説明

車両用エアバッグ装置

【課題】 車両衝突時に左右に分かれてチャイルドシートを挟み込むように展開膨張する左右の膨張部を備えた車両用エアバッグ装置において、該チャイルドシートに着座している乳幼児に対して不快感を増大させないような車両用エアバッグ装置を提供する。
【解決手段】 助手席2に装着されるチャイルドシート4を左右から挟み込むように展開膨張するエアバッグ11の左右の膨張部13,14において、それぞれ、対向する部分の所定範囲Pにガス抜け止め防止用の塗料を塗布する。これにより、前記チャイルドシート4に着座している乳幼児に対して前記エアバッグ11から抜け出すガスの量を少なくすることができ、該乳幼児に与える不快感を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時に乗員を保護するための車両用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両衝突時の衝撃から乗員を保護するための車両用エアバッグ装置として、例えば特許文献1に開示されるように、エアバッグが上面視で左右に分かれて展開膨張するように構成されたものが知られている。このものでは、車両後方に向かって展開膨張するエアバッグの左右の膨張部をテザーによって連結して、乗員の受ける衝撃を吸収する際に、該左右の膨張部が車幅方向に離間しないようにしている。
【0003】
ところで、車両用エアバッグ装置を助手席の前方に設ける場合、従来のような丸形のエアバッグであれば、助手席にチャイルドシートを後ろ向きに装着すると、エアバッグを展開膨張させる際にチャイルドシートのシートバックの車両前方側の面に強い衝撃を与えるなどの問題が生じるため、チャイルドシートの装着状態をセンサ等によって検出して、該チャイルドシートが後ろ向きに装着されている場合には車両用エアバッグ装置を作動させないようにする必要があった。
【0004】
これに対して、上述のような構成の車両用エアバッグ装置を助手席の前方に設けることで、チャイルドシートの装着状態を検出する必要がなくなる。すなわち、上述のようにエアバッグが左右に分かれて展開膨張するような車両用エアバッグ装置であれば、チャイルドシートが後ろ向きに装着されている場合でも、エアバッグは該チャイルドシートのシートバックを避けるように且つ該チャイルドシートを包み込むように左右に分かれて展開膨張するため、チャイルドシートのシートバックの車両前方側の面に強い衝撃を与えることなく、該チャイルドシートに着座した乳幼児を確実に保護することができるようになる。
【特許文献1】特開2003−335203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような車両用エアバッグ装置では、エアバッグを展開膨張させる際に、その内部にインフレータからガスを供給する必要があるが、そのガスは、通常、該インフレータ内のガス発生剤を燃焼させることによって発生するため、エアバッグ内に供給された直後のガスは比較的、高温になっている。また、チャイルドシートを助手席に後ろ向きに装着した場合には、該チャイルドシートに着座している乳幼児は比較的、前方側に位置することになるため、該乳幼児の周囲に展開するエアバッグ内のガスの温度は比較的高く、そのガスの熱が乳幼児に伝わると、該乳幼児の不快感を増大させる可能性がある。
【0006】
ここで、乳幼児にエアバッグ内のガスの熱が伝わる場合として、エアバッグの乳幼児への接触以外に、該エアバッグから抜け出したガスが乳幼児に対して直接吹き付けられた場合などが考えられる。すなわち、前記車両用エアバッグ装置のエアバッグは布製であるため、その内部にガスが供給されると、そのガスはエアバッグ表面や縫い目等から外部に抜け出して、チャイルドシートに着座している乳幼児に吹き付けられる。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両衝突時に左右に分かれてチャイルドシートを挟み込むように展開膨張する左右の膨張部を備えた車両用エアバッグ装置において、該膨張部の構成に工夫を凝らして、前記チャイルドシートに着座している乳幼児に対して不快感を増大させないような車両用エアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、第1の発明に係る車両用エアバッグ装置では、チャイルドシートを左右から挟み込むように展開膨張する左右の膨張部の少なくとも一方において、展開膨張時に、チャイルドシートに着座している乳幼児に対して吹き付けられるガスの量が少なくなるようにした。
【0009】
すなわち、請求項1の発明では、車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置を対象とする。
【0010】
そして、前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、展開膨張時に他方の膨張部に対向する部分の表皮から外部へ抜け出すガスの量が、該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも少なくなるように構成されているものとする。なお、前記所定の部分とは、例えば、左右の膨張部の上面部分、下面部分若しくはバッグ部の車幅方向外方側(左右外方側)のうちの少なくとも一部である(以下同様)。
