車両用前照灯装置及び車両用前照灯装置の制御方法
【課題】ハイビームによる照射中でも対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えない照射制御ができるとともに、ハイビームの照射による運転者の視認性向上が十分にできるシンプルな構成の車両用前照灯装置を提供する。
【解決手段】車両用前照灯装置は、ハイビーム照射用の光源と光源を照射制御する制御手段を備えている。制御手段は、光源が照射するハイビーム照射領域42の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域42aを複数形成し上側段に第1領域42aより左右方向に領域幅が広い第2領域42bを形成するように照射制御を行う。
【解決手段】車両用前照灯装置は、ハイビーム照射用の光源と光源を照射制御する制御手段を備えている。制御手段は、光源が照射するハイビーム照射領域42の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域42aを複数形成し上側段に第1領域42aより左右方向に領域幅が広い第2領域42bを形成するように照射制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯装置及び車両用前照灯装置の制御方法、特に、ハイビーム照射用の光源を用いた照射制御に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用前照灯装置は、走行ビームを照射するときに使用するハイビーム照射用の光源と、すれ違いビームを照射するときに使用するロービーム照射用の光源を備えている。このうち、ハイビームは法規で定められる明るさの範囲内で遠方をできるだけ明るく照らすことが要求される。その一方で、対向車や前走車、歩行者等に不快感を伴うまぶしさ(グレア)を与えないようにする配慮が必要になる。ロービームはグレアの抑制を考慮した配光パターンを形成しているのに対し、ハイビームは運転者の視界確保を優先させてグレアの抑制をあまり考慮しない配光パターンを形成している。そのため、車両用前照灯装置においては、ロービームモードとハイビームモードを切り換える切換スイッチを備えている。運転者は、対向車や歩行者の有無に応じていずれかのビームモードを選択することにより、ロービーム照射用の光源とハイビーム照射用の光源を用いた視界確保を優先させるかロービーム照射用の光源のみでグレア防止を優先させるかを適宜切り換えている。
【0003】
また、1つの灯具ユニットにより複数の配光パターンを形成する車両用前照灯装置の提案も行われている。例えば、特許文献1の車両用の照明装置は、マトリックス状に配置された多数の半導体光源を有している。多数の半導体光源は個別に点灯制御可能で複数種類の部分領域を形成している。そして、必要に応じて各半導体光源を個別に制御することにより所望の配光パターンを形成して、ロービームモードとハイビームモードの切り換えを可能にしている。
【特許文献1】特開2001−266620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、運転者がハイビームを点灯させるのは、夜間走行中などにロービームの照射のみでは遠方の道路形状や障害物の有無、対向車や歩行者の有無などの情報が十分に得られないと感じて、少しでも多くの情報を得ようとする場合であることが多い。その一方で、前述したように、ハイビーム点灯時には対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えないように配慮する必要がある。前述したように従来の前照灯装置は、グレアを抑制するためにハイビーム用の光源を全消灯させるものであった。このような場合、ハイビームの機能が一時的でも制限されるため、十分な視界を確保したいという運転者の要望からすると改善の余地があることを発明者らは認識するに至った。また、このことは、ハイビームを市街地などで利用しにくい原因にもなっている。
【0005】
また、特許文献1の照明装置は、マトリックス状に構成される多数の半導体光源を制御して複数種類の配光パターンを形成できるので、ハイビームを点消灯させるよりは詳細な照射制御ができる。しかし、特許文献1の照明装置は、所望の配光パターンを得る部分領域を形成するために多数の半導体光源を個別制御する必要があり、制御線が膨大な数になり制御が煩雑になるとともに多数の半導体光源を必要とするため部品コストの増大や組立の煩雑さを招いてしまうという問題がある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハイビーム照射中でも対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えない照射制御ができるとともに、ハイビーム照射による視界確保が十分にできるシンプルな構成の車両用前照灯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様では、ハイビーム照射用の光源と、前記光源を照射制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、前記複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に前記第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように前記光源の照射制御を行うことを特徴とする。
【0008】
ここで、制御手段が照射制御を行うとき配慮を必要とする点は、例えば、対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えないようにすることである。出願人らは試験を重ねた末に、遠方から接近してくる対向車や歩行者がハイビーム照射領域内において存在するのは水平線の近傍、すなわちハイビーム照射領域の鉛直方向下側部分であるという結果を得た。同様に前走者が存在するのも水平線の近傍であるという結果を得た。つまり、対向車や前走車、歩行者などが存在する可能性の高いハイビーム照射領域の下側段に形成される複数の第1領域を個別に消灯する照射制御することにより、グレアの抑制をきめ細かくかつ容易に抑制できる。また、第1領域は左右幅が狭いので、必要以上にハイビーム照射領域の広さを制限しないので十分な視界確保ができる。また、ハイビーム照射領域の上段部分は対向車や前走車、歩行者などが存在する可能性が低く、頻繁に点消灯制御する必要性は少ない。ハイビーム照射領域の上側段の第2領域は下側段の第1領域より左右方向の領域幅が広いので領域分割数が下側段より少なくできる。したがって、照射制御が容易になる。また、第2領域を形成するための光源を制御する制御線の数を低減可能となり、車両用前照灯装置の構成を簡易化できる。さらに、部品点数の削減にも寄与できる。
【0009】
