段)122及び復帰制御部(復帰制御手段)123が含まれる。また、上記の判定部には、頂上判定部(頂上判定手段)124及び惰性走行開始判定部(惰性走行開始判定手段)125が含まれる。
【0041】
オートクルーズモード中は、ノーマルオートクルーズ走行,復帰走行及び準備走行が実施される。惰性走行許可SW52がOFF状態であれば、ノーマルオードクルーズ走行のみ実施される。なお、復帰走行及び準備走行については後述する。
ノーマルオートクルーズ走行制御部121は、車速Vを指令速度Vstに維持して走行するノーマルオートクルーズ走行を制御する。
【0042】
このノーマルオートクルーズ走行制御は、指令速度Vstと車速Vとの速度差分(Vst−V)にフィードバックゲインG1を乗じた量に応じた燃料噴射変化量Δf1を調整し、車速Vを指令速度Vstに収束させるように燃料噴射量を調整して実施される。すなわち、ノーマルオートクルーズ走行制御により、車速Vと指令速度Vstとの偏差に基づくフィードバック制御によりエンジン1の出力が操作される。
【0043】
惰性走行制御部(惰性走行制御手段)130は、惰性走行モード中の走行(惰性走行)を制御し、惰性走行終了判定部(惰性走行終了判定手段)131を有する。
惰性走行は、クラッチ2を遮断しエンジン回転数をアイドル回転数として惰性で走行するものである。
この惰性走行は、後述する惰性走行開始判定部125によって惰性走行開始条件の成立が判定されると実施される。この惰性走行開始条件には、上り坂走行時の条件(頂上前惰性走行条件)と下り坂走行時の条件(下り坂惰性走行条件)とがあり、惰性走行開始判定部125は、これらの条件をそれぞれ走行路の勾配値θに応じて判定する。
【0044】
この惰性走行中は、エンジン1は動力伝達系から切り離されており、エンジン1は駆動負荷のない状態でのアイドル回転数による運転に応じた燃料が消費される。すなわち、惰性走行により、クラッチ2を接続して車速Vに応じたエンジン回転数で走行するよりも燃費を向上させることができる。
惰性走行終了判定部131は、惰性走行の終了条件を判定する。この終了条件は、車速Vが上限速度Vuppよりも大きい又は下限速度Vlowよりも小さい(速度帯の外)ことである。この判定は、制御走行開始判定部105による制御走行開始条件が成立している際に行なわれ、制御走行中の惰性走行からオートクルーズモードの走行への切替判定といえるものである。
【0045】
惰性走行制御部130は、惰性走行終了判定部131により惰性走行条件が成立しないと判定される限りは惰性走行制御を継続する。
速度Vupp,Vlowは、指令速度Vstを設定される際、すなわちオートクルーズSW50のON操作時に車両ECU100によって設定される。
上限速度Vuppは指令速度Vstよりも予め設定された速度差分だけ高い速度であり、下限速度Vlowは指令速度Vstよりも予め設定された速度差分だけ低い速度である。これらの速度Vupp,Vlowにおける予め設定された速度差分は、定量的に設定されてもよいし、指令速度Vstに対する割合として設定されてもよい。
【0046】
惰性走行終了条件が成立することを惰性走行終了判定部131が判定すると、車両ECU100はクラッチ2を接続する。なお、このクラッチ2の遮断状態から接続状態への切換えは、クラッチ2が滑らかに接続されるように車両ECU100により適宜のランプ制御が行なわれる。
惰性走行を終了する場合、車速Vが上限速度Vuppよりも大きければ、クラッチ2を接続して適宜のエンジンブレーキをかけ、必要であればサービスブレーキを作動させて車速Vを指令速度Vstへと収束させる。ここでは、ブレーキアクチュエータを運転者のフットブレーキ操作無しに作動させてサービスブレーキを作動させる。また、車速Vが下限速度Vlowよりも小さければ、続いて復帰走行が実施される。
【0047】
復帰走行は、復帰制御部123により実施され、車速Vを加速して指令速度Vstへと復帰させる走行である。すなわち、復帰制御は、惰性走行制御からノーマルオートクルーズ走行制御への切替時に実施される過渡制御である。
この復帰制御は、指令速度Vstと車速Vとの速度差(偏差)分にフィードバックゲインG2を乗じた量に応じた燃料噴射変化量Δf2を調整する。これにより、車速Vを指令速度Vstに加速して復帰させる。このゲインG2はノーマルオートクルーズ制御中のゲインG1よりも大きく設定され、換言すれば、フィードバック制御のフィードバックゲインG2をノーマルオートクルーズ制御時(通常時)のゲインG1よりも増大して制御を実施するものである。したがって、復帰制御中の制御周期あたりの燃料噴射変化量Δf2はノーマルオートクルーズ走行制御中の燃料噴射変化量Δf1よりも大きくなる。
【0048】
上記のように、例えば燃料噴射量を大きくすれば、エンジン1の出力トルクは大きくなり、その後車速Vは上昇する。ここで、エンジン1の出力トルク(以下、単に出力トルクともいう)と車速Vに対応するエンジン回転数(Ne)とに対応する燃料消費率について、図2を用いて説明する。
図2は、縦軸に出力トルクをとり、横軸にエンジン回転数(Ne)をとって、燃料消費率を示す。
【0049】
任意のエンジン回転数における出力トルクの最大値は、エンジン1を全負荷で運転させた際のエンジン1により出力されるトルクである。この全負荷の出力トルクは、エンジン回転数が増加するにつれて、除々に上昇しその後下降する特性を持つ。この全負荷出力トルク曲線を図2中の太線で示す。
また、図2の線a,b,c,dは、燃料消費率(単位出力あたりの燃料消費量)が等しい線である等燃料消費率線を示す。これらの等燃料消費率線a,b,c,dは、線dから線aへ向けて、単位出力あたりの燃料消費量が少なく、燃費がよい。したがって、図2中では、等燃料消費率線aと全負荷出力トルク曲線とで囲まれる領域(最良燃費領域)において、最も単位出力あたりの燃料消費量が少ない。この最良燃費領域は、図2中に斜線部の領域で示される。
【0050】