【0011】
この構成により、シートに後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように展開膨張する左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に向かって抜け出すガス量が該他方の膨張部に対向しない所定部分に比べて少なくなるため、該左右の膨張部の間に挟まれる前記チャイルドシートの乳幼児に向かって抜け出すガスの量を少なくすることができる。したがって、乳幼児に対して吹き付けられるガス量を従来構造のものよりも少なくすることができ、該乳幼児に与える不快感の増大を軽減することができる。しかも、上述のように外部へ抜け出すガス量を調整する領域は左右の膨張部の一部だけなので、上述の構成を備えていない従来のエアバッグに比して展開膨張特性が実質的に変更されることがない。
【0012】
上述の構成において、前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、他方の膨張部に対向する部分の表皮の通気性が該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも低くなるように構成されているのが好ましい(請求項2の発明)。これにより、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分からチャイルドシートに着座している乳幼児に向かって抜け出すガス量を確実に低減することができるため、前記請求項1の構成を容易に実現することができる。
【0013】
第2の発明では、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分の表皮の厚さが該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも厚くなるようにして、該対向部分の表皮の温度を下げるようにした。
【0014】
すなわち、請求項3の発明は、前記請求項1の発明と同様、車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置を対象とする。
【0015】
そして、前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、展開膨張時に他方の膨張に対向する部分の表皮の厚さが該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも厚くなるように構成されているものとする。
【0016】
この構成により、他方の膨張部に対向する部分の表皮は、該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも厚くなるため、該対向部分の表皮の熱伝導性を低くすることができ、該表皮の表面温度を比較的低温にすることができる。これにより、乳幼児が前記対向部分の表皮に接触した場合でも、該乳幼児に与える不快感を軽減することができる。また、上述の構成では、膨張部の表皮の一部のみを厚くするだけで、バック部全体の表皮は厚くならないため、該バッグ部の展開膨張性能が悪化したり、従来のものに比べて展開膨張性能が実質的に変更されたりするのを防止することができる。
【0017】
第3の発明では、バッグ部にガスを供給するためのガス供給部を、容器内に高圧ガスの充填されたいわゆる低温インフレータによって構成するようにした。
【0018】
すなわち、請求項4の発明は、前記請求項1、3の発明と同様、車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置を対象とする。そして、前記ガス供給部は、容器内に高圧ガスの充填された低温インフレータからなるものとする。
【0019】
この構成により、バッグ部の左右の膨張部には低温インフレータの容器内に充填された高圧ガスが供給されるため、従来構造のものよりも左右の膨張部内のガスの温度が低くなって、該左右の膨張部がチャイルドシートに着座している乳幼児に接触したり、該左右の膨張部から乳幼児に向かってガスが抜け出したりした場合でも、乳幼児に与える不快感を軽減することができる。
【0020】
第4の発明では、上述の請求項2の発明と同様、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分の表皮の通気性を該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも低くして、チャイルドシートに着座している乳幼児に向かって抜け出すガスの量を低減するようにした。
【0021】
すなわち、請求項5の発明は、前記請求項1、3、4の発明と同様、車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置を対象とする。
【0022】
そして、前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、他方の膨張部に対向する部分の表皮の通気性が該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも低くなるように構成されているものとする。
【0023】
