説明

車両用パワートレーンの制御装置

【課題】駆動源1で発生する回転駆動力をクラッチ装置3を介して手動変速機2に伝達または遮断するとともに、運転者の変速操作に応答して手動変速機2を要求の変速段にするように構成された車両用パワートレーンの制御装置100において、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したときにそのことを検知可能とする。
【解決手段】制御装置100は、車両の減速度が所定の閾値以上でかつ車両の駆動輪6,6と従動輪との回転差が所定の閾値以上になった場合に、前記パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したものとして検知する監視部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源で発生する回転駆動力をクラッチ装置を介して手動変速機に伝達または遮断するとともに、運転者の変速操作に応答して前記手動変速機を要求の変速段にするように構成された車両用パワートレーンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているような車両用の手動変速機では、運転者がシフトレバーを操作することによって所望の変速段を選択するようになっている。
【0003】
例えば車室内のフロアにシフトレバーが配設されたフロアシフト式の手動変速機では、セレクト操作方向(車幅方向または左右方向)及びシフト操作方向(車体前後方向または前後方向)に沿う溝を有するシフトゲート内にシフトレバーが移動操作可能に配設されている。
【0004】
シフトチェンジは、クラッチ装置を解放操作(クラッチペダルの踏み込み操作)した状態で、シフトレバーをシフトゲート内でセレクト操作してからシフト操作することにより適宜の変速段を成立させ、その後、クラッチ装置を継合操作(クラッチペダルの踏み込み解除操作)する。これにより、クラッチ装置でエンジンと手動変速機とが動力伝達可能に連結されるので、前記成立させた変速段の変速比で変速された回転駆動力が駆動輪に出力される。
【0005】
特に、前記手動変速機は、運転者が意図する任意のシフトチェンジが可能であることから、変速段の選択が運転者の意思に依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−053895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来例では、運転者がシフトチェンジする際に、操作を誤って運転者の意図しない下位の変速段を選択してしまうことがある(この誤操作は一般にミスシフトと呼ばれる)。例えば2速から3速にシフトアップさせようとした場合に誤って1速へシフトダウンするような例が挙げられる。そのような場合には、エンジン回転数が急上昇して許容回転数を超える可能性が高くなるとともに、過大なエンジンブレーキによってパワートレーン(エンジン、クラッチ装置、手動変速機、デファレンシャルなど)に急激に過大な減速トルクが入力される可能性が高くなる。
【0008】
ところで、例えば特開2007−230271号公報には、前記のようなミスシフトに伴うパワートレーンの過回転を防止するために、過回転が発生しうるギヤポジションへのシフトチェンジをゲートストッパーなどにより物理的に阻止することが記載されている。しかしながら、この場合には、シフトチェンジの自由度が制限されることになり、運転者に違和感を与えることになりかねない。
【0009】
このような事情に鑑み、本発明は、駆動源で発生する回転駆動力をクラッチ装置を介して手動変速機に伝達または遮断するとともに、運転者の変速操作に応答して前記手動変速機を要求の変速段にするように構成された車両用パワートレーンの制御装置において、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したときにそのことを検知可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、駆動源で発生する回転駆動力をクラッチ装置を介して手動変速機に伝達または遮断するとともに、運転者の変速操作に応答して前記手動変速機を要求の変速段にするように構成された車両用パワートレーンの制御装置であって、車両の減速度が所定の閾値以上でかつ車両の駆動輪と従動輪との回転差が所定の閾値以上になった場合に、前記パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したものとして検知する監視部を含む、ことを特徴としている。
【0011】
この構成では、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したときに、そのことを検知することが可能になる。
