説明

車両用オイル供給装置

【課題】電動式オイルポンプの補助なしに油圧アクチュエータに対して適切に油圧が付与される車両用オイル供給装置を提供する。
【解決手段】エンジンの回転により駆動される機械式オイルポンプ1と、このオイルポンプ1によって供給されるオイルの油圧により作動する油圧アクチュエータ6と、オイルポンプ1によって供給されるオイルを用いてエンジンの各部材を潤滑するエンジン潤滑装置4とを備えた車両用オイル供給装置。油圧アクチュエータに作用する油圧が低いときに、オイルポンプ1からエンジン潤滑装置4へのオイル供給に対してオイルポンプ1から油圧アクチュエータ6へのオイル供給を優先させる優先弁3を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転により駆動される機械式オイルポンプによってオイルを車両各部に供給する車両用オイル供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用オイル供給装置の1つとして、定容量型オイルポンプをエンジンにより駆動し、オイルポンプから吐出される潤滑油をクランクシャフトの主軸受に供給するクランク系供給通路を配設するとともに、オイルポンプから吐出される潤滑油を動弁系の潤滑部に供給する動弁系供給通路を配設するエンジンの潤滑油供給装置がある。このようにエンジンの潤滑油供給装置おいて、クランク系供給通路にその流路抵抗を可変とするクランク系オリフィスを介装するとともに、動弁系供給通路にその流路抵抗を可変とする動弁系オリフィスを介装し、エンジン回転数が上昇するのに伴ってクランク系オリフィスの流路抵抗を小さくするとともに、動弁系オリフィスの流路抵抗を大きくする制御装置を備えるものが知られている(特許文献1参照)。この潤滑油供給装置では、エンジン低回転時、クランク系オリフィスがその流路抵抗を大きくするとともに、動弁系オリフィスがその流路抵抗を小さくすることにより、オイルポンプの吐出圧を抑えながら動弁系の潤滑部に供給される潤滑油流量を十分に確保することが可能となる。また、エンジン高回転時、クランク系オリフィスがその流路抵抗を小さくするとともに、動弁系オリフィスがその流路抵抗を大きくすることにより、オイルポンプの吐出圧を抑えながらクランクシャフトの主軸受に供給される潤滑油流量を十分に確保するとともに、動弁系供給通路を通って動弁系の潤滑部に供給される潤滑油流量が過大になることを防止し、動弁系の潤滑部を潤滑した潤滑油をオイルパンへ戻す通路の回収能力を越えない流量に抑えることが可能となる。
【0003】
同様な車両用オイル供給装置として、エンジンによって駆動されるオイルポンプからメイン通路に吐出される潤滑油を、クランク系分岐通路を通してクランク系潤滑部に供給するとともに、動弁系分岐通路を通して動弁系潤滑部に供給するものもある。このような潤滑油供給装置において、前記オイルポンプとして設定圧以上の吐出圧で吐出量を減少させる可変容量型オイルポンプを採用し、前記動弁系分岐通路に油圧の上昇に応じて流路を絞って流路抵抗を大きくする油圧検知式可変絞りを設けること、あるいは前記メイン通路に油温の上昇に応じて流路を広げて流路抵抗を小さくする油温検知式可変絞りを設けることが知られている(特許文献2参照)。動弁系分岐通路に油圧検知式可変絞りを設けた場合では、オイルポンプからの吐出量がエンジン回転数の上昇に伴って増大して吐出圧が上昇すると、動弁系分岐通路での流路抵抗が大きくなり、動弁系分岐通路に必要以上の潤滑油が供給されることが抑えられるとともに、クランク系分岐通路への潤滑油の供給量が多くなる。このため、クランク系分岐通路への潤滑油の供給量を適正量とする可変容量型オイルポンプの設定が可能となる。また、メイン通路に油温検知式可変絞りを設けた場合では、低油温時には高油温時に比してオイルポンプからの吐出量がエンジン回転数の上昇に伴って増大して吐出圧が上昇する際の上昇勾配が大きくなる。このため、低油温時には高油温時に比して、エンジン回転数が低い状態で、オイルポンプの吐出圧が所定圧(油温検知式可変絞りが絞り機能を発揮し始める油圧)に上昇し、それ以降にはメイン通路への潤滑油の供給が抑えられる。
【0004】