例えば、任意の車速V1からこの車速V1より一定速度差分だけ高い車速V2へと加速する場合のエンジン回転数と出力トルクの変化を説明する。なお、この場合の変速機3の変速段は一定であり、車速V1に対応するエンジン回転数はr1、車速V2に対応するエンジン回転数はr2である。また、これらの車速V1及びV2としては、下限速度Vlow及び指令速度Vstや、指令速度Vst及び上限速度Vupp等をあてはめることができる。
【0051】
状態s1では、エンジン回転数r1,トルクN1で車速V1を維持して走行しているものとする。
状態s2は、車速V1を車速V2への上昇(加速)を開始する状態であり、出力トルクを増加して最良燃費領域のトルクN3で加速を開始する。この場合、定速走行中の状態s1及び加速開始状態s2のエンジン回転数r1は等しく、車速V1は等しい。
【0052】
ただし、エンジン回転数r1の全負荷出力トルクに対して、状態s1の出力トルクN1の割合よりも状態s2の出力トルクN3の割合が大きい。すなわち、状態s1よりも状態s2の方がトルク効率がよい。
状態s3は、車速V1から車速V2への上昇(加速)を終了する状態である。つまり、状態s2から状態s3において、加速が実施される。
【0053】
この状態s2から状態s3では、出力トルクN3が維持され、最良燃費領域内での加速が実施される。なお、状態s3では、車速V2であり、エンジン回転数r2である。
状態s4では、エンジン回転数r2,トルクN2で車速V2を維持して走行している。
図2に示す一点鎖線は、出力トルクの増加量を比較的小さくして車速V1から車速V2への加速を行なう場合を示す。この場合、車速V1から車速V2への加速に比較的長い時間を要し、最良燃費領域内に入ることなく等燃費消費率線b近傍での燃料消費が行なわれる。なお、出力トルクの増加量を比較的小さくした場合の燃費については図11(d)及び図11(e)を用いて後述する。これらの図11(d)及び図11(e)の一点鎖線は図2の一点鎖線で示す場合に対応する。
【0054】
したがって、車速V1からこの車速V1より一定速度差分だけ高い車速V2へと加速する場合、出力トルクが最良燃費領域に入るように例えば燃料噴射変化量Δf2を調整することで、トルク効率を向上させることができる。これにより、走行全体の燃費が向上する。
復帰制御中の走行においては、想定される惰性走行時の車速Vが指令速度Vst以下の速度域では、上り坂を走行している場合も最良燃費領域まで出力トルクには余裕があるため、燃料変化量Δf2に対応するトルク増加量を大きめにすると、最良燃費領域に入り又は近づき、燃費が向上する。また、エンジン回転数が同じ場合、トルクが増大してもエンジンフリクションは変わらないため、トルク増大時に、燃料噴射量に対するエンジン1の出力が大きくなるため、燃費を向上させることができる。
【0055】
復帰制御手段123は、車速Vが指令速度Vstになると復帰走行を終了する。そしてノーマルオートクルーズ走行又は準備走行が実施される。
準備走行は、準備制御部122により実施され、車速Vを上限速度Vuppへと上昇し惰性走行の準備を行なう走行である。すなわち、準備制御は、ノーマルオートクルーズ走行制御又は復帰制御から惰性走行制御への切換時の過渡制御である。
【0056】
この準備制御は、予め設定された勾配閾値θthよりも勾配値θが小さいことを前提として実施される。この閾値勾配θthは、上り坂においてこれ以上の勾配値の走行路で車両を加速すると燃費が悪化すると予め実験的・経験的に設定された閾値である。
準備制御の開始条件は、車両の前方に頂上Pがあることである。この前方の頂上Pがあることの判定は、頂上判定部124により行なわれる。
【0057】
頂上判定部124は、上り坂と下り坂との間の山又は峠の頂点Pが車両の前方にあるか否かを判定する。詳細には、勾配センサ10により検出された走行路の勾配値θが正であって、且つ、勾配変化率算出部110により算出された勾配変化率dθが負であると、車両の前方に頂上Pがあると判定する。
この頂上判定における勾配値θ又は勾配変化率dθは、直近のいくつかのデータの平均(移動平均)を採用することができ、適宜のローパスフィルタを通した値を採用することができる。これによれば、頂上判定部124は、脈動成分を除去された平滑化された値θ,dθに基づいて判定が行なうため、安定した頂上判定を行なうことができる。
【0058】
上り坂の後に下り坂が続く場合、頂上Pより手前の上り坂走行路は、勾配値θが正であって勾配変化率dθが負であることが一般的であり、頂上判定部124は、これを利用して車両の前方に頂上Pがあるか否かを判定する。
準備制御を開始すると、車速Vは上限速度Vuppへと上昇される。車速Vが上限速度Vuppになると、この上限速度Vuppを維持するように車速Vを制御する。この車速Vの上限速度Vuppへの上昇は、上限速度Vuppと車速Vとの速度差(偏差)分にフィードバックゲインG2を乗じた量に応じた燃料噴射変化量Δf2を調整することで行なわれる。これにより、車速Vを上限速度Vstに上昇させる。このゲインG2はノーマルオートクルーズ制御中のゲインG1よりも大きく設定され、換言すれば、フィードバック制御のフィードバックゲインG2をノーマルオートクルーズ制御時のゲインG1よりも増大して制御を実施するものである。
【0059】
この上限速度Vuppへの車速Vの上昇は、エンジン1の出力トルクの効率が良くなるように実施される。つまり、想定される惰性走行時の車速Vが指令速度Vst周辺の速度域では、上り坂を走行している場合も最良燃費領域までトルクには余裕があるため、トルク増加量を大きめにすると、最良燃費領域に入り又は近づき、燃費が向上する。また、エンジン回転数が同じ場合、トルクが増大してもエンジンフリクションが変わらないため、トルク増大時に、燃料噴射量に対するエンジン1の出力が大きくなるため、燃費を向上させることができる。
【0060】
準備制御部123は、車速Vが上限速度Vuppになると、車速Vを上限速度Vuppに維持する。この維持制御は、ノーマルオートクルーズ走行制御と同様である。
