説明

車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ

【課題】摩擦係数が変動して大きくなってもドラムブレーキのセルフサーボ効果を抑制して安定した制動力を発生する車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキを提供する。
【解決手段】
アンカー機構28は、カム部材52がその軸心c回りの一方向に回動することによりブレーキドラム12の回転方向上流側に位置するブレーキシュー20の他端部20bを第1連結部材54を介してブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢するものであるため、摩擦係数μが大きくなるとブレーキドラム12の回転方向上流側に位置するブレーキシュー20の他端部20bがカム部材52に当接する当接力F1が大きくなりカム部材52が軸心c回りの一方向に回転するので、ブレーキシュー20が第1連結部材54を介してブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢されドラムブレーキ10の制動力の上昇が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキに関し、特に車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキの性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキは、たとえば特許文献1の図5に示すように、(a) バッキングプレート上に拡開可能に配設された円弧状の一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一端部をそれぞれ外周側へ押し付ける拡開装置と、(c) そのブレーキシューの他端部をそれぞれ当接させるためにそのバッキングプレートに固設されたアンカー機構とを含み、(d) 前記拡開装置によって前記一対のブレーキシューを拡開させてその一対のブレーキシューを回転ドラムの内周面に摺接させることによって、車輪の回転を制動するものである。また、前記車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキは、前記一対のブレーキシューのうち前記回転ドラムの回転方向上流側に位置する一方の所謂リーディングシューがそのリーディングシューのセルフサーボ(自己倍力)効果により少ない入力で大きな制動力を発生するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−174278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキにおいて前記リーディングシューのセルフサーボ効果は、前記ブレーキシューのライニングと前記回転ドラムの内周面との摩擦係数に依存しその摩擦係数が大きい程大きなサーボ(倍力)効果が得られるものである。しかしながら、上記摩擦係数は材質のばらつきや使用環境により変動し且つその摩擦係数の変動が前記セルフサーボ効果でさらに増幅されるため、制動時ドラムブレーキに必要以上の制動力が発生する場合があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、摩擦係数が変動して大きくなってもドラムブレーキのセルフサーボ効果を抑制して安定した制動力を発生する車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) バッキングプレート上に拡開可能に配設された円弧状の一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一端部をそれぞれ外周側へ押し付ける拡開装置と、(c) そのブレーキシューの他端部をそれぞれ当接させるためにそのバッキングプレートに固設されたアンカー機構とを含み、(d) 前記拡開装置によって前記一対のブレーキシューを拡開させてその一対のブレーキシューを回転ドラムの内周面に摺接させることによって、車輪の回転を制動する車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキであって、(e) 前記アンカー機構は、前記一対のブレーキシューの他端部間に張設されたスプリングによってその一対のブレーキシューの他端部がそれぞれ互いに接近する方向に当接すると共にそれら他端部の当接力の相反的変化によって前記バッキングプレートに垂直な方向の軸心回りに回動するカム部材と、そのカム部材から前記拡開装置側へ突き出した突部と前記一対のブレーキシューの他端部とを相互に連結する長手状の一対の連結部材とを備えたものであり、(f) 前記アンカー機構は、前記カム部材が前記軸心回りの一方向に回動することにより前記一対のブレーキシューのうちの前記回転ドラムの回転方向上流側に位置する一方の他端部を前記連結部材を介して前記回転ドラムの内周面から離間する方向に付勢するものである。
【0007】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記カム部材は、そのカム部材と前記一対のブレーキシューの一方の他端部とが当接する当接点とそのカム部材と前記一対のブレーキシューの他方の他端部とが当接する当接点とは前記カム部材の基端部の回動軸心よりもそのカム部材の突部側に対向して位置させるカム面を有し、(b) そのカム面は、前記一対のブレーキシューの一方の他端部から入力される前記他方のブレーキシューの他端部より大きい力の作用により、前記カム部がその突部を前記一対のブレーキシューの他方の他端部に接近するように回動させられると、そのカム部材と前記一対のブレーキシューの他方の他端部との当接点を更に前記カム部材の基端部の回動軸心よりもそのカム部材の突部側に移動させるものである。
【0008】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項2に係る発明において、(a) 前記一対のブレーキシューの他端部には、その他端部に一体的に固定された軸部材が突設され、(b) 前記連結部材には、前記軸部材を嵌入すると共に制動時前記カム部材が回動する所定範囲内においてその連結部材を移動可能に貫通する長手状の貫通穴が備えられているものであって、(c) 前記カム部材は、制動時そのカム部材の突部を前記一対のブレーキシューの他方の他端部に接近するように前記連結部材をその連結部材の貫通穴内で所定範囲回動してその所定範囲の回動を超えると前記軸部材が前記貫通穴の内周面と当接して前記一対のブレーキシューの一方を前記回転ドラムの内周面から離間する方向に付勢するものである。
