説明

車両機器搭載構造

【課題】衝突時において、電力制御装置と電力制御装置近傍に配置した補機バッテリとが干渉することなく、補機バッテリが電力制御装置の横をすり抜けて後方へ移動する車両機器搭載構造を提供する。
【解決手段】エンジンコンパートメント20には、ハイブリッド車両の両脇に設けられ車両骨格部材であるサイドメンバ15と、サイドメンバ15に接続されたスプリングサポート16と、サイドメンバ15先端に接続されたフロントバンパリンホースメント18と、エンジン11と、エンジン11に接続されたモータケース12と、モータケース12から伸びる車軸25と、モータケース12上に固定されたPCU13と、サイドメンバ15上に潰れ方向に移動可能な支持台23、載置台21及び固定具22によって固定された補機バッテリ14と、フロント部に取り付けられたラジエータ17と、が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室より前方に設けられた区画に、車両を駆動する回転電機を収容したモータケースを配置し、回転電機の制御を行う電力制御装置と、電力制御装置の制御部に電力を供給する補機バッテリと、を搭載する車両機器搭載構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータジェネレータなどの回転電機からの駆動力により車両を駆動する電気自動車、内燃機関であるエンジンと組み合わせたハイブリッド自動車、及び、燃料電池により発電した電力により車両を駆動する燃料電池自動車等が知られている。このような車両は、主バッテリ又は燃料電池から電力の供給を受け、モータジェネレータ(以下、モータとも呼ぶ)への電力を制御する昇圧コンバータやインバータ等を有する電力制御装置を有している。
【0003】
電力制御装置は、PCU(パワーコントロールユニット)とも呼ばれ、高電圧・高電流を扱うため、モータジェネレータの近くであるエンジンコンパートメントに搭載する必要がある。このため、モータジェネレータでエンジンを起動するハイブリッド車両では、エンジン起動用の補機バッテリはエンジン近傍に配置する必要がないこと、及び、エンジンコンパートメントのスペースの都合により、補機バッテリをラゲージルームに配置していた。近年、高電圧機器の小型化が進むことで、補機バッテリをエンジンコンパートメント内、かつ、電力制御装置の近傍に配置することが可能になり、ラゲッジルームまで引き回していたケーブルを削減することで重量低減やコストダウンが可能となった。
【0004】
しかしながら、補機バッテリを電力制御装置の近傍に配置する場合には、車両の衝突時における電力制御装置の保護・急速放電を円滑に行うため、補機バッテリと電力制御装置との干渉を避けることが望まれている。また、補機バッテリは12ボルトと比較的低電圧であるため破損による被害が少ないものの、数百ボルトの高電圧を制御する電力制御装置の損傷は最小限に抑えることが望まれている。
【0005】
そこで、特許文献1には車両衝突時において、バリア(障害物)侵入により補機バッテリが後方へ移動することで補機バッテリからガイド面を介して伝達される荷重により、リレーボックスが上方に移動して車体から分離する離脱機構を有し、この機構によりバッテリがスムーズに後方へ移動する構造が開示されている。このようなリレーボックスの離脱構造を有することにより、衝突の衝撃で移動する他部材と車両用機器とが干渉するのを防止して衝撃吸収性能を高めることができる。他方、特許文献2には車両衝突時において、電力制御装置自身を保護するために電力制御装置の前端がモータケース前端よりも車両後方側に奥まった位置に搭載し、電力制御装置の車両後方側に電動圧縮機を配置する機器搭載構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−362254号公報
【特許文献2】特開2010−158991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1又は2に記載されている構造では、離脱機構や電力制御装置を車両後方のモータケース上の奥まった所に配置することで、モータケース前方に生まれるスペースを活用して補機バッテリを搭載することが可能となる。しかしながら、モータケース前方に補機バッテリを配置する構造では、車両衝突時において、電力制御装置の保護・急速放電を実現するために、補機バッテリの車両後方に位置する電力制御装置を安全に移動させるような離脱機構を設けることが必要となり、さらなるコストアップとなる。
【0008】
