説明

車両用シート

【課題】車両用シートを簡単な操作によって、車内への乗降スペースを大きく広げられるように退避移動させられるようにする。
【解決手段】シート本体1を車両フロアFに対して前後スライド可能に支持する前後スライド機構4と車幅方向にスライド可能に支持する幅スライド機構5とを備え、シートバック2がシートクッション3に対してリクライニング機構6を介して連結されている車両用シートである。車両用シートは、リクライニング機構6によるシートバック2の背凭れ角度の固定状態を解除可能な解除レバー6Cと、解除レバー6Cの操作が行われてシートバック2が前傾位置まで倒し込まれる動きを検知して前後スライド機構4と幅スライド機構5の双方のロックを解除する解除機構10と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。詳しくは、シート本体を車両フロアに対して前後スライド可能に支持する前後スライド機構と車幅方向にスライド可能に支持する幅スライド機構とを備える車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートにおいて、シート本体が車両フロアに対して前後方向のスライド機構と車幅方向のスライド機構とによって各方向にスライド可能に構成されたものが知られている(下記特許文献1参照)。上記車両用シートは、車両の2列目シートとして配設されており、シートバックを前傾姿勢に倒し込むことによって、上述した前後方向のスライド機構のロックが解除されて、シート本体を車両前方側へ小さく屈み込ませた姿勢にして車両前方側へ退避移動させられるようになっている。これにより、上記車両用シートの後方側のスペースが広く空けられて、その側方のドアから後列目のシートへと乗り込む乗降スペースが広く空けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−8028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、車幅方向のスライド機構のロックを解除するレバーが、前後方向のスライド機構のロックを解除するレバーとは別個に設定されている。したがって、車両用シートを車両前方側へ退避移動させる際に、更に、車幅方向のスライド機構のロックも解除して、車両用シートを車両内方側へと移動させて3列目シートへの乗降スペースを広げられるようにするためには、レバーの操作を複数の段階に分けて行わなければならず、操作が面倒となる。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、車両用シートを簡単な操作によって、車内への乗降スペースを大きく広げられるように退避移動させられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用シートは次の手段をとる。
第1の発明は、シート本体を車両フロアに対して前後スライド可能に支持する前後スライド機構と車幅方向にスライド可能に支持する幅スライド機構とを備え、シートバックがシートクッションに対してリクライニング機構を介して連結されている車両用シートである。車両用シートは、リクライニング機構によるシートバックの背凭れ角度の固定状態を解除可能な第1のレバーと、第1のレバーの操作が行われてシートバックが前傾位置まで倒し込まれる動きを検知して前後スライド機構と幅スライド機構の双方のロックを解除する解除機構と、を有する。
【0006】
この第1の発明によれば、第1のレバーの操作が行われてシートバックが前傾位置まで倒し込まれることにより、解除機構によって前後スライド機構と幅スライド機構の双方のロックが解除される。これにより、シート本体は、シートバックが前傾姿勢とされて車両前方側へ小さく屈み込まされた姿勢となると共に、車両前方側及び内方側へスライドさせることができる状態となり、その側方のドアから後列目のシートへと乗り込むための乗降スペースを広く空けることができるようになる。このように、車両用シートを第1のレバーによる簡単な操作によって、車内への乗降スペースを大きく広げられるように退避移動させることができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、解除機構が、操作機構と、伝達機構と、第1のリンクと、第2のリンクと、を有するものである。操作機構は、シート本体の着座者によって操作される第2のレバーにより操作される構成とされ、伝達機構は、シートバックが前傾位置まで倒し込まれる動きを伝達して操作機構を操作する構成とされ、第1のリンクは、操作機構により前後スライド機構のロックを解除するように操作される構成とされ、第2のリンクは、操作機構により幅スライド機構のロックを解除するように操作される構成とされている。
