説明

車両用制動装置

【課題】連通制御弁の作動を安定させて制動制御を安定させる車両用制動装置を提供すること。
【解決手段】車両用制動装置10はマスタシリンダ14とオイルポンプ74とをマスタ導管18およびオイル吸入導管72を介して連通制御する連通制御弁20を備えている。制御弁20はヘッド部22Aとスプール部22Bとからなるポペット式の常閉逆止弁である。そして、制御弁20は、ポンプ74による吸入圧力により、リザーバピストン38がリザーバ室40内の圧力低下に起因して駆動されると、ヘッド部22Aが弁座30Aから離間して開弁状態となる。このとき、オイルは、導管18からスプール部22Bに形成した環状通路24を介して弁室34に流入し、弁室34から導管72を介してポンプ74に供給されるため、オイルの流動に伴う圧力はヘッド部22Aが弁座30Aから離間する方向すなわち制御弁20の開弁方向に作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用制動装置に関し、特に、ホイールシリンダ内の圧力を増減する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動装置の一つとして、必要に応じてホイールシリンダからマスターシリンダへの作動流体としてのオイルの流れを遮断する遮断弁と、ホイールシリンダ内の圧力を増減する増減圧制御弁と、増減圧制御弁が減圧位置にあるときにホイールシリンダからのオイルをリザーバ室に受け入れて貯留するリザーバと、リザーバ室からオイルを吸引して加圧し増減圧制御弁が増圧位置にあるときに増減圧制御弁を経てオイルをホイールシリンダに供給する加圧供給手段としてのポンプと、マスタシリンダとリザーバ室との連通を制御する連通制御弁とを有する車両用制動装置は既に知られており、例えば、下記特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0003】
この種の制動装置においては、通常の制動モード時にはマスタシリンダ内の圧力が遮断弁を経てホイールシリンダに導入されることにより、ホイールシリンダ内の圧力がマスタシリンダ内の圧力によって増減され、ホイールシリンダ内の圧力をマスタシリンダ内の圧力よりも高くする必要がある制動モード時には、遮断弁によりホイールシリンダからマスタシリンダへのオイルの流れが遮断されるとともにポンプが駆動され、ポンプから供給される高圧のオイルが増減圧制御弁によってホイールシリンダに対し給排され、これによりホイールシリンダ内の圧力が所望の圧力に制御される。
【0004】
また、この種の制動装置によれば、連通制御弁はマスタシリンダ内の圧力およびポンプの吸入圧力に応じて自動的に開閉し、これによりマスタシリンダ内の圧力およびポンプの吸入圧力に応じてリザーバ室内の圧力を自動的に調圧する調圧弁として機能するため、連通制御弁が電磁弁であり、種々のセンサの検出結果に基づいて電磁弁が制御される構成の場合に比して、制動装置のコストを低減することができるとともに、制動装置の制御対象を低減して制動装置の制御を簡略化することができる。
【0005】
ところで、これら従来の制動装置においては、連通制御弁が運転者による制動操作が行われない非制動時に弁要素が弁座から離間した状態にある常開の逆止弁であるため、非制動時にはマスタシリンダとリザーバ室とが相互に連通した状態にある。そして、運転者により制動操作が開始されてマスタシリンダ内の圧力が高くされると、マスタシリンダ内の圧力とリザーバ室内の圧力との間の差圧によるオイルの流動により逆止弁の弁要素が弁座に着座して逆止弁が閉弁し、マスタシリンダとリザーバ室との間の連通が遮断される。
【0006】
しかしながら、上記従来の制動装置においては、連通制御弁としての逆止弁は常開の逆止弁であるため、運転者によって制動操作が開始されても、リザーバ室内のオイルの量が増大しリザーバピストンが逆止弁の閉弁を許容する位置まで移動するとともにマスタシリンダ内の圧力とリザーバ室内の圧力との間の差圧が所定の値になるまで逆止弁は閉弁しない。このため、マスタシリンダからリザーバ室に向けてオイルが流れる場合があり、その結果、運転者の制動操作に対するホイールシリンダ内の圧力の上昇の遅れや実際の制動作用の遅れに起因するフィーリングの悪化が懸念され、運転者により制動操作が開始される際の制動の応答性を向上させる必要があった。
【0007】
この点に関し、本願出願人は、下記特許文献3に示すように、マスタシリンダとリザーバ室との連通を制御する連通制御弁を常閉弁とし、ポンプがリザーバ室からオイルを吸引することに伴って発生するポンプの吸入圧力により、連通制御弁を開弁する車両用制動装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−116607号公報
