説明

車両用シートの支持構造

【課題】単純な構成で、車体前後方向の共振周波数を低下させずに車体幅方向の共振周波数を低下させる車両用シートの支持構造を提供する。
【解決手段】連結部材16は支持部材18によって、ピンジョイント20の周りに矢印20Rのように回転可能に支持されている。弾性部材24はシートレール14を車体上下方向に弾性をもって支持しており、連結部材16はシートレール14の、弾性部材24の弾性変形による車体上下方向への移動に追随してピンジョイント20の周りに矢印20Rのようにシーソー状に可動とされている。連結部材16は支持部材18に設けられた凹部18Aに嵌合することで、ピンジョイント20の軸(回転軸)方向である車体前後方向には移動を規制されるように保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用シートの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シートの振動を低減する目的で車幅方向の共振周波数を低下させるため、シートレールをゴムブッシュ等の防振部材を介してフロアに固定する構造が存在する。例えば15〜30Hz域の路面入力振動を低減させるため、シートの左右共振周波数を低下させる構造が有効となるが、その反面シートの前後共振周波数までも低下する。
【0003】
また上記の構造において、2〜3Hz付近の車両振動を低減するために防振部材の減衰係数を大きくすると10Hz近傍より高い周波数における車両振動が大きくなる現象を解決するため、加速度センサとアクチュエータを用いて逆相振動をシートに発生させて車両振動を打ち消すような振動低減装置が存在する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−144093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の構成ではセンサ、アクチュエータ、制御用のECU等の部品を必要とするため高価で複雑な構成となってしまう。
【0005】
また図5に示す従来例のような単純にシートの左右共振周波数を低下させる構造ではシートの前後共振周波数までも低下するため、車体前後方向の制振性が劣化する虞がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、単純な構成で、車体前後方向の共振周波数を低下させずに車体幅方向の共振周波数を低下させることができる車両用シートの支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明における車両用シートの支持構造は、車幅方向に延設されたクロスメンバと、前記クロスメンバの車体上側に設けられた弾性部材と、車体前後方向に延設され前記弾性部材に弾性的に保持される一対のシートレールと、車幅方向に延設され前記一対のシートレールを連結する連結部材と、前記クロスメンバ上に立設され、前記連結部材を車体前後方向を軸方向として設けられた回転軸の周りに回転可能に支持し、かつ車体前後方向には回転不能に支持する支持部材と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、クロスメンバ上の弾性部材に固定されたシートレールを連結部材で車幅方向に連結し、連結部材は支持部材で車体前後方向に固定することで、シートの車体前後方向の共振周波数を高く保ちながら、車幅方向の共振周波数を低下させることで、車幅方向の路面入力振動を抑えながら車体前後方向の制振性をも維持する車両用シートの支持構造とすることができる。
【0009】
請求項2に記載の本発明における車両用シートの支持構造は、請求項1に記載の構成において、前記回転軸は前記支持部材に車体前後方向に挿通されたピンジョイントであることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、連結部材および支持部材の回転軸構造を単純な穴開け加工とピンの挿入で形成可能な車両用シートの支持構造とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両用シートの支持構造は上記構成としたので、単純な構成で、車体前後方向の共振周波数を低下させずに車体幅方向の共振周波数を低下させることができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<構造の概要>
本発明に係る車両用シートの支持構造の実施形態を図1〜図2に従って説明する。
【0013】
なお各図において、図中矢印FRは車体前方方向を、矢印REは車体後方方向を、矢印UPは車体上方方向を、矢印INは車体内側方向を、矢印OUTは車体外側方向を示す。
【0014】
図1、図2には、本発明の第1実施形態に係る車両用シートの支持構造が示されている。
【0015】
