説明

車両用制御装置

【課題】運転者の覚醒度が低下している場合に、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを防止することができる車両用制御装置を提供すること。
【解決手段】ブレーキ操作の解除後に車両の制動力を保持可能な制御を行う車両用制御装置において、運転者の覚醒度を検出する覚醒度検出手段11と、覚醒度検出手段11が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、上記制御の開始条件若しくは解除条件又は目標制動力を変更する設定変更手段12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動力を制御する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の制動力を制御する車両用制御装置として、ブレーキ操作の解除後に車両の制動力を保持可能な制御(一般に、「ヒルホールド制御」と呼ばれる)を行う装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。この車両用制御装置は、車両停車中にブレーキペダルが所定量以上踏み込まれると、ヒルホールド制御を開始する。これにより、ブレーキペダルの踏み込みが緩んでも制動力が保持されるので、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを抑制することができる。
【0003】
特許文献1記載の車両用制御装置は、路面勾配を検出する検出手段を備え、車両の自重が進行方向に作用する向きの路面勾配(路面勾配が車両後部から車両前部に向けて下り勾配)の場合には、車両が勾配に沿って進行するのを運転者が期待しているので、ヒルホールド制御を行わない。従って、運転者に違和感を与えることを抑制することができる。
【0004】
特許文献2記載の車両用制御装置は、ブレーキ操作の解除後の経過時間が所定時間以上になった場合、又は、アクセルペダルが踏み込まれた場合に、ヒルホールド制御を解除する。また、マニュアルトランスミッション(MT)車においては、上記条件の他、クラッチペダルの踏み込み量が所定量以下になった場合にも、ヒルホールド制御を解除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−163199号公報
【特許文献2】特開平11−310119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の車両用制御装置では、運転者の覚醒度が考慮されていない。運転者の覚醒度が低下している場合、運転者の思考能力や運動能力が低下するので、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がる虞がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、運転者の覚醒度が低下している場合に、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを防止することができる車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、ブレーキ操作の解除後に車両の制動力を保持可能な制御を行う車両用制御装置において、
運転者の覚醒度を検出する覚醒度検出手段と、
前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記制御の開始条件若しくは解除条件、又は目標制動力を変更する設定変更手段とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運転者の覚醒度が低下している場合に、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを防止することができる車両用制御装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例の車両用制御装置に関連する車載システムを示すブロック図である。
【図2】ブレーキ装置20の油圧回路を示す図である。
【図3】ECU10が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図3の処理に続いて、ECU10が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施例の車両用制御装置に関連する車載システムを示すブロック図である。車両用制御装置は、車両の制動力を制御する電子制御ユニット10(以下、「ECU10」という)を中心に構成される。ECU10は、図示しないバスを介して互いに接続されたCPU、ROM、及びRAM等からなるマイクロコンピュータとして構成されている。CPUはROM等に格納されたプログラムを実行する。CPUの実行時に発生するデータは、RAM等に格納される。
