説明

車両の運転支援装置

【課題】ドライバの意思を尊重しつつ、衝突防止制御を有効に機能させることができる車両の運転支援装置を提供する。
【解決手段】走行制御ユニット5は、制動制御中にドライバによるブレーキペダルの踏込操作を検出した場合には、自車両1と制御対象との衝突の可能性があることをドライバが認識している可能性が高いと判断して制動制御を中断する。これにより、ドライバの意思に反する不要な制動制御の介入を防止することができる。その一方で、制御対象との衝突の可能性が高い状況下でドライバによるブレーキペダルの踏込量が解放側に設定速度以上で変化した場合には、一旦中断した制動制御を再開する。これにより、衝突防止制御を有効に機能させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が先行車等の制御対象に衝突する可能性が高いとき、自動ブレーキの介入等によって衝突防止を図る衝突防止制御機能を備えた車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波レーダ、赤外線レーザレーダ、ステレオカメラや単眼カメラ等を用いて車両前方の車外環境を認識し、認識した車外環境に基づいて自車両の走行制御等を行う運転支援装置について様々な提案がなされている。このような走行制御の機能の一つとして、自車両の前方で先行車を検出(捕捉)したとき、検出した先行車に対する追従走行制御を行う機能が広く知られている。一般に、このような追従走行制御は車間距離制御付クルーズコントロール(ACC:Adaptive Cruise Control)の一環として広く実用化されており、ACCでは、自車両の前方に先行車を検出している状態では追従制御が行われ、先行車を検出していない状態ではドライバが設定したセット車速での定速走行制御が行われる。
【0003】
また、運転支援装置による走行制御の機能として、自車両が先行車等の制御対象に衝突する可能性が高いときに、ブレーキ操作を促す警報の出力やドライバのブレーキ操作とは独立した自動ブレーキの介入を行う衝突防止制御(所謂、プリクラッシュブレーキ制御)機能についても様々な提案がなされている。
【0004】
この種の運転支援装置においては、ドライバの意思を尊重するという思想のもと、例えば、衝突防止制御中にドライバによるブレーキペダル操作等がなされたときは、自動ブレーキの介入等をキャンセルする技術が数多く提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−255926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、先行車等との衝突の可能性が高い状況下においては、ドライバによるブレーキペダルの踏込操作が行われることが一般的であり、上述の特許文献1の技術では、ほとんどの場合、自動ブレーキの介入等がキャンセルされる。
【0007】
従って、上述の特許文献1に開示された技術では、例えば、衝突防止制御中にブレーキペダルの踏込操作によって自動ブレーキを解除した後に、ドライバが誤ってブレーキペダルから足を滑らせた場合等には、有効に衝突を回避することが困難となる虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ドライバの意思を尊重しつつ、衝突防止制御を有効に機能させることができる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による車両の運転支援装置は、前方に認識した制御対象と自車両との衝突可能性を判定する衝突判定手段と、前記衝突判定手段で前記制御対象との衝突可能性があると判定されたとき当該制御対象に対する制動制御を行う制動制御手段と、ドライバによるブレーキペダルの踏込操作が検出されたとき前記制動制御の中断を判定する制御中断判定手段と、前記制御対象との衝突可能性があるとの判定中に前記踏込操作がされたブレーキペダルの踏込量が解放側に設定速度以上で変化したとき、中断した前記制動制御の再開を判定する制御再開判定手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両の運転支援装置によれば、ドライバの意思を尊重しつつ、衝突防止制御を有効に機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両に搭載した運転支援装置の概略構成図
【図2】自車両と制御対象との間に設定される制動制御の各制御タイミングを示す説明図
