説明

車両用クラッチ装置

【課題】レリーズフォークブーツ20の組付性が向上させられた車両用クラッチ装置10を提供する。
【解決手段】レリーズフォーク16の操作側端部16aをクラッチハウジング12の外側に出すためにクラッチハウジング12に形成された開口18と、その開口18とレリーズフォーク16との間の隙間を塞ぐために開口18に装着されたレリーズフォークブーツ20とを備える車両用クラッチ装置10であって、操作側端部16aは、その操作側端部16aの長手方向に沿って形成された溝50を有しており、レリーズフォークブーツ20は、操作側端部16aが挿し通されたU字状の挿通孔54と、その挿通孔54の内側に位置し上記溝50の底面50aに接触する片持状の蓋部20cと、その蓋部20cから操作側端部16aの先端側に向けて突設されて上記溝50の底面50aに蓋部20cと共に接触する突部20dとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用クラッチ装置に係り、特に、その車両用クラッチ装置が備えるレリーズフォークブーツの組付性を向上させるための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クラッチハウジング内に収容された摩擦クラッチと、その摩擦クラッチの係合状態と解放状態とを切り換えるために回動操作されるレリーズフォークと、そのレリーズフォークの操作側端部を前記クラッチハウジング外側に出すためにそのクラッチハウジングに形成された開口と、その開口とそれを貫通する前記レリーズフォークとの間の隙間を塞ぐためにその開口に装着されたレリーズフォークブーツとを備える車両用クラッチ装置が知られている。例えば、特許文献1に記載されたものがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−255772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の車両用クラッチ装置が備えるレリーズフォークは、クラッチハウジング内に固設された支持部材によって回動可能に支持される中間部を回動中心として操作側端部が摩擦クラッチの軸中心線を含む面内において回動させられる梃子状操作部材である。そのレリーズフォークの操作側端部は、その操作側端部に加えられるクラッチ操作力に耐え得る強度を確保するために、その操作側端部の幅方向の両端部からその操作側端部の操作方向にそれぞれ突出された一対の側壁部を有するU字状断面となるように形成されている。そのため、レリーズフォークの操作側端部には、上記一対の側壁部間にその操作側端部の長手方向に沿う溝が形成されている。このようなレリーズフォークは、例えば板材からプレス成形により作られる。
【0005】
上記溝が形成されたレリーズフォークの操作側端部とクラッチハウジングに形成された開口との間の隙間を塞ぐために設けられるレリーズフォークブーツには、その操作側端部が挿し通されるU字状の挿通孔と、その挿通孔の内側に突き出るように位置し、レリーズフォークの溝内の少なくとも溝底に接触する片持状の蓋部とが形成されている。その蓋部により、上記溝を通じてクラッチハウジングの内外が連通状態となることが抑制される。
【0006】
ここで、上記蓋部が形成されたレリーズフォークブーツがクラッチハウジングに組み付けられる際には、先ず、クラッチハウジングに組み付けられたレリーズフォークに対してそのレリーズフォークの操作側端部の上からクラッチハウジングへ向かってレリーズフォークブーツが被せられる。そして、レリーズフォークブーツの挿通孔にレリーズフォークの操作側端部が通されつつ、そのレリーズフォークブーツの開口側端部がクラッチハウジングの開口に嵌めつけられる。そして、レリーズフォークの溝底と擦れることで上方に捲れたレリーズフォークブーツの蓋部が、所定の定位置すなわちその蓋部の先端面が弾性変形前の平坦な姿勢となってレリーズフォークの溝底に接触させられる位置となるように下方へ押し込まれる。なお、これらの作業は、例えば、車両の製造ラインにおいて行われる。しかし、整備工場における車両の修理あるいはメンテナンス時においても行われ、この場合には、クラッチハウジングおよびレリーズフォークが車両に搭載された状態において作業者がエンジンルーム(エンジンコパートメント)を覗き込みながら行われる。