説明

車両用シートバック調整装置

【課題】停車時の乗降性の悪化や走行時の運転者の視界の変化を抑制しつつ、運転者のシートに対する着座姿勢を最適に保つことができる車両用シートバック調整装置を提供する。
【解決手段】自動車の走行時、これに応じて隆起板10、11が回転され、これらの回転先端部10a、11aの移動によりシートバック4の隆起部4a、4bの隆起量が増加される。自動車の停車時、隆起板10、11の回転動作は行われず、隆起部4a、4bの隆起量は最小となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられ、着座者の姿勢を保持するように構成されたシートバックを調整するための車両用シートバック調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば自動車には乗員(運転者および同乗者)が着座するためのシートが設けられている。自動車を安全に走行させるためには、運転者のシートに対する着座姿勢を最適に保つことが重要となる。そのための手段として、シートバックの両側端が隆起した形状をなすバケットシートが挙げられる。しかし、このバケットシートは、運転者が乗降する際、両側端の隆起部分が運転者の移動を妨げるために乗降性があまりよくない。
【0003】
また、例えば特許文献1、2には、車両の走行速度、車両の走行加速度、ステアリングの回転角度などを検出し、その検出値に基づいて、車両の走行状態に応じて発生する慣性力などに抗する方向にシートを傾けるという構成が開示されている。このものによれば、例えば運転者に対して遠心力が加わるような旋回時においても、運転者の姿勢をシートの中央付近に保持することが可能となる。しかも、車両の停車時には、シートが傾くことはないため、運転者の移動を妨げることはない。
【特許文献1】特開平5−112165号公報
【特許文献2】実開昭58−97040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来構成のものでは、シートを傾けた際には車両に対する運転者の位置も変化する。このため、運転者の視界が変化してしまい、運転者が違和感を感じてしまう。また、シートを傾けるためには、シート全体を移動可能な大規模な駆動装置が必要となり、コストの高騰を招いてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、停車時の乗降性の悪化や走行時の運転者の視界の変化を抑制しつつ、運転者のシートに対する着座姿勢を最適に保つことができる車両用シートバック調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明の車両用シートバック調整装置は、車両に設けられたシートバックの両側端を、着座位置を挟むように隆起させる隆起手段と、前記車両の走行速度データに基づいて前記シートバックの両側端における隆起高さを指令するための指令値を設定する隆起高さ設定手段と、前記隆起手段を介して、前記両側端の隆起高さを前記指令値に基づいて調整する調整手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両の走行速度データに基づいてシートバックの両側端が着座位置を挟むように隆起されるので、車両の走行時には、着座者、特には運転者の姿勢をシートの中央付近に保持することができる。従って、運転者の視界の変化を抑制しつつ、運転者のシートに対する着座姿勢を最適に保つことができる。一方、停車時つまり車両の走行速度がゼロのときには、隆起高さを低く調整することにより、シートバックの両側端が着座者の移動の妨げになることを防止できる。また、シートバックの両側端を隆起させるだけの構成でよいため、装置の製造コストの上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(第1の実施形態)
以下、本発明を自動車(車両)に搭載される運転席シートのシートバック調整装置に適用した第1の実施形態について図1〜図6を参照して説明する。
図2は、運転席シートの外観を示すとともに一部構成の断面を示す側面図である。図1は、図2のX−X線に沿う断面図である。以下では、これら図1および図2を参照しながら運転席シートの構成について説明する。
【0009】
運転席シート1は、着座者2(運転者)の座面を形成するシートクッション3と、このシートクッション3の後端部から上方に延びて着座者2の背もたれを形成するシートバック4と、このシートバック4の上部に設けられて着座者2の頭部をサポートするヘッドレスト5とを備えている。また、運転席シート1の前方(図2の左方向)には、ステアリング装置6が設けられている。シートクッション3は、カバー7とその内部に設けられたシートクッションフレームおよびクッション材(いずれも図示せず)とを備えている。このうち、シートクッションフレームは、図示しないスライド機構を介して車体(図示せず)に取り付けられている。これにより、運転席シート1は車体前後方向(図2の左右方向)に摺動可能となっている。