さらに、機械式オイルポンプだけでなく、機械式オイルポンプを補助する電動オイルポンプも備えたエンジンオイル供給装置もある。そのようなエンジンオイル供給装置において、機械式オイルポンプの吐出口と電動オイルポンプの吸入口をつないで機械式オイルポンプと電動オイルポンプを直列に接続し、機械式オイルポンプの吐出口の圧力が第1の設定圧以上になると開いて機械式オイルポンプの吐出口の圧力を第1の設定圧以下に制限する第1のリリーフ弁を設け、電動オイルポンプの両端に吸入口から吐出口への油の流れを許容する逆止弁を設け、電動オイルポンプの吐出口とオイルジェット装置との間に、第2の設定圧以上になると開いて電動オイルポンプの吐出口からオイルジェット装置へ油を流す第2のリリーフ弁を設けたものが知られている(特許文献3参照)。この装置ではさらに、機械式オイルポンプの吐出口はエンジン各部に潤滑油を供給する潤滑経路に接続され、電動オイルポンプの吐出口は可変バルブタイミング装置(弁開閉時期制御装置)に接続され、第2の設定圧を第1の設定圧以上の値としている。従って、このエンジンオイル供給装置では、エンジン回転数が低いときは、電動オイルポンプを作動させることにより、可変バルブタイミング装置を作動させる。エンジン回転数が高いときは、電動オイルポンプを停止させる。また、エンジン回転数が高いときに電動オイルポンプを駆動することでオイルジェット装置を駆動する。
【特許文献1】特開平6―212932号公報(段落番号0007−0013、図1)
【特許文献2】特開2002−303111号公報(段落番号0006−0014、図1)
【特許文献3】特開2004−116430号公報(段落番号0011−0013、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2の潤滑油供給装置では、オイルポンプによって供給されるオイルは潤滑目的であるため、その油圧制御において供給流量は考慮されているが供給油圧は考慮されていない。従って、このような潤滑油供給装置における油圧回路に油圧アクチュエータなどを介装した場合、作動遅れなどの問題が生じてしまう。特に、機械式オイルポンプがエンジンを動力源しているので、エンジン始動時などエンジンが十分に回転していないときに油圧アクチュエータが油圧不足で作動が不安定になるという問題が避けられない。また、特許文献3のエンジンオイル供給装置では、機械式オイルポンプの補助として電動式オイルポンプが直列配置されているので、機械式オイルポンプによる油圧不足を電動式オイルポンプで補うことが可能となる。しかしながら、電動式オイルポンプを機械式オイルポンプの補助として搭載することによって、コスト上昇だけでなく重量の増加や取り付けスペースの圧迫といった不利益が生じてしまう。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、電動式オイルポンプの補助なしに油圧アクチュエータに対して適切に油圧が付与される車両用オイル供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明による車両用オイル供給装置は、エンジンの回転により駆動される機械式オイルポンプと、前記オイルポンプによって供給されるオイルの油圧により作動する油圧アクチュエータと、前記オイルポンプによって供給されるオイルを用いて前記エンジンの各部材を潤滑するエンジン潤滑装置とを備え、さらに、前記油圧アクチュエータに作用する油圧が低いときに、前記オイルポンプから前記エンジン潤滑装置へのオイル供給に対して前記オイルポンプから前記油圧アクチュエータへのオイル供給を優先させる優先弁を備えている。
【0008】
この構成によれば、オイルポンプによって供給されるオイルの油圧が一定油圧以下のときには、オイルポンプから前記エンジン潤滑装置へのオイル供給が抑制され、油圧アクチュエータへのオイル供給が優先されるので、油圧アクチュエータに作用する油圧が確保しやすくなる。従って、機械式オイルポンプの回転数が低いときでも油圧アクチュエータに作用する油圧の確保が優先されるので、機械式オイルポンプを補助する電動式オイルポンプがなくても、油圧アクチュエータを適切に作動させることが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る車両用オイル供給装置は、さらに、前記優先弁が前記オイルポンプから前記エンジン潤滑装置へのオイル流量を調整する調整弁であり、前記油圧アクチュエータに作用する油圧が前記油圧アクチュエータの動作必要油圧より低いときに、前記エンジン潤滑装置へのオイル流量を制限することを特徴とする。この特徴によれば、油圧アクチュエータに作用する油圧が前記油圧アクチュエータの動作必要油圧より低いときには、調整弁によってエンジン潤滑装置へのオイル流量が制限される。調整弁を用いることにより、油圧アクチュエータに作用する油圧の所望の値を確実に確保することが容易となる。