そこで、本発明に係る車両機器搭載構造は、衝突時において、電力制御装置と電力制御装置近傍に配置した補機バッテリとが干渉することなく、補機バッテリが電力制御装置の横をすり抜けて後方へ移動する車両機器搭載構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る車両機器搭載構造は、車室より前方に設けられた区画に、車両を駆動する回転電機を収容したモータケースを配置し、回転電機の制御を行う電力制御装置と、電力制御装置の制御部に電力を供給する補機バッテリと、を搭載する車両機器搭載構造において、モータケース上に電力制御装置を固定する固定手段と、潰れ方向に潰れることで衝撃荷重を吸収する車両骨格部材に補機バッテリを接続する接続手段と、を有し、接続手段は潰れ方向に変位自在な変位部材を備え、電力制御装置と補機バッテリとが潰れ方向に一部重なりを持つように、補機バッテリを電力制御装置の車両前方側に配置し、衝撃荷重により補機バッテリが電力制御装置の横をスライド移動自在に搭載したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る車両機器搭載構造において、接続手段は、補機バッテリの前端部が電力制御装置の前端部よりも車両前方側となるように補機バッテリを車両骨格部材に接続したことを特徴とする。このような配置にすることにより、電力制御装置よりも先に補機バッテリが衝撃を吸収することになり、電力制御装置へのダメージを低減させることが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る車両機器搭載構造において、補機バッテリの一部が電力制御装置の側方側に位置するように接続手段によって配置されたことを特徴とする。このような配置にすることにより、補機バッテリが電力制御装置の側方にガイドされることにより姿勢を崩すことなく移動することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る車両機器搭載構造において、接続手段は、変形部材の変形により潰れ方向にスライド自在であり、衝撃荷重による車両骨格部材の潰れを阻害することなく、補機バッテリを移動させることを特徴とする。このように接続手段は、車両骨格部材の潰れによる変位と接続手段自身の変位により補機バッテリを移動させることが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る車両機器搭載構造において、接続手段は、少なくとも2箇所の変位部材によって車両骨格部材に接続されていることを特徴とする。補機バッテリは接続手段の変位部材によって接続されているため、車両骨格部材の潰れを阻害することがない。
【0014】
さらに、本発明に係る車両機器搭載構造において、モータケースは2つの回転電機を有する複軸式トランスアクスルであることを特徴とする。複軸式トランスアクスルは車両前後方向に所定の寸法を有することから、電力制御装置をトランスアクスル上に搭載することが容易である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車両機器搭載構造を用いることにより、電力制御装置がモータケースの上に配置され、補機バッテリが電力制御装置と車両前後方向に一部重なり合うように車両骨格部材のサイドメンバ上に配置される。この搭載構造により、エンジンコンパートメントのスペースを活用することができるという効果がある。また、衝突時において、バリアが車両骨格部材と補機バッテリの支持台とを潰しながらエンジンコンパートメントに侵入することで、補機バッテリが電力制御装置の脇をすり抜けるように移動し、補機バッテリと電力制御装置との干渉が回避されることで電力制御装置が保護され、電力制御装置の急速放電が可能となるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る車両機器搭載構造を示すエンジンコンパートメントの上面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両機器搭載構造を示すエンジンコンパートメントの側面図である。
【図3】図1に示したエンジンコンパートメントにバリアが侵入した状態の説明図である。
【図4】図2に示したエンジンコンパートメントにバリアが侵入した状態の説明図である。
【図5】図4に示した補機バッテリの斜視図である。
【図6】図5に示した補機バッテリを支持する支持台の斜視図である。
【図7】他の実施形態に係る補機バッテリを支持する支持台の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0018】
図1はハイブリッド車両10のエンジンコンパートメント20を示し、モータケース12上面に配置されたPCU13と補機バッテリ14との車両機器搭載構造を示している。図1を用いてエンジンコンパートメント20の構造を概説する。エンジンコンパートメント20には、ハイブリッド車両10の両脇に設けられ車両骨格部材であるサイドメンバ15と、サイドメンバ15に接続されたスプリングサポート16と、サイドメンバ15先端に接続されたフロントバンパリンホースメント18と、エンジン11と、エンジン11に接続されたモータケース12と、モータケース12から伸びる車軸25と、モータケース12上に固定されたPCU13と、サイドメンバ15上に支持台23、載置台21及び固定具22によって固定された補機バッテリ14と、フロント部に取り付けられたラジエータ17と、が設けられている。ここで、PCU13はモータケース12にボルトによって固定されているのに対し、補機バッテリ14は衝撃荷重によって移動可能な構造になっている。
