説明

車両用ブレーキ制御装置

【課題】自動加圧制御によるブレーキ作動が行なわれている状態で運転者のブレーキペダル操作が行われた場合に、滑らかなブレーキフィーリングを確保する。
【解決手段】ブレーキペダル1の操作に応じてリザーバ2のブレーキ液を昇圧してブレーキ液圧を出力するマスタシリンダ10と、その出力ブレーキ液圧によって各車輪に対し制動力を付与するホイールシリンダ21乃至24と、リザーバのブレーキ液を所定の液圧に昇圧して出力する液圧源30を備える。マスタシリンダとホイールシリンダとの間にカットオフ弁40を介装し、これに並列に、ハウジング51内にフローティングピストン52を配設して成るダンパ手段50を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪ブレーキ機構のホイールシリンダにブレーキ液圧を供給するブレーキ制御装置に関し、特に、常時はマスタシリンダに連通し自動加圧制御時にはマスタシリンダの出力ブレーキ液圧を遮断するカットオフ弁とホイールシリンダとの間に、液圧源の出力液圧を調圧して供給する車両用ブレーキ制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
近時の車両においては、車両前方の先行車両との車間距離や速度差を計測し、減速の必要性が生じた場合に、運転者がアクセル操作していなければ、自動的にブレーキ作動を行い、運転車両を減速させる自動ブレーキ制御(例えばACC(Adaptive Cruise Control)と呼ばれる)が要求され、これを可能とする制御装置が普及しつつある。このような自動ブレーキ制御の作動中に運転者がブレーキペダルを操作した場合には、上記の自動ブレーキ制御は解除され、運転者のブレーキペダル操作に応じたブレーキ作動に移行するように構成されている。
【0003】
一方、上記車両に供されるブレーキ制御装置に関しては、ブレーキペダル操作とは独立してリザーバのブレーキ液を所定の液圧に昇圧して出力する液圧源を備えると共に、マスタシリンダとホイールシリンダとの間に介装し、常時はマスタシリンダに連通し、自動加圧制御時にはマスタシリンダの出力ブレーキ液圧を遮断するカットオフ弁を備え、カットオフ弁とホイールシリンダとの間に、液圧源の出力液圧を調圧して供給する装置が排出型のブレーキ制御装置として知られており、例えば、下記の特許文献1に具体的な構成が開示されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、「先願のブレーキ制御装置は、マスタシリンダとホイールシリンダとの直接の連通を断ち、マスタシリンダ圧をパイロット圧として外部油圧源から供給される油圧を調圧する電子油圧制御弁を設けた装置である為、ブレーキペダルが踏まれた時、マスタシリンダから出る液量は、電子油圧制御弁のスプールのわずかな移動量と、ブレーキ圧合成器のポートが閉じるまでのホイールシリンダの初期移動量に限られる。従って、ブレーキペダルへのペダル踏力に対しペダルストロークの発生はほとんど無く、いわゆる、「板踏み」となってしまう。」と記載され、「違和感の無いブレーキ操作フィーリングを得ることを課題とする」として、「マスタシリンダとホイールシリンダとの間に油圧制御弁を設けると共に、マスタシリンダ圧系にブレーキ操作手段に対する操作力に応じたストロークを確保するダンパを設けた」ブレーキ制御装置が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−180289号公報
【特許文献2】特開平5−39025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の自動ブレーキ制御を含み、運転者のブレーキペダル操作に拘わらず必要に応じて自動加圧制御を行い、自動的にブレーキ作動を行うブレーキ制御は、自動ブレーキ制御と呼ばれるが、その制御形態は目的に応じて相違し、運転者によるブレーキペダル操作への移行時の対応も区々である。特に、前述の自動ブレーキ制御のように、例えば先行車両との車間距離が所定距離以下となって自動的にブレーキ作動が行なわれている状態で、運転者によるブレーキペダル操作が行われた場合には、運転者に対し滑らかなブレーキフィーリングを与えることが望まれる。
【0007】
しかし、前述の所謂排出型のブレーキ制御装置においては、カットオフ弁の切換(開放)直後に、前掲の特許文献2に記載の所謂「板踏み」となり、滑らかなブレーキフィーリングを期待できなくなる場合がある。従って、自動加圧制御によるブレーキ作動が行なわれている状態で運転者のブレーキペダル操作が行われた場合に、滑らかなブレーキフィーリングを確保することが必要である。もっとも、特許文献2におけるブレーキ制御は、本願発明が対象とする自動ブレーキ制御とは異なり、従って「板踏み」の発生態様も相違するので、特許文献2における対応手段を採用することはできない。