【0010】
前記調整弁の簡単な形態としては、油圧が一定値未満ならエンジン潤滑装置へのオイル供給量を制限し、一定値以上ならそのような制限を解除するような、圧力感知式の切換弁タイプが提案される。また、より高度な油圧制御を行うためには、前記調整弁が、少なくとも第1流量調整状態とこの第1流量調整状態より大きなオイル供給制限量をもたらす第2流量調整状態を作り出すように構成されていることが好ましい。具体的には、使用されている油圧アクチュエータが2つの異なる応答速度で作動することを要求されている場合、前記調整弁は、前記油圧アクチュエータを高速動作させる必要があるときには前記第2流量調整状態に設定され、高速動作させる必要がないときに、前記第1流量調整状態に設定されるように構成されていると好適である。この構成では、油圧アクチュエータが通常より速い応答速度で作動する必要があるときには調整弁を第2流量調整状態に設定することで、オイルポンプから油圧アクチュエータへのオイル供給がより優先され、より高い油圧が油圧アクチュエータに作用させることができる。油圧アクチュエータが通常の応答速度で作動してよい場合は、調整弁を第1流量調整状態に設定するとよい。
【0011】
機械式オイルポンプはエンジンの回転より駆動されている。従って、油圧アクチュエータに作用する油圧はエンジンの回転数に依存することになるので、このことを前記調整弁に対する前記制御状態の設定制御に利用できる。例えば、前記調整弁は、前記エンジンが所定の回転数以上のときに、前記第1流量調整状態に設定され、前記エンジンが前記処理の回転数以下のときに前記第2流量調整状態に設定されるように構成することができる。これにより、エンジンの回転数にかかわらず、油圧アクチュエータに作用する油圧を所望の値以上にすることができ、油圧アクチュエータの作動がスムーズとなる。
【0012】
本発明で用いられる優先弁の好適な形態の1つとして、この優先弁の流入オイル圧が所定設定圧を超えたときに、前記エンジン潤滑装置にオイルを流す圧力制御式調整弁とすることができる。このような圧力制御式調整弁を本発明における優先弁として採用すると、複雑な電子制御を用いなくとも油圧アクチュエータに作用する油圧が所定設定圧以下では機械式オイルポンプからエンジン潤滑装置へのオイルの流れを制限し、油圧アクチュエータに作用する油圧を迅速に所定設定圧に上昇させることができる。その際、前記所定設定圧を前記油圧アクチュエータの動作必要油圧以上とすることで、エンジン回転数が低い時でも適切に油圧アクチュエータを動作させることができる。
【0013】
エンジンの回転時には、少なくとも少量でもよいからエンジン潤滑装置にオイルを供給することが要求される場合がある。このような場合、前記優先弁をバイパスして前記オイルポンプと前記エンジン潤滑装置とを接続するバイパス油路が設けられ、前記バイパス油路に絞りが介装されると好適である。つまり、油圧アクチュエータに作用する油圧が低いときに優先弁によってオイルポンプからエンジン潤滑装置へのオイル供給が遮断されたとしても、この絞りによって規定される量のオイルがバイパス油路を通じてエンジン潤滑装置に供給される。これにより、エンジンの低回転時において、油圧アクチュエータに十分な油圧を作用させることができるとともにエンジン潤滑装置にも必要最小限のオイルを供給することができる。
【0014】
