説明

車両制御装置

【課題】エンジン始動時のショックの発生を抑制することができる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】直噴式のエンジンと、エンジンよりも駆動輪側に配置された回転電機と、エンジンと回転電機とを断接するクラッチと、を備え、クラッチを半係合状態としてエンジンを始動する場合(S2−Y)であって、上昇中のエンジンの回転数と回転電機の回転数とが同期するときにエンジンのトルクがクラッチのトルク容量を超える(S3−Y)場合、エンジンの回転数を回転電機の回転数よりも大きな回転数まで上昇させてからクラッチを完全係合させる(S4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと回転電機とがクラッチを介して接続された車両が知られている。例えば、特許文献1には、スリップトルク制御されたクラッチがエンジン引きずりトルクを内燃機関に伝達して内燃機関をスタートする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−527411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、クラッチの制御が適切に行われないと、エンジン始動時にショックが発生してしまう虞がある。例えば、クラッチを半係合状態としてエンジンを始動する場合に、クラッチを完全係合させるタイミングが適切でないと、ショックが発生してしまうことがある。
【0005】
本発明の目的は、エンジン始動時のショックの発生を抑制することができる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御装置は、直噴式のエンジンと、前記エンジンよりも駆動輪側に配置された回転電機と、前記エンジンと前記回転電機とを断接するクラッチと、を備え、前記クラッチを半係合状態として前記エンジンを始動する場合であって、上昇中の前記エンジンの回転数と前記回転電機の回転数とが同期するときに前記エンジンのトルクが前記クラッチのトルク容量を超える場合、前記エンジンの回転数を前記回転電機の回転数よりも大きな回転数まで上昇させてから前記クラッチを完全係合させることを特徴とする。
【0007】
上記車両制御装置において、前記同期するときに前記エンジンの出力可能な最低トルクが前記クラッチのトルク容量を超える場合、前記エンジンの回転数を前記回転電機の回転数よりも大きな回転数まで上昇させてから前記クラッチを完全係合させることが好ましい。
【0008】
上記車両制御装置において、前記エンジンの回転数を前記回転電機の回転数よりも大きな回転数まで上昇させた後で、前記エンジンの回転数と前記回転電機の回転数との回転数差が減少しているときに前記クラッチを完全係合させることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両制御装置は、直噴式のエンジンと、エンジンよりも駆動輪側に配置された回転電機と、エンジンと回転電機とを断接するクラッチと、を備え、クラッチを半係合状態としてエンジンを始動する場合であって、上昇中のエンジンの回転数と回転電機の回転数とが同期するときにエンジンのトルクがクラッチのトルク容量を超える場合、エンジンの回転数を回転電機の回転数よりも大きな回転数まで上昇させてからクラッチを完全係合させる。よって、本発明に係る車両制御装置によれば、エンジン始動時のショックの発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施形態に係るエンジン始動制御を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態に係る車両の要部を示す図である。
【図3】図3は、同期時のショックの発生について説明するタイムチャートである。
【図4】図4は、実施形態に係るタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態に係る車両制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
[実施形態]
図1から図4を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御装置に関する。図1は、本発明の実施形態に係るエンジン始動制御を示すフローチャート、図2は、実施形態に係る車両の要部を示す図である。
【0013】
図2に示すハイブリッド車両100は、エンジン1、K0クラッチ2、回転電機MG、トルクコンバータ4、変速機5および駆動輪8を備える。エンジン1は、K0クラッチ2を介して回転電機MG、トルクコンバータ4、変速機5および駆動輪8と接続されている。つまり、回転電機MGは、エンジン1よりも駆動輪8側に配置されており、K0クラッチ2は、エンジン1と回転電機MGとを断接する。K0クラッチ2は、エンジン1のクランクシャフト1aと回転電機MGの回転軸3との間に介在している。K0クラッチ2は、例えば、湿式の多板式のクラッチ装置であり、係合状態でエンジン1と回転電機MGとを接続し、開放状態でエンジン1と回転電機MGとを切り離す。
【0014】
