説明

車両前部構造

【課題】通常使用時における仕切壁の姿勢を保持しながら、車両前方斜め上方側から所定値以上の荷重が作用した際には仕切壁による抵抗力を抑えることができる車両前部構造を得る。
【解決手段】カウル12には、カウル空間25を仕切る遮蔽板40が取り付けられている。遮蔽板40は、仕切面40Aに沿った一方向(矢印C方向参照)の剛性が仕切面40Aに沿って前記一方向に直交する方向(矢印D方向参照)の剛性よりも高い異方性材料で形成されており、仕切面40Aの対向方向に見て、車両後下方へ向けた方向(矢印F方向参照)に対して、一方向(矢印C方向参照)が直交状となるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気通路が仕切壁によって仕切られた車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部においては、例えば、カウル空間を仕切壁で車両幅方向に仕切る構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構造では、例えば、通常使用時における仕切壁の姿勢を保持しながら、上方側から所定値以上の荷重が作用した際には仕切壁による抵抗力を抑えるために、予め仕切壁を斜めに傾けた状態でカウル本体に取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−56106公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この構造では、仕切壁を傾けた側とは反対側に仕切壁を倒そうとする荷重が上方側から作用した場合に、仕切壁による抵抗力が増す可能性があるので、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、通常使用時における仕切壁の姿勢を保持しながら、車両前方斜め上方側から所定値以上の荷重が作用した際には仕切壁による抵抗力を抑えることができる車両前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明の車両前部構造は、車両前部に設けられて空気通路を形成する通路形成部と、前記通路形成部に取り付けられて前記空気通路を仕切ると共に、仕切面に沿った一方向の剛性が前記仕切面に沿って前記一方向に直交する方向の剛性よりも高い異方性材料で形成され、前記仕切面の対向方向に見て、車両後下方へ向けた方向に対して、前記一方向が直交状となるように設定された仕切壁と、を有する。
【0007】
請求項1に記載する本発明の車両前部構造によれば、車両前部に設けられた通路形成部の空気通路が仕切壁によって仕切られる。ここで、通路形成部に取り付けられた仕切壁は、仕切面に沿った一方向の剛性が仕切面に沿って一方向に直交する方向の剛性よりも高い異方性材料で形成され、仕切面の対向方向に見て、車両後下方へ向けた方向に対して、一方向が直交状となるように設定されている。このため、仕切壁に対して車両後下方へ向けた荷重が作用した場合、仕切壁は容易に変形する。一方、車両後下方へ向けた荷重が作用しない場合、通路形成部に取り付けられた仕切壁は容易には変形せず仕切位置に保持される。
【0008】
請求項2に記載する本発明の車両前部構造は、請求項1記載の構成において、前記異方性材料は、互いに対向して配置される一対の平板部と、前記平板部同士を連結する共に前記一方向に沿って延在した複数の連結部と、を含んで構成された樹脂製の板状体とされている。
【0009】
請求項2に記載する本発明の車両前部構造によれば、異方性材料は、樹脂製の板状体となっており、互いに対向して配置される一対の平板部が一方向に沿って延在した複数の連結部によって連結されているので、剛性の異方性が容易に確保される。また、平板部同士の間に空気層が形成できるので、仕切壁によって熱の伝導が抑えられる。
【0010】
請求項3に記載する本発明の車両前部構造は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記通路形成部は、フロントガラスの下方側に車両幅方向に沿って設けられてカウル空間を形成するカウルとされ、前記仕切壁は、前記カウル空間内に車両前後方向に沿って設けられて前記カウル空間を車両幅方向に仕切っている。
【0011】
請求項3に記載する本発明の車両前部構造によれば、車両幅方向に沿って設けられたカウル空間が、車両前後方向に沿って設けられた仕切壁によって車両幅方向に仕切られており、仕切壁に対して車両後下方へ向けた荷重が作用した場合、仕切壁は、車両幅方向の左右両側へ変形し得る。
【0012】
