説明

車両上部後端構造

【課題】簡潔な構成でハッチバック車のルーフ外装部材を補強する。
【解決手段】車両上部後端構造100は、サイドボディ外装部材108と、サイドボディ外装部材の後端近傍に連結されるサイドボディ延長部材110と、サイドボディ外装部材およびサイドボディ延長部材に連結されるルーフ外装部材106とを備える。さらに、ルーフ外装部材の車内側とサイドボディ外装部材およびサイドボディ延長部材の車外側とに連結されこれら部材が重なる領域を補強する後部補強部材120を備える。ルーフ外装部材は、車両前後に延びる上面部128、上面部の後端から下方へ屈曲してハッチバックドアの上縁に対向する後面部130、後面部から後方へ屈曲してハッチバックドアの下面に沿う被覆面部132を有し、後部補強部材は、ルーフ外装部材の上面部と後面部および被覆面部に沿って屈曲して各面に溶接される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハッチバック車におけるルーフの後端のコーナ付近を構成する車両上部後端構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のルーフなどの基礎構造は、剛性を確保するために複数のパネル部材を重ね合わせて構成されている。通常の車両では、ルーフとサイドボディとの間のコーナ付近は、走行中にねじる方向への荷重(ねじり入力)がかかりやすいことが知られている。特にハッチバック車では、ハッチバックドアを設置するために基礎構造の後部は大きく空いていて、この後部のルーフ・サイドボディ間のコーナに荷重が集中しやすい。そのため、このコーナ付近には様々なパネル部材が重ね合わされ、剛性が高められている。
【0003】
例えば特許文献1に記載の車体後部の結合構造では、上述したコーナにリアピラーパッチと呼ばれる補強部材を設置している。このリアピラーパッチは、よつまた構造の部材であり、C・Dピラーと、サイドレールおよびリアレールとに結合されている。このリアピラーパッチは、車両前後の断面において、ルーフパネル(ルーフ外装部材)とインナパネルとによって構成される閉空間を斜めに横断し、設置領域の剛性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−161889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述したねじり入力はルーフ外装部材に特に影響を与えやすい。ルーフ外装部材は車両のなかでも大型のパネル部材であって、ねじり入力を受けるとゆがみが生じるおそれがある。しかしながら、大型のルーフ外装部材を増厚することは、重量およびコストの増大の点から効率的ではない。また、特許文献1のリアピラーパッチではルーフ外装部材との接触領域が少なく、ルーフ外装部材の保護を効率よく行うための余地があると思われる。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、コストを抑えた簡潔な構成でハッチバック車のルーフ外装部材を補強可能な車両上部後端構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両上部後端構造の代表的な構成は、サイドボディ外装部材と、サイドボディ外装部材の後端近傍の車内側に連結されるサイドボディ延長部材と、サイドボディ外装部材およびサイドボディ延長部材の車外側に連結されるルーフ外装部材とを備えるハッチバック車の車両上部後端構造において、当該車両上部後端構造はさらに、ルーフ外装部材の車内側とサイドボディ外装部材およびサイドボディ延長部材の車外側とに連結されルーフ外装部材とサイドボディ外装部材およびサイドボディ延長部材とが重なる領域を補強する後部補強部材を備え、ルーフ外装部材は、車両前後に延びる上面部と、上面部の後端から下方へ屈曲してハッチバックドアの上縁に対向する後面部と、後面部から後方へ屈曲してハッチバックドアの下面に沿う被覆面部とを有し、後部補強部材は、ルーフ外装部材の上面部と後面部および被覆面部に沿って屈曲して各面に接触し溶接されることを特徴とする。
【0008】
上記の後部補強部材は、ルーフ外装部材のうち、ねじり入力による負荷が特にかかりやすい、車両後部のコーナ付近を効率よく補強することができる。特に、上記の後部補強部材は、補強が必要な最小限の領域のみに設けられる小型の部材であって、車体重量およびコストをむやみに増大させるおそれがない。
