説明

車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置

【課題】エアタンク内の圧力が設定圧力を超えるとエンジンからの動力を自動的に切り離してエアコンプレッサの空回りを防止することができる車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置を提供する。
【解決手段】車両用エンジン2により駆動される車両用エアコンプレッサ1と、該エアコンプレッサ1から突出される圧縮空気を吐出管15を介して蓄圧するエアタンク16と、前記車両用エンジン2の動力取出し部4と前記エアコンプレッサ1の入力軸8aとの間に設けられ動力の伝達を断接するクラッチ17を有する動力伝達機構3とを備え、前記動力伝達機構3は、前記エアタンク16内又は前記吐出管内15の圧力が設定圧力以下のときに前記クラッチ17を接にし、設定圧力を超えたときに前記クラッチ17を断にするように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように車両用エンジン2の駆動軸40により駆動されるエアコンプレッサ1は、吸い込み口10に設けられ吸い込み時にのみ開く吸い込み弁12、及び吐出口11に設けられ吐出時にのみ開く吐出弁14を有するシリンダ5と、このシリンダ5内で往復運動をするピストン7と、エンジン2の駆動軸40の回転運動をピストン7の往復運動に変換するクランク軸8のクランク部8a及びピストン7のコンロッド9からなる変換機構6とにより構成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記吸い込み弁12及び前記吐出弁14を有するシリンダ5の内部をピストン7が往復運動をすると、図4の(a)に示すようにシリンダ5内の容積が広がるときに吸い込み弁12が開いて空気がシリンダ5内に吸い込まれ、この状態から容積が縮まるときに吸い込み弁12が閉じ、空気が圧縮される。そして、図4の(b)に示すようにその圧縮空気の圧力で吐出弁14が開き、圧縮空気が吐出口11から吐出される。前記圧縮空気は、吐出管15を介してエアタンク内に蓄圧され、例えば車両のブレーキを遠隔で作動させる作動流体として用いられる。
【0004】
前記圧縮空気を設定圧力に保つために、図4の(c)に示すように吸い込み口10側にはエアタンク側の圧力により駆動されるアンロードバルブ50が設けられ、エアタンク内の圧力が設定圧力を超えると、アンロードバルブ50が作動して前記吸い込み弁12が強制的に開弁されるため、シリンダ5内の空気が吸い込み口10から逃げ、ピストン7による空気の圧縮が行われなくなり、エアコンプレッサは空回り(空運転)となり、圧縮空気がエアタンク内に送られなくなる。
【0005】
一方、エアタンク内及びコンプレッサからエアタンクまでの吐出管内(吐出管内を含めて以下単にエアタンク内という)の圧力が設定圧力を下回ると、図4の(b)に示すようにアンロードバルブ50が非作動になることで吸い込み弁12が閉弁するため、ピストン7による空気の圧縮が再開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−105387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述したような従来の車両用のエアコンプレッサにおいては、エンジン2の駆動軸40に直接繋がっているため、エアタンク内の圧力が設定圧力を超えても、ピストン7が常に往復運動をしている。そのため、エンジンは駆動損失を生じている。この駆動損失は、一般的な10トン以上の車両で最大でエンジンの出力の0.8%に相当しており、燃費に影響を与えている。
【0008】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、エアタンク内の圧力が設定圧力を超えるとエンジンからの動力を自動的に遮断してエアコンプレッサの空回りを防止することができる車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、車両用エンジンにより駆動される車両用エアコンプレッサと、該エアコンプレッサから吐出される圧縮空気を吐出管を介して蓄圧するエアタンクと、前記車両用エンジンの動力取出し部と前記エアコンプレッサの入力軸との間に設けられ動力の伝達を断接するクラッチを有する動力伝達機構とを備え、前記動力伝達機構は、前記エアタンク内の圧力が設定圧力以下のときに前記クラッチを接にし、設定圧力を超えたときに前記クラッチを断にするように構成されていることを特徴とする。
【0010】
前記動力伝達機構は、前記吐出管から圧縮空気を取り入れる制御用シリンダと、該制御用シリンダ内に往復移動可能に設けられた制御用ピストンと、該制御用ピストンを前記圧縮空気の圧力に抗して設定圧力で付勢するバネと、該バネの付勢力による制御用ピストンの移動で前記クラッチを接にし、前記バネの付勢力に抗する制御用ピストンの移動で前記クラッチを断にするリンク機構とを備えていることが好ましい。
【0011】
