説明

車両用シート装置

【課題】車両用シートにおけるシートバックの角度位置調整とシートクッションの前後位置調整とに要する電力を少なくして、シート調整の省電力化を図ることを目的とする。
【解決手段】車両前後方向に傾動可能に構成され、車両用シート20における乗員の背もたれとなるシートバック12と、該シートバック12の傾動と連動して車両前後方向にスライド可能に構成され、車両用シート20における乗員の着座部となるシートクッション14と、アクチュエータ24によりシートバック12の車両後側から該シートバック12に対して車両前後方向に力を作用させて、該シートバック12を傾動させるXリンク機構16(駆動手段)と、を有している。シートクッション14用のアクチュエータを別途設ける必要がなく、かつ比較的少ない力でシートバック12を傾動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートの調整のための少なくとも1つのアクチュエータを有する複数のシート調整装置が設けられた乗員保護システムが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−500650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来例のように、シート調整のために、アクチュエータを有するシート調整装置をシート各部に設けると、シート調整時に多くの電力が必要となる。車両には他にも多くの電装品が設けられており、車両がこれらの電装品に供給できる電力には限りがあるため、改善が求められていた。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、車両用シートにおけるシートバックの角度位置調整とシートクッションの前後位置調整とに要する電力を少なくして、シート調整の省電力化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、車両前後方向に傾動可能に構成され、車両用シートにおける乗員の背もたれとなるシートバックと、該シートバックの傾動と連動して車両前後方向にスライド可能に構成され、前記車両用シートにおける前記乗員の着座部となるシートクッションと、アクチュエータにより前記シートバックの車両後側から該シートバックに対して車両前後方向に力を作用させて、該シートバックを傾動させる駆動手段と、を有する車両用シート装置。
【0007】
請求項1に記載の車両用シート装置では、駆動手段によりシートバックを傾動させることができる。このとき、駆動手段のアクチュエータは、シートバックの車両後側から該シートバックに対して車両前後方向に力を作用させるので、比較的少ない力で該シートバックを傾動させることができ、アクチュエータの消費電力を低減できる。またシートバックが傾動する際、シートクッションは、該シートバックの傾動と連動して車両前後方向にスライドするので、シートクッション用のアクチュエータを別途設ける必要がない。
【0008】
このように、請求項1に記載の車両用シート装置によれば、車両用シートにおけるシートバックの角度位置調整とシートクッションの前後位置調整とに要する電力を少なくして、シート調整の省電力化を図ることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用シート装置において、前記駆動手段は、前記シートバックの車両後側に位置する車体部材に設けられている。
【0010】
請求項2に記載の車両用シート装置では、駆動手段が、シートバックの車両後側に位置する車体部材に設けられているので、シートバックを傾動させる際に、該シートバックに対してアクチュエータにより車両後側から直接的に力を作用させることができる。このため、アクチュエータの消費電力をより少なくすることができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用シート装置において、車両の衝突が予知された場合に、前記シートバックと前記シートクッションとの連動を解除する連動解除アクチュエータを有し、前記駆動手段は、前記シートクッションとの連動が解除された前記シートバックを、単独で所定の角度位置まで傾動させる。
【0012】
請求項3に記載の車両用シート装置では、車両の衝突が予知された場合に、連動解除アクチュエータが作動して、シートバックとシートクッションとの連動が解除される。このシートクッションとの連動が解除されたシートバックは、駆動手段により駆動されて単独で所定の角度位置まで傾動する。このように、車両の衝突予知時におけるアクチュエータの消費電力をより少なくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両用シート装置によれば、車両用シートにおけるシートバックの角度位置調整とシートクッションの前後位置調整とに要する電力を少なくして、シート調整の省電力化を図ることができる、という優れた効果が得られる。
【0014】
請求項2に記載の車両用シート装置によれば、アクチュエータの消費電力をより少なくすることができる、という優れた効果が得られる。
【0015】
請求項3に記載の車両用シート装置によれば、車両の衝突予知時におけるアクチュエータの消費電力をより少なくすることができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両用シート装置において、シートバックの角度が比較的立っている状態を示す一部断面側面図である。
【図2】車両用シート装置において、シートバックの角度が後傾した状態を示す一部断面側面図である。
【図3】シートバックとシートクッションとの連動が解除され、シートバックのみが所定の角度位置まで傾動した状態を示す一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。図1において、本実施の形態に係る車両用シート装置10は、例えば車両における後部座席に係り、シートバック12と、シートクッション14と、駆動手段の一例たるXリンク機構16と、連動解除アクチュエータ18とを有している。
