説明

車両用フロントフード

【課題】 フードインナの座面に亀裂が入ることを防止でき、且つフードインナ後端側部の形状凍結性の向上を図れる車両用フロントフードを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明にかかる車両用フロントフード110は、当該フロントフードの外面を構成するフードアウタ120と、当該フロントフードの内面を構成するフードインナ130と、フードインナ130の後端側部をフードアウタ120側に盛り上げて形成する座面132と、盛り上げられた座面132の車外側に連続してこの座面132からエンジンルーム方向に延伸する縦壁部140と、座面132から縦壁部140にかけて、座面132と縦壁部140との境界の角部を部分的に面取りするように形成された1以上のビード142a〜142dと、座面132にほぼ即した形状をなし、座面132に溶接されるリンフォース136と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フロントフードに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、車体前部にエンジンルームが備えられる。そして、エンジンルームの上部に、フロントフードが設置される。かかるフロントフードは、後端側部に連結されたフードヒンジの回転軸を中心に開閉可能に構成される。
【0003】
フロントフード裏側の前端略中央には、フック状のストライカが接続される。ストライカがエンジンルームの上縁前部(例えばフードロックメンバ)に連結されたフードラッチに嵌合することで、フロントフードが閉じられる。一般には、フロントフードを約10cm程度上方から落とすことで、ストライカとフードラッチとを嵌合させる。
【0004】
そのため、フロントフード、特に車体に直接的に繋がっているフードラッチ周辺部やフードヒンジが連結されるフードインナの座面には、かなりの反力(衝撃)がかかることとなる。そこで、フードヒンジが連結されるフードインナの座面に、リンフォースをスポット溶接して補強する場合がある。
【0005】
特許文献1には、フードヒンジの取付部にリテーナ(リンフォース)を有する開閉体のヒンジ取付部構造が記載されている。特に、その段落0030〜0033および図5〜図7には、実施形態の他の例として、平面視でリテーナを四方から包囲するように、下方へ凸の細帯状の補強部(ビード)をフードインナに設ける構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−163259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フードインナおよびリンフォースを接合するスポット溶接打点では、多大な応力集中が起こる。従来、この応力集中が原因で、スポット溶接打点の近傍に亀裂が入ってしまうおそれがあった。特許文献1の技術では、確かにある程度の強度向上を奏するかもしれないが、この亀裂が入る課題に対してはさらに十全な対策を施す必要がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、フードインナの座面に亀裂が入ることを防止でき、且つフードインナ後端側部の形状凍結性の向上を図れる車両用フロントフードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、車体前部のエンジンルーム上部に備えられる車両用フロントフードにおいて、フロントフードの外面を構成するフードアウタと、フロントフードの内面を構成するフードインナと、フードインナの後端側部をフードアウタ側に盛り上げて形成する座面と、盛り上げられた座面の車外側に連続してこの座面からエンジンルーム方向に延伸する縦壁部と、座面から縦壁部にかけて、座面と縦壁部との境界の角部を部分的に面取りするように形成された1以上のビードと、座面にほぼ即した形状をなし座面に溶接されるリンフォースと、を有することを特徴とする。
【0010】
かかる構成では、座面から縦壁部にかけて、車体幅方向斜めに剛性の高いビードが延びる。ビードが形成された部分では形状の不連続性により、応力集中が起こる。フードインナの後端側部にかかる応力が、ビードにもかかり分散されるため、個々の応力集中を緩和することができる。これより、フードヒンジが連結されるフードインナの座面に亀裂が入ることを防止できる。
【0011】
また、座面から縦壁部にかけて車体幅方向斜めに延びるビードは、形状凍結性を向上する効果を奏する。すなわち、形状凍結ビードとしての役割も担う。故に、縦壁部が車外側に開くように変形することを防止できる。
【0012】