したがって、上記蓋部の下方への押し込み加減が難しいことに加えて無理な体勢での作業となる場合があるために、その蓋部がブーツ内側へ押し込まれ過ぎる場合があり、レリーズフォークブーツの組付性が悪くシール性が低下する可能性があった。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、レリーズフォークブーツの組付性が向上させられた車両用クラッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a)クラッチハウジング内に収容された摩擦クラッチと、その摩擦クラッチの係合状態と解放状態とを切り換えるために回動操作されるレリーズフォークと、そのレリーズフォークの操作側端部を前記クラッチハウジング外側に出すためにそのクラッチハウジングに形成された開口と、その開口とその開口を貫通する前記レリーズフォークとの間の隙間を塞ぐためにその開口に装着されたレリーズフォークブーツとを備える車両用クラッチ装置であって、(b)前記レリーズフォークの操作側端部は、前記クラッチハウジング内側からそのクラッチハウジング外側へ向かう前記操作側端部の長手方向に沿って形成された溝を有しており、(c)前記レリーズフォークブーツは、前記レリーズフォークの操作側端部が挿し通されたU字状の挿通孔と、その挿通孔の内側に位置し、前記レリーズフォークの溝底に接触する片持状の蓋部と、その蓋部から前記操作側端部の先端側に向けて突設されて前記レリーズフォークの溝底に前記蓋部と共に接触する突部とを備えていることにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、レリーズフォークブーツがクラッチハウジングに組み付けられるに際して、レリーズフォークの操作側端部の溝底と擦れることで上方に捲れたレリーズフォークブーツの蓋部が前記定位置となるように下方へ押し込まれるときに、その蓋部がその定位置よりも更に下方へ押し込まれようとすると、蓋部の先端部から突設された突部がレリーズフォークの操作側端部の溝底と当接して上記蓋部の更なる下方への押し込みが抑制される。よって、蓋部が下方へ押し込まれ過ぎることが抑制され、レリーズフォークブーツの組付性が向上された車両用クラッチ装置を得ることができる。
【0010】
ここで、好適には、前記レリーズフォークブーツの突部の前記溝底に対向する面は、その溝底に密着させられる。このようにすれば、レリーズフォークブーツがクラッチハウジングに組み付けられるに際して、上方に捲れているレリーズフォークブーツの蓋部が前記定位置となるように下方へ押し込まれるときに、その蓋部がその定位置よりも更に下方へ押し込まれようとすると、蓋部の先端部から突設された突部がレリーズフォークの操作側端部の溝底と摩擦摺接させられる。そのため、その突部が無いものと比べて、蓋部が前記定位置よりも更に下方へ押し込まれようとするときにおけるその蓋部の上記溝底に対する摩擦抵抗が大きくなり、上記蓋部の更なる下方への押し込みが抑制される。
【0011】
また、好適には、前記レリーズフォークブーツの突部は、前記蓋部の突出方向に長手状を成すように形成されているつまみ部を含む。このようにすれば、レリーズフォークブーツがクラッチハウジングに組み付けられるに際して、レリーズフォークブーツの蓋部が前記定位置よりも更に下方へ押し込まれようとするときにつまみ部が蓋部とレリーズフォークの操作側端部の溝底との間でつかえることで、その蓋部が前記定位置よりも更に下方へ押し込まれることが抑制される。それでも蓋部が前記定位置よりも更に下方へ押し込まれ過ぎてしまった場合には、つまみ部をつまんで簡単に蓋部を上方へ引き上げることができる。なお、前記定位置よりも更に下方へ押し込まれ過ぎてしまった蓋部をクラッチハウジング内から直そうとしても作業スペースがないため困難である。
【0012】
また、好適には、前記レリーズフォークブーツの突部は、(a)前記レリーズフォークの操作側端部の溝底と対向するように前記蓋部からその蓋部の突出方向に厚みを有する板状に立設され、前記溝底と面接触状態で密着させられた摩擦抵抗増大部を含み、(b)前記つまみ部は、その摩擦抵抗増大部の前記溝底とは反対側の面と前記蓋部とを互いに接続している。このようにすれば、レリーズフォークブーツがクラッチハウジングに組み付けられるに際して、レリーズフォークブーツの蓋部が前記定位置よりも更に下方へ押し込まれようとするときには、摩擦抵抗増大部とレリーズフォークの操作側端部の溝底との間で摩擦抵抗が生じ、且つ蓋部と上記溝底との間でつまみ部がつかえるために、蓋部が前記定位置よりも更に下方へ押し込まれることが抑制される。それでも蓋部が前記定位置よりも更に下方へ押し込まれ過ぎてしまった場合には、つまみ部をつまんで簡単に蓋部を上方へ引き上げることができる。