回転電機MGは、モータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。回転電機MGは、インバータを介してバッテリと接続されている。回転電機MGは、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転電機MGによって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。回転電機MGとしては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
【0015】
トルクコンバータ4は、回転電機MGよりも駆動輪8側に配置されている。トルクコンバータ4の入力軸4aは、回転電機MGの回転軸3と接続されている。トルクコンバータ4は、入力軸4aに入力されるトルクを作動流体を介して変速機5の入力軸5aに伝達することができる。また、トルクコンバータ4は、ロックアップ機構を有しており、ロックアップ状態では、入力軸4aに入力されるトルクを直接変速機5の入力軸5aに伝達する。
【0016】
変速機5は、自動変速機であり、例えば、有段の自動変速機(A/T)である。なお、これに限らず、変速機5は、無段の自動変速機(CVT)等であってもよい。変速機5の出力軸5bは、差動機構6および駆動軸7を介して駆動輪8と接続されている。
【0017】
エンジン1は、筒内に直接燃料を噴射するインジェクタと、筒内の混合気に点火する点火プラグとを有する直噴式のエンジンである。エンジン1は、燃料の燃焼エネルギをクランクシャフト1aの回転運動に変換して出力する。エンジン1の出力トルクは、K0クラッチ2、回転電機MG、トルクコンバータ4、変速機5、差動機構6および駆動軸7を介して駆動輪8に伝達される。
【0018】
ハイブリッド車両100には、電子制御ユニット(ECU)50が搭載されている。ECU50は、エンジン1の燃料噴射タイミング、燃料噴射量、点火時期などを制御可能である。また、ECU50は、K0クラッチ2、回転電機MG、トルクコンバータ4および変速機5を制御することができる。ECU50は、K0クラッチ2の開放・係合および係合度合いを制御することができる。K0クラッチ2が油圧式のアクチュエータを有するものである場合、ECU50は、供給油圧を調節することにより、K0クラッチ2の係合度合い(トルク容量)を制御する。また、ECU50は、エンジン回転数と回転電機MGの回転数とに基づいて、K0クラッチ2のスリップ制御を行うことができる。本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン1、K0クラッチ2、回転電機MGおよびECU50を備える。
【0019】
ハイブリッド車両100では、ハイブリッド走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。ハイブリッド走行とは、エンジン1、回転電機MGのうち少なくともエンジン1を動力源としてハイブリッド車両100を走行させる走行モードである。ハイブリッド走行では、エンジン1に加えて、回転電機MGを動力源とすることができる。なお、ハイブリッド走行において、回転電機MGを発電機として機能させてもよく、無負荷の状態で空転させることもできる。
【0020】
EV走行は、エンジン1を停止し、回転電機MGを動力源として走行する走行モードである。EV走行において、走行状況やバッテリの充電状態等に応じて適宜回転電機MGに発電を行わせるようにしてもよい。EV走行を行う場合、K0クラッチ2が開放され、エンジン1が停止される。
【0021】
また、ハイブリッド車両100では、エンジン1を駆動輪8から切り離して惰性によりハイブリッド車両100を走行させる惰性走行を実行することもできる。惰性走行は、例えば、加速要求がない場合や要求駆動力が小さな場合に実行される。惰性走行では、K0クラッチ2が開放され、エンジン1と回転電機MGおよび駆動輪8との動力の伝達が遮断される。つまり、駆動輪8にエンジンブレーキが作用しない状態となる。これにより、K0クラッチ2が係合されてエンジン1が駆動輪8と接続されている場合よりも、駆動輪8に対する負荷が小さくなる。惰性走行を実行することにより、軽負荷時の燃費向上を図ることができる。惰性走行時には、エンジン1を停止して燃料消費を抑制することもできる。
【0022】
EV走行からハイブリッド(HV)走行への移行時など、エンジン1を始動するときには、ECU50によりエンジン1の始動制御がなされる。本実施形態のハイブリッド車両100では、少なくとも以下の2つの始動方法が実行可能である。
【0023】
(着火始動)
着火始動とは、主としてエンジン1の燃焼により発生するエネルギーによってエンジン1の回転を開始させてエンジン1を始動させる始動方法である。本実施形態のハイブリッド車両100のエンジン1は、筒内に直接燃料が噴射される直噴式のエンジンである。従って、エンジン1が停止した状態から、筒内に燃料を供給して着火により燃焼を開始させ、エンジン1を始動することが可能である。着火始動では、K0クラッチ2を半係合状態としてエンジン1の始動をアシストすることができる。
【0024】