上記リンフォースが上記座面にスポット溶接されており、リンフォースおよび座面の複数のスポット溶接打点のうち前方に位置するものの近傍に、上記ビードが形成されていると好ましい。応力解析の実施により、リンフォースおよび座面の複数のスポット溶接打点のうち前方に位置するものほど、応力集中が大きくなりやすいことが明らかになった。これより、その近傍に、座面から縦壁部にかけて車体幅方向斜めに延びるビードを設けることで、より顕著な効果を期待できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フードインナの座面に亀裂が入ることを防止でき、且つフードインナ後端側部の形状凍結性の向上を図れる車両用フロントフードを提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態にかかる車両用フロントフードが適用された自動車を示す図である。
【図2】図1に示す車両用フロントフードの分解斜視図である。
【図3】図2に示すフードインナの要部拡大図である。
【図4】図3の各断面図である。
【図5】図2に示すフードインナの製造現場での保管について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態にかかる車両用フロントフード(以下、単に「フロントフード110」と称する)が適用された自動車100を示す図である。図1(a)がフロントフード110の開時を図示していて、図1(b)がフロントフード110の閉時を図示している。なお、図中の矢印FRは車体前方を示すものとする。
【0017】
図1(a)、(b)に示すように、自動車100の車体前部のエンジンルーム102上部にはフロントフード110が設置される。フロントフード110は、後端側部に連結されたフードヒンジ112、114の回転軸116を中心に開閉可能に構成される。フロントフード110裏側の前端略中央には、フック状のストライカ118が接続される。
【0018】
フロントフード110を閉じる際には、通常、上方から落とすことで、ストライカ118を不図示のフードラッチに嵌合させる。これに伴い、車体に直接的に繋がっているフードヒンジ112、114の連結部(図2に示すフードインナ130の座面132、134)には、かなりの反力(衝撃)がかかる。
【0019】
そこで、本実施形態では、フロントフード110閉時の反力等による損壊(損傷)を防ぐとともに耐久性に優れ、また安全性の観点にも配慮した構造を提案する。図2は、図1に示すフロントフード110の分解斜視図である。図3は、図2に示すフードインナ130の要部拡大図である。図4は図3の各断面図であり、図4(a)が図3のA−A断面図、図4(b)が図3のB−B断面図である。
【0020】
図2に示すように、フロントフード110は、その外面を構成するフードアウタ120、およびその内面を構成するフードインナ130を含む。そして、フードインナ130の後端側部をフードアウタ120側に盛り上げて形成した座面132、134を有する。
【0021】
座面132、134には、下方(エンジンルーム102側)よりフードヒンジ112、114がボルト締結される(図4(a)参照)。座面132、134の反対側には、座面132、134にほぼ即した形状をなすリンフォース136、138がスポット溶接により接合される。
【0022】
以下、図3、図4(a)、(b)を用いて、車体左側の構造を説明する。なお、車体右側の構造についても、同様の説明が適用される。
【0023】
図3に示すように、本実施形態では、リンフォース136がスポット溶接打点Z1〜Z4にて、座面132に接合される。座面132の車外側には、座面132からエンジンルーム102方向に延伸する縦壁部140が連続する。
【0024】
座面132から縦壁部140にかけて、座面132と縦壁部140との境界の角部を部分的に面取りするように1以上のビード142a〜142dが形成される。これらのビード142a〜142dは、座面132から縦壁部140にかけてエンジンルーム102側にパネルを屈曲することで形成される。なお、ここでは、4つのビード142a〜142dを形成しているが、ビード142a〜142dの数はこれに限定されない。
【0025】
上述した構成では、強度を確保するためにフードインナ130全体の厚みを増加することを回避し、リンフォース136にて反力(衝撃)がかかりやすい座面132を局所的に補強する。すなわち、フードインナ130全体の厚みは約0.5mm程度でよく、コスト増大を要しない。
【0026】
フロントフード110には、通常、歩行者保護の観点から変形を許容する部分が存在する。上記構成では、フードインナ130全体の厚みを増加することはないので、歩行者保護性能を低下させることもない。よって、安全性の観点にも配慮した構造となる。
【0027】
リンフォース136のスポット溶接打点Z1〜Z4には、応力集中が起こる。しかし、上記構成では、座面132から縦壁部140にかけて、車体幅方向斜めに剛性の高いビード142a〜142dが延びる。図4(b)に示すように、ビード142a〜142dが形成された部分では緩やかなR状の(丸みを帯びた)屈曲断面にはならず、座面132と縦壁部140をビード142a〜142dが斜めにつなぐような断面となる。