【0013】
また、好適には、前記つまみ部は、前記蓋部の突出方向に直交する方向に厚みを成す板状に形成される。このようにすれば、レリーズフォークブーツの成形型の合わせ面が、前記摩擦抵抗増大部の厚み方向と平行な平面内であって且つ上記つまみ部の厚み間に位置させられることで、型抜き時における成形型と成形品との干渉を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用された車両用クラッチ装置を示す断面図である。
【図2】図1のレリーズフォークブーツを上方から見た図である。
【図3】図1のレリーズフォークブーツの突部および蓋部の斜視図である。
【図4】図1のうちのレリーズフォークブーツの突部周辺を拡大した図である。
【図5】従来の車両用クラッチ装置を示す断面図であって、本実施例の図1に相当する図である。
【図6】図5のレリーズフォークブーツの蓋部周辺を拡大した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明が適用された車両用クラッチ装置10を示す断面図である。図1に示すように、車両用クラッチ装置10は、クラッチハウジング12内に収容された乾式単板の摩擦クラッチ14と、その摩擦クラッチ14の係合状態と解放状態とを切り換えるために操作されるレリーズフォーク16と、そのレリーズフォーク16の操作側端部16aをクラッチハウジング12の外側に出すためにそのクラッチハウジング12に形成された開口18と、その開口18とレリーズフォーク16との間の隙間を塞ぐためにその開口18に装着されたレリーズフォークブーツ20とを備えている。
【0017】
摩擦クラッチ14は、エンジン22のクランク軸24と変速機26の入力軸28との間に設けられている。なお、図1において上記エンジン22および変速機26は2点差線で一部のみが示されている。この摩擦クラッチ14は、クランク軸24に固設された円板状のフライホイール30と、そのフライホイール30に固設されたクラッチカバー32と、クランク軸24および入力軸28の共通の軸中心線C方向に移動可能に入力軸28にスプライン嵌合された状態でクラッチカバー32内に収容され、外周部のフライホイール30側およびそのフライホイール30とは反対側にそれぞれ一対の円環板状の摩擦板34が固定されたクラッチディスク36と、摩擦板34のフライホイール30とは反対側においてその摩擦板34に対して軸中心線C方向の接近および離間可能な状態でクラッチカバー32内に収容された円環板状のプレッシャープレート38と、外周部がそのプレッシャープレート38をクラッチディスク36に押し付ける状態でクラッチカバー32内に収容されたダイヤフラムスプリング42とを備えている。
【0018】
このように構成された摩擦クラッチ14は、ダイヤフラムスプリング42の内周部がレリーズベアリング40を介してレリーズフォーク16によりエンジン22側へ押圧されない場合には、ダイヤフラムスプリング42の外周部によりプレッシャープレート38をクラッチディスク36に押し付ける状態が維持され、クラッチディスク36がプレッシャープレート38とフライホイール30との間で挟圧される。これにより、摩擦クラッチ14は、摩擦板34とフライホイール30とが摩擦係合する係合状態とされる。この摩擦クラッチ14の係合状態においてはエンジン22の出力軸24と変速機26の入力軸28とが動力伝達状態とされる。また、摩擦クラッチ14は、ダイヤフラムスプリング42の内周部がレリーズベアリング40を介してレリーズフォーク16によりエンジン22側へ押圧された場合には、ダイヤフラムスプリング42の外周部によるプレッシャープレート38の押し付けが解除され、プレッシャープレート38がクラッチディスク36から離間させられる。これにより、摩擦クラッチ14は、摩擦板34とフライホイール30とが離れる解放状態とされる。この摩擦クラッチ14の解放状態においてはエンジン22の出力軸24と変速機26の入力軸28との間の動力伝達が遮断される。
【0019】
