説明

車両用ミラー装置

【課題】装置の組立開始直後に、クラッチ突起を受動側クラッチディスクがクラッチ溝から離脱させる際の駆動側クラッチディスクの作動トルクが設定値に対して過大になることを抑制する。
【解決手段】ドアミラー装置では、ギヤプレート56におけるクラッチ溝122の周方向に沿った断面形状を底面部128側から開口端側へ向ってテーパ状に幅が広がる略台形状とし、クラッチディスク58のクラッチ突起120の周方向に沿った断面形状を基端側から頂面部132側へ向ってテーパ状に幅が狭くなる略台形状とすると共に、頂面部132の面形状を内周側から外周側へ向って幅が狭くなる逆放射形状とした。これにより、ギヤプレート56へ許容値を超えるトルクが伝達されると、クラッチディスク58がクラッチスプリングの付勢力に抗して上方へ変位しつつ、クラッチ突起120のクラッチ溝122との圧接領域が内周側から外周側へ徐々に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドアミラー装置等として用いられ、後方視認用のミラーを車体側に連結すると共に、車体に対して回動可能に支持する車両用ミラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動式の車両用ドアミラー装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1記載の車両用ミラー装置(以下、単に「ドアミラー装置」という。)は、円筒状の支持軸が立設されたミラーベースと、支持軸により回動可能に軸支されたミラーハウジングと、ミラーベースに配置された駆動モータが発生したトルクをミラーハウジングに伝達するトルク伝達機構と、このトルク伝達機構のトルク伝動系統中に設けられたクラッチ手段と、を備えている。このクラッチ手段は、突条(クラッチ突起)が形成されたリング状の駆動側クラッチディスクと、クラッチ突起が挿脱可能に挿入される溝(クラッチ溝)が形成されたリング状の受動側クラッチディスクと、駆動側クラッチディスクを受動側クラッチディスク側へ付勢するクラッチスプリングとを備えている。
【0003】
特許文献1記載のドアミラー装置では、ミラーハウジング側から駆動側クラッチディスクに過大なトルクが伝達されると、駆動側クラッチディスクのクラッチ突起が受動側クラッチディスクのクラッチ溝から離脱し、受動側クラッチディスクと支持軸に固定された受動側クラッチディスクとの連結状態を解除することにより、過大なトルクからトルク伝達機構等を保護する。
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたようなドアミラー装置では、クラッチ溝及びクラッチ突起の径方向に沿った断面形状がそれぞれ周方向両端側にそれぞれ傾斜面を有する台形状に形成されており、トルク伝達時にクラッチ突起における一方の傾斜面がクラッチ溝における一方の傾斜面に圧接する。この際、駆動側クラッチディスクに過大なトルクが伝達されると、クラッチ突起の傾斜面がクラッチ溝の傾斜面とが発生する軸方向に沿った分力がクラッチスプリングの付勢力よりも大きくなり、クラッチ突起がクラッチ溝から離脱してクラッチディスク間の連結状態が解除される。
【特許文献1】実用新案登録第2548021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に従来技術として記載されているように、クラッチ突起における頂面と一対の傾斜面との稜線及び傾斜面と駆動側クラッチディスクの一端面との稜線を、それぞれ軸心を中心とする径方向と平行とし、かつクラッチ溝における底面と一対の傾斜面との稜線及び傾斜面とクラッチディスクの他端面との稜線をそれぞれ前記径方向と平行とすると、駆動側クラッチディスクの回転時に、クラッチ突起の傾斜面における外周側の一部のみがクラッチ溝における傾斜面における外周側の一部のみに局部的に圧接する。
【0006】
上記のように駆動側クラッチディスクの回転時に、クラッチ突起の傾斜面の一部がクラッチ溝の傾斜面の一部に局部的に圧接すると、ドアミラー装置の組立完了直後にクラッチ手段が作動する、すなわちクラッチディスク間の連結状態を解除する際に、クラッチ突起とクラッチ溝とが固着(金属間のスティッキング)する現象が生じ、予め設定されたしきい値を大幅に超える過大なトルクが駆動側クラッチディスクに伝達されても、クラッチディスク間の連結状態を解除できなくなることがある。これにより、トルク伝達機構やミラーハウジングに過大な負荷が作用し、これらに破損が生じるおそれがある。
【0007】
上記のようなスティッキング現象は、クラッチ手段の作動回数の増加に従って急激に消失し、例えば、3回から4回程度クラッチ手段が作動すると、予め設定されたしきい値を境として精度良くクラッチ手段が安定的に作動するようになる。
【0008】
本発明の目的は、上記事実を考慮し、装置の組立開始直後に、クラッチ突起を受動側クラッチディスクがクラッチ溝から離脱させる際の駆動側クラッチディスクの作動トルクが設定値に対して過大になることを効果的に抑制できる車両用ミラー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の車両用ミラー装置は、支持軸が立設され、車体側に連結されるミラースタンドと、前記支持軸の外周側に配置されると共に、該支持軸により回動可能に支持され、後方視認用のミラーが連結される回動ケースと、前記支持軸の外周側に嵌挿され、該支持軸に回動方向に沿って固定されると共に、軸方向へ移動可能に支持された環状の受動側クラッチディスクと、前記支持軸の外周側に嵌挿され、該支持軸により相対的に回転可能に支持されると共に、前記支持軸を中心とする回動方向に沿って前記回動ケースと連結された環状の駆動側クラッチディスクと、前記受動側クラッチディスクを前記軸方向に沿って前記駆動側クラッチディスク側へ付勢するクラッチ付勢部材と、前記受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の一方に、前記支持軸の軸心を中心とする径方向に沿って延在するように形成されたクラッチ溝と、前記受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の他方に、前記径方向に沿って延在するように形成され、前記回動ケースから前記駆動側クラッチディスクへ前記付勢部材の付勢力に対応する設定値以下のトルクが伝達されているときには、前記クラッチ溝に挿入されて前記駆動側クラッチディスクを前記受動側クラッチディスクにトルク伝達可能に連結した連結状態とし、前記回動ケースから前記駆動側クラッチディスクへ前記設定値を超えるトルクが伝達されると、前記クラッチ溝から離脱して前記連結状態を解除するクラッチ突起と、を有し、前記クラッチ溝の前記支持軸の軸心を中心とする周方向に沿った断面形状を溝底側から開口端側へ向って幅が広がる略台形状とし、前記クラッチ突起の前記周方向に沿った断面形状を基端側から先端側へ向って幅が狭くなる略台形状とすると共に、頂面部の面形状を内周側から外周側へ向って幅が狭くなる逆放射形状としたことを特徴とする。