【図3】衝突防止制御ルーチンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は車両に搭載した運転支援装置の概略構成図、図2は自車両と制御対象との間に設定される制動制御の各制御タイミングを示す説明図、図3は衝突防止制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0013】
図1において、符号1は自動車等の車両(自車両)を示し、この車両1には、走行制御機能として、車間距離制御機能付クルーズコントロール(ACC:Adaptive Cruise Control)機能と、衝突防止制御機能(プリクラッシュブレーキ制御機能)と、を備えた運転支援装置2が搭載されている。
【0014】
この運転支援装置2は、例えば、ステレオカメラ3と、ステレオ画像認識装置4と、走行制御ユニット5と、を一体的に備えたステレオカメラアセンブリ2aを中心として主要部が構成されている。そして、このステレオカメラアセンブリ2aの走行制御ユニット5には、エンジン制御ユニット(E/G_ECU)7、ブレーキ制御ユニット(BRK_ECU)8、トランスミッション制御ユニット(T/M_ECU)9等の各種車載制御ユニットが相互通信可能に接続されている。
【0015】
ステレオカメラ3は、ステレオ光学系として例えば電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた左右1組のCCDカメラで構成されている。これら1組のCCDカメラは、それぞれ車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、撮像した画像情報をステレオ画像認識装置4に出力する。
【0016】
ステレオ画像認識装置4には、ステレオカメラ3からの画像情報が入力されるとともに、例えば、T/M_ECU9から自車速V等が入力される。このステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3からの画像情報に基づいて自車両1前方の立体物データや白線データ等の前方情報を認識し、これら認識情報等に基づいて自車走行路を推定する。さらに、ステレオ画像認識装置4は、認識した立体物データ等に基づいて自車走行路上の先行車検出を行う。
【0017】
ここで、ステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3からの画像情報の処理を、例えば以下のように行う。先ず、ステレオカメラ3で自車進行方向を撮像した1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成する。そして、この距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め記憶しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較することにより、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データ等を抽出する。さらに、ステレオ画像認識装置4は、白線データや側壁データ等に基づいて自車走行路を推定し、自車走行路上に存在する立体物であって、自車両1と略同じ方向に所定の速度(例えば、0Km/h以上)で移動するものを先行車として抽出(検出)する。そして、先行車を検出した場合には、その先行車情報として、先行車距離D(=車間距離)、先行車速度Vf(=(車間距離Dの変化の割合)+(自車速V))、先行車加速度af(=先行車速Vfの微分値)等を演算する。なお、先行車の中で、特に、速度Vfが所定値以下(例えば、4Km/h以下)で、且つ、加速していないものは、略停止状態の先行車として認識される。
【0018】
走行制御ユニット5には、例えば、ステレオ画像認識装置4らか車外前方に関する各種認識情報が入力されるとともに、T/M_ECU9から自車速V等が入力される。
【0019】