この構成により、上述の請求項2の発明と同様、左右の膨張部内にガスが供給されて膨張する際に該左右の膨張部からチャイルドシートに着座している乳幼児に向かって抜け出すガス量を低減することができ、該乳幼児に与える不快感を軽減することができる。しかも、外部へ抜け出すガス量を調整する領域は左右の膨張部の一部だけなので、上述のような構成を備えていない従来のエアバッグに比して展開膨張特性が実質的に変更されることがない。
【0024】
第5の発明では、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分の表皮の硬さを該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも硬くして、該左右の膨張部がチャイルドシートに着座している乳幼児に近い位置で展開膨張しないようにした。
【0025】
すなわち、請求項6の発明は、前記請求項1、3〜5の発明と同様、車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置を対象とする。
【0026】
そして、前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、他方の膨張部に対向する部分の表皮の硬さが該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも硬くなるように構成されているものとする。
【0027】
この構成により、他方の膨張部に対向する部分の表皮の硬さが他の部分よりも硬くなって、該対向する部分は車両後方側へほぼ真っ直ぐ進むように膨張するため、前記左右の膨張部が対向側すなわちチャイルドシート側に向かって曲がりながら膨張するのを防止することができる。したがって、チャイルドシートに着座している乳幼児に前記左右の膨張部が接触したり、該乳幼児に対して近い位置からガスが吹き付けられたりするのを防止することができ、乳幼児に与える不快感を軽減することができる。
【0028】
第6の発明では、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分に先にガスが供給されるようにして、該左右の膨張部がチャイルドシートに着座している乳幼児に近い位置で展開膨張しないようにした。
【0029】
すなわち、請求項7の発明は、前記請求項1、3〜6の発明と同様、車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置を対象とする。
【0030】
そして、前記左右の膨張部のうち少なくとも一方の膨張部の内部には、ガス供給部からのガスが他方の膨張部に対向する部分に供給された後、該対向する部分よりも車幅方向外方側の部分に供給されるようにガスの流路が形成されているものとする。
【0031】
この構成により、他方の膨張部に対向する部分に先にガスが供給されて、該対向する部分が先に展開膨張するため、車両後方への展開速度は、後からガスの供給される部分よりも速くなり、前記左右の膨張部がチャイルドシート側に向かって曲がりながら膨張するのをより確実に防止することができる。これにより、チャイルドシートに着座している乳幼児に前記左右の膨張部が接触したり、該乳幼児に対して近い位置からガスが吹き付けられたりするのを防止することができ、乳幼児に与える不快感をより確実に軽減することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上より、第1の発明に係る車両用エアバッグ装置によれば、バッグ部の左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分から抜け出すガスの量が他の部分よりも少なくなるようにしたため、チャイルドシートに着座している乳幼児に対して吹き付けるガスの量を従来のものに比べて低減することができ、該乳幼児に与える不快感を軽減することができる。しかも、外部へ抜け出すガス量を調整する領域は左右の膨張部の一部だけなので、上述のような構成を備えていない従来のエアバッグに比して展開膨張特性が実質的に変更されることがない。
【0033】
第2の発明によれば、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分の表皮の厚さが他の部分よりも厚くなるようにしたため、該対向する部分の表皮の温度を低下させることができ、前記左右の膨張部に乳幼児が接触した場合でも該乳幼児の不快感が増大するのを防止することができる。
【0034】
第3の発明によれば、バッグ部にガスを供給するガス供給部を低温インフレータによって構成したため、該バッグ部内のガスの温度は比較的低くなって、該バッグ部の左右の膨張部がチャイルドシートに着座している乳幼児に接触した場合や該左右の膨張部から乳幼児に向かってガスが抜け出した場合でも該乳幼児に与える不快感を確実に軽減することができる。
【0035】
第4の発明によれば、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分の表皮の通気性が他の部分よりも低くなるようにしたため、該対向する部分から乳幼児に向かって抜け出すガスの量を少なくすることができ、該乳幼児に与える不快感を軽減することができる。
【0036】
