説明

車両用シートの前倒れ機構

【課題】シートバックが最後傾位置にある場合であってもシートバックを前倒れ可能な前倒れ機構を提供することを目的とする。
【解決手段】乗員が着座するシートクッション110と、シートクッション110に対して傾倒可能なシートバック120と、シートバック120のシートクッション110に対する傾倒を可能にするリクライニング装置130を備える前倒れ機構10であって、シートバック120のリクライニング装置130との連結部近傍に固定されるフック30と、シートクッション110とリクライニング装置130とを連結すると共にシートバック120の傾倒に伴い回動するフック30を規制する規制ブラケット40とで構成されており、規制ブラケット40は、フック30を規制可能とする溝部41を有し、溝部41の側面近傍にフック30を検知するリミットスイッチ42が設けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに備えるシートバックのシートクッションに対する傾斜角度を調節するためのものであり、特に、前倒れ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートに備えるシートバックのシートクッションに対する傾斜角度を調節できシートバックの前倒れを行うことが可能な前倒れ機構として、例えば、特許文献1に記載する車両のシートリクライニング装置が提案されている。この車両のシートリクライニング装置は、内歯が形成された内歯プレートと、内歯プレートの内歯に噛合する外歯が形成された外歯プレートをこれらに挿通する偏心シャフトによって回動可能に支持するとともに、シートバックに固定されたアームプレートと内歯プレートとをピンによって結合し、シートクッションに固定されたベースプレートにラッチプレートを回動可能に軸支し、リクライニング操作時にはラッチプレートを外歯プレートに係合させて外歯プレートを固定した状態で偏心シャフトを回転させて内歯プレートとアームプレートを回動させることによってシートバックの傾斜角を調整し、前倒れ操作時にはラッチプレートの外歯プレートとの係合を解除して外歯プレートと内歯プレート及びアームプレートを一体的に回動させてシートバックを前倒れするような構造をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−278983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記に記載する車両のシートリクライニング装置(以下、前倒れ機構)は、車両用シートのシートバックが前倒れを行う際に、シートバックの傾斜角度が最後傾位置にある状態であるとピンが外歯プレートの側面に当接してしまうことから、シートバックの傾斜角度が最後傾位置にある状態にある場合、シートバックを前倒れ状態にすることが困難であると考えられる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであって、シートバックの傾斜角度が最後傾位置にある場合であってもシートバックを前倒れ状態にすることが可能な前倒れ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
乗員が着座するシートクッションと、シートクッションに対して傾倒可能なシートバックと、シートバックのシートクッションに対する傾倒を可能にするリクライニング装置を備える前倒れ機構であって、シートバックのリクライニング装置との連結部近傍に固定されるフックと、シートクッションとリクライニング装置とを連結すると共にシートバックの傾倒に伴い回動するフックを規制する規制ブラケットとで構成されており、規制ブラケットは、フックを規制可能とする溝部を有し、溝部の側面近傍にフックを検知するリミットスイッチが設けられることを技術的特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、リミットスイッチによりシートバックの最後傾位置を設定することが可能であって、シートバックの最後傾位置とリクライニング装置の作動限界位置とを異なる位置に設定することができる。そのため、シートバックを前倒れする際にリクライニング装置が微少に回転した場合であっても、最後傾位置とリクラー作動限界位置との間でリクライニング装置を回転することが可能であるため、シートバックが最後傾位置にある場合であっても前倒れすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】前倒れ機構により規制されるリクライニング装置の作動範囲を示す図である。
【図2】基準位置にあるシートバックフレームを示す図である。
【図3】前倒れ機構の溝部によって前倒れ位置で停止しているシートバックフレームを示す図である。
【図4】前倒れ機構のリミットスイッチによって後傾位置で停止しているシートバックフレームを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
まず、本発明の前倒れ機構10を配設する車両用シート100について説明する。
車両用シート100は、車両フロアに取付けられ乗員が着座する座面を形成するシートクッション110と、このシートクッション110に傾倒(前傾および後傾)可能に取付けられるシートバック120と、このシートバック120のシートクッション110に対する傾斜角度の調節(規制および規制状態の解除)を行うリクライニング装置130とを備えている。