【0010】
シートバック4は、カバー8とその内部に設けられたシートバックフレーム9およびクッション材(図示せず)とを備えている。シートバックフレーム9は、例えば金属板により構成されており、断面「コ」字状に形成されている。シートバックフレーム9は、その下部において、揺動機構(図示せず)を介して上記シートクッションフレームの後部に支持されている。これにより、シートバック4は車体前後方向に傾倒可能となっている。ヘッドレスト5は、図示しない支持部材を介してシートバックフレーム9の上部に昇降可能に取り付けられている。
【0011】
シートバック4において、左側部(着座者2の左手側)には隆起部4aが形成されており、右側部(着座者2の右手側)には隆起部4bが形成されている。これら隆起部4a、4bは、前方へ突出した形状をなしており、着座者2の姿勢を保持するためのものである。詳細は後述するが、隆起部4a、4bの前方への突出量(隆起量)は、自動車の走行状態に応じて変更されるようになっている。隆起部4a、4bは、シートバック4の高さ方向において着座者2の肩から腰をカバーするように設けられている。なお、隆起部4a、4bは、少なくとも着座者2の脇腹から腰をカバーするように設けられていればよい。
【0012】
シートバック4の内部において隆起部4a、4bと対向する位置には、隆起板10、11が設けられている。隆起板10、11は、回転軸12、13を有しており、これら回転軸12、13は、それぞれの端部においてシートバックフレーム9のヒンジ(図示せず)に軸支されている。これにより、隆起板10、11は、シートバックフレーム9に回転可能に支持されている。
【0013】
回転軸12、13の下部にはギア14、15が取り付けられている。また、シートバック4内部の隆起板10、11の近傍にはモータ16、17が配設されている。モータ16、17の出力軸16a、17aにはギア16b、17bが取り付けられており、ギア16b、17bは、それぞれギア14、15と連結されている。モータ16、17は、制御装置(図4に符号18を付して示す)により、その駆動が制御されるようになっている。
【0014】
このような構成により、モータ16、17が駆動されることで回転軸12、13を中心として隆起板10、11が回転されるようになっている。また、隆起板10、11の回転先端部10a、11aは、図示しないクッション材を介してそれぞれ隆起部4a、4bに当接されている。従って、隆起板10、11が回転されると回転先端部10a、11aが移動し、これに応じて隆起部4a、4bの隆起量(隆起高さ)が変更されるようになっている(詳細は作用説明にて後述する)。すなわち、本実施形態においては、隆起板10、11とモータ16、17とから隆起手段19が構成され、この隆起手段19とモータ16、17の駆動を制御する制御装置18とから車両用シートバック調整装置が構成される。
【0015】
回転軸12、13の上部には回転角度センサ20、21(検出手段に相当)が取り付けられている。回転角度センサ20、21は、例えばポテンショメータにより構成されており、回転軸12、13の回転角度(物理量に相当)に応じた電圧信号を出力する。なお、これら回転角度センサ20、21は、回転軸12、13の回転角度を検出可能であればよく、例えば回転軸12、13の回転方向および回転角度に応じた電圧信号を出力するロータリエンコーダを用いてもよい。
【0016】
図3は、隆起板10の詳細構成を示しており、(a)は上面図であり、(b)は側面図である。なお、隆起板11は、隆起板10と同様の構成であるため、ここでは説明を省略する。隆起板10は、樹脂製または金属製の板により構成されており、矩形状に形成されている。隆起板10は、その長手方向(図3の左右方向)とシートバック4の高さ方向とが一致するようにシートバック4の内部に配置される(図2参照)。隆起板10の上部には、その長手方向に沿う回転軸12が設けられている。回転軸12の右端部にはギア14が取り付けられている。隆起板10は、断面がほぼ矩形状に形成されているが、その回転先端部10a(回転先端に相当)およびその回転中心部10bにおいては丸みを帯びた形状(半円形状)となっている。
【0017】