第5の発明によれば、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分の表皮の硬さが他の部分よりも硬くなるようにしたため、該左右の膨張部が乳幼児側に向かって曲がりながら膨張するのを防止することができ、該乳幼児に与える不快感を軽減することができる。
【0037】
第6の発明によれば、左右の膨張部のうち少なくとも一方において、他方の膨張部に対向する部分にガスを供給した後、他の部分にガスを供給することで、該対向する部分の車両後方への展開速度は他の部分よりも速くなるため、前記左右の膨張部が乳幼児側に向かって曲がりながら膨張するのをより確実に防止することができ、乳幼児に与える不快感をより確実に軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0039】
(実施形態1)
図1に、本発明の実施形態1に係るエアバッグ装置1(車両用エアバッグ装置)を備えた車両Vの助手席部分を側方から見た図を示す。この車両Vには、助手席2の前方にインストルメントパネル3が設けられていて、このインストルメントパネル3にエアバッグ装置1が配設されている。なお、前記インストルメントパネル3の上方にはフロントガラス4が配設されている。
【0040】
前記エアバッグ装置1は、図2〜4にも示すように、車両後方に向かって展開膨張するエアバッグ11(バッグ部)と、該エアバッグ11を保持するようにインストルメントパネル3内に配設されたリテーナ21と、該エアバッグ11内にガスを供給して膨張させるインフレータ22(ガス供給部)と、を備えていて、車両衝突時には制御装置(図示省略)からの信号に応じて前記インフレータ22を作動させて前記エアバッグ11を展開膨張させるようになっている。
【0041】
前記エアバッグ11は、図2及び3に展開膨張した状態を示すように、前記リテーナ12に車両前方側を固定された本体部12と、該本体部12から乗員前方の左右にそれぞれ延びるように展開膨張する左側膨張部13及び右側膨張部14と、を備えており、該左側膨張部13と右側膨張部14とは、それらの車両後方側上部でテザー15によって連結されている。
【0042】
すなわち、前記左側膨張部13及び右側膨張部14は、車両前方側で本体部12を介して一体になっている一方、それらの車両後方側では前記テザー15によって連結された状態でそれぞれ展開膨張するようになっている。このように、前記左側膨張部13及び右側膨張部14の車両後方側上部をテザー15によって連結することで、助手席2にチャイルドシート4が装着されている場合には、図4に示すように、そのシートバックによって前記エアバッグ11の左側膨張部13と右側膨張部14との間の車両前方側部分が車幅方向に拡げられて、空隙Sが形成されるようになっている。なお、上述のように、テザー15によって左右の膨張部13,14を連結することで、前記チャイルドシート4が助手席2に装着されていない場合には、該左右の膨張部13,14が左右に離間することなく車両衝突時に乗員に加わる衝撃を効果的に吸収することができる。
【0043】
また、前記左側膨張部13及び右側膨張部14には、それぞれ、対向する部分の所定範囲Pにガス抜け止め防止用の塗料(例えばシリコンゴム等)が塗布されている。これにより、後述するように、前記左側膨張部13及び右側膨張部14にガスが供給されて展開膨張した際に、該左側膨張部13及び右側膨張部14の対向する部分から抜け出すガスの量をその他の部分に比べて少なくすることができる。なお、前記所定範囲Pは、チャイルドシート4に着座している乳幼児に面する部分を含んだ範囲であり、上述のように該所定範囲Pにガス抜け止め防止用の塗料を塗布するのではなく、通気性を低下させるために、例えば、布地を重ねるなどして表皮の厚みを厚くするようにしてもよい。
【0044】
前記エアバッグ11の本体部12には、その車両前方側に開口12aが形成されていて、その開口12a内に前記インフレータ22が位置付けられた状態で、該開口12aの周縁部がボルト等によってインフレータ22とともにリテーナ21に固定されている。すなわち、前記エアバッグ11は、その内部にインフレータ22で発生するガスが供給される際に、車両後方に向かって飛んでいかないように前記開口12a側でリテーナ21に保持されるようになっている。
【0045】
前記リテーナ21は、上面が開口した金属製の箱状部材であり、その内部には、前記エアバッグ11が折り畳まれた状態で収納されていて、その状態で前記インストルメントパネル3の内部に取り付けられている。そして、前記リテーナ21の開口した上部は、前記エアバッグ11が展開膨張していない状態でインストルメントパネル3と面一になるように図示しないカバーによって覆われている。
【0046】
前記インフレータ22は、箱状の容器22aの内部にアジ化ナトリウムからなるガス発生剤が収納されたもので、該容器22aの上面には複数の穴部22b,22b,…が形成されており(図4参照)、車両衝突時に制御装置から所定の作動信号を受けて、着火手段(図示省略)によって前記ガス発生剤を発火させ、これにより生じたガスを前記穴部22b,22b,…を介してエアバッグ11内に供給するようになっている。
【0047】