【0008】
即ち、特許文献2には、マスタシリンダとホイールシリンダとの間に油圧制御弁を設けると共に、マスタシリンダ圧系にブレーキ操作手段に対する操作力に応じたストロークを確保するダンパを設けることとしているが、本願発明が対象とする自動ブレーキ制御では、特許文献2に記載の油圧制御弁は必ずしも必要ではなく、特許文献2に記載のダンパも必要ではない。特に、特許文献2に記載のダンパにおいては、所定の特性(直線特性、折線特性等)を確保するため、ピストンと共にバネ及び/又はゴム弾性体が必要とされており、所謂シミュレータに相当するものである。尚、一般的なシミュレータにおいては、更に切換用の電磁開閉弁が必要とされる場合もある。
【0009】
そこで、本発明は、常時はマスタシリンダに連通し自動加圧制御時にはマスタシリンダの出力ブレーキ液圧を遮断するカットオフ弁とホイールシリンダとの間に、液圧源の出力液圧を調圧して供給する車両用ブレーキ制御装置において、自動加圧制御によるブレーキ作動が行なわれている状態で運転者のブレーキペダル操作が行われた場合に、滑らかなブレーキフィーリングを確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載のように、ブレーキ操作部材の操作に応じてリザーバのブレーキ液を昇圧してブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダの出力ブレーキ液圧によって車両の各車輪に対し制動力を付与するホイールシリンダと、前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して前記リザーバのブレーキ液を所定の液圧に昇圧して出力する液圧源と、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間に介装し、常時は前記マスタシリンダに連通し、自動加圧制御時には前記マスタシリンダの出力ブレーキ液圧を遮断するカットオフ弁を備え、該カットオフ弁と前記ホイールシリンダとの間に、前記液圧源の出力液圧を調圧して供給する車両用ブレーキ制御装置において、前記カットオフ弁の上流側と下流側との間に介装する所定容量のハウジング内にフローティングピストンを摺動自在に配設して成り、該フローティングピストンが前記上流側の液圧と前記下流側の液圧の差圧に応じて移動するように構成したダンパ手段を備えることとしたものである。
【0011】
前記ダンパ手段は、請求項2に記載のように、前記車両の前輪側のホイールシリンダと前記マスタシリンダとの間に介装する前記カットオフ弁に対して並列に配設するとよい。また、請求項3に記載のように、前記ホイールシリンダに連通する前記フローティングピストンの下流側にオリフィスを配設するとよい。更に、請求項4に記載のように、前記ピストンの前記上流側及び下流側の少なくとも一方側の端面に弾性部材を接合してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の車両用ブレーキ制御装置においては、マスタシリンダとホイールシリンダとの間に介装し、常時はマスタシリンダに連通し、自動加圧制御時にはマスタシリンダの出力ブレーキ液圧を遮断するカットオフ弁を備え、カットオフ弁とホイールシリンダとの間に、液圧源の出力液圧を調圧して供給するように構成されると共に、カットオフ弁の上流側と下流側との間にダンパ手段が介装されており、フローティングピストンがハウジング内を摺動するように構成されているので、自動加圧制御によるブレーキ作動が行なわれている状態で運転者のブレーキペダル操作が行われた場合には、フローティングピストンが上流側の液圧と下流側の液圧の差圧に応じて作動することによって、滑らかなブレーキフィーリングを確保することができる。特に、ダンパ手段としては、従前のダンパやシミュレータ等で必要とされるバネやゴム弾性体、更には電磁開閉弁を必要とすることはなく、ハウジング内に収容するフローティングピストンのみによって構成することができるので、部品点数が少なく、容易に組付けることができ、安価な装置とすることができる。特に、請求項2に記載のように、前輪側のホイールシリンダとマスタシリンダとの間に介装するカットオフ弁に対して並列にダンパ手段を配設するとよい。
【0013】