【0012】
ここで、仮に前記現象が発生したことを検知したときに、そのことを例えば運転者に報知するように対処すると、運転者に対して車両のパワートレーンに悪影響を及ぼす可能性が高くなるような現象が発生したことを認識させることが可能になるとともに、運転者にパワートレーンを早期にメインテナンス(点検や修理など)させるように促すことが可能になる。
【0013】
ところで、そもそも、前記のような現象が発生する原因としては、運転者による意図しないシフトチェンジあるいは不適切なシフトチェンジなどが挙げられる。前記のような現象が繰り返し発生すると、車両の減速度(減速G)が所定の閾値以上になるとともに、車両の駆動輪と従動輪との回転差が所定の閾値以上になるというような挙動が車両に起こる。参考までに、過大なエンジンブレーキにより駆動輪の回転速度が従動輪の回転速度よりも小さくなる。これにより、パワートレーンに悪影響を及ぼす可能性が高くなる。
【0014】
このようなことから、本発明では、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されたことを直接検出するのではなく、そのような現象が発生したときに前記車両に起こる特有の挙動を調べることにより、前記現象が発生したか否かを推定するようにしている。そして、前記現象の発生を検知するにあたって、車両の減速度と、車両の駆動輪と従動輪との回転差とを調べるようにしているから、前記現象の検知精度を高めることが可能になる。
【0015】
好ましくは、前記監視部は、車両の減速度が前記閾値以上か否かを判定する処理と、車両の駆動輪と従動輪との回転差が前記閾値以上か否かを判定する処理と、前記両処理により車両の減速度が所定の閾値以上でかつ車両の駆動輪と従動輪との回転差が所定の閾値以上になったと判定した場合に、前記現象が発生したものとして検知する処理とを行う、構成とすることができる。
【0016】
ここでは、監視部による処理内容を詳しく特定している。これにより、発明を実施する形態を具現化するうえで有利になる。
【0017】
好ましくは、前記監視部は、前記現象の発生を検知したときに、そのことを運転者に報知するための報知要素を作動させる処理を行う、構成とすることができる。
【0018】
この構成では、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したことを監視部が検知すると、報知要素を作動させる。このような報知処理により、運転者に対して車両のパワートレーンに悪影響を及ぼす可能性が高くなるような現象が発生したことを認識させることが可能になるとともに、運転者にパワートレーンを早期にメインテナンス(点検や修理など)させるように促すことが可能になる。なお、前記報知要素は、例えばランプ、ブザーあるいは文字や記号の表示器などとすることが考えられる。
【0019】
好ましくは、前記監視部は、前記現象の発生を検知したときに、そのことを履歴として記憶部に保存する処理を行う、構成とすることができる。
【0020】
この構成では、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したことを監視部が検知すると、そのことを記憶部に保存する処理を行う。この対処により、例えば車両整備者などが前記記憶部の履歴を調べることにより、パワートレーンに悪影響を及ぼす可能性が高くなるような現象が過去に発生していたか否か、言い換えると運転者が意図しないシフトチェンジあるいは不適切なシフトチェンジをしていたか否かを車両整備者が把握することが可能になるとともに、車両のパワートレーンに及ぼす悪影響の度合いを推定することが可能になる。その結果、仮に前記現象が繰り返し発生することに伴い車両のパワートレーンに悪影響を及ぼした場合に、車両整備者が前記履歴を調べることにより前記悪影響が発生した原因を究明することが可能になると言える。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、駆動源で発生する回転駆動力をクラッチ装置を介して手動変速機に伝達または遮断するとともに、運転者の変速操作に応答して前記手動変速機を要求の変速段にするように構成された車両用パワートレーンの制御装置において、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したときにそのことを検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の適用対象となる車両用パワートレーンの一実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】図1のクラッチ装置の概略構成を示す図である。
【図3】図1の手動変速機のシフトゲートのパターンを示す図である。