【0010】
シートクッション110は、車両用シート100に着座する乗員を支持するものであって、乗員が着座する座面を形成しシートクッション110の骨格となるシートクッションフレーム111と、シートクッションフレーム111が取付けられ車両用シート100を車両室内で車両の進行方向に対して前後方向に移動可能にするスライドレール112と、スライドレール112の両端部に設けられ車両用シート100を車両フロアに固定するためのフット113を備える。
【0011】
シートバック120は、シートクッション110に着座する乗員の背凭れとなるものであって、乗員の背面を支持する背凭れを形成しシートバック120の骨格となるシートバックフレーム121を、シートクッションフレーム111に傾倒可能に取付ける。このシートバックフレーム121は、本実施例において、シートクッションフレーム111との連結部の一方に後述するリクライニング装置130を備え他方にフリーヒンジを配設することとする。ここで、本実施例においてシートバックフレーム121は、シートクッションフレーム111との連結部の一方にリクライニング装置130を設ける構造として説明を行うが、両側の連結部にリクライニング装置130を設けるとともに、両リクライニング装置130をシャフトで連結してシャフトを同期回転することで連動する構造としても良い。
【0012】
リクライニング装置130は、シートバックフレーム121のシートクッションフレーム111に対する傾倒を可能にする装置で従来から使用されているタウメル型のリクライニング装置130である。このタウメル型のリクライニング装置130は、例えば、円盤状の外歯車と、この外歯車よりわずかに歯数の多い円盤状の内歯車が一部で噛合された状態で、回転軸に嵌められる中央軸筒と、この中央軸筒に対して偏心する中央軸受輪により軸支されていると共に、回転可能な状態で互いの周側部がブラケットにより一体状にリングかしめされており、外歯車の中央軸筒と内歯車の中央軸受輪とによる、内歯車の外側方向が開放された偏心空域には、回転軸と一体状の作動フランジ部と、一側面が外歯車の中央軸筒外周面に、他側面が内歯車の中央軸受輪の内周面に接する一対の楔状部材が並列して配設されていると共に、この両楔状部材のそれぞれを、偏心量を増大させる打ち込み拡径方向に付勢するスプリングが設けられているものであり、そして内歯車の外側面には、前記偏心空域部位を開孔したシートバックフレーム121側のブラケットが固定され、外歯車の外側面にはシートクッションフレーム111側のブラケットが固定されるものがある。
【0013】
上記に記載するリクライニング装置130は、外歯車と内歯車とのいずれか一方にストッパー131を有し、他方に当接部132を備えることでリクラー作動範囲を設定している。このリクラー作動範囲は、シートバックフレーム121を傾倒した際に、ストッパーと当接部を当接することで、図1に示すように、リクラー作動限界位置を設定している。ここで、シートバックフレーム121が後傾可能な範囲は、後述するリミットスイッチ42によって設定されている。
【0014】
ここで、リクライニング装置130は、シートバックフレーム121の前倒れする方向とは反対方向に回転してシートバックフレーム121の規制および規制状態を解除するように車両用シート100に備えられることから、シートバックフレーム121の前倒れに伴ってシートバックフレーム121の前倒れ方向とは反対方向に微少に(機械的な要素により)回転する。そのため、シートバックフレーム121の最後傾位置がリクライニング装置130のリクラー作動限界位置に重なった(到達した)位置にある場合、ストッパーと当接部が当接した状態となりシートバックフレーム121の前倒れ方向とは反対方向に回転することが不可能になり、シートバックフレーム121の前倒れを行うことができなくなる。
【0015】
モータ(図示しない)は、シートバックフレーム121の傾倒を行う動力となるものであって、例えば、シートバックフレーム121に設けられる。このモータは、リクライニング装置130の中央軸を回転可能に連結しており、車両用シート100に着座する乗員がシートバックフレーム121の傾倒を行うスイッチを操作することで、正転(シートバックフレームが前傾する方向)もしくは逆転(シートバックフレームが後傾する方向)する。
【0016】
次に、本発明の前倒れ機構10について図面を用いて説明する。
前倒れ機構10は、シートバックフレーム121のシートクッションフレーム111に対する前倒れを可能にするロック機構20と、シートバックフレーム121のシートクッションフレーム111との連結部近傍に固定されるフック30と、シートクッションフレーム111の後方に設ける規制ブラケット40とで構成されている。
【0017】
ロック機構20は、シートバックフレーム121のシートクッションフレーム111に対する前倒れを可能にする機構であって、シートバックフレーム121のリクライニング装置130を備える面とは対称の面に設ける。このロック機構20は、外周を凹凸に形成しシートバックフレームに固定されるセクタギヤ21と、セクタギヤ21の凹凸に噛合可能な歯部を有するストッパー22と、ストッパー22に有する突起22aと係合可能な切欠き23aを有しストッパー22の歯部22bをセクタギヤ21の凹凸に噛合および噛合解除する切替え部材23と、切替え部材23を作動する回動レバー24とを備える。
【0018】