【特許文献2】特開平10−264801号公報
【特許文献3】特開2008−7080号公報
【発明の概要】
【0009】
ところで、上記従来の車両用制動装置においては、ポンプがリザーバ室からオイルを吸引し、この吸引に伴う吸入圧力によって連通制御弁がマスタシリンダとリザーバ室との連通を制御する。そして、連通制御弁が開弁状態にあるとき、オイルはマスタシリンダ(上流側)から連通制御弁を介してリザーバ室(下流側)に流れ、リザーバ室に流れたオイルをポンプが吸引する。この場合、マスタシリンダからリザーバ室へのオイルの流動方向と連通制御弁の開弁方向とが異なり、オイルの流動に伴う圧力が連通制御弁を閉弁させるように作用する可能性がある。このように、オイルの流動に伴う圧力が連通制御弁を閉弁させるように作用する場合には、リザーバ室内の圧力変化に応じて、連通制御弁が閉弁と開弁とを小刻みに繰り返す、所謂、ハンチングを生じやすくなる可能性があり、ポンプが安定してオイルを加圧供給することに影響を与えることが懸念される。
【0010】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、連通制御弁の作動を安定させて制動制御を安定させる車両用制動装置を提供することにある。
【0011】
上記目的を達成するために、必要に応じてホイールシリンダからマスタシリンダに至る作動液体の流れを遮断する遮断弁と、前記ホイールシリンダ内の圧力を増減する増減圧制御弁と、前記増減圧制御弁が減圧位置にあるときに前記ホイールシリンダからの作動液体をリザーバ室に受け入れて貯留するリザーバと、少なくとも前記リザーバ室から作動液体を吸入して加圧し前記増減圧制御弁が増圧位置にあるときに前記増減圧制御弁を経て作動液体を前記ホイールシリンダへ供給する加圧供給手段と、前記マスタシリンダと前記加圧供給手段との連通を制御する連通制御弁とを有する車両用制動装置であって、前記連通制御弁は常閉の開閉弁と、前記加圧供給手段の吸入圧力によって駆動されて前記開閉弁を開弁する開弁手段とを有し、前記開弁手段によって前記開閉弁が開弁されて前記マスタシリンダから前記加圧供給手段に向けて流動する作動流体の圧力が前記開閉弁を開弁させる方向に作用することにある。
【0012】
この場合、前記開閉弁は弁要素と、前記弁要素を弁座に対し付勢する弁要素付勢手段とを有し、前記弁要素が前記弁要素付勢手段による付勢によって前記弁座に当接して閉弁し、前記弁要素が前記開弁手段の駆動によって前記弁座から離間して開弁する逆止弁であるとよい。この場合、前記弁要素は、例えば、ヘッド部とこのヘッド部よりも小径のスプール部とを有するポペット形をなし、前記スプール部にて弁ハウジングにより往復動可能に支持され、前記ヘッド部が前記弁要素付勢手段による付勢によって前記弁座に当接して閉弁し、前記ヘッド部が前記開弁手段の駆動による前記スプール部の押圧によって前記弁座から離間して開弁するとよい。そして、この場合、前記スプール部には、前記マスタシリンダと連通する環状通路が形成されており、前記ヘッド部が前記弁座から離間して開弁したとき、作動液体が前記環状通路および前記ヘッド部と離間した前記弁座を介して前記加圧供給手段に向けて流動するとよい。
【0013】
そして、これらの場合には、前記リザーバはハウジングと、前記ハウジング内に往復働可能に配置され前記ハウジングと共働して前記リザーバ室を郭定するリザーバピストンと、前記リザーバ室の容積が減少する方向へ前記リザーバピストンを付勢するピストン付勢手段とを有するとよい。この場合、前記リザーバピストンは前記開弁手段として機能する部分を有しており、前記リザーバピストンが往復動する範囲に関し、前記ピストン付勢手段が前記リザーバピストンを付勢する範囲を前記開弁手段として機能する部分が前記開閉弁を開弁しない範囲に制限する付勢制限手段を設けるとよい。さらに、前記開閉弁が閉弁状態にあり、かつ、前記付勢制限手段が前記リザーバピストンに対する前記ピストン付勢手段の付勢を制限している状況にあるとき、前記リザーバ室に前記加圧供給手段の吸入圧力が作用すると、前記リザーバピストンは前記開閉弁を開弁する方向に変位するとよい。
【0014】
これらによれば、開弁手段が加圧供給手段の吸入圧力によって駆動されて常閉の連通制御弁、具体的には、開閉弁が開弁されるため、加圧供給手段が駆動されると開弁手段を介して開閉弁を開弁させることができる。また、開閉弁が開弁状態にあるときにマスタシリンダから加圧供給手段に流動する作動液体の圧力を、開閉弁を開弁させる方向に作用させることができる。このため、開閉弁が開弁していれば、作動液体の流動によって開弁状態が安定して維持されるため、例えば、リザーバ室内の圧力変化に起因して開弁手段の駆動が不安定になっても、開閉弁(連通制御弁)にハンチングが発生することを効果的に防止することができる。したがって、加圧供給手段は、安定して作動液体をホイールシリンダに供給することができて、安定した制動制御が可能となる。