更に、請求項3に記載のようにオリフィスを配設することとすれば、アンチスキッド制御中に減圧制御が行われたときにフローティングピストンの前後の圧力バランスが逆転しても、その影響を抑え、適切なピストン作動を確保することができる。また、請求項4に記載のように、フローティングピストンの端面に弾性部材を接合すれば、ピストン作動に伴う異音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置の全体構成を示すもので、ブレーキ操作部材たるブレーキペダル1の操作に応じて(大気圧)リザーバ2のブレーキ液を昇圧してブレーキ液圧を出力するマスタシリンダ10と、このマスタシリンダ10の出力ブレーキ液圧によって車両の各車輪FR,FL,RR,RLに対し制動力を付与するホイールシリンダ21乃至24と、ブレーキペダル1の操作とは独立してリザーバ2のブレーキ液を所定の液圧に昇圧して出力する液圧源30を備えている。
【0015】
更に、マスタシリンダ10とホイールシリンダ21乃至24との間にカットオフ弁40が介装され、このカットオフ弁40に対して並列に(カットオフ弁40の上流側と下流側との間に)ダンパ手段50が介装されている。このカットオフ弁40は、例えば常開の電磁開閉弁で構成され、常時はマスタシリンダ10に連通し、自動加圧制御時にはマスタシリンダ10の出力ブレーキ液圧を遮断するように制御される。そして、後述するように液圧源30の出力液圧が調圧され、カットオフ弁40とホイールシリンダ21乃至24との間に供給されるように構成されている。
【0016】
上記のダンパ手段50は、所定容量のハウジング51内にフローティングピストン52が摺動自在に配設されており、フローティングピストン52が上流側の液圧と下流側の液圧の差圧に応じて移動するように構成されている。更に、本実施形態においては、カットオフ弁40とホイールシリンダ21乃至24との間に液圧制御手段60が介装されており、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TRC)、車両安定性制御(ESCあるいはVSC)等におけるホイールシリンダ液圧の増減圧制御が行われる。尚、液圧制御手段60の構成については後述する。
【0017】
本実施形態のマスタシリンダ10は、前掲の特許文献1に記載の装置と同様に構成され、マスタピストンMPの前方に、液圧源30の出力液圧を運転者のブレーキ操作に応じて調圧して出力する調圧弁手段RGを備えると共に、マスタピストンMPの後方に、調圧弁手段RGの出力液圧によってマスタピストンMPの作動を助勢する液圧助勢手段HBを備えている。尚、各手段の具体的な構成は、夫々、前掲の特許文献1に記載された同機能の手段と同様であるので説明は省略する。而して、マスタシリンダ10には、マスタピストンMPの作動に応じてマスタシリンダ液圧が出力されるポート11と、調圧弁手段RGの出力であるレギュレータ液圧が出力され、非制御時はリザーバ2に連通するポート12と、液圧源30の出力液圧を調圧弁手段RG内に導入するポート13が形成されている。
【0018】
また、本実施形態の液圧源30は、電子制御装置(ECU)100によって制御される電動モータ(図示せず)と、この電動モータによって駆動される液圧ポンプ31を備え、その入力側がリザーバ2に連通接続され、出力側がアキュムレータ32に連通接続されている。本実施形態ではアキュムレータ32の出力側の圧力が監視され、この監視結果に基づき、アキュムレータ32の液圧が所定の上限値と下限値の間の圧力に維持されるように、電子制御装置100により液圧ポンプ31の電動モータが制御される。
【0019】
本実施形態の液圧制御手段60は、図2に示すように電磁開閉弁61乃至68等によって構成されており、例えばアンチスキッド制御(ABS)におけるブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧)制御が行われる。即ち、マスタシリンダ液圧が出力されるポート11とホイールシリンダ21及び22の各々を接続する前輪側の液圧路には、夫々給排制御用の電磁開閉弁61及び65並びに電磁開閉弁62及び66が接続されている。また、レギュレータ液圧が出力されるポート12(調圧弁手段RGの非制御時はリザーバ2に連通)とホイールシリンダ23及び24の各々を接続する後輪側の液圧路には、夫々給排制御用の電磁開閉弁63及び67並びに電磁開閉弁64及び68が接続されている。供給側の電磁開閉弁61乃至64は常開で、上記の各液圧路に介装されているが、排出側の電磁開閉弁65乃至68は常閉で、夫々リザーバ2に接続されている。更に、電磁開閉弁61乃至64に対して並列に夫々逆止弁(引用符号は省略)が接続されており、ブレーキペダル1が開放されたときには、ホイールシリンダ21乃至24のブレーキ液のポート11及び12方向への流れは許容されるが逆方向の流れは阻止される。