【0010】
請求項1記載の車両用ミラー装置では、クラッチ溝の周方向に沿った断面形状を溝底側から開口端側へ向って幅が広がる略台形状とし、しかもクラッチ突起の周方向に沿った断面形状を基端側から先端側へ向って幅が狭くなる略台形状とすると共に、その頂面部の面形状を内周側から外周側へ向って幅が狭くなる逆放射形状としたことにより、回動ケース側から駆動側クラッチディスクへ設定値以下のトルクが伝達されているときには、クラッチ突起がクラッチ溝に挿入された状態に保持されると共に、クラッチ突起の一方の側面部がクラッチ溝の一方の側面部に圧接しつつ、クラッチ突起の側面部からクラッチ溝の側面部へ作用する圧接力(荷重)が支持軸回りのトルクとして受動側のクラッチディスク58へ伝達され、このトルクの反力により回動ケースが駆動側クラッチディスクに従動回転する。このとき、クラッチ突起は、その側面部における内周側の一部をクラッチ溝の側面部における内周側の一部に圧接させる。
【0011】
また請求項1に係る車両用ミラー装置では、回動ケース側から駆動側クラッチディスクへ前記設定値を超えるトルクが伝達されると、クラッチ突起における軸方向に対して傾斜した側面部とクラッチ溝における軸方向に対して傾斜した側面部との間に生じる軸方向に沿った分力が、クラッチ付勢部材の付勢力よりも大きくなり、受動側クラッチディスクがクラッチ付勢部材の付勢力に抗して駆動側クラッチディスクから離間する方向へ移動しつつ、クラッチ突起がクラッチ溝122内から序々に抜け出して行き、駆動側クラッチディスクが所定量回転すると、クラッチ溝から離脱する。
【0012】
このとき、クラッチ突起における頂面部の面形状が内周側から外周側へ向って幅が狭くなる逆放射形状とされていることから、駆動側クラッチディスクの回動量の増加に従って、クラッチ突起の一方の側面部がクラッチ溝における一方の側面部に圧接する領域を内周側から外周側へ序々に移動させつつ、クラッチ突起を軸方向に沿ってクラッチ溝から離脱する方向へ相対的に移動(摺動)させることができる。
【0013】
従って、請求項1に係る車両用ミラー装置によれば、駆動側クラッチディスクに設定値を超えるトルクが伝達された場合には、駆動側クラッチディスクの回転(位相変化)に伴ってクラッチ突起がクラッチ溝内から抜け出ると共に、クラッチ突起とクラッチ溝との圧接領域が内周側から外周側へ移動するため、クラッチ突起の稜線及びクラッチ溝の各稜線が径方向と平行になっており、クラッチ突起の側面部とクラッチ溝の側面部との圧接領域が殆ど変化しない従来の構造と比較し、装置の組立開始直後に、クラッチ突起の側面部とクラッチ溝の側面部とが固着するスティッキング現象の発生を効果的に防止でき、この結果、スティッキング現象の発生により駆動側クラッチディスクがクラッチ突起を受動側クラッチディスクのクラッチ溝から離脱させる作動トルクが設定値に対して過大になることを抑制できる。
【0014】
また請求項2に係る発明の車両用ミラー装置は、請求項1記載の車両用ミラー装置において、前記回動ケースに配置されたトルク発生源と、前記回動ケースに配置されると共に、前記トルク発生源をトルク伝達可能に前記駆動側クラッチディスクに連結し、前記トルク発生源により発生したトルクを、前記支持軸を中心とする回動方向に沿った駆動トルクとして前記駆動側クラッチディスクに伝達するトルク伝達手段と、を有することを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の車両用ミラー装置では、回動ケースに配置されたトルク伝達手段が、トルク発生源により発生したトルクを回動方向の駆動トルクとして駆動側クラッチディスクに伝達することにより、トルク発生源によりトルクを発生させれば、支持軸を中心として回動ケースを回動させることができる。
【0016】
また請求項3に係る発明の車両用ミラー装置は、請求項1又は2記載の車両用ミラー装置において、前記クラッチ溝における底面部と側面部とが交わる第1の稜線及び、該側面部が前記受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の一方と交わる第2の稜線を、それぞれ前記径方向と平行に延在させ、前記クラッチ突起における側面部が前記受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の他方と交わる第3の稜線を径方向と平行に延在させたことを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の車両用ミラー装置では、クラッチ突起の頂面部の面形状を内周側から外周側へ向って幅が狭くなる逆放射とし、かつクラッチ突起における側面部が受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の他方と交わる第3の稜線を径方向と平行に延在させたことにより、回動ケース側から駆動側クラッチディスクへ前記設定値を超えるトルクが伝達された際に、クラッチ突起の側面部とクラッチ溝の側面部とが発生する分力の方向を圧接領域の移動方向と近似させることができるので、駆動側クラッチディスクの回動量の増加に従って、クラッチ突起の側面部とクラッチ溝の側面部との圧領域を円滑に内周側から外周側へ序々に移動(摺動)させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の車両用ミラー装置によれば、装置の組立開始直後に、クラッチ突起を受動側クラッチディスクがクラッチ溝から離脱させる際の駆動側クラッチディスクの作動トルクが設定値に対して過大になることを効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る車両用ミラー装置について図面を参照して説明する。
【0020】
(実施形態の構成)