図1に示すように、車両用シートの支持構造10は、シート12、車体前後方向に延設されシート12を車体前後方向にスライド可能に支持する一対のシートレール14、車幅方向に延設され一対のシートレール14をリジッドに連結する連結部材16、車幅方向の強度部材として車体のフロアと一体的に設けられ、一対のシートレール14をそれぞれ弾性部材24で支持するクロスメンバ22、クロスメンバ22上に設けられ、車体前後方向に設けられた回転軸であるピンジョイント20で、連結部材16をピンジョイント20の周りに回転可能に支持する支持部材18から構成されている。
【0016】
図2に示すように、連結部材16は支持部材18によって、ピンジョイント20の周りに矢印20Rのように回転可能に支持されている。弾性部材24はシートレール14を車体上下方向に弾性をもって支持しており、連結部材16はシートレール14の、弾性部材24の弾性変形による車体上下方向への移動に追随してピンジョイント20の周りに矢印20Rのようにシーソー状に可動とされている。
【0017】
また連結部材16は支持部材18に設けられた凹部18Aに嵌合することで、ピンジョイント20の軸(回転軸)方向である車体前後方向には移動を規制されるように保持されている。凹部18Aの車体前後方向幅は、連結部材16をガタつきなく挟持し、かつ矢印20R方向の回転を摩擦抵抗で阻害しない程度のものとされている。
【0018】
これにより連結部材16は弾性部材24の弾性変形に伴うシートレール14の車体上下方向の移動は規制されず、車体前後方向の移動を規制される。シートレール14は連結部材16とリジッドに一体化されているため、連結部材16が車体前後方向の移動を規制されるのに伴い、シートレール14もまた車体前後方向に移動を規制される。
【0019】
<作用効果>
次に本発明の第1実施形態の作用および効果について説明する。
【0020】
図3には本発明の第1実施形態に係る車両用シートの支持構造の動作を示す正面図が示されている。
【0021】
図3(A)に示すように、車幅方向の外部入力に対してシート12は矢印30のように車幅方向に振動する。車幅方向両側のシートレール14は、それぞれ弾性部材24で支持されており、一方の弾性部材24が圧縮されて縮み、他方の弾性部材24が引き延ばされることで、シート12の矢印30方向の動きを吸収する。
【0022】
このとき車幅方向両側のシートレール14は連結部材16により連結されており、ピンジョイント20によって矢印32のように回転可能に、支持部材18上に支持されている。このためシート12は、連結部材16がピンジョイント20を回転軸として矢印32のようにシーソー状に回転することで、車幅方向および車体上下方向の動きを規制されることなく矢印30方向に移動可能とされている。
【0023】
これによりシート12は弾性部材24の、車体上下方向の弾性でのみ車幅方向の動きを規制されるため、車幅方向の共振周波数を低く保つことができる。このため15〜30Hz領域の車幅方向の路面入力振動を弾性部材24の弾性で吸収し、低減させることができる。
【0024】
一方、車体前後方向に入力があった場合は、図3(B)に示すようにシート12は動くことなく支持される。すなわち、シートレール14を連結する連結部材16は、支持部材18でクロスメンバ22上にて車体前後方向にリジッドに固定されているので、シート12の車体前後方向の動きは、支持部材18で車体前後方向に固定されている連結部材16が抑え込むことになり、車体前後方向の支持剛性を高くすることができる。
【0025】
図5に示す従来例のように、シートレール114を単純に弾性部材124で支持する構造では、シートレール114は車幅方向のみならず車体前後方向も弾性的に支持されているため、車幅方向(矢印130)の共振周波数低下に加えて車体前後方向の共振周波数までも低下し、車体前後方向の所謂ピッチング系の振動を抑え難くなる虞がある。
【0026】
しかし本実施形態ではシート12の、車体前後方向の共振周波数を高く保つことができ、シートが車体前後方向にシーソー状に振動する、所謂ピッチング系の振動を抑えることができる。
【0027】
この結果、本実施形態に係る車両用シートの支持構造は、センサやアクチュエータなどを用いず単純な構成でシート12の車幅方向の共振周波数を低く保ちながら車体前後方向の支持剛性を高く、車体前後方向の共振周波数を高く保つことが可能となり、15〜30Hz領域の車幅方向の路面入力振動を弾性部材24の弾性で吸収しつつ、車体前後方向のピッチングを抑えることができる。
【0028】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態の作用および効果について説明する。
【0029】
図4には本発明の第2実施形態に係る車両用シートの支持構造の一部を示す拡大斜視図が示されている。
【0030】
図4(A)に示すように、本発明の第2実施形態に係る車両用シートの支持構造は、図示しない一対のシートレール14同士を連結する連結部材16が、車体前後方向に延設された円柱形状のピン21を備え、支持部材18の車体上側に設けられたU字型の溝18Bに嵌合する構成とされている。
【0031】