【0018】
シートバック12は、車両前後方向に傾動可能に構成され、車両用シート20における乗員22(図3)の背もたれとなる部位である。シートクッション14の後端部には、シート幅方向に延びる支持軸(図示せず)が設けられており、シートバック12の下端部は、該支持軸に支持されている。これにより、シートバック12は、該支持軸を中心として、シートクッション14に対して車両前後方向に傾動可能に構成されている。またシートバック12の下端部には、軸28を中心として回動可能に構成されたフック30が設けられている。更にシートバック12の背面には、車両後方へ突出する連結部材32が設けられている。
【0019】
シートクッション14は、例えばフロアパネル34上において、シートバック12の傾動と連動して車両前後方向にスライド可能に構成された、車両用シート20における乗員22の着座部となる部位である。フロアパネル34上には、車両前後方向に延びるシートレール(図示せず)が、シート幅方向に例えば一対設けられ、シートクッション14は該シートレール上に設置されている。
【0020】
シートクッション14の後端部には、シートバック12のフック30が係合する係合部36が設けられている。シートクッション14は、このフック30が係合部36に係合した状態のときに、シートバック12の傾動と連動して、車両前後方向にスライドするようになっている。
【0021】
Xリンク機構16は、アクチュエータ24によりシートバック12の車両後側から該シートバック12に対して車両前後方向に力を作用させて、該シートバック12を傾動させるための機構である。このXリンク機構16は、シートバック12の車両後側に位置する車体部材の一例たるシートバックパネル38に設けられている。シートバックパネル38は、例えばシートバック12の形状に沿って、フロアパネル34の後端から車両上方かつ斜め後方に延びている。
【0022】
Xリンク機構16の構成例について説明すると、該Xリンク機構16は、シートバックパネル38に固定される基部40と、一端において基部40に回動自在に支持されると共に車両側面視でX字形に配置されたリンク42と、該リンク42の他端に支持された可動部44とを有して構成されている。リンク42は、X字形における交差部48においてピン結合され、互いに回動自在となっている。またリンク42は、可動部44に対しても回動可能となっている。
【0023】
基部40には、例えばモータである電動のアクチュエータ24が設けられている。アクチュエータ24の回転軸にはリンク46が固定されており、該リンク46と交差部48とがリンク50により連結されている。このリンク46,50により、アクチュエータ24の回転軸のトルクが、X字形のリンク42の交差部48に伝達されるようになっている。なお、X字形のリンク42は、車幅方向において、一対又は複数対設けられている。
【0024】
可動部44の車両前方側の面には、ガイド部材52が固定されている。このガイド部材52は、例えば断面U字形に構成されており、例えばシートバックパネル38に沿った方向(略車両上下方向)に延び、互いに対向する一対のガイド面52Aを有している。このガイド部材52には、シートバック12の背面に設けられた連結部材32の先端32Aが、ガイド面52Aに沿って摺動可能となるように組み合わされている。シートバック12からの車両後方向きの荷重がガイド部材52に作用している状態において、連結部材32の先端32Aは、シートバック12を傾動させる際に、車両後側のガイド面52Aに沿って摺動するようになっている。
【0025】
ガイド面52Aの範囲(車両上下方向長さ)は、シートバック12に設定される傾動範囲における連結部材32の先端32Aの移動範囲を考慮して設定される。具体的には、シートバック12を車両後方側に傾動させる際に、連結部材32の先端32Aがガイド部材52の範囲から外れることなく、シートバック12を車両前方側に傾動させる際に、連結部材32の先端32Aがガイド部材52の下端に行き当たることがないように、ガイド面52Aの範囲が設定される。
【0026】
アクチュエータ24は、例えばプリクラッシュセンサ54からの出力信号により、ECU56が車両の衝突を予知した際に、該ECU56から送られる作動信号により作動するようになっている。この際、ECU56は、所定の角度位置までシートバック12を傾動させるのに必要なアクチュエータ24の作動量を演算して、該アクチュエータ24に信号を送るようになっている。
【0027】
ここで、車両の衝突を予知した場合とは、プリクラッシュセンサ54からの出力信号及び該出力信号の時間変化に基づいて、自車両と他車両との衝突の確率を衝突前に検知(予測、推定)し、かつ衝突が避けられないと判断した場合又は衝突確率が所定の閾値よりも高いと判断した場合をいう。なお、衝突には、前面衝突や後面衝突等、各種の衝突形態が含まれる。
【0028】
そして、連動解除アクチュエータ18は、車両の衝突が予知された場合に、シートバック12とシートクッション14との連動を解除するものである。具体的には、連動解除アクチュエータ18は、ECU56からの作動信号を受けた際に作動して、軸28を中心としてフック30を回転駆動するように構成されている。連動解除アクチュエータ18により、フック30を所定方向に回動させることで、シートクッション14に設けられた係合部36と該フック30との係合状態を解除できるようになっている。
【0029】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1,図2において、本実施形態に係る車両用シート装置10では、通常時において、Xリンク機構16によりシートバック12を傾動させることができる。具体的には、乗員22(図3)等がシート調節操作を行った際に、ECU56からXリンク機構16のアクチュエータ24に作動信号が送られ、該アクチュエータ24が作動することで、Xリンク機構16が伸縮して、シートバック12が傾動する。図1に示されるように、Xリンク機構16が伸長した場合には、シートバック12が比較的立った状態となり、また図2に示されるように、Xリンク機構16が縮んだ場合には、シートバック12が車両後方側に倒れた状態となる。