図1には、本発明の実施形態に係る車両用ミラー装置としてのドアミラー装置10の概略的な構成が正面図にて示されている。なお、図中、矢印UPは車体上方方向を示し、矢印FRは車体上方方向を示す。また、以下の説明で使用する「上」及び「下」の方向性は、ドアミラー装置10が車両に取り付けられた状態での方向を示すものである。
【0021】
ドアミラー装置10は、ドアミラー本体12を備えている。ドアミラー本体12はバイザ14を備えており、バイザ14の内側にはフレーム及び鏡面調整機構(共に図示省略)を介して車両後方視認用のミラー16が保持されている。また、ドアミラー装置10は、図示しない車両のドアパネルに締結固定されたステー18を備えており、ステー18とドアミラー本体12との間には格納機構20が設けられている。
【0022】
図2には、格納機構20の構成が分解斜視図にて示され、図3には、格納機構20の構成が断面図にて示されている。図2に示されるように、格納機構20は、ミラースタンド22を備えており、ミラースタンド22はステー18(図1参照)に固定されるベースプレート部24と、ベースプレート部24の上面側に立設された円筒状の支持軸26とを備えている。なお、図中、符号Sは支持軸26の軸心を示しており、この軸心Sに沿った方向を装置の軸方向として以下の説明を行う。
【0023】
図3に示されるように、格納機構20は筐体状の回動ケース28を備えており、回動ケース28には、下側にケース本体30が設けられると共に、このケース本体30の頂面側にアッパカバー32が着脱可能に取り付けられている。アッパカバー32は、全体として車体下方側が開口した筐体状に形成されており、アッパカバー32には、筒状の側壁部32Bが形成されると共に、この側壁部32Bの頂面側を閉止する頂板部32Aが一体的に形成されている。
【0024】
ケース本体30は車体上方側が開口した筐体状に形成されており、図4及び図5に示されるように、ケース本体30には、筒状の側壁部30Bが形成されと共に、この側壁部30Bの底面側を閉止する底板部30Aが一体的に形成されている。ケース本体30の底板部30Aには、図3に示されるように、円筒状の軸受部34が形成されており、この軸受部34には、底板部30Aに対して上側に突出する上方突出部34A及び、底板部30Aに対して下側に突出する下方突出部34Bが一体的に形成されている。軸受部34は支持軸26の外周側に回動可能に嵌挿されている。
【0025】
図2に示されるように、ミラースタンド22のベースプレート部24には、支持軸26の外周側に同軸的に立壁部64が環状に形成されており、この立壁部64と支持軸26の外周面との間には、リング状に形成されたスリップワッシャ38が配置されている。ケース本体30は、図9に示されるように、スリップワッシャ38を介して、下方突出部34Bの先端面をベースプレート部24の上面側に当接させている。これにより、回動ケース28の支持軸26に対する軸方向下端側の変移が制限される。また下方突出部34Bの先端面には、断面半円状のグリース溝39が全周に亘って形成されており、このグリース溝39内には潤滑剤としてグリースが充填されている。これにより、下方突出部34Bの先端面とスリップワッシャ38との間にはグリース溝39内からグリースが供給される。
【0026】
図4に示されるように、ケース本体30の底板部30Aには、ケース本体30の内側において上方突出部34Aから放射状に延出された複数のリブ41が一体的に形成されており、これらのリブ41によって軸受部34が補強されている。図5に示されるように、ケース本体30の底板部30Aには、ケース本体30の外側において一対の嵌合孔43が形成されている。これら一対の嵌合孔43は、互いに隣接する一対のリブ41(図4参照)の間に形成されており、この一対のリブ41に掛け渡された壁によって嵌合孔43の底面が形成されている。また2個の嵌合孔43は、下方突出部34Bを挟んで互いに反対側に形成されており、後述するディテントプレート76にそれぞれ対応している。
【0027】
図3に示されるように、ケース本体30には、下方突出部34Bの周囲に垂下壁30Cが形成されている。この垂下壁30Cは、下方突出部34Bと同心状に形成されており、後述する立壁部64に対応している。
【0028】
ドアミラー装置10では、回動ケース28が図示しないフレームを介してバイザ14に連結されており、ドアミラー本体12は、回動ケース28と一体的に支持軸26により回動可能に支持されている。これにより、ドアミラー本体12及び回動ケース28は、図6に示される格納位置と、図7に示されるミラー使用位置との間で一体となって回動できると共に、図8に示されるように、ミラー使用位置よりも車体前方側に設定された前可倒位置へも一体となって回動できるように構成されている。
【0029】
なお、回動ケース28が格納位置に達した際には、図2に示されるミラースタンド22のベースプレート部24に突設された回動阻止部40が、ケース本体30の垂下壁30Cの内周面に形成された段部42に当接することで、回動ケース28の回動が阻止されると共に、回動ケース28が前可倒位置に達した際には、回動阻止部40が、垂下壁30Cの内周部に形成された段部44に当接することで、回動ケース28の回動が阻止される構成となっている。
【0030】
図3に示されるように、回動ケース28の内部には、回動ケース28を支持軸26に対して回動(相対回転)させるためのトルク発生源としてモータ46が収納されている。このモータ46は、車両に設けられた図示しないスイッチが操作されることで駆動して出力軸48を回転させると共に、出力軸48の回転に抗する外力が作用して供給電流の電流値が所定のしきい値以上に増加すると、車両に設けられた図示しない制御回路によって給電を遮断されるようになっている。
【0031】
モータ46の出力軸48にはウォーム50が取り付けられており、ウォーム50にはヘリカルギヤ52が噛合されている。ヘリカルギヤ52にはシャフトウォーム54が同軸的に固定されており、ヘリカルギヤ52とシャフトウォーム54とは常に一体に回転する。
【0032】
図3に示されるように、回動ケース28の内部には、支持軸26の外周側に円筒状のギヤプレート56が配置されている。ギヤプレート56は、駆動側クラッチディスクとして構成されており、支持軸26の外周側に回動可能に嵌挿されている。ギヤプレート56は、その内周側における下端部を上方突出部34Aの上端面に摺動可能に当接させている。なお、上方突出部34Aの上端面には、断面半円状のグリース溝57(図9参照)が全周に亘って形成されており、このグリース溝57には潤滑剤としてのグリースが充填されている。これにより、上方突出部34Aの上端面とギヤプレート56の下端部との間には、グリース溝57内からグリースが供給される。