【0015】
また、開閉弁の弁要素としてポペット形を採用することができるため、ヘッド部が開弁方向へ僅かに移動するだけで弁座から離間して開閉弁を開弁させることができる。これにより、加圧供給手段の吸入圧力による開閉弁の開閉を効率的に行わせることができる。また、スプール部が弁ハウジングにより往復動可能に支持されているため、ヘッド部の開閉方向への移動を安定させることができる。したがって、加圧供給手段の吸入圧力による開閉弁の開閉を安定させることができる。
【0016】
また、スプール部にマスタシリンダと連通する環状通路を形成することができ、この環状通路およびヘッド部が離間した弁座を介して作動液体を加圧供給手段に供給することができる。これにより、作動液体の流動に伴う圧力をヘッド部が弁座から離間する方向すなわち開閉弁を開弁させる方向に確実に作用させることができるため、ハンチングが発生することを効果的に防止することができる。
【0017】
また、付勢制限手段を設けることにより、ピストン付勢手段がリザーバピストンを付勢する範囲を適切に制限することができる。これにより、非制動時におけるリザーバピストンの位置を所定の位置に設定することができ、また付勢制限手段が設けられていない場合に比してリザーバピストンの往復動を安定させることができる。
【0018】
さらに、このように付勢制限手段を設ける場合であっても、開閉弁が閉弁状態にあり、かつ、付勢制限手段がリザーバピストンに対するピストン付勢手段の付勢を制限している状況において、リザーバ室に加圧供給手段の吸入圧力が作用すると、リザーバピストンが開閉弁を開弁させる方向へ変位することができる。したがって、加圧供給手段の吸入圧力によって開弁手段を駆動させることができて、確実に開閉弁を開弁させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】図1の連通制御弁の作動を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係り、ポペット形の開閉弁である連通制御弁を備えた車両用制動装置10のシステム構成を概略的に示している。
【0021】
この車両用制動装置10は、図1に示すように、マスタシリンダ室12を有するマスタシリンダ14を備えている。マスタシリンダ14のピストン14Aは、ブレーキペダル16に連結されており、運転者によるブレーキペダル16の踏み込み操作に応答して運転者の踏力に応じた油圧(以下、マスタシリンダ圧力Pmという)がマスタシリンダ室12内に発生するようになっている。なお、図示を省略するが、マスタシリンダ14は、ブレーキペダル16に対する踏力に比してマスタシリンダ室12内の圧力を増圧する周知のブースタを備えていてもよい。
【0022】
マスタシリンダ室12には、マスタ導管18の一端が接続され、マスタ導管18の他端は連通制御弁20に接続されている。連通制御弁20は、ポペット式の弁要素22を有する常閉の逆止弁である。弁要素22は、大径で略半球状のヘッド部22Aと、ヘッド部22Aに対して半球部分から一体的に延出する小径のスプール部22Bとから形成されている。そして、スプール部22Bには、環状通路24が形成されており、マスタ導管18の他端と連通している。
【0023】
また、連通制御弁20のハウジングはリザーバ26のハウジング28と一体であり、これにより、連通制御弁20およびリザーバ26は一つのユニットとして車両用制動装置10に組み付けられるようになっている。ハウジング28内には、弁ハウジング部材30が、例えば、圧入により連通制御弁20の軸線32に整合して固定された状態で配置されて、ハウジング28と共働して弁室34を形成している。弁ハウジング部材30は、弁要素22のヘッド部22Aと遊嵌合する円錐形の弁座30Aと、弁要素22のスプール部22Bを軸線32に沿って挿通可能に支持する貫通孔30Bとを有している。ここで、弁要素22のヘッド部22Aは、ハウジング28の端面との間に弾装された弁要素付勢手段としての圧縮コイルばね36によって弁座30Aに対して付勢されるようになっている。これにより、連通制御弁20は、通常時において、弁要素22のヘッド部22Aが弁座30Aに当接して閉弁するようになっている。さらに、弁ハウジング部材30には、ハウジング28に形成されてマスタ導管18に接続された内部通路と環状通路24とを連通する径方向通路30Cが形成されるとともに、ハウジング28に形成されて後述するオイル吸入導管72に接続された内部通路と弁室34とを連通する径方向通路30Dが形成されている。
