説明

車両用シート

【課題】本発明は、シート本体が空の場合にシート本体を速やかに車室内方向に移動できるようにするとともに、消費電力の低減を図れるようにすることである。
【解決手段】本発明に係る車両シートのシート移動装置は、駆動源458の回転力を利用してシート本体を予め決められた移動軌跡に沿って移動させる自動方式と、手動によりシート本体に対して力を加え、そのシート本体を移動軌跡に沿って移動させる手動方式とに切替え可能に構成されており、シート移動装置を手動方式に切替えた場合には、シート本体が移動軌跡に沿って移動する際に回転するシート移動装置の回転部452が一方向回転許容機構459に連結されて、車室内方向へのシート本体の移動が許容され、シート本体の逆方向の移動が禁止される構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート本体を車室内の所定位置と車室外の乗降位置間で移動させるシート移動装置を備える車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
これに関連する車両用シートが特許文献1に記載されている。
この車両用シート100は、図10に示すように、助手席として使用されるシート本体102と、シート本体102を車室内の所定位置Iから乗降口104側に約90°左回動させ、その乗降口104から車室外の乗降位置IIまで移動させられるように構成されたシート移動装置(図示省略)とを備えている。
さらに、シート本体102には、着座者の有無を検出する着座センサ(図示省略)が設けられている。そして、着座センサにより着座者が検出されない場合、即ち、シート本体102に人が着座していない場合(空の場合)には、前記シート移動装置は人が着座している場合よりもシート本体102の移動速度を高速にできるように構成されている。このため、例えば、車室外の乗降位置IIで着座者を降ろした後、空のシート本体102を車室内の所定位置Iまで移動させる時間を短縮できるようになり、車両用シート100の使い勝手が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−161010号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した車両用シート100のシート移動装置では、シート本体102が空の場合、人が着座している場合よりもシート本体102の移動速度を高速にして速やかに車室内に格納できるように構成されている。しかし、例えば、駆動源であるモータの回転速度を低速から高速に切替えることでシート本体102の移動速度を高速にする構成では、シート本体102の移動速度を希望する速度まで上昇させるのは難しい。
さらに、前記モータの回転速度を高速に切替えることでバッテリの消費電力も大きくなる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、シート本体が空の場合にシート本体を速やかに車室内方向に移動できるようにするとともに、消費電力の低減を図れるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、シート本体を車室内の所定位置と車室外の乗降位置間で移動させるシート移動装置を備える車両用シートであって、前記シート移動装置は、駆動源の回転力を利用して前記シート本体を予め決められた移動軌跡に沿って移動させる自動方式と、手動により前記シート本体に対して力を加え、そのシート本体を前記移動軌跡に沿って移動させる手動方式とに切替え可能に構成されており、前記シート移動装置を前記手動方式に切替えた場合には、前記シート本体が前記移動軌跡に沿って移動する際に回転する前記シート移動装置の回転部が一方向回転許容機構に連結されて、前記車室内方向への前記シート本体の移動が許容され、前記シート本体の逆方向の移動が禁止される構成であることを特徴とする。
【0007】
本発明によると、シート移動装置を手動方式に切替えた場合には、シート本体が移動軌跡に沿って移動する際に回転する前記シート移動装置の回転部が一方向回転許容機構に連結されて、車室内方向へのシート本体の移動が許容される。
このため、例えば、着座者がシート本体から降りた後、シート移動装置を手動方式に切替え、そのシート本体を速やかに車室内方向に移動できるようになる。さらに、手動によりシート本体を車室内方向に移動できるため、バッテリの消費電力も抑制できる。