【0013】
ECU10には、CANやLIN等の車内ネットワークを介して、ブレーキ装置20、各種センサ40、ドライバモニタカメラ50、路面勾配検出センサ60、測距センサ70、ハザードランプ82、ホーン84、通信装置86が接続されている。
【0014】
図2は、ブレーキ装置20の油圧回路を示す図である。図2において、矢印は、ブレーキペダル22が運転者によって踏み込まれた場合のブレーキ液の通常時の流れを示している。ブレーキペダル22が運転者により踏み込まれると、踏力がマスタシリンダ24によってブレーキ油圧に変換される。このマスタシリンダ24は、更に、液通路26を介して、各車輪のホイルシリンダ28に連結されている(一輪分のみ図示)。
【0015】
流通路26には、保持弁32、逆止弁34、油圧ポンプ35が設けられている。保持弁32は、常態で開状態となっており、その内部の電磁コイルに電力が供給されることにより閉状態となる電磁弁である。逆止弁34は、保持弁32と並列に設けられ、マスタシリンダ24からホイルシリンダ28への液流のみを許容する。油圧ポンプ35は、保持弁32や逆止弁34の下流側に設けられ、ホイルシリンダ28の内部の圧力(以下、「ホイルシリンダ圧Ph」という)を昇圧するためのものである。保持弁32の開状態/閉状態、油圧ポンプ35のオン/オフの切り替えは、ECU10(主に制動力制御部13)によって制御される。
【0016】
通常時において、ブレーキペダル22が運転者により踏み込まれると、踏力に応じたブレーキ油圧が発生する。このブレーキ油圧は、保持弁32及び逆止弁34を介してホイルシリンダ28に供給される。ホイルシリンダ28は、ホイルシリンダ圧Phに応じて、摩擦パッド36を車輪と共に回転するブレーキロータ38に押し当る。これにより、制動力が発現する。また、ブレーキペダル22の踏み込みが解除されると、ブレーキ液がホイルシリンダ28から保持弁32を介してマスタシリンダ24に回収され、ホイルシリンダ圧Phが減圧される。これにより、摩擦パッド36がブレーキロータ38から離間し、制動力が解除される。このように、通常時においては、ブレーキペダル22の操作に応じた制動力が発生する。
【0017】
一方、ブレーキペダル22が踏み込まれている状況下で、保持弁32が閉状態とされると(即ち、ECU10による制御下で保持弁32の内部の電磁コイルに電力が供給されると)、ホイルシリンダ28とマスタシリンダ24とが遮断される。従って、ブレーキペダル22の踏み込みが解除されても、ホイルシリンダ圧Phは減圧されないので、制動力が保持される。従って、坂道で停車中の車両が重力によってずり下がることを抑制することができる。
【0018】
制動力が保持された状態で、ブレーキペダル22が更に踏み込まれると、踏力に応じたブレーキ油圧が逆止弁34を介してホイルシリンダ28に供給されるので、ホイルシリンダ圧Phが更に増圧される。これにより、ブレーキペダル22の踏み込みが解除された場合に制動力を保持することができると共に、ブレーキペダル22の踏み増しが行われた場合には制動力を増加させることができる。
【0019】
また、制動力が保持された状態で、ECU10によって油圧ポンプ35が駆動されると、ホイルシリンダ圧Phが更に昇圧される。これにより、ブレーキペダル22の踏み込みが解除された場合に制動力を保持することができると共に、制動力を増加させることができる。
【0020】
また、制動力が保持された状態で、保持弁32が開状態にされると(即ち、ECU10による制御下で保持弁32の内部の電磁コイルへの電極供給が解除されると)、ブレーキ液がホイルシリンダ28から保持弁32を介してマスタシリンダ24に回収され、ホイルシリンダ圧Phが減圧される。これにより、制動力の保持が解除される。
【0021】
各種センサ40は、車両情報を取得するセンサであって、例えば、車両の車速を検出する車速センサ42、ブレーキペダル22の踏み込み量を検出するブレーキセンサ44、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するアクセルセンサ46、クラッチペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するクラッチセンサ48を含む。各種センサ40は、周知の構成であってよい。各種センサ40によって取得された車両情報は、所定時間毎に、ECU10(主に、制動力制御部13)へ供給される。尚、ヒルホールド制御の対象車両がオートマチックトランスミッション(AT)車の場合、クラッチセンサ48は、当然に不要である。
【0022】
ドライバモニタカメラ50は、運転者情報を取得するカメラであって、運転者の顔画像を撮像する赤外線カメラ52、及び顔画像を画像処理する画像処理装置54から構成される。画像処理装置54は、マイクロコンピュータで構成され、画像処理によって運転者の閉眼継続時間を算出する。例えば、画像処理によって運転者の目の上瞼と下瞼との距離を計測し、この距離の変化から運転者の閉眼継続時間を算出する。算出された閉眼継続時間と、予めROM等に記憶された閉眼継続時間と覚醒度との関係を示すマップ等とを用いて、運転者の覚醒度の低下を検出することができる。ドライバモニタカメラ50によって取得された運転者情報は、所定時間毎に、ECU10(主に、覚醒度検出部11)へ供給される。