図4は、モータ16、17の駆動を制御する制御装置18の構成を示すブロック図である。制御装置18は、制御部22、駆動回路23、24および回転角度センサ20、21を備えている。制御部22は、CPU、ROM、RAMなどを備えたマイクロコンピュータを主体として構成されており、隆起量設定部25、遠心力演算部26、調整部27としての機能を有している。隆起量設定部25(隆起高さ設定手段に相当)は、自動車側から与えられる自動車の走行速度データDaに基づいてシートバック4の隆起部4a、4bを隆起させる隆起量(図1のhL、hR)を設定するものである。
【0018】
遠心力演算部26(遠心力演算手段に相当)は、上記走行速度データDa、自動車側から与えられるステアリングの回転角度(ハンドルの切角度)データDbなどに基づいて自動車に加わる遠心力を演算するものである。遠心力Fは、下記(1)式により表される。
F=(w/g)×r×ω[N] …(1)
ただし、wは自動車(車両)の重量[N]、rは回転半径[m]、ωは角速度[rad/s]、gは重力加速度=9.8[m/s]である。これらのうち、回転半径rおよび角速度ωは、走行速度データDaおよび回転角度データDbから求めるものであり、重量wおよび重力加速度gは、制御部22の記憶装置などに予め記憶されているものである。
【0019】
遠心力演算部26は、上記(1)式に基づいて算出した遠心力Fを示す遠心力データDcを隆起量設定部25に出力する。隆起量設定部25は、走行速度データDaに基づいて設定した隆起量に対し、この遠心力データDcに応じた補正を行う(詳細は後述する)。隆起量設定部25は、隆起部4a、4bの実際の隆起量hL、hRを、上記補正後の隆起量の設定値と一致させるために必要となる隆起板10、11の回転角度(図1のθL、θR)を求める。隆起量設定部25は、求めた回転角度を指令する指令回転角度θoL、θoRを調整部27に出力する。
【0020】
回転角度センサ20、21は、モータ16、17の各回転角度(図1のθL、θR)を検出するものであり、それら検出値θdL、θdRは調整部27に出力されている。調整部27(調整手段およびモータ制御部に相当)は、これら検出値θdL、θdRと、上記指令回転角度θoL、θoRとを一致させるように各モータ16、17を駆動するための駆動信号SdL、SdRを各駆動回路23、24に出力する。駆動回路23、24は、駆動信号SdL、SdRに基づいて、それぞれモータ16、17を駆動する。このように、制御装置18は、いわゆるフィードバック制御を行うように構成されている。
【0021】
続いて、隆起量設定部25による隆起部4a、4bの隆起量の設定について、図5および図6も参照して説明する。図5は隆起量hと自動車の走行速度Vとの関係を示す図であり、図6は補正隆起量hAと自動車に作用する遠心力Fとの関係を示す図である。隆起量設定部25は、走行速度データDaに基づいて隆起部4a、4bの隆起量を図5のように設定する。すなわち、隆起量設定部25は、走行速度Vがゼロ(停車時)から所定のしきい値速度Vthまでの間は、隆起量hを走行速度Vに比例した量に設定する。そして、走行速度Vが所定のしきい値速度Vth以上のときは、隆起量hを最大値hmax一定とする。
【0022】
このように、シートバック4の隆起部4a、4bの隆起量hL、hRは、停車時にはゼロに設定され、自動車の走行時には走行速度Vの増加に応じて増加するように設定される。そして、走行速度Vがしきい値速度Vth以上になると、最大値hmaxに固定される。なお、この隆起量hL、hRがゼロの状態とは、図1における実線で示す状態であり、隆起部4a、4bがシートバック4の着座面から若干隆起した状態のことを示している。
【0023】
また、前述したとおり、隆起量設定部25は、走行速度Vに基づいて設定した隆起量に対し、遠心力データDcに応じた補正を行う。具体的には、隆起量設定部25は、隆起部4a、4bのうち遠心力が作用する側について、設定された隆起量hに以下のような補正隆起量hAを加える補正を行う。すなわち、隆起量設定部25は、自動車に作用する遠心力Fがゼロ(非旋回時)から所定のしきい値遠心力Fthまでの間は、補正隆起量hAを遠心力Fに比例した量に設定する。そして、遠心力Fが所定のしきい値遠心力Fth以上のときは、補正隆起量hAを最大値hAmax一定とする。
【0024】
このように、自動車の非旋回時(直進走行時)には補正隆起量hAがゼロに設定されるため、シートバック4の隆起部4a、4bの隆起量hL、hRは、走行速度Vに基づいて設定された隆起量のままとなる。旋回時には自動車に作用する遠心力Fの増加に応じて、その遠心力Fが作用する側の隆起部の隆起量のみが増加するように設定される。なお、上記したしきい値速度Vthおよびしきい値遠心力Fthは、隆起量の最大値hmaxおよび補正隆起量の最大値hAmaxが、隆起手段19の構成上可能な範囲内において、所望の値となるように設定されている。
【0025】
次に、上記構成の作用について説明する。