また、手動方式に切替えた場合には、シート移動装置の回転部が一方向回転許容機構に連結されるため、シート本体を車室内方向に移動する際に途中で力を抜いてもシート本体が乗降位置側に下降するような不具合が生じない。
【0008】
請求項2の発明によると、シート移動装置は、クラッチによりそのシート移動装置の回転部を前記駆動源、あるいは前記一方向回転許容機構に連結することで、自動方式、あるいは手動方式に切替えることを特徴とする。
このため、シート移動装置を簡単に自動方式、あるいは手動方式に切替えることができる。
【0009】
請求項3の発明によると、シート移動装置は、複数のホイールに掛けられた無限軌道を備えており、前記ホイールが前記回転部として前記駆動源、あるいは前記一方向回転許容機構に連結される構成であることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明によると、シート移動装置は、定位置で軸心回りに回転可能に構成されたネジ軸と、前記ネジ軸に螺合されて、前記ネジ軸の回転によりそのネジ軸に沿って移動可能に構成されたナットとを備えており、前記ネジ軸と前記ナットとのリード角が手動で前記ナットを前記ネジ軸に沿って移動させられるように構成されて、前記ネジ軸が前記回転部として前記駆動源、あるいは前記一方向回転許容機構に連結される構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、シート本体が空の場合にシート本体を速やかに車室内方向に移動できるようになる。さらに、消費電力の低減を図れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態1に係る車両用シートを車両の斜め後方から見た模式斜視図である。
【図2】前記車両用シートをシートの後方から見た模式図である。
【図3】前記車両用シートの前後スライド機構、回転機構、及び回転ベース等を表す斜視図である。
【図4】前記車両用シートにおける昇降機構の横スライド機構の駆動部を表す模式側面図(A図)、及び駆動部がモータ側に接続された状態を表す平面図(B図)である。
【図5】前記車両用シートにおける昇降機構の横スライド機構の駆動部を表す模式側面図(A図)、及び駆動部がワンウエイクラッチ側に接続された状態を表す平面図(B図)である。
【図6】前記車両用シートの動作を表す模式側面図である。
【図7】前記車両用シートの動作を表す模式側面図である。
【図8】前記車両用シートの動作を表す模式側面図である。
【図9】前記車両用シートにおける昇降機構の横スライド機構の駆動部の変更例を表す模式側面図である。
【図10】従来の車両用シートの移動動作を表す模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態1]
以下、図1〜図9に基づいて、本発明の実施形態1に係る車両用シートの説明を行なう。本実施形態に係る車両用シートは、高齢者や身障者等が車両への乗降を行なう際に使用される車両用シートである。
ここで、図中の前後左右及び上下は、車両用シートを備える車両の前後左右及び上下に対応している。
【0014】
<車両用シートSの概要について>
車両用シートSは、図1等に示すように、車両Cの助手席として使用されるシートであり、シート本体10と、そのシート本体10を車室内の所定位置と車室外の乗降位置との間で移動させるシート移動装置200とから構成されている。
シート移動装置200は、図2等の模式図に示すように、車両フロアF上に設置された前後スライド機構20と、その前後スライド機構20の前後スライドベース21上に設置された回転機構30と、その回転機構30の回転ベース35上に設置された昇降機構50、及び外内スライド機構70とを備えており、前記外内スライド機構70上にシート本体10が設置されている。
【0015】
<前後スライド機構20について>
