説明

車両用シート装置

【課題】中折れシートバックにおいて、中折れさせるための駆動源の配設位置の自由度を高めて薄型化を図ることが可能な車両用シート装置を得る。
【解決手段】モータ28の回転駆動力が、駆動ドラム30Mからケーブル部材62R、62Lを介して回転機構34に作用し、昇降ブロック52が昇降するので、シートバック上部部材16Uを、軸部材24を中心として回転させる(中折れさせる)ことができる。モータ28から回転機構34への駆動力の伝達に、可撓性を有するケーブル部材62を用いているので、モータ28の配設位置の自由度が高くなり、シートバック16の厚みを薄くすることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に備えられるシート装置(車両用シート装置)には、いわゆる中折れシートバックを有するものがある。たとえば特許文献1には、上部シートバックのアッパーブラケットに、モータユニット取付用のモータブラケットを固定し、モータユニットの駆動力をシャフトを介して角度調整装置に伝達させるようにした構造が記載されている。
【0003】
しかし、特許文献1に記載のように、モータユニットの駆動力をシャフトにより角度調整装置に伝達する構造では、モータ(駆動源)の取付位置が、シャフトの近傍に限定されてしまう。すなわち、モータの配設位置の自由度が低いので、シートバック内の他部材との関係等によっては、シートバックを薄くすることが困難になる。
【特許文献1】実願平6−6080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、いわゆる中折れシートバックにおいて、中折れさせるための駆動源の配設位置の自由度を高めて薄型化を図ることが可能な車両用シート装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明では、車両用シートのシートバックの下部を構成するシートバック下部部材と、前記シートバック下部部材の上方に配置され前記シートバックの上部を構成するシートバック上部部材と、前記シートバック上部部材を前記シートバック下部部材に対しシート幅方向に沿った回転中心線まわりに回転可能に支持する支持部材と、前記シートバック上部部材を前記シートバック下部部材に対し回転させるための駆動力を発生するための駆動源と、前記駆動源の駆動力を受けると、前記シートバック上部部材を前記シートバック下部部材に対し回転させる回転機構と、可撓性を有し前記駆動源の駆動力を前記回転機構に伝達するケーブル部材と、を有する。
【0006】
本発明では、シートバック上部部材がシートバック下部部材に対し、支持部材によって回転可能に支持されており、いわゆる中折れシートバックとなっている。そして、駆動源からの駆動力を受けると、回転機構が、シートバック上部部材をシートバック下部部材に対し回転させる。
【0007】
駆動源の駆動力は、ケーブル部材によって回転機構に伝達されるが、このケーブル部材は、可撓性を有している。したがって、駆動力を可撓性のないシャフトやリンク等で伝達する構成と比較して、駆動源の配設位置の自由度が高くなる。そして、駆動源を、たとえばシートバック内においてスペースに余裕がある位置に配設することで、シートバックの薄型化を図ることが可能になる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記回転機構が、前記シートバック上部部材の回転中心線に沿った方向における複数箇所に設けられている。
【0009】
すなわち、回転機構は、シートバック上部部材の回転中心線に沿った複数箇所で、シートバック上部部材をシートバック下部部材に対し回転させる。したがって、シートバック上部部材の回転中心線に沿った1箇所のみでシートバック上部部材を回転させる構成と比較して、より安定的にシートバック上部部材をシートバック下部部材に対し回転させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記回転機構が、前記シートバック下部部材と前記シートバック上部部材のいずれか一方に取り付けられた雄ネジ部材と、前記シートバック下部部材と前記シートバック上部部材のいずれか他方に取り付けられて前記雄ネジ部材がねじ込まれた雌ネジ部材と、前記ケーブル部材が巻きかけられ、前記駆動源の駆動力を受けると回転して、前記雄ネジ部材と前記雌ネジ部材の一方を回転させる回転ドラムと、を有する。
【0011】