【0009】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1に係る発明において、前記カム部材と当接する前記一対のブレーキシューの他端部のそれぞれ端面は、それら互いの端面の離間距離が前記バッキングプレート内周部から外周部に向かうにつれて大きくなるように所定角度傾斜している。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキによれば、(e) 前記アンカー機構は、前記一対のブレーキシューの他端部間に張設されたスプリングによってその一対のブレーキシューの他端部がそれぞれ互いに接近する方向に当接すると共にそれら他端部の当接力の相反的変化によって前記バッキングプレートに垂直な方向の軸心回りに回動するカム部材と、そのカム部材から前記拡開装置側へ突き出した突部と前記一対のブレーキシューの他端部とを相互に連結する長手状の一対の連結部材とを備えたものであり、(f) 前記アンカー機構は、前記カム部材が前記軸心回りの一方向に回動することにより前記一対のブレーキシューのうちの前記回転ドラムの回転方向上流側に位置する一方の他端部を前記連結部材を介して前記回転ドラムの内周面から離間する方向に付勢するものである。このため、前記アンカー機構において前記ブレーキシューと前記回転ドラムの内周面との摩擦係数が変動して大きくなると、前記一対のブレーキシューのうち前記回転ドラムの回転方向上流側に位置する一方のブレーキシューの他端部が前記カム部材に当接する当接力が大きくなりそのカム部材が前記軸心回りの一方向に回転するので、その回転ドラムの回転方向上流側に位置する一方のブレーキシューが前記連結部材を介して前記回転ドラムの内周面から離間する方向に付勢されてドラムブレーキの制動力の必要以上の上昇が抑制される。すなわち、前記摩擦係数が変動して大きくなっても前記アンカー機構によってドラムブレーキのセルフサーボ効果が抑制されるため安定した制動力が発生することができる。
【0011】
請求項2に係る発明の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキによれば、(a) 前記カム部材は、そのカム部材と前記一対のブレーキシューの一方の他端部とが当接する当接点とそのカム部材と前記一対のブレーキシューの他方の他端部とが当接する当接点とは前記カム部材の基端部の回動軸心よりもそのカム部材の突部側に対向して位置させるカム面を有し、(b) そのカム面は、前記一対のブレーキシューの一方の他端部から入力される前記他方のブレーキシューの他端部より大きい力の作用により、前記カム部がその突部を前記一対のブレーキシューの他方の他端部に接近するように回動させられると、そのカム部材と前記一対のブレーキシューの他方の他端部との当接点を更に前記カム部材の基端部の回動軸心よりもそのカム部材の突部側に移動させるものである。そのため、前記一対のブレーキシューの一方の他端部から前記カム部材に入力される力が大きくなることにより前記カム部材の前記軸心回りのモーメントの釣り合いによって前記一対のブレーキシューの他方の他端部が前記カム面に当接する当接点が移動し、前記一対のブレーキシューの一方の他端部から前記カム部材に入力される力に対する前記一対のブレーキシューの他方の他端部から前記カム部材に入力される力の比率に応じて前記カム部材が回動する。前記カム部材が回動することによって所定以上の傾きが生じた時にそのカム部材の傾きが前記一対のブレーキシューの一方のブレーキシューへ伝達されるようにすれば、前記ドラムブレーキの制動力の必要以上の増加が好適に抑制される。
【0012】
請求項3に係る発明の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキによれば、(a) 前記一対のブレーキシューの他端部には、その他端部に一体的に固定された軸部材が突設され、(b) 前記連結部材には、前記軸部材を嵌入すると共に制動時前記カム部材が回動する所定範囲内においてその連結部材を移動可能に貫通する長手状の貫通穴が備えられているものであって、(c) 前記カム部材は、制動時そのカム部材の突部を前記一対のブレーキシューの他方の他端部に接近するように前記連結部材をその連結部材の貫通穴内で所定範囲回動してその所定範囲の回動を超えると前記軸部材が前記貫通穴の内周面と当接して前記一対のブレーキシューの一方を前記回転ドラムの内周面から離間する方向に付勢するものであるため、前記カム部材が回動する所定範囲を前記一対のブレーキシューの一方の他端部から前記カム部材に入力される力に対する前記一対のブレーキシューの他方の他端部から前記カム部材に入力される力の比率に基づいて前記貫通穴を設計することによって、所定の制動力を超えて摩擦係数が増大しようとしても、前記軸部材と前記貫通穴との間隙がなくなって前記カム部材が回動する傾きが前記連結部材を介して前記一対のブレーキシューの一方のブレーキシューへ伝達されることにより前記ドラムブレーキの制動力の必要以上の増加が好適に抑制されることができる。
【0013】
請求項4に係る発明の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキによれば、前記カム部材と当接する前記一対のブレーキシューの他端部のそれぞれ端面は、それら互いの端面の離間距離が前記バッキングプレートの内周部から外周部に向かうにつれて大きくなるように所定角度傾斜しているため、振動等によって前記カム部材に当接している前記一対のブレーキシューの他端部が前記バッキングプレートの外周部側へずれることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用されたリーディング・トレーリング型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1の実施例のドラムブレーキに備えられたアンカー機構の構成を説明するための拡大図である。
【図3】図2のIII-III視面図である。
【図4】図2のIV-IV視断面図である。
【図5】第1連結部材または第2連結部材を説明する斜視図である。
【図6】図5の矢印方向から見た図である。
【図7】ドラムブレーキの非制動状態における図2のアンカー機構を示す図である。
【図8】ドラムブレーキの摩擦係数が変動して大きくなった場合において、一対のブレーキシューの他端部から入力される力の比率がドラムブレーキ10の所定の制動力以内である時のそのアンカー機構のドラムブレーキの制動状態を示す図である。
【図9】ドラムブレーキの摩擦係数が変動して大きくなった場合において、一対のブレーキシューの他端部から入力される力の比率がドラムブレーキ10の所定の制動力以上である時のそのアンカー機構のドラムブレーキの制動状態を示す図である。