停車時(自動車の走行速度Vがゼロのとき)には、図1に実線で示すように、隆起部4a、4bの隆起量hL、hRはゼロであり、着座面から前方(図1の左方向)への隆起高さは最も小さくなる。このように隆起部4a、4bの隆起量hL、hRがゼロの状態において、着座者2(運転者)の乗降が行われることになる。
【0026】
自動車の走行が開始されて走行速度Vが増加すると、これに応じて隆起板10が時計回りに回転されるとともに隆起板11が反時計回りに回転される。隆起板10、11は、走行速度Vに比例した回転角度θL、θRだけ回転される。これにより、図1に二点鎖線で示すように、隆起板10、11の回転先端部10a、11aが、シートバック4の外側(両側部)から内側(着座者2側)に移動され、隆起部4a、4bの隆起量hL、hRが増加される。
【0027】
このような隆起板10、11の回転動作、つまり走行速度Vに応じた隆起部4a、4bの隆起量変更動作は、走行速度Vがしきい値速度Vthに達すると停止される。従って、その後、走行速度Vがさらに増加しても隆起部4a、4bの隆起量hL、hRは、しきい値速度Vthの時点における隆起量から変化しない。
【0028】
自動車の走行中に旋回動作が行われると、これに伴って遠心力Fが自動車に作用する。例えば、自動車が右方向に旋回された場合、遠心力Fはシートバック4の左側部(図1の下側)に作用する。このとき、隆起板10は、上記した走行速度Vに比例した回転角度に加え、さらに遠心力Fに比例した回転角度だけ時計回りに回転される。これにより、隆起板10の回転先端部10aがシートバック4の外側から内側にさらに移動され、隆起部4aの隆起量hLがさらに増加される。
【0029】
このような隆起板10の回転動作、つまり遠心力Fに応じた隆起部4aの隆起量変更動作は、遠心力Fがしきい値遠心力Fthに達すると停止される。従って、その後、遠心力Fがさらに増加しても隆起部4aの隆起量hLは、しきい値遠心力Fthの時点における隆起量から変化しない。また、自動車が左方向に旋回された場合、上記した隆起板10の回転動作と同様に、隆起板11の回転動作、つまり遠心力Fに応じた隆起部4bの隆起量変更動作が行われる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果を奏する。
自動車の走行時、これに応じて隆起板10、11が回転され、これらの回転先端部10a、11aの移動によりシートバック4の隆起部4a、4bの隆起量が増加される。これにより、運転者である着座者2の着座位置は、運転席シート1の中央付近に保持される。つまり、走行時、着座者2の運転席シート1に対する着座姿勢を最適な状態に保つことができる。また、この際、車両に対する着座者2の位置は変化しないので、着座者2の視界も変化することなく、着座者2に違和感を与えてしまうことを抑制できる。さらに、隆起部4a、4bを着座者2の肩から腰をカバーするように設けたので、上記着座姿勢をしっかり保持することができる。
【0031】
自動車の走行速度Vが増加すると、それに応じて上記着座姿勢を正しく固定することが重要になる。本実施形態では、隆起板10、11を、走行速度Vに比例した回転角度θL、θRだけ回転させる、つまり走行速度Vに比例して隆起部4a、4bの隆起量hL、hRを増加させるので、走行速度Vの増加にかかわらず着座者2の着座姿勢を最適な状態に保つことができる。また、自動車の停車時、隆起板10、11の回転動作は戻されて、隆起部4a、4bの隆起量は最小となる。これにより、シートバック4の隆起部4a、4bが、停車時における着座者2の乗降動作の妨げとなることを極力防止できる。
【0032】
本実施形態では、上記した隆起部4a、4bの隆起量変更動作を、モータ16、17の回転力により隆起板10、11を回転させることで実現している。従って、シート全体の移動を必要とする従来技術の構成と比較すると、本実施形態の構成は小規模なものでよく、以って装置の製造コストの上昇を抑えることができる。
【0033】
隆起板10、11の回転角度θL、θRを検出する回転角度センサ20、21を設け、制御装置18は、それらの検出値θdL、θdRと、走行速度Vおよび遠心力Fに応じて設定された指令回転角度θoL、θoRとを一致させるようにモータ16、17の駆動を制御するようにした。このように、制御装置18がフィードバック制御を行うので、走行速度Vまたは遠心力Fに応じて、精度良く隆起量hL、hRを変更することができる。
【0034】
自動車の走行中に旋回動作が行われると、それに応じて発生する遠心力Fにより上記着座姿勢は崩れ易くなる。本実施形態では、例えば自動車が右方向に旋回された場合、隆起板10を走行速度Vに比例した回転角度に加え、さらに遠心力Fに比例した回転角度だけ回転させる。つまり、隆起部4a、4bのうち、遠心力Fが作用する側の隆起量を遠心力Fに比例してさらに増加させるので、旋回時における遠心力Fの増加にかかわらず着座者2の着座姿勢を最適な状態に保つことができる。