【0008】
この第2の発明によれば、解除機構は、第1のレバーの操作によってシートバックが前傾位置まで倒し込まれることにより操作されることに加え、着座者によって第2のレバーが操作されることによっても操作される。したがって、シート本体を車内への乗降スペースを広げられるように退避移動させる場合の他、着座使用時の着座位置を調整する際にも、簡単な操作によってシート本体の着座位置を車両前後方向や車幅方向に自由に調整することができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第2の発明において、第1のリンクと第2のリンクとが互いに同軸回りに枢支され、そのうちの一方のリンクがバネにより一方向に回転附勢されて初期位置に保持される構成であり、他方のリンクは一方のリンクに対して爪の係合により一緒に回転したり単独で回転したりできるようになっているものである。
【0010】
この第3の発明によれば、第1のリンクと第2のリンクとを上記のように連結することにより、1つの回転軸及び1つのバネを用いた簡単な構成により、両リンクを互いに一緒に回転させたり他方のリンクを単独で回転させたりすることができる。これにより、前後スライド機構及び幅スライド機構のロックを解除するタイミングをずらして、どちらか一方のみのスライド機構のロックを解除したり、両方のスライド機構のロックを解除したりする使い分けを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の車両用シートの概略構成を示した平面図である。
【図2】車両用シートの側面図である。
【図3】作動機構の拡大図である。
【図4】操作レバーの操作により前後スライド機構のロックを解除した状態を示す拡大図である。
【図5】操作レバーから第1のリンクへの操作力の伝達が遮断された状態を示す拡大図である。
【図6】操作レバーの操作により幅スライド機構のロックを解除した状態を示す拡大図である。
【図7】操作レバーから第2のリンクへの操作力の伝達も遮断された状態を示す拡大図である。
【図8】操作レバーを最大位置まで操作した状態を示す拡大図である。
【図9】前後スライド機構(幅スライド機構)のロック構造を示す図2のIX-IX線断面図である。
【図10】伝達機構の構成を示す拡大図である。
【図11】シートバックの前倒れにより伝達機構が動作した状態を示す拡大図である。
【図12】シートバックの前倒れにより操作レバーが操作された状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の車両用シートの構成について、図1〜図12を用いて説明する。本実施例の車両用シートは、図1に示すように、シート本体1が、車両フロアFに対して、前後方向のスライド機構(前後スライド機構4)と車幅方向のスライド機構(幅スライド機構5)とによって、車両の前後方向と車幅方向とにそれぞれスライド可能に構成されたものとなっている。これら前後スライド機構4及び幅スライド機構5は、常時はスライドロックされた状態とされており、これらのロックの解除操作は、図2に示すように、シート本体1のアウター側部に設けられた操作レバー7の操作を行うことによって行われるようになっている。
【0014】
また、上記した各ロックの解除操作は、同じくシート本体1のアウター側部に設けられた解除レバー6Cの操作を行って、シートバック2が後述する前傾位置まで倒し込まれる動作によっても行われるようになっている。この解除レバー6Cの操作が行われて解除操作がされる場合には、シート本体1は、図1に示すように、シートバック2が前傾姿勢とされて車両前方側へ小さく屈み込まされた姿勢とされた状態で、車両前方側及び内方側へスライドさせることができる状態となり、その側方のドアDrから後列目のシート(3列目シート1’)へと乗り込むための乗降スペースLを退避移動前の当初の空きスペースLaよりも広く空けることができるようになる。ここで、解除レバー6Cが本発明の第1のレバーに相当し、操作レバー7が本発明の第2のレバーに相当する。
【0015】
以下、上記車両用シートの各構成について詳しく説明する。図2に示すように、シート本体1は、背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、を備える。シートバック2は、その両側の下端部が、シートクッション3の両側の後端部に対して、それぞれ回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング機構6を介して連結されている。これにより、シートバック2は、常時は各リクライニング機構6によって、シートクッション3に対する背凭れ角度が固定された状態に保持されている。上記各リクライニング機構6の回転止め状態は、前述した解除レバー6Cの操作によって一斉に解除されるようになっている。