また、本発明に係る車両用オイル供給装置は、さらに、前記優先弁が前記オイルポンプと前記油圧アクチュエータとの間に備えられ、前記優先弁が前記オイルポンプの停止時に閉状態となり、前記油圧アクチュエータと前記優先弁との間のオイルを維持することを特徴とする。この特徴によれば、エンジン停止によりオイルポンプの駆動が停止したときに、優先弁と油圧アクチュエータとの間の油路を満たしているオイルがそのままドレインに排出されずに残ることになる。その結果、エンジン始動にともなってオイルポンプが駆動すると迅速に油圧アクチュエータに必要油圧が作用し、油圧アクチュエータがすばやく動作するという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1に車両用オイル供給装置の一例が示されている。この車両用オイル供給装置では、図示されていないエンジンの出力軸に接続されている機械式オイルポンプ(以下単にオイルポンプと称する)1からエンジンの各部材を潤滑するエンジン潤滑装置4と油圧アクチュエータとしての弁開閉時期制御装置6とにオイルが供給される。さらに、弁開閉時期制御装置6に作用する油圧が低いときに、オイルポンプ1からエンジン潤滑装置4へのオイル供給を制限してオイルポンプ1から弁開閉時期制御装置6へのオイル供給を優先させる優先弁3が備えられている。優先弁3はオイルポンプ1からエンジン潤滑装置4へのオイル流量を調整する可変昇圧弁または可変昇圧弁などの調整弁として構成される。この実施形態では、優先弁3は具体的には可変昇圧弁として構成されている。
【0016】
オイルポンプ1はオイルパン10から吸入油路11を介してオイルを汲み上げ、オイルフィルタが設けられている吐出油路12に吐出する。吐出油路12の終端には可変昇圧弁3の入力ポートが接続している。この可変昇圧弁3の2つの出力ポートには、エンジン潤滑装置4へオイルを供給する供給油路14と弁開閉時期制御装置6へオイルを供給する供給油路15とが接続している。ここでは模式的にしか図示されていない、可変昇圧弁3の弁体31の位置に応じて、オイルポンプ1からのオイルが弁開閉時期制御装置6のみに供給される状態、または可変昇圧弁3とエンジン潤滑装置4の両方に供給される状態、あるいは可変昇圧弁3とエンジン潤滑装置4のいずれにも供給しない状態が作り出される。そのような各状態を作り出す弁体31の動きは、供給油路15の油圧、つまり弁開閉時期制御装置6に作用する油圧に依存するように構成されている。そのため、一端をリテーナ32の上面に接当するとともに他端を弁体31の下面に接当しているバネ33が配設されている。リテーナ32の油圧作用面積は弁体31の油圧作用面積より大きく形成されている。弁体31の上面側には第1圧力作用室34が形成されており、この第1圧力作用室34に吐出油路12が接続されている。さらに、リテーナ32の下面側には第2圧力作用室35が形成されており、この圧力作用室34に、吐出油路12から分岐するとともにソレノイド式開閉弁2を介装した分岐路13が接続している。開閉弁2を制御することにより、第2圧力作用室35内の油圧が調整され、その結果、バネ33による弁体31に対する付勢力が調整される。
【0017】
上述した可変昇圧弁3の構成により、供給油路15の油圧が所定値以下のときには、バネ33に抗して弁体31を引き下げる力が弱いので、弁開閉時期制御装置6への供給油路15と接続している出力ポートだけが開放され、エンジン潤滑装置4への供給油路14と接続している出力ポートは閉鎖される。供給油路15の油圧が所定値を超えると、弁体31を引き下げる力が強くなり、エンジン潤滑装置4への供給油路14と接続している出力ポートも開放される。一方、第2圧力作用室内の油圧が高くなると、バネ33のセット長が短くなり、付勢力が大きくなるため、弁開閉時期制御装置6への供給油路15とエンジン潤滑装置4への供給油路14との両方が遮断される。また、圧力作用室34内の油圧を調整することにより、供給油路15の油圧値を調整することができる。つまり、この油圧値は、弁開閉時期制御装置6への供給油路15のみへのオイル供給状態から弁開閉時期制御装置6への供給油路15とエンジン潤滑装置4への供給油路14との両方へのオイル供給状態への移行のための閾値となる。
【0018】
エンジン潤滑装置4は、よく知られているように、エンジン及びその周囲の潤滑油供給を必要とする全ての部位、例えば、各軸受、ピストンジェット、チェーンジェット、ラッシュアジャスタなど、に対してオイルを供給するものであり、その戻り油はオイルパン10に回収されるように構成されている。
【0019】