【0024】
リザーバ26のハウジング28にはシリンダボア28Aが形成されており、シリンダボア28A内には、リザーバピストン38が軸線32に沿って往復動可能に配置されている。リザーバピストン38は、略円筒状に形成されており、ハウジング28と共働して容積可変のリザーバ室40を郭定する。また、リザーバピストン38の円盤部38Aには、連通制御弁20に向けて軸線32に沿って延出し、弁要素22のスプール部22Bの端部に当接する突部38Bが一体的に形成されている。ここで、突部38Bの長さに関しては、非制動時において、突部38Bの先端部がスプール部22Bの端部を押圧することなく当接する長さに設定されている。
【0025】
また、リザーバピストン38に対しリザーバ室40とは反対の側のシリンダボア28Aの端部にはエンドキャップ42が、例えば、圧入またはねじ込みにより固定されている。リザーバピストン38とエンドキャップ42との間にはピストン付勢手段としての圧縮コイルばね44が弾装されており、リザーバピストン38は、圧縮コイルばね44によってリザーバ室40の容積が減少する方向に軸線32に沿って付勢されている。リザーバピストン38およびエンドキャップ42は、ハウジング28と共働して容積可変のエアチャンバ46を郭定しており、エアチャンバ46は図示省略の連通孔により大気に開放されている。
【0026】
ここで、リザーバピストン38とエンドキャップ42との間には、リザーバピストン38に対する圧縮コイルばね44の付勢を制限する付勢制限手段としての付勢制限装置50が配置されている。付勢制限装置50は、カップ型部材52のリブ部52Aがリザーバピストン38の円盤部38Aの内面に当接し、シャフト部54の先端部はエンドキャップ42の隆起部42Aを貫通して延在し、ナット56によりエンドキャップ42に固定されている。そして、圧縮コイルばね44は、カップ型部材52のリム部52Aとエンドキャップ42のベース部42Bとの間に弾装されている。この構成により、付勢制限装置50においては、リザーバ室40内のオイル量が増大しリザーバピストン38が押し下げられる状況では、カップ型部材52がシャフト部54に対して軸線32に沿ってエンドキャップ42方向にスライドすることが可能であり、また、リザーバ室40内のオイル量が減少する状況では、カップ型部材52がシャフト部54に対して軸線32に沿って連通制御弁20方向にスライドしてリザーバピストン38を所定位置まで押し上げることが可能となっている。
【0027】
なお、弁室34およびリザーバ室40内には、作動液体としてのオイルが充填されている。このため、説明を省略するが、図1にて示した符号60〜68はそれぞれ対応する部材間におけるオイルの漏洩を防止するシールリングを示している。また、図1において、符号70は、必要に応じてマスタシリンダ室12にオイルを補充供給するマスタシリンダリザーバを示している。
【0028】
弁室34およびリザーバ室40には、図1に示すように、ハウジング28に形成された内部通路を介してオイル吸入導管72の一端が接続され、オイル吸入導管72の他端は図示しない電動機により駆動される加圧供給手段としてのオイルポンプ74の吸入側に接続されている。オイルポンプ74は図示を省略する電子制御装置により電動機に対する駆動電流が制御されることにより制御されるようになっている。
【0029】
オイルポンプ74の吐出側にはオイル供給導管76が接続され、オイル供給導管76にはオイル給排導管78の一端が接続されている。オイル給排導管78の他端はホイールシリンダ80に接続され、オイル給排導管78の途中にはホイールシリンダ80へのオイルの供給を制御する増圧制御弁としての常開型の電磁開閉弁82が設けられている。電磁開閉弁82の両側のオイル給排導管78にはホイールシリンダ80からオイル供給導管76に向かうオイルの流れのみを許容する逆止バイパス導管84が接続されている。
【0030】
電磁開閉弁82とホイールシリンダ80との間のオイル給排導管78にはオイル排出導管86の一端が接続され、オイル排出導管86の他端はリザーバ26とオイルポンプ74との間のオイル吸入導管72に接続されている。オイル排出導管86の途中にはホイールシリンダ80からのオイルの排出を制御する減圧制御弁としての常閉型の電磁開閉弁88が設けられている。電磁開閉弁82および電磁開閉弁88の開閉は電子制御装置によりそれぞれのソレノイド(図示省略)に対する制御電流が制御されることにより達成される。
【0031】
