説明

車両存在報知装置

【課題】非防水の超音波スピーカの防水性を確保するとともに、超音波スピーカによるパラメトリックスピーカの性能低下を抑える車両存在報知装置を提供する。
【解決手段】超音波スピーカ1の前面を、「通気性(空気が移動できる性質)」を有し、且つ「防水性(水を通さない性質)」を有する音響シート2で覆う。音響シート2の「防水性」により、雨水が超音波スピーカ1の内部に侵入するのを防ぐことができる。また、音響シート2の「通気性」は、空気の移動ができる「隙間」によって得られるものであり、超音波スピーカ1から放射された超音波は音響シート2の「隙間」を透過する。このため、超音波が音響シート2を透過でき、パラメトリックスピーカの性能低下を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメトリックスピーカによって報知音を車外に発生させて車両の存在を知らせる車両存在報知装置に関するものであり、特に、電気自動車、燃料電池車両、ハイブリッド車両など、通電により回転動力を発生する電動モータによって走行が可能な車両に用いて好適な技術に関する。
なお、以下では、超音波スピーカにおける「超音波の発生方向」を「前」と称して説明するが、実際の車両への搭載方向を規制するものではない。
【背景技術】
【0002】
報知音により車両の存在を周囲に知らせる車両存在報知装置として、指向性が強く、且つ車両から離れた場所で報知音を発生させるパラメトリックスピーカを用いることが提案されている。
パラメトリックスピーカは、「報知音となる波形信号」を超音波変調して超音波スピーカから放射させるものであり、超音波スピーカから放射された超音波(聞こえない音波)に含まれる振幅成分が伝播途中の空気中で自己復調されることを利用して、車両から離れた場所で報知音を発生させる技術である。
【0003】
ここで、超音波スピーカは、超音波を車外へ放出するものであるため、車両走行風等により雨水が触れる可能性のある部位(例えば、車両のフロントグリルの内部など)に装着される。
しかし、既存の超音波スピーカは非防水構造であるため、雨水が侵入する部位に用いることができない。
【0004】
具体的に超音波スピーカは、超音波周波数の電気信号を超音波信号に変換する駆動子(例えば、圧電素子)と、この駆動子によって振動されて空気中に超音波の疎密波を発生させる振動板と、駆動子および振動板を支持する支持フレームとを具備する。
空気中に超音波の疎密波を与える振動板には、
(i)空気への駆動力を確保するためにある程度の面積が要求され、
(ii)駆動子の振動を振動板の全面積に伝達するためにある程度の強度が要求され、
(iii)高速(1秒間に2万回以上)で前後動する必要があるために軽量であることが要求される。
即ち、振動板には、面積確保と、強度確保と、軽量化とが要求される。
【0005】
このため、振動板は、強度を確保できる素材(樹脂フィルム、強度を増す処理が施された紙、軽量金属など)によって薄く設けられ、支持フレームに接着剤等で接合されている。
振動板が紙によるものはもちろん、振動板を支持フレームに接合する接着剤もスポット的(部分的)に用いられるものであるため、超音波スピーカの前面に雨水が当たると、振動板と支持フレームの隙間などから雨水が超音波スピーカの内部に侵入し、駆動子(圧電素子など)を故障させてしまう。
また、超音波スピーカに用いられている接着剤も防水性が考慮されていないため、雨水が触れる状態で長期に使用されると接着剤が剥がれて振動板が支持フレームから脱落する可能性がある。
【0006】
一方、ダイレクトスピーカ(超音波スピーカではなく、可聴音を直接放射する一般的なスピーカ)を雨水から保護することを目的として、樹脂フィルム(防水フィルム)でスピーカの前面を覆う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
音波(空気の疎密波)は、波長の長い低音周波数ほど素材を透過し易い性質を備えており、逆に波長の短い高音周波数ほど軽くて薄い素材でないと透過しない特性を備えている。
このため、可聴音(比較的周波数の低い音波)は、樹脂フィルムを透過し易く、図2(a)に示すように、ダイレクトスピーカの発生する可聴帯域の音波は、樹脂フィルムを透過して外部に効率よく放射される。