【0020】
而して、ポート12から出力される出力レギュレータ液圧が、開位置の電磁開閉弁42並びに開位置の(後輪側)電磁開閉弁63及び64を介してホイールシリンダ23及び24にブレーキ液圧として供給される。また、出力レギュレータ液圧は液圧助勢手段HBに供給され、その液圧によってマスタピストンMPが助勢されて前進し、マスタシリンダ液圧として、開位置のカットオフ弁40並びに開位置の電磁開閉弁61及び62を介してホイールシリンダ21及び22に供給される。
【0021】
本実施形態においては、更に、カットオフ弁40からホイールシリンダ21及び22に至る液圧系に対し、図2に示すように開位置とされた常閉の電磁開閉弁41を介して、ポート12から出力されるレギュレータ液圧を供給し得るように構成されている。また、ポート12と(ホイールシリンダ23及び24に連通する)電磁開閉弁63及び64との間の液圧路に、常開の電磁開閉弁42が介装されており、図2では閉位置とされている。そして、電磁開閉弁42とホイールシリンダ23及び24側との間、即ち電磁開閉弁42の下流側をポート13に接続する液圧路には、常閉の電磁開閉弁43が介装されており、図2では開位置とされている。本実施形態では、マスタシリンダ液圧が開始圧以上で、レギュレータ液圧が所定圧(開始圧より高い)以上であるときに、電磁開閉弁41が開位置とされ、カットオフ弁40から(電磁開閉弁61及び62を介して)ホイールシリンダ21及び22に至る液圧系に対し、レギュレータ液圧を供給するように構成されている。尚、カットオフ弁40は電磁開閉弁41乃至43と同様の電磁開閉弁であり、電磁開閉弁41乃至43と共に電子制御装置100によって制御されるものであるが、特に、マスタシリンダ液圧を遮断するという機能面からカットオフ弁(カットオフバルブ)と呼ばれているので、電磁開閉弁40とすることなくカットオフ弁40としたものであり、必ずしも特殊な弁手段を意味するものではない。
【0022】
上記の構成になる本実施形態のブレーキ制御装置において、ブレーキペダル1が非操作で非制動状態にあるときには、図1に示すように、カットオフ弁40及び電磁開閉弁42は開位置で、電磁開閉弁41及び電磁開閉弁43は閉位置の状態(非励磁の定常状態)にある。このような非制動状態では、ダンパ手段50のフローティングピストン52には液圧が付与されていないので、ハウジング51内で自由に移動し得る状態にある。そして、液圧制御手段60を構成する各電磁開閉弁は図1に示す状態にある。
【0023】
次に、ブレーキペダル1が操作されて通常のブレーキ作動状態となると、カットオフ弁40、電磁開閉弁41乃至43、並びに液圧制御手段60は図1の状態(非励磁の定常状態)で、ポート12からレギュレータ液圧が出力され、開位置の電磁開閉弁42及び非制御状態の液圧制御手段60を介して、後輪側のホイールシリンダ23及び24にレギュレータ液圧が供給される。また、ポート11から出力されるマスタシリンダ液圧が開位置のカットオフ弁40及び非制御状態の液圧制御手段60を介して前輪側のホイールシリンダ21及び22に供給される。この間、電磁開閉弁41及び43は閉位置にあるので、前後輪の液圧系相互の連通は遮断され、液圧源30の出力液圧が前後輪の液圧系に供給されることもない。このような通常のブレーキ作動状態では、ダンパ手段50のフローティングピストン52の前後には、等しくマスタシリンダ液圧が付与されているので、ハウジング51内で自由に移動し得る状態にある。
【0024】
一方、ブレーキペダル1が非操作状態で、先行車両との車間距離が所定距離以下となって自動的なブレーキ作動が必要と判定されると、図2に示す状態とされて自動加圧制御が開始する。即ち、カットオフ弁40及び電磁開閉弁42は閉位置とされ、代わって電磁開閉弁41及び電磁開閉弁43が開位置とされる。そして、電磁開閉弁43の開閉制御によって、液圧源30の出力液圧が例えば必要車両減速度に応じた圧力に制御され、この制御液圧がホイールシリンダ21乃至24に供給されて緩やかな制動力が付与される。この間、カットオフ弁40及び電磁開閉弁42は閉位置にあるので、ホイールシリンダ21乃至24側からマスタシリンダ10側にブレーキ液が戻されることはない。
【0025】