回転ドラムにはケーブル部材が巻きかけられており、駆動源の駆動力により回転ドラムが回転すると、前記ボルト部材と前記ナット部材の一方も回転する。ナット部材にはボルト部材がねじ込まれているので、この回転により、ボルト部材とナット部材の軸方向の相対位置が変化する。また、ボルト部材はシートバック上部部材とシートバック下部部材のいずれか一方に、ナット部材は他方に取り付けられているので、ボルト部材とナット部材の軸方向の相対位置変化に伴って、シートバック上部部材がシートバック下部部材に対し回転される。
【0012】
このように、シートバック上部部材とシートバック下部部材にボルト部材又はナット部材を取り付け、いずれか一方を回転ドラムにより回転させるだけの簡単な構造で回転機構を構成できる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の発明において、前記ケーブル部材をケーブル部材の長手方向に移動可能に部分的に保持すると共に、前記雄ネジ部材と前記雌ネジ部材との軸方向の相対位置変化に伴って前記回転ドラムに対し軸方向に相対移動し前記ケーブル部材の前記回転ドラムに対する巻きかけ位置をガイドするガイド部材、を有する。
【0014】
すなわち、雄ネジ部材が雌ネジ部材に対し相対回転して、これらの軸方向の相対位置が変化すると、ガイド部材もこれに伴って回転ドラムに対する相対位置を変化させる。ガイド部材はケーブル部材を部分的に保持しており、回転ドラムに対する巻きかけ位置をガイドするので、回転ドラムに対しケーブル部材を所定の位置に巻きかけることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の発明において、前記ガイド部材が、前記雄ネジ部材と前記雌ネジ部材の他方に設けられ、前記回転ドラムに対する前記ケーブル部材の巻きかけピッチと、前記雄ネジ部材及び前記雌ネジ部材のネジピッチとが等しくされている。
【0016】
ここで、「前記雄ネジ部材と前記雌ネジ部材の他方」とは、雄ネジ部材と雌ネジ部材のうち、回転ドラムによって回転されない部材であり、回転ドラムの回転によって回転ドラムに対する軸方向の相対位置を変化させる。したがって、回転ドラムに対するケーブル部材の巻きかけピッチと、雄ネジ部材及び雌ネジ部材のネジピッチとを等しくすることで、回転ドラムの回転に伴うガイド部材の移動量と、回転ドラムへのケーブル部材の巻きかけ位置の移動量を一致させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記構成としたので、中折れシートバックにおいて、中折れさせるための駆動源の配設位置の自由度を高めて薄型化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1には、本発明の一実施形態の車両用シート装置12が示されている。また、図2及び図3には、この車両用シート装置12部分的な構造が概略的に示されている。なお、図面において、車両前方を矢印FRで、車幅方向を矢印Wで、上方を矢印UPで示す。車両用シート装置の種類によっては、上下方向の回転中心周りに回転可能とされたものもあり、回転によって車両前方と車両用シート装置の前方とが一致しなくなることもあるが、ここでは便宜上、車両用シート装置12は車両前方を向いて設置されているとして説明する。また、以下において、単に「前方向」、「後方向」「幅方向」というときは、それぞれ、車両用シート装置12の前方向、後方向、幅方向を言うものとする。
【0019】
この車両用シート装置12は、シートクッション14とシートバック16とを備えている。さらにシートバック16は、シートバック下部部材16Lとシートバック上部部材16Uとを有しており、それぞれ、図示しないスプリングやクッション材によって所定の弾力で着座者の荷重を支持可能とされている。これらのシートバック下部部材16Lとシートバック上部部材16Uとは、完全に分割された2部材とされていてもよいし、表皮や内部のクッション材などが連続して、見かけ上は一体になっているものでもよい。
【0020】
シートクッション14の内部には、幅方向に所定間隔を空けて、シートクッションフレーム18が配置されており、シートクッション14の形状が維持されるようになっている。また、シートバック下部部材16Lの内部には、幅方向に所定間隔をあけて、一対のシートバック下部フレーム20Lが略平行に配置されている。このシートバック下部フレーム20Lの下部とシートクッションフレーム18の後部とが、軸部材22によって回転可能に連結されており、シートバック16をシートクッション14に対し回転(リクライニング)させることができる。