【0023】
路面勾配検出センサ60は、車両周辺の路面情報を取得するセンサであって、例えばGセンサで構成される。Gセンサは、標準で車両に搭載され、車両前後方向の加速度を検出するセンサである。車両が坂道で停車すると、坂道は角度θの路面勾配を有しているので、車両に作用する重力は分力され、分力の一方は車両を路面勾配に沿って移動させる力として作用する。従って、車両前後方向の重力の分力の大きさ、及び向き(前向きか後向きかの別)を検出することで、路面勾配の角度θ及び方向(車両後部から車両前部に向けて登り勾配か下り勾配かの別)を検出することができる。路面勾配検出センサ60によって取得された路面情報は、所定時間毎にECU10(主に、制動力制御部13)へ供給される。
【0024】
尚、本実施例の路面勾配検出センサ60は、Gセンサで構成されるとしたが、ナビゲーションECU(図示せず)で構成されてもよい。ナビゲーションECUは、GPS受信機を介して受信されるGPS衛星からの信号と地図データベース内の地図データに基づいて、自車位置を認識する。地図データベース内の地図データには、車両が走行する一般道や高速道路に関する道路情報が含まれている。道路情報としては、路面勾配の角度θ及び方向が含まれている。従って、ナビゲーションECUは、自車位置と地図データベース内の道路情報とから路面勾配の角度θ及び方向を検出することができる。
【0025】
測距センサ70は、前方車両や後続車両等の周辺車両情報を取得するセンサである。例えば、測距センサ70は、ミリ波レーダやレーザレーダ、超音波センサ等で構成され、車両前方や車両後方の所定範囲(例えば車両前方100m以内の範囲)に電波等を送信し、その反射波を受信することで、前方車両や後続車両の有無、前方車両や後続車両との車間距離及び相対速度を検出する。測距センサ70によって取得された周辺車両情報は、所定時間毎に、ECU10(主に、制動力制御部13)へ供給される。
【0026】
ECU10には、モードスイッチ88が接続されている。モードスイッチ88は、車室内に設けられ、運転者による操作が可能となっている。モードスイッチ88は、常態でオフ状態に維持されており、運転者の操作によりオン状態となる。
【0027】
ECU10は、モードスイッチ88の出力信号に基づいて、運転者がブレーキ支援を必要としているか否かを判別する。即ち、モードスイッチ88がオンに操作されると、ECU10は、ブレーキ操作の解除後に制動力を保持可能な制御(以下、「ヒルホールド制御」という)を実行するための処理を開始する。
【0028】
ECU10は、図1に示すように、覚醒度検出部(覚醒度検出手段)11、設定変更部(設定変更手段)12、制動力制御部(制動力制御手段)13、警告報知部(警告報知手段)14、及び通信制御部(通信制御手段)15を有する。ECU10は、各部11−15に対応するプログラムをROM等に格納して、これらのプログラムをCPUに実行させて各部11−15が有する機能を実現する。以下、各部11−15の機能を説明する。
【0029】
覚醒度検出部11は、運転者の覚醒度を検出する機能を有する。覚醒度検出部11は、例えばドライバモニタカメラ50から運転者情報を入力して、運転者の覚醒度を検出し、検出結果(覚醒度の低下の有無)を設定変更部12、警告報知部14、通信制御部15へ出力する機能を有している。
【0030】
設定変更部12は、覚醒度検出部11の検出結果が運転者の覚醒度の低下を示すものである場合、ヒルホールド制御の開始条件若しくは解除条件、又は目標制動力を変更する機能を有する。変更前後の開始条件若しくは解除条件、又は目標制動力は、予めROM等に格納されており、必要に応じて読み出される。
【0031】
開始条件は、(1)車速Vが所定値V0(所定値V0は、車速Vの測定誤差を考慮した値であって、略0であってよい)以下であること、(2)路面勾配が所定角θ0以上の勾配であること、(3)ブレーキ操作量(ブレーキペダル22の踏み込み量)BVが第1の所定量BV0以上であること、(4)路面勾配が下り勾配の場合、自車両と前方車両との車間距離FLが第1の所定距離FL0以内であること、(5)路面勾配が登り勾配の場合、自車両と後続車両との車間距離BLが第2の所定距離BL0以内であること、のうちのいずれか1つの条件であってもよいし、任意の複数の条件をAND又はORで結合した条件であってもよい。
【0032】
尚、開始条件としては、開始条件(1)と開始条件(3)とをANDで結合した条件、又は、開始条件(1)と開始条件(3)と他の開始条件とをANDで結合した条件が好ましい。開始条件(1)と開始条件(3)とをANDで結合することで、車両停車中であるか否かを確実に判断することができる。