クラッチハウジング12は、図示しないエンジンブロックおよび変速機ケースにそれぞれ固定された有底円筒状部材であり、変速機26側すなわち図1の左側に位置する隔壁部12aと、その隔壁部12aの外周部からエンジン22側へ延設された円筒状外壁部12bとを有している。開口18は、その円筒状外壁部12bの変速機26側に形成されている。本実施例の開口18は、矩形状に形成されている。
【0020】
レリーズベアリング40は、入力軸28の外周側において上記隔壁部12aの内周部から摩擦クラッチ14側へ突設された円筒状のベアリング支持部12cの外周側に軸中心線C方向の移動可能に嵌められている。このレリーズベアリング40は、レリーズフォーク16とダイヤフラムスプリング42との軸中心線Cまわりの相対回転を許容しつつそのレリーズフォーク16からの押圧力をダイヤフラムスプリング42に伝達するためのものである。
【0021】
レリーズフォーク16は、クラッチハウジング12の隔壁部12aに固設された支持部材44の先端部と係合する凹部16bを支点として、その凹部16bから開口18を通じてクラッチハウジング12外へ突出された操作側端部16aが軸中心線C方向に揺動させられる梃子部材である。このレリーズフォーク16は、上記操作側端部16aとは反対側において二股状に形成され、レリーズベアリング40のうちのダイヤフラムスプリング42とは反対側の端面をそのダイヤフラムスプリング42側へ押し付け可能な出力側端部16cを有している。上記操作側端部16aおよび出力側端部16cは、クラッチケーブル46から操作側端部16aに加えられるクラッチ操作力およびダイヤフラムスプリング42からの反力に耐え得る強度を確保するために、幅方向の両端部から操作側端部16aの操作方向すなわち軸中心線C方向の変速機26側へそれぞれ突出された一対の側壁48および49を有するU字状断面となるように形成されている。そのため、レリーズフォーク16の操作側端部16aには、上記一対の側壁48間に、クラッチハウジング12の内側からそのクラッチハウジング12の外側へ向かう操作側端部16aの長手方向に沿う溝50が形成されている。このようなレリーズフォーク16は、例えば板材からプレス成形により作られる。なお、レリーズフォーク16には、そのレリーズフォーク16と支持部材44との係合状態を保持するために良く知られたクリップ52が装着されている。
【0022】
図2は、図1の上方から見たレリーズフォークブーツ20を示す図である。なお、図1は、図2のI-I矢視部断面を示す断面図である。図1および図2に示すように、上記溝50が形成されたレリーズフォーク16の操作側端部16aとクラッチハウジング12に形成された開口18との間の隙間を塞ぐために設けられたレリーズフォークブーツ20は、開口側端部20aが開口18に嵌めつけられた有底円筒状部材である。このレリーズフォークブーツ20は、その開口側端部20aからクラッチハウジング12の外側へ向けて形成された蛇腹部20bを有しており、この蛇腹部20bにより、レリーズフォーク16の操作側端部16aの揺動が許容されるようになっている。また、レリーズフォークブーツ20は、レリーズフォーク16の操作側端部16aが挿し通されたU字状の挿通孔54と、その挿通孔54の内側に位置し、操作側端部16aの溝底すなわち溝50の底面50aに接触する片持状の蓋部20cとを有している。この蓋部20cにより、上記溝50を通じてクラッチハウジング12の内外が連通状態となることが抑制されている。
【0023】
また、レリーズフォークブーツ20は、蓋部20cから操作側端部16aの先端側すなわちクラッチハウジング12の外側へ向けて突設されてレリーズフォーク16の操作側端部16aの溝底すなわち溝50の底面50aに蓋部20cと共に接触する突部20dを有している。図3は、突部20dおよび蓋部20cの斜視図である。図1乃至図3に示すように、突部20dは、操作側端部16aの溝50の底面50aと対向するように蓋部20cの先端部からその蓋部20cの突出方向に厚みを有する板状に立設され、底面50aに対向する面(溝底に対向する面)56がその底面50aと面接触状態で密着させられた摩擦抵抗増大部Aと、蓋部20cの突出方向に直交する方向に厚みを成す板状に形成されてその蓋部20cの突出方向に長手状を成すように形成され、摩擦抵抗増大部Aの底面50aとは反対側の面(溝底とは反対側の面)58と蓋部20cとを互いに接続しているつまみ部Bとから成る。このようなレリーズフォークブーツ20は、例えば成形型が用いられて合成樹脂または合成ゴムなどの材料から成形される。上記成形型の合わせ面は、図2のI-I矢視部断面内、すなわち摩擦抵抗増大部Aの厚み方向と平行な平面内であって且つつまみ部Bの厚みの中間位置に設定される。