また、オイル供給導管76には接続導管90の一端が接続され、接続導管90の他端はマスタ導管18に接続されている。接続導管90の途中には周知の構成のリニアソレノイド弁92が設けられている。リニアソレノイド弁92は、通常時にオイル供給導管76の側からマスタ導管18の側に向かうオイルの流れのみを許容し、そのソレノイド(図示省略)に対する駆動電流が電子制御装置によって制御されることによりリニアソレノイド弁92を横切る差圧(すなわち、オイル供給導管76の側が接続導管90の側よりも高圧となる差圧)を制御する。
【0032】
リニアソレノイド弁92の両側の接続導管90にはマスタ導管18の側からオイル供給導管76の側に向かうオイルの流れのみを許容する逆止バイパス導管94が接続されている。また、リニアソレノイド弁92とマスタ導管18との間の接続導管90には圧力センサ96が接続されており、圧力センサ96は接続導管90内の圧力をマスタシリンダ圧力Pmとして検出するようになっている。このように、リニアソレノイド弁92および逆止バイパス導管94は必要に応じてホイールシリンダ80からマスタシリンダ14に至るオイルの流れを遮断するとともに、必要に応じてリニアソレノイド弁92を横切る差圧を制御する遮断弁として機能する。
【0033】
なお、図1においては図示を省略したが、オイル給排導管78、オイル排出導管86、ホイールシリンダ80、電磁開閉弁82,88、逆止バイパス導管84等は、各車輪に対応して設けられることはいうまでもない。また、リニアソレノイド弁92および逆止バイパス導管94も各車輪に対応して設けられていてもよいが、車両用制動装置10が左右前輪に対応する前輪系統と左右後輪に対応する後輪系統とからなる二系統の制動装置である場合には、前輪系統用および後輪系統用のリニアソレノイド弁92および逆止バイパス導管94が設けられ、車両用制動装置10が左前輪および右後輪に対応する第一系統と右前輪および左後輪に対応する第二系統とからなる二系統の制動装置である場合には、第一系統用および第二系統用のリニアソレノイド弁92および逆止バイパス導管94が設けられていればよい。
【0034】
次に、上記のように構成された車両用制動装置10の作動を制動開始時、通常の制動時、アンチスキッド制御(以下、ABS制御という)時、自動制動時の各場合について説明する。
【0035】
(1)制動開始時
運転者により制動操作が開始されても、オイルポンプ74の電動機には駆動電流が通電されず、電磁開閉弁82,88およびリニアソレノイド弁92には制御電流が供給されない。したがって、オイルポンプ74は駆動されないため、連通制御弁20は図1に示した閉弁状態に維持され、電磁開閉弁82は開弁状態に維持され、電磁開閉弁88は閉弁状態に維持される。これにより、マスタシリンダ室12からマスタ導管18に流出する全てのオイルが逆止バイパス導管94および電磁開閉弁82を経てホイールシリンダ80に供給され、ホイールシリンダ80内の圧力を効率的に上昇させることができる。
【0036】
(2)通常の制動時
運転者によって制動操作が行われているが、ABS制御は行われない通常の制動時においても、オイルポンプ74の電動機には駆動電流が通電されず、電磁開閉弁82,88およびリニアソレノイド弁92には制御電流が供給されない。これにより、マスタシリンダ室12とホイールシリンダ80とが逆止バイパス導管94および電磁開閉弁82を介して相互に連通接続された状態に維持されるため、ホイールシリンダ80内の圧力がマスタシリンダ室12内の圧力と同一の圧力に制御される。
【0037】
(3)ABS制御時
運転者による制動操作量が過大であることに起因して車輪の制動スリップが過大になると、車輪の制動スリップを低減するためのABS制御が行われる。このABS制御においては、ホイールシリンダ80内の圧力がマスタシリンダ室12内の圧力とは独立に制御される必要があるため、周知のABS制御の開始条件が成立すると同じくABS制御の開始条件が成立するまで、オイルポンプ74の電動機に駆動電流が通電され、リニアソレノイド弁92のソレノイドに制御電流が通電されることなく車輪の制動スリップ率または制動スリップ量に応じて電磁開閉弁82,88が開閉される。これにより、ホイールシリンダ80内の圧力がマスタシリンダ圧力Pmに対応する値であって車輪の制動スリップを抑制するのに必要な値になるように増減されて車輪の制動スリップが低減される。
【0038】
この場合、ABS制御はまずホイールシリンダ80内の圧力を低減することにより開始される。このとき、ホイールシリンダ80内のオイルは開弁状態に切り替えられた電磁開閉弁88を経てリザーバ室40に流入するため、リザーバ室40内のオイル量が一時的に増大する。一方、ホイールシリンダ80内の圧力を増大させる際には、オイルポンプ74によってリザーバ室40からオイル吸入導管72を介してオイルが吸引されるため、リザーバ室40内のオイル量が減少する。ただし、このようにリザーバ室40内のオイル量が減少する場合であっても、リザーバ室40内のオイル量はABS制御が行われない通常の制動時の量よりも少なくなることはないため、連通制御弁20の弁要素22はリザーバピストン38によって開弁されず、閉弁状態を維持する。