【0033】
運転者の覚醒度の低下が検出された場合、所定角θ0は小さく、第1の所定量BV0は小さく、第1の所定距離FL0は大きく、第2の所定距離BL0は大きく設定される。尚、任意の複数の条件をAND又はORで結合した条件の場合、対応する基準値(所定角θ0、第1の所定量BV0、第1の所定距離FL0、第2の所定距離BL0)のうちの少なくともいずれか1つの基準値が変更されればよい。
【0034】
このように、運転者の覚醒度の低下が検出された場合、開始条件を変更するのは、一般に、運転者の覚醒度が低下している場合、運転者の思考能力や運動能力が低下するからである。例えば、運転者の覚醒度が低下している場合、ブレーキ操作の解除からアクセル操作までの時間が通常より長く、緩やかな路面勾配でも車両が重力によってずり下がる虞があるので、所定角θ0を小さく設定する。また、運転者の覚醒度が低下している場合、ブレーキ操作量が通常より小さく(運転者の踏力が通常より小さく)なることがあるので、第1の所定量BV0を小さく設定する。更に、運転者の覚醒度が低下している場合、ブレーキ操作の解除からアクセル操作までの時間が通常より長く、ずり下がりの距離が長くなるので、第1、第2の所定距離FL0、BL0を大きく設定する。これによって、運転者の覚醒度が低下している場合に、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを防止することができ、歩行者や他車両との接触を防止することができる。
【0035】
解除条件は、(1)ブレーキ操作の解除後(ブレーキペダル22の操作が解除された後)の経過時間Tが所定時間T0以上であること、(2)アクセル操作量(アクセルペダルの踏み込み量)AVが第2の所定量AV0以上であること、(3)クラッチ操作量(クラッチペダルの踏み込み量)CVが第3の所定量CV0以下であること、のうちのいずれか1つの条件であってもよいし、任意の複数の条件をAND又はORで結合した条件であってもよい。尚、ヒルホールド制御の対象車両がオートマチックトランスミッション(AT)車の場合、上記の解除条件(3)は、当然に不要である。
【0036】
尚、解除条件(1)において、ブレーキ操作が解除されたか否かは、ブレーキ操作量BVに基づいて判定され、ブレーキ操作量BVが第4の所定量BV1以下の場合に、ブレーキ操作が解除されたと判定される。また、経過時間Tは、ECU10に内蔵されるタイマを用いて計測される。
【0037】
運転者の覚醒度の低下が検出された場合、所定時間T0は大きく、第2の所定量AV0は大きく、第3の所定量CV0は小さく設定される。尚、任意の複数の条件をAND又はORで結合した条件の場合、対応する基準値(所定時間T0、第2の所定量AV0、第3の所定量CV0)のうちの少なくともいずれか1つの基準値が変更されればよい。
【0038】
このように、運転者の覚醒度の低下が検出された場合、解除条件を変更するのは、一般に、運転者の覚醒度が低下している場合、運転者の思考能力や運動能力が低下するからである。例えば、運転者の覚醒度が低下している場合、ブレーキ操作の解除からアクセル操作までの時間が通常より長くなることがあるので、所定時間T0を大きく設定する。また、運転者の覚醒度が低下している場合、アクセルペダルの踏み込み操作が緩慢になることがあるので、第2の所定量AV0を大きく設定する。また、運転者の覚醒度が低下している場合、クラッチペダルの踏み戻し操作が緩慢になることがあるので、第3の所定量CV0を小さく設定する。これによって、運転者の覚醒度が低下している場合に、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを防止することができ、歩行者や他車両との接触を防止することができる。
【0039】
目標制動力は、運転者の覚醒度の低下が検出された場合、大きく設定される。運転者の覚醒度が低下している場合、ブレーキ操作の解除からアクセル操作までの時間が通常より長く、その間に保持すべき制動力(ホイルシリンダ圧Ph)が保持弁32等から抜けることがあるので、目標制動力を大きく設定する。これによって、運転者の覚醒度が低下している場合に、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを防止することができ、歩行者や他車両との接触を防止することができる。
【0040】
尚、設定変更部12は、覚醒度検出部11の検出結果が運転者の覚醒度の低下を示すものでない場合、ヒルホールド制御の開始条件若しくは解除条件、又は目標制動力を初期化する機能を有する。
【0041】
制動力制御部13は、運転者の覚醒度の検出後に設定された開始条件及び解除条件、並びに目標制動力に基づいてヒルホールド制御を行う機能を有する。開始条件、及び解除条件が成立したか否かの判定は、各種センサ40から供給される車両情報、路面勾配検出センサ60から供給される路面情報、測距センサ70から供給される周辺車両情報を用いて行う。
【0042】