【0033】
図9に示されるように、ギヤプレート56の外周面には外歯56Aが形成されており、この外歯56Aはシャフトウォーム54に噛合されている。ドアミラー装置10では、図3に示されるように、ウォーム50、ヘリカルギヤ52、シャフトウォーム54、外歯56Aがモータ46の発生したトルクをギヤプレート56に伝達するためのギヤ列機構59を構成している。これにより、モータ46の駆動力により出力軸48が回転すると、ギヤ列機構59を介してギヤプレート56に支持軸26を中心とする回転方向のトルクが伝達される。ここで、ギヤ列機構59は、モータ46の出力軸48から支持軸26へ向う一方向へのみトルクが伝達可能になっている。
【0034】
ケース本体30の内部には、軸方向に沿ってギヤプレート56の上側に略円筒状のクラッチディスク58が配置されている。クラッチディスク58は、受動側クラッチディスクとして構成されており、支持軸26の外周側に嵌挿されている。クラッチディスク58は、支持軸26に対して回動方向へは固定されているが、軸方向へは移動可能とされている。
【0035】
図15に示されるように、クラッチディスク58には、その下端面に複数個(本実施形態では、4個)のクラッチ突起120が形成されており、これらのクラッチ突起120は、軸心Sを中心として周方向に沿って等ピッチ(90°ピッチ)で配置されている。一方、ギヤプレート56の上端面には、外歯56Aの内周側に複数個のクラッチ突起120にそれぞれ対応する複数個(本実施形態では、4個)のクラッチ溝122が形成されている。これらのクラッチ溝122も、軸心Sを中心として周方向に沿って等ピッチ(90°ピッチ)で配置されている。
【0036】
図3に示されるように、支持軸26の外周側には、クラッチディスク58に対して上側に薄肉リング状に形成されたティースワッシャ60が嵌挿固定されており、このティースワッシャ60とクラッチディスク58との間には、コイル状のクラッチスプリング62が圧縮状態となるように介装されている。このクラッチスプリング62は、軸方向に沿ってクラッチディスク58を常にギヤプレート56側へ一定の付勢力で付勢している。これにより、通常(後述する第1のクラッチ手段の非作動時)はクラッチディスク58のクラッチ突起120がギヤプレート56のクラッチ溝122に挿入された連結状態となり、ギヤプレート56がクラッチディスク58を介して支持軸26に対して回動方向に沿って固定、すなわちギヤプレート56の支持軸26に対する相対回転が阻止される。
【0037】
また、クラッチスプリング62の付勢力は、クラッチディスク58及びギヤプレート56を介して回動ケース28の軸受部34に作用しており、スリップワッシャ38を介して軸受部34の先端面をミラースタンド22のベースプレート部24に押し付けている。
【0038】
一方、ベースプレート部24における支持軸26の外周側に形成された立壁部64は、ケース本体30における下方突出部34Bと垂下壁30Cとの間に嵌挿されている。図2に示されるように、立壁部64の上端面には、内周側に回動ケース28側へ向けて3個のスタンド山66、68、70が突設されている。図10に示されるように、3個のスタンド山66、68、70は、それぞれ軸心Sを中心とする周方向に沿って湾曲して形成されており、周方向に沿ってピッチが略等間隔になっている。スタンド山66、68、70は、それぞれ周方向に沿った両端部がそれぞれ傾斜面72及び傾斜面74とされた略台形状に形成されている。ここで、1個のスタンド山66は、残りの2個のスタンド山68、70に対して外周側に配置され、また2個のスタンド山68、70は軸心Sからの距離(半径)が互いに等しいものになっている。
【0039】
図3に示されるように、ミラースタンド22の立壁部64とケース本体30の底板部30Aとの間には、リング状に形成されたディテントプレート76が配置されている。図11に示されるように、ディテントプレート76の外周面には2個に段部76Aが形成されており、ディテントプレート76には、2個の段部76Aを境界として周方向に沿った略半分の部位に半径方向寸法の狭い狭幅部78が形成されると共に、周方向に沿った残りの略半分の部位に半径方向寸法の広い広幅部80が形成されている。
【0040】
狭幅部78と広幅部80の回動ケース28側の端面(上端面)には、一対の嵌合突起81が形成されており、これら一対の嵌合突起81は、それぞれケース本体30の底板部30Aに形成された一対の嵌合孔43(図5参照)に嵌合している。これにより、ディテントプレート76がケース本体30に連結され、ディテントプレート76のケース本体30に対する相対回転が阻止される。
【0041】
図2に示されるように、ディテントプレート76には、広幅部80の下端面における外周寄りに1個のケース山82がベースプレート部24側へ向けて突設されると共に、狭幅部78の下端面に2個のケース山84、86がベースプレート部24側へ向けて突設されている。これら3個のケース山82、84、86は、軸心Sを中心とする周方向に沿って略等間隔に配置されており、周方向両端部がそれぞれ傾斜面88及び傾斜面90とされた台形状に形成されている。
【0042】
ここで、広幅部80に形成された1つのケース山82と、狭幅部78に形成された2個のケース山84、86とは、支持軸26を中心とした異なる円上に設けられている。図6及び図7に示されるように、これら3個のケース山82、84、86は、それぞれスタンド山66、68、70に周方向に沿って接離可能に対向しており、ケース山82、84、86及びスタンド山66、68、70にはグリースが塗布されている。
【0043】
図6に示されるように、ドアミラー装置10では、ドアミラー本体12及び回動ケース28が格納位置に位置すると、ディテントプレート76の3個のケース山82、84、86は、それぞれ周方向において立壁部64の3個のスタンド山66、68、70から離間している。またドアミラー装置10では、ドアミラー本体12及び回動ケース28が格納位置とミラー使用位置との間に位置していると、図9に示されるように、ケース本体30の垂下壁30Cの先端とミラースタンド22のベースプレート部24との間には僅かな隙間が形成される。
【0044】
一方、図7に示されるように、ドアミラー装置10では、ドアミラー本体12及び回動ケース28がミラー使用位置に位置すると、ディテントプレート76の3個のケース山82、84、86が立壁部64における3個のスタンド山66、68、70の傾斜面72にそれぞれ当接する。これにより、回動ケース28がミラー使用位置を越えて前可倒位置へ回動することが制限される。