【0007】
これに対し、超音波は、波長が極めて短いため、図2(b)に示すように、軽くて薄い樹脂フィルムであっても透過し難い性質を備えている。
このため、防水性を確保するために、超音波スピーカの前面に軽くて薄い樹脂フィルムを配置すると、樹脂フィルムが超音波の透過を阻止してしまい、図5の実線Eに示すように、パラメトリックスピーカの性能(離れた場所で可聴音を再生する性能)が極端に低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−134491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、非防水の超音波スピーカの防水性を確保するとともに、超音波スピーカを用いたパラメトリックスピーカの性能低下を抑えることのできる車両存在報知装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段を採用する車両存在報知装置は、超音波スピーカの前面(超音波の放射面)を、「通気性(空気が移動できる性質)」を有し、且つ「防水性(水を通さない性質)」を有する音響シートで覆うものである。
このように、音響シートは、「防水性」を有するため、非防水の超音波スピーカを用いても、超音波スピーカの防水性を確保することができ、雨水が超音波スピーカの内部に侵入するのを防ぐことができる。
【0011】
また、音響シートは、「通気性」を確保する「隙間(空気が移動可能な隙間)」を有するため、超音波スピーカから放射された超音波が「隙間」を通って外部に放射される。
これにより、波長が極めて短い超音波であっても、音響シートの「隙間」を通過することで、超音波が減衰することなく外部に放射され、パラメトリックスピーカの性能低下を抑えることができる。
即ち、請求項1の手段を採用する車両存在報知装置は、非防水の超音波スピーカの防水性を確保しつつ、パラメトリックスピーカの性能低下を抑えることができる。
【0012】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段の車両存在報知装置における音響シートは、溌水繊維によって設けられたフェルト布、あるいは溌水加工が施されたフェルト布である。
音響シートにフェルト布を用いたことにより、
(i)上記「隙間」による超音波の透過に加え、
(ii)フェルト布を構成する繊維が「脳のニューロンのような構造により、全ての周波数の音波の伝達を行なうこと{図2(c)参照}」で超音波の透過性が高まる。
その結果、音響シートにフェルト布を用いたことにより、超音波の高い透過性を得ることができ、パラメトリックスピーカの性能低下を小さく抑えることができる。
【0013】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段の車両存在報知装置は、
パラメトリックスピーカは、
超音波を発生可能な超音波スピーカと、
報知音を成す波形信号を発生する報知音信号発生部と、
この報知音信号発生部で発生した波形信号を、超音波周波数で発振する電圧または電流の振幅変化に変調する超音波振幅変調部と、
この超音波振幅変調部で振幅変調された超音波周波数の振幅信号によって超音波スピーカを駆動するスピーカ駆動部と、
を具備するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】超音波スピーカの正面図および上視図である。
【図2】樹脂フィルムと音響フィルムにおける音波の透過の説明図である。
【図3】車両存在報知装置の概略構成図である。
【図4】パラメトリックスピーカの原理説明図である。
【図5】種々の素材を透過させた場合におけるパラメトリックスピーカの性能比較を示す周波数特性図(周波数に対する音圧の特性図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して車両存在報知装置の基本形態を説明する。
車両存在報知装置は、報知音によって車両の存在を知らせるものであり、パラメトリックスピーカにより車外より離れた部位で報知音の再生を行なうものである。