【0016】
詳しくは、各リクライニング機構6は、図10に示すように、シートバック2の骨格をなすバックフレーム2Fの両サイドフレームの外板部と、シートクッション3の骨格をなすクッションフレーム3Fの両サイドフレームの内板部との間に介在し、これらを互いに連結した状態となって設けられている。そして、各リクライニング機構6は、前述した解除レバー6C(図2参照)が操作されることにより、それらの中心部に挿通された操作軸6Aに一体に連結されている各操作アーム6Bが図示しないケーブルを介して回転操作され、各操作軸6Aが回転操作されることにより、それらの回転止め状態が一斉に解除されるようになっている。
【0017】
この解除操作により、シートバック2は、その背凭れ角度の固定状態が解除されて、各リクライニング機構6の中心軸線(操作軸6Aの軸線)まわりに前後に傾動することができる状態となる。これにより、シートバック2は、シート本体1に乗員が着座していない状態では、シートクッション3との間に掛着された図示しないバネの附勢力によって、図11に示される前傾位置まで倒し込まれるようになっている。詳しくは、シートバック2は、バックフレーム2Fの両サイドフレームに固定されたL字状に形成された各係止板2Aが、シートクッション3のクッションフレーム3Fの両サイドフレームに形成された前側の突起(前倒れストッパ3A)或いは後側の突起(後倒れストッパ3B)と当接する位置までそれぞれ前後に傾動することができるようになっており、上記各リクライニング機構6による背凭れ角度の固定状態が解かれて前方側へとバネ附勢されることにより、各係止板2Aが前倒れストッパ3Aに当たる位置まで倒れ込んで係止されるようになっている。
【0018】
次いで、図1〜図2に示すように、シートクッション3は、その下部が、互いに積層されて井桁状に組まれた前後一対の幅スライド機構5と左右一対の前後スライド機構4とを間に介して、車両フロアF上に設けられて支持されている。ここで、上記各前後スライド機構4は、車両前後方向に長尺状に延びるスライドレール4Aと、スライドレール4Aに沿ってスライド可能に組まれたスライダ4Bと、スライダ4Bのスライドレール4Aに対する移動をロック可能なロック爪4Cと、を有する。上記各スライドレール4Aは、車両フロアF上に固定されて設けられている。一方、各幅スライド機構5は、車幅方向に長尺状に延びるスライドレール5Aと、スライドレール5Aに沿ってスライド可能に組まれたスライダ5Bと、スライダ5Bのスライドレール5Aに対する移動をロック可能なロック爪5Cと、を有する。各スライドレール5Aは、上述した各前後スライド機構4の各スライダ4Bの上部間に跨って固定されて設けられている。そして、これらスライドレール5Aに組み付けられた各スライダ5Bに対し、シートクッション3のクッションフレーム3Fの両サイドフレームが、各スライダ5Bの上部間に跨って固定されて設けられている。
【0019】
次に、上記各前後スライド機構4及び各幅スライド機構5のスライドロック構造について、図9を用いて説明する。なお、両者のスライドロック構造は、互いにその基本的構成が同じものとなっているため、以下では、前後スライド機構4のスライドロック構造の説明を中心に、その基本的構成が同じとなる幅スライド機構5のスライドロック構造の構成を括弧書きで符号を付すことでまとめて説明することとする。すなわち、ロック爪4C(5C)は、支軸4C1(5C1)によりスライダ4B(5B)に回転可能に軸連結されて設けられており、常時はスライダ4B(5B)との間に掛着されたバネ4C2(5C2)の附勢力を受けた回転(図示反時計回り方向の回転)により、ロック爪4C(5C)の先端をスライダ4B(5B)に形成されたロック孔4B1(5B1)及びスライドレール4A(5A)に形成されたロック孔4A1(5A1)にそれぞれ貫通させて、スライダ4B(5B)の移動を係止させた状態に保持している。上記ロック爪4C(5C)は、図8及び図12で後述するように、操作レバー7が操作されてケーブル14A(15A)が牽引操作されることにより、図9の仮想線状態で示されるように、上記バネ4C2(5C2)の附勢力に抗して上記各ロック孔4A1(5A1),4B1(5B1)から引き抜かれる方向(図示時計回り方向)に回されて、上記スライダ4B(5B)のスライドロック状態を解除するようになっている。上記スライドレール4A(5A)に形成される各ロック孔4A1(5A1)は、図2に示すように、スライドレール4A(5A)の長手方向に沿って等間隔に並んで多数形成されており、スライダ4B(5B)のスライド移動を広い範囲でロックさせられるようになっている。
【0020】
