説明

車両用スピーカーシステム

【課題】 小型のスピーカーユニットを使用して容易に良質な音を再生できる車両用スピーカーシステムを提供する。
【解決手段】 車両用スピーカーシステムは、小型のエンクロージャー2にスピーカー3を取り付けたスピーカーユニット10を車両の内部に虚音源を考慮して複数設置するとともに、スピーカーユニット10の最低共振周波数を低く設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、乗用自動車等の車両の内部に設置される車両用スピーカーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に乗用自動車等の車両の内部に設置される車両用スピーカーは、乗降用ドアに取り付けられている。
【0003】
また、良質な音を再生するためには、音響空間の形状や構造等の影響を受け易く、特に、車両は、車内空間が狭く、スピーカーの設置自由度も少なく、良好な音響空間とは言えない。また、車両において、本来意図する音を正確に再生するには、スピーカーから発生する振動を効果的に防振する工夫が必要である。
【0004】
また、通常、乗用自動車に取り付けられているスピーカーはフルレンジスピーカーが用いられ、フルレンジスピーカーのみでは、低音域を充分な音圧で再生できない。
【0005】
一般に低音域を充分な音圧で再生するためには振動板の直径は大きく、振動板の質量は重いことが必要とされている。また、高音域の再生には、音圧の点では大口径である必要はなく、むしろ指向性の点で小口径であることが必要である。
【0006】
従来の車内用スピーカーシステムとして、フルレンジスピーカーとは別体で低音域を再生するためのスピーカーを備えた車内用スピーカーシステムは存在する。
【0007】
【特許文献1】特開平9−175282号公報
【特許文献2】特開平9−328043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スピーカーを車両の乗降用ドアに取り付けた場合には、乗降用ドアの取り付けパネルが内圧または振動系の反作用により磁気回路が振動し、フレームを通って取付けパネルを振動させるとともに音を輻射させ、その歪んだ音や、時間的に遅れた音が出て過度なエコー感を出すなどの不具合がある。この不具合を解消するには、防振材をパネルの内部に貼り付けるなどする必要があり、スピーカーの設置にかかる手間、コストがかかるなどの問題がある。
【0009】
また、フルレンジスピーカーとは別体に低音域を再生するためのウーファーを備えることにより良質な音を再現できるが、コストがかかるとともに、車両によっては、スピーカーの設置場所の確保が難しいなどの問題がある。
【0010】
本願は上記各問題点の解決を課題の一例として為されたもので、容易に良質な音を再生できる車内用スピーカーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の車内用スピーカーシステムは、小型のエンクロージャー(2)にスピーカー(3)を取り付けたスピーカーユニット(10)を車両の内部に虚音源を考慮して複数設置するとともに、前記スピーカーユニットの最低共振周波数を低く設定したことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本願の最良の実施形態について、図1〜図3を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、一実施例として、車両の内部の運転席や助手席とドアパネルとの間、または後部座席下の車体側壁近傍に複数のスピーカーユニットを配置した場合の実施形態であるが、スピーカーユニットの設置場所は特にこの配置例に限定されるものではない。また、車両は車に限定されるものではなく、種々の乗り物等の移動体に適用できる。
【0013】
図1はスピーカーユニットを示し、図1(a)は第1実施例、図1(b)は第2実施例である。
【0014】
図1に示すように、スピーカーユニット10は、エンクロージャー2とエンクロージャー2に取り付けられたスピーカー5と、を備える。
【0015】
エンクロージャー2は、底体2aと、底体2aの外周から上方に垂設された4枚の側体2b、2b、2b、2bと、側体2bの上部を塞ぐ天体2cと、を備え、箱状に形成される。なお、エンクロージャー2は、内部の空気が外部に漏れないように密閉されている。