シート移動装置200の前後スライド機構20は、車室内でシート本体10を車両前後方向に移動させる機構である。前後スライド機構20は、図2、図3に示すように、車両フロアFの固定ベース23上で車両前後方向に延びるように設置された左右一対の固定側レール22と、それらの固定側レール22に前後スライド可能な状態で支持される前後スライドベース21と、前後スライド機構20の駆動部24(図2参照)とから構成されている。前記駆動部24は、固定ベース23上に設置された駆動モータ24aと、その駆動モータ24aにより回転させられるネジ軸24bと、前後スライドベース21の下面に固定されたナット部24cとを備えている。そして、駆動部24のネジ軸24bとナット部24cとの螺合作用により前後スライドベース21が前後スライドするように構成されている。
【0016】
<回転機構30について>
前後スライドベース21上には、図2、図3に示すように、回転機構30が設置されている。回転機構30は、シート本体10を車両前向きの着座位置と乗降口D側を向いた横向き位置との間で約110°水平回転させる機構である。
回転機構30は、図2等に示すように、前後スライドベース21上に固定された内輪31aと、内輪31aに対して回転可能に支持された外輪31bと、外輪31b上に固定された回転ベース35と、前記内輪31aに対して外輪31bを回転させる駆動部32(図2参照、図3では省略)とから構成されている。駆動部32は、前後スライドベース21の上面に設置された回転モータ32mと歯車伝達機構32aとを備えている。そして、回転モータ32mの回転出力が歯車伝達機構32aを介して外輪31bに伝達され、これにより回転ベース35が前後スライドベース21に対して水平に回転するようになる。
【0017】
<昇降機構50の概要について>
回転ベース35上には、昇降機構50が設置されている。昇降機構50は、図6〜図8に示すように、車室外でシート本体10を昇降させる機構であり、水平方向の移動源となる横スライド機構40(図4、図5、図8参照)と、横スライド機構40のスライド動作を受けて上下方向に回動する四節リンク機構51(図7、図8等参照)と、四節リンク機構51をガイドする昇降ガイド部材57(図3参照)と、四節リンク機構51により昇降させられる昇降ベース55(図7、図8等参照)とを有している。そして、昇降ベース55上に外内スライド機構70(後記する)を介してシート本体10が設置されている。
横スライド機構40は、図3に示すように、回転ベース35の左右両端縁に沿って平行に取付けられた一対のガイドレール41と、ガイドレール41に沿って摺動する摺動子42と、前記摺動子42に載置される横スライドベース44と、横スライドベース44をガイドレール41に沿ってスライドさせる駆動部450(図4、図5参照、図3では省略)とを備えている。
【0018】
<横スライド機構40の駆動部450について>
横スライド機構40の駆動部450は、図4、図5等に示すように、無限軌道状のチェーン451とスプロケット452,453とを利用して横スライドベース44をガイドレール41に沿ってスライドさせる機構である。前記駆動部450は、回転ベース35上で左右のガイドレール41のスライド方向先端側(前端側)に配置された左右一対の先端側スプロケット453と、前記左右のガイドレール41のスライド方向基端部側(後端側)に配置された左右一対の基端部側スプロケット452とを備えている。左右の先端側スプロケット453は、水平な第1回転中心軸453pにより同軸に連結されており、その第1回転中心軸453pの両端部が回転ベース35上の軸受453jにより回転自在に支持されている。また、左右の基端部側スプロケット452は、同じく水平な第2回転中心軸452pにより同軸に連結されており、その第2回転中心軸452pの両端部が回転ベース35上の軸受452jにより回転自在に支持されている。そして、第2回転中心軸452pの途中位置に駆動歯車455が基端部側スプロケット452と同軸に取付けられている。
先端側スプロケット453と基端部側スプロケット452とには、左右それぞれに無限軌道状のチェーン451が掛けられている。そして、左側のチェーン451と右側のチェーン451に横スライドベース44が上方から被せられて、その横スライドベース44が各々のチェーン451に連結治具(図示省略)によって連結されている。
【0019】
左右の基端部側スプロケット452をつなぐ第2回転中心軸452pの駆動歯車455は第1中間歯車456と噛合しており、その第1中間歯車456の一端側(左端側)が第1電磁クラッチ457aを介して第2中間歯車458sと連結可能に構成されている。そして、第2中間歯車458sが回転ベース35上に設置されたモータ458の出力軸のピニオンギヤ458wと噛合している。