【0045】
ドアミラー装置10では、クラッチディスク58、ギヤプレート56及びクラッチスプリング62がドアミラー本体12(回動ケース28)に装置外部から過大な荷重が作用した場合に、ギヤ列機構59を介して連結されたモータ46と支持軸26との間の連結状態を解除する第1クラッチ機構124(図9参照)を構成している。
【0046】
ドアミラー装置10では、第1クラッチ機構124の非作動時には、図14及び図18(A)に示されるように、クラッチディスク58がクラッチ突起120をギヤプレート56のクラッチ溝122内に挿入している。これにより、ギヤプレート56がクラッチ突起120及びクラッチ溝122を介してクラッチディスク58に連結され、ギヤプレート56の回転がクラッチディスク58により阻止される。
【0047】
またドアミラー装置10では、第1クラッチ機構124の非作動に、格納位置(図6参照)にあるドアミラー本体12(回動ケース28)にミラー使用位置側へ向いた荷重が作用し、あるいはミラー使用位置にある回動ケース28に格納位置側へ向いた荷重が作用すると、この荷重がギヤ列機構59を介してギヤプレート56に支持軸26回りのトルクとして伝達される。
【0048】
このとき、ギヤプレート56に伝達されるトルクが所定の許容値PLよりも大きいと、図13に示されるように、クラッチディスク58がクラッチスプリング62を圧縮しつつ上方へ変位すると共に、クラッチ突起120をギヤプレート56のクラッチ溝122内から離脱させ、クラッチ突起120をギヤプレート56の上端面に当接する。これにより、ギヤプレート56とクラッチディスク58と連結状態が解除され、支持軸26がモータ46から切り離されるので、回動ケース28がミラー使用位置から格納位置又は格納位置からミラー使用位置へそれぞれ回転可能になる。
【0049】
またドアミラー装置10では、ディテントプレート76、立壁部64及びクラッチスプリング62が第2クラッチ機構126を構成している。すなわち、ドアミラー装置10では、ミラー使用位置にあるドアミラー本体12(回動ケース28)に前可倒位置側へ向いた荷重が作用すると、この荷重がギヤ列機構59を介してギヤプレート56に支持軸26回りのトルクとして伝達される。このとき、ギヤプレート56に伝達されるトルクが所定の許容値PHよりも大きいと、図14に示されるように、第1クラッチ機構124及び第2クラッチ機構126が略同時に作動する。この許容値PHは、許容値HLよりも大きい値に設定されている。
【0050】
ドアミラー装置10では、第1クラッチ機構124が作動すると、前述したように、クラッチディスク58が上方へ変位すると共に、クラッチ突起120をギヤプレート56のクラッチ溝122内から離脱させる。これにより、ギヤプレート56とクラッチディスク58と連結状態が解除され、支持軸26がモータ46から切り離される。
【0051】
またドアミラー装置10では、第2クラッチ機構126が作動する際には、回動ケース28が前可倒位置側へ回転すると共に、ディテントプレート76のケース山82、84、86の傾斜面88がそれぞれ立壁部64のスタンド山66、68、70の傾斜面72と摺接することで、ディテントプレート76には軸方向に沿って立壁部64から離間する方向へ向いた分力が生じる。
【0052】
これにより、ドアミラー装置10では、図14に示されるように、ディテントプレート76が回動ケース28と一体となってクラッチスプリング62の付勢力に抗して上方へ変位し、ディテントプレート76の3個のケース山82、84、86がそれぞれミラースタンド22の3個のスタンド山66、68、70の頂面上に乗り上げる。この状態では、回動ケース28は、ミラー使用位置から前可倒位置まで回動することが可能となる。
【0053】
またドアミラー装置10では、第1クラッチ機構124が作動した後、この第1クラッチ機構124を非作動状態に復帰させる場合には、ドアミラー本体12(回動ケース28)を第1クラッチ機構124が作動する前の位置に復帰(回動)させれば、クラッチスプリング62の付勢力によりクラッチディスク58がギヤプレート56側へ移動すると共に、クラッチディスク58のクラッチ突起120がギヤプレート56のクラッチ溝122内へ挿入され、ギヤプレート56がクラッチディスク58にトルク伝達可能に連結(再連結)される。
【0054】
またドアミラー装置10では、第1クラッチ機構124及び第2クラッチ機構126の双方が作動した後、これらのクラッチ機構をそれぞれ非作動状態に復帰させる場合にも、ドアミラー本体12(回動ケース28)を第1及び第2クラッチ機構126が作動する前の位置に復帰(回動)させれば、上述したように第1クラッチ機構124が非作動状態に復帰すると同時に、クラッチスプリング62の付勢力によりディテントプレート76が回動ケース28と一体となって下方へ変位すると共に、ディテントプレート76のケース山82、84、86がそれぞれミラースタンド22のスタンド山66、68、70の頂面上から離脱し、ケース山82、84、86がそれぞれ周方向に沿ってミラースタンド22のスタンド山66、68、70と対向する。これにより、ギヤ列機構59を介してモータ46から支持軸26へトルクが伝達可能となると共に、ケース山82、84、86及びスタンド山66、68、70により回動ケース28の回動範囲がミラー使用位置と格納位置との間に制限される。
【0055】
図3に示されるように、アッパカバー32の頂板部32Aには、下方へ突出する円筒状の内壁筒100が一体的に形成されている。この内壁筒100は、支持軸26と同軸的に配置されており、その先端側(下端側)の一部が支持軸26の先端側(上端側)の一部と軸方向に沿って重なり合った状態に支持されている。内壁筒100には、その先端側に基端側に対して内径が拡大されると共に、肉厚が薄くなった浸漬シール部102が形成されている。一方、支持軸26は、ミラースタンド22におけるベースプレート部24と一体的に形成された円筒状の軸本体104及び、この軸本体104の先端部に圧入固定されるシール部材106を備えている。
【0056】