制動力制御部13は、設定された開始条件が成立すると、保持弁32の内部の電磁コイルへの電力供給を行って、保持弁32を閉状態とすることで、ヒルホールド制御を開始する。尚、目標制動力が大きく設定されている場合、保持弁32を閉状態とすることに加えて、油圧ポンプ35を駆動して(デューティ制御して)、目標制動力(目標ホイルシリンダ圧)に基づいてホイルシリンダ圧Phを昇圧する。また、ヒルホールド制御中に、設定された解除条件が成立すると、制動力制御部13は、保持弁32の内部の電磁コイルへの電力供給を解除して、保持弁32を開状態とすることで、ヒルホールド制御を解除する。
【0043】
警告報知部14は、覚醒度検出部11の検出結果が運転者の覚醒度の低下を示すものである場合、車外へ警告を報知する機能を有する。警告報知部14は、例えばハザードランプ82、ホーン84を介して、車外へ警告を報知する。ハザードランプ82を点灯すること、ホーン84から電子音を発することで、前方車両や後続車両の運転者、歩行者の注意を喚起することができる。
【0044】
通信制御部15は、覚醒度検出部11の検出結果が運転者の覚醒度の低下を示すものである場合、通信装置86を介して、他車両(前方車両や後続車両)に対して警報を送信する。通信装置86から警報を受信した他車両は、他車両の車室内に設けられたディスプレイやスピーカ(図示せず)を介して、警報を出力する。これによって、前方車両や後続車両の運転者の注意を喚起することができる。
【0045】
図3、図4は、ECU10が実行する処理の一例を示すフローチャートである。ECU10は、例えばモードスイッチ88がオンに操作されると、図3のS100以降の処理を所定時間毎に実行する。
【0046】
図3のS100において、覚醒度検出部11は、運転者の覚醒度を監視している。運転者の覚醒度が低下している場合(S100、YES)、S102に進み、設定変更部12がヒルホールド制御の開始条件及び解除条件、並びに目標制動力を変更した後、S106に進む。開始条件としては、所定角θ0は小さく、第1の所定量BV0は小さく、第1の所定距離FL0は大きく、第2の所定距離BL0は大きく設定した。また、解除条件としては、所定時間T0は大きく、第2の所定量AV0は大きく、第3の所定量CV0は小さく設定した。また、目標制動力は大きく設定した。
【0047】
一方、上記S100において、運転者の覚醒度が低下していない場合(S100、NO)、S104に進み、設定変更部12がヒルホールド制御の開始条件及び解除条件、並びに目標制動力を初期化し、S106に進む。
【0048】
S106では、制動力制御部13は、車両の車速Vが所定値V0以下であるか否かを監視している。所定値V0は、車速Vの測定誤差を考慮した値であって、略0であってよい。車速Vが所定値V0を超える場合(S106、NO)、車両が停車中ではないので、ヒルホールド制御は不要として、今回の処理は終了される。車速Vが所定値V0以下の場合(S106、YES)、車両が停車中であるとして、S108に進む。
【0049】
S108では、制動力制御部13は、路面勾配が所定角θ0以上の勾配であるか否かをチェックする。路面勾配が所定角θ0未満の勾配の場合(S108、NO)、路面勾配が緩やかであり、重力の影響によって自車両がずり下がる虞がないので、ヒルホールド制御は不要として、今回の処理は終了される。一方、路面勾配が所定角θ0以上の勾配の場合(S108、YES)、S110に進む。
【0050】
S110では、制動力制御部13は、路面勾配が下り勾配か登り勾配かを監視しており、下り勾配の場合(S110、YES)、S112に進む。一方、登り勾配の場合(S110、NO)、S114に進む。
【0051】
S112では、制動力制御部13は、前方車両との車間距離FLが第1の所定距離FL0以内であるか否かをチェックする。車間距離FLが第1の所定距離FL0を超える場合(S112、NO)、車間距離FLが十分であり、自車両のずり下がりによって前方車両と接触する虞がないので、ヒルホールド制御は不要として、今回の処理は終了される。一方、車間距離FLが第1の所定距離FL0以内の場合(S112、YES)、S116に進む。
【0052】
S114では、制動力制御部13は、後続車両との車間距離BLが第2の所定距離BL0以内であるか否かをチェックする。車間距離BLが第2の所定距離BL0を超える場合(S114、NO)、車間距離BLが十分であるので、自車両のずり下がりによって後続車両と接触する虞がないので、ヒルホールド制御は不要として、今回の処理は終了される。一方、車間距離BLが第2の所定距離BL0以内の場合(S114、YES)、S116に進む。
【0053】
S116では、制動力制御部13は、ブレーキ操作量BVが第1の所定量BV0以上であるか否かをチェックする。ブレーキ操作量BVが第1の所定量BV0未満の場合(S116、NO)、保持すべき制動力が発生していないので、ヒルホールド制御は不要として、今回の処理は終了される。一方、ブレーキ操作量BVが第1の所定量BV0以上の場合(S116、YES)、ブレーキ操作が開始されたとして、S118に進む。