また、上記態様において、前記制御手段は、前記ハイビーム照射領域がオーバーヘッドサイン領域に対応するように前記光源を照射制御するようにしてもよい。オーバーヘッドサイン領域とは、車両前方例えば25mに設定される仮想鉛直スクリーン上において水平線よりも上方向に存在する道路標識など運転者が運転中に認識することが好ましい物体が存在する領域であり、水平線の上方約2°〜4°付近をいう。ハイビーム照射領域がオーバーヘッドサイン領域に対応するように照射制御することで、夜間走行時にオーバーヘッドサイン領域を確実に照明することが可能になり、夜間走行時の運転者の視認性向上に寄与できる。
【0010】
また、上記態様において、前記制御手段は、ロービームの照射時に前記第2領域を当該ロービームに追加して照射させるようにしてもよい。この態様によれば、従来ロービームによりぼんやりと照射されている仮想鉛直スクリーンの上方部分に対し第2領域部分を追加照射することにより、運転者にとって有用な情報が多く存在する仮想鉛直スクリーンの上方部分を明るく照射することができる。この場合、第1領域は消灯となるので、対向車や前走車、歩行者などにグレアを与えることが抑制できる。また、第2領域はロービーム照射時に点灯させたまま詳細な照射制御を必要としないので、照射制御のシンプル化ができる。なお、第2領域による照射はロービーム照射時に自動で照射されるようにしてもよいし、運転者の操作により第2領域のみが照射されるようにしてもい。
【0011】
また、上記態様おいて、前記光源は、前記第1領域と前記第2領域を個別に形成する複数の個別光源で構成され、前記制御手段は、前記個別光源を個々に制御して前記ハイビーム照射領域を照射制御するようにしてもよい。第1領域及び第2領域をそれぞれ個別光源で構成することにより、電力供給線及び信号線は形成される第1領域及び第2領域の数分だけでよく、光源の構成を簡略化できるとともに、その制御も簡略化できる。なお、第1領域と第2領域を形成する光源は同じ光量のものを用いてもよいし、それぞれ専用の光量のものを用いてもよい。同じ光量の光源を用いる場合、第2領域は第1領域より左右幅が広いので、仮想鉛直スクリーン上における明るさは暗くなるが標識などを認識させるには十分な明るさを確保できる。なお、複数の第1領域のうち、例えば中央付近に位置する第1領域のみを用いて照射制御することにより、高速道路の走行時などで遠方を明るく照射する、いわゆるモーターウェイモードの照射制御も可能になる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある態様では、ハイビーム照射用の光源を照射制御する車両用前照灯装置の制御方法であって、前記光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割して、前記複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に前記第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように前記光源を制御するとともに、前記ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物が存在する場合、前記対象物が存在する位置に対応するハイビーム照射領域を部分的に消灯制御することを特徴とする。
【0013】
ここで、ハイビーム照射領域中の照射を抑制すべき対象物とは、例えばグレアを感じる対向車や前走車、歩行者などである。そして、対象物は、例えば、車両に搭載された各種センサによって検出され、仮想鉛直スクリーン上における位置が制御手段に認識される。ところで、自車と対象物の相対距離が変化する場合、仮想鉛直スクリーン上の対象物の位置が変化する。この位置の変化に追従して制御手段はハイビーム照射領域の一部を部分的に消灯制御する。このとき、ハイビーム照射領域において、対象物が存在する可能性の高い下側段は左右幅が狭い第1領域を複数形成している。この第1領域を個別に照射制御することにより、対象物が存在する部分のみを適切に消灯制御してグレアを与えないようにできる。一方、ハイビーム照射領域の上側段は対象物が存在する可能性が低く、照射を抑制する必要性は低い。その一方で、ハイビーム照射領域の上側段は道路標識など運転者が迅速に認識することが好ましい物体が存在するので光を簡易な制御で継続的に照射することが望ましい。そこで、第1領域より左右幅の広い第2領域を上側段に形成することにより、ハイビーム照射領域の上側段の左右方向の分割数を下側段に比べて少なくしている。その結果、制御対象を少なくできて照射制御を簡易化することができるとと共に、遠方の良好な照明ができる。
【0014】
また、上記態様において、前記消灯制御をした場合、前記対象物の存在を示唆する映像を運転者から見て前記消灯した照射領域が照射すべき方向に重畳表示するようにしてもよい。対象物が存在する部分を消灯制御した場合、運転者側から見ればその部分のみが明るい照射の中で黒く抜け落ちたブラックホールのように見える。消灯制御は照射を抑制することが望ましい対象物が存在するため行われるので、何らかの物体が存在することは報知できる。しかし、それが何であるか認識し難い場合、運転者に不安感を抱かせる原因になる。そこで、対象物の存在を示唆する映像を運転者から見て消灯した照射領域が照射すべき方向に重畳表示する。その結果、対象物にグレアを与えることなく、ハイビーム照射領域中で不認識部分が形成されることなく違和感のない前方視界を確保することができる。なお、重畳される映像は、例えば、対象物を認識するときに取得した実映像をそのまま用いてもよいし、取得した実映像に基づき歩行者や車両の映像を生成してもよい。また、対象物の検出結果に基づき予め準備された映像の中から選択して重畳表示するようにしてもよい。なお、重畳表示する映像は、実映像の歩行者や車両に対応する必要はなく、例えば、運転者の注意を引くマークやキャラクタでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用前照灯装置およびその制御方法によれば、容易な構成により対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えないように配慮しつつ、ハイビーム照射による運転者の視界確保が十分にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0017】
本実施形態の車両用前照灯装置は、ハイビーム照射用の光源と、この光源を照射制御する制御手段と、を備えている。制御手段は、光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように照射制御を行う。
【0018】
ハイビーム照射用の光源は、ハロゲンランプやディスチャージランプ、半導体発光素子など種々のタイプを採用できる。また、制御手段は光源のオン・オフ制御をするのみでもよいし、オン・オフ制御に加え光量制御をしてもよい。制御手段は、ハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を形成する。上下方向の分割段数は2段以上であれば何段でもよい。また、ハイビーム照射領域の幅方向全域について上下方向に分割するようにしてもよいし、一部を分割するようにしてもよい。一部を分割する場合には、ハイビーム照射領域の中央付近が分割領域に含まれるようにすることが望ましい。所定の領域幅とは、前照灯装置の照射領域として意味を有する最小の幅以上であることが望ましい。この最小の幅とは、車両が走行する道路で例えば前方100mの位置に存在する乗用車の幅とほぼ同等の幅を前方100mの位置に設定される鉛直スクリーン上に照射できる幅とすることができる。