【0009】
上記の後部補強部材は少なくとも、上面部に溶接される上部溶接領域と、後面部に溶接される後部溶接領域とを有し、上部溶接領域および後部溶接領域は、車両前後方向および車両幅方向において異なる位置に設けられるとよい。この構成によれば、前述のねじり入力を効率よく分散させることが可能となる。
【0010】
当該車両上部後端部材はさらに、ルーフ外装部材、後部補強部材、サイドボディ外装部材、およびサイドボディ延長部材の車内側に設置されるインナ部材を備え、インナ部材は、少なくとも後部溶接領域に溶接作業を行うための作業孔を有していて、後部溶接領域は、作業孔の中央側を向くようインナ部材に対して傾斜しているとよい。この構成によれば、後部補強部材を溶接する際の作業効率が向上し、労力およびコスト低下に資することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、コストを抑えた簡潔な構成でハッチバック車のルーフ外装部材を補強可能な車両上部後端構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態にかかる車両上部後端構造を適用した車両を示す図である。
【図2】図1の車両上部後端構造の下層の構成部材を示す図である。
【図3】図2(c)の後部補強部材の拡大図である。
【図4】図1(b)の各断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両上部後端構造100を適用した車両102を示す図である。図1(a)は、車両102を右側後方かつ上方から示した斜視図である。図1(a)では、車両102の各パネル部材で構成される基礎構造のみを表わしていて、ドアやタイヤ等の部材を省略している。なお、図1を含めた各図面では、車幅方向をX軸、車両前後方向をY軸、上下方向をZ軸で表わす。
【0015】
図1に示す車両上部後端構造100は、車両102のようなハッチバック車の後部において実施される。通常、ルーフE1とサイドボディE2との間のコーナE3には走行中にねじり入力がかかりやすい。特に、車両102のようなハッチバック車では、車両102の後部にハッチバックドア領域104が空いているために、コーナE3の後端(C部)に荷重が集中しやすい。このような荷重が集中すると、ルーフ外装部材106はゆがんでしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、以下に説明する構成によって、ルーフ外装部材を効率よく補強している。
【0016】
図1(b)は、図1(a)のC部拡大図である。本実施形態における車両上部後端構造100には、ルーフ外装部材106、サイドボディE2の外装であるサイドボディ外装部材108、およびサイドボディ外装部材108の後端近傍の車内側に連結されるサイドボディ延長部材110が含まれている。そして、これら各部材の下層には、さらに複数のパネル部材が設置されている。
【0017】
図2は、図1の車両上部後端構造100の下層の構成部材を示す図である。図2の各図は、図2(a)から図2(c)への順で、車内側(下層)から車外側(上層)へと各パネル部材を重ねている。
【0018】
図2(a)に示すように、車両上部後端構造100の下層には、大きく分けて、主にサイドボディE2(図1(a)参照)のうちリアピラー112の上部を構成するインナ部材114、およびルーフE1の後部を構成するルーフバック部材116が含まれている。インナ部材114は、後述する各パネル部材のうち最も車内側のパネル部材である。ルーフバック部材116は、その端部がインナ部材114の上、すなわち車外側に重ねられて設置される。
【0019】
図2(b)は、図2(a)の上層に重ねられる各パネル部材を表わしている。図2(b)に示すように、インナ部材114の後部側には、サイドボディ延長部材110が設置される。そして、インナ部材114およびルーフバック部材116の連結個所を覆うように、ヒンジ補強部材118が設置される。ヒンジ補強部材118は、ハッチバックドアのヒンジ(不図示)の取付領域を補強する部材である。
【0020】