シール部材106には基端側に円筒状の圧入筒部108が形成されており、シール部材106は、圧入筒部108を軸本体104の先端部における内周側へ圧入することにより、圧入筒部108を介して軸本体104の先端部に同軸的に固定されている。シール部材106には、圧入筒部108に対して先端側に断面が略U字状とされた樋状部110が一体的に形成されており、この樋状部110内には不定形シール剤としてグリース(図示省略)が充填されている。内壁筒100は、その浸漬シール部102を樋状部110内へ挿入すると共に、浸漬シール部102の先端側をグリース中に浸漬している。これにより、浸漬シール部102と樋状部110との間がグリースにより液密状態にシールされる。
【0057】
次に、第1クラッチ機構124を構成するクラッチディスク58のクラッチ突起120及びギヤプレート56のクラッチ溝122について詳細に説明する。
【0058】
ギヤプレート56における4個のクラッチ溝122は、図16に示されるように、その中心線CCの延長線が軸心Sを通過しており、軸心Sを中心とする径方向に沿って延在している。クラッチ溝122は、図18(D)に示されるように、軸心Sを中心とする周方向に沿った断面形状が底面部128側から開口端側へ向って幅がテーパ状に広がる略台形状に形成されている。クラッチ溝122は、図16に示されるように、底面部128の両端と一対の側面部130とがそれぞれ交わる第1稜線L1及び、一対の側面部130がそれぞれギヤプレート56の上端面と交わる第2稜線L2がそれぞれ中心線CCと平行に延在している。
【0059】
一方、クラッチディスク58のクラッチ突起120も、図17に示されるように、その中心線CPの延長線が軸心Sを通過しており、軸心Sを中心とする径方向に沿って延在している。クラッチ突起120は、図18(D)に示されるように、軸心Sを中心とする周方向に沿った断面形状が基端側から頂面部132側へ向って幅がテーパ状に狭くなる略台形状に形成されている。クラッチ突起120は、図17に示されるように、一対の側面部134とギヤプレート56の上端面とが交わる第3稜線L3が中心線CPと平行に延在している。
【0060】
またクラッチ突起120は、頂面部132の両端と一対の側面部134とがそれぞれ交わる第4稜線L4が内周側から外周側へ向って中心線CP側へ傾く方向に沿って延在しており、一対の第4稜線L4は、中心線CPに対する傾斜角が互いに等しくなっている。すなわち、クラッチ突起120の頂面部132は、その面形状が内周(軸心S)側から外周側へ向って幅がテーパ状に狭くなる、所謂逆放射形状に形成されている。
【0061】
(実施形態の作用)
次に、本実施形態に係るドアミラー装置10の動作及び作用について説明する。
【0062】
ドアミラー装置10では、図示しないスイッチの操作によりモータ46が駆動され、出力軸48と一体でウォーム50が回転されると、ウォーム50に噛合されたヘリカルギヤ52がシャフトウォーム54と一体で回転され、シャフトウォーム54が噛合されたギヤプレート56に回転力が付与される。この回転力の反力で回動ケース28が回動される。これにより、ドアミラー本体12が回動ケース28と一体となってミラー使用位置から格納位置へ回動し、又は格納位置からミラー使用位置へ回動する。
【0063】
また、格納位置からミラー使用位置へ向けて回動するドアミラー本体12及び回動ケース28がミラー使用位置に達した際には、ディテントプレート76の3個のケース山82、84、86の各傾斜面88が、それぞれミラースタンド22の3個のスタンド山66、68、70の各傾斜面72に当接することで、ドアミラー本体12及び回動ケース28のミラー使用位置を越えた車体前方側への回動が制限される。このため、モータ46の出力軸48は回転することができなくなり、モータ46に流れる電流の電流値が所定の閾値以上に上昇する。これにより、図示しない制御回路によってモータ46への通電が遮断され、モータ46が停止される。
【0064】
一方、ミラー使用位置にあるドアミラー本体12(回動ケース28)に車体後方(格納位置)側へ向いた荷重が作用し、又は格納位置にある回動ケース28に車体前方(ミラー使用位置)側へ向いた荷重が作用し、この荷重が許容値PLを超えている場合には、クラッチディスク58がクラッチスプリング62の付勢力に抗して上方へ変位すると共に、クラッチ突起120をギヤプレート56のクラッチ溝122から離脱させることにより、ギヤ列機構59を介したモータ46と支持軸26との連結が解除され、回動ケース28がミラー使用位置から格納位置側へ回動可能となる。
【0065】
また、ミラー使用位置にある回動ケース28に車体前方(前可倒位置)側へ向いた荷重が作用し、この荷重が許容値LHを超えている場合には、クラッチディスク58がクラッチスプリング62の付勢力に抗して上方へ変位すると共に、クラッチ突起120をギヤプレート56のクラッチ溝122から離脱させると同時に、ディテントプレート76がクラッチスプリング62の付勢力に抗して上方へ変位すると共に、3個のケース山82、84、86をそれぞれミラースタンド22の3個のスタンド山66、68、70の頂面状に移動させることにより、回動ケース28がミラー使用位置から前可倒位置側へ回動可能になる。
【0066】
以上説明したドアミラー装置10では、ギヤプレート56におけるクラッチ溝122の周方向に沿った断面形状を底面部128側から開口端側へ向ってテーパ状に幅が広がる略台形状とし、しかもクラッチディスク58のクラッチ突起120の周方向に沿った断面形状を基端側から頂面部132側へ向ってテーパ状に幅が狭くなる略台形状とすると共に、頂面部132の面形状を内周側から外周側へ向って幅が狭くなる逆放射形状としたことにより、回動ケース28又はモータ46から駆動側クラッチディスクであるギヤプレート56に許容値PL以下のトルクが伝達されているときには、図18(A)に示されるように、クラッチ突起120がクラッチ溝122に挿入された状態に保持されると共に、クラッチ突起120の一方の側面部134がクラッチ溝122の一方の側面部130に圧接しつつ、クラッチ突起120の側面部134からクラッチ溝122の側面部130へ作用する圧接力(荷重)が軸心S回りのトルクとして受動側のクラッチディスク58へ伝達され、このトルクの反力により回動ケース28ギヤプレート56に従動回転する。
【0067】
ここで、図18(E)には、平面視でのクラッチ突起120が示されると共に、このクラッチ突起120が図18(A)に示される状態にあるときクラッチ突起120のクラッチ溝122との接触領域(圧接領域)がドットパターンDBにより示されている。この図から明らかなように、クラッチ突起120は、その側面部134における内周側の一部をクラッチ溝122の側面部130における内周側の一部に点接触に近い状態で圧接させている。
【0068】