供給油路15を通じてオイルポンプ1からオイルが供給される弁開閉時期制御装置6の構造を以下に説明する。この弁開閉時期制御装置6は、吸気側カムシャフトの回転位相を、非図示のクランクシャフトの回転位相に対して進角側又は遅角側に変位させ、任意の位相で保持する制御を行うものであり、位相制御ユニット60と制御弁5とを備えている。位相制御ユニット60は、図1及び図2に示すように、クランクシャフトに同期回転する外部ロータ62と、この外部ロータ62と同軸状に配置されるとともにカムシャフト61に同期回転する内部ロータ63とを備えている。外部ロータ62と内部ロータ63との相対回転位相が制御弁5によって制御されたオイルの給排を通じて制御される。
【0020】
外部ロータ62には、径内方向に突出するシューとして機能する複数個の突部64が回転方向に沿って互いに離間して並設されている。隣接する突部64の夫々の間には、外部ロータ62と内部ロータ63とで規定される圧力室65が形成されている。内部ロータ63の外周部の、各流体圧室65に対面する箇所には流体圧室65を進角室65aと遅角室65bとに仕切るベーン66が放射方向に沿って摺動可能に設けられている。圧力室65の進角室65aは内部ロータ63に形成された進角通路67に連通し、遅角室65bは内部ロータ63に形成された遅角通路68に連通している。これらの進角通路67及び遅角通路68は制御弁5に接続されている。
【0021】
内部ロータ63と外部ロータ64との間にこれらの相対回転位相をロックするロック機構50が設けられている。ロック機構50は、外部ロータ64側に設けられたロックピン51と、このロックピン51を受け入れ可能に内部ロータ63に設けられた係合凹部52からなる。4個の進角室65aの内、ロック機構50に隣接する位置にある進角室65aの進角通路67は、ロック機構50の係合凹部52を介して進角室65aに連通する流路となっている。すなわち、当該進角通路67は、制御弁5からまず係合凹部52に連通し、そこから内部ロータ63における外部ロータ64との摺動面に沿って形成された流路により進角室65aとを連通している。制御弁5により進角室65a及び遅角室65bの一方又は双方に対するオイルの供給・排出制御が行われる。それにより、内部ロータ63と外部ロータ64との相対回転位相が、進角方向S1又は遅角方向S2へ変位する。
【0022】
図2に示すように、内部ロータ63と、外部ロータ64に固定されたフロントプレート64aとの間にはトーションスプリング69が設けられている。このトーションスプリング69の両端部は、内部ロータ63とフロントプレート64aとにそれぞれ形成された保持部により保持されている。そして、このトーションスプリング69は、相対回転位相が進角方向S1に変位する方向に内部ロータ63及び外部ロータ64を常時付勢するトルクを与えている。
【0023】
図1に示されたロック位相と呼ばれる外部ロータ2と内部ロータ3との相対回転位相ロック位相において、油圧がたっていない状態では、ロック機構50により拘束される。例えば、エンジンの停止状態では、吸気側カムシャフト61はロック位相(最遅角位相)に拘束される。制御弁5が油圧供給側に切り換えられ、進角通路43にオイルが供給されると、ロック機構50は、ロックピン51が係合凹部52から引退して解除状態となる。また、この際、オイルは進角室41にも供給されるので、ロック機構50が解除状態となった後に、相対回転位相は進角方向S1に変位する。その後は、相対回転位相を最遅角位相と最進角位相との間の範囲内の任意の位相に変位させることが可能となる。
【0024】
上述のように構成された車両用オイル供給装置における、開閉弁2と可変昇圧弁3の動作の一例を説明する。なお、開閉弁2及び制御弁5はECU(電子制御ユニット)7に接続されており、車両の駆動状態に応じて生成されるECU7からの制御信号によってその動作が制御される。エンジンが停止して、オイルポンプ1が回転しなくなると、吐出油路12に油圧がたたなくなる。これにより、可変昇圧弁3の第1圧力作用室34の油圧が低下し、バネ33の付勢力によって変位した弁体31によりエンジン潤滑装置4及び弁開閉時期制御装置6へのオイル供給が遮断される。なおその際、供給油路15も偏差されているので、制御弁5が開放状態に切り換えられない限り、弁開閉時期制御装置6の外部へオイルが抜けていく、いわゆるオイル落ちすることが防止される。これにより、エンジン始動再開時に、弁開閉時期制御装置6における油圧の立ち上がりが早められ、弁開閉時期制御装置6の作動応答性が良好となる。
【0025】