請求項4に記載する本発明の車両前部構造は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記通路形成部は、車両前部の側面を構成するフェンダパネルと前記フェンダパネルの車両幅方向内側に配置される内側部材とを含んで構成され、前記仕切壁は、前記フェンダパネルと前記内側部材とで形成される空気通路内に車両幅方向に沿って設けられて前記空気通路を車両前後方向に仕切っている。
【0013】
請求項4に記載する本発明の車両前部構造によれば、フェンダパネルと内側部材とで形成される空気通路が、車両幅方向に沿って設けられた仕切壁によって車両前後方向に仕切られており、仕切壁に対して車両後下方へ向けた荷重が作用した場合、仕切壁は、車両後方側へ容易に変形する。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両前部構造によれば、通常使用時における仕切壁の姿勢を保持しながら、車両前方斜め上方側から所定値以上の荷重が作用した際には仕切壁による抵抗力を抑えることができるという優れた効果を有する。
【0015】
請求項2に記載の車両前部構造によれば、仕切壁内の空気層によって熱の伝導を抑えることができるという優れた効果を有する。
【0016】
請求項3に記載の車両前部構造によれば、仕切壁に対して車両後下方へ向けた荷重が作用した場合、仕切壁が車両幅方向の左右両側へ変形し得るという優れた効果を有する。
【0017】
請求項4に記載の車両前部構造によれば、仕切壁に対して車両後下方へ向けた荷重が作用した場合、仕切壁を車両後方側へ容易に変形させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造を一部分解した状態で示す分解斜視図である。
【図2】図1の2−2線に沿った拡大断面図である。
【図3】図2の遮蔽板を車両正面視で示す模式的な正面図である。
【図4】図2の遮蔽板を構成する樹脂製の板状体を示す図である。図4(A)は板状体の側面図である。図4(B)は板状体の正面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る車両前部構造を示し、図1の5−5線に沿った拡大断面図に相当する断面図である。
【図6】図5の遮蔽板を車両側面視で示す模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造について図1〜図4を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0020】
図1には、本発明の一実施形態に係る車両前部構造が一部分解された状態の分解斜視図にて示されている。図2には、図1の2−2線に沿った拡大断面図が示されている。
【0021】
これらの図に示されるように、本実施形態に係る車両(自動車)には、フロントガラス(フロントウインドシールドガラス)10とフード(エンジンフード)30(図2参照)との間に通路形成部としてのカウル12が設けられている。カウル12は、車両前部において、フロントガラス10の前端縁部10Aの下方側に車両幅方向に沿って配置されている。
【0022】
図2に示されるように、カウル12は、カウル本体14及びカウルルーバ28を含んで構成されている。カウル本体14は、カウルロア16、カウルインナ22及びカウルアウタ24を備えている。カウルロア16は、エンジンルーム18とキャビン(車室)20とを隔成するダッシュパネル19の上端部にカウルインナ22の下端部22Bを介して連結されている。すなわち、カウルロア16の下壁部16Aの後端部には、車体斜め上側後方に向かってフランジ16Bが形成され、このフランジ16Bがカウルインナ22の下端部22Bの前面に結合されると共に、カウルインナ22の下端部22Bの後面がダッシュパネル19の上端部に結合されている。
【0023】
図1に示されるように、カウルインナ22の車両幅方向一方側(図中右側)には外気導入孔22Dが形成されている。また、外気導入孔22Dは、図示しない外気導入ダクトに繋がっており、車両に搭載された図示しない空調装置本体に連結されている。図2に示されるように、カウルインナ22の上端部には車体斜め上側後方に向かって延設されたフランジ22Cが形成されている。
【0024】
カウルインナ22のフランジ22Cの上面には、カウルアウタ24の後端部に形成されたフランジ24Aが結合されている。また、カウルアウタ24の車両幅方向から見た断面形状は、開口部を車体下側後方へ向けた断面ハット形状とされており、上壁部24Bがフロントガラス10の前端縁部10Aを車体下方側から支持している。すなわち、フロントガラス10の前端縁部10Aは、カウルアウタ24の上壁部24Bの上面に接着剤23によって固定されている。
【0025】