【0019】
また、制御手段は、ハイビーム照射領域の上側段に第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成する。制御手段が照射制御を行うとき配慮を必要とする点は、例えば、対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えないようにすることであり、特にその配慮を必要とするのは、主としてハイビーム照射時である。出願人らは試験を重ねた末に、遠方から接近してくる対向車や歩行者がハイビーム照射領域内において存在するのは水平線の近傍、すなわちハイビーム照射領域の鉛直方向下側部分であるという結果を得た。同様に前走者が存在するのも水平線の近傍であるという結果を得た。このとき、左側通行で走行する対向車は、自車に近づくに従って仮想鉛直スクリーン上で鉛直線と水平線の交点側から水平線に沿って右方向に変位し、その変位の度合いは自車に近づくに従って徐々に大きくなる。つまり、グレアの抑制を配慮すべきハイビーム照射領域は、当該ハイビーム照射領域を上下方向に複数段に分割した場合、下側段に位置する領域となる。したがって、対向車や前走車、歩行者などが存在する可能性の高いハイビーム照射領域の下側段に形成される複数の第1領域を個別に消灯する照射制御することにより、自車に対して相対的に移動する対向車や前走車、歩行者などに対するグレアをきめ細かくかつ容易に抑制できる。また、第1領域は左右幅が狭いので、必要以上にハイビーム照射領域の広さを制限しない。したがって、グレア抑制のために消灯す照射制御を実施しても十分な広さのハイビーム照射領域を確保して運転者の視界確保ができる。
【0020】
また、ハイビーム照射領域の上段部分は対向車や前走車、歩行者などが存在する可能性が低く、頻繁に点消灯制御する必要性は少ない。したがって、制御手段は、ハイビーム照射領域の上側段に第1領域より左右方向の領域幅が広い第2領域を形成する。この場合、ハイビーム照射領域の上側段の領域分割数が下側段より少なくできるので、照射制御が容易になる。また、第2領域を形成するための光源を制御する制御線の数を低減可能となり、車両用前照灯装置の構成を簡易化できる。さらに、部品点数の削減にも寄与できる。
【0021】
図1は、本実施形態の車両用前照灯装置10の構成概念図である。図1に示すように、車両用前照灯装置10はランプボディ12と、透明カバー14とで略密閉空間を形成し、内部に1つのロービーム用灯具ユニット16と複数のハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cを配置している。なお、ハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cの基本構造は略同一なので、個々を特に区別する必要が無い場合、または複数を指す場合などはハイビーム用灯具ユニット18と記する場合もある。本実施形態の場合、一例としてハイビーム用灯具ユニット18を3個配置した例を示している。ここで、車両が走行する道路において、前方例えば25mの位置に設定される鉛直線Vと水平線Hを含む仮想鉛直スクリーンを考える。ロービーム用灯具ユニット16やハイビーム用灯具ユニット18の形成する照射領域は、この仮想鉛直スクリーン上で配光パターンとして投影されることになる。なお、ロービーム用灯具ユニット16やハイビーム用灯具ユニット18により形成される具体的な配光パターンは後述する。
【0022】
ロービーム用灯具ユニット16は、回転放物面等を基準に形成されたリフレクタ20を有する、いわゆるパラボラ型の灯具ユニットである。図1の場合、ロービーム用灯具ユニット16はハイビーム用灯具ユニット18より車両外側に配置されている。前照灯の光源として、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LED、ネオン管、レーザ光源などが使用可能である。本実施形態では、一例としてハロゲンランプで構成されるバルブ22を示す。バルブ22は、リフレクタ20の略中央に形成された開口部に勘合固定されると共に、ランプボディ12によって支持されている。なお、ロービーム用灯具ユニット16は光軸調整機構(図示省略)を備えてもよく、車両の姿勢に応じて光軸調整ができるようにされてもよい。バルブ22の前方にはシェード24が配置されている。シェード24はバルブ22から前方への直接光をカットする機能を有し、対向車や前走車、歩行者等に不快感を伴うまぶしさ(グレア)を与える原因を排除している。シェード24は例えばブラケットなどの支持部材を用いてリフレクタ20に固定することができる。また、シェード24を配置する代わりにバルブ22の先端部に表面処理を施しマスクを形成してシェード24と同等の機能を持たせてもよい。
【0023】
なお、ロービーム用灯具ユニット16の場合、配光の上限を限定する明瞭な明暗境界線、いわゆるカットオフラインが設けられる。このカットオフラインは、当該カットオフラインから下方は明るく、カットオフラインの上方は暗いという境界線を意味する。カットオフラインは、例えば、車幅方向の右側で光軸を横切る水平線より下側で水平に延びる右側部分と、車幅方向の左側で右側部分よりやや上方の位置を水平に延びる左側部分とが、左上がりに傾斜した中央部分によって連結された形状を有する。なお、中央部分の傾斜角度は、例えば45°である。図1に示すようなパラボラ型の灯具ユニットの場合、バルブ22の内部にカットオフオフライン形成用のシェードを内蔵することができる。また、光源の前方に凸レンズを有するプロジェクタ型と称される灯具ユニットの場合、リフレクタと、凸レンズの間に、カットオフライン形成用のシェードを配置して、シェードの先端形状を仮想鉛直スクリーン上に投影する。
【0024】
本実施形態の場合、ロービーム用灯具ユニット16より車両内側には複数のハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cが配置されている。各ハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cから照射される光の照射領域を組み合わせることによりハイビーム照射領域を形成し、仮想鉛直スクリーン上に所定の配光パターンを形成する。前述したようにハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cの基本構造は略同一なので、ハイビーム用灯具ユニット18aを一例にその構造を説明する。また、ハイビーム用灯具ユニット18に含まれる光源ユニット27は後述する前端射出口28bの形状と位置と個数が異なるのみで、基本構造は同じなので、区別する必要がある場合は、光源ユニット27a、27b、27cと記し、それ以外の場合は光源ユニット27と記する場合もある。