次に、前述した操作レバー7、及び操作レバー7の操作を受けて各前後スライド機構4及び幅スライド機構5のスライドロック状態を解除する解除機構10の構成について説明する。操作レバー7は、図3に示すように、シートクッション3のクッションフレーム3Fに一体に固定されたベース板11に対して、連結軸7Bにより回転による引き上げ操作が可能に軸連結されて設けられている。上記操作レバー7は、常時は、ベース板11との間に掛着されたバネ7Cの附勢力により、ベース板11に対して引き下げられる方向(図示反時計回り方向)に回転附勢された状態として、ベース板11の上端部に形成されたストッパ11Aに後側から当接して係止された状態に保持されている。上記操作レバー7は、その車両前方側へ延び出すアーム部に樹脂製の取っ手が装着されて形成された操作部7Aを引き上げ操作されることにより、その操作力を解除機構10に伝達する構成となっている。この操作レバー7の引き上げ操作は、図8に示すように、操作レバー7が、上記ベース板11の上端部に形成されたストッパ11Aに対して前側から当接して係止される位置まで行えるようになっている。
【0021】
解除機構10は、図3に示すように、操作ピン12と、伝達機構13と、第1のリンク14と、第2のリンク15と、を有する。ここで、操作ピン12が本発明の操作機構に相当する。操作ピン12は、操作レバー7に一体的に結合されて設けられ、操作レバー7の引き上げ操作に伴って移動して、後述する第1のリンク14と第2のリンク15とをそれぞれ押動して回転操作するようになっている。伝達機構13は、図10に示すように、アウター側部のリクライニング機構6の操作軸6Aに回転可能に軸連結されて設けられた操作アーム13Aと、この操作アーム13Aの下端部と図3に示す操作レバー7の後ろ上端部とを繋ぐ操作ケーブル13Bと、を有する。前者の図10に示す操作アーム13Aは、その初期時には、図3に示す操作レバー7がバネ7Cの附勢力によって初期位置に保持される力によって、操作ケーブル13Bを介してその上端部が、図10に示すように前述したシートバック2のバックフレーム2Fに固定された係止板2Aの前回転移動の軌跡上に露呈した状態となって保持されている。後者の操作ケーブル13Bは、図3に示すように、その操作レバー7に連結される側の端部が、操作レバー7に形成された長孔7D内に掛着されており、その初期時には、長孔7Dの下端部に係止された状態となっている。長孔7Dは、連結軸7Bを中心とした円弧状に湾曲した形に形成されている。上記構成の伝達機構13は、図11に示すように、前述した解除レバー6C(図2参照)の操作が行われてシートバック2が前傾位置まで倒し込まれることにより、操作アーム13Aが係止板2Aに押されて図示反時計回り方向に回転し、操作ケーブル13Bを介して図12に示すように操作レバー7を牽引して引き上げ操作するようになっている。
【0022】
図3に示すように、第1のリンク14は、第2のリンク15と軸方向に並んで設けられ、第2のリンク15と共に回転軸16によってベース板11に対して回転可能となるように軸連結されて設けられている。詳しくは、上記回転軸16は、ベース板11に一体的に結合されており、第1のリンク14及び第2のリンク15は、上記回転軸16に対して回転可能に枢支されて設けられている。上記第1のリンク14は、上記回転軸16を中心に径方向の2方向にアームを延出させるL字形状に形成され、その回転軸16に対してシート上前方向に向かってアームを延出させる部分が、前述した操作レバー7に結合された操作ピン12により回転操作力の伝達を受けて回転操作される部分とされ、回転軸16に対してシート下前方向に向かってアームを延出させる部分が、前述した図9に示した前後スライド機構4のロック爪4Cを解除操作するためのケーブル14Aと繋がれて、その回転操作される動きによりケーブル14Aを牽引操作して前後スライド機構4のロックを解除する部分となっている。上記ケーブル14Aは、図3に示すように、その第1のリンク14と連結される側の端部が、第1のリンク14に形成された長孔14A1内に掛着されて設けられている。長孔14A1は、回転軸16を中心とした円弧状に湾曲した形に形成されている。
【0023】
第2のリンク15は、回転軸16を中心にシート前方側へ向かってT字状に延出する形状に形成され、そのシート前方側から上方側へ向かってアームを延出させる部分が、前述した操作レバー7に結合された操作ピン12により回転操作力の伝達を受けて回転操作される部分とされ、シート前方側から下方側へ向かってアームを延出させる部分が、前述した図9に示した幅スライド機構5のロック爪5Cを解除操作するためのケーブル15Aと繋がれて、その回転操作される動きによりケーブル15Aを牽引操作して幅スライド機構5のロックを解除する部分となっている。上記ケーブル15Aは、図3に示すように、その第2のリンク15と連結される側の端部が、第2のリンク15に形成された長孔15A1内に掛着されて設けられている。長孔15A1は、回転軸16を中心とした円弧状に湾曲した形に形成されている。