【0021】
シートバック下部部材16Lの上方に位置するシートバック上部部材16Uの内部には、幅方向に所定間隔を空けて、一対のシートバック上部フレーム20Uが略平行に配置されており、シートバック下部フレーム20Lの上部とシートバック上部フレーム20Uの下部とは幅方向に見て部分的に重なっている。この重なり部分の前方側では、シートバック上部フレーム20Uが軸部材24によってシートバック下部フレーム20Lに対し回転可能に連結されている。すなわち、軸部材24を中心としてシートバック上部フレーム20Uをシートバック下部フレーム20Lに対し矢印R2方向に回転させることで、シートバック上部部材16Uをシートバック下部部材16Lに対し回転させる(中折れさせる)ことができる。したがって、左右の軸部材24を結ぶ線が本発明に係る回転中心線CL1となっており、この回転中心線CL1が幅方向に沿っていることになる。
【0022】
シートバック下部フレーム20Lの間には、モータ取付板26が掛け渡されて取り付けられている。モータ取付板26には、本発明の「駆動源」であるモータ28が取り付けられている。モータ28の上部には、さらに、モータ28の回転駆動力を受けて回転する駆動ドラム30M(図1では外形のみ示す、図2参照)が取り付けられている。図2に概略的に示すように、駆動ドラム30Mは円柱状又は円筒状に形成されており、その外周面には、一定のピッチで螺旋状のケーブル収容溝32が形成されている。さらに、駆動ドラム30Mの上底面及び下底面には、後述するケーブルエンド66を固定するためのケーブル固定凹部44が形成されている。
【0023】
図1から分かるように、軸部材24よりも後方側には、シートバック下部フレーム20Lとシートバック上部フレーム20Uに掛け渡すようにして、回転機構34が配置されている。本実施形態では、回転中心線CL1に沿った方向に見たとき、この方向の異なる2箇所に回転機構34が配置されていることになる。なお、以下において、必要に応じて、幅方向右側の回転ドラムに関わる部材には符号の末尾にRを、幅方向左側の回転ドラムに関わる部材には符号の末尾にLを付して区別することとする。
【0024】
図3及び図4に詳細に示すように、回転機構34はドラムハウジング36を有している。ドラムハウジング36の下部にはボルト挿通孔38が形成されており、ボルト挿通孔38に挿通された取付ボルト40により、ドラムハウジング36はシートバック下部フレーム20Lに対し、取付ボルト40を中心として矢印R3方向に回転可能に取り付けられていることになる。
【0025】
ドラムハウジング36の内部には、円柱状または円筒状に形成された回転ドラム42が収容されている。回転ドラム42の外周面には、一定の螺旋ピッチS1を有する螺旋状のケーブル収容溝32が、駆動ドラム30Mのケーブル収容溝32と同一方向で形成されている。さらに、回転ドラム42の上底面及び下底面には、ケーブルエンド66を引っ掛けて固定するためのケーブル固定凹部44が、ケーブル収容溝32の両端部となる位置に形成されている。
【0026】
回転ドラム42の上底面及び下底面からはドラム回転軸46が突出されており、このドラム回転軸46がドラムハウジング36の軸孔48に収容されることで、回転ドラム42が回転可能になっている。ドラム回転軸46からは、回転ドラム42と同軸で、雄ネジ部材50が上方に向けて突出されている。
【0027】
さらに回転機構34は、ドラムハウジング36の上方に位置する昇降ブロック52を有している。昇降ブロック52の上部にはピン挿通孔54が形成されており、ピン挿通孔に挿通された取付ピン56により、昇降ブロックはシートバック上部フレーム20Uに対し、取付ピン56を中心として矢印R4方向に回転可能に取り付けられている。ここで、取付ボルト40と取付ピン56とを結ぶ直線は、回転中心線CL1とは交差しない(本実施形態では回転中心線CL1よりも後方に位置する)ようになっている。
【0028】
昇降ブロック52の下面からは上方に向かって雌ネジ58が形成されており、雄ネジ部材50の雄ネジ60がねじ込まれている。そして、回転ドラム42が回転すると雄ネジ部材50も一体で回転し、昇降ブロック52が、図4(A)及び(B)に示すように昇降する。換言すれば、回転ドラム42の回転により、回転機構34が全体として伸縮し、取付ボルト40の位置と取付ピン56の位置とが近づいたり離れたりする。