【図4】図1の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】図1の制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】車両のシフトゲートのパターンを示す図であり、2速(2nd)から3速(3rd)へのシフトアップ時に1速(1st)にシフトダウンするような意図しないシフトチェンジを例示している。
【図7】車両のシフトゲートのパターンを示す図であり、5速(5th)から4速(4th)へのシフトダウン時に2速(2nd)に飛び越えシフトダウンするような意図しないシフトチェンジを例示している。
【図8】車両のシフトゲートのパターンを示す図であり、6速(6th)から4速(4th)への飛びシフトダウン時に2速(2nd)に飛び越えシフトダウンするような意図しないシフトチェンジを例示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1から図8に、本発明の一実施形態を示している。この実施形態では、本発明の適用対象としてFR(フロントエンジン、リアドライブ)形式のパワートレーンを例に挙げている。図中、1は駆動源としてのエンジン(内燃機関)、2は手動変速機、3はクラッチ装置、100は制御装置としてのエレクトリックコントロールユニット(ECU)である。
【0025】
図1に示すパワートレーンでは、エンジン1で発生した回転駆動力を、クラッチ装置3を介して手動変速機2に入力し、この手動変速機2で適宜の変速比(運転者のシフトチェンジにより要求される変速段での変速比)に変速して、プロペラシャフト4及びデファレンシャル5を介して左右の後輪(駆動輪)6,6に伝達するようになっている。なお、左右の前輪7,7は前記回転駆動力が伝達されない従動輪となる。
【0026】
エンジン1は、ガソリンエンジンあるいはディーゼルエンジンなどとされる。但し、駆動源としては、エンジンと電動機(例えば走行用モータまたはモータジェネレータ等)とを組み合わせたものとすることが可能である。
【0027】
手動変速機2は、例えば公知の前進6速段、後進1速段の常時噛み合い式の変速機と同様の構成とされるので、その詳細な図示を割愛している。
【0028】
クラッチ装置3は、エンジン1のクランクシャフト13と手動変速機2のインプットシャフト21との間に設けられ、クランクシャフト13からインプットシャフト21へ駆動力を伝達または遮断するもので、図2に示すように、クラッチ機構部30、クラッチ作動部40などを備えている。
【0029】
クラッチ機構部30は、例えば乾式単板式の摩擦クラッチとされており、クラッチレリーズシリンダ31、フライホイール32、クラッチカバー33、クラッチディスク34、プレッシャープレート35、ダイヤフラムスプリング36、レリーズベアリング37、レリーズフォーク38などを備えている。なお、このクラッチ機構部30は乾式単板式の摩擦クラッチ以外の構成を採用することが可能である。
【0030】
具体的に、フライホイール32およびクラッチカバー33はクラッチ機構部30の入力軸となるクランクシャフト13に一体回転可能に取り付けられている。クラッチディスク34は、クラッチ機構部30の出力軸となる手動変速機2のインプットシャフト21に例えばスプライン結合されることによりインプットシャフト21と一体回転可能かつ軸方向(図2の左右方向)スライド可能に連結されている。プレッシャープレート35は、ダイヤフラムスプリング36が自然状態のときにフライホイール32側へ付勢されている。このダイアフラムスプリング36が自然状態のときには、その付勢力によってクラッチディスク34がプレッシャープレート35とフライホイール32との間に強く挟まれた状態(クラッチ継合状態)になっている。レリーズベアリング37は、インプットシャフト21に軸方向に沿ってスライド可能に装着されている。レリーズフォーク38は、その長手方向中間が支軸38aにより傾動可能に支持されており、先端部がレリーズベアリング37の軸方向一端面に当接させられており、基端部にはクラッチレリーズシリンダ31のピストンロッド31aの外端が連結されている。クラッチレリーズシリンダ31は、そのピストンロッド31aをシリンダボディ31bから出し入れすることによりレリーズフォーク38を支軸38aを支点として傾動させる。
【0031】
クラッチ作動部40は、クラッチペダル41、クラッチマスターシリンダ42などを備えている。
【0032】
クラッチペダル41は、運転者により踏み込み操作されるものであり、支軸43を支点として傾動される。クラッチマスターシリンダ42は、シリンダボディ44の内部にピストンロッド45を組み込んだ構成になっている。ピストンロッド45の外端は、クラッチペダル41の長手方向途中に連結されている。
【0033】