前記クラッチは、ダイアフラムのバネ力により前記動力取出部に対して動力入力部を押圧又は離反されるダイアフラム式クラッチであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エアタンク内の圧力が設定圧力を超えるとエンジンからの動力を自動的に遮断してエアコンプレッサの空回りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置の一例を示す図である。
【図2】図1のA部を概略的に示す図である。
【図3】同自動空回り防止装置の作動・非作動状態を示す図で、(a)は非作動状態の図、(b)は作動状態の図ある。
【図4】従来の車両用エアコンプレッサを示す図で、(a)は吸い込み弁が開いた状態の図、(b)は吐出弁が開いた状態の図、(c)はアンロードバルブが作動した状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0015】
図1において、1は車両用エンジン2により駆動される車両用エアコンプレッサであり、このエアコンプレッサ1とエンジン2との間にはエアコンプレッサ1の自動空振り防止装置を構成する動力伝達機構3が設けられている。前記エンジン2はクランク軸と直接又は歯車機構等を介して間接的に接続された動力取出し部4を有している。
【0016】
前記エアコンプレッサ1は、シリンダ5及び変換機構室6を有するエアコンプレッサ本体1aと、そのシリンダ5内に摺動可能に挿入されたピストン7と、回転運動をピストン7の往復運動に変換するべく前記変換機構室6内に回転可能に支持されたクランク軸8と、そのクランク軸8のクランク部8aとピストン7を結ぶコンロッド9とを備えている。前記クランク軸8の一端が入力軸8bになっている。前記シリンダ5のヘッド部にはシリンダ5内に空気を吸い込む吸い込み口10と、ピストン7により圧縮された圧縮空気を吐き出す吐出口11とが設けられている。
【0017】
前記吸い込み口10には吸い込み時にのみ開く吸い込み弁12を介して吸引管13が接続され、この吸引管13は図示しないエアフィルタを介して大気に開放されている。前記吐出口11には吐出時にのみ開く吐出弁14を介して吐出管15が接続され、この吐出管15はエアタンク16に接続されている。
【0018】
前記エンジン2の動力取出し部4と前記エアコンプレッサ1の入力軸8bとの間には動力の伝達を断接するクラッチ17を有する動力伝達機構3が設けられ、この動力伝達機構3は、前記エアタンク16内の圧力が設定圧力以下のときに前記クラッチ17を接にし、設定圧力を超えたときに前記クラッチ17を断にするように構成されている。
【0019】
更に具体的に説明すると、前記動力伝達機構3は、前記吐出管15から分岐管18を介して圧縮空気を取り入れる制御用シリンダ19と、該制御用シリンダ19内に往復移動可能に設けられた制御用ピストン20と、該制御用ピストン20を前記圧縮空気の圧力に抗して設定圧力で付勢するバネ21と、該バネ21の付勢力による前記制御用ピストン20の移動で図3(a)に示すように前記クラッチ17を接にし、前記バネ21の付勢力に抗する制御用ピストン20の移動で図3(b)に示すように前記クラッチ17を断にするリンク機構22とを備えている。
【0020】
前記クラッチ17は、例えばダイアフラム23のバネ力により前記動力取出部4に対して動力入力部24を押圧(接)又は離反(断)される周知のダイアフラム式クラッチからなっていることが好ましい。本実施形態のダイアフラム式クラッチは、例えば図2に概略的に示すようにクランク軸8の入力軸8bにスプライン25を介して軸方向に移動可能に嵌合された内輪26と、該内輪26にボールベアリング27を介して回転可能に支持された外輪からなる操作輪28と、該操作輪28よりもエンジン2側に突出した前記内輪26のフランジ部26aに裁頭円錐状のダイアフラム23とを有し、該ダイアフラム23の周縁部が有底円筒状の動力入力部24の筒状部24aの内周縁部に固定されている。
【0021】
このダイアフラム式クラッチを操作するために、前記操作輪28の両側部に突軸29を介してレバー部材30が軸支され、該レバー部材30の基部が固定部31に支軸32を介して軸支され、レバー部材30の他端には前記制御用ピストン20のロッド部20aが連結リンク33を介して連結されている。
【0022】
ここで、前記ダイアフラム式クラッチの動きを説明すると、前記分岐管18を介して制御用シリンダ19内に導入される圧縮空気の圧力が設定圧力を下回る場合、図3(a)に示すように制御用ピストン20がバネ21により上方に付勢されているため、連結リンク33及びレバー部材30を介して操作輪28がエアコンプレッサ1側に移動されており、ダイアフラム23はエアコンプレッサ1側に突出している。このダイアフラム23の押圧力で動力入力部24が動力取出し部4に押圧されており、クラッチ17が接の状態にある。
【0023】
これに対して、圧縮空気の圧力が設定圧力を超えると、図3(b)に示すように制御用シリンダ19内の制御用ピストン20がバネ21に抗して下方に移動されるため、連結リンク33及びレバー部材30を介して操作輪28がエンジン2側に移動され、これに伴いダイアフラム23がエンジン2側に反転して突出する。このダイアフラム23の反転により動力入力部24がエアコンプレッサ1側に移動されて動力取出し部4から離反するため、クラッチ17が断の状態になる。