【0054】
S118では、制動力制御部13は、保持弁32の内部の電磁コイルへの電力供給を行って、保持弁32を閉状態とすることで、ヒルホールド制御を開始し、図4のS120へ進む。尚、目標制動力が大きく設定されている場合(即ち、運転者の覚醒度が低下している場合)、制動力制御部13は、保持弁32を閉状態とすることに加えて、油圧ポンプ35を駆動して、目標制動力(目標ホイルシリンダ圧)に基づいてホイルシリンダ圧Phを昇圧する。
【0055】
図4のS120では、警告報知部14は、車外へ警告を報知し、通信制御部16は、他車両に対して警報を送信する。尚、警告報知部14は、自車両の車室内に設けられたディスプレイやスピーカ(図示せず)を介して、運転者に対して警告を報知してもよい。
【0056】
S122では、制動力制御部13は、ブレーキ操作の解除後の経過時間Tが所定時間T0以上であるか否かをチェックする。一般に、車両の走行を開始する場合、運転者はブレーキ操作の解除に続いてアクセル操作を行う。従って、経過時間Tが所定時間T以上の場合(S122、YES)、車両の走行開始が予測されるので、S128に進み、ヒルホールド制御を解除し、今回の処理は終了される。一方、経過時間Tが所定時間T0未満の場合(S122、NO)、S124に進む。
【0057】
S124では、制動力制御部13は、アクセル操作量AVが第2の所定量AV0以上であるか否かをチェックする。アクセル操作量AVが第2の所定量AV0以上の場合(S124、YES)、車両の走行が開始されたとして、S128に進み、ヒルホールド制御を解除し、今回の処理は終了される。一方、アクセル操作量AVが第2の所定量AV0未満の場合(124、NO)、S126に進む。
【0058】
S126では、制動力制御部13は、クラッチ操作量CVが第3の所定量CV0以下であるか否かをチェックする。一般に、マニュアルトランスミッション(MT)車においては、車両の走行を開始する場合、運転者はブレーキ操作の解除に続いてクラッチ操作の解除を行う。クラッチ操作量(クラッチペダルの踏み込み量)CVが第3の所定量CV0以下の場合(S126、YES)、車両の走行開始が予測されるので、S128に進み、ヒルホールド制御を解除して、今回の処理は終了される。一方、クラッチ操作量CVが第3の所定量CV0を超える場合(S126、NO)、S122に戻り、S122以降の処理を続行する。
【0059】
尚、ヒルホールド制御の対象車両がオートマチックトランスミッション(AT)車の場合、上記S126は、当然に不要であり、上記S124においてアクセル操作量AVが第2の所定量AV0未満の場合(S124、NO)、S122に戻り、S122以降の処理を続行する。
【0060】
上述の如く、本実施例の車両用制御装置によれば、運転者の覚醒度の低下を検出した場合に、ヒルホールド制御の開始条件若しくは解除条件又は目標制動力を変更するので、運転者の覚醒度が低下している場合に、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを防止することができる。よって、歩行者や他車両との接触を防止することができる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0062】
例えば、上述した実施例において、制動力制御部13は、保持弁32の内部の電磁コイルへ電力を供給して、保持弁32を閉状態とすることで、ホイルシリンダ圧Phを保持するとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、保持弁32及び逆止弁34の上流側に油圧ポンプが設けられている場合、制動力制御部13は、保持弁32を開状態とすると共に、油圧ポンプを駆動することで、ホイルシリンダ圧Phを保持してもよい。
【0063】
また、上述した実施例において、開始条件(4)は、路面勾配が下り勾配の場合、自車両と前方車両との車間距離FLが第1の所定距離FL0以内であることとしたが、これに加えて前方車両の車速FVが所定値FV0以下であることとしてもよい。これは、前方車両の車速FVが所定値FV0を超える場合、前方車両は既に走行開始しており、自車両のずり下がりによって前方車両と接触する可能性が低いからである。
【0064】
また、上述した実施例において、解除条件(1)は、ブレーキ操作の解除後の経過時間Tが所定時間T0以上であることとしたが、これに代えて、ブレーキ操作の開始後からの経過時間Tが所定時間T0以上であることとしてもよい。尚、ブレーキ操作が開始されたか否かは、ブレーキ操作量BVに基づいて判定され、ブレーキ操作量BVが第1の所定量BV0以上になった場合にブレーキ操作が開始されたと判定される。
【0065】