【0024】
次に、上記レリーズフォークブーツ20の組み付け作業について説明する。なお、レリーズフォークブーツ20の組み付け作業は、例えば、整備工場における車両の修理時やメンテナンス時において、クラッチハウジング12およびレリーズフォーク16が車両に搭載された状態において作業者がエンジンルーム(エンジンコパートメント)を覗き込みながら行われる。
【0025】
レリーズフォークブーツ20がクラッチハウジング12に組み付けられる際には、先ず、クラッチハウジング12に組み付けられたレリーズフォーク16に対してそのレリーズフォーク16の操作側端部16aの上からクラッチハウジング12に向けてレリーズフォークブーツ20が被せられる。そして、レリーズフォークブーツ20の挿通孔54にレリーズフォーク16の操作側端部16aが通されつつ、そのレリーズフォークブーツ20の開口側端部20aが開口18に嵌めつけられる。そして、操作側端部16aの溝50の底面50aと擦れることで上方に捲れたレリーズフォークブーツ20の蓋部20cが、図1に示す所定の定位置すなわちその蓋部20cの先端面が操作側端部16aの溝50の底面50aに接触させられる位置となるように下方へ押し込まれる。
【0026】
ここで、上記蓋部20cの下方への押し込み作業は、前述のように作業者がエンジンルームを覗き込みながら行われるために無理な体勢での作業となる場合があり、押し込み力加減が難しく、蓋部20cがブーツ内側へ押し込まれ過ぎる可能性も考えられる。しかし、その点、本実施例のレリーズフォークブーツ20の蓋部20cには突部20dがレリーズフォーク16の操作側端部16aの先端側へ突設されて蓋部20cと共に溝50の底面50aと接触するようになっているため、そのような事態が発生し難い。具体的には、図1のうちの突部20d周辺を拡大した図4に示すように、蓋部20cを下方へ押し込むための押込力P[N]が前記所定の定位置に位置させられた突部20dに加えられた場合には、面56と底面50aとが面接触状態にあるために、突部20dに押し込み方向とは反対方向へ作用する摩擦抵抗力μF[N]が生じる。上記面56と底面50aとの接触面積は突部20dが無いものと比べて格段に大きくなるため、上記摩擦抵抗力μFも突部20dが無いものと比べて格段に大きくなる。また、レリーズフォークブーツ20の蓋部20cが前記所定の定位置よりも更に下方へ押し込まれようとするときには、つまみ部Bが蓋部20c(摩擦抵抗増大部A)と底面50aとの間でつかえることで、その蓋部20cが前記定位置よりも更に下方へ押し込まれることが抑制される。よって、上記のように無理な体勢で蓋部20cの下方への押し込み作業が行われる場合であっても、蓋部20cがブーツ内側へ押し込まれ過ぎる事態が発生し難くなる。また、万が一蓋部20cがブーツ内側へ押し込まれ過ぎても、つまみ部Bがつまみとして機能させられて、クラッチハウジング12外から蓋部20cを引き上げることができる。
【0027】
因みに、図5は、従来の車両用クラッチ装置60を示す断面図であって、本実施例の図1に相当する図である。この車両用クラッチ装置60のレリーズフォークブーツ62は、本実施例のレリーズフォークブーツ20と比べて前記突部20dが無い他は同じ構成であり、開口側端部62aと、蛇腹部60bと、蓋部60cとを有している。このように前記突部20dが無いものだと、レリーズフォークブーツ20の組付時において操作側端部16aの溝50の底面50aと擦れることで上方に捲れたレリーズフォークブーツ60の蓋部60cが下方へ押し込まれる際に、その蓋部60cと底面50aとの間の摩擦抵抗が少ないために、図6に示すように蓋部60cが下方へ押し込まれ過ぎる事態が発生し易い。そして、そのように蓋部60cが下方へ押し込まれ過ぎて蓋部60cの裏返りが発生してしまうと、レリーズフォークブーツ62を一旦取り外した後にもう一度組み付ける必要があり、組み付けに時間がかかるという問題があった。
【0028】