【0039】
なお、ホイールシリンダ80内の圧力をマスタシリンダ圧力Pmよりも高い圧力にするとともにマスタシリンダ圧力Pmの増減変化に対応して増減させるハイドロアシストブレーキの制御が行われる場合には、各車輪のホイールシリンダ80内の圧力がマスタシリンダ圧力Pmに基づく目標ホイールシリンダ圧力になるようにリニアソレノイド弁92のソレノイドに制御電流が通電され、オイルポンプ74はリニアソレノイド弁92による差圧制御に伴って駆動される。
【0040】
(4)自動制動時
少なくとも制動力を制御することによる車両の挙動制御、オートクルーズ制御、車間距離制御などのような自動制動が行われるときには、オイルポンプ74の電動機に駆動電流が通電され、リニアソレノイド弁92を横切る差圧が、例えば、自動制動により要求されるホイールシリンダ80内の目標圧力に基づく所定の値になるようにリニアソレノイド弁92のソレノイドに制御電流が通電され、必要に応じてホイールシリンダ80内の圧力がその目標圧力になるように電磁開閉弁82,88が開閉される。これにより、自動制動を達成することができる。
【0041】
この場合、オイルポンプ74によってリザーバ室40から吸引されるオイル量が多いため、すなわち、オイル吸入導管72内に負圧が発生するため、リザーバ室40内の圧力が通常の制動時やABS制御時よりも低下する。このように、リザーバ室40内の圧力が低下する状況では、連通制御弁20が閉弁状態から開弁状態となる。以下、連通制御弁20の閉弁状態から開弁状態への移行を具体的に説明する。
【0042】
リザーバ室40内の圧力が低下すると、リザーバピストン38は、図2に示すように、ハウジング28に対して相対的に連通制御弁20に向けて軸線32に沿って変位する。これにより、リザーバピストン38においては、円盤部38Aが付勢制限装置50のカップ型部材52のリム部52Aから離脱し、突部38Bがその先端にて連通制御弁20の弁要素22を構成するスプール部22Bの端部を押圧する。そして、リザーバピストン38の突部38Bが圧縮コイルばね36のばね力に抗してスプール部22Bの端部を押圧すると、弁要素22のヘッド部22Aが弁ハウジング部材30に形成された弁座30Aから離間する。すなわち、リザーバピストン38は、リザーバ室40内の圧力の低下によって駆動されることにより連通制御弁20を開弁する開弁手段として機能する。
【0043】
そして、弁要素22のヘッド部22Aおよびスプール部22Bが軸線32に沿って変位すると、図2にて太線矢印で示すように、マスタシリンダ室12内のオイルがマスタ導管18、内部通路、弁ハウジング部材30に形成された径方向通路30Cおよびスプール部22Bに形成された環状通路24を介して弁室34内に流入し、弁室34内に流入したオイルは、弁ハウジング部材30に形成された径方向通路30D、内部通路およびオイル吸入導管72を介してオイルポンプ74によって吸入(吸引)される。
【0044】
このとき、オイルポンプ74によるオイルの吸入(吸引)に伴ってマスタシリンダ14からオイルポンプ74に向けて流れるオイルの圧力は、図2に示すように、弁要素22のヘッド部22Aを弁座30Aから離間させる、言い換えれば、連通制御弁20を開弁させる方向に作用する。これにより、オイルポンプ74が連通制御弁20を介してマスタシリンダ14からオイルを吸入(吸引)する場合において、例えば、リザーバ室40内の圧力変化に起因してリザーバピストン38の駆動が不安定になっても、弁要素22のヘッド部22Aを弁座30Aから安定して離間させる、すなわち、連通制御弁20が安定して開弁状態を維持することができる。したがって、オイルポンプ74がマスタシリンダ14からオイルを吸入(吸引)する場合であっても、連通制御弁20においてはオイルの流通に伴って開弁と閉弁とが小刻みに繰り返される状態、所謂、ハンチングの発生を確実に防止することができる。その結果、オイルポンプ74に対して安定してオイルを供給することができて、ホイールシリンダ80内の圧力を適切に制御することができる。
【0045】
なお、自動制動の終了時には、車両用制動装置10内の余剰のオイルはリニアソレノイド弁92を開放することにより、接続導管90を経てマスタシリンダリザーバ70に戻される。
【0046】