【0028】
ビード142a〜142dが形成された部分では形状の不連続性により、応力集中が起こる。フードインナ130の後端側部にかかる応力が、スポット溶接打点Z1〜Z4と、ビード142a〜142dとに分散されるため、個々の応力集中を緩和することができる。これより、フードヒンジ112が連結されるフードインナ130の座面に亀裂が入ることを防止できる。フロントフード110閉時の反力等による損壊(損傷)を防ぐとともに、耐久性に優れた構造となるのである。
【0029】
なお、応力解析の実施により、リンフォース136および座面132の複数のスポット溶接打点Z1〜Z4のうち前方に位置するもの、すなわちスポット溶接打点Z1、Z2ほど、応力集中が大きくなりやすいことが明らかになった。これより、スポット溶接打点Z1、Z2の近傍に、座面132から縦壁部140にかけてビード142a、142bを設けることで、より顕著な効果を期待できる。
【0030】
図5は、図2に示すフードインナ130の製造現場での保管について説明する図である。図5(a)がフードインナ130保管時の模式図であり、図5(b)が図5(a)の側部の拡大図である。
【0031】
図5(a)に示すように、製造現場において製造されたフードインナ130は、スペース確保および運搬作業性向上の観点から、フードアウタ120側を下にしてパレット144(荷台)内に積み重ねて保管される。この際、パレット144内の下側のフードインナ130の側部が、積み重ねの重みにより、外側に開くように変形してしまうおそれがあった。
【0032】
図5(b)に、フードインナ130の側部が外側に開くように変形する様子を二点鎖線で図示する。従来、このような変形を防止するために、フードインナ130側部とパレット144のスペースを埋めるスペーサを設置したり、フードインナ130を縦置きにしたりするなどの対策を講じていた。
【0033】
これに対し、上述した構成では、座面132から縦壁部140にかけて車体幅方向斜めに延びるビード142aが、形状凍結性を向上する効果を奏する。すなわち、形状凍結ビードとしての役割を担う。そのため、縦壁部140(側部)が車外側に開くように変形することを防止できる。よって、製造現場において、フードインナ130側部とパレット144のスペースを埋めるスペーサを設置したり、フードインナ130を縦置きにしたりするなどの必要もない。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明した。本発明によれば、フードヒンジ112が連結されるフードインナ130の座面に亀裂が入ることを回避でき、且つフードインナ130側部の形状凍結性の向上も図れるフロントフード110を実現できる。なお、本発明の概念を座面132(盛上面)、縦壁部140に相当する部位を有する他の車両用部品に適用することも可能である。
【0035】
本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、車両用フロントフードとして利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
Z1〜Z4…スポット溶接打点、100…自動車、102…エンジンルーム、110…フロントフード、112、114…フードヒンジ、116…回転軸、118…ストライカ、120…フードアウタ、130…フードインナ、132、134…座面、136、138…リンフォース、140…縦壁部、142a〜142d…ビード、144…パレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部のエンジンルーム上部に備えられる車両用フロントフードにおいて、
当該フロントフードの外面を構成するフードアウタと、
当該フロントフードの内面を構成するフードインナと、
前記フードインナの後端側部を前記フードアウタ側に盛り上げて形成する座面と、
前記盛り上げられた座面の車外側に連続して該座面からエンジンルーム方向に延伸する縦壁部と、
前記座面から前記縦壁部にかけて、該座面と該縦壁部との境界の角部を部分的に面取りするように形成された1以上のビードと、
前記座面にほぼ即した形状をなし、該座面に溶接されるリンフォースと、
を有することを特徴とする車両用フロントフード。
【請求項2】
前記リンフォースが、前記座面にスポット溶接されており、
前記リンフォースおよび前記座面の複数のスポット溶接打点のうち前方に位置するものの近傍に、前記ビードが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用フロントフード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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