説明

車両前部構造

【課題】熱交換器の冷却効率の低下を抑制しながら吸気取入口に水が入るのを抑制することが可能な構造を得る。
【解決手段】左右両側のエアガイド4L,4Rのうちいずれか一方のエアガイド4Lのみの下部に排水口12を設けるとともに、吸気取入口14を、熱交換器3の左右方向中心Cに対して排水口12を設けたエアガイド4L寄りに配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両前部に熱交換器を立てた姿勢で配置した構造において、熱交換器の上に、エンジンの吸気を取り入れる吸気取入口を設けたものが知られている(特許文献1)。
【0003】
一方、熱交換器における空気による冷却効率の向上を図るため、熱交換器の左右両側部から前方に向けて板状のエアガイドを設けた構造が知られている(特許文献2)。
【0004】
特許文献2のようなエアガイドを設けた構造では、熱交換器の前に、エアガイドや熱交換器で囲まれた空間が形成される。この空間には、雨水等の水が溜まる場合があるが、水が大量に溜まった場合には、エンジンの吸気取入口に水が入ってしまう虞がある。
【0005】
その対策として、エアガイドに排水口を設け、溜まった水を排出するようにした構造が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平10−213033号公報
【特許文献2】特開2006−205961号公報
【特許文献3】特許第3726320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エアガイドに排水口を設けると、その排水口から空気がエアガイドの側外方に漏れることになるため、その分、空気による熱交換器の冷却効率が低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、熱交換器の冷却効率の低下を抑制しながら吸気取入口に水が入るのを抑制することが可能な構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にあっては、熱交換器の前側で左右両側に設けたエアガイドのうちいずれか一方のみの下部に排水口を設け、吸気取入口を、ラジエータの左右方向中心に対して排水口を設けたエアガイド寄りに配置したことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、左右のエアガイドのうち一方のみに排水口を設けたため、左右のエアガイドの双方に排水口を設けた場合に比べて、排水口からの空気の漏れを抑制して冷却効率の低下を抑制できる。また、排水口を設けた側は、他方に比べて溜まった水の水面が低くなるため、吸気取入口に水が入るのを抑制できる。したがって、本発明によれば、冷却効率の低下を抑制しながら吸気取入口に水が入るのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる車両前部構造の分解斜視図、図2は、車両前部構造を側方から見た縦断面図である。なお、各図中、UPは上方、FRは前方、LHは左方(車幅方向左舷側)を示すものとする。
【0011】
本実施形態にかかる車両前部構造1では、車幅方向(左右方向)に沿って、ラジエータコアサポート2が架設されており、このラジエータコアサポート2に、熱交換器3が取り付けられている。熱交換器3には、エンジン等の駆動装置(図示せず)の冷却水を冷却するラジエータや、空調装置用のコンデンサ等が含まれており、これらを前後に複数積層して設ける場合が多い。ラジエータコアサポート2は、熱交換器3の上側で車幅方向に架設されるラジエータコアアッパ2aや、熱交換器3の左右両側で上下に延設されるラジエータコアサイド2bを有して構成されている。
【0012】
熱交換器3は、冷媒を通流させるパイプや、放熱用のフィンを有している(いずれも図示せず)。これらパイプやフィンは、いずれも薄く(車両前後方向に直交する方向に薄く)形成されており、それらパイプやフィン間の隙間を介して熱交換器3の前面3a側から後面(図示せず)側に空気を通過させることで、空気によってパイプ内の冷媒を冷却するものである。
【0013】
熱交換器3は、正面視で略矩形の外形状を有しており、立てた姿勢で配置されている。そして、その左右両側部からは、板状のエアガイド4L,4Rがそれぞれ前方に向けて立設されている。本実施形態では、これらエアガイド4L,4Rは、熱交換器3の両側部で上下に伸びるラジエータコアサイド2bに取り付けられており、車幅方向(左右方向)と略垂直な姿勢で、車両前後方向および上下方向に略沿って配置されている。また、左右のエアガイド4L,4Rは、相互に略平行に設置されている。
【0014】