図2(c)は、図2(b)の上層に重ねられる各パネル部材を表わしている。図2(c)に示すように、サイドボディ外装部材108は、インナ部材114およびサイドボディ延長部材110の前側を覆うように設置される。そして、サイドボディ延長部材110およびサイドボディ外装部材108の重なる領域には、後部補強部材120が設置される。これら各パネル部材の車外側に、図1に示したルーフ外装部材106が設置されている。このように、後部補強部材120は、ルーフ外装部材106とサイドボディ外装部材108およびサイドボディ延長部材110が重なる領域を補強する。
【0021】
図3は、図2(c)の後部補強部材120の拡大図である。後部補強部材120は立体的な形状であって、上部で車両前後左右方向に拡がる天面部122、天面部122から下方へ屈曲した縦壁部124、縦壁部124から後方へ屈曲する底部126を有している。これら各部位は、後述するように、ルーフ外装部材106に沿った形状に成形されている。
【0022】
本実施形態では、後部補強部材120には、他のパネル部材とスポット溶接するための5つの溶接領域が設定される。まず、天面部122における上部溶接領域として、第1溶接領域P1および第2溶接領域P2が設定されている。次に、縦壁部124における後部溶接領域として、第3溶接領域P3および第4溶接領域P4が設定されている。そして、底部126における底部溶接領域として、第5溶接領域P5および第6溶接領域P6が設定されている。
【0023】
図4は、図1(b)の各断面図である。図4(a)は、図1(b)のA−A断面図である。図4(a)に示すように、後部補強部材120はルーフ外装部材106の車内側、およびサイドボディ外装部材108およびサイドボディ延長部材110の車外側に沿って成形されていて、これらに連結される。
【0024】
後部補強部材120の構成を詳細に説明する。図4(a)のルーフ外装部材106の上面部128は車両前後方向に延びていて、この上面部128に沿って図3の後部補強部材120の天面部122は形成されている。そして図4(b)に示すように、後部補強部材120は第1溶接領域P1で、ルーフ外装部材106およびサイドボディ外装部材108とスポット溶接される。また、第2溶接領域P2で、ルーフ外装部材106とサイドボディ外装部材108、およびサイドボディ延長部材110とスポット溶接される。
【0025】
次に、ルーフ外装部材106は、上面部128の後端から後面部130が下方へ屈曲している。この後面部130は、ハッチバックドア(図示省略)の上縁に対向する部位である。この後面部130に沿って、図3の後部補強部材120の縦壁面は形成されている。そして図4(a)に示すように、第3溶接領域P3および第4溶接領域P4(図3参照)で、ルーフ外装部材106およびサイドボディ延長部材110とスポット溶接される。
【0026】
そして、図4(a)のルーフ外装部材106では、後面部130から後方へ屈曲してハッチバックドアの下面に沿うよう、被覆面部132が形成されている。この被覆面に沿って、図3の後部補強部材120の底部126は形成されている。そして図4(a)に示すように、第5溶接領域P5および第6溶接領域P6(図3参照)で、ルーフ外装部材106およびサイドボディ延長部材110とスポット溶接される。
【0027】
上記説明したように、後部補強部材120は、ルーフ外装部材106の上面部128と後面部130および被覆面部132に沿って屈曲して各面に接触し溶接される。特に、図3に示すように、少なくとも、上部溶接領域(第1溶接領域P1および第2溶接領域P2)と、後部溶接領域(第3溶接領域P3および第4溶接領域P4)は、車両前後方向および車両幅方向において異なる位置に設けられる。「車両前後方向において位置が異なる」とは、第1溶接領域P1・第2溶接領域P2のY座標(例えばそれら領域間の中央のY座標としてよい。以下同様)と、第2溶接領域P3・第4溶接領域P4のY座標とが異なることをいう。「車両幅方向において位置が異なる」とは、第1溶接領域P1・第2溶接領域P2のX座標と、第3溶接領域P3・第4溶接領域P4のX座標とが異なることをいう。この構成によって、後部補強部材120は走行中のねじり入力を効率よく分散させることが可能となっている。
【0028】
上記の各溶接領域のうち、図3に示す第3溶接領域P3および第4溶接領域P4への溶接作業は、図4(a)のインナ部材114に設けられた作業孔134に溶接装置136(図4(b)参照)を挿入して行われる。図4(b)は図1(b)のB−B断面図である。図4(b)に示すように、周囲の構造との兼ね合いによって作業孔134の形成範囲には限りがある。その結果、例えば第4溶接領域P4に溶接装置136を垂直に当てることが困難になるおそれがある。