【0025】
ハイビーム用灯具ユニット18aは、投影レンズ26、光源ユニット27a、ホルダ30を含んで構成される。光源ユニット27aを含むハイビーム用灯具ユニット18aは、光源ユニット27aの内部に形成された光路28aを光が通過する過程で複数回反射を繰り返えさせる。そして射出される光の明るさを均一化している。このようなタイプの灯具ユニットを反射タイプのプロジェクタ型灯具ユニットということもある。
【0026】
投影レンズ26は、車両前後方向に延びる光軸上に配置され、光源ユニット27aは、投影レンズ26の後方焦点を含む焦点面である後方焦点面よりも後方側に配置される。また、ホルダ30は、投影レンズ26及び光源ユニット27aを支持するとともに、図示を省略したブラケットによりランプボディ12に固定されている。なお、各ハイビーム用灯具ユニット18aは光軸調整を行う光軸調整機構を備えてもよい。
【0027】
投影レンズ26は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
【0028】
光源ユニット27aの内部には例えば鏡面処理された光路28aが複数形成されている。光路28aは光源ユニット27aの後端近傍部に配置された素子基板32の発光素子からの光を光源ユニット27aの先端に形成された前端射出口に導いて投影レンズ26に向かって射出する。前端射出口の構成については後述する。光源ユニット27aの後端近傍部に配置された素子基板32の背面には放熱板34は配置され、発光素子の駆動により発生する熱を効率的に放熱できるようにしている。なお、図1では、素子基板32を大型の1枚基板として図示しているが、各光路28aに対応して個別の発光素子を搭載する個別素子基板としてもよい。
【0029】
この他、車両用前照灯装置10には、前照灯の正面からの見栄えを向上するためのエクステンション36が配置されている。エクステンション36はロービーム用灯具ユニット16及びハイビーム用灯具ユニット18とランプボディ12との隙間を覆い隠すように配置される略箱型の部材であり、その表面は反射面とされることが多い。
【0030】
図2(a)〜図2(c)は、光源ユニット27a、27b、27cの外観と光路28aの配置及び光路28aの先端に形成された前端射出口28bの形状を説明するための斜視図である。前述したように本実施形態の場合、3個のハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18c、すなわち、光源ユニット27a、27b、27cから射出される光を合成して所望のハイビーム照射領域を形成し、仮想鉛直スクリーン上にその配光パターンを形成している。
【0031】
ところで、本出願人らは、走行中の運転者の視線の動きに着目し観察したところ図3(a)〜図3(d)に示すような特徴的な動きをしていることを確認した。図3(a)〜図3(c)は市街地走行中の仮想鉛直スクリーン上での視線の動きで、実線が対向車を捕らえたときの視線、破線が歩行者を捕らえたときの視線の動きである。このとき、遠方から接近してくる対向車や歩行者ははじめ仮想鉛直スクリーン上の鉛直線Vと水平線Hの交点近傍で認識される。左側通行で走行する対向車を捕らえた視線は、対向車が自車に近づくに従って水平線Hに沿って右上方向に変位する。また、路肩に駐車している車両など自車より左側に存在する車両や左側の路肩や歩道に存在する歩行者を捕らえた視線は、自車に近づくに従って水平線Hに沿って左上方向に変位する。図3(d)は高速道路走行時に対向車を捕らえたときの視線の動きを示している。この場合も運転者の視線は対向車が自車に近づくに従って水平線Hに沿って右上方向に変位する。なお、前走車は鉛直線Vと水平線Hの交点近傍に存在し続けるので、前走車に対する視線の移動は鉛直線Vと水平線Hの交点近傍からあまり動かない。
【0032】
したがって、ハイビーム用灯具ユニット18の点灯時に対向車や前走車、歩行者等にグレアを与えないように配慮する場合、ハイビーム照射領域において水平線Hの近傍である下側部分を対向車や歩行者の動きに対応させて詳細に点消灯制御すればよい。一方、ハイビーム照射領域の上側部分は対向車や歩行者などが存在する可能性が低いので、ハイビームは照射したままでもよく、簡易的な点消灯制御でよいという結果を得た。
【0033】
そこで、本実施形態の場合、各ハイビーム用灯具ユニット18が照射する光により照射されるハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割している。そして、分割される複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するようにして、各領域を個別に照射制御できるようにしている。具体的には、対向車や歩行者の存在する可能性の高いハイビーム照射領域の下側段は、領域幅の狭い第1領域を対向車や歩行者の動きに合わせて頻繁に点消灯する照射制御を行いグレアを感じさせないようにする。このように領域幅の狭い第1領域を点消灯制御することにより、消灯している領域をできるだけ少なくしてハイビーム照射時の運転者の視界確保を十分に行う。また、対向車や歩行者の存在する可能性の低い上側段に、領域幅が第1領域より広い第2領域を形成する。このように第1領域より左右方向の領域幅の広い第2領域を形成するように照射制御を行うことにより、ハイビーム照射領域の幅方向の分割数を下側段より少なくすることができる。その結果、容易な照射制御により広範囲のハイビーム照射領域の形成が可能になり広い領域に対するハイビーム照射ができる。その結果、運転者の視界確保が十分にできる。また、制御対象の光源の数を低減することができるので電力線や制御線の本数が削減できてハイビーム用灯具ユニット18の構造を簡略化できる。
【0034】
上述したような個別に点消灯が可能な第1領域と第2領域を形成するような照射制御ができる光源ユニット27a、27b、27cの構造を図2(a)〜図2(c)を用いて説明する。図2(a)〜図2(c)の場合、例えば2段構成の第1領域及び第2領域に形成するために、前端射出口28bが光源ユニット27a、27b、27cの上下方向に複数段で配置されている。また、第1領域及び第2領域を形成する光を導く光路28aは互いに隔壁により分離され、個別領域の鮮明な輪郭が形成できるようにしている。ただし、この隔壁により形成される影が合成されたハイビーム照射領域に現れると照明品質の低下を招くので好ましくない。そこで、図2(a)〜図2(c)に示すように、個々の光源ユニット27a、27b、27cの前端射出口28bを左右上下方向において互いに接触しないように分散配置している。そして、各光源ユニット27a、27b、27cの光軸の微調整を行うことにより、各光源ユニット27a、27b、27cで形成される影の部分を他の光源ユニット27a、27b、27cの前端射出口28bからの光により補完するようにしている。つまり、3個の光源ユニット27a、27b、27cからの光が合成された場合、光路28aの影の映り込みがないハイビーム照射領域が形成される。