なお、カウルアウタ24の上壁部24Bの前端からは車体下方へ向かって前壁部24Cが形成されており、前壁部24Cの下端からは車体斜め下側前方に向かってフランジ24Dが形成されている。一方、カウルアウタ24の上壁部24Bの後端からは車体斜め下側後方へ向かって後壁部24Eが形成されており、フランジ24Aは後壁部24Eの下端からは車体斜め上側後方に向かって延びている。
【0026】
図1に示されるように、カウルロア16、カウルインナ22及びカウルアウタ24で構成されるカウル本体14は、車体上方側が開放されており、カウルルーバ28によって覆われている。カウルルーバ28は、車両幅方向に沿って配置されている。カウルルーバ28の車両幅方向の一方側(図中右側)には、外気導入孔28Aが形成され、カウルルーバ28の車両幅方向の他方側(図中左側)には、熱風排出孔28Bが形成されている。
【0027】
図2に示されるように、カウルルーバ28は、車両後方側の端部がフロントガラス10の前端縁部10Aに連結されており、車両前方側の端部がカウルロア16の車両前方側の端部に連結されている。このようにカウル本体14とカウルルーバ28とを含んで構成されるカウル12によって、車両幅方向に沿って延在する空気通路としてのカウル空間25が形成されている。
【0028】
カウル12のカウル空間25の内部(断面内)には、カウル空間25を車両幅方向に仕切る仕切壁としての一対の遮蔽板40が車体前後方向に沿って設けられている。図1に示されるように、左右一対の遮蔽板40は、カウルインナ22における外気導入孔22D及びカウルルーバ28の外気導入孔28Aに対して、車両幅方向の両サイド側にそれぞれ近接して配置され、エンジン(図示省略)から発生する熱風(熱気)の回り込みを防止又は抑制するための部材とされている。また、図1に示されるように、遮蔽板40の周縁部にはシール材42が設けられており、遮蔽板40の下端部には水通し弁48が取り付けられている。
【0029】
遮蔽板40を車両正面視で模式的に示した図3に示されるように、遮蔽板40のシール材42(図中では断面で図示)は、カウル空間25の内周面に密着している。カウル本体14とカウルルーバ28との間に形成されたカウル空間25は、遮蔽板40によって、外気導入用の第一カウル空間25Aと、第二カウル空間25Bとに仕切られている。図1に示されるエンジンルーム18から第二カウル空間25Bに導入される熱風が、第一カウル空間25A側に設けられた外気導入孔22Dへ侵入すること(ひいては外気導入孔22Dに繋がる図示しない外気導入ダクトへ侵入すること)が抑制されるようにしている。なお、図中左側の第二カウル空間25Bには、図示しないワイパが配置されるようになっており、遮蔽板40には、洗車時に前記ワイパへ水がかかるのを防止する役割もある。
【0030】
遮蔽板40は、異方性材料としての樹脂製の板状体(段ボール状部材)を含んで構成されている。図4には、遮蔽板40(図1参照)を構成する異方性材料としての樹脂製の板状体38が示されており、図4(A)は板状体38の側面図、図4(B)は板状体38の正面図である。図4(A)に示されるように、板状体38は、互いに対向して配置される一対の平板部38Aと、平板部38A同士を板状体38の厚さ方向に連結する複数の連結部38Bと、を含んで構成され、図4(A)の方向視で梯子形状に形成されている。図4(B)に示されるように、連結部38Bは、平板部38Aの面方向に沿った一方向(図4(B)の矢印C方向参照)延在している。なお、図4(B)においては、連結部38Bは板厚を省略してその延在方向を点線で示している(図2及び後述する第2実施形態の図5も同様)。
【0031】
すなわち、図2に示される遮蔽板40は、仕切面40Aに沿った一方向(矢印C方向参照)の剛性が仕切面40Aに沿って前記一方向に直交する方向(矢印D方向参照)の剛性よりも高い異方性材料で形成されている。また、遮蔽板40は、仕切面40Aの対向方向に見て、車両後下方へ向けた方向(矢印F方向参照)に対して、一方向(矢印C方向参照)が直交状(広義には交差状)となるように設定されている。換言すれば、遮蔽板40は、剛性が低く設定される方向(矢印D方向参照)を歩行者保護試験の頭部インパクタ50の入射方向(矢印F方向参照)に向けるように設定されている。
【0032】
遮蔽板40の前端部の下部寄りには、第一固定部40Bが形成されている。第一固定部40Bには、取付ブラケット34の一方の取付部34Aが、車両幅方向に挿入された取付クリップ44Aによって取り付けられている。取付ブラケット34の他方の取付部34Bは、ビス(図中では締結線46Aで示す)によってカウルロア16に締結されている。なお、取付ブラケット34には複数の補強リブ34Cが形成されている。
【0033】