以上の説明からも理解できるように、リザーバピストン38がオイルポンプ74の吸入圧力によって駆動されることにより、常閉の連通制御弁20、具体的には、弁要素22のヘッド部22Aが弁座30Aから離間して開弁されるため、オイルポンプ74が駆動されるとリザーバピストン38を介して連通制御弁20を開弁させることができる。これにより、弁要素22のスプール部22Bとリザーバピストン38の突部38Bとの関係の設定によって連通制御弁20の開弁のタイミングを調節することができる。また、連通制御弁20が開弁状態にあるときにマスタシリンダ14(より具体的には、マスタ導管18を介してマスタシリンダ室12)からオイル吸入導管72を介してオイルポンプ74に流動するオイルの圧力を、連通制御弁20を開弁させる方向、具体的には、弁要素22のヘッド部22Aを弁座30Aから離間させる方向に作用させることができる。このため、連通制御弁20が開弁していれば、オイルの流動によって開弁状態が安定して維持されるため、例えば、リザーバ室40内の圧力変化に起因してリザーバピストン38の駆動が不安定になっても、連通制御弁20にハンチングが発生することを効果的に防止することができる。したがって、オイルポンプ74は、安定してオイルをホイールシリンダ80に供給することができて、安定した制動制御が可能となる。
【0047】
また、連通制御弁20の弁要素22としてポペット形を採用することができるため、ヘッド部22Aが弁座30Aから離間する開弁方向へ僅かに移動するだけで連通制御弁20を開弁させることができる。これにより、オイルポンプ74の吸入圧力による連通制御弁20の開閉を効率的に行わせることができる。また、スプール部22Bが弁ハウジング30に形成された貫通孔30Bにより往復動可能に支持されているため、ヘッド部22Aの弁座30Aに対する離間または接近方向への移動を安定させることができる。したがって、オイルポンプ74の吸入圧力による連通制御弁20の開閉を安定させることができる。
【0048】
また、スプール部22Bにマスタシリンダ14と連通する環状通路24を形成することができ、この環状通路24およびヘッド部22Aが離間した弁座30Aを介してオイルをオイルポンプ74に供給することができる。これにより、オイルの流動に伴う圧力をヘッド部22Aが弁座30Aから離間する方向に確実に作用させることができるため、ハンチングが発生することを効果的に防止することができる。
【0049】
また、付勢制限装置50を設けることにより、圧縮コイルばね44がリザーバピストン38を付勢する範囲を適切に制限することができる。これにより、非制動時におけるリザーバピストン38の位置を所定位置に設定することができ、また付勢制限装置50が設けられていない場合に比してリザーバピストン38の往復動を安定させることができる。
【0050】
さらに、このように付勢制限装置50を設ける場合であっても、連通制御弁20が閉弁状態にあり、かつ、付勢制限装置50がリザーバピストン38に対する圧縮コイルばね44の付勢を制限している状況において、リザーバ室40にオイルポンプ74の吸入圧力が作用すると、リザーバピストン38が連通制御弁20を開弁する方向すなわちヘッド部22Aを弁座30Aから離間させる方向へ変位することができる。したがって、オイルポンプ74の吸入圧力によってリザーバピストン38を駆動させることができて、確実に連通制御弁20を開弁させることができる。
【0051】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態においては、連通制御弁20としてポペット式の弁要素22を採用した開閉弁(逆止弁)として実施した。この場合、少なくともリザーバ室内の圧力の低下に伴って常閉型の連通制御弁を開弁状態とし、この連通制御弁を介して流れるオイルの圧力を弁座から離間させる方向に作用させることができる開閉弁(逆止弁)であれば、如何なるものを採用してもよい。この場合、例えば、ボール式の逆止弁やスプール式の逆止弁を採用することができる。
【0053】
また、上記実施形態においては、付勢制限装置50をスライド可能なカップ型部材52を用いて構成した。しかし、圧縮コイルばね44によるリザーバピストン38への付勢を制限することができる限り、如何なるものを用いてもよく、さらには、付勢制限装置50を省略して実施することも可能である。
【0054】
また、上記実施形態においては、リザーバピストン38に形成した突部38Bが非制動時に弁要素22のスプール部22Bの端部よりわずかに隔置されて押圧することなく当接するようにした。この場合、例えば、突部38Bの先端とスプール部22Bの端部との間に弾性材を設けるように実施することも可能である。
【0055】