以下で、上述のような構成のエアバッグ装置1のエアバッグ11が車両衝突時に車両後方に向かって展開膨張する様子について図1及び図4に基づいて説明する。以下の説明では、助手席2には、チャイルドシート4が後ろ向き(チャイルドシート4のシートバックが車両前方側に位置付けられた状態)に取り付けられているものとする。前記図1において、5は、前記チャイルドシート4を助手席2に固定するためのベースである。
【0048】
車両Vが衝突すると、まず、前記インフレータ22でガスを発生させて、そのガスを前記リテーナ21内に折り畳まれた状態で収納されているエアバッグ11内に供給する。そうすると、該エアバッグ11全体が膨らんで前記リテーナ21の上方を覆っていたカバーを押し開け、車両後方に向かって展開膨張する。
【0049】
前記エアバッグ11は、車両後方に向かって展開する際、前記左側膨張部13及び右側膨張部14がチャイルドシート4をそれぞれ左右から挟み込むとともに、該左右の膨張部13,14を連結するテザー15によって、それらの車両後方側が車幅方向外方に向かって分離しないようになっている。すなわち、前記エアバッグ11の左側膨張部13及び右側膨張部14は、チャイルドシート4に対して前方且つ上方から包み込むように展開膨張することになり、該左右の膨張部13,14によって車両衝突時の衝撃を十分に吸収することができ、該チャイルドシート4に着座している乳幼児に加わる衝撃を効果的に低減することができる。
【0050】
この際、前記左側膨張部13及び右側膨張部14の車両前方側には、図4に示すように、該左右の膨張部13,14とチャイルドシート4のシートバックの乳幼児側の面とに囲まれた空隙Sが形成されて、この空隙S内に前記チャイルドシート4に着座した乳幼児の頭部が位置することになるため、前記左側膨張部13及び右側膨張部14によって乳幼児に与えられる圧迫感を低減することができる。
【0051】
ところが、上述のように展開膨張した前記エアバッグ11は、布製であるため、その内部に供給された高圧ガスはエアバッグ全体の表皮若しくは縫合部分から外部へ抜け出てしまい、そのガスが乳幼児に吹き付けられると、該乳幼児に対して不快感を増大させることになる。
【0052】
これに対して、本実施形態では、上述のように、前記左側膨張部13及び右側膨張部14のそれぞれの対向する部分の表皮に塗料を塗って、他の部分に比べて通気性を低下させることで、当該対向部分から外部へ抜け出すガスの量を低減するようにしている。
【0053】
これにより、前記左側膨張部13及び右側膨張部14に左右から挟み込まれるチャイルドシート4の乳幼児に向かって抜け出すガス量を少なくすることができ、該乳幼児に与える不快感を軽減することができる。しかも、外部へ抜け出すガス量を調整する領域は左右の膨張部13,14の一部だけなので、上述のような構成を備えていない従来のエアバッグに比して展開膨張特性が実質的に変更されることがない。
【0054】
(実施形態2)
この実施形態2は、前記実施形態1とは、エアバッグ11の左側膨張部13及び右側膨張部14の対向する部分にガス抜け止め用の塗料を塗布する代わりに、当該部分の表皮の硬さをを硬くした点が異なるだけなので、以下、同一の部分には同一の符号を付し、異なる部分だけを図5に基づいて説明する。
【0055】
具体的には、図5に示すように、エアバッグ11の左側膨張部13及び右側膨張部14の対向する部分の所定範囲Qには、表皮と同じ材質の布地が全面的に重ねられた状態で縫いつけられていて、当該部分の表皮の硬さが他の部分に比べて硬くなっている。なお、前記所定範囲Qは、上述の実施形態1と同様、チャイルドシート4に着座している乳幼児に面する部分を含む範囲であり、上述のように、前記左側膨張部13及び右側膨張部14の対向する部分に布地を重ねるのではなく、当該部分を他の部分よりも厚い布地で構成したり、他の部分よりも硬い布地で構成するようにしてもよい。
【0056】
これにより、前記左側膨張部13及び右側膨張部14内にガスが供給されて展開膨張する際に、前記対向する部分を車幅方向に曲げることなく車両後方に向かってほぼ真っ直ぐ進むように展開させることができる。したがって、前記左側膨張部13及び右側膨張部14がチャイルドシート4に着座している乳幼児側に向かって曲がりながら膨張するのを確実に防止することができる。
【0057】
つまり、図5に示すように、前記左側膨張部13及び右側膨張部14は、実施形態1の場合(図5に2点鎖線で示す)よりも車幅方向に離れて展開することになり、チャイルドシート4に着座している乳幼児との間隔を拡げることができる。これにより、乳幼児に近い位置からエアバッグ11内のガスが吹き付けられたり、該乳幼児にエアバッグ11の左右の膨張部13,14が接触するのをより確実に防止することができる。
【0058】
したがって、乳幼児と前記左側膨張部13及び右側膨張部14との間隔を拡げることができるため、乳幼児が該左側膨張部13及び右側膨張部14に接触したり、該乳幼児に対して近い位置からガスが吹き付けられたりするのをより確実に防止することができ、該左側膨張部13及び右側膨張部14の内部のガスの熱によって乳幼児が受ける不快感をより確実に軽減することができる。
【0059】
(実施形態3)
この実施形態3は、図6に示すように、前記実施形態2とは、エアバッグ11の左側膨張部13及び右側膨張部14の対向する部分の表皮の硬さを硬くする代わりに、それらの内部にガスの流路を形成するための仕切部を設けた点が異なるだけなので、以下、同一の部分には同一の符号を付し、異なる部分だけを図6に基づいて説明する。