一方、遮蔽板40の後端部の車体上下方向略中央部には、第二固定部40Cが形成されている。第二固定部40Cには、取付ブラケット36の一方の取付部36Aが、車両幅方向に挿入された取付クリップ44Bによって取り付けられている。取付ブラケット36の他方の取付部36Bは、ビス(図中では締結線46Bで示す)によってカウルインナ22に締結されている。
【0034】
ここで、遮蔽板40の第一固定部40B及び第二固定部40Cは、衝突時における遮蔽板40による反力を抑えるために、頭部インパクタ50の予め想定される侵入ストロークSの範囲から外れた位置(侵入ストロークSで頭部インパクタ50が到達する位置から侵入方向に直交する仮想線を引いた場合に当該仮想線よりも下方側となる位置)に設定されている。なお、本実施形態では、第一固定部40B及び第二固定部40Cは、侵入ストロークSで頭部インパクタ50が到達する位置から侵入方向に直交する仮想線を引いた場合に当該仮想線よりも下方側に位置するものの、遮蔽板40の保持性の観点から前記下方側のうちで比較的高い位置に設定されている。
【0035】
また、取付クリップ44A、44Bによる締結方向は、遮蔽板40の組付時に遮蔽板40に荷重が作用する方向となるが、遮蔽板40における曲げ剛性が高い方向となっており、遮蔽板40が熱風による風圧を受ける方向にも合わせられている。また、ビス46A、46Bの締結方向は、遮蔽板40において剛性が高く設定された一方向(矢印C方向)に概ね沿うような方向に設定されている。
【0036】
(作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0037】
本実施形態では、図1に示されるように、車両前部に設けられたカウル空間25が、カウル本体14に取り付けられた遮蔽板40によって、第一カウル空間25Aと第二カウル空間25Bとに仕切られている。このため、例えば、エンジンルーム18から図中左側の第二カウル空間25Bに導入される熱風が、第一カウル空間25A側に設けられた外気導入孔22Dへ侵入することが抑制される。
【0038】
ここで、図2に示されるように、カウル12に取り付けられた遮蔽板40は、仕切面40Aに沿った一方向(矢印C方向参照)の剛性が仕切面40Aに沿って前記一方向に直交する方向(矢印D方向参照)の剛性よりも高い異方性材料で形成され、仕切面40Aの対向方向に見て、車両後下方へ向けた方向(矢印F方向参照)に対して、前記一方向(矢印C方向参照)が直交状となるように設定されている。このため、例えば、頭部インパクタ50がカウルルーバ28に車両上方斜め前方側から衝突して(打撃されて)、遮蔽板40に対して車両後下方へ向けた荷重が作用した場合、遮蔽板40は、前記一方向(矢印C方向参照)に沿った折れ線で折れ曲がるようにして容易に変形する。
【0039】
これにより、頭部インパクタ50に対する反力が抑えられ、頭部インパクタ50のストロークも確保できる(歩行者保護性能の確保)。このとき、図3に示されるように、遮蔽板40は、頭部インパクタ50の車両正面視での衝突方向等に応じて車両幅方向の左右両側へ折れ曲がるように変形し得る。なお、図3では、遮蔽板40が車両幅方向の左右両側へ折れ曲がるように変形した状態を一例として二点鎖線で示している。ちなみに、このような両側に折れ曲がり得る遮蔽板40は、最低限一方側に倒れるための空間があれば設置可能な部材ともいえ、この点で設置場所の制約が少ない部材ともいえる。
【0040】
一方、車両後下方へ向けた荷重が作用しない場合には、カウル12に取り付けられた遮蔽板40は、容易には変形せず仕切位置に保持される。このため、前述のように、図1に示されるエンジンルーム18から熱風が外気導入孔22Dへ侵入することが安定的に抑制されるので、空調性能が向上し、結果的に燃料消費率(燃費)も改善できる。
【0041】
また、本実施形態では、遮蔽板40を形成する異方性材料は、図4に示される樹脂製の板状体38となっており、互いに対向して配置される一対の平板部38Aが一方向に沿って延在した複数の連結部38Bによって連結されているので、剛性の異方性が容易に確保される。また、平板部38A同士の間に空気層38Cが形成できるので、遮蔽板40によって熱の伝導が抑えられる。これによって、例えば、図1に示されるエンジンルーム18から熱風が導入された図中左側の第二カウル空間25Bの熱が第一カウル空間25A側に伝わりにくくなる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る車両前部構造によれば、通常使用時における遮蔽板40の姿勢を保持しながら、車両前方斜め上方側から所定値以上の荷重が作用した際には遮蔽板40による抵抗力を抑えることができる。
【0043】
