説明

車両用制輪子及び制輪子用制動ブロック

【課題】摩擦特性が高く、更に、車輪への攻撃性の低い制動ブロック及び車両用制輪子の提供。
【解決手段】制動摩擦面111を有する鋳鉄製の制輪子本体110と、前記制輪子本体110に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面111に露出する制動ブロック120とを有する、車両用制輪子100において、前記制動ブロック120が、アルミナ及びリン酸アルミニウムを含有することを特徴とする、車両用制輪子100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制輪子及び制輪子用制動ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のブレーキ方式は、ディスク方式と踏面方式(制輪子)があり、一部の高速車両を除いた在来線には踏面方式が採用されている。この踏面方式に用いられる制輪子には、合金鋳鉄や、合成(フェノール樹脂系)や、焼結金属などの他、セラミックスブロックに合金鋳鉄を鋳込んだ制輪子(特許文献1)が挙げられる。鋳鉄制輪子は、車輪踏面を適度にあらすことにより、車輪/レール間の粘着力が安定して得られる。したがって、雨や雪の影響を受けにくく、更に、車輪への攻撃性(温度上昇や摩耗性)が低いことから、北海道などの雪の多い寒冷地で使用される。
【0003】
これまで、鋳鉄制輪子は、普通鉄にリン、クロム、モリブデン、ホウ素などの合金元素を添加することによって、摩擦特性及び耐摩耗性を改善した合金鋳鉄制輪子が開発され、高速化に対応してきた。合金鋳鉄制輪子の摩擦係数向上には、車輪との摩擦界面における炭化ケイ素セラミックスの介在が効果的であることが明らかにされている(文献1〜3、非特許文献1)。例えば、セラミックス粒子をあらかじめブロック状に成形して、鋳鉄制輪子に埋め込むことで、セラミックスブロックが、ブレーキ作動時に、セラミックス粒子を摩擦面に供給する働きをする、車両ブレーキ用制輪子が提案されている(特許文献1)。また、量産における歩留まり向上や、亀裂による欠け落ちの防止を目的として、セラミックス多孔質ブロックを使用することが提案されている(特許文献2〜3、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−103267号公報
【特許文献2】特開平10−30661号公報
【特許文献3】特開2001−246455号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】RTRI REPORT Vol.22,No.4,Apr.2008 p17−22.「摩擦特性に優れた鋳鉄複合化制輪子の開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の鋳鉄制輪子に用いられる制動ブロックとしては炭化ケイ素セラミックスが用いられてきたが、当該セラミックスを用いた場合、高い摩擦特性が得られるものの、車輪への攻撃性(摩耗、熱負荷)が高くなるという問題があった。
本発明は、上記の問題を解決するために、摩擦特性が高く、更に、車輪への攻撃性の低い制動ブロック及び車両用制輪子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体(例えば、制輪子本体110)と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロック(例えば、制動ブロック120)とを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、アルミナ及びリン酸アルミニウムを含有することを特徴とする、車両用制輪子(例えば、制輪子100)である。
【0008】
本発明(2)は、前記鋳鉄が、合金鋳鉄であることを特徴とする、前記発明(1)の車両用制輪子である。
【0009】
本発明(3)は、前記合金鋳鉄がリンを含有することを特徴とする、前記発明(2)の車両用制輪子である。
【0010】
本発明(4)は、前記制動ブロックが、多孔質ブロックであることを特徴とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの車両用制輪子である。
【0011】
本発明(5)は、前記制動ブロックが、カーボンナノチューブを含有することを特徴とする、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの車両用制輪子である。
【0012】
本発明(6)は、車両用制輪子の制動摩擦面に配される制輪子用制動ブロックにおいて、
前記制動ブロックが、アルミナ及びリン酸アルミニウムを含有することを特徴とする、制輪子用制動ブロックである。
【0013】
本発明(7)は、前記制動ブロックが、多孔質ブロックであることを特徴とする、前記発明(6)の制輪子用制動ブロックである。
【0014】