【0060】
具体的には、図6に示すように、エアバッグ11の左側膨張部13及び右側膨張部14の内部には、それぞれ、車両前方側を車幅方向に仕切るように仕切部16が設けられている。この仕切部16は、前記エアバッグ11の本体部12の車両前方側の内周面から車両後方に向かって延びるように形成されたもので、該仕切部16によって、前記左側膨張部13及び右側膨張部14の内部は、車両前方側で車幅方向に区画されて、それぞれ、内側部13a,14a及び外側部13b,14bになる一方、車両後方側ではそれぞれの内側部13a,14a及び外側部13b,14bが連通するようになっている。
【0061】
このように前記仕切部16を設けることによって、前記左右の膨張部13,14の内部にはガスの流路が形成される。すなわち、図6に矢印で示すように、インフレータ22で発生したガスは、前記左側膨張部13及び右側膨張部14の内側部13a,14aを先に流れて、その後、それぞれ外側部13b,14bを流れることになる。
【0062】
これにより、前記左側膨張部13及び右側膨張部14の対向する部分(内側部13a,14a)は他の部分(対向する部分よりも車幅方向外方側の部分、外側部13b,14b)よりも先に展開膨張することになり、該対向部分の展開速度は他の部分よりも速くなるため、該左右の膨張部13,14が対向する側(チャイルドシート4側)に向かって曲がりながら膨張するのを確実に防止することができ、該チャイルドシート4に着座している乳幼児との接触を確実に防止することができる。
【0063】
以上より、本実施形態によれば、車両衝突時に、助手席2に装着されているチャイルドシート4を左右から挟み込むように左側膨張部13及び右側膨張部14に分かれて展開膨張するエアバッグ11を備えたエアバッグ装置1において、該左右の膨張部13,14の内部をそれぞれ車幅方向に仕切るための仕切部16,16を設けて、該左右の膨張部13,14の内側部13a,14aに先にインフレータ22からのガスを供給することで、該左側膨張部13及び右側膨張部14のそれぞれ対向する部分が先に展開膨張することになり、前記チャイルドシート4に着座している乳幼児側に向かって曲がりながら展開膨張するのを確実に防止することができる。これにより、前記左側膨張部13及び右側膨張部14を乳幼児から確実に離間させることができるため、該左右の膨張部13,14が乳幼児に接触したり、該乳幼児に対して近い位置からエアバッグ11内のガスが吹き付けるのを防止することができ、該エアバッグ11内部のガスの熱によって該乳幼児に与える不快感を軽減することができる。
【0064】
なお、本実施形態でも、上述の実施形態2のように、左側膨張部13及び右側膨張部14の対向する部分の表皮の厚みを厚くして、該表皮の硬さが他の部分よりも硬くなるようにしてもよい。こうすれば、前記左右の膨張部13,14がチャイルドシート側に曲がりながら展開膨張するのをより確実に防止することができ、乳幼児に与える不快感をより確実に軽減することができる。
【0065】
(その他の実施形態)
本発明の構成は、前記各実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、前記各実施形態では、エアバッグ11内にガスを供給するためのインフレータとして、ガス発生剤を燃焼させることでガスを発生させるいわゆる高温ガスタイプのインフレータ22を用いるようにしているが、この限りではなく、容器内に圧縮ガスが封入された低温ガスタイプのものを用いるようにしてもよい。なお、この場合には、前記エアバッグ11の左右の膨張部13,14に供給されるガスの温度が比較的低くなるため、上述の各実施形態のようにエアバッグ11の一部の通気性を低下させたり、チャイルドシート4側の展開速度を速めたりしなくても、該チャイルドシート4の乳幼児に与える不快感を確実に軽減することができる。
【0066】
また、前記各実施形態では、エアバッグ11の左右の膨張部13,14の両方に対して、ガス抜け止め用塗料を塗布したり、表皮の硬さを硬くしたり、内部に仕切部16,16を設けたりしているが、この限りではなく、該左右の膨張部13,14のいずれか一方にのみ設けるようにしてもよい。
【0067】
なお、前記実施形態1では、通気性を低減させるために所定範囲Pのみにガス抜け止め防止用の塗料を塗布しているが、この限りではなく、エアバッグ11全体にガス抜け止め防止用の塗料を塗布するとともに、前記所定範囲Pが他の部分よりも実質的に硬くならないように該範囲Pに柔軟性の高いガス抜け止め防止用塗料を厚く塗布したり、若しくは、表皮と同じ材質または異なる材質の布地を全面的にではなく、例えば前記所定範囲Pの端部だけに縫いつけるようにしてもよい。このような構成により、例えばベントホールではなくエアバッグ11の表皮全体からガスが抜け出すのを防止することができるとともに、前記所定範囲Pの表皮における表裏間の熱伝導性を低減することができる。したがって、この部分の表皮温度を比較的低温にすることができるため、乳幼児がこの部分の表皮に接触しても、乳幼児の受ける不快感の増大を抑制することができる。また、上述のような構成にすれば、エアバッグ全体を厚い表皮で覆うことがないので、エアバッグ11の展開膨張性能が悪化したり、従来構成のものと比して展開膨張性能が実質的に変更されたりするのを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明における車両用エアバッグ装置は、車両衝突時に左右に分かれて展開膨張する左右の膨張部の構成に工夫を凝らすことで乳幼児に対して不快感を与えないようにすることができるから、例えば、チャイルドシートを助手席に後ろ向きに装着した状態でエアバッグを展開膨張させるエアバッグ装置に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態1に係るエアバッグ装置を備えた車両を示す側面図である。