【図10】本実施例のアンカー機構が備えられたドラムブレーキと、一対のブレーキシューの他端部の間に例えばアンカーブロックが2本のリベッドによって回転不能にバッキングプレートに固設されたアンカー機構が備えられた従来のドラムブレーキとによる摩擦係数μに対する効きをBEF(Brake Effectiveness Factor)で表す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付ドラムブレーキであるリーディング・トレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、ブレーキドラム(回転ドラム)12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0017】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0018】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部16aに凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18,20と、その一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aすなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたホイールシリンダ(拡開装置)22と、一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aを互いに接近する方向に常時付勢してホイールシリンダ22に当接させるために、その一端部18a,20a間に張設されたコイル状のリターンスプリング24と、そのコイル状のリターンスプリング24の内部を挿通するように一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20a間に掛け渡された非制動時における一対のブレーキシュー18,20とブレーキドラム12の内周面14との間すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調節機構26と、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bすなわち図1の下端部のそれぞれを当接するためにバッキングプレート16に位置固定に設けられたアンカー機構28と、一対のブレーキシュー18,20他端部18b,20b間に張設されてそれら他端部18b,20bをそれぞれ互いに接近する方向にアンカー機構28に当接するスプリング30とが備えられている。
【0019】
一対のブレーキシュー18,20は、何れも、バッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ32,34と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム36,38と、それらシューリム36,38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40,42とによってそれぞれ構成されている。また、一対のブレーキシュー18,20は、シューウェブ32およびシューウェブ34にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置44,46によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。また、ブレーキシュー18の一端部18aには、平板状のパーキングブレーキレバー48の基端部がピン50により相対回動可能に連結されている。バッキングプレート16、シューウェブ32,34、シューリム36,38は、いずれも鋼板から打ち抜かれ且つ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。
【0020】
図2に示すように、アンカー機構28には、スプリング30の付勢力によって一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bがそれぞれ互いに接近する方向に当接すると共にそれら他端部18b,20bの当接する力の相反的変化によってバッキングレート16の板面に対して略垂直な方向の軸心c回りに回動するカム部材52と、そのカム部材52の一部からホイールシリンダ22側へ突き出した突部52aと、その突部52aと一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bとを相互に連結する長手状の第1連結部材54および第2連結部材56とが備えられている。
【0021】
図3に示すように、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bの間に位置するバッキングプレート16には、軸心c回りに回転可能に固設された略テーパ形状のアンカー部材58と、そのアンカー部材58の上面58aからバッキングプレート16から離間する方向に軸心cを中心に円柱形状に伸長された軸部58bとが備えられており、そのアンカー部材58の軸部58bにカム部材52の中央に貫通された円柱状の貫通穴52bが嵌め入れられることによって、カム部材52が軸心c回りに回動可能にアンカー部材58を介してバッキングプレート16に固定されている。
【0022】
図2に示すように、カム部材52は、そのカム部材52とブレーキシュー20の他端部20bとが当接する当接点Aとカム部材52とブレーキシュー18の他端部18bとが当接する当接点Bとはカム部材52の軸心cよりもカム部材52の突部52a側に対向して位置させるカム面52cを有し、例えばドラムブレーキ10の制動時にブレーキシュー20の他端部20bからカム部材52にブレーキシュー18の他端部18bからカム部材52に入力される力F2より大きい力F1が入力された場合において、カム部材52はその突部52aをブレーキシュー18の他端部18bに接近する方向に軸心c回りに回動する。また、ドラムブレーキ10の制動時にブレーキシュー18の他端部18bからカム部材52にブレーキシュー20の他端部20bからカム部材52に入力される力F1より大きい力F2が入力された場合は、カム部材52がその突部52aをブレーキシュー20の他端20bに接近する方向に軸心c回りに回動する。
【0023】
また、図2に示すように、カム部材52において、そのカム部材52のホイールシリンダ22側と反対側の外周縁は曲率半径r1、曲率中心dに設定された曲率円Dと同様に曲げられ、突部52aのホイールシリンダ22側の外周縁は曲率半径r2、曲率中心eに設定された曲率円Eと同様に曲げられており、カム部材52およびそのカム面52cは曲率中心eと曲率中心dとを結ぶ直線に対して対称になっている。