また、走行制御ユニット5には、例えば、クルーズコントロール用スイッチ15を通じて設定されるドライバの各種設定情報が、E/G_ECU7を介して入力される。本実施形態において、クルーズコントロール用スイッチ15は、例えば、ステアリングに配置されたプッシュスイッチ及びトグルスイッチ等からなる操作スイッチであり、ACCの作動をON/OFFするメインスイッチであるクルーズスイッチ「CRUISE」、ACCを解除するためのキャンセルスイッチ「CANCEL」、その時の自車両の速度をセット車速Vsetとして設定するためのセットスイッチ「SET/−」、先行車と自車両との車間距離のモードを設定するための車間距離設定スイッチ、前回の記憶してあるセット車速Vsetを再セットするためのリジュームスイッチ「RES/+」を有している。なお、本実施形態において、車間距離のモードとしては「長」、「中」、「短」の何れかが設定され、走行制御ユニット5は、例えば、自車速Vに応じて、モード毎に異なる追従目標距離Dtrgを設定する。
【0020】
さらに、走行制御ユニット5には、例えば、ブレーキペダル踏込量センサ21(ブレーキ油圧をセンシングするものでも良い)で検出されたブレーキペダルの踏込量θbrk(ドライバによるブレーキペダルの踏み込みストローク)が、BRK_ECU8を介して入力される。
【0021】
そして、クルーズコントロール用スイッチ15のクルーズスイッチがオンされ、セットスイッチ等を通じてドライバが希望するセット車速Vsetが設定されるとともに、車間距離設定スイッチを通じて追従目標距離Dtrgの設定のためのモードが設定されると、走行制御ユニット5は、ACCを実行する。
【0022】
このACCとして、走行制御ユニット5は、ステレオ画像認識装置4で先行車が検出されていない場合には、自車速Vをセット車速Vsetに収束させる定速走行制御を行う。また、走行制御ユニット5は、定速走行制御中にステレオ画像認識装置4にて先行車を認識した場合には、当該先行車との車間距離Dを追従目標距離Dtrgに収束させる追従走行制御(追従停止、追従発進も含む)を行う。
【0023】
すなわち、定速走行制御が開始されると、走行制御ユニット5は、自車速Vをセット車速Vsetに収束させるための目標加速度a1を演算する。
【0024】
具体的に説明すると、走行制御ユニット5は、例えば、自車速Vとセット車速Vsetとの車速偏差Vsrel(=Vset−V)を演算し、予め設定されたマップ等を参照することにより、車速偏差Vsrelと自車速Vとに応じた目標加速度a1を演算する。なお、例えば、車速偏差Vsrelが正値である場合、目標加速度a1は、自車速Vに応じた上限値の範囲内において、車速偏差Vsrelが大きくなるほど大きな値が設定される。一方、例えば、車速偏差Vsrelが負値である場合、目標加速度a1は、自車速Vに応じた下限値の範囲内において、速度偏差Vsrelが小さくなるほど小さな値が設定される(車速偏差Vsrelが負側に大きくなるほど減速側に大きな値が設定される)。
【0025】
また、定速走行制御中から追従走行制御に移行すると、走行制御ユニット5は、上述の目標加速度a1に加え、車間距離Dを追従目標距離Dtrgに収束させるための目標加速度a2を演算する。
【0026】
具体的に説明すると、走行制御ユニット5には、例えば、車間距離のモード「短」及び「長」に対応する追従目標距離Dtrg設定用のマップが予め設定されて格納されている。そして、走行制御ユニット5は、モードが「短」或いは「長」である場合には該当するマップを用いて自車速Vに応じた追従目標距離Dtrgを設定し、モードが「中」の場合にはモードが「短」及び「長」のときにそれぞれ演算される値の中間値を追従目標距離Dtrgとして設定する。また、走行制御ユニット5は、例えば、追従目標距離Dtrgと車間距離Dとの距離偏差ΔD(=Dtrg−D)を演算するとともに、先行車速度Vfと自車速Vとの相対速度Vfrel(=Vf−V)を演算し、これらをパラメータとして予め設定されたマップ等を参照して目標加速度a2を演算する。
【0027】
そして、走行制御ユニット5は、定速走行制御時においては目標加速度a1を最終的な目標加速度aとして設定し、追従走行制御時においては目標加速度a1,a2のうちの何れか小値を最終的な目標加速度aとして設定する。
【0028】
なお、定速走行制御或いは追従走行制御中において、例えば、自車両1がカーブに浸入した場合やコースト走行を行っている場合等には、上述の目標加速度a1,a2の他にそれぞれ別途の目標加速度を演算することも可能であり、この場合、これらを含めた目標加速度のうち最小値を最終的な目標加速度aとして設定してもよい。
【0029】
目標加速度aを設定すると、走行制御ユニット5は、E/G_ECU7を通じて電子制御スロットル弁17の開度制御(エンジンの出力制御)を行うことにより、目標加速度aに応じた加速度を発生させる。さらに、走行制御ユニット5は、エンジンの出力制御のみでは十分な加速度(減速度)が得られないと判断した場合に、BRK_ECU8を通じてブレーキブースタ18からの出力液圧制御(自動ブレーキの介入制御)を行う。