本発明(8)は、前記制動ブロックが、カーボンナノチューブを含有することを特徴とする、前記発明(6)又は(7)の制輪子用制動ブロックである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る制輪子によれば、従来制動ブロックとして用いられてきたSiCと比較して、摩擦係数の向上や、摩耗量の低減といった効果を発揮する。本発明に係る制輪子によれば、特に高速域で、優れた摩擦特性や摩耗特性を発揮するという性質を有する。また、本発明に係る制輪子によれば、車輪温度の上昇を抑制することができるので、車輪の耐亀裂性の向上に寄与するという効果を奏する。
【0016】
合金鋳鉄を用いる場合には、従来、合金鋳鉄中にリンやクロムなどを添加することにより、これに由来する硬質相(ステダイトやセメンタイト)を生成し摩擦係数を向上させることが行なわれてきた。しかし、リン等の添加による多量の硬質相の存在は材質を脆くさせ熱亀裂が発生しやすくなるため、合金鋳鉄の基地(パーライト)を緻密化させるために、モリブデンやニッケルといったレアメタルが使用されてきた。これに対して、本発明に係る制輪子によれば、摩擦係数の向上効果を有するため、合金鋳鉄中に添加するリンの量を減らすことが可能となり、これに伴って前記レアメタルの添加量も減らすことができるので、低価格の制輪子を得ることが可能となる。上記の他、モリブデン、クロム、マンガンは遊離炭化物としてのセメンタイトを促進する効果があり、低い融点で溶け出すステダイトに替わる高温域での硬質相として摩擦特性を安定化するものとされる。本発明ではステダイト相の溶出を防げることから遊離炭化物そのものの析出を低減できるので、モリブデンやクロムの添加量を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明に係る制輪子の概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は側面断面図である。
【図2】図2は、実施例において使用したアルミナ多孔質ブロックの塗型剤の塗布前と塗布後の様子を示した写真である。
【図3】図3は、実施例において使用した制輪子の写真である。
【図4】図4は、制動試験における制動距離の測定結果を示す図である。
【図5】図5は、制動試験における磨耗量の測定結果を示す図である。
【図6】図6は、制動試験における車輪温度の測定結果を示す図である。
【図7】図7は、制動試験における制輪子温度の測定結果を示す図である。
【図8】図8は、制動試験における平均摩擦係数の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る制輪子は、制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子である。本発明は、前記制動ブロックがアルミナを含有することを特徴とする。すなわち、制動ブロック用のセラミックス材料としてアルミナを選択することにより、摩擦特性に優れ、車輪攻撃性の低い制輪子を提供することができる。
【0019】
制輪子
図1は、本発明に係る制輪子の概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は側面断面図を示す。制輪子100は、制動摩擦面111を有する鋳鉄製の制輪子本体110と、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロック120とを有する。制輪子本体110は、円弧状の曲面形状を有し、円弧の内面側が制動摩擦面111である。一方、外面側にはコッタ部113が設けられている。
【0020】
制輪子本体110内には、前記制動ブロックの後方に位置して当該制輪子本体に鋳ぐるまれたバックメタル130が設けられている。バックメタル130は、制輪子本体と同程度の曲率を有する板状体131と、コッタ部に位置する連結体132を有する。バックメタルは、鋳鉄製制輪子本体110の亀裂破損防止のために設けられる。また、後述する制輪子の製造方法において、制動ブロックガイドの固定のために用いられる。
【0021】
制輪子本体110の材料としては、特に限定されないが、耐熱性、耐摩耗性等を考慮して、普通鋳鉄にリン、クロム、モリブデン、ニッケルなどの合金元素を添加した合金鋳鉄が挙げられる。
【0022】
本発明における合金鋳鉄は、パーライト基地と片状黒鉛の組み合せに、ステダイト(Fe+FeC+FePの三元共晶組織)やセメンタイトなど遊離炭化物を分散析出させたものを使用することが好適である。ここで、片状黒鉛は潤滑材としての役割を担う。
【0023】
当該パーライト基地に対して、上述の合金元素を添加することが好適である。これらの合金元素の中でも、リンを添加することが好適である。リンを添加することにより、合金鋳鉄中に硬質物質であるステダイトを生成させることができる。またリンの添加量は、合金鋳鉄中、0.3質量%以上が好適であり、1.5質量%以上であることが好適である。上限は特に限定されないが、例えば、2.5質量%以下である。
【0024】
その他、モリブデン(Mo)や、ニッケル(Ni)を添加することが好適であり、これらのレアメタルを添加することにより、パーライト基地を緻密化することができる。しかし、本発明の制動ブロックを用いることにより、制輪子を脆くしてしまう硬質相を多く発生させる必要がないので、これらのレアメタルの添加量を減らすことができる。
【0025】