【0024】
また、図2に示すように、ドラムブレーキ10の非制動時、カム部材52の突部52aと一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bとの間には間隙aがそれぞれ設けられているため、例えばブレーキシュー20の他端部20bからカム部材52に入力される力F1がブレーキシュー18の他端部18bからカム部材52に入力される力F2より大きい場合、突部52aがブレーキシュー18の他端部18bに接近するように回動してその突部52aとブレーキシュー18の他端部18bと間の間隙aが小さくなると共に当接点Bがさらにカム部材52の軸心cよりも突部52a側に移動する。また、ブレーキシュー18の他端部18bからカム部材52に入力される力F2がブレーキシュー20の他端部20bからカム部材52に入力される力F1よりか大きい場合は、突部52aがブレーキシュー20の他端部20bに接近するように回動してその突部52aとブレーキシュー20の他端部20bとの間の間隙aが小さくなると共に当接点Aがさらにカム部材52の軸心cよりも突部52a側に移動する。
【0025】
また、図2に示すように、カム部材52のカム面52cと当接する一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bのそれぞれの端面18c,20cは、それら互いの端面18c,20cの離間距離がバッキングプレート16の内周部16bから外周部16aに向かうにつれて大きくなるように所定角度α傾斜しているため、車両走行中の振動等によってカム部材52のカム面52cに当接している一対のブレーキシュー18,20の端面18c,20cがバッキングプレート16の外周部16a側へずれることが防止される。
【0026】
また、所定角度αは、図2に示すように、ドラムブレーキ10の非制動時におけるカム部材52の曲率中心e、曲率中心d、軸心cを通る直線Y(以下、Y軸という)に対する一対のブレーキシュー18,20の端面18c,20cの傾きを示すものである。また、図2に示すように、一対のブレーキシュー18,20の端面18c,20cが所定角度α傾斜することによって、一対のブレーキシュー18,20の端面18c,20cからカム部材52に入力される力F1,F2の方向はドラムブレーキ10の非制動時においてカム部材52の当接点A、当接点Bを通る直線X(以下、X軸という)に対して角度α傾斜する。
【0027】
図4に示すように、カム部材52の突部52aには、曲率中心eを中心とする略円柱形状の軸部材60がその一端部60aをバッキングプレート16から離間する方向に突設させ且つその他端部60bをバッキングプレート16に接近する方向に突設させるように一体的に固設されており、軸部材60の一端部60aには第1連結部材54の一端部54aがその軸部材60の軸心e回り回動可能に連結されている。また、軸部材60の他端部60bには、第2連結部材56の一端部56aがその軸部材60の軸心e回り回動可能に連結されている。
【0028】
また、図4に示すように、ブレーキシュー20の他端部20bにはその他端部20bに一体的に固定された略円柱形状の第1軸部材62がバッキングプレート16から離間する方向に突設されており、第1連結部材54の他端部54bにはその第1軸部材62を嵌入すると共にカム部材52が軸心c回りに回動する所定範囲内において第1軸部材62の第1連結部材54の長手方向の移動を許容する長手状の貫通穴54cが備えられている。また、図2乃至4に示すように、ドラムブレーキ10の非制動時において第1連結部材54の貫通穴54cにおけるカム部材52から離間する側の端部の内周面54dと第1軸部材62との間には間隙aよりも大きい間隙bが設けられている。
【0029】
図3乃至図6に示すように、第1連結部材54の他端部54bには、その他端部54bがシューウェブ34に摺接するようにそのシューウェブ34に接近する方向に突き出された略U字状の突部54eと、そのU字状の突部54eの一対の端面において第1連結部材54の一端部54aから他端部54bに向かうに連れてその相互の離間距離が小さくなるように傾斜された一対の傾斜面54fとが備えられており、カム部材52が軸心c回りに回動することによって第1軸部材62が図6に示す矢印方向に移動する際、一対の傾斜面54fによって第1軸部材62は突部54eに引っ掛かり難くなり貫通穴54c内での移動が滑らかになる。
【0030】
図4に示すように、ブレーキシュー18の他端部18bにはその他端部18bに一体的に固定された略円柱形状の第2軸部材64がバッキングプレート16に接近する方向に突設されており、第2連結部材56の他端部56bにはその第2軸部材64を嵌入すると共にカム部材52が軸心c回りに回動する所定範囲内において第2軸部材64の第2連結部材56の長手方向の移動を許容する長手状の貫通穴56cが備えられている。また、図2乃至4に示すように、ドラムブレーキ10の非制動時において第2連結部材56の貫通穴56cにおけるカム部材52から離間する側の端部の内周面56dと第2軸部材64との間には間隙aよりも大きい間隙bが設けられている。
【0031】
図3乃至図6に示すように、第2連結部材56の他端部56bには、その他端部56bがシューウェブ32に摺接するようにそのシューウェブ32に接近する方向に突き出された略U字状の突部56eと、そのU字状の突部56eの一対の端面において第2連結部材56の一端部56aから他端部56bに向かうに連れてその相互の離間距離が小さくなるように傾斜された一対の傾斜面56fとが備えられており、カム部材52が軸心c回りに回動することによって第2軸部材64が図6に示す矢印方向に移動する際、一対の傾斜面56fによって第2軸部材64は突部56eに引っ掛かり難くなり貫通穴56c内での移動が滑らかになる。
【0032】
以上のように構成されたアンカー機構28によれば、ドラムブレーキ10の制動時に例えばブレーキシュー20の端面20cからカム部材52に入力される力F1がブレーキシュー18の端面18cからカム部材52に入力される力F2より大きいと、カム部材52の突部52aがブレーキシュー18の他端部18bに接近する方向に回動して第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材62との間隙bがドラムブレーキ10の非制動時に比較して小さくなる。また、ブレーキシュー20の端面20cからカム部材52に入力される力F1がさらに大きくなると第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材62との間の間隙bがなくなり第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dが第1軸部材62に当接する。