【0024】
詳しくは、上述した第1のリンク14に繋がれたケーブル14Aは、第2のリンク15に繋がれたケーブル15Aよりも、より回転軸16に近い位置で第1のリンク14と連結されている。これにより、第1のリンク14に繋がれたケーブル14Aは、第2のリンク15に繋がれたケーブル15Aよりも、第1のリンク14と第2のリンク15とが同じ角度だけ回転操作された時の牽引操作移動量が多くなるように構成されている。
【0025】
ここで、上記第2のリンク15は、その掛部15Dと上記回転軸16との間にバネ17が掛着されており、このバネ17の附勢力により常時は図示時計回り方向に回転附勢された状態とされている。また、上記第2のリンク15のシート下方側に延出するアーム部分には、第1のリンク14の下方側に延びるアーム部分の縁部に当接することができるように爪15Eが折り曲げられて突出して形成されている。これにより、第2のリンク15は、その初期時には、上記バネ17によって図示時計回り方向に回転附勢される力を、爪15Eを介して第1のリンク14にも伝達し、第1のリンク14も同方向に回転附勢した状態として、第1のリンク14が操作レバー7に固定された操作ピン12と当接して係止される位置にてそれ自体も回転が係止された状態となって保持されている。この係止状態では、第2のリンク15は、操作ピン12とは当接しておらず、操作ピン12との間に回転方向の隙間を有した状態となっている。
【0026】
上記構成の解除機構10は、操作レバー7が引き上げ操作されることにより、次のように作動操作される。すなわち、操作レバー7が図3に示す初期位置の状態から引き上げられていくことにより、先ず、図4に示すように、第1のリンク14のアーム部分が操作ピン12により図示反時計回り方向に押圧されて回される。これにより、第1のリンク14に爪15Eが当接した状態となっている第2のリンク15も、第1のリンク14に押し回される格好で、第1のリンク14と一体的となって図示反時計回り方向に回転する。そして、この回転により、第1のリンク14に繋がれたケーブル14Aが、第2のリンク15に繋がれたケーブル15Aよりも大きく牽引操作されて、各前後スライド機構4のロック状態が解除される。
【0027】
次に、上記操作レバー7の引き上げ操作を更に進行させていくと、図5に示すように、上記操作ピン12が、第2のリンク15のシート上方側に突出する側のアーム部分と当接する。そして、そこから更に操作レバー7の引き上げ操作を進行させることで、上記操作ピン12が第2のリンク15を図示反時計回り方向へと回転させる(図6参照)。これにより、第2のリンク15が第1のリンク14を残して単独で大きく回転し、第2のリンク15に繋がれたケーブル15Aが大きく牽引操作されて、各幅スライド機構5のロック状態が解除される。
【0028】
ここで、上記第1のリンク14の操作ピン12によって押圧されるアーム部分の図示上側の縁面には、径方向に面が平坦状に延びる伝達部14Bと、円弧状に面が湾曲した逃がし部14Cと、が互いに径方向に横並び状になって形成されている。前者の伝達部14Bは、第1のリンク14の初期状態時に、前述した操作ピン12と当接するようになっている。後者の逃がし部14Cは、第1のリンク14が操作ピン12によって図5の回転位置まで回転操作された時に、回転軸16を中心とした円弧面を形成するようになっている。上記構成の第1のリンク14は、図3〜図5に示すように、操作レバー7の引き上げ操作によって操作ピン12により押し回され始める初期の回転位置から途中の回転位置(図5の位置)までは、操作ピン12が伝達部14Bの形成領域上を推移することで、操作レバー7の引き上げに伴って回転操作される。しかし、第1のリンク14は、図5〜図6に示すように、上記途中の回転位置から先の領域では、操作ピン12が逃がし部14Cの形成領域上を推移することで、操作レバー7の引き上げ操作が進行されても、操作ピン12からの動力の伝達を受けることなく、操作ピン12の動きを逃がして回転を進行させないようになっている。これにより、先にスライドロックが解除される前後スライド機構4に対し、その解除操作後にケーブル14Aから更なる過剰な牽引操作力がかけられないようになっており、ケーブル14A及び前後スライド機構4のロック構造部(ロック爪4C:図9参照)に無理な負荷がかからないようになっている。
【0029】