【0029】
そこで本実施形態では、後部補強部材120のうち、第4溶接領域P4が設けられる縦壁部124は、作業孔134の中央側を向くようインナ部材114に対して角度θ1ほど傾斜させて形成している。この構成によれば、後部補強部材120を溶接する際にも溶接装置136を垂直に当てることが可能となる。このようにして作業効率が向上することで、労力およびコスト低下に資することが可能である。
【0030】
以上説明したように、本実施形態にかかる後部補強部材120であれば、ルーフ外装部材106のうち、ねじり入力による負荷が特にかかりやすい、車両後部のコーナE3(図1(a)参照)付近を効率よく補強することができる。特に、図3の後部補強部材120は、補強が必要な最小限の領域のみに設けられる簡潔な構成の小型の部材であって、車体重量およびコストをむやみに増大させるおそれがなく、好適である。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、ハッチバック車におけるルーフの後端のコーナ付近を構成する車両上部後端構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
E1 …ルーフ、E2 …サイドボディ、E3 …コーナ、P1〜P6 …第1〜第6溶接領域、100 …車両上部後端構造、102 …車両、104 …ハッチバックドア領域、106 …ルーフ外装部材、108 …サイドボディ外装部材、110 …サイドボディ延長部材、112 …リアピラー、114 …インナ部材、116 …ルーフバック部材、118 …ヒンジ補強部材、120 …後部補強部材、122 …天面部、124 …縦壁部、126 …底部、128 …上面部、130 …後面部、132 …被覆面部、134 …作業孔、136 …溶接装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドボディ外装部材と、
前記サイドボディ外装部材の後端近傍の車内側に連結されるサイドボディ延長部材と、
前記サイドボディ外装部材およびサイドボディ延長部材の車外側に連結されるルーフ外装部材とを備えるハッチバック車の車両上部後端構造において、
当該車両上部後端構造はさらに、前記ルーフ外装部材の車内側と前記サイドボディ外装部材およびサイドボディ延長部材の車外側とに連結され該ルーフ外装部材とサイドボディ外装部材およびサイドボディ延長部材とが重なる領域を補強する後部補強部材を備え、
前記ルーフ外装部材は、車両前後に延びる上面部と、該上面部の後端から下方へ屈曲してハッチバックドアの上縁に対向する後面部と、該後面部から後方へ屈曲して該ハッチバックドアの下面に沿う被覆面部とを有し、
前記後部補強部材は、前記ルーフ外装部材の上面部と後面部および被覆面部に沿って屈曲して各面に接触し溶接されることを特徴とする車両上部後端構造。
【請求項2】
前記後部補強部材は少なくとも、
前記上面部に溶接される上部溶接領域と、
前記後面部に溶接される後部溶接領域とを有し、
前記上部溶接領域および後部溶接領域は、車両前後方向および車両幅方向において異なる位置に設けられることを特徴とする請求項1に記載の車両上部後端構造。
【請求項3】
当該車両上部後端部材はさらに、前記ルーフ外装部材、後部補強部材、サイドボディ外装部材、およびサイドボディ延長部材の車内側に設置されるインナ部材を備え、
前記インナ部材は、少なくとも前記後部溶接領域に溶接作業を行うための作業孔を有していて、
前記後部溶接領域は、前記作業孔の中央側を向くよう前記インナ部材に対して傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載の車両上部後端構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−232702(P2012−232702A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103951(P2011−103951)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】