【0030】
ここで、追従走行制御により、自車両1が先行車に追従して停車すると、走行制御ユニット5は、例えば、図示しない電動パーキングブレーキを作動させて停車状態を保持する。そして、走行制御ユニット5は、例えば、ドライバによってアクセルペダル操作が行われたこと或いはクルーズコントロール用スイッチ15のクルーズスイッチが再操作されたことを条件として電動パーキングブレーキを解除し、ACCを再開する。
【0031】
次に、衝突防止制御について説明する。衝突防止制御に際し、走行制御ユニット5は、自車走行路上にステレオ画像認識装置4で認識された立体物が存在する場合には、これら立体物のうち直近の立体物を制御対象として認識する。この制御対象としては、上述のACCで認識される先行車のみならず自車走行路上で停止している各種立体物等も含まれる。制御対象を認識すると、走行制御ユニット5は、例えば、自車両1と制御対象との相対距離及び相対速度とに基づき、自車両1が制御対象に対して衝突するまでの予想(余裕)時間(衝突予想時間、或いは衝突余裕時間ともいう)TTC(TTC=相対距離/相対速度)を算出し、この衝突予想時間TTCに基づいて制御対象との衝突の可能性があると判定したとき、制動制御を行う。
【0032】
本実施形態において、制動制御とは、例えば、自車両1の制動に係る広義の意味での制御をいい、具体的には、警報制御、警報ブレーキ制御、及び、緊急ブレーキ制御の3段階の制御で構成されている。
【0033】
警報制御は、例えば、走行制御ユニット5が制御対象との衝突の可能性があると判断した場合に最初に実行される制御であり、TTCが設定閾値T0(例えば、T0=2秒:図2参照)以下となった場合に実行される。この警報制御では、例えば、警報音の出力やメータ表示等による制御対象への注意喚起により、ドライバに対してブレーキ操作(制動操作)をはじめとした衝突回避操作が促される。
【0034】
警報ブレーキ制御は、例えば、警報制御に対してドライバの適切な衝突回避操作(ドライバによる操舵やブレーキ操作等)が行われなかった場合に実行される制御であり、TTCが設定閾値T1(例えば、T1=1.5秒:図2参照)以下となった場合に実行される。この警報ブレーキ制御では、例えば、BRK_ECU8を通じたブレーキブースタ18からの出力液圧制御により、軽い自動ブレーキの介入(例えば、0.3G以下の制動力による自動ブレーキの介入)が行われ、ドライバへの再度の注意喚起が行われる。
【0035】
緊急ブレーキ制御は、例えば、警報ブレーキ制御に対してもなおドライバの適切な衝突回避操作が行われなかった場合に実行される制御であり、TTCが設定閾値T2(例えば、T2=1秒:図2参照)以下となった場合に実行される。この緊急ブレーキ制御では、例えば、BRK_ECU8を通じたブレーキブースタ18からの出力液圧制御により、強い自動ブレーキの介入(例えば、0.5G以下の制動力による自動ブレーキの介入)が行われ、制御対象の直前で自車両1を停止させる。
【0036】
そして、自動ブレーキの介入によって自車両1が停車すると、走行制御ユニット5は、例えば、図示しない電動パーキングブレーキを作動させて停車状態を保持する。
【0037】
その一方で、走行制御ユニット5は、例えば、ブレーキペダル踏込量センサ21からの信号等に基づいてドライバによるブレーキペダルの踏込操作を検出した場合、制動制御よりもドライバの回避操作を尊重すべく、当該制動制御の中断(HALT)を判定する。但し、走行制御ユニット5は、制動制御の中断を判定した後であっても、ドライバによるブレーキペダルの踏込量θbrkが解放側に設定速度ω0以上で変化したとき、中断した制動制御の再開を判定する。
【0038】
なお、このような衝突防止制御は、単独で実行可能であることは勿論のこと、ACCと併用することも可能である。この場合、衝突防止制御において制動制御の実行が判定された場合、当該衝突防止制御(制動制御)は、基本的にはACC制御よりも優先される。
【0039】
このように、本実施形態において、走行制御ユニット5は、衝突判定手段、制動制御手段、制御中断判定手段、及び、制御再開判定手段としての各機能を実現する。
【0040】
次に、走行制御ユニット5で実行される衝突防止制御について、図3に示す衝突防止制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。