【0035】
図4(a)〜図4(d)は図2(a)〜図2(c)に示す光源ユニット27a、27b、27cからの照射光の合成を説明する説明図である。図4(a)〜図4(d)は、3個のハイビーム用灯具ユニット18、すなわち、光源ユニット27a、27b、27cで形成される個別の照射領域を合成してハイビーム照射領域を形成する例を説明する。このハイビーム照射領域は上下方向に2段に分離し、下側段の第1領域の左右幅より上側段の第2領域の左右幅が広くなっている。なお、第1領域の左右幅とは、車両が走行する道路で例えば前方100mの位置に存在する乗用車の幅とほぼ同等の幅を前方100mの位置に設定される鉛直スクリーン上に照射できる幅とすることができる。図4(a)は、3個のハイビーム用灯具ユニット18を全点灯させたときのハイビーム照射領域38を示している。図4(a)において、下側段に第1領域38a,38bが形成されている。前述したように、ハイビーム照射領域38の下側は仮想鉛直スクリーン上の水平線Hの近傍であり、対向車や歩行者が存在する可能性の高いので左右幅の狭い第1領域38aの点消灯の照射制御が詳細にできるようにしている。一方、図4(a)において、上側段に第2領域38c,38dが形成されている。前述したように、ハイビーム照射領域38の上側は仮想鉛直スクリーン上の水平線Hから離れた位置にあり、対向車や歩行者が存在する可能性が低いので左右幅が第1領域より広い第2領域を形成して点消灯の照射制御が簡易的にできるようにしている。言い換えれば、第2領域38c、38dを用いて照射を行うことにより、ハイビームの一部機能を利用して車両前方の視界確保性を向上させることができる。
【0036】
図4(b)〜図4(d)は、各光源ユニット27a、27b、27cにおける前端射出口28bの形状と配置を説明する説明図である。なお、光源ユニット27a、27b、27cの前方には平凸非球面レンズからなる投影レンズ26が配置されているので、この投影レンズ26によりハイビーム照射領域により形成される投映像は仮想鉛直スクリーン上で逆さまになる。そのための光源ユニット27a、27b、27cにおける前端射出口28bの配置は、下側段に第2領域を形成する前端射出口28bが配置され、上側段に第1領域を形成する前端射出口28bが配置されている。図4(b)〜図4(d)において、ハッチングが施された部分が前端射出口28bが形成されている部分で、他の部分はカバーが形成されている。また、光源ユニット27a、27b、27cは投影レンズ26の略中心より上下方向下側に偏って配置されているので、ハイビーム照射領域の投影により仮想鉛直スクリーン上で形成されるハイビーム配光パターンは水平線Hに対して上側に偏った位置に現れる。
【0037】
図5(a)〜図5(d)は、各光源ユニット27a、27b、27cにおける前端射出口28bの形状と配置の他の態様を説明する説明図である。図5(a)〜図5(d)の場合、ハイビーム照射領域40の一部を上下方向に複数段に分割する例である。具体的には、仮想鉛直スクリーン上の鉛直線Vの近傍に対応する位置で上下方向に3段に分離されている。この例の場合もハイビーム照射領域の下側段から上側段に向かい左右幅が広くなるようになっている。したがって、仮想鉛直スクリーン上の水平線Hの近傍であり、対向車や歩行者が存在する可能性の高い下側段、すなわち図4(a)で第1領域38aに対応する部分は左右幅の狭い下段領域40aが形成され、点消灯の照射制御が詳細にできるようになっている。また、ハイビーム照射領域40の上側段は仮想鉛直スクリーン上の水平線Hから離れた位置にあり、対向車や歩行者が存在する可能性が低いので左右幅が第1領域より広い第2領域が形成され、点消灯の照射制御が簡易的にできるようにしている。言い換えれば、中段領域40bや上段領域40cを用いて照射を行うことにより、ハイビームの一部機能を利用して車両前方の視界確保性を向上させることができる。なお、図5(a)の場合、図4(a)で第2領域としていた部分をさらに2段階に分離して中段領域40bを設けている。この場合、中段領域40bは下段領域40a、すなわち第1領域より左右幅を広くし、上段領域40cより左右幅を狭くしている。このように第2領域を中段領域40b、上段領域40cのように細分化することにより、グレアを抑制するための照射制御が図4(a)の場合より詳細にできる。言い換えれば、消灯せずにハイビームを照射し続けるハイビーム照射領域を広げることが可能になり、より運転者の視界確保に寄与できる。
【0038】
図6(a)〜図6(d)は、各光源ユニット27a、27b、27cにおける前端射出口28bの形状と配置の他の態様を説明する説明図である。図6(a)〜図6(d)の場合も図5(a)〜図5(d)と同様に、ハイビーム照射領域42の一部を上下方向に複数段に分割している。具体的には、仮想鉛直スクリーン上の鉛直線Vの近傍に対応する位置で上下方向に2段に分離されている。この例の場合もハイビーム照射領域の上側段が下側段より左右幅が広くなるようになっている。ただし、図4(a)に示す第2領域38c、図5(a)に示す第2領域の一部を形成する上段領域40cの形状が長方形であるのに対し、図6(a)に示す第2領域42bは台形形状になっている。この台形形状は、図3(a)〜図3(d)に示す仮想鉛直スクリーン上の対向車や歩行者に対する視線移動領域より上方であり、グレアの抑制が不要であると見なせる領域形状と一致している。つまり、ハイビーム照射領域42のうち複数段に分割された領域の第2領域42b以外で下側段の第1領域42aのいずれかを消灯することにより、対向車や歩行者に対するグレアを効率的に抑制することができる。言い換えれば、第2領域42bを用いて照射を行うことにより、ハイビームの一部機能を利用して車両前方の視界確保性を向上させることができる。
【0039】
図7は、上述のように構成される車両用前照灯装置10の前照灯装置制御部と車両側の車両制御部の構成を説明する機能ブロック図である。車両用前照灯装置50の前照灯装置制御部52は、車両54に搭載された車両制御部56の指示に従って電源回路58の制御を行いロービーム60のバルブ22やハイビーム62の発光素子の照射制御を行う。
【0040】
本実施形態の場合、ロービーム60と共にハイビーム62を点灯させているときに、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物が存在する場合、前記対象物が存在する位置に対応するハイビーム照射領域を部分的に消灯制御する。ここで、照射を抑制すべき対象物とは、対向車や前走車、歩行者などである。このような消灯制御を実行するために、車両制御部56は、対象物の認識手段として例えばステレオカメラなどのカメラ64から提供される画像データを用いる。カメラ64の撮影領域は仮想鉛直スクリーンの領域と一致している。撮影画像中に予め保持している車両や歩行者を示す特徴点を含む画像が存在する場合、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物が存在すると判定する。そして、照射を抑制すべき対象物の存在する位置に対応する照射領域を形成している発光素子を消灯するように前照灯装置制御部52に情報を供給する。前述したように、ハイビーム照射領域中で照射を抑制すべき対象物は、ハイビーム照射領域のうち水平線H近傍に対応するの第1領域に存在する可能性が高いので、第1領域を形成している発光素子の照射制御が主として行われる。なお、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物を検出する手段は適宜変更可能であり、カメラ64に代えてミリ波レーダや赤外線レーダなど他の検出手段を用いてもよい。また、それらを組み合わせてもよい。