また、第1中間歯車456の他端側(右端側)が第2電磁クラッチ457bを介して回転ベース35上に設置されたワンウエイクラッチ459と連結可能に構成されている。
第1電磁クラッチ457aと第2電磁クラッチ457bとは、一方がオンのときに他方がオフするように構成されている。
【0020】
即ち、第1電磁クラッチ457aがオンで、第2電磁クラッチ457bがオフの状態では、図4(B)に示すように、第1中間歯車456が第1電磁クラッチ457aを介して第2中間歯車458sと連結し、第1中間歯車456とワンウエイクラッチ459との連結が解除される。これにより、モータ458の回転力がピニオンギヤ458w、第2中間歯車458s、第1電磁クラッチ457a、第1中間歯車456、駆動歯車455、及び第2回転中心軸452pを介して左右の基端部側スプロケット452に伝達される。即ち、モータ458と左右の基端部側スプロケット452とが連結される。そして、モータ458が正転することで、図4(A)の矢印に示すように、基端部側スプロケット452が左回転し、これによりチェーン451が左回転方向に移動して先端側スプロケット453が左回転する。この結果、前記チェーン451の上側に連結された横スライドベース44が前進する。また、モータ458が逆転することで、基端部側スプロケット452が右回転し、これによりチェーン451が右回転方向に移動して先端側スプロケット453が右回転する。この結果、前記チェーン451の上側に連結された横スライドベース44が後退する。
【0021】
一方、第1電磁クラッチ457aがオフで、第2電磁クラッチ457bがオンの状態では、図5(B)に示すように、第1中間歯車456が第2電磁クラッチ457bを介してワンウエイクラッチ459との連結し、第2中間歯車458sとの連結が解除される。ここで、ワンウエイクラッチ459は、一方向にのみ回転力を伝達するクラッチ機構であるが、本実施形態では、図5(A)に示すように、基端部側スプロケット452の右回転を許容し、左回転を禁止するような使い方をされている(他の部材に回転力を伝達していない)。
即ち、手動で横スライドベース44を後進させる際、チェーン451との噛合作用で基端部側スプロケット452が右回転すると、その回転力が駆動歯車455、第1中間歯車456を介してワンウエイクラッチ459に伝達され、ワンウエイクラッチ459が左回転するようになる。逆に、横スライドベース44を手動で前進させようとすると、ワンウエイクラッチ459が回転ロックするため、第1中間歯車456、駆動歯車455、及び基端部側スプロケット452の回転がロックされて横スライドベース44の前進が禁止される。
このように、横スライド機構40の駆動部450のモータ458が本発明の駆動源に相当する。また、第1電磁クラッチ457aと第2電磁クラッチ457bの動作により、モータ458と左右の基端部側スプロケット452とが連結された状態が本発明の自動方式であり、ワンウエイクラッチ459と左右の基端部側スプロケット452とが連結された状態が本発明の手動方式である。また、ワンウエイクラッチ459が本発明の一方向回転許容機構に相当する。さらに、左右の基端部側スプロケット452が本発明の回転部に相当する。また、チェーン451が本発明の無限軌道に相当し、スプロケット452,453が本発明のホイールに相当する。
【0022】
<昇降機構50の四節リンク機構51等について>
横スライドベース44には、図7、図8等に示すように、左右一対の四節リンク機構51の基端部が上下回動可能な状態で連結されている。四節リンク機構51は、昇降ベース55を水平な状態で昇降させる機構であり、内側リンクアーム53と外側リンクアーム52とを備えている。そして、両リンクアーム52,53の基端部がそれぞれ横スライド機構40の横スライドベース44の側部に支軸(図示省略)を介して上下回動可能に支持されている。また、両リンクアーム52,53の先端側には、昇降ベース55の側壁部が支軸を介してそれぞれ上下回動可能な状態で連結されている。
また、回転ベース35には、図3に示すように、左右のガイドレール41の外側位置に四節リンク機構51の左右の外側リンクアーム52を下方から支持する昇降ガイド部材57が設けられている。昇降ガイド部材57は、四節リンク機構51が横スライドベース44と共に前進、あるいは後退する動作を、その四節リンク機構51の下方への回動動作、あるいは上方への回動動作に変換できるように構成されている。なお、図6〜図8では、昇降ガイド部材57は省略されている。