またドアミラー装置10では、モータ46又は回動ケース28からギヤプレート56へ許容値PLを超えるトルクが伝達されると、クラッチ突起120における軸方向に対して傾斜した側面部134とクラッチ溝122における軸方向に対して傾斜した側面部130との間に生じる軸方向に沿った分力が、クラッチスプリング62の付勢力よりも大きくなり、クラッチディスク58がクラッチスプリング62の付勢力に抗して上方へ変位しつつ、図18(A)〜(D)に示されるように、ギヤプレート56の回転に従ってクラッチ突起120がクラッチ溝122内から序々に抜け出してゆき、ギヤプレート56が所定量回転すると、クラッチ溝122から離脱してギヤプレート56の上端面上に乗り上げる。
【0069】
ここで、図18(E)〜(H)には、それぞれ平面視でのクラッチ突起120が示されると共に、このクラッチ突起120が図18(A)〜(D)に示される状態にあるときクラッチ突起120のクラッチ溝122との接触領域(圧接領域)がドットパターンDB及びDWにより示されている。図18(E)〜(H)に示されるドットパターンDBは、クラッチ突起120が図18(A)〜(D)にそれぞれ示される状態にある時の、クラッチ突起120における実際の圧接領域を示し、ドットパターンDWは、クラッチ突起120が図18(A)の状態から図18(D)の状態へ移行して行く際の側面部134上での圧接領域の移動軌跡を示している。
【0070】
図18(F)に示されるように、ギヤプレート56の回転開始の初期段階では、圧接領域(ドットパターンDB)は側面部134における第3稜線L3側の端部付近から略周方向に沿って第4稜線L4側へ移動する。次いで、図18(G)及び(H)に示されるように、圧接領域は、ギヤプレート56の回転量の増加に従って、側面部134の内周側から略径方向に沿って外周側へ移動する。
【0071】
そして、クラッチ突起120がクラッチ溝122から離脱する直前には、図18(H)に示されるように、ギヤプレート56の回転に従って、圧接領域は僅かに第4稜線L4側へ移動する。
【0072】
従って、ドアミラー装置10によれば、ギヤプレート56に許容値PLを超えるトルクが伝達された場合には、ギヤプレート56の回転(位相変化)に伴ってクラッチ突起120がクラッチ溝122内から抜け出ると共に、クラッチ突起120のクラッチ溝122との圧接領域が内周側から外周側へ徐々に移動するため、クラッチ突起の稜線及びクラッチ溝の各稜線が径方向と平行になっており、クラッチ突起の側面部とクラッチ溝の側面部との圧接領域が外周側にあって、殆ど変化しない従来のドアミラー装置と比較し、装置の組立開始直後に、クラッチ突起120の側面部134とクラッチ溝122の側面部130とが固着するスティッキング現象の発生を効果的に防止でき、この結果、スティッキング現象の発生によりギヤプレート56のクラッチ突起120がクラッチディスク58のクラッチ溝122から離脱させる作動トルクが設定値(=許容値PL)に対して過大になることを抑制できる。
【0073】
またドアミラー装置10では、クラッチ突起120の頂面部132の面形状を内周側から外周側へ向って幅が狭くなる逆放射とし、かつクラッチ突起120における側面部134がクラッチディスク58の下端面と交わる第3稜線L3を径方向と平行に延在させたことにより、ギヤプレート56へのトルク伝達時には、クラッチ突起120の側面部134とクラッチ溝122の側面部130とにより所定方向の分力Fが発生する。この分力Fは、図18(A)に示されるように、初期段階の圧接領域を起点とし、内周側から外周側へ向き、かつ中心線CP側に傾いたものになる。これにより、側面部130、134が初期段階で発生する分力の方向が圧接領域の移動方向と近似するものとなるので、ギヤプレート56に許容値PLを超えるトルクが伝達された際に、ギヤプレート56の回動量の増加に従って、クラッチ突起120の側面部134のクラッチ溝122の側面部130との圧領域を円滑に内周側から外周側へ序々に移動(摺動)させることができる。
【0074】
なお、本実施形態に係るドアミラー装置10では、クラッチ突起120を受動側のクラッチディスク58に形成すると共に、クラッチ溝122をクラッチディスクであるギヤプレート56に形成したが、これとは逆に、クラッチ突起をギヤプレートに形成すると共に、クラッチ溝122をギヤプレート56に形成した場合にも、本実施形態に係るドアミラー装置10と同様の作用効果を得られる。
【実施例】
【0075】
図19には、本発明の実施例及び比較例に係るドアミラー装置における第1のクラッチ手段の作動トルクと作動回数との関係が示されている。実施例に係るドアミラー装置では、第1のクラッチ手段を構成するクラッチディスク及びギヤプレートにそれぞれ上述した本実施形態に係るクラッチ突起及びクラッチ溝(図15、16及び17参照)が形成されている。
【0076】
また比較例1に係るドアミラー装置では、クラッチディスク及びギヤプレートがそれぞれ軸心Sを中心とする径方向と平行に延在しており、かつ稜線L1〜L4(これらの稜線の意味は、上述した実施形態の場合と同様)がそれぞれクラッチディスク及びクラッチ溝の中心線と平行になっている。
【0077】
また比較例2に係るドアミラー装置では、クラッチディスク及びギヤプレートが、稜線L1〜L4の延長線がそれぞれ軸心Sを通過する、所謂放射形状とされている。なお、実施例及び比較例1、2では、クラッチスプリングとしてばね定数が同一のものを用い、その圧縮量も同一とした。
【0078】
図19に示されるように、実施例及び比較例1、2の何れでも、作動回数Nが1回目の場合に作動トルクTが最も高くなり、1〜3回目まででは作動回数Nの増加に従って急激に作動トルクTが減少する。そして、作動回数Nが4回を超えると、作動トルクTが略一定となり安定化する。
【0079】
実施例に係るドアミラー装置では、作動回数Nが1〜3回目では、比較例1及び2に係るドアミラー装置と比較し、作動トルクTが十分に小さいものになっている。特に、第1のクラッチ手段が作動する際に伝達される作動トルクTが25以上である場合には、初期不良(クラッチ突起とクラッチとのスティッキング)が生じやすい危険領域となるが、実施例に係るドアミラー装置では、第1のクラッチ手段の最初の作動時から作動トルクTが十分低く抑えられている。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施形態に係るドアミラー装置の概略的な構成を示す正面図である。
【図2】図1に示される格納機構の構成を示す分解斜視図である。