【0019】
本実施形態に係る車両機器搭載構造において特徴的な事項の一つは、補機バッテリ14の前端部がPCU13の前端部よりも車両前方側となるように補機バッテリ14をサイドメンバ15に接続したことである。このような配置にすることで、PCUを保護することが可能となる。他の事項の一つは、上記の配置構造とすることで、補機バッテリ14の側面とPCU13の側面とが一部重なることにより、PCU13より小さい補機バッテリ14の進行方向が規定されることである。さらに、他の事項の一つは、補機バッテリ14の一部がPCU13の側方側に配置されることにより、衝突荷重が加わった場合において、補機バッテリ14がPCU13の横をすり抜けることでPCU13を保護する構造としたことである。このような構造とするため、本実施形態では、補機バッテリ14の取り付け位置と、補機バッテリ14の支持構造と、に工夫を施している。
【0020】
図2は図1の側面図を示し、モータケース12上面に配置されたPCU13と補機バッテリ14との車両機器搭載構造を示している。なお、図1で説明した構造に関しては説明を省略する。補機バッテリ14は、サイドメンバ15に固定された支持台23と、支持台23の上に載置された載置台21と、補機バッテリ14の上部を固定する固定具22と、固定具22を支持台23に固定するするJボルト24と、によりサイドメンバ15上に固定されている。補機バッテリ14の固定位置は、PCU13の前方より車両前方側かつ、潰れ変位長さを考慮した距離だけ前方に配置されている。潰れ変位長さは、衝撃荷重が加わった場合、支持台23はサイドメンバ15の潰れを阻害することなく車両後方向に潰れることで、フロントバンパリンホースメント18の潰れ変位とあいまって十分な衝突荷重の吸収が可能な距離が設定されている。
【0021】
図3は図1に示したエンジンコンパートメント20にバリアが侵入した前方オフセット衝突状態を示し、図4はその状態における側面図を示している。バリアが衝撃荷重を伴って車両右側半分に侵入することにより、最初にフロントバンパリンホースメント18とラジエータ17とが潰れ、次にサイドメンバ15とフロントエプロンと補機バッテリの支持台23とが潰れる。さらに、バリアがエンジン11又はモータケース12に衝突することになる。この変形及び衝突により補機バッテリ14はPCU13の側面に沿ってPCU13とほぼ同じ位置まで移動することになり、結果としてPCU13と補機バッテリ14との衝突が回避できる。このように潰れが連続的に発生することにより、衝撃荷重がエンジンコンパートメント20及び搭載機器によって吸収され、PCU13の保護及び急速放電が可能となる。次に、補機バッテリ14の固定構造について詳説する。
【0022】
図5は図4に示した補機バッテリ14の斜視図である。補機バッテリ14はサイドメンバに固定された支持台23の上に取り付けられている。補機バッテリ14の上面には、補機バッテリ14を固定する固定具22が2本のJボルト24とナット31によって支持台23に接続され、補機バッテリ14はこの2本のJボルト24とナット31により、支持台23の上に載置台21を介して固定されている。ここで、支持台23は、補機バッテリ14の重量を支えるために必要な垂直方向の強度を有しているものの、潰れ方向に対しては、サイドメンバ15の潰れを阻害しない構造を有し、補機バッテリ14上面を押さえる固定具22と2本のJボルト24は支持台23の変形とサイドメンバ15との変形により、潰れ方向に平行移動する構造を有している。次に、支持台23の構造について詳説する。
【0023】
図6は図5に示した補機バッテリを支持する支持台23の斜視図を示している。支持台23は、4箇所の固定部33によりサイドメンバ15の側面に固定されている。支持台23は、薄板のプレス加工により形成され、図中大きな矢印で示した衝突荷重が加わるとサイドメンバ15の潰れと共に、平行四辺形が前後・水平方向に潰れるように伸縮する伸縮部と、伸縮部の伸縮を予め決められた荷重までは阻害するように平行四辺形の対角に設けられた阻害部32と、を有している。阻害部32は、支持台23の強度を保つためのものであり、阻害部32によって防振と強度を保つことができる。さらに、阻害部32は衝撃荷重により引張り荷重により引き延ばされ、破断するまで変形することで伸縮部の変形を許容する。このとき、Jボルト係止部35に係止されているJボルト24は、伸縮部の変形により相対位置が潰れ方向に移動し、反対側のJボルト24はJボルト移動部36の上を滑るように移動することで補機バッテリ14を潰れ方向に移動させることになる。このように補機バッテリ14の方向を変えることなく潰れ方向に平行移動させることでPCUの側面をすり抜けることが可能となる。次に、サイドメンバをまたぐように補機バッテリを配置する実施形態について詳説する。