具体的には、ECU50は、エンジン1に対する燃料噴射および点火により始動を開始するときに、エンジン1の回転数が上昇し始めるまでは、K0クラッチ2に対する供給油圧を待機時油圧とする。待機時油圧は、K0クラッチ2を介して駆動輪8側からエンジン1に伝達されるトルクによってはエンジン1が回転し始めない油圧に設定されている。すなわち、待機時油圧は、K0クラッチ2を係合させ、かつエンジン1の自立的な回転の開始を待機するときのクラッチ油圧である。待機時油圧によってK0クラッチ2が係合し、回転電機MG側からトルクが伝達されることで、回転を開始するためのエンジン1の必要トルクが低減される。
【0025】
ECU50は、エンジン1の回転数が上昇し始めると、K0クラッチ2に対する供給油圧をアシスト時油圧に増加させる。アシスト時油圧は、待機時油圧よりも大きな油圧であり、エンジン1に対して正方向のトルクを伝達して回転上昇をアシストすることができる油圧である。また、ECU50は、エンジン回転数が回転電機MGの回転数と同期するときに、K0クラッチ2に対する供給油圧を係合油圧に増加させる。係合油圧は、アシスト時油圧よりも大きな油圧であり、K0クラッチ2を完全係合させることができる油圧である。係合油圧は、例えば、油圧源から供給されるライン圧である。K0クラッチ2が完全係合すると、着火始動は完了する。
【0026】
(K0スリップ始動)
K0スリップ始動とは、K0クラッチ2を介して伝達されるトルクによりモータリングを行い、エンジン1の回転を開始させてエンジン1を始動する始動方法である。K0スリップ始動では、エンジン1が停止した状態からK0クラッチ2に対する供給油圧をモータリング時油圧とする。モータリング時油圧は、アシスト時油圧よりも高圧であり、かつ係合油圧よりも低圧である。モータリング時油圧は、少なくとも停止しているエンジン1のフリクショントルクに抗してエンジン1の回転を開始できるだけのトルクを伝達可能な係合油圧である。また、モータリング時油圧は、K0クラッチ2が半係合状態となり、エンジン回転数を徐々に上昇させることができる係合油圧である。
【0027】
ECU50は、K0クラッチ2に対する供給油圧をモータリング時油圧とすると共に、要求駆動力に対応するトルクに加えてエンジン1のクランキングに要するトルクを回転電機MGに出力させる。これにより、K0クラッチ2を係合して回転電機MGのトルクによってクランキングしてエンジン1を始動することができる。
【0028】
回転電機MGのモータリングによりエンジン回転数が所定の回転数まで上昇すると、ECU50はエンジン1に対する燃料噴射および点火を開始し、エンジン1を始動させる。エンジン回転数が回転電機MGの回転数と同期するときに、K0クラッチ2に対する供給油圧は係合油圧とされる。K0クラッチ2が完全係合すると、K0スリップ始動は完了する。
【0029】
ECU50は、エンジン1の始動要求がある場合、着火始動が可能であれば着火始動によりエンジン1を始動し、着火始動が不可能である場合にK0スリップ始動によりエンジン1を始動する。K0スリップ始動の場合、エンジン1のモータリングに要するトルクを回転電機MGによって出力させる。従って、モータリングに必要なトルクを確保するために、回転電機MGによる走行用の出力トルクが制限される。これに対して、着火始動の場合、回転電機MGは、エンジン1の自立的な回転上昇をアシストできればよい。このことから、エンジン1の始動において着火始動を優先することにより、回転電機MGの出力トルクのうちで走行駆動に使用可能なトルクの割合を増加させることができる。よって、回転電機MGの小型化や、EV走行領域の拡大を図ることができる。
【0030】
ここで、エンジン始動時に回転電機MGの回転数Nmgとエンジン回転数Neとが同期する回転同期時に、エンジントルクとK0クラッチ2のトルク容量との関係によっては、ショックが発生してしまうことがある。具体的には、最低エンジントルクTeがK0クラッチ2のトルク容量(以下、単に「K0トルク」とも記載する。)Tk0よりも大きい場合、以下に図3を参照して説明するように、ショックが発生してしまう。図3は、同期時のショックの発生について説明するタイムチャートである。
【0031】
図3において、(a)は回転数、(b)はサージタンク圧、(c)はK0クラッチ2に対する供給油圧(以下、単に「K0油圧」とも記載する)、(d)(e)はトルク、(f)は駆動輪8に対する出力トルクを示す。破線101は回転電機MGの回転数Nmg、実線102はエンジン回転数Ne、破線103はK0トルクTk0、実線104,106は最低エンジントルクTe、破線105は回転電機MGのトルクTmgを示す。K0油圧の実線は指令値を、破線は実値をそれぞれ示す。図3には、回転電機MGの回転数Nmgが低い状態でエンジン1を始動したときのショックの発生が示されている。
【0032】
図3に示す最低エンジントルクTeは、調節可能な範囲におけるエンジン1の最低出力トルクであり、各時点においてエンジン1の出力可能な最低トルクである。最低エンジントルクTeは、例えば、エンジン1の点火時期を失火しない範囲で最も遅角側のタイミングとしたときのエンジン1の出力トルクである。
【0033】