準備制御の終了条件は、頂上前惰性走行条件(所定条件)が成立することである。この頂上前惰性走行条件は、惰性走行開始判定部125により判定される。なお、準備制御終了条件が成立すると惰性走行制御が実施される。
【0061】
以下、惰性走行開始判定部125により判定される頂上前惰性走行条件を説明する。この頂上前惰性走行条件は、走行路が上り坂における惰性走行開始条件である。
頂上前惰性走行条件は、惰性走行によって頂上Pに到達した際の車速Vpが下限速度Vlow以上であることである。詳細には、現在の車両から頂上Pまでの勾配変化率dθが一定であるものと仮定して、現在の勾配値θ及び勾配変化率dθに基づいて勾配値θが0となる地点を頂上Pとして算出し、この頂上Pに惰性走行によって到達した際の車速Vpを推定算出し、この車速Vpが下限速度Vlow以上であることを条件とする。
【0062】
この頂上Pは、上り坂と下り坂との間の平らな又は勾配値θが0の地点が推定算出されるものである。この頂上Pにおける車速Vpが算出される。すなわち、頂上前惰性走行開始条件は、頂上P近くで徐々に勾配値θが緩くなる走行路において、頂上Pを推定算出し、現時点で惰性走行を開始した場合の頂上P地点における車速Vpを随時算出し、この算出された頂上Pにおける車速Vpが下限速度Vlow以上であると成立する。
【0063】
車両ECU100は、ルート(走行路)の形状と車速Vと車両の重量Wとの関係が予め設定されたマップを有する。このマップを用いて、惰性走行開始判定部125は頂上Pにおける車速Vpを算出することができる。この頂上Pにおける車速Vpは、勾配値θ、勾配変化率dθにより現時点での車両の位置から頂上Pまでのルート(走行路)の形状を算出し、このルートの形状に基づいて、車速V及び車両の重量Wに応じた車速Vの低下量をマップから読み出して推定算出することができる。
【0064】
また、惰性走行開始判定部125は、走行路が上り坂でなく、例えば平坦路から下り坂に進入した場合にも、惰性走行開始判定条件が成立したことを判定する。つまり、勾配値θが0を含んで正から負の勾配値θへと変化すると惰性走行開始判定条件が成立する。
惰性走行開始判定部125により惰性走行開始条件が成立したと判定されると、車両ECU100はクラッチ2を遮断し、惰性走行制御部130は惰性走行を制御する。
【0065】
〔作用・効果〕
本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御装置は上述のように構成されるため、例えば、車両の制御走行は以下のように行なわれる。
図3を用いて、制御走行を開始するか否かを判定するフローを説明する。この判定は、制御走行開始判定部105によって行なわれ、例えば数10ms毎に、周期的に行なわれる。
【0066】
まず、ステップS1では、フットブレーキSW30がOFFであるか否かを判定する。フットブレーキSW30がOFFであれば、ステップS2へ移行し、ONであればステップS9へ移行する。
ステップS2では、APS20がOFF、すなわちアクセル操作がされていないか否かを判定する。APS20がOFFであれば、ステップS3へ移行し、ONであればステップS9へ移行する。
【0067】
ステップS3では、オートクルーズSW50がON状態であるかを判定する。オートクルーズSW50がON状態であれば、ステップS4へ移行し、OFF状態であればステップS9へ移行する。
ステップS4では、フラグF1を0にセットする。そしてステップS5へ移行する。
フラグF1は、車両が制御走行中であって、クラッチ2が接続されたオートクルーズモード中であれば0にセットされ、クラッチ2が遮断された惰性走行モード中であれば1にセットされる。
【0068】
ステップS5では、フラグF2を0にセットする。そしてステップS6へ移行する。
フラグF2はオートクルーズモード中(F1=0)のフラグであって、ノーマルオートクルーズ制御が実施される場合に0にセットされ、復帰制御が実施される場合に1にセットされ、準備制御が実施される場合に2にセットされる。
ステップS6では、惰性走行許可SW52がON状態であるかを判定する。惰性走行許可SW52がON状態であれば、ステップS7へ移行し、OFF状態であれば後述するノーマルオートクルーズ走行制御のルーチンへ移行する。
【0069】
ステップS7では、制御走行開始条件が成立したことが判定される。つまり、制御走行開始部105により制御走行開始条件が成立したことが判定され、車両ECU100は、オートクルーズモード制御部120に走行制御を実施させる。そして、リターンする。
ステップS9では、制御走行終了条件が成立したことが判定される。つまり、フットブレーキSW30がON、APS20がON又はオートクルーズSW50がOFF操作の何れかがあると制御走行終了条件が成立する。制御走行終了条件が成立したことが判定されると、車両ECU100により制御走行を中断して、運転者による通常走行が行なわれる。そして、エンドへ移行する。
【0070】
前述の制御走行開始条件が成立すると、車両ECU100により図4に示すような車両の走行制御が行なわれる。この制御フローは、例えば数10ms毎に、周期的に行なわれる。
まず、ステップS100では、各種センサ類の情報を取得する。例えば、勾配センサ10からの勾配値θや、車速センサ40からの現時点の車速Vやその他の情報を取得する。そして、ステップS110へ移行する。
【0071】
ステップS110では、フラグF1が0か否かを判定する。フラグF1が0であれば、ステップS120へ移行し、フラグF1が0でなければ(1であれば)ステップS300へ移行する。
ステップS120では、フラグF2が0か否かを判定する。フラグF2が0であれば、頂上判定ルーチンへ移行し、フラグF2が0でなければステップS200へ移行する。
【0072】
頂上判定ルーチンでは、頂上Pが車両の前方にあるか否かを判定する。この判定は、頂上判定部124により行なわれ、詳細は図5を用いて説明する。