本実施例の車両用クラッチ装置10によれば、クラッチハウジング12内に収容された摩擦クラッチ14と、その摩擦クラッチ14の係合状態と解放状態とを切り換えるために操作されるレリーズフォーク16と、そのレリーズフォーク16の操作側端部16aをクラッチハウジング12の外側に出すためにそのクラッチハウジング12に形成された開口18と、その開口18とレリーズフォーク16との間の隙間を塞ぐためにその開口18に装着されたレリーズフォークブーツ20とを備える車両用クラッチ装置10であって、レリーズフォーク16の操作側端部16aは、クラッチハウジング12の内側からそのクラッチハウジング12の外側へ向かう操作側端部16aの長手方向に沿って形成された溝50を有しており、レリーズフォークブーツ20は、レリーズフォーク16の操作側端部16aが挿し通されたU字状の挿通孔54と、その挿通孔54の内側に位置し、レリーズフォーク16の溝底すなわち溝50の底面50aに接触する片持状の蓋部20cと、その蓋部20cから操作側端部16aの先端側に向けて突設されて溝50の底面50aに蓋部20cと共に接触する突部20dとを備えている。このようにすれば、レリーズフォークブーツ20がクラッチハウジング12に組み付けられるに際して、操作側端部16aの溝50の底面50aと擦れることで上方に捲れたレリーズフォークブーツ20の蓋部20cが定位置となるように下方へ押し込まれるときに、その蓋部20cがその定位置よりも更に下方へ押し込まれようとすると、蓋部20cの先端部から突設された突部20dがレリーズフォーク16の操作側端部16aの溝50の底面50aと当接して上記蓋部20cの更なる下方への押し込みが抑制される。よって、レリーズフォークブーツ20の組付性が向上された車両用クラッチ装置10を得ることができる。
【0029】
また、本実施例の車両用クラッチ装置10によれば、レリーズフォークブーツ20の突部20dの前記底面50aに対向する面56は、その底面50aに密着させられる。このようにすれば、レリーズフォークブーツ20がクラッチハウジング12に組み付けられるに際して、上方に捲れているレリーズフォークブーツ20の蓋部20cが定位置となるように下方へ押し込まれるときに、その蓋部20cがその定位置よりも更に下方へ押し込まれようとすると、蓋部20cの先端部から突設された突部20dがレリーズフォーク16の操作側端部16aの溝50の底面50aと摩擦摺接させられる。そのため、その突部20dが無いものと比べて、蓋部20cが前記定位置よりも更に下方へ押し込まれようとするときにおけるその蓋部20cの上記底面50aに対する摩擦抵抗が大きくなり、上記蓋部20cの更なる下方への押し込みが抑制される。
【0030】
また、本実施例の車両用クラッチ装置10によれば、レリーズフォークブーツ20の突部20dは、蓋部20cの突出方向に長手状を成すように形成されているつまみ部Bを含む。このようにすれば、レリーズフォークブーツ20がクラッチハウジング12に組み付けられるに際して、レリーズフォークブーツ20の蓋部20cが定位置よりも更に下方へ押し込まれようとするときにつまみ部Bが蓋部20cとレリーズフォーク16の操作側端部16aの溝50の底面50aとの間でつかえることで、その蓋部20cが前記定位置よりも更に下方へ押し込まれることが抑制される。それでも蓋部20cが前記定位置よりも更に下方へ押し込まれ過ぎてしまった場合には、つまみ部Bをつまんで簡単に蓋部20cを上方へ引き上げることができる。なお、前記定位置よりも更に下方へ押し込まれ過ぎてしまった蓋部20cをクラッチハウジング12の内側から直そうとしても作業スペースがないため困難である。
【0031】
また、本実施例の車両用クラッチ装置10によれば、レリーズフォークブーツ20の突部20cは、レリーズフォーク16の操作側端部16aの溝50の底面50aと対向するように蓋部20cからその蓋部20cの突出方向に厚みを有する板状に立設され、上記底面50aと面接触状態で密着させられた摩擦抵抗増大部Aを含み、前記つまみ部Bは、その摩擦抵抗増大部Aの上記底面50aとは反対側の面58と蓋部20cとを互いに接続している。このようにすれば、レリーズフォークブーツ20がクラッチハウジング12に組み付けられるに際して、レリーズフォークブーツ20の蓋部20cが定位置よりも更に下方へ押し込まれようとするときには、摩擦抵抗増大部Aと底面50aとの間で摩擦抵抗が生じ、且つ蓋部20cと上記底面50aとの間でつまみ部Bがつかえるために、蓋部20cが前記定位置よりも更に下方へ押し込まれることが抑制される。それでも蓋部20cが前記定位置よりも更に下方へ押し込まれ過ぎてしまった場合には、つまみ部Bをつまんで簡単に蓋部20cを上方へ引き上げることができる。
【0032】