熱交換器3の前方には、間隔をあけて、バンパ5が、車幅方向(左右方向)に架設されている。エアガイド4L,4Rには、前方に向けて開放された略矩形状の切欠4aが形成されており、バンパ5はこの切欠4a内に挿入されている。
【0015】
バンパ5を前方から被覆する最外層としてのバンパカバー6には、熱交換器3を通過させる空気を取り入れる空気取入口7が形成されている。本実施形態では、空気取入口7は横に細長い形状となっている。
【0016】
空気取入口7と熱交換器3との間の空気通路は、左右のエアガイド4L,4R、グリル8、フロアカバー9等によって囲まれて形成される。左右のエアガイド4L,4Rは、空気取入口7から熱交換器3までの空気通路において、側壁を成している。
【0017】
熱交換器3の背後には、電動ファン10が設置されている。電動ファン10は、前方から後方へ空気を送風する軸流ファンとして構成されており、熱交換器3を通過する空気の流速を増大させるものである。なお、11は、ファンシュラウドである。
【0018】
ここで、本実施形態では、左右両側のエアガイド4L,4Rのうちいずれか一方のエアガイド4L(本実施形態では左舷側のエアガイド4L)のみの下部に、排水口12を設けてある。かかる排水口12を設けたことで、熱交換器3の前に形成されるエアガイド4L,4Rで左右両側を囲まれた空間に水が溜まった場合に、その水を、排水口12からエアガイド4Lの側外方に排出することができる。ただし、むやみに排水口12を設けると、排水口12から空気が漏洩し、熱交換器3側への空気流量が少なくなって、熱交換器3における空気による冷却効率が低下してしまう。この点、本実施形態では、左右両側のエアガイド4L,4Rのうち、いずれか一方のエアガイド4Lにのみ排水口12を設けたため、左右のエアガイド4L,4Rの双方に排水口を設けた場合に比べて、冷却効率の低下を抑制している。なお、排水口12から排出された水は、フロアカバー9上に形成された開口部13から下方に排出される。
【0019】
また、本実施形態では、エアガイド4Lの下端部の前部を切り欠くことで排水口12を設けてある。このため、排水口12が設けられる側(本実施形態では左舷側)の熱交換器3の下部においても、その直前部分においてエアガイド4Lによる空気のガイド効果を確保し、空気による冷却効率が低下するのを抑制することができる。
【0020】
そして、本実施形態では、熱交換器3の上側で横架しているラジエータコアアッパ2aに、エンジン(図示せず)の吸気を取り入れる吸気取入口14を設けてある。このとき、本実施形態では、図1に示すように、吸気取入口14を、熱交換器3の左右方向中心Cに対して、排水口12を設けたエアガイド4L側に寄せて配設してある。排水口12を設けた側は、排水口12を設けない側に比べて、溜まった水の水位が低くなる。すなわち、本実施形態のように、熱交換器3の左右方向中心Cに対して、排水口12を設けた側に寄せて吸気取入口14を設けることで、吸気取入口14に水が入るのを抑制することができる。なお、図中、15はダクトである。
【0021】
また、本実施形態では、図2に示すように、排水口12の前後の開口幅(前後幅)wを上下に変化させることで、当該排水口12からの空気漏れの低減を図っている。すなわち、排水口12の開口幅wを下方に向かうほど大きく、上方に向かうほど小さくするとともに、排水口12の端縁12aを前部が下方へ凸で後部が上方へ凸となる略S字状にカーブさせ、排水口12の開口幅wの下方から上方に向けての減少率を、上下方向の位置によって変化させている。これは、熱交換器3の前面における空気の圧力が、下方ほど低くかつ上方ほど高くなっており、圧力分布のプロファイルが下方位置から上方位置に向けて略S字状に増大する傾向にあることに注目して、排水口12の開口幅w(本実施形態では、端縁12aの形状)をこの圧力分布のプロファイル(略S字形状)に適合させたものである。すなわち、空気の圧力が高いほど空気の漏れが大きくなるため、空気の圧力が高い位置では開口幅を狭くし、空気の圧力が低い位置では開口幅wを広くしたのである。
【0022】
図3は、排水口の形状を熱交換器前面での上下方向の各位置での圧力分布に対応付けて模式的に示した図であって、(a)は圧力分布を、(b)および(c)は排水口の形状を示している。図3において、排水口12の下端部から上方に向かう位置座標をyで示し、圧力をp、開口幅(前後幅)をwで示している。
【0023】
この図3に示すように、本実施形態では、熱交換器3の前面3aの圧力分布は、下方から上方に向かうにつれて前部が下方へ凸で後部が上方へ凸となる略S字状に増大している。すなわち、排水口12の下側の位置y1から中間の位置y2(変曲点)にかけては、下方から上方に向かうにつれて圧力pの増加率(すなわちdp/dy)が増大し、中間の位置y2から排水口12の上側の位置y3にかけては、下方から上方に向かうにつれて圧力pの増加率(dp/dy)が減少している。