また、ダンパ手段50のフローティングピストン52に対しては、マスタシリンダ10側の液圧が略零であるのに対し、前輪側の液圧系(ホイールシリンダ21及び22側)には開位置の電磁開閉弁41を介して、上記の電磁開閉弁43による制御液圧が付与されるので、図2に示すように、フローティングピストン52はハウジング51内のマスタシリンダ10側の端面に押圧された状態となる。尚、自動加圧制御が終了すると、電磁開閉弁42が開位置とされ、ホイールシリンダ21乃至24のブレーキ液は開位置の電磁開閉弁41及び非作動状態のマスタシリンダ10を介してリザーバ2に戻される。
【0026】
上記の自動加圧制御状態で、ブレーキペダル1が操作されると、通常のブレーキ作動に移行し、電磁開閉弁41及び電磁開閉弁43が閉位置に戻されると共に、カットオフ弁40及び電磁開閉弁42が開位置に戻され、図2の自動加圧制御状態から図1の状態に切り換えられる。この場合において、液圧状態が一挙に切り換わることはないので、過渡状態では所謂「オーバライド」状態となり、このときの運転者に対し前述の「板踏み」感を与えるおそれがある。これに対し、本実施形態によれば、ダンパ手段50のフローティングピストン52がマスタシリンダ液圧によって駆動され、前輪側の液圧系(ホイールシリンダ21及び22側)に連通する液圧路及びハウジング51内の液圧が上昇し、図3に示すように、フローティングピストン52の前後の液圧が等しくなる状態でバランスする。これにより、通常のブレーキ作動に移行したとき(電磁開閉弁41及び電磁開閉弁43が閉位置とされると共に、カットオフ弁40及び電磁開閉弁42が開位置とされたとき)に生じ得るフローティングピストン52の前後の差圧が減少するので、ブレーキペダル1に対する衝撃が緩和され、運転者に「板踏み」感を与えることもない。
【0027】
上記の自動的なブレーキ作動とは逆に、ブレーキペダル1が操作されてブレーキ作動状態にあるときに、車輪FR等のスリップが検出されると、図4に示す状態となってアンチスキッド制御(増減圧制御)が開始する。即ち、電磁開閉弁42及び43が通常のブレーキ作動時と同様、夫々開位置及び閉位置の状態で、カットオフ弁40が閉位置とされると共に、電磁開閉弁41が開位置とされる。而して、ポート12からのレギュレータ液圧が、前輪側の液圧系(ホイールシリンダ21及び22側)に連通するダンパ手段50のハウジング51内に付与されると共に、ホイールシリンダ21乃至24の各々に供給され得る状態となる。この場合において、ポート12からのレギュレータ液圧はマスタシリンダ液圧より若干高く又は同等に設定されるので、フローティングピストン52はハウジング51内のマスタシリンダ10側の壁面に押圧されて図4に示す状態に維持される。従って、アンチスキッド制御(増減圧制御)中に、マスタシリンダ10内のブレーキ液がダンパ手段50のハウジング51内で消費されることはない。
【0028】
尚、アンチスキッド制御に必要な増減圧制御は従前と同様、液圧制御手段60を構成する電磁開閉弁61乃至68を適宜開閉制御することによって行われる。即ち、各センサ(図示せず)の検出結果に基づき電子制御装置100よって電磁開閉弁61乃至68を適宜開閉制御し、各ホイールシリンダ21乃至24内のブレーキ液圧を急増圧、パルス増圧(緩増圧)、パルス減圧(緩減圧)、急減圧、及び保持状態とし、アンチスキッド制御に必要な液圧制御を行なうことができるが、本発明と直接関係するものではないので作動説明は省略する。
【0029】
上記のアンチスキッド制御中に減圧制御が行われると、一時的にフローティングピストン52の前後(上流側及び下流側)の圧力バランスが逆転するので、この影響を極力抑えることが望ましい。これに対処する簡単な手段として、図5に示すように、フローティングピストン52の下流側の連通路に、即ち、液圧制御手段60を介してホイールシリンダ21乃至24に連通する側の連通路に、オリフィス70を配設するとよい。また、上述のフローティングピストン52の移動に伴い、ハウジング51内の壁面に当接して異音を発生するおそれがある。これに対処するため、図6に示すように、フローティングピストン52の上流側及び下流側の端面に弾性部材たるゴム部材53及び54を接合するとよい(何れか一方のみとしてもよい)。
【0030】