回転電機MGの回転数Nmgが低い状態でエンジン1が始動される場合、エンジン回転数Neの上昇過程において、低い回転数で回転電機MGの回転数Nmgとエンジン回転数Neとが同期する。最低エンジントルクTe(104,106)は、回転開始直後に大きなトルクとなり、その後にサージタンク圧の減少に伴って低下していく。エンジン回転数Neが低い間は、サージタンクからエンジン1の筒内を介して空気が抜ける速度が遅いため、サージタンク圧が高く、エンジン1の吸気量が多くなる。その結果、回転電機MGの回転数Nmgが低い状態でエンジン始動されると、最低エンジントルクTeがそれほど低下していない状態で回転数が同期することになる。
【0034】
このため、図3に示すように、回転が同期する時刻t2において、最低エンジントルクTeがK0トルクTk0を上回る場合がある。この場合、エンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期するときにK0クラッチ2は完全係合できずに滑ってしまう。K0クラッチ2の滑りにより、時刻t2において回転が同期した直後にエンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgを上回る。つまり、回転が同期する前後でエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとの差回転が逆方向になる。これにより、K0クラッチ2を伝わるトルクの方向も逆転するためショックが発生してしまう。
【0035】
また、従来制御のように、エンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期したときにK0クラッチ2が完全係合したと判定してK0油圧を上げてしまうと、更なるショックを発生させてしまう。K0油圧の実値は、指令値よりも遅れて立ち上がる。このため、回転同期した時点(時刻t2)でK0油圧の指令値を上げたとしても、K0クラッチ2は滑り続け、K0油圧の実値が上昇するまでの間にエンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgを上回っている。この状態で油圧が急速に上がるため、滑りを生じていたK0クラッチ2が時刻t3に急係合することになる。このため、回転数差が逆転するときのショックに加えて、急係合によるショックが生じてしまう。
【0036】
本実施形態の車両制御装置1−1は、こうしたショックの発生を抑制できるように、上昇中のエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期するときにエンジントルクがK0クラッチ2のトルク容量を超える場合、あえてエンジン回転をふかし、エンジン回転を上から係合させる。言い換えると、エンジン回転数Neを回転電機MGの回転数Nmgよりも大きな回転数まで上昇させてからK0クラッチ2を完全係合させる。回転同期時のK0クラッチ2のトルク容量と比較するエンジントルクは、最低エンジントルクTeであっても、実際に出力するエンジントルクであってもよい。最低エンジントルクTeをK0クラッチ2のトルク容量と比較した場合には、エンジントルクの調整によってはショックの発生を抑制できない場合に限りショックを抑制するためのエンジン始動制御(後述する第二始動制御)へ移行するようにすることができる。
【0037】
図1および図4を参照して、本実施形態の動作について説明する。図4は、本実施形態に係るタイムチャートである。図4において、(a)は回転数、(b)はサージタンク圧、(c)はK0油圧、(d)(e)はトルクを示す。破線201は回転電機MGの回転数Nmg、実線202はエンジン回転数Ne、破線203はK0トルクTk0、実線204,206は最低エンジントルクTe、破線205は回転電機MGのトルクTmgを示す。なお、図示された回転電機MGのトルクTmgは、エンジン始動時のトルクの変動を補償する補償トルクとすることができる。回転電機MGは、補償トルクに加えて要求駆動力に応じたトルクを出力することが可能である。
【0038】
図4には、図3と同様に回転電機MGの回転数Nmgが低い状態でエンジン始動がなされた場合の推移が示されている。エンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgと同期する時刻t5では、最低エンジントルクTeがK0トルクTk0を上回っている。
【0039】
図1に示す制御フローは、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。まず、ステップS1では、ECU50により、エンジン始動中であるか否かが判定される。その判定の結果、エンジン始動中であると判定された場合(ステップS1−Y)にはステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)には本制御フローは終了する。
【0040】
ステップS2では、ECU50により、走行レンジ始動中であるか否かが判定される。ステップS2では、K0クラッチ2が滑っている状態からエンジン1を始動しているかが判定される。ハイブリッド車両100の停車中にエンジン1が始動される場合は、K0クラッチ2が滑っている状態からのエンジン始動がなされないことがある。例えば、シフトポジションがPレンジでエンジン始動がなされる場合、電動オイルポンプの油圧によってK0クラッチ2を完全係合させてから回転電機MGによるクランキングによってエンジン1が始動される。この場合、K0トルクTk0が十分な大きさである状態からエンジン1が始動されるため、K0クラッチ2の滑りは発生せず、始動時のショックも発生しない。