可変昇圧弁3の状態、つまり弁体31の位置は、開閉弁2の動作によって規定される第2圧力作業室35内の油圧とバネ33と第1圧力作業室34内の油圧とのバランスで決まる。ここでは、開閉弁2に対する制御により、可変昇圧弁3の状態を決定する2つの所定油圧値、第1所定値(約100kpa)とこの第1所定値より大きい第2所定値(約400kpa)とが選択的に設定可能となっている。エンジンが始動し、オイルポンプ1が回転すると、まずは、第1圧力作業室34内の油圧が第1所定値より低い限りは、弁体31は供給油路15への出力ポートだけを開放し、オイルが弁開閉時期制御装置6のみに供給される。つまり、オイルポンプ1からのオイルが弁開閉時期制御装置6のみに供給されるので、弁開閉時期制御装置6の油圧が急速に立ち上がることになる。上記第1所定値を弁開閉時期制御装置6の動作に要求される必要油圧を以上に設定しておくと、弁開閉時期制御装置6の動作が可能になって初めてエンジン潤滑装置4を供給することになり、弁開閉時期制御装置6の動作が優先される。もし、エンジンが始動すると同時に、エンジン潤滑装置4に対して少ない量でもオイルの供給が要求される仕様の場合には、吐出油路12とエンジン潤滑装置4への供給油路14との間にバイパス油路16を設け、そのバイパス油路16に絞り16aを介装するとよい。
【0026】
また、第1所定値に代えて第2所定値が用いられる場合には、弁開閉時期制御装置6における油圧をより高圧にすることができ、急激な加速に対応することが可能となる。エンジン回転数が低く、オイルポンプ1の吐出量が十分でなくても、弁開閉時期制御装置6へのオイル供給を優先することにより、弁開閉時期制御装置6の油圧を高圧にすることができる。つまり、弁開閉時期制御装置6の応答性を高くしたいときには第2所定値を選択し、弁開閉時期制御装置6の応答性が低くてよいときには第1所定値を選択することで、機械式のオイルポンプ1だけを用いながらも、油圧アクチュエータとしての弁開閉時期制御装置6を適切に動作させることができる。
【0027】
なお、エンジン回転数が大きいときには、オイルポンプ1の吐出量も大きくなり、結果的に弁開閉時期制御装置6にも高い油圧が作用するので、第2所定値を選択する必要がない。また、油温が低すぎるときや高すぎるときにも、適切な弁開閉時期制御装置6の動作を得るため、第2所定値を選択せずに、第1所定値を選択するのが好ましい。
【0028】
上述したことを考慮した、第1所定値や第2所定値を設定する制御弁2に対する制御ルーチンの一例が図3に示されている。この制御ルーチンでは上記第2所定値が選択される条件が判定され、全ての条件が満たされた場合にのみ第2所定値が選択され、それ以外では第1所定値が選択される。この制御ルーチンはECU7に構築されている制御弁制御部71で実行される。
まず、エンジン回転数検出センサ70aからの信号に基づいてエンジン回転数Neが1500rpm未満であるかどうかチェックされる(#01)。エンジン回転数Neが1500rpm未満であれば(#01Yes分岐)、さらに油温センサ70bからの信号に基づいて油温Tが0℃を超えているかどうかチェックされる(#02)。油温Tが0℃を超えていれば(#02Yes分岐)、さらに油温Tが110℃未満であるかどうかチェックされる(#03)。油温Tが110℃未満であれば(#03Yes分岐)、さらにアクセル操作検出センサ70cからの信号に基づいてアクセル開度変化が30%以上増加しているかどうかチェックされる(#04)。アクセル開度変化が30%以上増加していれば(#04Yes分岐)、制御弁2に対する高圧制御が実施される(#05)。この高圧制御では、制御弁2の開時間を長くして可変昇圧弁3の第2圧力作用室35の油圧を高くすることで、弁開閉時期制御装置6への供給油路15と接続している出力ポートを開放する開弁圧を上記第2設定圧とする。これにより、弁開閉時期制御装置6の油圧は高圧(約400kPa)となる。
【0029】
ステップ#01のチェックでエンジン回転数Neが1500rpmを以上であれば(#01No分岐)、制御弁2に対する低圧制御が実施される(#06)。この低圧制御では,制御弁2から可変昇圧弁3の第2圧力作用室35へのオイル供給を少なくしてその油圧を低くすることで、弁開閉時期制御装置6への供給油路15と接続している出力ポートを開放する開弁圧を上記第1所定圧とする。これにより、弁開閉時期制御装置6の油圧は低圧(約100kPa)となる。これは、エンジン回転数Neが1500rpmを以上であれば、オイルポンプ1の吐出量も大きくなり、弁開閉時期制御装置6の油圧も高くなるので、制御弁2を高圧制御する必要がないからである。