【0035】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について図7〜図9を参照して説明する。
本実施形態では、第1の実施形態に対してシートバック4の隆起部4a、4bを隆起させる隆起手段の構成を変更した場合について説明する。なお、第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。図7は、第1の実施形態における図1相当図であり、図2のX−X線に沿う断面図である。なお、図7では、シートバックフレーム9の図示を省略している。
【0036】
図7に示すシートバック4の内部において、隆起部4a、4bと対向する位置には、エアチューブ31、32が設けられている。エアチューブ31、32は、供給される圧力に応じて膨張および収縮可能に構成されている。また、エアチューブ31、32は、図示しないクッション材を介してそれぞれ隆起部4a、4bに当接されている。従って、エアチューブ31、32の膨張度合に応じて、隆起部4a、4bが車体前方(図7の左方向)へ押し出され、これに応じて隆起部4a、4bの隆起量(隆起高さ)が変更されるようになっている。
【0037】
図8は、エアチューブ31、32への圧力供給経路を示す図である。エアポンプ33は、エアチューブ31、32に供給する圧力を生成するものである。エアポンプ33から出力される圧力は、それぞれ切換調圧弁34、35を介してエアチューブ31、32に供給されるようになっている。従って、エアチューブ31、32内の圧力は、エアポンプ33の圧力値および切換調圧弁34、35の開度に応じて変更可能になっている。また、エアポンプ33の駆動および切換調圧弁34、35の開度は、制御装置(図9に符号36を付して示す)により制御されるようになっている。すなわち、本実施形態では、エアチューブ31、32、エアポンプ33および切換調圧弁34、35から隆起手段37が構成され、この隆起手段37と制御装置36とから車両用シートバック調整装置が構成される。
【0038】
また、エアポンプ33とエアチューブ31、32との間には、それぞれ圧力センサ38、39が介在されている。圧力センサ38、39(検出手段に相当)は、エアチューブ31、32内の圧力に応じた電圧信号を出力する。なお、これら圧力センサ38、39は、エアチューブ31、32内の圧力を検出可能であればよく、電子式の圧力センサ(例えばシリコンダイヤフラム式)を用いてもよいし、機械式の圧力センサを用いてもよい。
【0039】
図9は、第1の実施形態における図4相当図であり、制御装置36の構成を示すブロック図である。制御装置36は、制御部40、駆動回路41、42、43および圧力センサ38、39を備えている。制御部40は、図4に示した制御部22に対し、隆起量設定部25および調整部27に替えて隆起量設定部44および調整部45を備えている点が異なっている。隆起量設定部44(隆起高さ設定手段に相当)は、隆起部4a、4bの実際の隆起量hL、hR(図7参照)を、隆起量の設定値と一致させるために必要となるエアチューブ31、32内の圧力値を求める。隆起量設定部44は、求めた圧力値を指令する指令圧力値PoL、PoRを調整部45に出力する。
【0040】
圧力センサ38、39は、エアチューブ31、32内の圧力を検出するものであり、それら検出値PdL、PdRは調整部45に出力されている。調整部45(調整手段および圧力制御部に相当)は、駆動回路41を介してエアポンプ33を駆動する。その際、調整部45は、エアポンプ33の圧力値が一定となるように制御を行う。また、調整部45は、駆動回路42、43を介して切換調圧弁34、35の開度を制御する。その際、調整部45は、圧力センサ38、39からの検出値PdL、PdRと、指令圧力値PoL、PoRとを一致させるように制御を行う。
【0041】
次に、上記構成の作用について説明する。
停車時には、エアチューブ31、32内の圧力は小さく設定されており、図7に実線で示すようにエアチューブ31、32の膨張量はゼロとなっている。このため、隆起部4a、4bの隆起量hL、hRもゼロとなっている。従って、隆起部4a、4bの着座面から前方(図7の左方向)への突出量は最も小さくなる。
【0042】
自動車の走行が開始されて走行速度Vが増加すると、走行速度Vに比例してエアチューブ31、32内の圧力が増加される。これにより、図7に二点鎖線で示すように、エアチューブ31、32が膨張し、隆起部4a、4bの隆起量hL、hRが増加される。このようなエアチューブ31、32の膨張および収縮動作は、第1の実施形態における隆起板10、11の回転動作と同様、走行速度Vがしきい値速度Vthに達すると停止される。