ここで、対比構造と比較しながら補足説明すると、例えば、車両前方斜め上方側から所定値以上の荷重が作用した際に所定部位で折り曲がるように脆弱部を形成した樹脂成形品の対比構造では、重量が増加し易く、また成形型が必要でかつ折れ線加工も必要となるために加工費の面で高コストとなる。これに対して、本実施形態では、薄い板状体38を用いることで剛性の確保を効率的に実現できるので軽量化が可能であり、板状体38を原材料とした場合には抜き型のみで形成できるので加工費も抑えられる。
【0044】
また、例えば、車両前方斜め上方側から所定値以上の荷重が作用した際に一方向にのみ傾倒するようにクリップを介して遮蔽板がカウルに組み付けられた他の対比構造では、前記一方向とは反対側へ傾倒させる場合に抵抗力が大きくなるうえ、遮蔽板のクリップへの係合が不十分な場合には遮蔽板が組み付け時に傾倒してしまう恐れもある。これに対して、本実施形態では、遮蔽板40は、車両前方斜め上方側から所定値以上の荷重が作用した際に左右どちら側にも折れ曲がり変形し得る構造でカウル12に固定されているので、前記他の対比構造のような不具合はない。
【0045】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両前部構造について、図5及び図6を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成部については同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
図5には、本発明の第2の実施形態に係る車両前部構造が図1の5−5線に沿った拡大断面図に相当する縦断面図にて示されている。また、図6には、図5の遮蔽板60が車両側面視の模式的な側面図にてフェンダパネル54を透視した状態で示されている。
【0047】
図5に示されるように、車両前部の側部には、フェンダパネル54が配設されている。フェンダパネル54は、図示しない前輪の上方側を覆って車両前部の側面(意匠面)を構成する外側壁部54Aと、フード30との見切り部56にて外側壁部54Aの上端部から垂下されて略車体下方側へ屈曲された内側壁部54Bと、を含んで構成されている。また、フェンダパネル54の内側壁部54Bは、外側壁部54Aの上端部から略車体下方側へ垂下された内側縦壁部154Bと、この内側縦壁部154Bの下端部から車幅方向内側(エンジンルーム18側)へ略水平に延出された水平フランジ部254Bと、を備えている。
【0048】
フェンダパネル54の水平フランジ部254Bの車体下方側で、かつフェンダパネル54の外側壁部54Aの車両幅方向内側には、内側部材としてのエプロンアッパメンバ58が配置されている。エプロンアッパメンバ58は、略車体前後方向を長手方向として配置され、閉断面構造に形成されている。また、フェンダパネル54の外側壁部54Aの上部における車両幅方向内側には、内側部材としてのカウルルーバ28が配置されている。
【0049】
これらのフェンダパネル54、カウルルーバ28及びエプロンアッパメンバ58を含んで通路形成部52が構成されており、通路形成部52は車両前部に設けられて車両前後方向に通じる空気通路55を形成している。
【0050】
通路形成部52には、仕切壁としての遮蔽板60、62が上下に取り付けられて空気通路55内(断面内)に車両幅方向に沿って配置されている。これによって、遮蔽板60、62は、空気通路55を車両前後方向に仕切っている。なお、遮蔽板60、62は、空気通路55の形状がやや複雑であるために成形性を考慮して上下二部材で空気通路55を仕切っているが、一部材で空気通路55を仕切る構成としてもよい。
【0051】
遮蔽板60、62は、第1の実施形態と同様に図4に示される樹脂製の板状体38で形成され、図5に示されるように、仕切面60A、62Aの対向方向に見て、車両後下方へ向けた方向(図5の方向視では下向き方向となる矢印F方向参照)に対して、剛性の高い一方向(矢印C方向参照)が直交状(広義には交差状)となるように設定されている。
【0052】
遮蔽板60の車両幅方向内側端部の下部寄りには、固定部60Bが形成されている。固定部60Bには、取付ブラケット64の一方の取付部64Aが、車両前後方向に挿入された取付クリップ66Aによって取り付けられている。取付ブラケット64の他方の取付部64Bは、ビス(図中では締結線68Aで示す)によってエプロンアッパメンバ58の上部に締結されている。
【0053】
また、遮蔽板62の車両幅方向内側端部には、固定部62Bが形成されている。固定部62Bには、取付ブラケット70の一方の取付部70Aが、車両前後方向に挿入された取付クリップ66Bによって取り付けられている。取付ブラケット70の他方の取付部70Bは、ビス(図中では締結線68Bで示す)によってエプロンアッパメンバ58の下部に締結されている。
【0054】
なお、図示を省略するが、遮蔽板60の車両幅方向外側端部の下部寄り、及び遮蔽板62の車両幅方向外側端部はフェンダパネル54側に固定されるのが好ましい。