【0023】
<外内スライド機構70について>
昇降機構50の昇降ベース55上には、図7、図8等に示すように、その昇降ベース55に対してシート本体10を前進、あるいは後退させる外内スライド機構70が設けられている。外内スライド機構70は、図2に示すように、シート本体10を支持するシート用ベース75と、そのシート用ベース75の下面側に固定された左右一対のガイドレール74aと、昇降ベース55上で前記ガイドレール74aを摺動可能に支持する摺動子74bと、外内スライド機構70の駆動源である駆動部76とを備えている。
駆動部76は、シート用ベース75の下面でガイドレール74aと平行に設けられたラック73と、昇降ベース55上でラック73と噛合するように設けられたピニオン72と、そのピニオン72を回転させる駆動モータ71とを備えている。
【0024】
<シート本体10について>
シート本体10は、図1、図2に示すように、シートクッション11とシートバック12とを備えており、そのシートクッション11のフレームが外内スライド機構70のシート用ベース75と連結されている。
シート本体10には、そのシート本体10の降車動作を行なうための降車スイッチ(図示省略)と、前記シート本体10の乗車動作を行なうための乗車スイッチ(図示省略)とが設けられている。さらに、シート本体10には、横スライド機構40の駆動部450の第1、第2電磁クラッチ457a,457bを切替えるための切替えスイッチ(図示省略)が設けられている。
ここで、乗車スイッチ、降車スイッチ、及び切替えスイッチの電気信号は、車両の制御装置(ECU)に入力される。ECUは乗車スイッチ、降車スイッチの電気信号に基づいて車両用シートSを構成する前後スライド機構20、回転機構30、昇降機構50、外内スライド機構70を動作させる。また、ECUは前記切替えスイッチの電気信号に基づいて横スライド機構40における駆動部450の第1、第2電磁クラッチ457a,457bの切替えを行なう。
【0025】
<車両用シートSの動作について>
先ず、人がシート本体10に着座している場合の車両用シートSの動作について説明する。
人がシート本体10に着座している場合には、切替えスイッチの操作により横スライド機構40の駆動部450の第1電磁クラッチ457aがオンで、第2電磁クラッチ457bがオフとなる(図4(B)参照)。これにより、横スライド機構40における駆動部450のモータ458の回転力が左右の基端部側スプロケット452に伝達されるようになる。
この状態からシート本体10を車室外の乗降位置まで移動させるには、車両Cの乗降口Dを開放した後、降車スイッチを操作する。
これにより、前記ECUから回転信号が出力され、回転機構30がシート本体10を左回転させる方向に動作する。そして、シート本体10が一定角度左回転した状態で、前記ECUから前方スライド信号が出力される。これにより、回転機構30の動作が継続している状態で、前後スライド機構20が前後スライドベース21を前方にスライドさせる方向に動作する。即ち、シート本体10は、所定位置から前方に移動しつつ、左回転するようになる(回転スライド)。
【0026】
シート本体10の回転スライドが開始されると、前記ECUから昇降機構50の横スライド機構40に対して前進信号(下降信号)が一定時間出力され、横スライドベース44が一定量前進することでシート本体10のスライドロックが解除される。
このようにして、図6に示すように、シート本体10が約90°回転して乗降口D側を向くと、回転スライド中に前記ECUから外内スライド機構70に対して外スライド信号が出力される。これにより、外内スライド機構70が動作して、図7に示すように、シート本体10が昇降機構50の昇降ベース55に対して前進するようになる。即ち、シート本体10が乗降口Dから車室外に振出されるようになる(外スライド)。そして、外スライドが開始された後、回転機構30と前後スライド機構20が停止して回転スライドが完了する。この状態で、シート本体10は車両前向き位置から約110°回転するようになる。
【0027】