【0043】
自動車の走行中に例えば右方向への旋回動作が行われた場合、エアチューブ31内の圧力は、走行速度Vに比例した圧力値に対し、遠心力Fに比例した圧力値を加えた圧力値となるように制御される。これにより、エアチューブ31がさらに膨張し、隆起部4aの隆起量hLがさらに増加される。このようなエアチューブ31の膨張および収縮動作は、第1の実施形態における隆起板10の回転動作と同様、遠心力Fがしきい値遠心力Fthに達すると停止される。また、自動車が左方向に旋回された場合、上記したエアチューブ31の膨張および収縮動作と同様に、エアチューブ32の膨張および収縮動作が行われる。
【0044】
以上説明したように、隆起部4a、4bの内部に膨張および収縮可能なエアチューブ31、32を設け、それらの膨張および収縮動作を利用してシートバック4における隆起部4a、4bの隆起量hL、hRを変更するようにした本実施形態の構成によっても、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【0045】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、次のような変形又は拡張が可能である。
隆起板10、11は、その回転先端の移動により隆起部4a、4bの隆起高さを変更可能であれば、楕円形状や正方形状などであってもよい。隆起板10、11は、モータ16、17の回転力をギア16b、17b、14、15を介して伝達することで回転される構成としたが、隆起板10、11を回転させるために必要なトルクに応じてギアの数は適宜変更すればよい。また、モータ16、17の回転力を直接伝達する構成としてもよい。
【0046】
検出手段としては、隆起部の隆起量またはこれに応じて変化する物理量を検出可能であればよく、回転角度センサ(第1の実施形態)および圧力センサ(第2の実施形態)に限らず、隆起量を直接検出する変位センサなどを設けてもよい。また、検出手段は、必要に応じて設ければよい。すなわち、調整部27、45による隆起量hL、hRの調整精度が十分に高い場合には設けなくてもよい。
【0047】
隆起部4a、4bの隆起量は、走行速度Vに基づいて変化させればよい。また、旋回時において、隆起部4a、4bの隆起量を補正する補正隆起量は、自動車に作用する遠心力Fに基づいて変化させればよい。遠心力演算部26は、必要に応じて設ければよい。すなわち、旋回時においても、走行速度Vに基づく隆起量だけで十分に着座者2の着座姿勢を保持可能であれば、遠心力Fに基づく隆起量の補正を行わなくてもよい。
【0048】
上記各実施形態では、本発明の車両用シートバック調整装置を自動車の運転席シートのシートバック調整装置に適用した例を示したが、運転席シートに限らず、例えば助手席シート、後部座席シートに適用してもよい。また、本発明は、自動車用のシートに限らず、車両用のシート全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、図2のX−X線に沿う断面図
【図2】運転席シートの外観および一部構成の断面を示す側面図
【図3】隆起板の構成を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図
【図4】制御装置の構成を示すブロック図
【図5】自動車の走行速度と隆起量との関係を示す図
【図6】自動車に作用する遠心力と補正隆起量との関係を示す図
【図7】本発明の第2の実施形態を示す図1相当図
【図8】エアチューブへの圧力供給経路を示す図
【図9】図4相当図
【符号の説明】
【0050】
図面中、4はシートバック、9はシートバックフレーム、10、11は隆起板、12、13は回転軸、16、17はモータ、19は隆起手段、20、21は回転角度センサ(検出手段)、25は隆起量設定部(隆起高さ設定手段)、26は遠心力演算部(遠心力演算手段)、27は調整部(調整手段、モータ制御部)、31、32はエアチューブ、33はエアポンプ、34、35は切換調圧弁、37は隆起手段、38、39は圧力センサ(検出手段)、44は隆起量設定部(隆起高さ設定手段)、45は調整部(調整手段、圧力制御部)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたシートバックの両側端を、着座位置を挟むように隆起させる隆起手段と、
前記車両の走行速度データに基づいて前記シートバックの両側端における隆起高さを指令するための指令値を設定する隆起高さ設定手段と、
前記隆起手段を介して、前記両側端の隆起高さを前記指令値に基づいて調整する調整手段とを備えていることを特徴とする車両用シートバック調整装置。
【請求項2】