【0024】
このような圧力分布のプロファイルに対応して、本実施形態では、排水口12の前後方向の開口幅(前後幅)wを、次のように設定している。すなわち、下側の位置y1から中間の位置y2(変曲点)にかけては、下方から上方に向かうにつれて開口幅wの減少率(すなわち−dw/dy)を増大させ、中間の位置y2から排水口12の上側の位置y3にかけては、下方から上方に向かうにつれて開口幅wの減少率(−dw/dy)を減少させている。
【0025】
すなわち、本実施形態では、圧力pが高い位置では開口幅wを狭くし、圧力pが低い位置では開口幅wを広くすることで、排水口12からの空気の漏れを抑制することができる。なお、水は重力によって下方に向けて流れるため、このような形状としても、排水口12からの排水性には殆ど影響が無い。
【0026】
また、図3の(a)に示す圧力分布は、排水口12の上下方向の中間領域Y2における圧力pの増大率(dp/dy)が、中間領域Y2より下側の下部領域Y1における圧力pの増大率(dp/dy)、ならびに、中間領域Y2より上側の上部領域Y3における圧力pの増大率(dp/dy)より大きくなっていると言うことができる。
【0027】
したがって、これに対応して、排水口12の中間領域Y2における開口幅wの下方から上方に向けての減少率(−dw/dy)を、当該中間領域Y2より下部領域Y1における開口幅wの下方から上方に向けての減少率(−dw/dy)、および当該中間領域Y2より上部領域Y3における開口幅wの下方から上方に向けての減少率(−dw/dy)よりも大きく設定している。
【0028】
なお、開口幅wの変化は、圧力分布のプロファイルと完全に一致させる必要はなく、一例としては、図3の(c)に示すように、折れ線状のプロファイルを有するものとしてもよい。
【0029】
さらに、本実施形態では、図2に示すように、空気取入口7の上下方向の中心Mが、電動ファン10の前面側の負圧最大位置Pmの下端Pm1よりも下方に位置するように構成してある。電動ファン10を構成する複数の羽根10aのそれぞれにおいて、羽根10aの負圧最大位置Pmは、回転中心Axと羽根10aの径方向外側の端部(翼端部)10bとの間に位置する。ただし、どの位置を負圧最大位置Pmとするかは、羽根10aの形状等によって変更することができる。電動ファン10において羽根10aは回転するため、電動ファン10の負圧最大位置Pmは、その回転中心Ax回りに円周状に配置されることになる。よって、負圧最大位置Pmの下端Pm1に対して、空気取入口7の上下方向の中心Mを下方に位置するようにすれば、空気取入口7から流入してバンパ5の下側を流れる空気流は、全体的に、熱交換器3および電動ファン10に向けて上昇する向きの流れとなり、これに伴って、熱交換器3の前面における圧力最大位置Pp(図3)も、より上方に位置させることができる。すなわち、かかる構成によれば、圧力最大位置Ppをより上方に位置させたことに伴って、熱交換器3の下端部に形成された排水口12近傍での圧力を低下させ、当該排水口12からの空気の漏れを減らして、熱交換器3における空気による冷却効率の低下を抑制することができる。
【0030】
以上、説明したように、本実施形態では、左右両側のエアガイド4L,4Rのうちいずれか一方のエアガイド4Lのみの下部に排水口12を設けるとともに、吸気取入口14を、熱交換器3の左右方向中心Cに対して排水口12を設けたエアガイド4L寄りに配置した。このため、左右両方のエアガイド4L,4Rに排水口12を設けた場合に比べて、排水口12からの空気の漏れを抑制して冷却効率の低下を抑制できる。また、排水口12を設けた側は、溜まった水の水面が低くなるため、吸気取入口14に水が入るのを抑制できる。このため、冷却効率の低下を抑制しながら吸気取入口14に水が入るのを抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態では、排水口12の開口幅(前後幅)wは下方に向かうほど広くなっており、開口幅wの下方から上方に向けての減少率(−dw/dy)が下方から上方に向かうにつれて増大する領域(y1〜y2)を設け、その領域(y1〜y2)の上部に、当該減少率(−dw/dy)が下方から上方に向かうにつれて減少する領域(y2〜y3)を設けた。すなわち、開口幅wを圧力分布のプロファイルに対応して上下方向に変化させ、圧力pがより低い位置で開口幅wを広くするようにしたため、空気が排水口12から側外方に漏れるのを抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態では、排水口12の開口幅(前後幅)wは下方に向かうほど広くなっており、排水口12の上下方向中間部に、その上部領域Y3および下部領域Y1に比べて、開口幅wの下方から上方に向けての減少率(−dw/dy)が大きい中間領域Y2を設けた。