頂上Pが車両の前方にあるか否かの判定がスタートすると、ステップS130では、勾配センサ10により検出された勾配値θが正(上り坂)であるか否かを判定する。勾配値θが正であれば、ステップS132へ移行し、勾配値θが負であれば、ステップS138へ移行する。
【0073】
ステップS132では、勾配変化率算出部110により算出された勾配変化率dθが負であるか(走行路において徐々に上り勾配値θが減少しているか)を判定する。勾配変化率dθが負であれば、ステップS134へ移行し、勾配変化率dθが正であれば、ステップS138へ移行する。
ステップS134では、車両の前方に頂上Pがあると判定される。
【0074】
すなわち、ステップS130及びステップS132において、勾配値θが正であって且つ勾配変化率dθが負である場合に、頂上判定部124は車両前方に頂上Pがあることを判定する。
ステップS138では、車両の前方に頂上Pはないと判定される。
すなわち、ステップS130及びステップS132において、勾配値θが負である又は勾配変化率dθが正である場合に、頂上判定部124は車両前方に頂上Pがないと判定する。
【0075】
この頂上判定ルーチンにおいて、頂上ありと判定されると、図4のステップS140へ移行し、頂上なしと判定されるとステップS20へ移行する。
ステップS140では、勾配値θが閾値勾配θthよりも小さいか否かが判定される。勾配値θが閾値勾配θthよりも小さいとステップS150へ移行し、勾配値θが閾値勾配θth以上であるとステップS20へ移行する。なお、このステップS140では、準備制御実施の前提条件を判定する。
【0076】
つまり、頂上判定ルーチンで頂上Pが車両前方にないと判定され、又は、ステップS140で勾配値θが閾値勾配θth以上であるとステップS20へ移行する。
ステップS20では、制御走行開始判定部105により下り坂惰性走行条件が成立するか否かを判定する。下り坂惰性走行条件は、勾配値θが0を含んで正から負の勾配値θへと変化することである。下り坂惰性走行条件が成立すると判定されるとステップS500へ移行する。下り坂惰性走行条件が成立しないことが判定されるとノーマルオートクルーズ走行制御のルーチンへ移行する。
【0077】
ステップS150では、フラグF2を2にセットする。そして、頂上前惰性走行開始条件判定ルーチンへ移行する。
頂上前惰性走行開始条件判定ルーチンでは、惰性走行開始判定部125が頂上前惰性走行条件成立するか否かを判定する。詳細は図6を用いて説明する。
頂上前惰性走行開始条件判定ルーチンをスタートすると、ステップS160において、勾配センサ10により検出された勾配値θ、勾配変化率算出部110により算出された勾配変化率dθ及び車速センサ40により検出された車速Vに基づいて頂上Pの地点を算出する。この頂上Pは、現在の車両から頂上Pまでの勾配変化率dθが一定である場合に、現在の勾配値θ及び勾配変化率dθに基づいて勾配値θが0となる地点として算出される。そして、ステップS162へ移行する。
【0078】
ステップS162では、勾配値θ、勾配変化率dθ及びステップS160で算出された頂上Pに基づいて、只今より惰性走行を開始して惰性走行によって頂上Pに到達する場合の頂上Pにおける車速Vpを推定算出する。そしてステップS164へ移行する。
ステップS164では、頂上Pにおける車速Vpが下限速度Vlow以上か否かを判定する。
【0079】
車速Vpが下限速度Vlow以上であれば、ステップS500へ移行し、フラグF1の1にされて、惰性走行のルーチンへ移行する。車速Vpが下限速度Vlowよりも小さければ、準備制御ルーチンへ移行する。この準備制御のルーチンについては後述する。
ステップS200は、フラグF2が0でないと判定されると移行されるステップであり、フラグF2が1か否かを判定する。フラグF2が1であればステップS220へ移行し、フラグF2が1でなければ(2であれば)頂上前惰性走行開始条件判定ルーチンへ移行する。
【0080】
ステップS220では、復帰制御が完了したか否かを判定する。すなわち、車速Vが指令速度Vstに達したか否かを判定する。車速Vが指令速度Vstに達していればステップS240へ移行し、達していなければ復帰制御のルーチンへ移行し、復帰制御を継続する。復帰制御のルーチンについては後述する。
ステップS240では、フラグF2を0にセットする。そして、ノーマルオートクルーズ制御のルーチンへ移行する。このノーマルオートクルーズ走行制御については後述する。
【0081】
ステップS300は、フラグF1が0でないと判定されると移行されるステップであって、車速Vが下限速度Vlowより小さいか否かを判定する。車速Vが下限速度Vlowより小さければステップS320へ移行し、下限速度Vlow以上であればステップS400へ移行する。
ステップS320では、フラグF1を0にセットする。また、クラッチ2が遮断状態であれば、接続状態とする。このクラッチ2の遮断状態から接続状態への移行は車両ECU100により適宜のランプ制御が実施される。そして、ステップS340へ移行する。
【0082】
ステップS340では、フラグF2を1にセットする。そして、復帰制御のルーチンへ移行する。この復帰制御のルーチンについては後述する。
ステップS400は、車速Vが下限速度Vlow以上であると判定されると移行されるステップであって、車速Vが上限速度Vuppよりも大きいか否かを判定する。車速Vが上限速度Vuppよりも大きければステップS420へ移行し、上限速度Vupp以下であれば惰性走行制御のルーチンへ移行する。この惰性走行制御のルーチンについては後述する。
【0083】
ステップS420では、フラグF1を0にセットする。また、クラッチ2が遮断状態であれば、接続状態とする。このクラッチ2の遮断状態から接続状態への移行は車両ECU100により適宜のランプ制御が実施される。そして、ステップS440へ移行する。