パラメトリックスピーカは、車外へ向けて超音波を発生可能な非防水の超音波スピーカ1を備える。
そして、超音波スピーカ1の前面(超音波を車外へ向けて放出する放出面)を、「通気性(空気が移動できる性質)」を有し、且つ「防水性(水を通さない性質)」を有する音響シート2で覆うものである。
【実施例1】
【0016】
次に、車両存在報知装置の具体的な一例を、図1〜図5を参照して説明する。なお、この実施例1において、上記「発明を実施するための形態」と同一符号は同一機能物を示すものである。
〔実施例1の構成〕
車両存在報知装置は、パラメトリックスピーカを用いて、車両から離れた場所で可聴音よりなる報知音を発生させるものであり、超音波を放射可能な超音波発生ユニット3と、この超音波発生ユニット3の作動制御を行なう本体装置4とを備える。
【0017】
(超音波発生ユニット3の説明)
超音波発生ユニット3は、発生する超音波を、車両の外側に向けて放出するように、車両の例えば前部等に装着されるものである。
具体的な超音波発生ユニット3の装着例を示す。
ハイブリッド車のようにエンジン(燃料の燃焼により回転出力を発生する内燃機関)を搭載する車両の場合、超音波発生ユニット3は、ラジエータグリルが設けられる外気の取入開口部(車両の前部に設けられてラジエータを冷却する車両走行風の取入口:なお、ラジエータを有しない電気自動車等の場合も冷却用走行風の取入口)の内部に装着されて、超音波発生ユニット3の発生する超音波が、車両の外側前方(例えば、歩道側に向く斜め前方)に向けて放出するように設けられている。
【0018】
ここで、超音波は、指向性が強い。このため、超音波発生ユニット3によって、車両に対して特定の方向(車両の存在を伝えたい方向:例えば、歩道側に向く斜め前方)のみに超音波を放射することができる。
なお、超音波発生ユニット3の装着位置は、車両の前部に限定されるものではなく、超音波発生ユニット3を例えば車両の後部や車両の下面に装着し、車両後退走行時(バック走行時)に、車両の後方周囲に向けて報知音を放射するように設けても良い。
また、超音波発生ユニット3における超音波の放射方向は、一定方向に固定されるものであっても良いし、車両運転状況等に応じて放射方向を切り替え可能なものであっても良い。超音波の放射方向の切り替え手段としては、放射方向の異なる超音波発生ユニット3を複数搭載して切り替えるものであっても良いし、超音波発生ユニット3の支持部を電動アクチュエータ(ソレノイド等)で切り替え駆動するものであっても良い。
【0019】
超音波発生ユニット3の具体的な構造例を、図1を参照して説明する。
超音波発生ユニット3は、人間の可聴帯域よりも高い周波数(20kHz以上)の空気振動を発生させる超音波スピーカ1を複数搭載するものであり、この複数の超音波スピーカ1は、図1(a)に示すように適宜配置されてスピーカアレイを構成するものである。なお、図1(a)は、超音波スピーカ1の配置状態を図示する目的で、音響シート2{符号、図1(b)参照}を配置していない状態を図示するものである。
【0020】
具体的に、この実施例では、超音波スピーカ1の一例として、超音波再生に適した圧電スピーカ(セラミックスピーカ、ピエゾスピーカ等)を用いている。圧電スピーカは、印加電圧(充放電)に応じて伸縮するピエゾ素子(駆動子の一例)と、このピエゾ素子の伸縮によって空気に振動を与える振動板と、ピエゾ素子および振動板を支持する支持フレームとで構成される周知構造のものであり、雨水の侵入が考慮されていない非防水のものである。
【0021】
超音波発生ユニット3は、使用する超音波スピーカ1の数と配置により、発生する超音波のエネルギー量と、超音波スピーカ1から放出される超音波の指向範囲とをコントロールすることができる。また、図1に示すホーン部5(短い音道を成すダクト部)を用いることによっても、超音波スピーカ1から発生した超音波の指向範囲をコントロールすることができる。
なお、この実施例では、超音波スピーカ1の具体例として圧電スピーカを用いる例を示すが、圧電スピーカは超音波スピーカ1の一例であって限定されるものではなく、超音波を再生可能であれば他の形式の超音波発生手段を用いても良い。
【0022】