【0041】
また、車両制御部56は、車両54に通常搭載されているステアリングセンサ66、車速センサ68、車高センサ70などからの情報も取得可能であり、車両54の走行状態や走行姿勢に応じて第1領域や第2領域の照射制御を行うこともできる。例えば、車両制御部56はステアリングセンサ66からの情報に基づき車両が旋回している場合、旋回方向の視界を向上させるように第1領域や第2領域の照射制御を自動で行うことができる。このような制御モードを旋回感応モードという。また、夜間に高速走行しているときには、遠方から接近する対向車や前走車、道路標識やメッセージボードの認識をできるだけ早く行えるように前照灯による照明を行うことが好ましい。そこで、車両制御部56は車速センサ68からの情報に基づき高速走行のときに、第2領域を自動点灯させて遠方の視界を向上させる。このような制御モードを速度感応モードという。また、車両54は搭乗人数や搭載重量、加減速などにより車高が変化する。また、加減速によって車両姿勢が前傾姿勢や後傾姿勢になる場合がある。このように車高の変化に伴い光軸が上下方向に変化する。例えば、光軸が上方向に変化した場合、第1領域の照射でも対向車や歩行者にグレアを与えなくなる場合がある。逆に光軸が下方向に変化した場合、第2領域の照射でも対向車や歩行者にグレアを与えてしまう場合がある。そこで、車両制御部56は車高センサ70からの情報に基づき、車両54の姿勢を正確に把握し、カメラ64からの情報と合わせて第1領域や第2領域の照射制御をさらに適切に行うようにすることができる。このような制御モードを車高感応モードという。
【0042】
この他、車両制御部56は、ナビゲーションシステム72から道路の形状情報や形態情報、道路標識の設置情報などを取得することもできる。これらの情報を事前に取得することにより走行道路に適した第1領域や第2領域の照射制御が可能になりハイビームの照射を適切かつスムーズに行うことができる。このような制御モードをナビ感応モードという。
【0043】
なお、車両制御部56には、運転者が操作するライトスイッチ74が接続されている。ライトスイッチ74はロービーム60のオン/オフ及び、ロービーム60の点灯時におけるハイビーム62のオン/オフを手動で行うスイッチである。なお、前述したように、車両制御部56はライトスイッチ74の操作に拘わらず車両54の周囲状況や車両54の走行状態、姿勢、対向車や歩行者の有無に応じて自動的にロービーム60やハイビーム62の照射制御を行うようにしてもよい。このような制御モードをハイビーム自動モードという。
【0044】
上述したような前照灯装置制御部52により形成される照射領域により投影される配光パターンを図8のイメージ図を用いて詳細に説明する。
【0045】
図8は、車両用前照灯装置10で形成される照射領域を車両前方位置、例えば前方約25m付近に設定される仮想鉛直スクリーン上に投影してときに形成されるロービーム配光パターンPL及びハイビーム配光パターンPHを透視的に示す説明図である。
【0046】
前述したように、ロービーム配光パターンPLは、配光の上限を限定する明瞭な明暗境界線であるカットオフラインを有する。このカットオフラインは、当該カットオフラインから下方は明るい領域であり、カットオフラインの上方は暗い領域を区分けする境界線である。左通行用の車両の車両用前照灯装置のカットオフラインは、例えば、車幅方向の右側で光軸を横切る水平線より下側で水平に延びる右側部分CL1と、車幅方向の左側で右側部分よりやや上方の位置を水平に延びる左側部分CL2とが、左上がりに傾斜した中央部分CL3によって連結された形状を有する。中央部分の傾斜角度は、例えば45°である。前述したように、対向車や前走車、歩行者などは、仮想鉛直スクリーン上で鉛直線Vと水平線Hの交点近傍及び水平線Hの近傍に存在する。したがって、上述のようなカットオフラインを有するロービーム配光パターンPLを形成するロービームのみを使用する場合、対向車や前走車、歩行者などにグレアを与えることを抑制することができる。
【0047】
図8に示すハイビーム配光パターンPHは、図6で示したハイビーム照射領域の投影により形成される配光パターンである。そして、配光パターンの略中央部分が上下2段に分割され、台形形状の第2配光パターン100bと、第2配光パターン100bの下方に位置し第2配光パターン100bより左右幅の狭い第1配光パターン100a1〜100a6を形成している。なお、本実施形態の場合、第1配光パターン100a1〜100a6のうち第1配光パターン100a1,100a2,100a5,100a6が第2配光パターン100bの台形形状の斜辺に対応した斜辺を含む形状をしている。また、鉛直線Vと水平線Hの交点O付近の第1配光パターン100a3,100a4より面積が大きくなっている。前述したように、交点O付近に存在する対向車や歩行者は自車に接近するほど仮想鉛直スクリーン上の見かけ上の大きさが大きくなる。したがって、第1配光パターン100aの大きさを中心から外側に向けて徐々に大きくして、対向車や歩行者の自車接近に伴う見かけ上の大きさ変化に対応させている。このように第1配光パターンの大きさに変化を設けることにより、グレア抑制のために光源を消灯制御する場合の制御回数を低減できる。つまり第1領域の点消灯の照射制御が簡略化できる。なお、カメラ64などにより検出された対向車や歩行者の大きさが設定された第1配光パターン100aの1つの大きさより大きい場合には、複数の第1配光パターン100aを同時に消灯させるように第1領域の点消灯の照射制御を実施すればよい。
【0048】
なお、図8に示すように、ハイビーム配光パターンPHの両側端の端部配光パターン100cは複数段に分割されていない。図8からも分かるように、端部配光パターン100cは第2配光パターン100bと同様に対向車や歩行者が存在する可能性の低い領域である。したがって端部配光パターン100cはハイビーム使用時に頻繁に点消灯する必要がないと見なし、簡易的に点消灯ができる部分としている。なお、この端部配光パターン100cは第2配光パターン100bと一体化して単一第2領域の照射制御で形成するようにしてもよい。
【0049】
このような配光パターンを形成する車両用前照灯装置10の制御手順を説明する。
【0050】