【0024】
なお、この状態から前記圧縮空気の圧力が設定圧力を下回ると、制御用シリンダ19内の制御用ピストン20がバネ21により上方に移動されることにより操作輪28がエアコンプレッサ1側に移動されるのに対し、動力入力部24が支軸32に当接してエアコンプレッサ1側に移動できないため、ダイアフラム23のみがエアコンプレッサ1側に反転して突出し、このダイアフラム23の押圧力で図3(a)に示すように動力入力部24が動力取出し部4に押圧され、クラッチ17が接の状態になる。
【0025】
このように、本実施形態の車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置によれば、車両用エンジン2により駆動される車両用エアコンプレッサ1と、該エアコンプレッサ1から吐出される圧縮空気を吐出管15を介して蓄圧するエアタンク16と、前記車両用エンジン2の動力取出し部4と前記エアコンブレッサ1の入力軸8bとの間に設けられ動力の伝達を断接するクラッチ17を有する動力伝達機構3とを備え、前記動力伝達機構3は、前記エアタンク16内の圧力が設定圧力以下のときに前記クラッチ17を接にし、設定圧力を超えたときに前記クラッチ17を断にするように構成されているため、エアタンク16内の圧力が設定圧力を超えるとエンジン2からの動力を自動的に遮断してエアコンプレッサ1の空回りを防止することができる。これにより、エンジンの駆動損失を抑制でき、燃費の向上が図れる。
【0026】
また、前記動力伝達機構3は、前記吐出管15から圧縮空気を取り入れる制御用シリンダ19と、該制御用シリンダ19内に往復移動可能に設けられた制御用ピストン20と、該制御用ピストン20を前記圧縮空気の圧力に抗して設定圧力で付勢するバネ21と、該バネ21の付勢力による制御用ピストン20の移動で前記クラッチ17を接にし、前記バネ21の付勢力に抗する制御用ピストン20の移動で前記クラッチ17を断にするリンク機構22とを備えているため、簡単な構成でクラッチ17の断接を確実に行うことができる。
【0027】
前記クラッチ17は、ダイアフラム23のバネ力により前記動力取出部4に対して動力入力部24を押圧又は離反されるダイアフラム式クラッチからなるため、構造の簡素化及びコストの低減が図れる。
【0028】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。例えば動力伝達機構は、エアタンク内の圧力を圧力センサにより検出し、その検出信号に基いて制御装置が駆動装置を介して前記クラッチを断接するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 エアコンプレッサ
2 エンジン
3 動力伝達機構
4 動力取出し部
15 吐出管
16 エアタンク
17 クラッチ
19 制御用シリンダ
20 制御用ピストン
21 バネ
22 リンク機構
23 ダイアフラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用エンジンにより駆動される車両用エアコンプレッサと、該エアコンプレッサから吐出される圧縮空気を吐出管を介して蓄圧するエアタンクと、前記車両用エンジンの動力取出し部と前記エアコンプレッサの入力軸との間に設けられ動力の伝達を断接するクラッチを有する動力伝達機構とを備え、前記動力伝達機構は、前記エアタンク内又は前記吐出管内の圧力が設定圧力以下のときに前記クラッチを接にし、設定圧力を超えたときに前記クラッチを断にするように構成されていることを特徴とする車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置。
【請求項2】
前記動力伝達機構は、前記吐出管から圧縮空気を取り入れる制御用シリンダと、該制御用シリンダ内に往復移動可能に設けられた制御用ピストンと、該制御用ピストンを前記圧縮空気の圧力に抗して設定圧力で付勢するバネと、該バネの付勢力による制御用ピストンの移動で前記クラッチを接にし、前記バネの付勢力に抗する制御用ピストンの移動で前記クラッチを断にするリンク機構とを備えていることを特徴とする請求項1記載の車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置。
【請求項3】
前記クラッチは、ダイアフラムのバネ力により前記動力取出部に対して動力入力部を押圧又は離反されるダイアフラム式クラッチであることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用エアコンプレッサの自動空回り防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−163214(P2011−163214A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26853(P2010−26853)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】