(本体装置4の説明)
次に、超音波発生ユニット3を駆動する本体装置4を説明する。
本体装置4は、「報知音を成す波形信号(電気信号)」を作成する報知音信号発生部6、「報知音を成す波形信号」を「超音波周波数における振幅信号」に変調する超音波振幅変調部7、振幅変調された超音波周波数で超音波発生ユニット3を駆動するスピーカ駆動部8を備えるものであって、ECU(エンジン・コントロール・ユニットの略)等から作動信号(報知音発生信号)が与えられることで作動するものである。
また、本体装置4は、超音波発生ユニット3の出力レベル(音量)を調整する音圧レベル可変手段9と、車載バッテリ等の車載電源に接続されて本体装置4に搭載される各回路(電気的機能部品)の作動に必要な電力の供給を行なう電源部(図示しない)とを搭載するものである。
【0023】
以下において、本体装置4に搭載される上記各手段を説明する。
報知音信号発生部6は、報知音(例えば、擬似エンジン音、擬似車両走行音、和音、警報音等:低音周波数〜高音周波数の広い範囲の周波数成分を含むことが望ましい)を成す波形信号(周波数信号)を発生する手段であり、例えば、
(i)複数の発振器、
(ii)基準クロック(水晶発振器)の発生するクロック信号に基づき任意の波形信号を作成するデジタル音波発生技術(コンピュータ)、
(iii)ノイズ源の発生するピンクノイズ(ホワイトノイズでも良い)から櫛形フィルタによって任意の周波数信号を取り出すシンセサイザー技術(アナログ回路、あるいはコンピュータと組み合わせたアナログ回路であっても良い)
を用いたものである。
【0024】
なお、報知音の周波数等を、環境騒音、または車速、あるいはエンジン回転数等に応じて変更しても良い。
具体的に、例えば、
(i)騒音検出センサ(マイクロフォン等)の検出する環境騒音が大きくなるに従って報知音に高音成分を含ませ、環境騒音に負けない報知音を作成したり、
(ii)車速センサの検出する車速が速くなるに従い、高速走行車両の接近が報知音によって感じられるように、例えば擬似走行音(報知音の一例)を高速走行側へシフトさせたり、
(iii)エンジン回転数センサの検出する回転数が上昇するに従い、回転数が高められた車両の接近が報知音によって感じられるように、例えば擬似エンジン音(報知音の一例)を高回転側へシフトさせたりしても良い。
【0025】
超音波振幅変調部7は、超音波周波数(即ち、20kHzを超える周波数:一例としては25kHz等)で発振可能な超音波発振器を備えており、報知音信号発生部6が出力する波形信号の「電圧の増減変化」を、超音波周波数の「電圧の振幅変化」に変調するものである。
【0026】
このこと(波形信号を「発振電圧の振幅変化」に変調すること)を、図4を参照して説明する。
例えば、超音波振幅変調部7に入力された波形信号が、図4(a)に示す電圧変化であるとする(なお、図中では理解補助のために単一周波数の波形を示すが、実際には報知音を成す合成周波数の信号波形である)。
一方、超音波振幅変調部7の搭載する超音波発振器は、図4(b)に示す超音波周波数で発振するものとする。
【0027】
すると、超音波振幅変調部7は、図4(c)に示すように、
(i)報知音を成す波形信号の信号電圧が大きくなるに従い、超音波振動による電圧の振幅を大きくし、
(ii)報知音を成す波形信号の信号電圧が小さくなるに従い、超音波振動による電圧の振幅を小さくする。
このようにして、超音波振幅変調部7は、報知音信号発生部6から入力された波形信号を、超音波周波数の「発振電圧の振幅変化」に変調するものである。
【0028】
なお、この実施例では、超音波振幅変調部7の一例として、報知音を成す波形信号の信号電圧の変化を、図4(c)に示すように「電圧の発振幅」に変化させる例を示した。これに対し、この図4(c)とは異なり、報知音を成す波形信号の信号電圧の変化を、PWM変調の技術を用いて「電圧の発生時間の幅」に変化させるように設けても良い。
【0029】
スピーカ駆動部8は、「報知音を成す波形信号を振幅変調した超音波信号(超音波振幅変調部7の出力信号)」に基づいて各超音波スピーカ1を駆動するものであり、各超音波スピーカ1の印加電圧(充放電状態)を制御することで、各超音波スピーカ1から「報知音を成す波形信号を振幅変調した超音波」を発生させるものである。