制動ブロック120は、一部が前記制動摩擦面に露出するように制輪子本体110内に埋め込まれている。制動ブロックとして、多孔質ブロックを使用することが好適であり、当該多孔質ブロックは、その空隙内も含めて全体を制輪子本体によって鋳ぐるむことにより一体化させることが好適である。多孔質ブロック120の形状は特に限定されないが、例えば、円柱状に形成されていることが好適である。これにより、後述する製造時に、型内に溶融鋳鉄を流し込んでブロックが浮上する時、型枠を壊さないという効果を奏する。
【0026】
本発明に係る制動ブロックは、アルミナを含有する。本発明に係る制動ブロックは、多孔質ブロックであることが好適であり、より詳細には多孔質ブロックを形成する骨格の主成分がアルミナであることが好適である。尚、ここで主成分とは、50質量%以上を含有する成分を意味する。
【0027】
本発明において使用するアルミナは、特に限定されないが、例えば、αアルミナを使用することができる。また、易焼結性アルミナを使用することが好適である。ここで、易焼結性アルミナとしては、低ソーダアルミナであることが好適である。ここで低ソーダアルミナとは、アルミナに対してソーダ分が0.10質量%以下のアルミナを意味する。ここで、ソーダ分の測定方法はJIS R9301‐3‐9:1999による。アルミナは、ソーダ分が多く含まれると焼結の際の結晶成長が不均一になり、焼結嵩密度に悪影響を与える。
【0028】
アルミナの熱伝導率は、15〜40J/m・sec・℃が好適である。尚、熱伝導率はJIS R1611に規定されている方法により測定する。アルミナの熱膨張係数は5.0〜9.0×10−6/℃が好適である。尚、熱膨張係数はJIS R1618に規定されている方法により測定する。また、アルミナのビッカース硬さは1.2〜2.5×10MPaであることが好適である。ビッカース硬さは、JIS C2141により測定する。
【0029】
本発明に係るセラミックス多孔体の骨格の材料は、前記アルミナに加えて、リン酸アルミニウムを含有することが好適である。当該リン酸アルミニウムを含有させることにより、車輪へのアルミナ粒子供給効率が高くなるため、優れた制動距離や、低い車輪攻撃性を発揮する。ここでリン酸アルミニウムとは、具体的には、Al・3P・6HOの示性式で表される第一リン酸アルミニウムバインダーが挙げられる。この際、Al成分は5〜10%であることが好適であり、P成分は25〜65%であることが好適である。尚、製造時におけるスラリー中のリン酸アルミニウムの含有量は、アルミナ100質量部に対して、3〜30質量部が好適であり、6〜25質量部がより好適であり、9〜20質量部が更に好適である。尚、本発明に係るセラミックス多孔体(最終生成物)の骨格を形成する材料において、P成分は、2〜20質量%が好適であり、5〜15質量%がより好適であり、7〜13質量%が更に好適である。
【0030】
その他、任意成分として、タルク、蛙目粘土等の粘土、カーボンナノチューブなどのナノカーボンが含まれていてもよい。タルクの含有量としては、特に限定されないがアルミナ100質量部に対して、0.1〜10質量部が好適である。粘土の含有量としては、アルミナ100質量部に対して0.1〜10質量部が好適である。
【0031】
前記の任意成分の中でも、カーボンナノチューブが含まれていることが好適である。多孔質ブロックである場合には、その骨格の材料がカーボンナノチューブを含有することが好適である。カーボンナノチューブを含有することにより、熱伝導率が高くなるため、より車輪温度を低く保つことができるため、車輪への攻撃性が低くなる。また、カーボンナノチューブを含有することにより、熱伝導率の均一性が高まるため、ヒートスポットが発生しにくくなる。カーボンナノチューブの含有量としては、アルミナ100質量部に対して、0.01〜30質量部が好適であり、0.05〜20質量部がより好適であり、0.1〜10質量部が更に好適である。
【0032】
セラミックス多孔質ブロックは連通気泡を有することが好適である。セラミックス多孔質ブロックの空孔率は、5〜30ppiが好適であり、7〜25ppiがより好適であり、10〜20ppiが更に好適である。
【0033】
ここで多孔質ブロックの製造方法は、特に限定されないが、例えば、含浸工程と、乾燥工程と、脱脂工程と、焼結工程を経て製造することができる。
【0034】
含浸工程とは、多孔質ブロックの骨格を形成するセラミックス材料を分散又は溶解したスラリーを有機多孔体に含浸させる工程である。当該工程において有機多孔体としてポリウレタン発泡体を使用することが好適である。
【0035】
乾燥工程では、前記含浸工程後、含浸させたスラリーの溶媒を除去する。ここで、セラミックス材料スラリーの有機多孔体に対する添着量は、有機多孔体100質量部に対して、1000〜2500質量部程度が好適である。
【0036】
脱脂工程では、乾燥工程後、材料が被覆された有機多孔体を加熱して、多孔体の骨格を除去する。
【0037】
最後に、焼結工程では、前記脱脂工程後の多孔質材料を焼結し、本発明に係るセラミックス多孔質ブロックを得る。尚、焼結工程は、前記脱脂工程と連続的に行なわれてもよい。
【0038】