このクラッチ装置3の動作を説明する。まず、運転者がクラッチペダル41を所定位置を越えるまで踏み込むと、クラッチマスターシリンダ42のピストンロッド45がシリンダボディ44内に押し込まれて、シリンダボディ44内のオイルが配管46を経てクラッチレリーズシリンダ31のシリンダボディ31b内に送出されることになる。これにより、ピストンロッド31aがシリンダボディ31bから押し出されることになって、レリーズフォーク38が傾動されてレリーズベアリング37を手動変速機2のインプットシャフト21上でエンジン1側にスライドさせるので、ダイアフラムスプリング36が弾性変形されてプレッシャープレート35がフライホイール32から引き離されることになり、クラッチディスク34がフライホイール32およびプレッシャープレート35から引き離される状態(クラッチ解放状態)になる。
【0034】
この状態から運転者が踏み込んでいるクラッチペダル41を徐々に戻すことにより踏み込み操作量を徐々に小さくすると、前記と逆にクラッチレリーズシリンダ31のシリンダボディ31b内のオイルが配管46を経てクラッチマスターシリンダ42のシリンダボディ44内に徐々に戻されることになる。これにより、レリーズフォーク38が元の位置に徐々に戻されるように傾動されるとともに、レリーズベアリング37がダイアフラムスプリング36の弾性復元力によって手動変速機2側に徐々にスライドされることになる。このようにして、クラッチディスク34をフライホイール32とプレッシャープレート35とで挟む力が徐々に弱められることになるので、クラッチディスク34が滑る状態(クラッチ半継合状態)になる。
【0035】
そして、運転者がさらにクラッチペダル41を所定位置を超えたところに戻される(踏み込み操作量がゼロになる)と、ダイアフラムスプリング36の弾性復元力によってプレッシャープレート35がフライホイール32側に押されることになるので、クラッチディスク34をフライホイール32とプレッシャープレート35とで強く挟む状態(クラッチ継合状態)になる。
【0036】
このように、クラッチペダル41の踏み込み操作量に応じてクラッチ継合力(クラッチ伝達容量)が変更される。
【0037】
このクラッチペダル41の踏み込み操作に応答するクラッチ装置3の解放、継合状態は、クラッチスイッチ76から出力されるオン・オフ信号に基づいて制御装置100が認識するようになっている。このクラッチスイッチ76は、クラッチペダル41がクラッチ機構部30を完全解放させる位置まで踏み込まれたときにオン信号を制御装置100に入力し、踏み込まれているクラッチペダル41がクラッチ機構部30を完全継合させる位置まで戻されたときにオフ信号を制御装置100に入力する。
【0038】
次に、図3を参照して、手動変速機2の変速操作を手動で行うためのシフト装置8を説明する。
【0039】
シフト装置8は、公知の構成と同様であるので、ここでの説明は簡単にする。つまり、シフト装置8は、車室内に設置されており、シフトレバー81、シフトゲート82、図示していない動力伝達機構などを備えている。
【0040】
シフトレバー81は、シフトゲート82に案内されて変位しうるようになっている。シフトゲート82は、図3に示すように、H型と呼ばれるパターンとされており、1つのセレクト溝83と、複数(ここでは3つ)の前進変速段選択用のシフト溝(1−2シフト溝84、3−4シフト溝85、5−6シフト溝86)と、1つの後進変速段選択用のリバースシフト溝87とを備えている。
【0041】
1つのセレクト溝83は、図3の矢印Xで示す左右方向(車両幅方向、セレクト操作方向ともいう)に沿って一直線に延びるように設けられている。3つのシフト溝84,85,86は、セレクト溝83の長手方向所定間隔おきの3箇所をそれぞれ直交方向に横切るように図3の矢印Yで示す前後方向(車両前後方向、シフト操作方向ともいう)に沿って一直線に延びるように設けられている。1つのリバースシフト溝87は、セレクト溝83の長手方向一端から直交方向の一方(車両前方向)に沿って一直線に延びるように設けられている。
【0042】
前記動力伝達機構は、シフトレバー81の動きを手動変速機2に装備する変速段切り替え用の同期機構(図示省略)に伝達するものであって、公知の構成と同様とされるので、ここでの説明は簡単にする。
【0043】
この動力伝達機構は、例えばケーブルあるいはロッド、リンクなどを備える機構とすることが可能であるが、その他にも、シフトアクチュエータとすることが可能である。このシフトアクチュエータは、シフトレバー81の動きを検出するための検出要素(スイッチあるいはセンサなど)と、この検出要素からの出力信号の入力に基づいて制御要素(例えば前記制御装置100を流用)により動作が制御されて手動変速機2の前記同期機構を作動させるためのモータあるいは油圧シリンダとを備えるような構成が挙げられる。
【0044】