次に、外スライド中に、ECUから昇降機構50の横スライド機構40に対して前進信号(下降信号)が出力される。これにより、図4(A)(B)に示すように、モータ458が正転することで基端部側スプロケット452が左回転し、これによりチェーン451が左回転方向に移動して、先端側スプロケット453が左回転する。この結果、前記チェーン451の上側に連結された横スライドベース44が前進して、四節リンク機構51を前方に押圧する。これにより、図8に示すように、四節リンク機構51が昇降ガイド部材57の働きで下方に回動し、シート本体10が昇降ベース55と共に前進しつつ水平に下降するようになる。そして、シート本体10が乗降位置に到達した段階で昇降機構50が停止し車両用シートSの一連の動作が終了する。
なお、乗降位置から人が着座したシート本体10を車室内まで移動させる場合には、乗車スイッチを操作することで、上記した場合と逆の動作で車両用シートSが動作するようになる。
【0028】
次に、人が着座していないシート本体10(空のシート本体10)を乗降位置から車室内まで移動させる場合について説明する。
人がシート本体10に着座していない場合には、切替えスイッチを操作して横スライド機構40の駆動部450の第2電磁クラッチ457bをオン、第1電磁クラッチ457aをオフにする(図5(B)参照)。これにより、駆動部450の基端部側スプロケット452とモータ458との連結が解除され、基端部側スプロケット452はワンウエイクラッチ459に連結される。このため、シート本体10を持ち上げながら四節リンク機構51を介して横スライドベース44を後方に押し込むことで、図5(A)に示すように、チェーン451が右回転方向に移動し、先端側スプロケット453と基端部側スプロケット452とが右回転するようになる。さらに、基端部側スプロケット452の右回転力がワンウエイクラッチ459に伝達されて、そのワンウエイクラッチ459が左回転するようになる。これにより、シート本体10を速やかに上昇させることができる。
なお、途中でシート本体10の持ち上げ力を緩めても、ワンウエイクラッチ459の逆方向の回転がロックされるため、基端部側スプロケット452の左方向の回転は禁止される。即ち、横スライドベース44、四節リンク機構51が前進することがなく、シート本体10の乗降位置方向への移動(下降)が禁止されて安全が確保される。
このようにして、シート本体10を上昇させた後、乗車スイッチを操作することで、外内スライド機構70が動作してシート本体10が車室内まで後退(内スライド)し、回転機構30と前後スライド機構20が動作して、シート本体10は所定位置まで戻されるようになる。
【0029】
<本実施形態に係る車両用シートSの長所について>
本発明によると、横スライド機構40の駆動部450(シート移動装置)を手動方式に切替えた場合には、シート本体10が移動軌跡に沿って移動する際に回転する駆動部450の基端部側スプロケット452(シート移動装置の回転部)がワンウエイクラッチ459に連結されて、車室内方向へのシート本体10の移動が許容される。
このため、例えば、着座者がシート本体10から降りた後、横スライド機構40の駆動部450(シート移動装置)を手動方式に切替え、そのシート本体10を速やかに車室内方向に移動することが可能になる。さらに、手動により前記シート本体10を車室内方向に移動できるため、バッテリの消費電力も抑制できる。
また、手動方式に切替えた場合には、横スライド機構40の駆動部450の基端部側スプロケット452(シート移動装置の回転部)がワンウエイクラッチ459(一方向回転許容機構)に連結されるため、シート本体10を車室内方向に移動する際に途中で力を抜いてもシート本体10が乗降位置方向に移動(下降)するような不具合が生じない。
また、横スライド機構40の駆動部450(シート移動装置)は、第1、第2電磁クラッチ457a,457bによりその駆動部450の基端部側スプロケット452(回転部)をモータ458、あるいはワンウエイクラッチ459に連結することで、自動方式、あるいは手動方式に切替える。
このため、横スライド機構40の駆動部450(シート移動装置)を簡単に自動方式、あるいは手動方式に切替えることができる。
【0030】
<変更例>