【0029】
図2にも示すように、モータ28の駆動力を受けて回転する駆動ドラム30Mと、左右の回転ドラム42R、42Lとは、可撓性を有するケーブル部材62R、62Lで連結されている。さらに、左右の回転ドラム42R、42Lの間も、同じく可撓性を有するケーブル部材62Mで連結されている。すなわち、駆動ドラム30Mと、回転ドラム42R、42Lとは、3本のケーブル部材62R、62L、62Mでそれぞれ連結されている。
【0030】
これらのケーブル部材62はいずれも、ケーブル本体64と、このケーブル本体64の両端に固定されたブロック状のケーブルエンド66、さらに、ケーブル本体64の中間部分を覆う円筒状のアウタケーシング68を備えている。アウタケーシング68の両端近傍には、エンドキャップ70が取り付けられ、さらに、エンドキャップ70の長手方向中間部には、拡径部70Wが形成されている。
【0031】
ここで、一例として回転ドラム42Rを採り上げると、図2から分かるように、回転ドラム42Rの下底面のケーブル固定凹部44には、ケーブル部材62Rの一端のケーブルエンド66が収容されて固定されている。このケーブル部材62Rは、ケーブル収容溝32に途中まで収容されて回転ドラム42Rに巻きかけられている。また、ケーブル部材62Rの他端のケーブルエンド66は、駆動ドラム30Mの上底面のケーブル固定凹部44に収容されて固定されている。
【0032】
同様に、回転ドラム42Lの上底面のケーブル固定凹部44にも、ケーブル部材62Lの一端のケーブルエンド66が収容されて固定されており、このケーブル部材62Lは、ケーブル収容溝32に途中まで収容されて回転ドラム42Lに巻きかけられている。ケーブル部材62Lの他端のケーブルエンド66は、駆動ドラム30Mの下底面のケーブル固定凹部44に収容されて固定されている。
【0033】
さらに、ケーブル部材62Mの一端のケーブルエンド66が回転ドラム42Rの上底面のケーブル固定凹部44に収容されて固定されており、ケーブル部材62Mは、ケーブル部材62Rと干渉しない範囲で、ケーブル収容溝32に途中まで収容されて回転ドラム42Rに巻きかけられている。同様に、ケーブル部材62Mの他端のケーブルエンド66が回転ドラム42Lの下底面のケーブル固定凹部44に収容されて固定され、ケーブル部材62Mは、ケーブル部材62Lと干渉しない範囲で、ケーブル収容溝32に途中まで収容されて回転ドラム42Lに巻きかけられている。ここで、駆動ドラム30Mと、回転ドラム42R、42Lとは、いずれも、ケーブル部材62の巻きかけ方向が同一とされている。また、上記説明からも分かるように、それぞれのケーブル部材62は、一端側で回転ドラム42の上底面に固定されると、他端側では回転ドラム42の下底面に固定されている。たとえば、ケーブル部材62Mの一端側は回転ドラム42Rの上底面に固定され、他端側は回転ドラム42Lの下底面に固定されている。
【0034】
そして、駆動ドラム30Mが回転(正転又は逆転)すると、回転ドラム42R、42Lも同一の方向に回転する。たとえば、図2において駆動ドラム30Mが矢印M1方向に回転すると、ケーブル部材62Rが駆動ドラム30Mに巻き取られて矢印M2方向に移動し、回転ドラム42Rが矢印M3方向に回転する。さらに、ケーブル部材62Mが矢印M4方向に移動し、回転ドラム42Lが矢印M5方向に回転する。そして、ケーブル部材62Lが矢印M6方向に移動し、駆動ドラム30Mから巻き出される。
【0035】
特に、本実施形態では、3本のケーブル部材を用いて駆動ドラム30M、回転ドラム42R、42Lを相互にループ状に連結したことで、駆動ドラム30Mの回転方向がいずれの方向であっても、ケーブル部材に弛みを生じさせることなく、回転ドラム42R、42Lを回転させることが可能になっている。
【0036】
図3及び図4に示すように、昇降ブロック52には、ケーブルガイド部材72が取り付けられている。ケーブルガイド部材72は、その上端近傍においてネジ74により昇降ブロック52に固定されており、昇降ブロック52と一体で昇降する。なお、昇降ブロック52は、本発明における「雄ネジ部材と雌ネジ部材のち、回転ドラムによって回転されない部材」である。
【0037】
ケーブルガイド部材72の下部には、2つのケーブル挿通孔76が形成されている。特に、図3及び図4では、車幅方向右側の回転機構34R及びケーブルガイド部材72Rを示しており、ケーブル挿通孔76としても、ケーブル部材62Rに対応するものと、ケーブル部材62Mに対応するものの2つが形成されている。車幅方向左側のガイド部材の場合には、ケーブル挿通孔76は、ケーブル部材62Lに対応するものと、ケーブル部材62Mに対応するものの2つが形成されている。