【0055】
ここで、遮蔽板60の固定部60Bは、衝突時における遮蔽板60による反力を抑えるために、頭部インパクタ50の予め想定される侵入ストロークSの範囲から外れた位置(侵入ストロークSで頭部インパクタ50が到達する位置よりも下方側となる位置)に設定されている。
【0056】
また、取付クリップ66A、66Bによる締結方向は、遮蔽板60、62の組付時に遮蔽板60、62に荷重が作用する方向となるが、遮蔽板60、62における曲げ剛性が高い方向となっており、遮蔽板60、62がエンジン側からの熱風による風圧を受ける方向にも合わせられている。また、ビス68A、68Bの締結方向は、遮蔽板60、62において剛性が高く設定された一方向(矢印C方向)に概ね沿うような方向に設定されている。
【0057】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、車両後下方へ向けた荷重が作用しない通常使用時には、通路形成部52に取り付けられた遮蔽板60、62は、容易には変形せず仕切位置で初期姿勢が保持される。また、頭部インパクタ50がフェンダパネル54とフード30との見切り部56付近に車両上方斜め前方側から衝突して、遮蔽板60に対して車両後下方へ向けた荷重が作用した場合、遮蔽板60は、前記一方向(矢印C方向参照)に沿った折れ線で車両後方側へ折れ曲がるようにして容易に変形する。なお、図6の二点鎖線で示されるように、遮蔽板60は、車両後方側へ折れ曲がるように変形し得るだけでなく、車両前方側へ折れ曲がるようにも変形し得る(図5の遮蔽板62も同様)。
【0058】
[実施形態の補足説明]
なお、上記実施形態では、異方性材料として樹脂製の板状体38を用いているが、異方性材料は、例えば、仕切面に沿った一方向を繊維方向とすることで、前記一方向の剛性が前記仕切面に沿って前記一方向に直交する方向の剛性よりも高い繊維強化プラスチック等のような他の異方性材料としてもよい。
【0059】
また、樹脂製の板状体は、図4に示される板状体38の他、例えば、平板部同士を並板状部(連結部)が連結する共に前記並板状部の凸部の延在方向が一方向に設定されるような板状体(段ボール状部材)であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 フロントガラス
12 カウル(通路形成部)
25 カウル空間(空気通路)
28 カウルルーバ(内側部材)
38 板状体(異方性材料)
38A 平板部
38B 連結部
40 遮蔽板(仕切壁)
40A 仕切面
52 通路形成部
54 フェンダパネル
55 空気通路
58 エプロンアッパメンバ(内側部材)
60 遮蔽板(仕切壁)
60A 仕切面
62 遮蔽板(仕切壁)
62A 仕切面
C 一方向
D 一方向に直交する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に設けられて空気通路を形成する通路形成部と、
前記通路形成部に取り付けられて前記空気通路を仕切ると共に、仕切面に沿った一方向の剛性が前記仕切面に沿って前記一方向に直交する方向の剛性よりも高い異方性材料で形成され、前記仕切面の対向方向に見て、車両後下方へ向けた方向に対して、前記一方向が直交状となるように設定された仕切壁と、
を有する車両前部構造。
【請求項2】
前記異方性材料は、互いに対向して配置される一対の平板部と、前記平板部同士を連結する共に前記一方向に沿って延在した複数の連結部と、を含んで構成された樹脂製の板状体とされている請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記通路形成部は、フロントガラスの下方側に車両幅方向に沿って設けられてカウル空間を形成するカウルとされ、前記仕切壁は、前記カウル空間内に車両前後方向に沿って設けられて前記カウル空間を車両幅方向に仕切っている請求項1又は請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記通路形成部は、車両前部の側面を構成するフェンダパネルと前記フェンダパネルの車両幅方向内側に配置される内側部材とを含んで構成され、前記仕切壁は、前記フェンダパネルと前記内側部材とで形成される空気通路内に車両幅方向に沿って設けられて前記空気通路を車両前後方向に仕切っている請求項1又は請求項2に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−25284(P2012−25284A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166330(P2010−166330)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】