ここで、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、横スライド機構40の駆動部450をチェーン451と先端側スプロケット453、及び基端部側スプロケット452等から構成する例を示した。しかし、チェーン451とスプロケット452,453の代わりにベルトとプーリとを使用することも可能である。また、図9に示すように、横スライド機構40の駆動部450を軸心回りに回転可能に構成されたネジ軸462と、ネジ軸462に螺合されて、そのネジ軸462の回転によりそのネジ軸462に沿って移動可能に構成されたナット部464とから構成することも可能である。この場合、ネジ軸462とナット部464とのリード角が手動でナット部464をネジ軸462に沿って移動させられるように設定する必要がある。そして、ネジ軸462の一端側を第1電磁クラッチ457aによりモータ458と連結可能に構成し、そのネジ軸462の他端側を第2電磁クラッチ457bによりワンウエイクラッチ459と連結可能に構成することで、横スライド機構40の駆動部450を自動方式と手動方式とに切替えることができる。
また、本実施形態では、車両用シートSの昇降機構50における横スライド機構40の駆動部450を自動方式と手動方式とに切替える例を示した。しかし、車両用シートSの外内スライド機構70をモータ駆動による自動方式とワンウエイクラッチを使用した手動方式とに切替えることも可能である。
また、一方向回転許容機構としてワンウエイクラッチを例示したが、前記ワンウエイクラッチの代わりに一方向のみの回転を許容するギヤと爪によるラチェット機構等を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
10・・・・シート本体
40・・・・横スライド機構
44・・・・横スライドベース
50・・・・昇降機構
200・・・シート移動装置
450・・・駆動部
451・・・チェーン(無限軌道)
452・・・基端部側スプロケット(シート移動装置の回転部 ホイール)
453・・・先端側スプロケット(ホイール)
457a・・第1電磁クラッチ
457b・・第2電磁クラッチ
458・・・モータ(駆動源)
459・・・ワンウエイクラッチ(一方向回転許容機構)
462・・・ネジ軸(シート移動装置の回転部)
464・・・ナット部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート本体を車室内の所定位置と車室外の乗降位置間で移動させるシート移動装置を備える車両用シートであって、
前記シート移動装置は、駆動源の回転力を利用して前記シート本体を予め決められた移動軌跡に沿って移動させる自動方式と、手動により前記シート本体に対して力を加え、そのシート本体を前記移動軌跡に沿って移動させる手動方式とに切替え可能に構成されており、
前記シート移動装置を前記手動方式に切替えた場合には、前記シート本体が前記移動軌跡に沿って移動する際に回転する前記シート移動装置の回転部が一方向回転許容機構に連結されて、前記車室内方向への前記シート本体の移動が許容され、前記シート本体の逆方向の移動が禁止される構成であることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用シートであって、
前記シート移動装置は、クラッチによりそのシート移動装置の回転部を前記駆動源、あるいは前記一方向回転許容機構に連結することで、自動方式、あるいは手動方式に切替えることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項2に記載された車両用シートであって、
前記シート移動装置は、複数のホイールに掛けられた無限軌道を備えており、前記ホイールが前記回転部として前記駆動源、あるいは前記一方向回転許容機構に連結される構成であることを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
請求項2に記載された車両用シートであって、
前記シート移動装置は、定位置で軸心回りに回転可能に構成されたネジ軸と、前記ネジ軸に螺合されて、前記ネジ軸の回転によりそのネジ軸に沿って移動可能に構成されたナットとを備えており、
前記ネジ軸と前記ナットとのリード角が手動で前記ナットを前記ネジ軸に沿って移動させられるように構成されて、前記ネジ軸が前記回転部として前記駆動源、あるいは前記一方向回転許容機構に連結される構成であることを特徴とする車両用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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