【0041】
一方で、シフトポジションが走行レンジでエンジン始動がなされる場合、着火始動やK0スリップ始動において、K0クラッチ2が滑っている状態からエンジン1が始動される。ECU50は、変速機5において選択されているシフトポジションが前進走行用のレンジである場合にステップS2で肯定判定を行い、選択されているシフトポジションがPレンジ、Rレンジ、Nレンジ等の前進走行用以外のシフトポジションである場合はステップS2で否定判定を行う。ステップS2の判定の結果、走行レンジ始動中であると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)には本制御フローは終了する。
【0042】
ステップS3では、ECU50により、モータ回転数が閾値以下であるか否かが判定される。ECU50は、モータ回転数(回転電機MGの回転数Nmg)が予め定められた閾値以下であるか否かを判定する。モータ回転数が低い場合、エンジン1の始動開始から短い時間でエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期してしまう。ステップS3の閾値は、回転同期する時点でK0トルクTk0が最低エンジントルクTeを下回っているか否かを判定することができる値である。つまり、ステップS3では、エンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期する時点でK0トルクTk0が最低エンジントルクTeを下回っているか否かが予測される。
【0043】
この閾値は、実験結果等に基づいて予め定められることができ、エンジン冷却水温やK0クラッチ2の油温等に応じて可変とされてもよい。閾値は、エンジン1のアイドル回転数やアイドル回転数の近傍の回転数とされてもよい。ステップS3の判定の結果、モータ回転数が閾値以下であると判定された場合(ステップS3−Y)にはステップS4に進み、そうでない場合(ステップS3−N)にはステップS5に進む。
【0044】
なお、ステップS3では、モータ回転数に基づく判定に代えて、エンジントルクTeおよびK0トルクTk0のそれぞれの推移予測に基づく判定がなされてもよい。K0トルクTk0の推移予測は、K0トルクTk0の実値や指令値に基づいて算出可能である。この場合、ECU50は、エンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgと同期する時点でエンジントルクTeの予測値がK0トルクTk0の予測値を上回る場合にステップS3で肯定判定を行う。
【0045】
ステップS4では、ECU50により、第二始動制御が選択される。ECU50は、着火始動において、第一始動制御あるいは第二始動制御を実行可能である。第一始動制御は、エンジン始動時のエンジン回転数Neの上昇過程でエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期するときにK0クラッチ2を完全係合させる制御である。一方、第二始動制御は、エンジン始動時にエンジン回転数Neを一度回転電機MGの回転数Nmgよりも高回転まで上昇させてからK0クラッチ2を完全係合させる制御である。ステップS3で肯定判定がなされた場合、回転同期時の最低エンジントルクTeがK0トルクTk0よりも大きいままであり、第一始動制御ではショックが発生してしまうと予測されるため、ステップS4の第二始動制御が選択される。
【0046】
ECU50は、エンジン1の始動時に、エンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgよりも高い回転数まで上昇することを許容するようにK0トルクTk0を調節する。例えば、ECU50は、少なくともエンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgを上回るまで、K0油圧をアシスト時油圧P1に維持する。このように、本実施形態では、エンジン回転数Neをあえて回転電機MGの回転数Nmgよりも大きな回転数まで上昇させ、その後にK0クラッチ2を完全係合させる。これにより、K0クラッチ2の差回転が逆転するときのショックの発生を抑制することができる。回転同期する時刻t5においてK0油圧を急上昇させないことで、トルクの伝達方向が逆転するときのショックが抑制される。なお、K0クラッチ2の差回転が逆転する時刻t5において、一時的にK0油圧を低下させてショックを抑制するようにしてもよい。
【0047】