ステップS440では、フラグF2を0にセットする。そして、ノーマルオートクルーズ制御のルーチンへ移行する。このノーマルオートクルーズ制御のルーチンは後述する。
【0084】
以下、走行制御中のルーチンである、準備制御、ノーマルオートクルーズ走行制御、復帰制御及び惰性走行制御のそれぞれを図7〜図10を用いて説明する。
まず、準備制御について、図7を用いて説明する。この準備制御は、準備制御部122により実施され、車速Vを上限速度Vuppへと上昇し惰性走行の準備を行なう制御である。
【0085】
準備制御では、まずステップS170において、車速Vが上限速度Vuppよりも小さいか否かを判定する。上限速度Vuppよりも小さいと判定されると、ステップS172へ移行し、小さくなければステップS180へ移行する。
ステップS172では、上限速度Vuppと車速Vとの速度差分(Vupp−V)にフィードバックゲインG2を乗じた量に応じた燃料噴射変化量Δf2を調整する。そしてステップS174へ移行する。
【0086】
ステップS174では、現時点の燃料噴射量fに燃料噴射変化量Δf2を加算し、この調整された燃料噴射量(f+Δf2)で車両ECU100はエンジン1の出力トルクを増加させる。そして、リターンする。
ステップS180では、車速Vが上限速度Vuppとなったか否かを判定する。車速Vが上限速度VuppであればステップS182へ移行し、上限速度VuppでなければステップS190へ移行する。
【0087】
ステップS182では、現時点の燃料噴射量fを維持し、車速Vを上限速度Vuppに維持するように燃料噴射量を調整する。そして、リターンする。
ステップS190では、上限速度Vuppと車速Vとの速度差分(Vupp−V)にフィードバックゲインG1を乗じた量に応じた燃料噴射変化量Δf1を調整する。そして、ステップS192へ移行する。
【0088】
ここで、ステップS190のフィードバックゲインG1は、ステップS172のフィードバックゲインG2よりも小さく設定され。したがって、燃料噴射変化量Δf1も燃料噴射変化量Δf2より小さくなる。
ステップS192では、現時点の燃料噴射量fに燃料噴射変化量Δf1を加算又は減算し、この調整された燃料噴射量(f±Δf1)で車両ECU100はエンジン1の出力トルクを車速Vが上限速度Vuppに収束するように調整する。そして、リターンする。
【0089】
次に、ノーマルオートクルーズ走行制御について、図8を用いて説明する。この制御は、ノーマルオートクルーズ走行制御部121により実施され、車速Vを指令速度Vstに維持するものである。
このノーマルオートクルーズ走行制御は、まずステップS260において、車速Vが指令速度Vstであるか否かを判定する。車速Vが指令速度Vstであれば、ステップS262へ移行し、指令速度VstでなければステップS280へ移行する。
【0090】
ステップS262では、現時点の燃料噴射量fを維持し、車速Vを指令速度Vstに維持するように燃料噴射量を調整する。そして、リターンする。
ステップS280では、車速Vと指令速度Vstとの速度差分(Vst−V)にフィードバックゲインG1を乗じた量を燃料噴射変化量Δf1として算出する。そして、ステップS282へ移行する。
【0091】
ステップS282では、現時点の燃料噴射量fに燃料噴射変化量Δf1を加算又は減算し、この調整された燃料噴射量(f±Δf1)で車両ECU100はエンジン1の出力トルクを車速Vが指令速度Vstに収束するように調整する。そして、リターンする。
次に、復帰制御について、図9を用いて説明する。この復帰制御は、復帰制御部123により実施され、車速Vを加速して指令速度Vstへと復帰させる制御である。
【0092】
復帰制御は、まずステップS360において、車速Vが指令速度Vstか否かを判定する。車速Vが指令速度VstであればステップS362へ移行し、指令速度VstでなければステップS380へ移行する。
ステップS362では、現時点の燃料噴射量fを維持し、車速Vを指令速度Vstに維持するように燃料噴射量を調整する。そして、リターンする。
【0093】
ステップS380では、車速Vと指令速度Vstとの速度差分(Vst−V)にフィードバックゲインG2を乗じた量を燃料噴射変化量Δf2として算出する。そして、ステップS382へ移行する。
ステップS382では、燃料噴射量fに燃料噴射変化量Δf2を加算する。すなわち、車速Vを指令速度Vstへと加速して復帰するように燃料噴射量fが調整され、この調整された燃料噴射量(f+Δf2)で車両ECU100はエンジン1の出力トルクを増加させる。そしてリターンする。
【0094】
次に、惰性走行制御について、図10を用いて説明する。この惰性走行制御は、惰性走行制御部130により実施され、クラッチ2を遮断しエンジン回転数をアイドル回転数として惰性での走行を制御するものである。
惰性走行制御では、まずステップS600において、クラッチ2を遮断状態にする。これにより、エンジン1の出力は駆動系から切り離される。そして、ステップS620へ移行する。
【0095】
ステップS620では、エンジン回転数をアイドル回転数にする。これにより、アイドル回転数に応じた燃料消費がなされる。そしてリターンする。
次に、車両の走行路に合わせて、車速、クラッチの断接状態、エンジン回転数及びエンジンの出力トルクを、図11を用いて説明する。
図11は、(a)が車両の走行する走行路を横軸に道のり、縦軸に標高をとって示し、(b)〜(e)が道のりに対応する車両の状態を示し、(b)が縦軸に車速Vを、(c)が縦軸にクラッチ2の断接状態を、(d)が縦軸にエンジン回転数(Ne)を、(e)が縦軸にエンジン1の出力トルクを示す。
【0096】
なお、車両は、図11(a)の走行路の左端から右端に向かって走行する。
また、以下の走行路の何れの地点においても、オートクルーズSW50及び惰性走行許可SW52がON状態であって、アクセル操作およびフットブレーキ操作がされず、制御走行開始条件が成立しているものとする。