【0038】
ケーブル挿通孔76は、その内径がエンドキャップ70よりも大径で拡径部70Wよりも小径となるように形成されており、エンドキャップ70が挿入されている。また、拡径部70Wは外側(ドラムハウジング36の反対側)からケーブルガイド部材72に接触して固定されている。このように、ケーブルガイド部材72に固定されたエンドキャップ70に対し、その内部をケーブル本体64が長手方向に移動可能になっている。また、ケーブルガイド部材72の昇降により、ケーブル本体64もアウタケーシング68に挿通された部分で昇降する。特に本実施形態では、回転ドラム40に巻きかけられた2本のケーブル部材62の巻きだし高さ(回転ドラム40から離れる部分の高さ)が上下方向に異なることを考慮し、2つのエンドキャップの高さを異ならせている。具体的には、図3において奥側のエンドキャップ70(これを特に図3及び図4では符号70Bで示す)を、手前側のエンドキャップ70(これを特に図3及び図4では符号70Aで示す)よりも高い位置としている。これにより、ケーブル部材62が回転ドラム40からエンドキャップ70に至る部分での曲がりが少なくなっている。
【0039】
図3から分かるように、本実施形態では、ケーブルガイド部材72を中央部72Mで鈍角的に屈曲させており、2つのケーブル挿通孔76に挿通されたエンドキャップ70のそれぞれの長手方向を、回転ドラム42の外周面の接線に近似するように案内している。したがって、このように、エンドキャップ70の長手方向を回転ドラム42の外周面接線に近似させない構成と比較して、スムーズにケーブル本体64を回転ドラム42に巻きかけることが可能になっている。
【0040】
また、図4(A)に示すように、雄ネジ60のネジピッチP1と、ケーブル収容溝32の螺旋ピッチS1とは同一とされている。このケーブル収容溝32の螺旋ピッチS1は、回転ドラム42へのケーブル本体64の巻きかけピッチでもある。したがって、回転ドラム42の1回転量あたりのケーブル部材62の昇降量と、回転ドラム42にケーブル本体64が巻きかけられている端部42Tの上下方向への移動量とが一致する。
【0041】
次に、本実施形態の車両用シート装置12の作用を説明する。
【0042】
本実施形態の車両用シート装置12では、モータ28を回転させていないときには、シートバック上部部材16Uをシートバック下部部材16Lに対して中折れさせるような力が作用しても、回転機構34がロックの作用をし、不用意な中折れを防止する。モータ28を回転させると、この回転駆動力が、駆動ドラム30Mからケーブル部材62R、62Lを介して回転ドラム42R、42Lに作用し、回転ドラム42R、42Lが回転する。このとき、雄ネジ部材50も回転ドラム42R、42Lと一体で回転するため、図4(A)及び(B)に示すように、昇降ブロック52が昇降する。すなわち、モータ28の回転運動が、昇降ブロック52の直線運動(昇降運動)に変換される。昇降ブロック52はシートバック上部フレーム20Uに取り付けられているので、図5(A)及び(B)に示すように、昇降ブロック52の昇降位置に応じて、シートバック上部部材16Uを、軸部材24を中心として回転させる(中折れさせる)ことができる。
【0043】
このとき、図3に示したように、ドラムハウジング36は、取付ボルト40を中心として矢印R3方向又はその反対方向にわずかに回転し、同様に、昇降ブロック52も、取付ピン56を中心として矢印R4方向又はその反対方向にわずかに回転することで、シートバック下部フレーム20Lやシートバック上部フレーム20Uに対する回転機構34の取付角度の相対変化を許容している。
【0044】
本実施形態では、モータ28から回転機構34への駆動力の伝達に、ケーブル部材62を用いており、このケーブル部材62は可撓性を有している。したがって、可撓性の無い部材、たとえばシャフトやリンク等でモータ28の駆動力を回転機構34に伝達する構成と比較して、ケーブル部材62を変形させてモータ28を配置することができ、モータ28の配設位置の自由度が高くなっている。
【0045】