【0033】
また、アンカー機構28において、ドラムブレーキ10の制動時にブレーキシュー18の端面18cからカム部材52に入力される力F2がブレーキシュー20の端面20cからカム部材52に入力される力F1よりか大きいと、カム部材52の突部52aがブレーキシュー20の他端部20bに接近するように回動して第2連結部材56の貫通穴56cの内周面56dと第2軸部材64との間隙bがドラムブレーキ10の非制動時に比較して小さくなる。また、ブレーキシュー18の端面18cからカム部材52に入力される力F2がさらに大きくなると第2連結部材56の貫通穴56cの内周面56dと第2軸部材64との間隙bがなくなり第2連結部材56の貫通穴56cの内周面56dが第2軸部材64に当接する。
【0034】
リーディング・トレーリング型のドラムブレーキ10において、図1に示すように、パーキングブレーキレバー48には、その先端部に連結されたパーキングブレーキケーブル66が備えられており、図示しないパーキングレバーの操作によりパーキングブレーキケーブル66を介してパーキングブレーキレバー48の先端部がバッキングプレート16の中心側へ回動させられると、ブレーキシュー20の一端部20aがストラットであるシュー間隙自動調節機構26に押されて外周側へ移動させられるとともにブレーキシュー18の一端部18aがピン50に押されて外周側へ移動させられるので、一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aが拡開されて制動力が発生させられるようになっている。また、リーディング・トレーリング型のドラムブレーキ10において、図示されていないブレーキペダルの操作に伴ってホイールシリンダ22のピストンが突き出されることにより一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aが互いに離隔する方向に拡開され制動力が発生する。
【0035】
図8および図9は、前記パーキングレバーの操作或いは前記ブレーキペダルの操作が行われたドラムブレーキ10の制動状態において、ドラムブレーキ10に備えられたアンカー機構28の状態を説明する図である。また、図8はブレーキシュー18,20のライニング40,42とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μが変動して大きくなった場合において、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bからカム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2がドラムブレーキ10の所定の制動力以内である時のそのアンカー機構28の状態を示す図であり、図9は上記摩擦係数μが変動して大きくなった場合において、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bからカム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2がドラムブレーキ10の所定の制動力以上である時のそのアンカー機構28の状態を示す図である。また、ドラムブレーキ10の制動時において車輪すなわちブレーキドラム12は前進方向すなわち図1に示す矢印G方向に回転するものである。
【0036】
図7に示すドラムブレーキ10の非制動状態において、アンカー機構28には、そのカム部材52にブレーキシュー20の端面20cから入力される力F1とブレーキシュー18の端面18cから入力される力F2とが入力される。また、ドラムブレーキ10の非制動状態において、カム部材52に入力される力F1,F2はスプリング30の付勢力によって発生するものでありその大きさは略等しく、且つ、前述したようにカム部材52およびカム面52は曲率中心eと曲率中心dとを通る直線に対して対称であってY軸方向における軸心cと当接点Bとの距離L1とY軸方向における軸心cと当接点Aとの距離L2が略等しいため、カム部材52はその軸心c回りにおいてブレーキシュー20の端面20cから入力される回転モーメントF1cosα×L1がブレーキシュー18の端面18cから入力される回転モーメントF2cosα×L2によって相殺されるので図7のままの状態である。
【0037】
図8に示すドラムブレーキ10の制動状態において、一対のブレーキシュー18,20のうちブレーキドラム12の回転G方向上流側に位置するブレーキシュー20がリーディングシューとなりブレーキシュー18がトレーリングシューとなる。そのため、リーディングシューであるブレーキシュー20はセルフサーボ(自己倍力)効果によりそのブレーキシュー20の端面20cからカム部材52に入力される力F1がブレーキシュー18の端面18cからカム部材52に入力される力F2より大きくなるためカム部材52の突部52aはブレーキシュー18の他端部18b側に接近するように回動し第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材62との間の間隙bが非制動時に比較して小さくなる。
【0038】
また、図8に示すドラムブレーキ10の制動状態から使用環境等の変化により摩擦係数μがさらに大きくなってブレーキシュー20の端面20cからカム部材52に入力される力F1が大きくなり、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bからカム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2がドラムブレーキ10の所定の制動力以上に増加すると、図9に示すように第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材62とが当接しさらにカム部材52の突部52aがブレーキシュー18の他端部18b側に回動しようとする。
【0039】
第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材62とが当接した状態でカム部材52の突部52aがブレーキシュー18の他端部18b側にさらに回動しようとする場合、ブレーキシュー20の他端部20bが軸心c回りにそのカム部材52の突部52aと共に回動しようとするがリーディングシューであるブレーキシュー20はセルフサーボ効果により強い力でブレーキドラム10側に押し付けられているので、第1連結部材54を介して第1軸部材62すなわちブレーキシュー20の他端部20bには第1軸部材62の中心hから曲率中心eに向かう力F3が発生する。
【0040】