すなわち、開口幅wを圧力分布のプロファイルに対応して上下方向に変化させ、圧力pがより低い位置で開口幅wを広くするようにしたため、空気が排水口12から側外方に漏れるのを抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態では、空気取入口7の上下方向の中心Mが、電動ファン10の前面側の負圧最大位置の下端Pm1よりも下方に位置するように構成した。このため、熱交換器3の前面における圧力最大位置Ppをより上方に配置して、排水口12を設けた熱交換器3の下端部近傍における圧力を低下させ、当該排水口12からの空気の漏れを減らして、熱交換器3における空気による冷却効率の低下を抑制することができる。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。例えば、エアガイドの排水口の形状は、上記実施形態で例示したものには限定されず、上述した前後幅の変化形態を満足するものであれば、同様の効果を得ることができる。また、右側のエアガイドに排水口を設定し、吸気取入口を右側に寄せて設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両前部構造の分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる車両前部構造を側方から見た縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる車両前部構造の熱交換器の前面における圧力分布と、開口幅の変化を対応付けて示す模式図であって、(a)は圧力分布、(b)および(c)は開口幅を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 車両前部構造
2b ラジエータコアサイド(左右両側部)
3 熱交換器
4L,4R エアガイド
5 バンパ
6 バンパカバー
7 空気取入口
10 電動ファン
12 排水口
14 吸気取入口
C 左右方向中心
M 空気取入口の上下方向の中心
Pm1 負圧最大位置の下端
w 開口幅(前後幅)
(y1〜y2) 開口幅の下方から上方に向けての減少率が下方から上方に向かうにつれて増大する領域
(y2〜y3) 開口幅の下方から上方に向けての減少率が下方から上方に向かうにつれて減少する領域
Y1 下部領域
Y2 中間領域(上部領域および下部領域に比べて、前後幅の下方から上方に向けての減少率が大きい領域)
Y3 上部領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に立てた姿勢で配置された熱交換器の左右両側部から前方に向けて板状のエアガイドを立設するとともに、当該熱交換器の上にエンジンの吸気取入口を設けた車両前部構造において、
左右両側の前記エアガイドのうちいずれか一方のみの下部に排水口を設けるとともに、前記吸気取入口を、熱交換器の左右方向中心に対して前記排水口を設けた前記エアガイド寄りに配置したことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記排水口の前後幅は下方に向かうほど広くなっており、
前記排水口に、前後幅の下方から上方に向けての減少率が下方から上方に向かうにつれて増大する領域と、その領域の上部で当該減少率が下方から上方に向かうにつれて減少する領域と、を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記排水口の前後幅は下方に向かうほど広くなっており、
前記排水口の上下方向中間部に、その上部領域および下部領域に比べて、前後幅の下方から上方に向けての減少率が大きい領域を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項4】
熱交換器の背後に電動ファンを設け、
熱交換器より前方に配置されたバンパカバーに当該熱交換器を通過させる空気を取り入れる空気取入口を形成し、
前記空気取入口の上下方向の中心が、前記電動ファンの前面側の負圧最大位置の下端よりも下方に位置するように構成したことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一つに記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−154579(P2009−154579A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332175(P2007−332175)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】