【0016】
また、前方の側体2bには、開口3を有する。スピーカー5はこの開口3に密着して取り付けられる。
【0017】
また、図示しないが、エンクロージャー2には、音声信号を入力するための入出力端子が設けられ、当該入力端子は、エンクロージャー2の内部でスピーカー5の入力端子と電気的に接続されている。
【0018】
また、エンクロージャー2の底体2aの左右には、車両の床面にしっかりと固定するための支持体7、7を備える。この支持体7は、ねじ等の固定具で車両に取り付けるための貫通孔7aを有している。そして、エンクロージャー2は固定具によって車両の床面にしっかりと固定される。
【0019】
また、図1(b)に示すように、スピーカーユニット10Aのエンクロージャー8は、左右の側体がエンクロージャー8の後方に向かって徐々に狭まるような形状であってもよい。また、エンクロージャー8には、その形状に合わせてスピーカー3aが取り付けられている。さらに、エンクロージャー8の底体8aの左右に設けられている支持体9、9、またはエンクロージャー8自体には、紐状体11が取り付けられていてもよい。この紐状体11の先端は車体の一部に取り付けられる。紐状体11はエンクロージャー8を吊り下げられる程度の強度をもっていればどのような材料を使用してもよく、例えば、一般に使用される紐やワイヤから適宜選択され用いられる。
【0020】
また、エンクロージャー2、8は、図1に示すように密閉式に限られるものではなく、例えば、多少の空気漏れも含む密閉式、ポートに吸音材が組み込まれたダンプドバスレフ方式、バンドパス式から適宜選択されてもよい。
【0021】
さらに、スピーカー3、3aは、例えば、一般的に使用されるコーン型、ドーム型、ホーン型から適宜選択され、小径、小質量の小型のものが用いられる。
【0022】
また、スピーカー3、3aには、CD(compact disc)やDVD(digital versatile disc)等の記録媒体を再生するヘッドユニット(図示なし)から所定の周波数以下の再生信号が入力される。例えば、所定の周波数よりも高い周波数をカットする機能を有するローパスフィルタをヘッドユニットとスピーカー3、3aとの間に備えるようにしてもよい。これにより、スピーカー3、3aは所定の周波数以下で再生信号を再生できる。
【0023】
また、エンクロージャー2、8は、形状や内容積をスピーカー3、3aが取り付けられた状態の音声再生時において最低共振周波数が所定の周波数以下に(低く)なるように設計されて形成されている。また、スピーカー3、3a込みのエンクロージャー2、8(スピーカーユニット10)の最低共振周波数は、200Hz以下であることが好ましい。このように、スピーカーユニット10、10Aを機械的に所定周波数以下を再生できるようにしてもよい。また、最低共振周波数が低いスピーカーユニット10、10Aを用いているので中低音においても十分な音圧を得ることができる。
【0024】
また、スピーカーユニット10、10Aを、5.1chサラウンドシステムの音場を再生するためのサブウーファーとして使用する場合には、前記スピーカー3、3aには、5.1chサラウンドシステムにおけるサブウーファーの信号が入力される。
【0025】
次に、車両へのスピーカーユニットの設置位置について説明する。
【0026】
本願の車両用スピーカーシステムは、小型のエンクロージャー2、8にスピーカー3、3aを取り付けたスピーカーユニット10、10Aを車両の内部に虚音源を考慮して複数設置するとともに、前記スピーカーユニット10、10Aの最低共振周波数を低く設定している。このスピーカーの設置位置、及び虚音源について図2を用いて説明する。図2はスピーカーの設置場所と鏡像の生じ方および最大音圧上昇度の関係を示す。
【0027】
スピーカーユニットの設置位置について、鏡像の原理を用いて検討すると、例えば、図2の(2)のように室内空間の壁面から離れた位置であって、床面上にスピーカーを設けた場合には、実音源と床面を介して反対方向に虚音源が存在し、見掛上の音源が2つ存在する。この二つの同じ音源が近接している場合は、その音源間の距離が波長にくらべて十分に低い周波数では、相互作用によって放射インピーダンスは2倍になり、スピーカーの能率も2倍高くなる。したがって、能率が2倍高くなった音源が自由音場に2つあることになるので、例えば、自由音場に設置されたスピーカーの音響出力を1Wとすると、その音響出力は4Wとなる。したがって、半空間に反射される音響出力は2Wとなる。また、図示のように、音圧レベルは6dBだけ無響室よりも高くなる。