そのため、図9に示すように、摩擦係数μが変動して大きくなりカム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2がドラムブレーキ10の所定の制動力以上になると、第1連結部材54を介してブレーキシュー20の他端部20bに発生する力F3の分力F3sin(φ+α)によってブレーキシュー20がブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢されてブレーキシュー20であるリーディングシューのセルフサーボ効果が抑制される。すなわち、摩擦係数μが変動して大きくなりカム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2がドラムブレーキ10の所定の制動力以上の増加になると、アンカー機構28によってドラムブレーキ10のセルフサーボ効果が抑制されるため安定した制動力を発生することができる。また、角度φは、図9に示すように、X軸に対する第1軸部材62の中心hと曲率中心eとを通る直線の傾きすなわち第1連結部材54の傾きを示すものである。また、分力F3cos(φ+α)は力F1と同じ方向あり、分力F3sin(φ+α)はその力F1と直交しその分力F3sin(φ+α)の方向がブレーキシュー20の他端部20bにおいてブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢する力の方向に相当する。
【0041】
図8に示すドラムブレーキ10の制動状態において、カム部材52は、ブレーキシュー20の端面20cから入力される力F1がブレーキシュー18の端面18cから入力される力F2より大きくなると、その軸心c回りに回動してそれら当接点A,Bを移動させてカム部材52の軸心c回りの回転モーメントを釣り合わせる。そのため、ドラムブレーキ10のアンカー機構28において、カム部材52の軸心c、カム部材52とブレーキシュー18の端面18cとが当接する当接点A、カム部材52とブレーキシュー20の端面20cとが当接する当接点Bに基づいてブレーキシュー20の端面20cからカム部材52に入力される力F1に対するブレーキシュー18の端面18cからカム部材52に入力される力F2の比率F1/F2を求めることができる。
【0042】
すなわち、図8においてカム部材52の軸心c回りにおけるカム部材52の回転モーメントの釣り合いは下記(1)式で表すことができ、その(1)式を変形することにより下記(2)式を算出して下記(3)式で表すことができる。
F1cosα×L1=F2cosα×L2 …(1)
F1×L1=F2×L2 …(2)
(F1/F2)=(L2/L1) …(3)
すなわち、カム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2はY軸方向における軸心cと当接点Aとの距離L2に対するY軸方向における軸心cと当接点Bとの距離L1との比率L2/L1で表される。
【0043】
以上のことから、摩擦係数μが変動することによって変動するカム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2は、前記当接点A,Bの位置に基づいて算出することができるため、その当接点A,Bの位置に基づいて第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材52との間隙bを設計するすなわちアンカー機構28を設計することによって、カム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2がドラムブレーキ10の所定の制動力以上になると第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材62とが当接するようにすることができる。
【0044】
すなわち、摩擦係数μが変動して大きくなりカム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2がドラムブレーキ10の所定の制動力以上になると、第1連結部材54の貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材62とが当接して第1連結部材54を介してブレーキシュー20の他端部20bにブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢する力F3sin(φ+α)を発生させることができる。
【0045】
図10は、本実施例のアンカー機構28が備えられたドラムブレーキ10と、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bの間に例えばアンカーブロックが2本のリベッドによって回転不能にバッキングプレート16に固設された従来のアンカー機構が備えられたドラムブレーキ68とによる摩擦材であるライニング40,42とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μに対する効きをBEF(Brake Effectiveness Factor)で表した図であり、上記BEFは計算によって求められたものである。また、本実施例のアンカー機構28を備えたドラムブレーキ10は前記従来のアンカー機構を備えたドラムブレーキ68とアンカー機構が異なる点で相違するものであり、その他の構成は略同じである。
【0046】
図10によれば、従来のドラムブレーキ68も本実施例のドラムブレーキ10も摩擦係数μが0.4までは略同様のドラムブレーキの効きであるが、摩擦係数μが0.4以上になると従来のドラムブレーキ68は摩擦係数μの増加に伴いドラムブレーキの効き(BEF)が増加する傾向にあり、摩擦係数μが0.8になるとBEFが10以上になる。また、本願発明のドラムブレーキ10は摩擦係数μが0.4以上になると摩擦係数μの増加に対してドラムブレーキ10の効き(BEF)が僅かに増加するものの従来のドラムブレーキ68に比較して大きく安定しおり、摩擦係数μが0.8になってもBEFが4以下である。
【0047】
つまり、アンカー機構28を備える本実施例のドラムブレーキ10は、摩擦係数μが0.4以上になると第1連結部材54を介してブレーキシュー20の他端部20bにブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢する力F3sin(φ+α)が発生してリーディングシューであるブレーキシュー20のセルフサーボ効果が抑制されたため、摩擦係数μが上昇しても安定した制動力が発生したと考えられる。また、摩擦係数μの変動によって変動するカム部材52に入力される力F1,F2の比率F1/F2に基づいて貫通穴54cの内周面54dと第1軸部材62との間隙bを設計することによって、所定の制動力を超えて摩擦係数μが増大しようとしても、間隙bがなくなってカム部材52が回動する傾きが第1連結部材54を介してリーディングシューであるブレーキシュー20へ伝達されることによりドラムブレーキ10の制動力の必要以上の増加が好適に抑制されることができる。