更に、図7に示すように、フローティングピストン52の下流側にリターンスプリング55を配設することとしてもよい。但し、このリターンスプリング55は従前のストロークシミュレータ(図示せず)を構成する所定の特性のばね部材(図示せず)とは異なり、単に初期位置に戻すものであり、特段の特性を必要とするものではない。また、本実施形態のブレーキ制御装置においては、従前のストロークシミュレータに併設される切換用の電磁開閉弁(図示せず)は必要としない。尚、フローティングピストン52が鉛直方向(上下方向)に移動可能にハウジング51を配置し、フローティングピストン52の自重によって初期位置に戻るように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置の非制動状態を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置において、車間距離が所定距離以下となって自動加圧制御を行う場合の電磁開閉弁及びダンパ手段の状態を示す液圧回路図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置において、自動加圧制御中にブレーキ操作が行われ所謂オーバライド状態となったときの電磁開閉弁及びダンパ手段の状態を示す液圧回路図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置において、アンチスキッド制御中の電磁開閉弁及びダンパ手段の状態を示す液圧回路図である。
【図5】図4の液圧回路にオリフィスを付設した例を示す液圧回路図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置において、フローティングピストンに弾性部材を接合したダンパ手段の一例を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置において、リターンスプリングを配設したダンパ手段の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ブレーキペダル
2 リザーバ
10 マスタシリンダ
21〜24 ホイールシリンダ
30 液圧源
40 カットオフ弁
41〜43,61〜68 電磁開閉弁
50 ダンパ手段
51 ハウジング
52 フローティングピストン
53,54 ゴム部材
55 リターンスプリング
60 液圧制御手段
70 オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材の操作に応じてリザーバのブレーキ液を昇圧してブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダの出力ブレーキ液圧によって車両の各車輪に対し制動力を付与するホイールシリンダと、前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して前記リザーバのブレーキ液を所定の液圧に昇圧して出力する液圧源と、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間に介装し、常時は前記マスタシリンダに連通し、自動加圧制御時には前記マスタシリンダの出力ブレーキ液圧を遮断するカットオフ弁を備え、該カットオフ弁と前記ホイールシリンダとの間に、前記液圧源の出力液圧を調圧して供給する車両用ブレーキ制御装置において、前記カットオフ弁の上流側と下流側との間に介装する所定容量のハウジング内にフローティングピストンを摺動自在に配設して成り、該フローティングピストンが前記上流側の液圧と前記下流側の液圧の差圧に応じて移動するように構成したダンパ手段を備えたことを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記ダンパ手段は、前記車両の前輪側のホイールシリンダと前記マスタシリンダとの間に介装する前記カットオフ弁に対して並列に配設することを特徴とする請求項1記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記ホイールシリンダに連通する前記フローティングピストンの下流側にオリフィスを配設したことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記ダンパ手段は、前記ピストンの前記上流側及び下流側の少なくとも一方側の端面に弾性部材を接合して成ることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の車両用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−118756(P2007−118756A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312673(P2005−312673)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】