【0028】
また、図2の(3)に示すように、床面と壁面の近くにスピーカーを設置した場合には、音圧レベルは12dBだけ無響室よりも高くなる。また、図2の(4)に示すように、室内のコーナにスピーカーを設置した場合には、音圧レベルは18dBだけ無響室よりも高くなる。
【0029】
また、周波数が高くなって音源間の距離が無視できなくなると、放射インピーダンスは下がり、音圧レベルも低くなる。そして、音源間の距離が半波長になる周波数ではディップとなり、それ以上の高い周波数では、ピークとディップが交互に現れるようになる。実際には、このような高い周波数では、スピーカーは指向性をもち、固有振動の密度も高くなるので顕著なピーク、及びディップは生じないで、無響室の特性に近くなる。
【0030】
これらのことから、口径の小さなスピーカーであっても、床に近いところや、床とドアのコーナ付近に当該スピーカーを設置することで、虚音源が出来て音圧を上昇させることがわかる。
【0031】
また、一般に密閉された空気室内での音圧は、密閉型スピーカーシステムの共振周波数以下のスチフネス制御地域では音圧特性が平坦になることが知られている。
【0032】
これらにより、小型のエンクロージャーに、小型のスピーカーが取り付けられたスピーカーユニットを複数個設けて、振動面積を確保することで、使用上十分な低音の音圧を得ることができる。また、車両の内部の空間は狭いので大きいエンクロージャーを設置することができない。そのためエンクロージャーを小型にして複数設置することにより所定の音圧を得ることができる。また、エンクロージャーを小型にすることで、車内の床や、座席の下、床面とドアや後部座席とのコーナに設置し易くなる。
【0033】
図3はスピーカーユニットの設置例を示し、図3(a)は第1実施例、図3(b)は第2実施例である。スピーカーユニット10、10Aは、図3(a)、(b)に示すように、乗降用ドア15付近と床面16とのコーナや椅子17の下、または椅子17と床面16と乗降用ドア18付近のコーナに取り付けることが好ましい。
【0034】
また、スピーカーの取り付け位置が高いと邪魔になるととともに、虚音源の効果が薄れるため、なるべく床面に近い方が良い。また、スピーカーの取り付け位置が床面に近いほどバッフル効果を得ることができる。この虚音源の効果、及びバッフル効果は、床面から約20cm以下の位置であれば、効果的に得ることができる。また、コーナ付近であれば虚音源の効果、及びバッフル効果はさらに上がる。また、車両等のように小容量の室内での音圧は、上記で示したように、自由空間と比較して、低域の音圧を高く得ることができる。よって、スピーカーユニットをコーナ付近であって、スピーカーの取り付け位置が床面から約20cm以下にあれば、中低域以下の高い音圧レベルを得ることができる。
【0035】
さらに、小型のエンクロージャーはエンクロージャー自身からの音の輻射が少ないので、質の良い低音、中低音を得ることができる。また、スピーカーユニットが車両とは別体で内部に設けられるので、車両の外部への音漏れを少なくできる。
【0036】
以上説明したように、上記実施形態によれば、本願に係る車内用スピーカーシステムは、小型のエンクロージャー2にスピーカー3を取り付けたスピーカーユニット10を車両の内部に虚音源を考慮して複数設置するとともに、前記スピーカーユニット10の最低共振周波数を低く設定している。具体的には、スピーカーユニット10は、最低共振周波数を200Hz以下に設定して車両の内部の床面から20cm以下の高さに設置し、エンクロージャー2の内容積が1000cc以下である。
【0037】
このようにすれば、虚音源の効果、及びバッフル効果を効果的に得ることができるとともに、鏡像の原理から、スピーカーユニット10が小型であっても、高い音圧レベルを得ることができる。また、小型のエンクロージャーを用いることにより虚音源の効果を得られやすい位置にスピーカーユニットを設置することができる。
【0038】