【図2】展開した状態のエアバッグを示す斜視図である。
【図3】展開した状態のエアバッグの(a)上面図、(b)正面図である。
【図4】助手席に後ろ向きに装着されたチャイルドシートに対してエアバッグが展開した状態を示す図1のIV−IV線断面図である。
【図5】実施形態2に係る図4相当図である。
【図6】実施形態3に係る図4相当図である。
【符号の説明】
【0070】
V 車両
S 空隙
P、Q 所定範囲
1 エアバッグ装置(車両用エアバッグ装置)
2 助手席
3 インストルメントパネル
4 チャイルドシート
11 エアバッグ(バッグ部)
12 本体部
13 左側膨張部(左の膨張部)
14 右側膨張部(右の膨張部)
15 テザー
16 仕切部
21 リテーナ
22 インフレータ(ガス供給部)
22a 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置であって、
前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、展開膨張時に他方の膨張部に対向する部分の表皮から外部へ抜け出すガスの量が、該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも少なくなるように構成されていることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1において、
左右の膨張部のうち少なくとも一方は、他方の膨張部に対向する部分の表皮の通気性が該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも低くなるように構成されていることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項3】
車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置であって、
前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、展開膨張時に他方の膨張に対向する部分の表皮の厚さが該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも厚くなるように構成されていることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項4】
車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置であって、
前記ガス供給部は、容器内に高圧ガスの充填された低温インフレータからなることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項5】
車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置であって、
前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、他方の膨張部に対向する部分の表皮の通気性が該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも低くなるように構成されていることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項6】
車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置であって、
前記左右の膨張部のうち少なくとも一方は、他方の膨張部に対向する部分の表皮の硬さが該他方の膨張部に対向しない所定部分よりも硬くなるように構成されていることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項7】
車両のシート前方に配設されるとともに、少なくとも車両衝突時に、前記シートに着座した乗員または該シート上に後ろ向きに装着されたチャイルドシートを左右から挟み込むように車両後方に向かって展開膨張する左右の膨張部を有するバッグ部と、該バッグ部にガスを供給するためのガス供給部と、を備えた車両用エアバッグ装置であって、
前記左右の膨張部のうち少なくとも一方の膨張部の内部には、ガス供給部からのガスが他方の膨張部に対向する部分に供給された後、該対向する部分よりも車幅方向外方側の部分に供給されるようにガスの流路が形成されていることを特徴とする車両用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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