また、本実施例の車両用クラッチ装置10によれば、つまみ部Bは、蓋部20cの突出方向に直交する方向に厚みを成す板状に形成され、レリーズフォークブーツ20の成形型の合わせ面は、摩擦抵抗増大部Aの厚み方向と平行な平面内であって且つつまみ部Bの厚みの中間位置に設定される。このようにすれば、型抜き時における成形型と成形品(レリーズフォークブーツ20)との干渉を無くすことができる。
【0033】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0034】
たとえば、前述の実施例の突部20dは、平面視でT字状に接続する摩擦抵抗増大部Aとつまみ部Bとから構成されていたが、それら摩擦抵抗増大部Aおよびつまみ部Bのいずれか一方が設けられてもよい。また、突部20dは、その機能を有する範囲で他の形状とされていてもよい。
【0035】
また、前述の実施例において、摩擦クラッチ14は乾式単板のものであったが、これに限らず、その他の公知の摩擦クラッチであっても本発明が適用され得る。また、レリーズフォーク16はクラッチケーブル46により操作される形式のものであったが、これに限らず、例えば油圧シリンダ等の他の装置により操作される形式のものであってもよい。
【0036】
また、前述の実施例において、レリーズフォーク16は板材からプレス成形されるものであったが、これに限らず、例えば鋳造等の他の製法で作られるものであってもよい。
【0037】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
10:車両用クラッチ装置
12:クラッチハウジング
14:摩擦クラッチ
16:レリーズフォーク
16a:操作側端部
18:開口
20:レリーズフォークブーツ
20c:蓋部
20d:突部
50:溝
50a:底面(溝底)
54:挿通孔
56:面(溝底に対向する面)
58:面(溝底とは反対側の面)
A:摩擦抵抗増大部
B:つまみ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチハウジング内に収容された摩擦クラッチと、該摩擦クラッチの係合状態と解放状態とを切り換えるために回動操作されるレリーズフォークと、該レリーズフォークの操作側端部を前記クラッチハウジング外側に出すために該クラッチハウジングに形成された開口と、該開口と該開口を貫通する該レリーズフォークとの間の隙間を塞ぐために該開口に装着されたレリーズフォークブーツとを備える車両用クラッチ装置であって、
前記レリーズフォークの操作側端部は、前記クラッチハウジング内側から該クラッチハウジング外側へ向かう該操作側端部の長手方向に沿って形成された溝を有しており、
前記レリーズフォークブーツは、前記レリーズフォークの操作側端部が挿し通されたU字状の挿通孔と、該挿通孔の内側に位置し、該レリーズフォークの溝底に接触する片持状の蓋部と、該蓋部から該操作側端部の先端側に向けて突設されて前記レリーズフォークの溝底に前記蓋部と共に接触する突部とを備えている
ことを特徴とする車両用クラッチ装置。
【請求項2】
前記レリーズフォークブーツの突部の前記溝底に対向する面は、該溝底に密着させられていることを特徴とする請求項1の車両用クラッチ装置。
【請求項3】
前記レリーズフォークブーツの突部は、前記蓋部の突出方向に長手状を成すように形成されているつまみ部を含むことを特徴とする請求項1または2の車両用クラッチ装置。
【請求項4】
前記レリーズフォークブーツの突部は、
前記レリーズフォークの操作側端部の溝底と対向するように前記蓋部から該蓋部の突出方向に厚みを有する板状に立設され、該溝底と面接触状態で密着させられた摩擦抵抗増大部を含み、
前記つまみ部は、該摩擦抵抗増大部の前記溝底とは反対側の面と前記蓋部とを互いに接続している
ことを特徴とする請求項3の車両用クラッチ装置。
【請求項5】
前記つまみ部は、前記蓋部の突出方向に直交する方向に厚みを成す板状に形成されていることを特徴とする請求項4の車両用クラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−154424(P2012−154424A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14181(P2011−14181)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】