車両制御部56はライトスイッチ74が操作され運転者がロービーム60を点灯することを要求していることを検出した場合、前照灯装置制御部52にロービーム60の点灯指令を提供する。前照灯装置制御部52は取得した点灯指令に従い電源回路58を制御し所定の電圧をロービーム60のロービーム用灯具ユニット16に提供して点灯させて、ロービーム照射領域を形成するように照射制御を行う。そして、図8の示すようなロービーム配光パターンPLを投影して、ロービーム60の照射により運転者の視界確保を行う。
【0051】
一方、ロービーム60の照射制御中にライトスイッチ74が操作され、ハイビーム62の点灯を要求する指令を車両制御部56が受けた場合、車両制御部56は前照灯装置制御部52にハイビーム62の点灯指令を提供する。前照灯装置制御部52は取得した点灯指令に従い電源回路58を制御し所定の電圧をハイビーム62の各ハイビーム用灯具ユニット18に提供して点灯させて、ハイビーム照射領域を形成するように照射制御を行う。そして、図8の示すようなハイビーム配光パターンPHを投影して、ハイビーム62の照射により運転者の視界確保を行う。
【0052】
このとき、車両制御部56は、少なくともカメラ64から車両54前方の仮想鉛直スクリーン上の映像に関する情報を取得して前照灯装置制御部52に提供する。前照灯装置制御部52は、車両制御部56を介してカメラ64からの情報を取得すると、その情報の中にハイビーム配光パターンPHの一部を消灯する必要がある対象物が存在するか否かを判定する。この判定は、例えば、取得した情報の中に対向車や前走車、歩行者などグレアを抑制すべき対象物が存在するか否かの判定である。この対象物の検出に方法は、周知の方法を利用可能である。例えば、予対向車や前走車、歩行者などの特徴を示す特徴点情報を予め準備しておき、カメラ64で取得した情報にその特徴点情報が含まれれば、対象物がハイビーム配光パターンPHの中に含まれると判断する。そして、ハイビーム配光パターンPHで対象物が存在する部分に対応するハイビーム照射領域を消灯するように、電源回路58を制御しハイビーム62の一部を消灯させる。その結果、対象物に対するグレアは抑制できる。このような制御モードをハイビーム照射時におけるグレア抑制モードという。この場合、消灯の対象となるのは前述したように主として第1配光パターン100a1〜100a6のいずれかを投影する第1領域になる。対向車や歩行者の場合、走行中の自車と対象物との相対距離は変化する。そして、対象物は、自車接近に従い仮想鉛直スクリーン上の水平線Hに沿って左または右に移動する。前照灯装置制御部52は対象物の移動をカメラ64からの情報により認識可能なので、対象物の移動に対応して消灯する対象を第1配光パターン100a1〜100a6のうちから選択し順次消灯する。その結果、ハイビーム62を点灯させても対向車や前走車、歩行者などの対象物にグレアを与えてしまうことが抑制できると共に、グレアを抑制しなくてもよい領域については、ハイビーム62により明るい遠方照射が継続的に可能になる。その結果、運転者の視界確保を良好に行うことができる。
【0053】
また、第2配光パターン100bで照射する領域には、対向車や前走車、歩行者などグレアを抑制すべき対象物が存在する可能性は低く頻繁な消灯制御を必要としない。また、第2配光パターン100bは、仮想鉛直スクリーン上の水平線Hの上方の領域であるオーバーヘッドサイン領域を照射する。したがって、本実施形態の車両用前照灯装置10によれば、対象物に対するグレアを抑制しつつ、運転者にとって道路標識等の確認のために必要な領域を明るく継続的に照明できて運転者の視界確保を良好に行うことができる。このような制御モードをオーバーヘッドサイン領域認識モードという。
【0054】
なお、この例では、運転者がライトスイッチ74を操作してハイビーム62を点灯させた場合を説明したが、運転者の操作に拘わらず上述のようなグレア抑制の照射制御を行うハイビーム62の点灯を自動で行ってもよい。
【0055】
また、ロービーム60の点灯と連動してハイビーム62の第2領域のみを点灯して第2配光パターン100bのみを照明するようにしてもよい。この場合、従来ロービーム60によりぼんやりと照らされていたオーバーヘッドサイン領域をハイビーム62の一部機能を用いて明るく照らすことができるので、対向車や先行車、歩行者などの存在に拘わりなく運転者の前方視界を向上することができる。
【0056】
このように、本実施形態によれば、ハイビーム照射時でも対向車や先行車、歩行者などにグレアを与えないようにできる。したがって、市街地等従来ハイビームの使用があまり行われていなかった場所でもハイビームを気軽に使用することが可能となり、車両用前照灯装置の機能を十分に利用できるようになる。
【0057】
また、高速道路などの自動車専用道路を高速走行している場合、遠方を明るく照射したいという要望がある。このようなとき、本実施形態の場合、ハイビーム62の第1領域の一部のみを点灯させることができる。例えば図8の中央寄りに配置された第1配光パターン100a3、100a4のみを照射するように第1領域を点灯させることにより、高速走行時に特に視界を確保したい部分の照射制御、いわゆるモーターウェイモードの照射制御が可能になる。この場合、必要な領域の照明を最小限の照射で実現できるので、省エネルギーを配慮した点灯制御ができる。また、ハイビーム62のうち一部の第1領域の点灯のみでモーターウェイモードを実現できるので、もし、対向車が存在する場合でもグレアを軽減できる。
【0058】
ところで、図9(a)に示すように、ハイビーム配光パターンPHの中に照射を抑制すべき例えば歩行者などの対象物76が存在する場合、図9(b)に示すように、対象物76が存在する部分に対応する第2配光パターン100a6のみが非照射になるように照射制御される。したがって、運転者側から見ればその部分のみが明るい照射の中で黒く抜け落ちたブラックホールのように見える。消灯制御は照射を抑制することが望ましい対象物76が存在するため行われるので、何らかの物体がそこに存在することを報知できる。しかし、それが何であるか認識し難い場合、運転者に不安感を抱かせる原因になる。そこで、本実施形態では、図9(c)、図9(d)に示すように、例えば、オーバーヘッドディスプレイ78(図7参照)などを用いて対象物76の存在を示唆する映像82を運転者から見て消灯させた第2領域42aが照射すべき方向、つまり第2配光パターン100a6の方向に重畳表示するようにしている。仮想鉛直スクリーン上に重畳される映像80は、例えば、対象物76を認識するときに取得した実映像(対象物76)をそのまま用いてもよいし、取得した実映像に基づき歩行者や車両の映像を生成してもよい。また、対象物76の検出結果に基づき予め準備された映像の中から選択して重畳表示するようにしてもよい。ここで、オーバーヘッドディスプレイ78で表示する映像は実際の歩行者や車両に対応する必要はなく、例えば、運転者の注意を引くマークやキャラクタでもよい。前述したように、対象物76は自車への接近に伴い見かけ上の大きさが大きくなり、対象物76に対応した映像80をオーバーヘッドディスプレイ78で表示する場合、その大きさの変化に応じて映像80の大きさを変化させないと違和感を生じさせてしまう場合がある。また、リアルタイムで映像80を変化させる場合、画像処理の負荷が大きくなる。一方、映像80を予めマークやキャラクタにしておけば、その大きさや鮮明さが変化しなくても違和感を運転者に与えることが少ない。また、容易な画像処理で対象物76の存在を運転者に通知することができる。なお、このような、映像80の表示を行う場合、音声で、「消灯部分に歩行者がいます。」などのアナウンスを運転者が煩わしさを感じない範囲内で行えば、運転者の注意喚起に寄与できる。このような映像80の表示やアナウンスの出力を行う制御モードを対象物報知モードという。