具体的な一例を示すと、スピーカ駆動部8は、パワーアンプ(あるいはピエゾ素子の充放電装置)であり、超音波振幅変調部7からスピーカ駆動部8に、図4(c)に示す波形信号を与える場合、スピーカ駆動部8は図4(c)に示す波形電圧を超音波発生ユニット3に与えて、各超音波スピーカ1から図4(c)に示す出力波形の超音波を発生させるものである。
【0030】
次に、超音波発生ユニット3の出力レベル(音量)を調整する音圧レベル可変手段9について説明する。
音圧レベル可変手段9は、例えば、
(i)騒音検出センサ(マイクロフォン等)の検出する環境騒音が大きくなるに従ってスピーカ駆動部8の増幅度合(増幅ゲイン)を高めるもの、
(ii)車速センサの検出する車速が速くなるに従ってスピーカ駆動部8の増幅度合(増幅ゲイン)を高めるもの、
(iii)エンジン回転数センサの検出するエンジン回転数の上昇に従ってスピーカ駆動部8の増幅度合(増幅ゲイン)を高めるもの、
(iv)あるいは、上記を複数組み合わせたものよりなる。
【0031】
〔実施例1の特徴技術〕
超音波発生ユニット3は、車外へ向けて超音波を放射するものであるため、複数の超音波スピーカ1の前面は、車外へ向けて取り付けられる。このため、車両走行風等により雨水が超音波スピーカ1に触れる可能性がある。
しかし、超音波スピーカ1は上述したように非防水構造であるため、雨水が侵入する部位に用いることができない。
また、防水のために超音波スピーカ1の前面に樹脂フィルム(防水フィルム)を装着すると、図2(b)に示すように、防水のための樹脂フィルムが超音波の透過を阻止してしまい、結果的にパラメトリックスピーカの性能が極端に低下してしまう。
【0032】
そこで、この実施例の超音波発生ユニット3は、超音波スピーカ1の前面(超音波の放射面)を、本発明にかかる音響シート2で覆い、上記の不具合を解決している。
音響シート2は、「通気性(空気が移動できる性質)」を有し、且つ「防水性(水を通さない性質)」を有する布状もしくは膜状を呈するものである。
音響シート2の具体的な一例を示すと、音響シート2は、通気性を備えるフェルト布(不織布)によって設けられるものであり、このフェルト布は通気性を確保したままで、水を通さないように設けられている。
【0033】
さらに具体的に説明すると、音響シート2は、溌水繊維(疎水性を有する合成繊維)によって設けられたフェルト布、あるいは溌水加工が施されたフェルト布であり、「通気性」を確保しつつ「防水性」を確保するように、このフェルト布における「繊維の密度」および「フェルト布の厚み」が決定されている。
【0034】
溌水繊維によるフェルト布、および溌水加工が施されたフェルト布の製造は周知なものである。
具体的な一例を開示すると、溌水繊維によるフェルト布は、ポリエステル繊維(あるいはポリプロピレン繊維)に疎水性のバインダー繊維を混合して加熱加圧成形し、バインダー繊維を熱で溶かしてポリエステル繊維(あるいはポリプロピレン繊維)を圧縮状態で接着してフェルト布に形成したものである。
また、溌水加工が施されたフェルト布は、製造されたフェルト布に溌水作用の大きい撥水剤(例えば、溌水効果の高いフッ素系樹脂等を含む周知の撥水性有機溶剤)を含浸させたものである。
もちろん、溌水繊維によるフェルト布に溌水加工を施して、防水性能を確保しつつ、通気性を向上させた音響シート2を用いても良い。
【0035】
また、この実施例の音響シート2は、図1(b)に示すように、超音波スピーカ1の直前位置(即ち、ホーン部5の根元部分)に配置されている。このように、音響シート2をホーン部5の根元部分に設けることにより、音響シート2の使用面積を小さく抑えることができ、音響シート2のコストを抑えることができる。
なお、音響シート2の取り付け位置は、超音波スピーカ1の直前位置に限定されるものではなく、雨水が超音波スピーカ1に到達するのを防ぐように、超音波スピーカ1の前面を覆うものであれば良く、例えば、ホーン部5の開口端(開口面積が最も広い部分)や、ホーン部5の途中位置であっても良い。
【0036】