【0048】
本実施例のアンカー機構28を備えたドラムブレーキ10おいて、前述したようにアンカー機構28に備えられたカム部材52およびカム面52cは曲率中心dと曲率中心eとを通る直線に対して対称に設計されているため、アンカー機構28は本実施例の車輪の前進時だけではなく車輪の後進時に対しても実施例と同様な効果を備えている。また、本実施例のアンカー機構28を備えたドラムブレーキ10は、摩擦係数μが変動して大きくなりドラムブレーキ10の設計狙い値を超えるような異常な制動力が発生する際に発生する鳴きを低減することが可能である。
【0049】
本実施例の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ10によれば、(e) アンカー機構28は、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20b間に張設されたスプリング30によってその一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bがそれぞれ互いに接近する方向に当接すると共にそれら他端部18b,20bの当接力の相反的変化によってバッキングプレート16に垂直な方向の軸心c回りに回動するカム部材52と、そのカム部材52からホイールシリンダ(拡開装置)22側へ突き出した突部52aと一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bとを相互に連結する長手状の第1連結部材54および第2連結部材56とを備えたものであり、(f) アンカー機構28は、カム部材52がその軸心c回りの一方向に回動することにより一対のブレーキシュー18,20のうちのブレーキドラム(回転ドラム)12の回転G方向上流側に位置するブレーキシュー20の他端部20bを第1連結部材54を介してブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢するものである。そのため、アンカー機構28においてブレーキシュー18,20のライニング40,42とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μが変動して大きくなると、一対のブレーキシュー18,20のうちブレーキドラム12の回転G方向上流側に位置するブレーキシュー20の他端部20bがカム部材52に当接する当接力F1が大きくなりそのカム部材52が軸心c回りの一方向に回転するので、そのブレーキドラム12の回転G方向上流側に位置するブレーキシュー20が第1連結部材54を介してブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢されてドラムブレーキ10の制動力の上昇が抑制される。すなわち、摩擦係数μが変動して大きくなってもアンカー機構28によってドラムブレーキ10のセルフサーボ効果が抑制されるため安定した制動力を発生することができる。
【0050】
また、本実施例の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ10によれば、(a) カム部材52は、そのカム部材52とブレーキシュー18の他端部18bとが当接する当接点Aとそのカム部材52とブレーキシュー20の他端部20bとが当接する当接点Bとはカム部材52の基端部の回動軸心cよりもそのカム部材52の突部52a側に対向して位置させるカム面52cを有し、(b) そのカム面52cは、ブレーキシュー20の他端部20bから入力されるブレーキシュー18の他端部18bより大きい力F1の作用により、カム部材52がその突部52aをブレーキシュー18の他端部18bに接近するように回動させられると、そのカム部材52とブレーキシュー18の他端部18bとの当接点Aを更にカム部材52の基端部の回動軸心cよりもそのカム部材52の突部52a側に移動させるものである。このため、ブレーキシュー20の他端部20bからカム部材52に入力される力F1が大きくなることによりカム部材52の軸心c回りのモーメントの釣り合いによってブレーキシュー18の他端部18bがカム面52cに当接する当接点Aが移動し、ブレーキシュー20の他端部20bからカム部材52に入力される力F1に対するブレーキシュー18の他端部18bからカム部材52に入力される力F2の比率F1/F2に応じてカム部材52が回動する。カム部材52が回動することによって所定以上の傾きが生じた時にそのカム部材52の傾きがブレーキシュー20へ伝達されるようにすれば、ドラムブレーキ10の制動力の必要以上の増加が好適に抑制される。
【0051】
また、本実施例の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ10によれば、(a) ブレーキシュー20の他端部20bには、その他端部20bに一体的に固定された第1軸部材62が突設され、(b) 第1連結部材54には、第1軸部材62を嵌入すると共にドラムブレーキ10の制動時カム部材52が回動する所定範囲内においてその第1連結部材62を移動可能に貫通する長手状の貫通穴54cが備えられているものであって、(c) カム部材52は、ドラムブレーキ10の制動時そのカム部材52の突部52aをブレーキシュー18の他端部18bに接近するように第1連結部材62をその貫通穴54c内で所定範囲回動してその所定範囲の回動を超えると第1軸部材62が貫通穴54cの内周面54dと当接してリーディングシューであるブレーキシュー20をブレーキドラム12の内周面14から離間する方向に付勢するものであるため、カム部材52が回動する所定範囲をブレーキシュー20の他端部20bからカム部材52に入力される力F1に対するブレーキシュー18の他端部18bからカム部材52に入力される力F2の比率F1/F2に基づいて貫通穴54cを設計することによって、所定の制動力を超えて摩擦係数μが増大しようとしても、間隙bがなくなってカム部材52が回動する傾きが第1連結部材54を介してブレーキシュー20へ伝達されることによりドラムブレーキ10の制動力の必要以上の増加が好適に抑制されることができる。
【0052】
また、本実施例の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ10によれば、カム部材52と当接する一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bのそれぞれ端面18c,20cは、それら互いの端面18c,20cの離間距離がバッキングプレート16の内周部16bから外周部16aに向かうにつれて大きくなるように所定角度α傾斜しているため、振動等によってカム部材52に当接している一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bがバッキングプレート16の外周部16a側へずれることが防止される。