そして、運転者によるシフトチェンジは、シフトレバー81をシフトゲート82のセレクト溝83の一方向へ変位させるセレクト操作を行ってから、任意のシフト溝84〜87の一方向に変位させるシフト操作を行う形態とされる。このようなセレクト操作力やシフト操作力は前記動力伝達機構を介して手動変速機2の前記同期機構に伝達され、手動変速機2の適宜の変速段が選択されるようになる。
【0045】
具体的に、図3を参照して、シフトレバー81をセレクト溝83において1−2シフト溝84と交差する位置P1に配置すると、1−2シフト溝84の前端の1速(1st)位置と後端の2速(2nd)位置とにシフト操作することが可能になる。また、シフトレバー81をセレクト溝83において3−4シフト溝85と交差する位置P2に配置すると、3−4シフト溝85の前端の3速(3rd)位置と後端の4速(4th)位置とにシフト操作することが可能になる。さらに、シフトレバー81をセレクト溝83において5−6シフト溝86と交差する位置P3に配置すると、5−6シフト溝86の前端の5速(5th)位置と後端の6速(6th)位置とにシフト操作することが可能になる。さらにまた、シフトレバー81をセレクト溝83においてリバースシフト溝87と交差する位置P4に配置すると、リバースシフト溝87の前端のリバースギヤ(REV)位置にシフト操作することが可能になる。
【0046】
制御装置100は、図4に示すように、一般に公知のエレクトロニックコントロールユニット(ECU)とされており、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。
【0047】
ROM102には、エンジン1の制御プログラムを記憶している他、少なくとも車両のパワートレーンに急激に過大な減速トルクが作用するような現象が発生した場合にそのことを検知するとともに、運転者に報知するための制御プログラムが記憶されている。この制御プログラムの具体的な内容については後で説明する。
【0048】
CPU101は、ROM102に記憶された前記プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM103はCPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0049】
これらCPU101、ROM102、RAM103ならびにバックアップRAM104はバス106を介して互いに接続されているとともに、インターフェース105と接続されている。
【0050】
インターフェース105には、エンジン1の制御に必要なアクセル開度センサ61、スロットル開度センサ62、クランクシャフト13の回転数を検出するためのエンジン回転数センサ63が接続されている。さらに、このインターフェース105には、4つの車輪(前輪7,7および後輪6,6)の回転速度を個別に検出するための4つの車輪速センサ71〜74、車両前後の加速度を検出するための加速度センサ75、前記クラッチスイッチ76、警告ランプ77などが少なくとも接続されている。
【0051】
なお、車輪速センサ71〜74は、一般に、車両のアンチスキッドブレーキシステム(ABS)の制御に用いるために装備されている。また、加速度センサ75は、一般に、車両の図示していないエアバッグなどの作動制御に用いるために装備されている。さらに、警告ランプ77は、例えばLED等とされており、例えば運転席前方のメータパネル上などといった運転者の視認しやすい場所に設置される。この警告ランプ77の作動(点灯または点滅)あるいは作動停止(消灯)は制御装置100により制御される。この制御装置100が請求項に記載の監視部の機能を実現する。
【0052】
この実施形態では、車両走行中に車両のパワートレーン(エンジン1、手動変速機2、クラッチ装置3、デファレンシャル5などを含む)に急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したときに、そのことを検知可能にするとともに、運転者に報知可能にしている。
【0053】
前記現象が発生する原因としては、例えば運転者の意図しないシフトチェンジあるいは不適切なシフトチェンジが挙げられる。この意図しないシフトチェンジの代表例を、図6から図8を参照して説明する。
【0054】
図6には、シフトレバー81をシフトゲート82の1−2シフト溝84の2速(2nd)位置から隣の3−4シフト溝の3速(3rd)位置に移動させるシフトアップ時に、誤って1速(1st)位置(二点鎖線参照)にシフトレバー81を移動させる形態が示されている。これはつまり2速(2nd)での走行中に3速(3rd)にシフトアップする際に1速(1st)にシフトダウンする形態である。
【0055】