ここで、図6(A)には、モータ28の配設位置の自由度が低く、回転機構34の近傍にモータ28配置する必要が生じた場合の車両用シート92が比較例として示されている。一般に、回転機構34の近傍は、本実施形態のモータ28の配設位置(図1参照)と比較して上方であり、シートバック自体の厚みが薄い。また、回転機構34が配置されているので、さらに回転機構34の近傍にモータ28を配設するとなると、結果的にシートバック96が厚くなってしまう。
【0046】
これに対し、本実施形態では上記したようにモータ28の配設位置の自由度が高いので、たとえば図1に示すように、モータ28を回転機構34よりも下方に配置することも可能である。そして、図6(A)に示した比較例と比べて、この位置ではシートバック(シートバック下部部材16L)の厚みが厚い。また、回転機構34は配置されていないので、モータ28の配設スペースにも余裕がある。したがって、図6(B)に示すように、シートバック16の厚みを薄くすることが可能になる。
【0047】
もちろん、シートバックの種類によっては、シートバックの上部、たとえばシートバック上部部材16Uの内部に、モータ28を配設するのに充分なスペースが構成されているものもある。この場合には、シートバック上部部材16Uの内部、たとえば回転機構34の近傍にモータ28を配設してもよい。要するに、本実施形態では、モータ28の配設位置に対する制限が比較例よりも少なくなるので、シートバックの構造に合わせて、適切な位置にモータ28を配設してシートバックの薄型化を図ることが可能である。
【0048】
本実施形態において、回転ドラム42R、42Lが回転すると、ケーブルガイド部材72が昇降ブロック52と一体で昇降する。このとき、雄ネジ60のネジピッチP1と、ケーブル収容溝32の螺旋ピッチS1とは同一とされており、回転ドラム42R、42Lの1回転量あたりのケーブル部材62の昇降量と、ケーブル本体64の回転ドラム42R、42Lへの巻きかけ端部64Tの上下方向への移動量とが一致している。したがって、回転ドラム42R、42Lへのケーブル部材62の巻きかけ端部64Tを、上下方向に案内することができる。
【0049】
特に本実施形態では、図4(A)及び(B)からも分かるように、回転ドラム42R、42Lへのケーブル本体64の巻きかけ端部64Tの上下方向の位置が、ケーブルガイド部材72のケーブル挿通孔76の上下方向の位置が略一致している。これにより、アウタケーシング68の内面に対するケーブル部材62の擦れも抑制されるので、異音(擦れ音)の発生も抑制できる。
【0050】
なお、本発明の「回転機構」として、上記では、シートバック下部部材16Lに回転ドラム42が配置され、シートバック上部部材16Uに雄ネジ部材50が配置されたものを例に挙げたが、これらが逆になっていても、回転ドラム42の回転によりシートバック上部部材16Uを中折れさせることが可能である。また、雄ネジ部材50を雌ネジ58の関係を逆にして、回転ドラム42に雌ネジが形成されると共に、昇降ブロック52に、この雌ネジにねじ込まれる雄ネジが形成されていている構造でもよい。
【0051】
また、上記では、本発明の「回転機構」として、回転ドラム42R、42Lと、雄ネジ部材50、及び昇降ブロック52を備えたものを例に挙げたが、回転機構の具体的構成はこれに限定されない。たとえば、ケーブル部材62R、62Lを一端側から駆動ドラム30Mに巻き取るようにし、ケーブル部材62R、62Lの他端側は、シートバック上部フレーム20Uに接続して、ケーブル部材62の引張力でシートバック上部部材16Uを回転させてもよい。ただし、この構成では、モータ28の駆動力を増力するためのギヤ機構等を介在させることが好ましい。また、ケーブル部材62からの引張力が作用する方向と逆方向にシートバック上部部材16Uを付勢する付勢手段を設けることが好ましい。
【0052】
さらに上記では、回転機構34を幅方向、すなわち回転中心線CL1に沿った方向における異なる2箇所に配置しているが、回転機構は、1箇所にのみ配置されていてもよい。ただし、上記実施形態のように2箇所(あるいは複数箇所)に配置すると、1箇所にのみ配置した構成と比較して、より安定的にシートバック上部部材16Uを回転(中折れ)させることができ、好ましい。
【0053】