前記隆起高さ設定手段は、前記走行速度データに基づく前記車両の走行速度が所定のしきい値速度に達するまでの間は前記走行速度に比例して前記両側端の隆起高さを変化させるように前記指令値を設定し、前記走行速度が前記所定のしきい値速度以上のときは前記両側端の隆起高さが前記所定のしきい値速度に対応した一定の高さとなるように前記指令値を設定することを特徴とする請求項1記載の車両用シートバック調整装置。
【請求項3】
前記走行速度データおよび前記車両のステアリングの回転角度データに基づいて前記車両に加わる遠心力を演算する遠心力演算手段を備え、
前記隆起高さ設定手段は、前記シートバックの両側端のうち少なくとも前記遠心力が加わる側の端における隆起高さを指令するための指令値を前記遠心力の大きさに応じて変更することを特徴とする請求項1または2記載の車両用シートバック調整装置。
【請求項4】
前記隆起高さ設定手段は、前記遠心力の大きさが所定のしきい値に達するまでの間は前記シートバックの両側端のうち少なくとも前記遠心力が加わる側の端における隆起高さを前記遠心力の大きさに比例して変化させるように前記指令値を変更し、前記遠心力の大きさが前記所定のしきい値以上のときは前記遠心力が加わる側の端における隆起高さが前記所定のしきい値に対応した一定の高さとなるように前記指令値を変更することを特徴とする請求項3記載の車両用シートバック調整装置。
【請求項5】
前記隆起手段は、
前記シートバックの高さ方向を長手方向とし、その長手方向に沿う回転軸を有し、シートバックフレームに回転可能に支持された隆起板と、
この隆起板を前記回転軸を中心に回転させるモータとを備え、
前記調整手段は、前記指令値に基づいて前記モータの駆動を制御するモータ制御部を備え、
前記隆起板は、その回転先端の移動に応じて前記シートバックの両側端における隆起高さを変化させるように前記シートバックの両側部の内部に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用シートバック調整装置。
【請求項6】
前記隆起手段は、
膨張および収縮可能なエアチューブと、
前記エアチューブ内に供給する圧力を生成するエアポンプと、
前記エアポンプから前記エアチューブへの圧力供給経路に介在され、前記エアチューブ内に供給される圧力を調整するための切換調圧弁とを備え、
前記調整手段は、前記指令値に基づいて前記エアポンプの駆動および前記切換調圧弁の開度を制御する圧力制御部を備え、
前記エアチューブは、その膨張度合に応じて前記シートバックの両側端における隆起高さを変化させるように前記シートバックの両側部の内部に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用シートバック調整装置。
【請求項7】
前記シートバックの両側端の隆起高さまたはこれに応じて変化する物理量を検出する検出手段を備え、
前記指令値は、前記隆起高さまたは前記物理量を指令するものであり、
前記調整手段は、前記検出手段の検出値を前記指令値と一致させるように前記両側端の隆起高さを調整することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の車両用シートバック調整装置。
【請求項8】
前記回転軸に設けられ、前記隆起板の回転角度を検出する回転角度センサを備え、
前記指令値は、前記回転角度を示すものであり、
前記モータ制御部は、前記回転角度センサの検出値を前記指令値と一致させるように前記モータの駆動を制御することを特徴とする請求項5記載の車両用シートバック調整装置。
【請求項9】
前記エアチューブと前記切換調圧弁との間の圧力供給経路に設けられ、前記エアチューブ内の圧力を検出する圧力センサを備え、
前記指令値は、前記圧力を指令するものであり、
前記圧力制御部は、前記圧力センサの検出値を前記指令値と一致させるように前記エアポンプの駆動および前記切換調圧弁の開度を制御することを特徴とする請求項6記載の車両用シートバック調整装置。
【請求項10】
前記隆起手段は、前記シートバックの両側端の少なくとも着座者のほぼ腰から脇腹に対応する部分を隆起させることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の車両用シートバック調整装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−136543(P2009−136543A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316982(P2007−316982)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(501278423)野場電工株式会社 (18)
【Fターム(参考)】