図7には、シフトレバー81をシフトゲート82の5−6シフト溝86の5速(5th)位置から隣の3−4シフト溝85の4速(4th)位置に移動させるシフトダウン時に、誤って1−2シフト溝84の2速(2nd)位置にシフトレバー81を移動させる形態が示されている。これはつまり5速(5th)での走行中に4速(4th)にシフトダウンする際に2速(2nd)に飛び越えてシフトダウンする形態である。
【0056】
図8には、シフトレバー81をシフトゲート82の5−6シフト溝86の6速(6th)位置から隣の3−4シフト溝85の4速(4th)位置に移動させるシフトダウン時に、誤って1−2シフト溝84の2速(2nd)位置にシフトレバー81を移動させる形態が示されている。これはつまり6速(6th)での走行中に4速(4th)にシフトダウンする際に2速(2nd)に飛び越えてシフトダウンする形態である。
【0057】
具体的に、図5のフローチャートを参照して制御装置100による制御例を詳細に説明する。このフローチャートの処理は、例えばエンジン1が始動されることに伴い実行開始され、所定周期(数msec)毎にエントリーされる。
【0058】
まず、ステップS1において、加速度センサ75からの出力信号の入力に基づいて車両の実際の減速度(減速G)が所定の閾値以上であるか否かを判定する。この閾値については、前記減速Gと当該減速Gにより車両のパワートレーンに与える減速トルクとの関係を予め求めておき、パワートレーンに悪影響が及ぶ減速トルクを適宜の実験またはシミュレーションなどによって取得し、その取得した減速トルク(パワートレーンに悪影響が及ぶ値)に基づいて適合すればよい。
【0059】
ここで、前記減速Gが閾値未満である場合には前記ステップS1で否定判定し、このフローチャートを抜ける。しかしながら、前記減速Gが閾値以上である場合には前記ステップS1で肯定判定し、続くステップS2に移行する。
【0060】
ステップS2では、4つの車輪速センサ71〜74からの出力信号の入力に基づいて2つの駆動輪となる後輪6,6と2つの従動輪となる前輪7,7との回転差が所定の閾値以上であるか否かを判定する。この閾値については、パワートレーンに悪影響が及ぶ前後輪の回転差を適宜の実験またはシミュレーションなどによって取得し、その取得した回転差(パワートレーンに悪影響が及ぶ値)に基づいて適合すればよい。
【0061】
ここで、前記回転差が閾値未満である場合には前記ステップS2で否定判定し、このフローチャートを抜ける。しかしながら、前記回転差が閾値以上である場合には前記ステップS2で肯定判定し、続くステップS3に移行する。
【0062】
このステップS3では、車両のパワートレーンに急激に過大な減速トルクが付与されるような現象が発生したとして検知するとともに、警告ランプ77を作動(点灯または点滅)させることにより前記現象が発生したことを運転者に報知する。その後、このフローチャートを抜ける。
【0063】
以上説明したように本発明を適用した実施形態では、運転者によるシフトチェンジの自由度を制限することなく、車両のパワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生すると、そのことを確実に検知するとともに、そのことを運転者に報知するようにしている。
【0064】
これにより、運転者に対して車両のパワートレーンに悪影響を及ぼす可能性が高くなるような現象が発生したことを認識させることが可能になる。それによって運転者に意図しないシフトチェンジまたは不適切なシフトチェンジをしたことを自覚させることが可能になって、運転者にパワートレーンを早期にメインテナンス(点検や修理など)させるように促すことが可能になる。
【0065】
特に、この実施形態では、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが付与されるような現象の発生を検知するにあたって、車両の減速度(減速G)と、従動輪としての前輪7,7と駆動輪としての後輪6,6との回転差とを調べるようにしているから、前記現象の検知精度を高めることが可能になるなど、信頼性が向上する。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0067】
(1)上記実施形態では、FR方式のパワートレーンを有する車両に本発明を適用した例に挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、図示していないが、例えばFF(フロントエンジン、フロントドライブ)方式のパワートレーンや、いわゆるミッドシップ方式のパワートレーンにも適用することが可能である。
【0068】
(2)上記実施形態で説明した手動変速機2の変速段の段数やシフトゲート82のゲートパターンは特に限定されるものではなく、図示していないが、いろいろなものに本発明を適用することが可能である。
【0069】