音響シート2の具体的な取付例を説明する。音響シート2は、複数の超音波スピーカ1が組付けられるマウントフレームと略同じ大きさの長方形状を呈するものであり、このマウントフレームと、ホーン部5の根元部分との間で音響シート2の全周囲が挟みつけられることで、音響シート2がホーン部5の根元部分(開口面積が最も狭い部分)の全開口部を覆うように取り付けられるものである。
なお、音響シート2の取り付け例は上記に限定されるものではなく、面ファスナーや着脱可能な嵌合部材(クリップ等)を用いて音響シート2を超音波発生ユニット3に着脱可能に取り付けるものであっても良いし、接着剤等により音響シート2を超音波発生ユニット3に固定するものであっても良い。
【0037】
〔実施例1の作動〕
実施例1の車両存在報知装置の作動を説明する。
この車両存在報知装置は、上述したように、例えばECU等から作動信号が与えられることで作動するものであり、具体的な一例を示すと、
(i)車両の走行中(例えば、前進走行中)において常時作動するもの、
(ii)車両の走行速度が所定速度範囲の場合にのみ作動するもの、
(iii)車両走行中で、車両の走行方向に人の存在が「人の認知システム(図示しない)」によって確認された場合にのみ作動するものである。
【0038】
車両存在報知装置が作動すると、複数の超音波スピーカ1は、図4(c)に示すように、報知音の信号波形を振幅変調した超音波(聞こえない音波)を放射する。
超音波スピーカ1から放射された超音波は、音響シート2を透過して車外へ放出される。
すると、図4(d)に示すように、空気中を超音波が伝播するにつれて、空気の粘性等によって波長に短い超音波が歪んで鈍(なま)される。
その結果、図4(e)に示すように、伝播途中の空気中において超音波に含まれていた振幅成分が自己復調され、結果的に超音波の発生源(車両)から離れた場所で報知音が発生する。
【0039】
〔実施例1の効果〕
実施例1の車両存在報知装置は、上述したように、超音波スピーカ1の前面(超音波の放射面)を、「通気性(空気が移動できる性質)」を有し、且つ「防水性(水を通さない性質)」を有する音響シート2で覆うものである。
音響シート2は、「防水性」を有するため、非防水の超音波スピーカ1を用いても、超音波スピーカ1の防水性を確保することができ、雨水が超音波スピーカ1の内部に侵入するのを防ぐことができる。
【0040】
また、音響シート2は、「通気性」を確保するための「隙間(空気が移動可能な隙間)」を有するため、超音波スピーカ1から放射された超音波が「隙間」を通って外部に放射される。
さらに、この実施例では、音響シート2をフェルト布で構成している。このため、フェルト布を構成する繊維が、図2(c)に示すように、「脳のニューロンのような構造により、全ての周波数の音波の伝達を行なうこと」によって超音波も透過させる。
このように、音響シート2は、波長が極めて短い超音波の透過性に優れるため、超音波スピーカ1の放射した超音波を、音響シート2が減衰させることなく外部へ放射し、パラメトリックスピーカの性能低下を抑えることができる。
【0041】
この実施例1の具体的な効果例を、図5の周波数特性を参照して説明する。
この図5は、パラメトリックスピーカにより得られた可聴音(超音波スピーカ1から放射された超音波が空気中で自己変調された可聴音)の周波数特性を示すものであり、音響シート2の有無、および音響シート2に代えて他の材質を配置した場合における周波数特性の比較例である。
具体的に、
(a)超音波スピーカ1の前面に何も装着しない場合の周波数特性を実線A、
(b)音響シート2に代えて隙間が大きく防水性が全くない金網を配置した場合の周波数特性を実線B、
(c)音響シート2に代えて隙間が大きく防水性が全くない樹脂メッシュ(プレフィルタ)を配置した場合の周波数特性を実線C、
(d)音響シート2に代えて「防水性」を有し、「透湿性(蒸気透過性)」を有し、「通気性」の無いゴアテックス(WLゴア&アソシエイツ社の商標)を配置した場合の周波数特性を実線D、
(e)音響シート2に代えて「防水性」を有し、「透湿度性(蒸気透過性)」が無く、「通気性」の無い樹脂フィルムの一例である食品包装用ラップフィルムを配置した場合の周波数特性を実線E、
(f)撥水性のフェルト布よりなる音響シート2を配置した場合の周波数特性を実線Fに示すものである。