ECU50は、上昇するエンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgと同期すると、K0油圧をスィープアップさせる。これにより、時刻t5からK0トルクTk0は漸増する。時刻t5からt6の間は、エンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgを上回って推移する。この間に、エンジン回転数Neがピークを打って減少に転じ、エンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとの差回転の大きさが減少し始める。また、時刻t5からt6の間において、K0トルクTk0と最低エンジントルクTeとの大小関係が逆転し、K0トルクTk0が最低エンジントルクTeを上回る。そして、時刻t6においてエンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgと同期する。この時刻t6では、最低エンジントルクTeをK0トルクTk0が上回っているため、K0クラッチ2が完全係合し、以後はエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが一致した状態に維持される。ECU50は、K0クラッチ2の完全係合と同期して、あるいは完全係合後にK0油圧を係合油圧P2に増加させる。
【0048】
また、ECU50は、回転電機MGのトルクTmgを制御する。ECU50は、エンジン1の始動時に回転電機MGにトルクを出力させて始動をアシストする。ECU50は、例えば、エンジン1の始動を開始する時刻t4からエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが最初に同期する時刻t5までの間は、回転電機MGに正のトルクを出力させる。これにより、K0クラッチ2を介して伝達される回転電機MGのトルクによって、エンジン1の回転開始に対する抵抗を低減させることができる。また、エンジン1の回転が開始した後は、回転電機MGのトルクによってエンジン1の回転数の上昇がアシストされる。
【0049】
ECU50は、時刻t5においてエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期すると、回転電機MGの出力トルクを負のトルクに変更する。エンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとの大小関係が入れ替わることで、K0クラッチ2が伝達するトルクの方向が逆転する。ECU50は、このトルクの伝達方向の逆転に対して回転電機MGのトルクTmgの正負を逆転させることでトルクの変動を吸収し、ショックの発生を抑制する。このときの回転電機MGのトルクTmgの変化量は、変化前の正のトルクの大きさと変化後の負のトルクの大きさとが等しくなるものとすることができる。回転電機MGは、回生発電を行って負トルクを発生させる。
【0050】
ECU50は、時刻t6においてエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期してK0クラッチ2が完全係合すると、回転電機MGの負トルクの大きさを減少させる。ECU50は、エンジン1の始動が完了してエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期し、K0クラッチ2が完全係合すると、第二始動制御を終了する。ステップS4が実行されると、本制御フローは終了する。
【0051】
ステップS5では、ECU50により、第一始動制御が選択される。ECU50は、図3を参照して説明したように、エンジン回転数Neが上昇して最初にエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期するときにK0クラッチ2を完全係合させる。ステップS5が実行されると、本制御フローは終了する。
【0052】
なお、時刻t5において最初にエンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgと同期したときに、エンジン回転数Neが吹き上がらずにK0クラッチ2が完全係合してしまうことがある。このことを回転変化から推定して回転電機MGを制御すると、処理遅れや回転計測誤差等の判定遅れが生じて、トルクを適切に補償できずにショックとなってしまう虞がある。そのため、回転電機MGのトルクTmgは、K0トルクTk0あるいはエンジン1の出力トルクTengのいずれか小さいトルクを基準に補償させることが好ましい。すなわち、下記式(1)に基づいて回転電機MGのトルクTmgを算出することが好ましい。
Tmg = −MIN(Tk0、Teng) …(1)
ここで、エンジン1の出力トルクTengは、実際のエンジン1の出力トルクとされるが、これに代えて最低エンジントルクTeとされてもよい。
【0053】
このように、エンジン1の出力トルクTengとK0トルクTk0から最小値選択されたトルクに基づいて回転電機MGの補償トルクを決定することで、エンジン1の出力トルクTengがK0トルクTk0を上回っている間は、K0トルクTk0が回転電機MGによって補償される。一方、K0トルクTk0がエンジン1の出力トルクTengを上回ると、エンジン1の出力トルクTengが回転電機MGによって補償される。これにより、K0クラッチ2の伝達トルクに応じて適切なトルクを回転電機MGに出力させることができ、ショックの発生を抑制することができる。
【0054】
本実施形態の車両制御装置1−1によれば、K0クラッチ2の回転同期からの完全係合に移行する際、K0クラッチ2が滑ってショックが発生することが抑制される。ショックを抑制する方法として、着火始動時のK0トルクTk0を大きな値としてK0クラッチ2の滑りを抑制することも考えられるが、この方法では燃費が低下してしまうという問題がある。本実施形態の車両制御装置1−1のエンジン始動制御によれば、燃費の低下を抑制しつつショックの発生を抑制可能である。