(3)上記実施形態では、クラッチ装置3が解放されているか否かを調べるための要素としてクラッチスイッチ76を例に挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばクラッチペダル41の踏み込み操作位置を検出可能なクラッチストロークセンサや、レリーズベアリング37のスライド位置を検出可能なストロークセンサを採用することも可能である。
【0070】
(4)上記実施形態において、パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したことを検知したときに、そのことを記憶部(RAM103あるいはバックアップRAM104など)に履歴として保存することが可能である。
【0071】
この場合には、例えば車両整備者などが前記記憶部の履歴を調べることにより、パワートレーンに悪影響を及ぼす可能性が高くなるような現象が過去に発生していたか否か、言い換えると運転者が意図しないシフトチェンジあるいは不適切なシフトチェンジをしていたか否かを車両整備者が把握することが可能になるとともに、車両のパワートレーンに及ぼす悪影響の度合いを推定することが可能になる。その結果、仮に前記現象が繰り返し発生することに伴い車両のパワートレーンに悪影響を及ぼした場合に、車両整備者が前記履歴を調べることにより前記悪影響が発生した原因を究明することが可能になると言える。
【0072】
(5)上記実施形態において、パワートレーン(エンジン1、手動変速機2、クラッチ装置3、デファレンシャル5などを含む)の適宜場所に例えば歪センサなどを取り付け、この歪センサからの出力に基づいてパワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生しているか否かを制御装置100で直接判定するように構成することも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、駆動源で発生する回転駆動力をクラッチ装置を介して手動変速機に伝達または遮断するとともに、運転者の変速操作に応答して前記手動変速機を要求の変速段にするように構成された車両用パワートレーンの制御装置に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 エンジン(駆動源)
13 クランクシャフト
2 手動変速機
21 インプットシャフト
3 クラッチ装置
30 クラッチ機構部
40 クラッチ作動部
41 クラッチペダル
8 シフト装置
81 シフトレバー
71〜74 車輪速センサ
75 加速度センサ
77 警告ランプ
100 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源で発生する回転駆動力をクラッチ装置を介して手動変速機に伝達または遮断するとともに、運転者の変速操作に応答して前記手動変速機を要求の変速段にするように構成された車両用パワートレーンの制御装置であって、
車両の減速度が所定の閾値以上でかつ車両の駆動輪と従動輪との回転差が所定の閾値以上になった場合に、前記パワートレーンに急激に過大な減速トルクが入力されるような現象が発生したものとして検知する監視部を含む、ことを特徴とする車両用パワートレーンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用パワートレーンの制御装置において、
前記監視部は、車両の減速度が前記閾値以上か否かを判定する処理と、
車両の駆動輪と従動輪との回転差が前記閾値以上か否かを判定する処理と、
前記両処理により車両の減速度が所定の閾値以上でかつ車両の駆動輪と従動輪との回転差が所定の閾値以上になったと判定した場合に、前記現象が発生したものとして検知する処理とを行う、ことを特徴とする車両用パワートレーンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用パワートレーンの制御装置において、
前記監視部は、前記現象の発生を検知したときに、そのことを運転者に報知するための報知要素を作動させる処理を行う、ことを特徴とする車両用パワートレーンの制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用パワートレーンの制御装置において、
前記監視部は、前記現象の発生を検知したときに、そのことを履歴として記憶部に保存する処理を行う、ことを特徴とする車両用パワートレーンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−251577(P2012−251577A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123222(P2011−123222)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】