また、前記スピーカー3の全てに所定周波数以下の信号を入力してもよい。また、前記スピーカーユニット10は機械的に所定周波数以下を再生するようにしてもよい。
【0039】
また、エンクロージャー2は、密閉式、多少の空気漏れも含む密閉式、ポートに吸音材が組み込まれたダンプドバスレフ方式、バンドパス式のいずれか1つから適宜選択すればよい。
【0040】
また、車内用スピーカーシステムの全てのスピーカーには、聴取者に対する各スピーカーからの音の到達時間が合致するように調整した信号が入力されるようにするとよい。また、聴取者に対する各スピーカーからの音の到達時間を電気的に調整するための到達時間調整手段を備えていてもよい。
【0041】
これにより、聴取者に対して複数のスピーカーから出力される音の到達時間が合った音を再生できる。
【0042】
また、車内用スピーカーシステムの全てのスピーカーには、5.1chサラウンドシステムにおけるサブウーファーの信号が入力されるようにしてもよい。このようにすれば、スピーカーユニットを5.1chサラウンドシステムのサブウーファーとして使用できる。
【0043】
また、エンクロージャー2、8は、車体に固定するための孔7a、9aが設けられていてもよい。また、エンクロージャー8は、車体に固定するための紐状体11が取り付けられていてもよい。このようにすれば、固定具によりエンクロージャー2、8をしっかりと車両に固定できる。
【0044】
なお、本実施形態は一形態であって、この形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】スピーカーユニットの構造を示し、図1(a)は第1実施例、図1(b)は第2実施例である。
【図2】鏡像の原理を説明するための説明図である。
【図3】スピーカーユニットの設置例を示し、図3(a)は第1実施例、図3(b)は第2実施例である。
【符号の説明】
【0046】
2 エンクロージャー
3 スピーカー
10 スピーカーユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型のエンクロージャーにスピーカーを取り付けたスピーカーユニットを車両の内部に虚音源を考慮して複数設置するとともに、前記スピーカーユニットの最低共振周波数を低く設定したことを特徴とする車両用スピーカーシステム。
【請求項2】
前記スピーカーユニットは、最低共振周波数を200Hz以下に設定して前記車両の内部の床面から20cm以下の高さに設置し、
前記エンクロージャーの内容積が1000cc以下であることを特徴とする請求項1に記載の車両用スピーカーシステム。
【請求項3】
前記スピーカーの全てに所定周波数以下の信号を入力することを特徴とする請求項1、又は2に記載の車内用スピーカーシステム。
【請求項4】
前記スピーカーユニットは機械的に所定周波数以下を再生することを特徴とする請求項1、又は2に記載の車内用スピーカーシステム。
【請求項5】
前記エンクロージャーは、
密閉式、多少の空気漏れも含む密閉式、ポートに吸音材が組み込まれたダンプドバスレフ方式、バンドパス式のいずれか1つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車内用スピーカーシステム。
【請求項6】
前記全てのスピーカーには、聴取者に対する各スピーカーからの音の到達時間が合致するように調整した信号が入力されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の車内用スピーカーシステム。
【請求項7】
前記聴取者に対する各スピーカーからの到達時間を電気的に調整するための到達時間調整手段を備えていることを特徴とする請求項1〜5に記載の車内用スピーカーシステム。
【請求項8】
前記全てのスピーカーには、5.1chサラウンドシステムにおけるサブウーファーの信号が入力されることを特徴とする請求項1〜7に記載の車内用スピーカーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−5718(P2006−5718A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180938(P2004−180938)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【Fターム(参考)】