続いて、本発明に係る制輪子の製造方法について説明する。本発明に係る制輪子は、上鋳型と下鋳型とからなる型を用いて製造することができる。まず、下鋳型にブロックガイドを有するバックメタルを、前記ブロックガイドを上面に向けて載置し、当該ブロックガイドに制動ブロックを固定する。ここで、ブロックガイドとは、例えば、バックメタルから制動摩擦面側に突き出た棒状の突起である。また、当該棒状突起の形状にあわせてガイドを通すための孔が制動ブロックの中心に設けられていてもよい。次に下鋳型に対して上鋳型を衝合して、この鋳型内に溶融鋳鉄を注湯する。すると、溶融鋳鉄との比重差によって各制動ブロックは浮き上がり、その一側面が制動摩擦面に当接した状態になる。制動ブロックとしてセラミックス多孔質ブロックを用いた場合には、この状態で溶融鋳鉄は当該多孔質ブロックの気孔内に流入し、多孔質ブロックと鋳鉄とが一体化する。そして、溶融鋳鉄を冷却することにより、バックメタルおよび制動ブロックを鋳ぐるんだ制輪子本体が固化形成され、本発明に係る制輪子が製造される。
【0039】
当該制動ブロックとして多孔質ブロックを用いる場合、溶融鋳鉄を流し込む前に、当該多孔質ブロックに塗型剤が塗布されていてもよい。塗型剤を塗布することにより、多孔質ブロックが崩壊するのを防ぐことができる。ここで塗型剤としては、鋳鉄用塗型剤であれば特に限定されないが、例えば、MgO・SiO系やジルコン系塗型剤が挙げられる。
【0040】
本発明に係る制輪子は、鉄道などの車両用制輪子として使用することができ、当該制輪子の制動摩擦面を、車輪に押し当てて車両を制動する。本発明に係る制輪子は上述した構成からなり、また上記の製造方法により製造することによって、セラミックス多孔質ブロックを用いた場合には各気孔内に鋳鉄が充填された状態で当該ブロックとを制輪子本体とを一体化することができる。従って、制輪子の制動摩擦面にはセラミックス多孔質ブロックが鋳鉄と一体化した状態で実質的に均一に分散した状態で露出するから、制輪子が車輪に押圧された場合、セラミックス多孔質ブロックは車輪に平均に圧接することができ、セラミックスは車輪との摩擦境界面に逐次定量的に供給される。
【実施例】
【0041】
実施例1(アルミナ多孔質ブロックの製造)
下記の表1の配合比に従って、アルミナ(昭和電工製、AL−170、NaO含有量:0.04%、熱伝導率:36J/m・sec・℃、熱膨張係数:C‖6.6×10−6/℃、C⊥5.3×10−6/℃、ビッカース硬さ:2.2×10MPa)と蛙目粘土(共立マテリアル社製、蛙目粘土特級粉末KH)、タルク(丸尾カルシウム社製、PKP#80)を混ぜ合わせて、リン酸アルミニウム溶液{多木化学製、50L(P成分:31.0±1.0%、Al成分:7.3±0.5%、乾燥固形分33%)}に加えてすり鉢で混ぜた。これにより得られたスラリーをサンプルサイズΦ65mm、厚み22mmのポリウレタンフォーム(イノアックコーポレーション製、MF−7)たてスキサンプルへ含浸させた。ここで、添着量は1個のサンプルあたり、35gであった。続いて50℃にて乾燥した後、25〜600℃、50℃/hの昇温スピードで加熱した後、600〜1500℃、200℃/hの昇温スピードで加熱して、1500℃で一時間保持することにより酸素雰囲気下で脱脂及び焼結工程を行なった。その後、自然冷却によって、常温に戻した。これにより、アルミナ多孔質ブロックを得ることができた。ここで、得られたアルミナ多孔質ブロックの空隙率は、10ppiであった。また、得られたアルミナ多孔質ブロックの組成を蛍光X線分析により測定した。尚、比較として、後述する制動試験で用いた炭化珪素セラミックス多孔質ブロックの組成についても蛍光X線分析により測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
また、製造後、制輪子の製造のため、得られたアルミナ多孔質ブロックに塗型剤{オカスーパー750B(MgO・SiO系)}を塗布した。製造したアルミナ多孔質ブロックの塗型剤塗布前後の写真を図2に示した。
【0045】
実施例2(制輪子の製造)
実施例1のアルミナ多孔質ブロックを2個鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子を製造した。ここで使用した合金鋳鉄の組成は、C:3.46、Si:2.22、Mn:1.20、P:1.86、S:0.015、Cu:0.79、Ni:0.51、Cr:0.50、Mo:1.01である。製造した合金鋳鉄制輪子の写真を図3に示した。
尚、後述する制動試験におけるセラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子と、炭化珪素セラミックス多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子も同じ成分の合金鋳鉄を使用した。
【0046】
制動試験
上記当該鋳鉄制輪子について実物大ブレーキ試験を行った。この試験機では、実際の車両と同等の慣性モーメントを持った車輪が所定の速度で回転しているところに左右から2個の制輪子を押しつけ、停止するまでの各種性質を所定のブレーキ初速度毎に5回測定した。試験条件を表3に示す。尚、試験は、「JIS E 7501鉄道車両用鋳鉄制輪子の性能試験及び検査方法」の手順に一部準拠して行った。