また、上述した実施例において、解除条件として、運転者の覚醒度の低下が検出された場合、所定時間T0は大きく、第2の所定量AV0は大きく、第3の所定量CV0は小さく設定されるとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、解除条件として、運転者の覚醒度の低下が検出された場合、第4の所定量BV1は小さく設定されてもよい。運転者の覚醒度が低下している場合、ブレーキペダル22の踏み戻し操作が緩慢になることがあるので、第4の所定量BV1を小さく設定する。これによって、運転者の覚醒度が低下している場合に、坂道において停車中の車両が重力によってずり下がることを防止することができ、歩行者や他車両との接触を防止することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 ECU
11 覚醒度検出部(覚醒度検出手段)
12 設定変更部(設定変更手段)
13 制動力制御部(制動力制御手段)
14 警告報知部(警告報知手段)
15 通信制御部(通信制御手段)
20 ブレーキ装置
32 保持弁
34 逆止弁
35 油圧ポンプ
40 各種センサ
50 ドライバモニタカメラ
60 路面勾配検出センサ
70 測距センサ
82 ハザードランプ
84 ホーン
86 通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作の解除後に車両の制動力を保持可能な制御を行う車両用制御装置において、
運転者の覚醒度を検出する覚醒度検出手段と、
前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記制御の開始条件若しくは解除条件、又は目標制動力を変更する設定変更手段とを備える車両用制御装置。
【請求項2】
前記開始条件は、路面勾配が所定角以上の勾配であることを含み、
前記設定変更手段は、前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記所定角を小さく設定する請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記開始条件は、ブレーキ操作量が第1の所定量以上であることを含み、
前記設定変更手段は、前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記第1の所定量を小さく設定する請求項1又は2記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記開始条件は、路面勾配が下り勾配の場合に自車両と前方車両との車間距離が第1の所定距離以内であることを含み
前記設定変更手段は、前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記第1の所定距離を大きく設定する請求項1〜3いずれか一項記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記開始条件は、路面勾配が登り勾配の場合に自車両と後続車両との車間距離が第2の所定距離以内であることを含み
前記設定変更手段は、前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記第2の所定距離を大きく設定する請求項1〜4いずれか一項記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記解除条件は、ブレーキ操作の解除後の経過時間が所定時間以上であることを含み、
前記設定変更手段は、前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記所定時間を大きく設定する請求項1〜5いずれか一項記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記解除条件は、アクセル操作量が第2の所定量以上であることであることを含み、
前記設定変更手段は、前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記第2の所定量を大きく設定する請求項1〜6いずれか一項記載の車両用制御装置。
【請求項8】
前記解除条件は、クラッチ操作量が第3の所定量以下であることであることを含み、
前記設定変更手段は、前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記第3の所定量を小さく設定する請求項1〜7いずれか一項記載の車両用制御装置。
【請求項9】
前記設定変更手段は、前記覚醒度検出手段が運転者の覚醒度の低下を検出した場合、前記目標制動力を大きく設定する請求項1〜8いずれか一項記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−215156(P2010−215156A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66106(P2009−66106)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】