【図3】図1に示される格納機構の構成を示す軸方向に沿った断面図である。
【図4】図1に示される回動ケースを軸方向下側から見た底面図である。
【図5】図1に示される回動ケースを軸方向上側から見た平面図である。
【図6】図1に示されるドアミラー本体及び回動ケースの構成を示す平面図であり、ドアミラー本体及び回動ケースが格納位置にある状態を示している。
【図7】図1に示されるドアミラー本体及び回動ケースの構成を示す平面図であり、ドアミラー本体及び回動ケースがミラー使用位置にある状態を示している。
【図8】図1に示されるドアミラー本体及び回動ケースの構成を示す平面図であり、ドアミラー本体及び回動ケースが前可倒位置にある状態を示している。
【図9】図1に示される回動ケース及び回動ケースの内部の構成を示す軸方向に沿った断面図であり、第1クラッチ機構及び第2クラッチ機構の非作動時の状態を示している。
【図10】図2に示されるミラースタンドにおける立壁の構成を示す平面図である。
【図11】図2に示されるディテントプレートの上端面の構成を示す平面図である。
【図12】図2に示されるディテントプレートの下端面の構成を示す平面図である。
【図13】図1に示される回動ケース及び回動ケースの内部の構成を示す軸方向に沿った断面図であり、第1クラッチ機構が作動している状態を示している。
【図14】図1に示される回動ケース及び回動ケースの内部の構成を示す軸方向に沿った断面図であり、第1クラッチ機構及び第2クラッチ機構が作動している状態を示している。
【図15】図9に示されるクラッチディスク及びギヤプレートの構成を示す斜視面図である。
【図16】図15に示されるギヤプレートの構成を示す平面面図である。
【図17】図15に示されるクラッチディスクの構成を示す平面面図である。
【図18】図9に示されるクラッチディスクのクラッチ突起がギヤプレートのクラッチ溝を離脱する際の動作を示す側面図及び平面図である。
【図19】本発明の実施例及び比較例に係るドアミラー装置における第1クラッチ機構の作動トルクと作動回数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
10 ドアミラー装置(車両用ミラー装置)
22 ミラースタンド
26 支持軸
28 回動ケース
46 モータ(トルク発生源)
50 ウォーム(トルク伝達手段)
52 ヘリカルギヤ(トルク伝達手段)
54 シャフトウォーム(トルク伝達手段)
56 ギヤプレート(駆動側クラッチディスク)
56A 外歯(トルク伝達手段)
58 クラッチディスク(受動側クラッチディスク)
59 ギヤ列機構(トルク伝達手段)
62 クラッチスプリング(クラッチ付勢部材)
120 クラッチ突起
122 クラッチ溝
128 底面部(クラッチ溝)
130 側面部(クラッチ溝)
132 頂面部(クラッチ突起)
134 側面部(クラッチ突起)
L1 第1稜線
L2 第2稜線
L3 第3稜線
L4 第4稜線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持軸が立設され、車体側に連結されるミラースタンドと、
前記支持軸の外周側に配置されると共に、該支持軸により回動可能に支持され、後方視認用のミラーが連結される回動ケースと、
前記支持軸の外周側に嵌挿され、該支持軸に回動方向に沿って固定されると共に、軸方向へ移動可能に支持された環状の受動側クラッチディスクと、
前記支持軸の外周側に嵌挿され、該支持軸により相対的に回転可能に支持されると共に、前記支持軸を中心とする回動方向に沿って前記回動ケースと連結された環状の駆動側クラッチディスクと、
前記受動側クラッチディスクを前記軸方向に沿って前記駆動側クラッチディスク側へ付勢するクラッチ付勢部材と、
前記受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の一方に、前記支持軸の軸心を中心とする径方向に沿って延在するように形成されたクラッチ溝と、
前記受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の他方に、前記径方向に沿って延在するように形成され、前記回動ケースから前記駆動側クラッチディスクへ前記付勢部材の付勢力に対応する設定値以下のトルクが伝達されているときには、前記クラッチ溝に挿入されて前記駆動側クラッチディスクを前記受動側クラッチディスクにトルク伝達可能に連結した連結状態とし、前記回動ケースから前記駆動側クラッチディスクへ前記設定値を超えるトルクが伝達されると、前記クラッチ溝から離脱して前記連結状態を解除するクラッチ突起と、を有し、
前記クラッチ溝の前記支持軸の軸心を中心とする周方向に沿った断面形状を溝底側から開口端側へ向って幅が広がる略台形状とし、
前記クラッチ突起の前記周方向に沿った断面形状を基端側から先端側へ向って幅が狭くなる略台形状とすると共に、頂面部の面形状を内周側から外周側へ向って幅が狭くなる逆放射形状としたことを特徴とする車両用ミラー装置。
【請求項2】
前記回動ケースに配置されたトルク発生源と、
前記回動ケースに配置されると共に、前記トルク発生源をトルク伝達可能に前記駆動側クラッチディスクに連結し、前記トルク発生源により発生したトルクを、前記支持軸を中心とする回動方向の駆動トルクとして前記駆動側クラッチディスクに伝達するトルク伝達手段と、
を有することを特徴とする請求項1記載の車両用ミラー装置。
【請求項3】
前記クラッチ溝における底面部と側面部とが交わる第1の稜線及び、該側面部が前記受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の一方と交わる第2の稜線を、それぞれ前記径方向と平行に延在させ、
前記クラッチ突起における側面部が前記受動側クラッチディスクの一端面及び前記駆動側クラッチディスクの他端面の他方と交わる第3の稜線を径方向と平行に延在させたことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ミラー装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2008−155804(P2008−155804A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347855(P2006−347855)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】