説明

車両周辺監視装置

【課題】微分フィルタによるフィルタ処理を行った場合に生じ得る弊害を抑制した車両周辺監視装置を提供する。
【解決手段】赤外線カメラ1により撮像された原画像Im1に対して、微分フィルタによるフィルタ処理を施するフィルタ処理部13と、外気温Tsが温度範囲Tw内であるとき及び原画像Im1の輝度分散Lvが閾値Lv_th以下であるときは、原画像Im1に対してフィルタ処理部13によりフィルタ処理を実施して、フィルタ処理後画像Im2から歩行者の画像を検知し、外気温Tsが温度範囲Twから外れ且つ原画像Im1の輝度分散Lvが閾値Lv_thを超えているときには、フィルタ処理を禁止して原画像Im1から歩行者の画像を検知する対象物検知部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取り付けられた赤外線カメラの撮像画像により、車両周辺を監視する車両周辺監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、赤外線カメラにより車両の周辺を撮像し、その撮像画像から歩行者等の監視対象物を検知して運転者に報知するようにした車両周辺監視装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、撮像画像からの監視対象物の画像の抽出を容易にするために、温度を輝度で表した撮像画像(原画像)に対して、微分フィルタによるフィルタ処理を実施することにより、監視対象物の画像とその背景画像との境界エッジを強調した画像を生成し、このように境界エッジを強調した画像から監視対象物の画像を抽出する処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−284057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、上述した微分フィルタによるフィルタ処理を行った場合に、以下の弊害が生じて、歩行者等の検知が却って困難になる場合があることを知見した。
(1)原画像では温度が異なる物体として撮像された画像(例えば、歩行者と電柱の画像)とその背景の画像との境界エッジが、同じように強調されて、フィルタ処理後画像での輝度差が減少する。
(2)原画像で高輝度であった画像(例えば、歩行者の画像)について、フィルタ処理後画像では、この画像の周囲の輝度が不自然に低下する。
【0006】
そこで、本発明は、微分フィルタによるフィルタ処理を行うことにより、監視対象物の検知が却って困難になることを抑制した車両周辺監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであり、車両に搭載された赤外線カメラにより撮像されたグレースケール画像に基づいて、車両周辺を監視する車両周辺監視装置に関する。
【0008】
そして、前記赤外線カメラにより撮像されたグレースケールの原画像に対して、微分フィルタによるフィルタ処理を施するフィルタ処理部と、前記原画像が所定の低コントラスト状態であるか否かを判断し、前記原画像が低コントラスト状態であるときは、前記原画像に対して前記フィルタ処理部により前記フィルタ処理を実施して、フィルタ処理後画像から監視対象物の画像を検知し、前記原画像が低コントラスト状態でないときには、前記原画像に対する前記フィルタ処理の実施を禁止して、前記原画像から監視対象物の画像を検知する対象物検知部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
かかる本発明によれば、前記対象物検知部は、前記原画像が低コントラスト状態であるときに限定して、前記原画像に対する前記フィルタ処理部によるフィルタ処理を実施する。そして、これにより、前記原画像が高コントラスト状態であるときに、前記原画像に対して微分フィルタによるフィルタ処理が実施されて、高コントラストな画像のエッジがさらに強調され、監視対象物の検知が却って困難になることを抑制することができる。
【0010】
なお、前記原画像は前記フィルタ処理部によりフィルタ処理が実施されていない撮像画像を意味し、ノイズ除去処理等がなされた撮像画像も含むものである。
【0011】
また、外気温を検出する外気温センサを備え、前記対象物検知部は、前記外気温センサの検出温度が、生体の温度を想定した温度範囲内であるときに、前記原画像が低コントラスト状態であると判断することを特徴とする。
【0012】
かかる本発明によれば、前記外気温センサの検出温度が生体の温度を想定した前記温度範囲内であって、前記原画像において生体の画像とその周囲画像との輝度差が小さいときに限って、前記フィルタ処理を実施して、エッジ強調により監視対象物である生体の画像の検知を容易にすることができる。
【0013】
また、前記対象物検知部は、前記原画像の輝度分散が所定値以下であるときに、前記原画像が低コントラスト状態であると判断することを特徴とする。
【0014】
かかる本発明によれば、前記原画像の輝度分散が所定値以下であって、前記原画像の全体的な輝度差が小さいときに限って、前記フィルタ処理を実施して、エッジ強調により監視対象物の画像の検知を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両周辺監視装置の構成図。
【図2】微分フィルタによるフィルタ処理の効果の説明図。