【0053】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0054】
たとえば、本実施例のアンカー機構28を備えるリーディングトレーリング型ドラムブレーキ10において、ホイールシリンダ22を拡開装置として使用したが一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aをそれぞれドラムブレーキ10の外周側へ押し付けて一対のブレーキシュー18,20をブレーキドラム12の内周面14に摺接させるものであればどのような拡開装置が使用されても良い。
【0055】
また、本実施例のアンカー機構28を備えるリーディングトレーリング型ドラムブレーキ10において、アンカー機構28は各部寸法を自由に設計することができるとともにその設計によってアンカー機構28によるドラムブレーキ10のセルフサーボ効果の抑制度合いも設定することができる。
【0056】
また、本実施例のアンカー機構28を備えるリーディングトレーリング型ドラムブレーキ10において、一対のブレーキシュー18,20のライニング40,42の摩擦材をドラムブレーキ10の効きが低くなるフェード性能や水濡れ性能に優れるものにすれば、さらに安定した制動力を発生させることができる。
【0057】
また、本実施例のアンカー機構28を備えるリーディングトレーリング型ドラムブレーキ10において、アンカー機構28は単純且つ部品点数の増加も少ないので、従来のドラムブレーキの既存の構成部品から大幅な設計変更を伴わずに本実施例のドラムブレーキ10を製造することができ、本願発明のドラムブレーキを比較的に安価に製造することができる。
【0058】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:ドラムブレーキ
12:ブレーキドラム(回転ドラム)
14:内周面
16:バッキングプレート
16a:外周部
16b:内周部
18,20:一対のブレーキシュー
18a,20a:一端部
18b,20b:他端部
18c,20c:端面
22:ホイールシリンダ(拡開装置)
28:アンカー機構
30:スプリング
52:カム部材
52a:突部
52c:カム面
54:第1連結部材
54c:貫通穴
54d:内周面
56:第2連結部材
56c:貫通穴
56d:内周面
62:第1軸部材
64:第2軸部材
A:当接点
B:当接点
c:軸心
F1:力
F2:力
α:所定角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート上に拡開可能に配設された円弧状の一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一端部をそれぞれ外周側へ押し付ける拡開装置と、該ブレーキシューの他端部をそれぞれ当接させるために該バッキングプレートに固設されたアンカー機構とを含み、前記拡開装置によって前記一対のブレーキシューを拡開させて該一対のブレーキシューを回転ドラムの内周面に摺接させることによって、車輪の回転を制動する車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキであって、
前記アンカー機構は、前記一対のブレーキシューの他端部間に張設されたスプリングによって該一対のブレーキシューの他端部がそれぞれ互いに接近する方向に当接すると共にそれら他端部の当接力の相反的変化によって前記バッキングプレートに垂直な方向の軸心回りに回動するカム部材と、該カム部材から前記拡開装置側へ突き出した突部と前記一対のブレーキシューの他端部とを相互に連結する長手状の一対の連結部材とを備えたものであり、
前記アンカー機構は、前記カム部材が前記軸心回りの一方向に回動することにより前記一対のブレーキシューのうちの前記回転ドラムの回転方向上流側に位置する一方の他端部を前記連結部材を介して前記回転ドラムの内周面から離間する方向に付勢するものであることを特徴とする車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ。
【請求項2】
前記カム部材は、該カム部材と前記一対のブレーキシューの一方の他端部とが当接する当接点と該カム部材と前記一対のブレーキシューの他方の他端部とが当接する当接点とは前記カム部材の基端部の回動軸心よりも該カム部材の突部側に対向して位置させるカム面を有し、
該カム面は、前記一対のブレーキシューの一方の他端部から入力される前記他方のブレーキシューの他端部より大きい力の作用により、前記カム部がその突部を前記一対のブレーキシューの他方の他端部に接近するように回動させられると、そのカム部材と前記一対のブレーキシューの他方の他端部との当接点を更に前記カム部材の基端部の回動軸心よりも該カム部材の突部側に移動させるものであることを特徴とする請求項1の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ。
【請求項3】
前記一対のブレーキシューの他端部には、その他端部に一体的に固定された軸部材が突設され、
前記連結部材には、前記軸部材を嵌入すると共に制動時前記カム部材が回動する所定範囲内においてその連結部材を移動可能に貫通する長手状の貫通穴が備えられているものであって、
前記カム部材は、制動時該カム部材の突部を前記一対のブレーキシューの他方の他端部に接近するように前記連結部材をその連結部材の貫通穴内で所定範囲回動してその所定範囲の回動を超えると前記軸部材が前記貫通穴の内周面と当接して前記一対のブレーキシューの一方を前記回転ドラムの内周面から離間する方向に付勢するものであることを特徴とする請求項2の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ。
【請求項4】
前記カム部材と当接する前記一対のブレーキシューの他端部のそれぞれ端面は、それら互いの端面の離間距離が前記バッキングプレート内周部から外周部に向かうにつれて大きくなるように所定角度傾斜していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用リーディングトレーリング型ドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−223337(P2010−223337A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71493(P2009−71493)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】