本発明の「駆動源」としても、上記ではモータ28を挙げたが、これに限定されない。たとえば、手動で操作するための操作ダイヤル、操作ノブ、操作レバー及び操作ハンドルなどの操作部材を駆動源としてもよい。この場合、操作部材の操作によって駆動ドラム30Mを回転させる構成が考えられるが、駆動ドラム30から回転ドラム42R、42Lへの駆動力伝達をケーブル部材で行うことで、駆動源である操作部材の配設位置の自由度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態の車両用シート装置の内部構造を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の車両用シート装置の駆動ドラム、回転ドラムとケーブル部材との関係を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態の車両用シート装置の回転機構を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態の車両用シート装置の回転機構を示す断面図であり、(A)は昇降ブロックが下がった状態、(B)は昇降ブロックが上がった状態である。
【図5】本発明の一実施形態の車両用シート装置において中折れする様子を示す説明図であり、(A)は中折れ前、(B)は中折れ後の状態である。
【図6】(A)は比較例、(B)は本発明の一実施形態の車両用シート装置を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0055】
12 車両用シート装置
14 シートクッション
16 シートバック
16L シートバック下部部材
16U シートバック上部部材
18 シートクッションフレーム
20L シートバック下部フレーム
20U シートバック上部フレーム
24 軸部材
26 モータ取付板
28 モータ
30M 駆動ドラム
32 ケーブル収容溝
34 回転機構
36 ドラムハウジング
38 ボルト挿通孔
40 取付ボルト
42 回転ドラム
50 雄ネジ部材
52 昇降ブロック(雌ネジ部材)
62 ケーブル部材
72 ケーブルガイド部材
76 ケーブル挿通孔
CL1 回転中心線
P1 ネジピッチ
S1 螺旋ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートのシートバックの下部を構成するシートバック下部部材と、
前記シートバック下部部材の上方に配置され前記シートバックの上部を構成するシートバック上部部材と、
前記シートバック上部部材を前記シートバック下部部材に対しシート幅方向に沿った回転中心線まわりに回転可能に支持する支持部材と、
前記シートバック上部部材を前記シートバック下部部材に対し回転させるための駆動力を発生するための駆動源と、
前記駆動源の駆動力を受けると、前記シートバック上部部材を前記シートバック下部部材に対し回転させる回転機構と、
可撓性を有し前記駆動源の駆動力を前記回転機構に伝達するケーブル部材と、
を有する車両用シート装置。
【請求項2】
前記回転機構が、前記シートバック上部部材の回転中心線に沿った方向における複数箇所に設けられている請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
前記回転機構が、
前記シートバック下部部材と前記シートバック上部部材のいずれか一方に取り付けられた雄ネジ部材と、
前記シートバック下部部材と前記シートバック上部部材のいずれか他方に取り付けられて前記雄ネジ部材がねじ込まれた雌ネジ部材と、
前記ケーブル部材が巻きかけられ、前記駆動源の駆動力を受けると回転して、前記雄ネジ部材と前記雌ネジ部材の一方を回転させる回転ドラムと、
を有する請求項1又は請求項2に記載の車両用シート装置。
【請求項4】
前記ケーブル部材をケーブル部材の長手方向に移動可能に部分的に保持すると共に、前記雄ネジ部材と前記雌ネジ部材との軸方向の相対位置変化に伴って前記回転ドラムに対し軸方向に相対移動し前記ケーブル部材の前記回転ドラムに対する巻きかけ位置をガイドするガイド部材、
を有する請求項3に記載の車両用シート装置。
【請求項5】
前記ガイド部材が、前記雄ネジ部材と前記雌ネジ部材の他方に設けられ、
前記回転ドラムに対する前記ケーブル部材の巻きかけピッチと、前記雄ネジ部材及び前記雌ネジ部材のネジピッチとが等しくされている請求項4に記載の車両用シート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−42748(P2010−42748A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207634(P2008−207634)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】