【0030】
同様に、ステップ#02のチェックで油温Tが0℃以下ならば(#02No分岐)、制御弁2に対する低圧制御が実施される(#06)。これは、油温が0℃以下の低温となると、粘性が大きくなり、油圧が高くなりやすく、あえて制御弁2を高圧制御する必要がないからである。また、ステップ#03のチェックで油温Tが100℃以上ならば(#03No分岐)、制御弁2に対する低圧制御が実施される(#06)。これは油温が100℃以上の高温となると、エンジン潤滑装置4における油圧が下がり過ぎる可能性があり、制御弁2を高圧制御することによりエンジン潤滑装置4における油圧がさらに低下してしまうことを避けるためである。最後に、アクセル開度の増加が30%未満であれば(#04No分岐)、制御弁2に対する低圧制御が実施される(#06)。これは、アクセル開度の増加が30%未満であれば、車両はそれほど急激な加速状態ではなく、低圧下での弁開閉時期制御装置6でも十分に対応できるとみなされるからである。以上のことから、この制御ルーチンでは、ステップ#01から#04までの全ての条件が満たされた場合にのみ、制御弁2が高圧制御され、弁開閉時期制御装置6に高圧の油圧がたつことになる。
【0031】
上述した車両用オイル供給装置では、弁開閉時期制御装置6に作用する油圧が低いときに、オイルポンプ1からのオイルを弁開閉時期制御装置6に優先的に流すだけでなく、弁開閉時期制御装置6に作用する油圧を低圧と高圧とから車両の状況によって適切に選択することできる。
【0032】
〔別実施形態〕
(1)上述した実施形態での優先弁3は、第1圧力作用室34に作用する圧力(油圧)が所定値より低い場合オイルポンプ1からのオイルを油圧アクチュエータとしての弁開閉時期制御装置6に対して優先的に流す優先状態と、第1圧力作用室34に作用する圧力が所定値より高い場合オイルポンプ1からのオイルを弁開閉時期制御装置6とエンジン潤滑装置4との両方に送る通常状態と、どちらにも流さない閉鎖状態を選択的に作り出していた。しかも、その選択基準となる所定値は、制御弁2とこの制御弁2によって圧力調整される第2圧力作用室35とによって可変となっていた。このような構成に代えて、制御弁2と第2圧力作用室35とを省略する構成を採用してもよい。この場合、選択基準となる所定値はバネ33によって一定値となるが、構造が簡単化するという利点が得られる。
(2)上述した実施形態での優先弁3は、オイル流れ方向に関して、エンジン潤滑装置4と弁開閉時期制御装置6とに対してオイルポンプ1側に配置されていた。つまり、優先弁3と弁開閉時期制御装置6は油圧回路的にシリアル接続されており、エンジン停止時においても、優先弁3が閉鎖状態となっておれば、弁開閉時期制御装置6がオイル落ちすることは回避される。しかしながら、図4に示すように、オイルポンプ1に対して、優先弁3と弁開閉時期制御装置6とを油圧回路的にパラレル接続することも可能である。ただし、弁開閉時期制御装置6のオイル落ちを回避する必要がある場合には、ストップ弁などによる対策が必要となる。
(3)上述した実施形態での優先弁3は、弁体31に及ぼす油圧回路圧に応じてオイルポンプ1からのオイルの流れ先が選択される可変昇圧弁構造を有していた。これに代えて、図5に示すように、ECU7からの制御信号に基づいて励起するソレノイドによって変位するスプールを有する電気式可変絞り弁3を採用してもよい。図5では、この電気式可変絞り弁3は、オイルポンプ1から弁開閉時期制御装置6(油圧アクチュエータ)につながる油路から分岐してエンジン潤滑装置4につながる油路に設けられている。さらに、弁開閉時期制御装置6に作用する圧力を検出するセンサがECU7に接続されており、電気式可変絞り弁3は、弁開閉時期制御装置6に作用する圧力が低いときにはオイルポンプ1からエンジン潤滑装置4に流れるオイルを制限するように制御される。
(4)上述した実施形態では、必要に応じて優先弁3によりオイルポンプ1からのオイルを優先供給される油圧アクチュエータとして、弁開閉時期制御装置6が取り扱われた。本発明はこれに限定されるわけではなく、オイルポンプ1による吐出量が十分でない時でも必要十分な油圧を得ることで適切な作動応答性を確保する種々の油圧アクチュエータために本発明を適用することができる。