【図3】微分フィルタによるフィルタ処理の弊害の説明図。
【図4】微分フィルタによるフィルタ処理を実施する外気温の範囲の説明図。
【図5】車両周辺監視装置の作動フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図1〜図5を参照して説明する。図1を参照して、本実施の形態の車両周辺監視装置は車両に搭載して使用され、赤外線の入射レベルにより検出した被撮像物の温度を輝度信号に変換して出力する赤外線カメラ1と、画像処理ユニット10と、外気温を検出する外気温センサ2と、表示部3と、スピーカ4とにより構成されている。
【0017】
画像処理ユニット10は、CPU、メモリ等により構成された電子ユニットであり、赤外線カメラ1から出力される映像信号(被撮像物の温度を輝度に変換した信号)を、画像メモリ12に書込む画像入力回路11と、画像メモリ12に書込まれた画像(原画像Im1)に対して、微分フィルタによるフィルタ処理を実施するフィルタ処理部13と、原画像Im1又はフィルタ処理後画像Im2から監視対象物(歩行者等)の画像を検知する対象物検知部14とを備えている。
【0018】
なお、CPUは、メモリに保持された車両周辺監視用の制御プログラムを実行することによって、フィルタ処理部13及び対象物検知部14として機能する。
【0019】
次に、図2(a)及び図2(b)を参照して、フィルタ処理部13により、微分フィルタによるフィルタ処理を実施することの効果について説明する。図2(a)は、輝度が異なる画像部分A,Bを含む原画像Im1の、垂直座標がy1である画素の輝度プロファイルを示したものである。図2(a)原画像Im1では、画像部分A,B間の輝度差がLw1になっている。
【0020】
また、図2(b)は、図2(a)に示した原画像Im1に対して、フィルタ処理部13により、微分フィルタによるフィルタ処理を実施したフィルタ処理後画像Im2の、垂直座標がy1である画素の輝度プロファイルを示したものである。図2(b)に示したように、微分フィルタによるフィルタ処理を施すことによって、原画像Im1の画像部分Bとその周囲部分(背景部分)Aとの境界エッジが強調され、画像部分B'とその周囲部分Aとの輝度差がLw2に拡大している。このように、画像部分Bとその周囲部分Aとの輝度差を拡大(Lw1→Lw2)することによって、画像部分Bの抽出を容易にすることができる。
【0021】
しかしながら、原画像Im1の輝度プロファイルが、図3(a)に示したように、原画像Im1の画像部分A,Bとその周囲部分との輝度差が同程度であるときには、原画像Im1に微分フィルタによるフィルタ処理を実施したときに、フィルタ処理後画像Im2の輝度プロファイルが図3(b)に示したような態様となって、画像部分A,Bの輝度差が無くなる場合がある。そして、この場合には、フィルタ処理後画像Im2において、画像部分A,Bを識別することが却って困難になるという不都合がある。
【0022】
そこで、対象物検知部14は、微分フィルタによるフィルタ処理を実施することによるエッジ強調の効果が有効である場合に限って、原画像Im1に微分フィルタによるフィルタ処理を実施するようにし、これにより、上記不都合が生じることを抑制している。
【0023】
以下、図5に示したフローチャートに従って、対象物検知部14により、歩行者を監視対象物として検知する場合の処理について説明する。
【0024】
図5のSTEP1で、対象物検知部14は、外気温センサ2により検出される外気温Tsのデータを取得し、続くSTEP2で、外気温Tsが温度範囲Tw内であるか否かを判断する。
【0025】
ここで、温度範囲Twは、図4に示したように、歩行者の温度付近を想定した例えば31℃〜39℃の範囲に設定される。図4は、縦軸を赤外線カメラ1の出力(被撮像物の温度に応じた輝度)に設定し、横軸を外気温に設定して、歩行者(図中a)及び人工構造物(図中b、例えばコンクリート電柱)の画像の輝度を示したものである。
【0026】
図4から、歩行者の画像の輝度は外気温が変化しても殆ど変化しないが、人工構造物の画像の輝度は外気温に比例して変化していることがわかる。なお、樹木の画像の輝度も、人口構造物と同様に外気温に比例して変化する。
【0027】
そして、外気温Tsが温度範囲Twから外れているとき(Ts<31℃、39℃<Ts)、すなわち、歩行者と人工構造物及び樹木(以下、人工構造物等という)との温度差が大きいときは、原画像Im1における歩行者の画像と人工構造物等の画像との輝度差が大きくなるため、両者の識別は容易である。そのため、原画像Im1に対して、微分フィルタによるフィルタ処理を実施してエッジ強調を行う必要性は低い。
【0028】
それに対して、外気温Tsが温度範囲Tw内であるとき(31℃≦Ts≦39℃)、すなわち、歩行者と人工構造物等との温度差が小さいときには、原画像Im1における歩行者の画像と人工構造物等の画像及び背景画像との輝度差が小さくなるため、歩行者の画像の検知が困難になる。そのため、原画像Im1に対して、微分フィルタによるフィルタ処理を実施して、歩行者の画像のエッジを強調することで、歩行者の画像を背景から抽出し易くすることが有効である。
【0029】