まず、地点P0において、走行中にオートクルーズSW50及び惰性走行許可SW52がON状態にされ、指令速度Vstが車ECU100に記憶される。これとともに、車速Vを指令速度Vstに維持するノーマルオートクルーズ走行が実施される。
【0097】
なお、地点P0から地点P1までの間の走行路は平坦(勾配値θが0)であり、車両はノーマルオートクルーズ走行を実施する。
地点P1において、走行路は平坦路から下り坂へと進入する。すなわち、勾配値が0から負となる。したがって、下り坂惰性走行条件が成立し、車両は、クラッチ2が遮断され、エンジン回転数がアイドル回転数とされて惰性走行を実施する。なお、地点P1において、車速Vは指令速度Vstであり、速度帯の中にある。
【0098】
地点P1から地点P2までは走行路は下り坂(勾配値θが負)であるため、車速Vは地点P2へ近づくに連れて増加する。また、車速Vが速度帯にある限り惰性走行が継続して実施される。
地点P2は、走行路は下り坂から上り坂(勾配値θが負から正)へと変化するいわば谷の底といえる地点である。
【0099】
図11(b)に示されるように、車速Vは地点P2において、上限速度Vuppより大きくない、すなわち速度帯を外れておらず、惰性走行制御が継続して実施される。
地点P2から地点P3までは走行路が上り坂(勾配値θが正)であるため、車速Vは地点P3に近づくに連れて減少する。ただし、車速Vは速度帯内にあるため、惰性走行は継続して実施される。
【0100】
地点P3において、走行路は上り坂の勾配値θが増加し、すなわち勾配変化率dθが正となる。
地点P3から地点P5までの走行路は、地点P2から地点P3までの走行路よりも勾配値θが急な走行路である。この走行路では、惰性走行中の車速Vは、地点P2から地点P3への減少率よりも大きな減少率で低下する。
【0101】
地点P3と地点P5との間(地点P4)で、車速Vが下限速度Vlowよりも小さいくなる。すなわち、速度帯を外れる。そうすると車両ECU100は、クラッチ2を遮断状態から接続状態へと切替えてとして、復帰制御部123による復帰制御が開始される。
地点P4から地点P5までの走行路において、復帰制御が実施される。この復帰制御により、車速Vは指令速度Vstへと加速して復帰するように上昇する。この際のエンジン1は、図11(e)に示すように、出力トルクが上昇される。ここでは、地点P5において車速Vが指令速度Vstに達する。
【0102】
図11(d)の一点鎖線は、出力トルクを比較的小さく上昇した場合のエンジン回転数を示し、これに対応して図11(e)に一点鎖線で示す出力トルクは、出力トルクを比較的小さく上昇した示すものである。これによれば、右下方向のハッチを付した領域が復帰制御における仕事量の増加分よりも、左下方向にハッチを付した領域が出力トルクを比較的小さく上昇した場合の仕事量の増加分のほうが多い。すなわち、ノーマルオートクルーズ走行中の仕事量(出力トルクに時間を乗じたもの)に対して増加する仕事量は、出力トルクを比較的小さく上昇した場合よりも、復帰制御における仕事量の方が少ない。したがって、車速Vを指令速度Vstへと加速させる復帰制御におけるトルク効率のよい領域でエンジン1が制御され、燃費が向上する。
【0103】
地点P5から地点P6は、地点P3から地点P5の勾配値θよりも大きい勾配値θ1の走行路である。したがって、地点P5では、走行路の勾配変化率dθが正であり、オートクルーズモード制御部120により復帰制御からノーマルオートクルーズ走行制御への切替えが実施される。
地点P5から地点P6では、ノーマルオートクルーズ走行制御部121によるノーマルオートクルーズ走行が実施される。
【0104】
地点P6から地点P7は、地点P5から地点P6の勾配値θ1よりも小さい勾配値θ2の走行路である。したがって、地点P6では、走行路の勾配変化率dθが負となる。
地点P6では、勾配値θ2が正であって勾配変化率dθが負と変化するため、頂上判定部124は、車両の前方に頂上Pがあることを判定する。
ただし、勾配値θ2は、勾配閾値θth以上であり、準備制御実施の前提条件が成立しないため、地点P6から地点P7まではノーマルオートクルーズ走行制御が引き続き実施される。
【0105】
地点P7から地点P9は、地点P6から地点P7の勾配値θ2よりも小さい勾配値θ3の走行路である。したがって、地点P7では、走行路の勾配変化率dθが負となる。もちろん地点P7においても、車両の前方に頂上Pがあることが頂上判定部124により判定される。
また、勾配値θ3は勾配閾値θthよりも小さいため、準備制御実施の前提条件が成立する。このため、オートクルーズモード制御部120によりノーマルオートクルーズ制御から準備制御への切替えが実施される。
【0106】
したがって、地点P7では、準備制御部122による準備制御が開始され、惰性走行開始判定部125による頂上前惰性走行開始条件判定が開始される。
この頂上前惰性走行開始条件判定では、勾配値θ、勾配変化率dθ及び車速Vに基づいて頂上Pの地点を算出する。すなわち、この頂上Pの算出は後述する地点P10を推定算出するものである。また、現時点で惰性走行を開始した場合の頂上P地点における車速Vpを随時算出する。この算出された頂上Pにおける車速Vpが下限速度Vlow以上であると頂上前惰性走行開始条件判定が成立する。
【0107】
地点7から地点P8においては、図11(b)に示すように車速Vは上限速度Vuppへ向けて上昇され、図11(e)に示すようにエンジン1の出力トルクも上昇される。
地点P8から地点P9は、準備制御部122により車速Vが上限速度Vuppに維持される。
地点P9は、惰性走行終了判定部125により、頂上Pにおける車速Vpが下限速度Vlow以上である算出され、頂上前惰性走行開始条件が成立した地点である。
【0108】
したがって、地点P9では、車両ECU100によりクラッチ2が接続状態から遮断状態へと切替えられ、準備制御部123による準備走行から惰性走行制御部130による惰性走行への切替えが行なわれ、惰性走行制御部130によりエンジン回転数がアイドル回転数へと減少される。