また、同じく、上記第2のリンク15の操作ピン12によって押圧されるアーム部分の図示右側の縁面にも、径方向に面が平坦状に延びる伝達部15Bと、円弧状に面が湾曲した逃がし部15Cと、が互いに径方向に横並び状になって形成されている。前者の伝達部15Bは、図5に示すように、操作レバー7が引き上げ操作されることにより、逃がし部15Cよりも先に操作ピン12と当接するようになっている。後者の逃がし部15Cは、第2のリンク15が操作ピン12によって図7の回転位置まで回転操作された時に、回転軸16を中心とした円弧の形に湾曲した円弧面を形成するようになっている。上記構成の第2のリンク15は、図5〜図7に示すように、操作レバー7の引き上げ操作によって操作ピン12により押し回され始める初期の回転位置(図5の位置)から途中の回転位置(図7の位置)までは、操作ピン12が伝達部15Bの形成領域上を推移することで、操作レバー7の引き上げに伴って回転操作される。しかし、第2のリンク15は、図7〜図8に示すように、上記途中の回転位置から先の領域では、操作ピン12が逃がし部15Cの形成領域上を推移することで、操作レバー7の引き上げ操作が進行されても、操作ピン12からの動力の伝達を受けることなく、操作ピン12の動きを逃がして回転を進行させないようになっている。これにより、スライドロックが解除された後の幅スライド機構5に対し、その解除操作後にケーブル15Aから更なる過剰な牽引操作力がかけられないようになっており、ケーブル15A及び幅スライド機構5のロック構造部(ロック爪5C:図9参照)に無理な負荷がかからないようになっている。
【0030】
また、図2に示すように、上記解除機構10を介した前後スライド機構4及び幅スライド機構5のロックの解除操作は、前述した解除レバー6Cの引き上げ操作を行うことによっても同じように行われるようなっている。すなわち、上記解除レバー6Cの操作を行うことにより、図11において前述したように、シートバック2が前傾位置まで倒し込まれて操作アーム13Aが押し回され、この回転により図12に示すように操作ケーブル13Bが引っ張られて操作レバー7が引き上げ操作される。これにより、上記図3〜図8において前述したように、解除機構10が操作されて前後スライド機構4及び幅スライド機構5のロックが解除される。
【0031】
このように、本実施例の車両用シートによれば、解除レバー6Cの操作が行われてシートバック2が前傾位置まで倒し込まれることにより、解除機構10によって前後スライド機構4と幅スライド機構5の双方のロックが解除される。これにより、シート本体1は、シートバック2が前傾姿勢とされて車両前方側へ小さく屈み込まされた姿勢となると共に、車両前方側及び内方側へスライドさせることができる状態となり、その側方のドアDrから後列目のシート(3列目シート1’)へと乗り込むための乗降スペースLを広く空けることができるようになる。このように、車両用シートを解除レバー6Cによる簡単な操作によって、車内への乗降スペースLを大きく広げられるように退避移動させることができる。
【0032】
また、解除機構10は、解除レバー6Cの操作によってシートバック2が前傾位置まで倒し込まれることにより操作されることに加え、着座者によって操作レバー7が操作されることによっても操作される。したがって、上述したシート本体1を車内への乗降スペースLを広げられるように退避移動させる場合の他、着座使用時の着座位置を調整する際にも簡単な操作によって、シート本体1の着座位置を車両前後方向や車幅方向に自由に調整することができる。したがって、図1に示すように、シート本体1をタイヤハウスHを避けるように車両内方側へと移動させてからシート後方側へスライドさせることができ、前後方向のスライド領域をより広くとることができる。
【0033】
また、解除機構10を構成する第1のリンク14と第2のリンク15とを互いに同軸回りに回転可能に枢支して、第2のリンク15をバネ17により一方向に回転附勢して初期位置に保持する構成とし、かつ、爪15Eの係合により第1のリンク14と一緒に途中まで回転したり途中から単独で回転したりできるようにしたことにより、1つの回転軸16及び1つのバネ17を用いた簡単な構成により、前後スライド機構4及び幅スライド機構5のロックを解除するタイミングをずらして、どちらか一方のみのスライド機構(本実施例では前後スライド機構4)のロックを解除したり、両方のスライド機構4,5のロックを解除したりする使い分けを行うことができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。例えば、上記実施例では、本発明の操作機構に相当するものとして、操作レバー7に第1のリンク14や第2のリンク15を作動操作するための操作ピン12を一体的に設けた構成を例示したが、第1のレバー(解除レバー6C)によって操作されることで第1のリンク14や第2のリンク15を作動操作するリンク機構やギア機構等の別途の作動機構を適用してもよい。また、上記実施例では、本発明の解除機構に相当するものとして、解除レバー6C(第1のレバー)の操作によってシートバック2が前倒れ回転した動きを操作レバー7(第2のレバー)に伝達して操作レバー7(第2のレバー)を操作し、この操作レバー7(第2のレバー)の動きを介して作動操作される解除機構10を示したが、解除レバー6C(第1のレバー)の操作によってシートバック2が前倒れ回転した動きを、操作レバー7(第2のレバー)を介することなく解除機構10に直接伝達して作動操作する構成としたものであってもよい。