さらに、上記実施形態においては、通常時にオイル供給導管76の側からマスタ導管18の側に向かうオイルの流れのみを許容し、制御電流の制御によって差圧を制御するリニアソレノイド弁92と逆止バイパス導管94とを用いて実施した。しかしながら、オイルポンプ74が駆動される状況において、マスタシリンダとホイールシリンダとの連通を遮断し、必要に応じてホイールシリンダの側からマスタシリンダの側へオイルを流通させることができる限り、如何なる構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…車両用制動装置、14…マスタシリンダ、20…連通制御弁、22…弁要素(ポペット式)、22A…ヘッド部、22B…スプール部、24…環状通路、26…リザーバ、36…圧縮コイルばね、38…リザーバピストン、40…リザーバ室、44…圧縮コイルばね、50…付勢制限装置、74…オイルポンプ、80…ホイールシリンダ、82,88…電磁開閉弁、92…リニアソレノイド弁、96…圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要に応じてホイールシリンダからマスタシリンダに至る作動液体の流れを遮断する遮断弁と、前記ホイールシリンダ内の圧力を増減する増減圧制御弁と、前記増減圧制御弁が減圧位置にあるときに前記ホイールシリンダからの作動液体をリザーバ室に受け入れて貯留するリザーバと、少なくとも前記リザーバ室から作動液体を吸入して加圧し前記増減圧制御弁が増圧位置にあるときに前記増減圧制御弁を経て作動液体を前記ホイールシリンダへ供給する加圧供給手段と、前記マスタシリンダと前記加圧供給手段との連通を制御する連通制御弁とを有する車両用制動装置であって、
前記連通制御弁は常閉の開閉弁と、前記加圧供給手段の吸入圧力によって駆動されて前記開閉弁を開弁する開弁手段とを有し、前記開弁手段によって前記開閉弁が開弁されて前記マスタシリンダから前記加圧供給手段に向けて流動する作動流体の圧力が前記開閉弁を開弁させる方向に作用することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記開閉弁は弁要素と、前記弁要素を弁座に対し付勢する弁要素付勢手段とを有し、前記弁要素が前記弁要素付勢手段による付勢によって前記弁座に当接して閉弁し、前記弁要素が前記開弁手段の駆動によって前記弁座から離間して開弁する逆止弁であることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両用制動装置において、
前記弁要素は、ヘッド部とこのヘッド部よりも小径のスプール部とを有するポペット形をなし、前記スプール部にて弁ハウジングにより往復動可能に支持され、前記ヘッド部が前記弁要素付勢手段による付勢によって前記弁座に当接して閉弁し、前記ヘッド部が前記開弁手段の駆動による前記スプール部の押圧によって前記弁座から離間して開弁することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項3に記載した車両用制動装置において、
前記スプール部には、前記マスタシリンダと連通する環状通路が形成されており、前記ヘッド部が前記弁座から離間して開弁したとき、作動液体が前記環状通路および前記ヘッド部と離間した前記弁座を介して前記加圧供給手段に向けて流動することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか一つに記載した車両用制動装置において、
前記リザーバはハウジングと、前記ハウジング内に往復働可能に配置され前記ハウジングと共働して前記リザーバ室を郭定するリザーバピストンと、前記リザーバ室の容積が減少する方向へ前記リザーバピストンを付勢するピストン付勢手段とを有することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項6】
請求項5に記載した車両用制動装置において、
前記リザーバピストンは前記開弁手段として機能する部分を有しており、
前記リザーバピストンが往復動する範囲に関し、前記ピストン付勢手段が前記リザーバピストンを付勢する範囲を前記開弁手段として機能する部分が前記開閉弁を開弁しない範囲に制限する付勢制限手段を設けたことを特徴とする請求項5に記載の車両用制動装置。
【請求項7】
請求項6に記載した車両用制動装置において、
前記開閉弁が閉弁状態にあり、かつ、前記付勢制限手段が前記リザーバピストンに対する前記ピストン付勢手段の付勢を制限している状況にあるとき、前記リザーバ室に前記加圧供給手段の吸入圧力が作用すると、前記リザーバピストンは前記開閉弁を開弁する方向に変位することを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−255728(P2011−255728A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130033(P2010−130033)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】