地点P9から地点P10は、地点P7から地点P9の勾配値θ3よりも小さく、正の勾配値θを有し、車速Vは、地点P9から地点P10へ向けて減少する。
【0109】
地点P10は、走行路の勾配値θが正から負へと変化する勾配値が0の地点であり、いわば山又は峠の頂上Pといえる地点である。
地点P10において、図11(b)に示すように、車速Vは速度帯の中にあるため、惰性走行が継続して実施される。
【0110】
したがって、本実施形態の車両の走行制御装置によれば、車両の前方に頂上Pがあることを判定すると、車両が惰性走行を開始した場合の車速Vの変化を推定して、車両が頂上Pに到達した際の車速Vpが下限速度Vlow以上となることを頂上前惰性走行開始条件とするため、車速Vが大きく低下しない範囲(下限速度Vlow以上)で、頂上Pの手前から惰性走行を開始することができる。これにより、惰性走行を実施する頻度を増やすことができ、燃費を向上させることができる。
【0111】
上り坂の頂上Pの次には多くの場合下り坂があるので、この場合、頂上Pの手前からその後の下り坂まで連続して惰性走行を実施することができ、車両ECU100によるクラッチ2の断接制御を円滑に行なうことができる。また、燃費を向上させる上でも有利である。
車速Vが上限速度Vuppと下限速度Vlowとで規定された幅を持った速度帯内にある場合において、頂上Pの手前からその後の下り坂まで連続して惰性走行を実施すれば、車速Vは、通常頂上Pの手前から頂上Pまでは減少し、その後の下り坂で増加して上限速度を超えると、惰性走行を終えることにするが、下り坂進入時に車両の走行速度が減少していると、その分、下り坂進入時の車速Vが上限速度Vuppに対して余裕を持つため、より長い区間にわたり惰性走行を実施することができる。これにより、より燃費を向上させることができる。
【0112】
また、頂上判定部124は、勾配値θが正であり且つ勾配変化率dθが負である場合に、車両の前方に頂上Pがあることを判定するため、確実に頂上Pの手前で頂上Pがあることを判定することができる。
また、車速Vが、指令速度Vstを中心に上限速度Vuppと下限速度Vlowとで規定された幅を持った速度帯内にある場合に惰性走行を続行するため、高い頻度又は長い期間にわたり許容し易い速度帯内での惰性走行を実施することができ、ドライバビリティを確保しながら燃費を向上させることができる。
【0113】
また、上り坂において車両前方に頂上Pがあると判定されると、車速Vを指令速度Vstから上限速度Vuppへ上昇させて惰性走行の準備制御を実施するため、惰性走行によって車両が頂上Pに到達した際の車速Vpを、指令速度Vst及び上限速度Vuppの速度差分に応じて高くすることができ、頂上Pに対してより手前から惰性走行を実施し、惰性走行を実施する期間を長くすることができる。これにより、より燃費を向上させる上でも有利である。
【0114】
車速Vを指令速度Vstから上限速度Vuppへ上昇させる際、燃費消費率の良いトルク域でエンジンを制御するため、走行全体としての燃費を向上させることができる。
また、車速Vが速度帯から外れると惰性走行を終了すれるため、ドライバビリティの低減を回避することができる。
車速Vが上限速度Vuppよりも大きくなって惰性走行を終了する場合、例えば下り坂でのこれ以上の加速を防止することができ、安全性を確保することができる。
【0115】
また、下限速度Vlowを下回って惰性走行を終了して指令速度Vstで走行するノーマルオートクルーズ走行に復帰する場合に、ノーマルオートクルーズ走行時の出力増分よりも大きい出力増分となるようにエンジン1の出力を制御する、すなわち、ノーマルオートクルーズ走行時(通常時)のフィードバックゲインG1を増大してフィードバックゲインG2とするため、速やかにノーマルオードクルーズ走行へと移行することができる。この場合、現時点の車速Vを指令速度Vstへと加速して復帰する走行に必要な出力トルクが燃費消費率の良いトルク域となるようにエンジン1を制御するため、走行全体としての燃費を向上させることができる。
【0116】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、オートクルーズモード制御部(定速走行制御手段)120が頂上判定部(頂上判定手段)124及び惰性走行開始判定部(惰性走行開始判定手段)125を有する構成を示したが、車両ECUが定速走行制御手段と惰性走行制御手段との両手段に対応する構成であって、この車両ECUが頂上判定手段及び惰性走行開始判定手段を有する構成としてもよい。
【0117】
また、クラッチ2を遮断状態としてエンジン1の出力を動力系から切り離して惰性走行を行なうものを示したが、これに替えて、変速機3の変速段をニュートラルギヤに切り替えてエンジン1の出力を動力系から切り離して惰性走行を行なってもよい。変速機3の変速段がニュートラルギヤに切り替えられると、エンジン1の出力は変速機3よりも下流側の動力伝達機構(プロペラシャフト4,ディファレンシャルギヤ5,ドライブシャフト6,駆動輪7)に伝達されず、惰性走行を行なうことができる。この構成によれば、クラッチを備えていない車両においても惰性走行を実施することができ、燃費を向上させることができる。
【0118】
また、復帰制御及び準備制御における車速Vの上昇時のフィードバックゲインG2をそれぞれ異なるように設定してもよい。この場合、燃料噴射変化量Δf2もそれぞれ異なる。
また、車速Vを所定の速度に維持する場合や車速Vを上昇させる場合、車速Vと所定の速度との速度偏差に応じて燃料噴射変化量Δf1,Δf2を調整したが、偏差に依らない一定量の燃料噴射変化量Δfを適用してもよい。この場合、ノーマルオートクルーズ走行制御及び準備制御の車速Vの維持時の燃料噴射変化量Δfiよりも、復帰制御及び準備制御における車速Vの上昇時の燃料噴射変化量Δfiiは大きく設定される。
【0119】