【0024】
図7は他の実施形態に係る補機バッテリを支持する支持台26の斜視図を示している。図7に示す支持台26は、4本の足部27,28と足部によって支持されている載置面29と載置面に形成されたJボルト係止部35,37と、により4箇所の固定部34にてサイドメンバ15をまたぐようにして固定されている。このため、衝撃荷重が加わった場合、潰れ方向に対しては比較的簡単に潰れるように4本の足部には凸状プレス加工部37を設けることにより、防振と強度確保がなされている。このような形状にすることにより、図中左下の変形図に示すように衝撃荷重が加わった場合、折曲げ部が変形して平行四辺形が前後・垂直方向に伸縮することで、補機バッテリの向きを変えることなく補機バッテリを潰れ方向に移動させることが可能となる。
【0025】
以上、上述したように、本実施形態に係る車両機器搭載構造を用いることにより、電力制御装置がモータケースの上に配置され、補機バッテリが電力制御装置と車両前後方向に一部重なり合うように車両骨格部材のサイドメンバ上に配置され、エンジンコンパートメントのスペースを活用することが可能となる。また、衝突時において、バリアが車両骨格部材と補機バッテリの支持台とを潰しながらエンジンコンパートメントに侵入することで、補機バッテリが電力制御装置の脇をすり抜けるように移動し、補機バッテリと電力制御装置との干渉が回避されることで電力制御装置が保護され、電力制御装置の急速放電が可能である。なお、本実施形態で示した支持台は、伸縮部を有しているが、これに限らず、サイドメンバ上のガイド溝を移動する構造とすることもできる。
【符号の説明】
【0026】
10 ハイブリッド車両、11 エンジン、12 モータケース、13 PCU、14 補機バッテリ、15 サイドメンバ、16 スプリングサポート、17 ラジエータ、18 フロントバンパリンホースメント、20 エンジンコンパートメント、21 載置台、22 固定具、23,26 支持台、24 ボルト、25 車軸、27,28 足部、29 載置面、31 ナット、32 阻害部、33,34 固定部、35,37 ボルト係止部、36 ボルト移動部、37 凸状プレス加工部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室より前方に設けられた区画に、車両を駆動する回転電機を収容したモータケースを配置し、回転電機の制御を行う電力制御装置と、電力制御装置の制御部に電力を供給する補機バッテリと、を搭載する車両機器搭載構造において、
モータケース上に電力制御装置を固定する固定手段と、
潰れ方向に潰れることで衝撃荷重を吸収する車両骨格部材に補機バッテリを接続する接続手段と、
を有し、
接続手段は潰れ方向に変位自在な変位部材を備え、
電力制御装置と補機バッテリとが潰れ方向に一部重なりを持つように、補機バッテリを電力制御装置の車両前方側に配置し、衝撃荷重により補機バッテリが電力制御装置の横をスライド移動自在に搭載したことを特徴とする車両機器搭載構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両機器搭載構造において、
接続手段は、補機バッテリの前端部が電力制御装置の前端部よりも車両前方側となるように補機バッテリを車両骨格部材に接続したことを特徴とする車両機器搭載構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両機器搭載構造において、
補機バッテリの一部が電力制御装置の側方側に位置するように接続手段によって配置されたことを特徴とする車両機器搭載構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両機器搭載構造において、
接続手段は、変形部材の変形により潰れ方向にスライド自在であり、衝撃荷重による車両骨格部材の潰れを阻害することなく、補機バッテリを移動させることを特徴とする車両機器搭載構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両機器搭載構造において、
接続手段は、少なくとも2箇所の変位部材によって車両骨格部材に接続されていることを特徴とする車両機器搭載構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両機器搭載構造において、
モータケースは2つの回転電機を有する複軸式トランスアクスルであることを特徴とする車両機器搭載構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158312(P2012−158312A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21314(P2011−21314)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】