【0042】
この図5の比較データから明らかなように、通気性を有しないゴアテックス(実線D)やサランラップ(実線E)は、超音波が透過し難いため、パラメトリックスピーカの性能が著しく低下してしまう。
一方、防水性が全く無い金網(実線B)や樹脂メッシュ(実線C)は、隙間が大きく超音波の透過性に優れるため、何も装着しない場合(実線A)と略同等で、パラメトリックスピーカの性能低下を招かない。しかし、非防水の超音波スピーカ1に雨水が到達してしまい、防水の役目を果たさない。
これに対し、本発明にかかる音響シート2(実線F)は、防水性を果たすとともに、通気性を有するため、非防水の超音波スピーカ1に雨水が到達することがなく、かつ金網(実線B)や樹脂メッシュ(実線C)と同様に、超音波の透過性に優れ、パラメトリックスピーカの性能低下を招かない。
【0043】
上述したように、この実施例1の車両存在報知装置は、非防水の超音波スピーカ1の防水性を確保しつつ、パラメトリックスピーカの性能低下を抑え、パラメトリックスピーカにより車外に報知音を発生させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上記の実施例では、「通気性」を有し、且つ「防水性」を有する音響シート2の一例としてフェルト布を用いる例を示したが、フェルト布に限定されるものではない。具体的な一例を示すと、溌水繊維による糸により適宜な荒さに織られた織布、あるいは溌水加工を施した織布によって音響シート2を設けても良い。その場合、音響シート2を成す織布は、1枚であっても良いし、複数枚を重ねたものであっても良い。もちろん、フェルト布と織布を重ねて音響シート2を構成しても良い。
【0045】
上記の実施例では、音響シート2を1箇所(実施例ではホーン部5の根元部分)のみに設ける例を示したが、音響シート2を複数箇所に設けて超音波スピーカ1の防水を行なっても良い。具体的な一例を示すと、「ホーン部5の根元部分(開口面積が最も狭い部分)」と「ホーン部5の開口端(開口面積が最も広い部分)」のそれぞれに音響シート2を設けて防水性能を高めても良い。
【符号の説明】
【0046】
1 超音波スピーカ
2 音響シート
6 報知音信号発生部
7 超音波振幅変調部
8 スピーカ駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
報知音によって車両の存在を知らせる車両存在報知装置において、
この車両存在報知装置は、報知音をパラメトリックスピーカにより車外へ向けて放出するものであり、
前記パラメトリックスピーカは、車外へ向けて超音波を発生可能な非防水の超音波スピーカ(1)を備え、
前記超音波スピーカ(1)における超音波の放射面は、通気性を有し、且つ防水性を有する音響シート(2)で覆われることを特徴とする車両存在報知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両存在報知装置において、
前記音響シート(2)は、溌水繊維によって設けられたフェルト布、あるいは溌水加工が施されたフェルト布であることを特徴とする車両存在報知装置。
【請求項3】
請求項1〜請求項2のいずれかに記載の車両存在報知装置において、
前記パラメトリックスピーカは、
超音波を発生可能な超音波スピーカ(1)と、
報知音を成す波形信号を発生する報知音信号発生部(6)と、
この報知音信号発生部(6)で発生した波形信号を、超音波周波数で発振する電圧または電流の振幅変化に変調する超音波振幅変調部(7)と、
この超音波振幅変調部(7)で振幅変調された超音波周波数の振幅信号によって前記超音波スピーカ(1)を駆動するスピーカ駆動部(8)と、
を具備することを特徴とする車両存在報知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−166424(P2011−166424A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26487(P2010−26487)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】