【0041】
このルーチンは設定時間毎に繰り返し実行されるもので、ルーチンがスタートすると、走行制御ユニット5は、先ず、ステップS101において、衝突予想時間TTCが閾値T0(例えば、T0=2秒)以下であるか否かを調べる。
【0042】
そして、ステップS101において、衝突予想時間TTCが閾値T0よりも長いと判定した場合、走行制御ユニット5は、自車両1が制御対象と衝突する可能性が低いと判断して、そのままルーチンを抜ける。
【0043】
一方、ステップS101において、衝突予想時間TTCが閾値T0以下であると判定した場合、走行制御ユニット5は、自車両1が制御対象と衝突する可能性があり制動制御を実行する必要があると判断して、ステップS102に進む。
【0044】
ステップS101からステップS102に進むと、走行制御ユニット5は、ブレーキペダル踏込量センサ21で検出されたブレーキペダルの踏込量θbrkに基づき、ドライバによるブレーキ踏込操作が行われているか否かを調べる。
【0045】
そして、ステップS102において、ドライバによるブレーキ踏込操作が行われていないと判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS104に進む。
【0046】
一方、ステップS102において、ドライバによるブレーキ踏込操作が行われていると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS103に進み、ドライバのブレーキ操作に伴って制動制御の中断を判定したことを示すフラグFbを「1」にセットした後、ステップS104に進む。
【0047】
ステップS102或いはステップS103からステップS104に進むと、走行制御ユニット5は、フラグFbが「1」にセットされているか否かを調べ、フラグFbが「0」である場合には、ステップS107に進む。
【0048】
一方、ステップS104において、フラグFbが「1」にセットされていると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS105に進み、ドライバによって踏み込まれたブレーキペダルが設定速度ω0以上で解放側に変化したか否かを調べる。ここで、設定速度ω0は、例えば、リターンスプリングによる付勢力のみによってブレーキペダルが解放側に揺動された場合にとり得る速度(角速度)範囲の所定値に設定されている。換言すれば、設定速度ω0は、ドライバがブレーキペダルに足を添えた状態で解放側に操作した場合には発生し得ない速度に設定されている。
【0049】
そして、ステップS105において、ブレーキペダルが設定速度ω0以上の速度で解放側に変化していないと判定した場合、走行制御ユニット5は、ドライバが現在もブレーキペダルを踏み続けている可能性が高いか、或いは、制御対象との衝突回避の過程においてドライバ自らの意思でブレーキを解放側に操作している可能性が高いと判断し、フラグFb=1を維持したままルーチンを抜ける。
【0050】
一方、ステップS105において、ブレーキペダルが設定速度ω0以上の速度で解放側に変化していると判定した場合、走行制御ユニット5は、ドライバがブレーキペダルから足を滑らせた等の可能性があると判断してステップS106に進み、フラグFbを「0」にリセットした後、ステップS107に進む。
【0051】
ステップS104或いはステップS106からステップS107に進むと、走行制御ユニット5は、衝突予想時間TTCが設定閾値T1(例えば、T1=1.5秒)以下であるか否かを調べる。
【0052】
そして、ステップS107において、衝突予想時間TTCが設定時間T1よりも長いと判定した場合(すなわち、T1<TTC≦T0であると判定した場合)、走行制御ユニット5は、ステップS108に進み、図示しないブザー等からの警報音の出力やインストルメントパネル上のメータ等への表示を通じてドライバにブレーキ操作等を促す警報を行った後、ルーチンを抜ける。
【0053】
一方、ステップS107において、衝突予想時間TTCが設定時間T1以下であると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS109に進み、衝突予想時間TTCが設定時間T2(例えば、T2=1秒)以下であるか否かを調べる。
【0054】