【0030】
このとき、Xリンク機構16のアクチュエータ24は、シートバック12の車両後側から該シートバック12に対して車両前後方向に力を作用させるので、比較的少ない力で該シートバック12を傾動させることができ、アクチュエータ24の消費電力を低減できる。
【0031】
補足すると、本実施形態では、Xリンク機構16が、シートバック12の車両後側に位置するシートバックパネル38に設けられているので、シートバック12を傾動させる際に、該シートバックパネル38において反力を受けることができ、シートバック12に対して車両後側から直接的に力を作用させることができる。このため、シートバック12を支持軸付近において電気的に回転駆動して傾動させる場合と比較して、アクチュエータ24の消費電力をより少なくすることができる。
【0032】
また、図2に示されるように、シートバック12が傾動する際、シートクッション14は、該シートバック12の傾動と連動して車両前後方向にスライドするので、シートクッション14用のアクチュエータを別途設ける必要がない。
【0033】
このように、本実施形態に係る車両用シート装置10によれば、車両用シート20におけるシートバック12の角度位置調整とシートクッション14の前後位置調整とに要する電力を少なくして、シート調整の省電力化を図ることができる。
【0034】
次に、図3において、シートバック12が図2に示されるように後傾した場合において、車両の衝突が予知された場合には、連動解除アクチュエータ18が作動して、シートバック12とシートクッション14との連動が解除される。具体的には、ECU56が、プリクラッシュセンサ54の出力信号によって車両の衝突を予知すると、該ECU56から連動解除アクチュエータ18に信号が送られる。これによって連動解除アクチュエータ18が作動することで、フック30が軸28を中心として回動して、シートクッション14に設けられた係合部36との係合が解除される。
【0035】
この状態で、ECU56からXリンク機構16のアクチュエータ24に作動信号が送られることで、該アクチュエータ24が作動して、Xリンク機構16が車両前方側に所定量伸長する。これにより、ガイド部材52及び連結部材32が車両前方側に押し出されることで、シートバック12に対して車両後側から車両前側に向けて直接的に力が作用する。これにより、シートバック12は、シートクッション14と連動することなく単独で、支持軸を中心として所定の角度位置まで車両前側に傾動する。
【0036】
仮に、車両の衝突が予知された際に、シートバック12とシートクッション14とが連動状態のままになっていると、Xリンク機構16のアクチュエータ24によりシートバック12を車両前方側に傾動させて起こす際に、乗員22の体重がかかった状態のシートクッション14を駆動する力が必要となり、非常に大きな電力が要求されることとなる。
【0037】
しかしながら、本実施形態では、上記のように、車両の衝突が予知された場合に、シートバック12とシートクッション14との連動が解除されるので、該シートバック12のみがXリンク機構16により駆動されて所定の角度位置まで傾動する。このため、車両の衝突予知時におけるアクチュエータ24の消費電力をより少なくすることができる。
【0038】
このシートバック12の傾動は、実際に衝突が起きるタイミングの例えば1秒前までに完了する。従って、乗員22に対するシートベルト58の掛かり方がより適切となるので、実際に衝突が起きた際には、シートバック12により乗員22を適切に拘束することができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、駆動手段の一例としてXリンク機構16を挙げたが、駆動手段はこれに限られるものではなく、シリンダ装置やカム装置等、シートバック12を車両前後方向に傾動させることができるものであれば、どのような手段を用いてもよい。
【0040】
また車体部材の一例としてシートバックパネル38を挙げたが、車体部材はこれに限られるものではなく、シートバック12を傾動させる際の反力を受け得る部材であれば、車体補強部材等であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 車両用シート装置
12 シートバック
14 シートクッション
16 Xリンク機構(駆動手段)
18 連動解除アクチュエータ
20 車両用シート
22 乗員
24 アクチュエータ
32 連結部材
38 シートバックパネル(車体部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に傾動可能に構成され、車両用シートにおける乗員の背もたれとなるシートバックと、
該シートバックの傾動と連動して車両前後方向にスライド可能に構成され、前記車両用シートにおける前記乗員の着座部となるシートクッションと、
アクチュエータにより前記シートバックの車両後側から該シートバックに対して車両前後方向に力を作用させて、該シートバックを傾動させる駆動手段と、
を有する車両用シート装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記シートバックの車両後側に位置する車体部材に設けられている請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
車両の衝突が予知された場合に、前記シートバックと前記シートクッションとの連動を解除する連動解除アクチュエータを有し、
前記駆動手段は、前記シートクッションとの連動が解除された前記シートバックを、単独で所定の角度位置まで傾動させる請求項1又は請求項2に記載の車両用シート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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