上記に記載するロック機構20は、シートバックフレーム121の前倒れを行う際、リクライニング装置130とは別々に動作することが可能な構造になっていることから、リクライニング装置130のリクラー作動範囲角度を超えてシートバックフレーム121を前倒れすることが可能となる。
【0019】
フック30は、シートバックフレーム121のリクライニング装置130を備える面でシートクッションフレーム111との連結部近傍に固定される部材であって、シートバックフレーム121が前傾(シートクッションに着座する乗員に対して前方)または後傾(シートクッションに着座する乗員に対して後方)する際に、シートバックフレーム121の傾倒動作に伴ってリクライニング装置130の中央軸を回動中心として回動する。
【0020】
規制ブラケット40は、シートクッションフレーム111とリクライニング装置130とを連結する部材であると共にシートバックフレーム121のシートクッションフレーム111に対する傾斜角度を規制するブラケットであって、略凹形状に形成する溝部41を備える。この溝部41は、シートバックフレーム121の最後傾位置を設定する位置に後述するリミットスイッチ42を設ける。
【0021】
リミットスイッチ42は、シートバックフレーム121の最後傾位置を設定するためのものであって、規制ブラケット40の溝部41側面近傍でシートバックフレーム121の最後傾位置とする位置にフック30を検知可能に設ける。このリミットスイッチ42は、図1に示すように、シートバックフレーム121の最後傾位置を規制しており、リクライニング装置130のリクラー作動限界位置と異なる位置に設定される。これにより、シートバックフレーム121の最後傾位置がリクライニング装置130のリクラー作動限界位置と重なる(到達する)ことがないため、シートバックフレーム121の傾斜角度が最後傾位置にあってもシートバックフレーム121の前倒れを行うことができる。ここで、リミットスイッチ42は、シートバックフレーム121の傾倒を行っているモータを停止するためのものである。そのため、リクライニング装置130は、シートバックフレーム121が最後傾位置にある場合において、機械的な要素によりリクライニング装置130が回転する際、シートバックフレーム121の最後傾位置とリクラー作動限界位置との間で回転可能である。
【0022】
以下に、シートバックフレーム121が最後傾位置にある場合において前倒れ動作する手順について説明する。
【0023】
車両用シート100に着座する乗員は、背凭れであるシートバック120の前倒れを実施するために、前倒れ機構10に有するロック機構20を作動するための解除レバーを操作することで、シートバックフレーム121の前倒れを開始する。
【0024】
ロック機構20は、乗員によって解除レバーが操作されると、回動レバー24を回動し切替え部材23を作動することで、切替え部材23の切欠23aきがストッパー22の歯部22bをセクタギヤ21の凹凸から離脱させることで噛合状態を解除することでシートバックフレーム121の前倒れが行われる。
【0025】
シートバックフレーム121が前倒れを開始するとリクライニング装置130は、シートバックフレーム121が前倒れする方向とは反対側の方向へ微少に回転する。この際、リクライニング装置内部に有するストッパー131はリミットスイッチ42により最後傾位置で停止した状態であって、シートバックフレーム121が前倒れを行う際に、リクライニング装置130がシートバックフレーム121の前倒れする方向とは反対方向に回転しても最後傾位置からリクラー作動限界位置方向との間で回転可能になっており当接部132に当接しないことから、シートバックフレーム121の前倒れを最後傾位置において実施することが可能である。
【0026】
前倒れするシートバックフレーム121は、フック30が規制ブラケット40の溝部41側面に当接することで前倒れ位置が規制されることから前倒れを終了する。
【符号の説明】
【0027】
10 前倒れ機構
20 ロック機構
30 フック
40 規制ブラケット
41 溝部
42 リミットスイッチ
100 車両用シート
111 シートクッションフレーム
121 シートバックフレーム
130 リクライニング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートクッションと、
該シートクッションに対して傾倒可能なシートバックと、
該シートバックの前記シートクッションに対する傾倒を可能にするリクライニング装置を備える車両用シートの前倒れ機構であって、
前記前倒れ機構は、
前記シートバックの前記リクライニング装置との連結部近傍に固定されるフックと、
前記シートクッションと前記リクライニング装置とを連結すると共に前記シートバックの傾倒に伴い前記リクライニング装置を回動中心として回動する前記フックを規制する規制ブラケットとで構成されており、
前記規制ブラケットは、
前記フックの回動を規制可能とする溝部を有し、該溝部の側面近傍に前記フックを検知するリミットスイッチが設けられることを特徴とする車両用シートの前倒れ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214197(P2012−214197A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121544(P2011−121544)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000143639)株式会社今仙電機製作所 (258)
【Fターム(参考)】