図4(B)に示すように、支持部材18の車体上側に設けられた凹部18Aに連結部材16が嵌合し、溝18Bに連結部材16のピン21が嵌合する構成とすることで、第1実施形態のピンジョイント20に代えて、ピン21を回転軸として車幅方向および車体上下方向(矢印32)に回転可能に支持部材18が連結部材16を支持する。
【0032】
凹部18Aの車体前後方向幅は、第1実施形態と同様、連結部材16をガタつきなく挟持し、かつ矢印32方向の回転を摩擦抵抗で阻害しない程度のものとされている。これにより連結部材16は弾性部材24の弾性変形に伴うシート12の車幅方向および車体上下方向(矢印32方向)の移動について規制されず、車体前後方向の移動を規制される点もまた第1実施形態と同様である。
【0033】
図示しないシートレール14は連結部材16とリジッドに一体化されているため、連結部材16が車体前後方向の移動を規制されるのに伴い、シートレール14もまた車体前後方向に移動を規制される。
【0034】
<作用効果>
次に本発明の第2実施形態の作用および効果について説明する。
【0035】
図4(B)に示すように、ピン21が溝18Bに嵌合することで、車幅方向の振動に対して連結部材16は矢印32のように回転可能とされるため、シート12は弾性部材24の、車体上下方向の弾性でのみ車幅方向の動きを規制される。
【0036】
このためシート12の車幅方向の共振周波数を低く保つことができる。これにより15〜30Hz領域の車幅方向の路面入力振動を弾性部材24の弾性で吸収し、低減させることができる。
【0037】
一方、車体前後方向に入力があった場合は、連結部材16は支持部材18でクロスメンバ22上にて車体前後方向にリジッドに固定されているので、シート12の車体前後方向の動きは、支持部材18で車体前後方向に固定されている連結部材16が抑え込むことになり、車体前後方向の支持剛性を高くすることができる。
【0038】
このためシート12の、車体前後方向の共振周波数を高く保つことができ、シートが車体前後方向にシーソー状に振動する、所謂ピッチング系の振動を抑えることができる。
【0039】
この結果、本実施形態に係る車両用シートの支持構造は、センサやアクチュエータなどを用いず単純な構成でシート12の車幅方向の共振周波数を低く保ちながら車体前後方向の支持剛性を高く、車体前後方向の共振周波数を高く保つことが可能となり、15〜30Hz領域の車幅方向の路面入力振動を弾性部材24の弾性で吸収しつつ、車体前後方向のピッチングを抑えることができる。
【0040】
また本実施形態においては、組み付けの際に連結部材16のピン21を溝18Bに車体上側から落とし込むのみで、第1実施形態のようにピンジョイント20の挿入工程を必要としないので、より組立工数を削減することができる。
【0041】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0042】
すなわち、上記各実施形態では車両用シートをシートレール上で保持する構造を例としたが、これに限定せず直接車体に固定するシート構造や、振動を嫌う精密機器等の保持構造に応用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用シートの支持構造を示す正面図である。
【図2】図1に示される車両用シートの支持構造を拡大し本発明の原理を示した斜視図である。
【図3】図1に示される車両用シートの支持構造における制振機構の原理を示した正面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る車両用シートの支持構造を拡大し本発明の原理を示した斜視図である。
【図5】従来の車両用シートの支持構造を示す正面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 支持構造
12 シート
14 シートレール
16 連結部材
18 支持部材
18A 凹部
18B 溝
20 ピンジョイント
21 ピン
22 クロスメンバ
24 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延設されたクロスメンバと、
前記クロスメンバの車体上側に設けられた弾性部材と、
車体前後方向に延設され前記弾性部材に弾性的に保持される一対のシートレールと、
車幅方向に延設され前記一対のシートレールを連結する連結部材と、
前記クロスメンバ上に立設され、前記連結部材を車体前後方向を軸方向として設けられた回転軸の周りに回転可能に支持し、かつ車体前後方向には回転不能に支持する支持部材と、
を備えた車両用シートの支持構造。
【請求項2】
前記回転軸は前記支持部材に車体前後方向に挿通されたピンジョイントである請求項1に記載の車両用シートの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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