(5)上述した実施形態での開閉弁2は、第2圧力室35へオイルを供給する状態と、第2圧力室35内のオイルを排出する状態とで、2段階の可変昇圧弁3の開弁圧を制御したが、開閉弁2をオイルコントロールバルブ(OCV)に置き換えてデューティ制御することにより、可変昇圧弁3の開弁圧を任意の開弁圧に制御する構成を採用することもできる。つまり、本発明における開閉弁2は、2段階の開弁圧制御に限定されているわけでなく、それ以外の開弁圧制御も含んでいる。
【0033】
尚、可変昇圧弁3のバネ33が設けられている、弁体31とリテーナ32との間の空間は、容積が増減するため、この空間内の空気を吸排する呼吸孔(図示なし)を形成する必要があることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による車両用オイル供給装置の一例を示す構成図
【図2】図1で用いられた弁開閉時期制御装置の断面図
【図3】制御弁の制御ルーチンを示すフローチャート
【図4】車両用オイル供給装置の構別実施形態の構成図
【図5】電気式可変絞り弁を備えた車両用オイル供給装置を示す構成図
【符号の説明】
【0035】
1:機械式オイルポンプ
2:開閉弁
3:優先弁(調整弁;可変昇圧弁、可変絞り弁)
4:エンジン潤滑装置
5:制御弁
6:油圧アクチュエータ(弁開閉時期制御装置)
7:ECU
31:弁体
32:リテーナ
33:バネ
34:第1圧力作用室
35:第2圧力作用室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転により駆動される機械式オイルポンプと、前記オイルポンプに給されるオイルの油圧により作動する油圧アクチュエータと、前記オイルポンプによって供給されるオイルを用いて前記エンジンの各部材を潤滑するエンジン潤滑装置とを備え、
前記油圧アクチュエータに作用する油圧が低いときに、前記オイルポンプから前記エンジン潤滑装置へのオイル供給に対して前記オイルポンプから前記油圧アクチュエータへのオイル供給を優先させる優先弁を備えている車両用オイル供給装置。
【請求項2】
前記優先弁が前記オイルポンプから前記エンジン潤滑装置へのオイル流量を調整する調整弁であり、前記油圧アクチュエータに作用する油圧が前記油圧アクチュエータの動作必要油圧より低いときに、前記エンジン潤滑装置へのオイル流量を制限する請求項1に記載の車両用オイル供給装置。
【請求項3】
前記調整弁は、少なくとも第1流量調整状態とこの第1流量調整状態より大きなオイル供給制限量をもたらす第2流量調整状態を作り出す請求項2に記載の車両用オイル供給装置。
【請求項4】
前記調整弁は、前記油圧アクチュエータを高速動作させる必要があるときには前記第2流量調整状態に設定され、高速動作させる必要がないときに、前記第1流量調整状態に設定される請求項3に記載の車両用オイル供給装置。
【請求項5】
前記調整弁は、前記エンジンが所定の回転数以上のときに、前記第1流量調整状態に設定され、前記エンジンが前記処理の回転数以下のときに前記第2流量調整状態に設定される請求項3または4に記載の車両用オイル供給装置。
【請求項6】
前記優先弁が、前記優先弁の流入オイル圧が所定設定圧を超えたときに、前記エンジン潤滑装置にオイルを流す圧力制御式調整弁である請求項1に記載の車両用オイル供給装置。
【請求項7】
前記所定設定圧が前記油圧アクチュエータの動作必要油圧以上である請求項6に記載の車両用オイル供給装置。
【請求項8】
前記優先弁をバイパスして前記オイルポンプと前記エンジン潤滑装置とを接続するバイパス油路が設けられ、前記バイパス油路に絞りが介装されている請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用オイル供給装置。
【請求項9】
前記優先弁が前記オイルポンプと前記油圧アクチュエータとの間に備えられ、前記優先弁が前記オイルポンプの停止時に閉状態となり、前記油圧アクチュエータと前記優先弁との間のオイルを維持する請求項1から8のいずれか一項に記載の車両用オイル供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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