そして、ステップS109において、衝突予想時間TTCが設定時間T2よりも長いと判定した場合(すなわち、T2<TTC≦T1であると判定した場合)、走行制御ユニット5は、ステップS110に進み、軽い自動ブレーキの介入により、ドライバに対する警報を兼ねた制動制御を行った後、ルーチンを抜ける。
【0055】
一方、ステップS109において、衝突予想時間TTCが設定時間T2以下であると判定した場合、走行制御ユニット5は、強い自動ブレーキの介入により、制御対象直前での自車両1の停車を前提とした制動制御を行った後、ルーチンを抜ける。
【0056】
このような実施形態によれば、制動制御中にドライバによるブレーキペダルの踏込操作を検出した場合には、自車両1と制御対象との衝突の可能性があることをドライバが認識している可能性が高いと判断して制動制御を中断することにより、ドライバの意思に反する不要な制動制御の介入を防止することができる。その一方で、制御対象との衝突の可能性が高い状況下でドライバによるブレーキペダルの踏込量が解放側に設定速度以上で変化した場合には、一旦中断した制動制御を再開することにより、衝突防止制御を有効に機能させることができる。
【0057】
従って、例えば、警報制御によって先行車等との衝突の可能性が高いことに気付いたドライバが慌ててブレーキ操作を行い、その直後にブレーキペダルから足を滑らせてブレーキが解放されたような場合にも、制御対象に対して中断した制動制御を再開させて有効に機能させることができ、ドライバの運転操作ミスによる衝突を回避或いは軽減することができる。
【0058】
ここで、上述の実施形態において、例えば、衝突予想時間TTCが極めて短いタイミングで制動制御を中断した場合、仮に制動制御を再開したとしても制御対象に対する制動が十分に間に合わない可能性がある。そこで、衝突予想時間TTCが所定時間以下である場合を除くタイミングに限定して制動制御の中断を許可するよう構成することも可能である。具体的には、例えば、衝突予想時間TTCが閾値T2以上のタイミングでのみ、ドライバのブレーキ操作に応じた制動制御の中断を許可し、衝突予想時間TTCが閾値T2以下のタイミングでは、仮にブレーキ操作が検出されたとしても制動制御の中断を禁止し、緊急ブレーキ制御を継続するよう構成することが考えられる。
【0059】
なお、本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。例えば、衝突予想時間TTCに基づいて行われる制動制御は上述の形態に限定されないことは勿論である。また、上述の実施形態においては、衝突予想時間TTCに基づいて衝突防止制御を行う一例について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、制御対象との相対距離等を直接的なパラメータとして衝突防止制御を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 … 車両(自車両)
2 … 運転支援装置
2a … ステレオカメラアセンブリ
3 … ステレオカメラ
4 … ステレオ画像認識装置
5 … 走行制御ユニット(衝突判定手段、制動制御手段、制御中断判定手段、制御再開判定手段)
7 … エンジン制御ユニット
8 … ブレーキ制御ユニット
9 … トランスミッション制御ユニット
15 … クルーズコントロール用スイッチ
17 … 電子制御スロットル弁
18 … ブレーキブースタ
21 … ブレーキペダル踏込量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方に認識した制御対象と自車両との衝突可能性を判定する衝突判定手段と、
前記衝突判定手段で前記制御対象との衝突可能性があると判定されたとき当該制御対象に対する制動制御を行う制動制御手段と、
ドライバによるブレーキペダルの踏込操作が検出されたとき前記制動制御の中断を判定する制御中断判定手段と、
前記制御対象との衝突可能性があるとの判定中に前記踏込操作がされたブレーキペダルの踏込量が解放側に設定速度以上で変化したとき、中断した前記制動制御の再開を判定する制御再開判定手段と、を備えたことを特徴とする車両の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192776(P2012−192776A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56802(P2011−56802)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】