そこで、対象物検知部14は、STEP2で外気温Tsが温度範囲Tw内であったときはSTEP10に分岐し、フィルタ処理部13により、微分フィルタによるフィルタ処理を実施する。そして、次のSTEP11で、フィルタ処理後画像Im2から歩行者の画像を探知し、車両と接触する可能性がある歩行者を検知したときには、表示部3への表示及びスピーカ4による音声出力によって歩行者の存在を運転者に報知し、STEP6に進んで処理を終了する。
【0030】
一方、STEP2で外気温Tsが温度範囲Tw外であったときにはSTEP3に進み、対象物検知部14は、原画像Im1の輝度分散Lvを算出する。ここで、原画像Im1の輝度分散Lvが小さいほど、原画像Im1は輝度変化が少ない低コントラストの画像になっていると推定される。そして、この場合には、原画像Im1に微分フィルタによるフィルタ処理を実施して、歩行者の画像とその背景画像との境界エッジを強調することにより、歩行者の画像部分の抽出が容易になることが期待できる。
【0031】
そこで、対象物検知部14は、STEP4で原画像Im1の輝度分散Lvが閾値Lv_th(実験等により決定される)以下であるか否かを判断する。そして、原画像Im1の輝度分散Lvが閾値Lv_th以下であるときはSTEP10に分岐し、対象物検知部14は上述したSTEP10〜STEP11の処理により、フィルタ処理後画像Im2から歩行者の画像を探索する。
【0032】
また、STEP4で原画像Im1の輝度分散Lvが閾値Lv_thを超えているときには、STEP5に進み、対象物検知部14は、フィルタ処理部13によるフィルタ処理を禁止して、原画像Im1から歩行者の画像を探知する。そして、対象物検知部14は、自車両と接触する可能性がある歩行者を検知したときには、表示部3への表示及びスピーカ4による音声出力によって歩行者の存在を運転者に報知し、STEP6に進んで処理を終了する。
【0033】
なお、STEP2における外気温Tsが温度範囲Tw内であるか否かの判断、及び、STEP4における原画像Im1の輝度分散Lvが閾値Lv_th以下であるか否かの判断は、本発明の原画像が所定の低コントラスト状態であるか否かの判断に相当する。
【0034】
また、本実施の形態では、外気温及び原画像の輝度分散という二つの要素により、フィルタ処理部13によるフィルタ処理を実施するか否かを判断したが、いずれか一方の要素のみによって、フィルタ処理部13によるフィルタ処理を実施するか否かを判断するようにしてもよい。また、他の要素により原画像が低コントラスト状態であるか否かを判断して、フィルタ処理部13によるフィルタ処理を実施するか否かを判断してもよい。
【0035】
また、原画像Im1による監視対象物の検知とフィルタ処理後画像Im2による監視対象物の検知を並行して行い、各検知の結果を外気温や画像のコントラスト等に応じた重み付けをして用いるようにしてもよい。
【0036】
また、外気温及び輝度分散の他に、所定時間内における原画像Im1中の生体の画像と想定される高輝度部の数又は割合の変化度合いに応じて、フィルタ処理部13によるフィルタ処理を実施するか否かを切換えるようにしてもよい。例えば、所定時間内での高輝度部の数又は割合が減少したときには、撮像画像のコントラストの低下等が生じる可能性があるため、フィルタ処理部13によるフィルタ処理を実施してフィルタ処理後画像から監視対象物を検知することが有効である。
【符号の説明】
【0037】
1…赤外線カメラ、2…外気温センサ、3…表示部、4…スピーカ、10…画像処理ユニット、11…画像入力回路、12…画像メモリ、13…フィルタ処理部、14…対処物検知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された赤外線カメラにより撮像されたグレースケール画像に基づいて、車両周辺を監視する車両周辺監視装置であって、
前記赤外線カメラにより撮像されたグレースケールの原画像に対して、微分フィルタによるフィルタ処理を実施するフィルタ処理部と、
前記原画像が所定の低コントラスト状態であるか否かを判断し、前記原画像が低コントラスト状態であるときは、前記原画像に対して前記フィルタ処理部により前記フィルタ処理を実施して、フィルタ処理後画像から監視対象物の画像を検知し、前記原画像が低コントラスト状態でないときには、前記原画像に対する前記フィルタ処理の実施を禁止して、前記原画像から監視対象物の画像を検知する対象物検知部と
を備えたことを特徴とする車両周辺監視装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両周辺監視装置において、
外気温を検出する外気温センサを備え、
前記対象物検知部は、前記外気温センサの検出温度が生体の温度を想定した温度範囲内であるときに、前記原画像が低コントラスト状態であると判断することを特徴とする車両周辺監視装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両周辺監視装置において、
前記対象物検知部は、前記原画像の輝度分散が所定値以下であるときに、前記原画像が低コントラスト状態であると判断することを特徴とする車両周辺監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−160109(P2011−160109A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18927(P2010−18927)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】