また、復帰制御及び準備制御における車速Vの上昇時に、例えば、車速V等の走行状態に応じた燃費及び加速を考慮した最適トルク値が予め記憶され、エンジン1の出力トルクが走行状態に対応して予め定めたトルクとなるように燃料噴射量f0を設定してもよい。
また、運転者の加減速意思がある場合やSW50,52がOFF操作されれば、即座にオートクルーズモード走行又は惰性走行等の制御走行が中断されて運転者による通常走行がなされるものを示したが、前方の車両との距離が所定値以下となったり前方の車両との相対速度が近づく方向に所定値以上であることを、さらに制御走行が中断される条件とすることができる。この構成によれば、さらに安全性を確保することができ、燃費が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の車両の走行制御装置は、トラック又はバスといった大型車両のみならず乗用車等の小型車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0121】
1 エンジン
2 クラッチ(動力断接手段)
3 変速機(動力断接手段)
4 プロペラシャフト
5 ディファレンシャルギヤ
6 ドライブシャフト
7 駆動輪
10 勾配センサ(勾配検出手段)
20 APS
30 フットブレーキSW
40 車速センサ
50 オートクルーズSW(定速走行指令手段)
52 惰性走行許可SW(惰性走行許可手段)
100 車両ECU
105 制御走行開始判定部
110 勾配変化率算出部(勾配変化率検出手段)
120 オートクルーズモード制御部
121 ノーマルオートクルーズ走行制御部(定速走行制御手段)
122 準備制御部(準備制御手段)
123 復帰制御部(復帰制御手段)
124 頂上判定部(頂上判定手段)
125 惰性走行開始判定部(惰性走行開始判定手段)
130 惰性走行制御部(惰性走行制御手段)
131 惰性走行終了判定部(惰性走行終了判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンと駆動輪との間に介装された動力断接手段と、
惰性走行開始条件が成立したら前記動力断接手段を動力遮断状態に制御し惰性走行を開始する惰性走行制御手段とを備えた車両において、
前記惰性走行開始条件には、前記車両の走行路が下り坂、又は、所定条件を満たす上り坂であることが含まれ、
前記惰性走行制御手段は、
前記車両の前方に上り坂の頂上があるか否かを判定する頂上判定手段と、
前記頂上判定手段により前記頂上があることが判定されると、前記車両が前記惰性走行を開始した場合の前記車両の走行速度の変化を推定して、前記惰性走行によって前記車両が前記頂上に到達した際の前記走行速度が下限速度以上となることを前記所定条件として前記惰性走行の開始を判定する惰性走行開始判定手段とを有する
ことを特徴とする、車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記車両は、
前記車両の走行する走行路の勾配を検出する勾配検出手段と、
前記勾配の変化率を検出する勾配変化率検出手段とを備え、
前記頂上判定手段は、
前記勾配が正であり且つ前記変化率が負である場合に、前記頂上があると判定する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記車両は、前記車両を自動で定速走行させる定速走行指令手段と、
前記定速走行指令手段により定速走行が指令されると、前記エンジンの出力を操作して、前記車両の走行速度を指令された指令速度に維持する定速走行制御を実施する定速走行制御手段とを有し、
前記惰性走行制御手段は、前記定速走行制御手段による定速走行制御時に、前記惰性走行開始判定手段により前記惰性走行の開始が判定されると、前記惰性走行を開始し、前記車両の走行速度が、前記指令速度よりも予め設定された速度差分だけ高い上限速度と前記指令速度よりも予め設定された速度差分だけ低い前記下限速度とで規定された幅を持った速度帯内にある限り、前記惰性走行制御を続行する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記定速走行制御手段による定速走行制御時に、前記頂上判定手段により前記頂上があると判定されると、前記車両の走行速度を前記指令速度から予め設定された速度差分だけ高い速度へ上昇させて前記惰性走行の準備制御を実施する準備制御手段を有する
ことを特徴とする、請求項3記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記惰性走行制御手段は、
前記惰性走行制御中に、前記車両の走行速度が前記速度帯から外れると、前記惰性走行制御の終了を判定する惰性走行終了判定手段を備え、
前記定速走行制御手段は、
前記定速走行が指令されると、前記車両の実走行速度と前記指令速度との偏差に基づくフィードバック制御によって前記エンジンの出力を操作する
ことを特徴とする請求項3又は4記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記惰性走行制御手段による前記惰性走行中に、前記車両の走行速度が前記速度帯を下回ったことにより前記惰性走行終了判定手段が前記惰性走行制御の終了を判定して、前記定速走行制御に復帰する場合に、前記車両の走行速度が前記指令速度に上昇するまで、前記定速走行制御時に前記車両の走行速度を前記指令速度に上昇させる際の出力増分よりも大きい出力増分となるように前記エンジンの出力を制御する復帰手段を有する
ことを特徴とする、請求項3〜5の何れか1項に記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−219986(P2012−219986A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89279(P2011−89279)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】