【0035】
また、上記実施例では、解除機構10が作動操作されることにより、先に前後スライド機構4のロックが解除され、次いで幅スライド機構5のロックが解除される構成を例示したが、先に幅スライド機構5のロックが解除され、次いで前後スライド機構4のロックが解除される構成であってもよい。また、これらスライド機構4,5のロックの解除操作を一斉に行うものであってもよい。また、本発明の解除機構は、第1のリンクがバネにより回転附勢され、第2のリンクが爪の係合により第1のリンクと途中位置まで一緒に回転して、途中から第1のリンクが単独で回転するように構成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 シート本体
2 シートバック
2F バックフレーム
2A 係止板
3 シートクッション
3F クッションフレーム
3A 前倒れストッパ
3B 後倒れストッパ
4 前後スライド機構
4A スライドレール
4A1 ロック孔
4B スライダ
4B1 ロック孔
4C ロック爪
4C1 支軸
4C2 バネ
5 幅スライド機構
5A スライドレール
5A1 ロック孔
5B スライダ
5B1 ロック孔
5C ロック爪
5C1 支軸
5C2 バネ
6 リクライニング機構
6A 操作軸
6B 操作アーム
6C 解除レバー(第1のレバー)
7 操作レバー(第2のレバー)
7A 操作部
7B 連結軸
7C バネ
7D 長孔
10 解除機構
11 ベース板
11A ストッパ
12 操作ピン(操作機構)
13 伝達機構
13A 操作アーム
13B 操作ケーブル
14 第1のリンク
14A ケーブル
14A1 長孔
14B 伝達部
14C 逃がし部
15 第2のリンク
15A ケーブル
15A1 長孔
15B 伝達部
15C 逃がし部
15D 掛部
15E 爪
16 回転軸
17 バネ
1’ 3列目シート
F 車両フロア
Dr ドア
L 乗降スペース
La 空きスペース
H タイヤハウス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート本体を車両フロアに対して前後スライド可能に支持する前後スライド機構と車幅方向にスライド可能に支持する幅スライド機構とを備え、シートバックがシートクッションに対してリクライニング機構を介して連結されている車両用シートであって、
前記リクライニング機構による前記シートバックの背凭れ角度の固定状態を解除可能な第1のレバーと、
該第1のレバーの操作が行われて前記シートバックが前傾位置まで倒し込まれる動きを検知して前記前後スライド機構と前記幅スライド機構の双方のロックを解除する解除機構と、を有することを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートであって、
前記解除機構は、
前記シート本体の着座者によって操作される第2のレバーにより操作される操作機構と、
前記シートバックが前傾位置まで倒し込まれる動きを伝達して前記操作機構を操作する伝達機構と、
前記操作機構により前記前後スライド機構のロックを解除するように操作される第1のリンクと、
前記操作機構により前記幅スライド機構のロックを解除するように操作される第2のリンクと、を有することを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用シートであって、
前記第1のリンクと前記第2のリンクとが互いに同軸回りに枢支され、そのうちの一方のリンクがバネにより一方向に回転附勢されて初期位置に保持される構成であり、他方のリンクは前記一方のリンクに対して爪の係合により一緒に回転したり単独で回転したりできるようになっていることを特徴とする車両用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−116209(P2012−116209A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264764(P2010−264764)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】