【0047】
【表3】

【0048】
(制動距離)
上記実施例2の合金鋳鉄制輪子と、セラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子と、炭化珪素セラミックス多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子とを準備し、制動試験を行なった。所定のブレーキ初速度からブレーキをかけて車輪が停止するまでの距離を測定した。5回の平均結果を表4に示した。また、初速度135km/hの条件における各制輪子の平均制動距離をグラフ化して図4に示した。
【0049】
【表4】

【0050】
(摩耗量)
上記実施例2の合金鋳鉄制輪子と、セラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子と、炭化珪素セラミックス多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子とを準備し、磨耗試験を行なった。所定のブレーキ初速度からブレーキをかけて車両を停止させる動作一回あたりに対して、単位制輪子あたりの摩耗量を測定した。5回の平均結果を表5に示した。また、初速度135km/hの条件における各制輪子の平均摩耗量をグラフ化して図5に示した。
【0051】
【表5】

【0052】
(車輪温度)
上記実施例2の合金鋳鉄制輪子と、セラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子と、炭化珪素セラミックス多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子とを準備し、車輪温度試験を行なった。所定のブレーキ初速度からブレーキをかけて車両を停止させた際の車輪温度を測定した。車輪温度は、外側面(反フランジ側)から10mm、40mm、70mm、踏面から深さ10mmの位置で測定した。5回の最高温度の平均結果を表6に示した。また、初速度135km/hの条件における車輪の最高温度をグラフ化して図6に示した。
【0053】
【表6】

【0054】
(制輪子温度)
上記実施例2の合金鋳鉄制輪子と、セラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子と、炭化珪素セラミックス多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子とを準備し、制輪子温度試験を行なった。所定のブレーキ初速度からブレーキをかけて車両を停止させた際の左右2個の制輪子の温度を測定した。温度の測定点は、制輪子の進入端面からの距離を40mm、摩擦面からの深さ10mmとした。5回の最高温度の平均結果を表7に示した。また、初速度135km/hの条件における制輪子の最高温度をグラフ化して図7に示した。
【0055】
【表7】

【0056】
(平均摩擦係数)
平均摩擦係数fは、上記の試験結果に基いて、次式(1)で算出した。
【0057】
【数1】

ここで、M:等価輪重 M=I/R (ここに、I:慣性モーメントkg・m、R:車輪半径m)、Vはブレーキ初速度(m/s)、Lはブレーキ停止距離(m)、Pは制輪子の総押付力(N)である。その結果を図8に示す。
【符号の説明】
【0058】
100:制輪子
110:制輪子本体
111:制動摩擦面
113:コッタ部
120:制動ブロック
130:バックメタル
131:板状体
132:連結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、アルミナ及びリン酸アルミニウムを含有することを特徴とする、車両用制輪子。
【請求項2】
前記鋳鉄が、合金鋳鉄であることを特徴とする、請求項1記載の車両用制輪子。
【請求項3】
前記合金鋳鉄がリンを含有することを特徴とする、請求項2記載の車両用制輪子。
【請求項4】
前記制動ブロックが、多孔質ブロックであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の車両用制輪子。
【請求項5】
前記制動ブロックが、カーボンナノチューブを含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の車両用制輪子。
【請求項6】
車両用制輪子の制動摩擦面に配される制輪子用制動ブロックにおいて、
前記制動ブロックが、アルミナ及びリン酸アルミニウムを含有することを特徴とする、制輪子用制動ブロック。
【請求項7】
前記制動ブロックが、多孔質ブロックであることを特徴とする、請求項6記載の制輪子用制動ブロック。
【請求項8】
前記制動ブロックが、カーボンナノチューブを含有することを特徴とする、請求項6又は7記載の制輪子用制動ブロック。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−169354(P2011−169354A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31870(P2010−31870)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】