【0055】
なお、本実施形態のエンジン始動制御は、着火始動時に限らずK0スリップ始動時等に実行されてもよい。着火始動時にはエンジン回転数Neの立ち上がり速度が速くなるため、本実施形態のエンジン始動制御が利点を発揮しやすいといえる。また、直噴式のエンジンに代えて、ポート噴射式のエンジンを搭載した車両で本実施形態のエンジン始動制御がなされてもよい。
【0056】
本実施形態では、エンジン回転数Neを回転電機MGの回転数Nmgよりも大きな回転数まで上昇させてから、最初にエンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgと同期するときにK0クラッチ2を完全係合させたが、K0クラッチ2を完全係合させるタイミングは、これには限定されない。
【0057】
K0クラッチ2の完全係合は、例えば、エンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとの差回転(回転数差)が減少しているとき、すなわちエンジン回転数Neが回転電機MGの回転数Nmgを上回り、かつ両者の回転数が近づいているときになされることが好ましい。このようにすれば、完全係合するときのショックが抑制される。
【0058】
また、K0クラッチ2の完全係合は、最低エンジントルクTeがK0トルクTk0以下となってからなされることが好ましい。このようにすれば、K0クラッチ2が滑ることによるショックの発生が抑制される。
【0059】
[実施形態の変形例]
実施形態の変形例について説明する。上記実施形態のエンジン始動制御に加えてK0クラッチ2を完全係合するときにフューエルカットを行うようにしてもよい。これにより、ショックの発生を更に抑制できるという利点がある。
【0060】
図4を参照して説明すると、上記実施形態と同様に、ECU50は、エンジン回転数Neを回転電機MGの回転数Nmgよりも大きな回転数まで上昇させた後でK0クラッチ2を完全係合させる。本変形例では、ECU50は、K0クラッチ2が完全係合するとき、すなわちエンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期するときに、エンジン1に対する燃料の供給を停止するフューエルカットを実行する。ECU50は、例えば、エンジン回転数Neと回転電機MGの回転数Nmgとが同期するタイミングを予測し、回転同期するタイミング以前にフューエルカットが開始されるように燃料の噴射制御を行う。
【0061】
また、ECU50は、回転同期タイミングにおいてK0クラッチ2が完全係合するようにK0クラッチ2に対する供給油圧を制御してもよい。ECU50は、例えば、同期タイミングにおいてK0油圧の実値が係合油圧となるようにK0油圧の指令値を出力するようにしてもよい。ECU50は、K0クラッチ2が完全係合すると、フューエルカットを終了し、エンジン1に対する燃料供給を再開する。このように、K0クラッチ2の完全係合のタイミングに合わせてフューエルカットが実施されることで、ショックの発生が抑制される。
【0062】
上記の実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0063】
1−1 車両制御装置
1 エンジン
2 K0クラッチ
8 駆動輪
50 ECU
100 ハイブリッド車両
Tk0 K0クラッチのトルク容量(クラッチトルク)
Te エンジンのトルク
Tmg 回転電機のトルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直噴式のエンジンと、
前記エンジンよりも駆動輪側に配置された回転電機と、
前記エンジンと前記回転電機とを断接するクラッチと、
を備え、
前記クラッチを半係合状態として前記エンジンを始動する場合であって、上昇中の前記エンジンの回転数と前記回転電機の回転数とが同期するときに前記エンジンのトルクが前記クラッチのトルク容量を超える場合、前記エンジンの回転数を前記回転電機の回転数よりも大きな回転数まで上昇させてから前記クラッチを完全係合させる
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記同期するときに前記エンジンの出力可能な最低トルクが前記クラッチのトルク容量を超える場合、前記エンジンの回転数を前記回転電機の回転数よりも大きな回転数まで上昇させてから前記クラッチを完全係合させる
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの回転数を前記回転電機の回転数よりも大きな回転数まで上昇させた後で、前記エンジンの回転数と前記回転電機の回転数との回転数差が減少しているときに前記クラッチを完全係合させる
請求項1または2に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95161(P2013−95161A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236516(P2011−236516)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】