【0059】
上述した実施形態においては、ハイビーム配光パターンPHを第1配光パターン及び第2配光パターンの組み合わせによって形成する例を説明した。すなわち、第1領域と第2領域の組み合わせによってハイビーム照射領域を形成するために複数のハイビーム用灯具ユニット18を用いた例を説明した。それに対し、図10に示す例では、ハイビーム用灯具ユニットを1灯で構成している。
【0060】
図10に示す車両用前照灯装置110は、1灯のロービーム用灯具ユニット16と1灯のハイビーム用灯具ユニット112で構成されている。なお、ハイビーム用灯具ユニット112以外の構成は図1に示す車両用前照灯装置10と同じ構成とすることができる。したがって、同様な機能を果たす部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0061】
車両用前照灯装置110はランプボディ12と、透明カバー14とで略密閉空間を形成し、内部にロービーム用灯具ユニット16とハイビーム用灯具ユニット112をそれぞれ1灯ずつ配置している。ロービーム用灯具ユニット16やハイビーム用灯具ユニット112は、車両が走行する道路において、前方例えば25mの位置に設定される鉛直線Vと水平線Hを含む仮想鉛直スクリーン上に所定の配光パターンを投影するような照射領域を形成する。
【0062】
ハイビーム用灯具ユニット112は、投影レンズ26、ホルダ30を含んで構成される。ホルダ30は、前端部分に投影レンズ26を保持し、後端部分に放熱板34と接続された素子基板32を支持している。素子基板32上には、1つまたは複数の発光素子が配置されている。また、投影レンズ26と素子基板32との間には、素子基板32から照射される光を選択的に遮り、図9(b)に示すように所望の配光パターンのみが非照射となるような遮光部材114が配置されている。この遮光部材114は例えば、液晶フィルなどを用いることが可能である。図11に遮光部材114が形成する遮光領域114aの一例を示す。この遮光領域104aは、図6に示す光源ユニット27a、27b、27cの前端射出口28bで形成する第1領域42aや第2領域42bの形状と略同一とすることができる。例えば、図9(b)で示すようにグレア抑制のためにハイビーム配光パターンPHの一部分を非照射にする場合、対応する遮光領域114aを遮光状態に制御すればよい。遮光部材114として液晶フィルタを用いる場合、電圧制御により容易に遮光部分を形成することができる。この場合、素子基板32はグレア抑制のために消灯制御する必要がなく、ハイビームの使用中は点灯したままでよいので、光源に対する特別な制御が不要になり、ハイビーム点灯時の光源の制御が容易になる。なお、遮光部材114として液晶フィルタを用いる場合、遮光領域の形状は任意に設定することができので、図4(a)や図5(a)に示すような照射領域を形成することも容易にできる。つまり、用途に応じた照射領域を形成することができる。
【0063】
また、図1及び図2(a)〜図2(c)で示す構造においては、複数の光源ユニット27を用いてハイビーム照射領域を合成する例を示したが、光源ユニット27を省略して素子基板32上に第1領域の形状や第2領域形状の発光素子を直接配置してもよい。この場合、ハイビーム用灯具ユニット18の構造が簡略化されるメリットがある。ただし、各形状の素子間に境界線が現れ易くなるので、必要に応じて境界線の発生を低減または抑制するための光学素子やフィルタを配置することが望ましい。
【0064】
なお、本実施形態では、ハイビーム照射領域を形成するハイビーム用灯具ユニット18が3灯の場合と1灯の場合を説明したが、ハイビーム用灯具ユニット18の灯数は任意であり、形成する第1領域や第2領域の数に応じて適宜選択することができ、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
また、ハイビーム照射領域を上限方向に分割する段数を2段の場合と3段の場合を説明したが、分割段数は適宜変更してもよい。また、幅方向の分割数も適宜変更してももよい。ハイビーム照射領域で対象物が存在し得る部分に対応する照射領域を細分化することによってグレア防止のための制御がよりきめ細かくできる。
【0066】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態の車両用前照灯装置の構成概念図である。
【図2】本実施形態の車両用前照灯装置の光源ユニットの外観と、光路の配置及び光路の先端に形成された前端射出口の形状を説明する斜視図である。
【図3】走行中の運転者の視線の動きを説明する説明図である。
【図4】本実施形態の車両用前照灯装置の光源ユニットからの光の合成を説明する説明図である。
【図5】本実施形態の車両用前照灯装置の光源ユニットからの光の合成を説明する他の説明図である。
【図6】本実施形態の車両用前照灯装置の光源ユニットからの光の合成を説明する他の説明図である。
【図7】本実施形態の車両用前照灯装置の前照灯装置制御部と車両側の車両制御部の構成を説明する機能ブロック図である。
【図8】本実施形態の車両用前照灯装置による形成される照射領域により投影される配光パターンのイメージを説明する説明図である。
【図9】本実施形態の車両用前照灯装置により非照射となる部分に映像を重畳させることを説明する説明図である。
【図10】本実施形態の車両用前照灯装置の他の構成を説明する構成概念図である。
【図11】図10の車両用前照灯装置に用いる遮光部材を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0068】
10 車両用前照灯装置、 12 ランプボディ、 14 透明カバー、 16 ロービーム用灯具ユニット、 18 ハイビーム用灯具ユニット、 20 リフレクタ、 22 バルブ、 24 シェード、 26 投影レンズ、 27 光源ユニット、 28b 前端射出口、 32 素子基板、 34 放熱板、 38a、38b 第1領域、38c、38d 第2領域 、 50 車両用前照灯装置、 52 前照灯装置制御部、 54 車両、 56 車両制御部、 58 電源回路、 60 ロービーム、 62 ハイビーム、 64 カメラ、 66 ステアリングセンサ、 68 車速センサ、 70 車高センサ、 72 ナビゲーションシステム、 74 ライトスイッチ、 PL ロービーム配光パターン、 PH ハイビーム配光パターン、 76 対象物、 78 オーバーヘッドディスプレイ、 80 映像。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯装置及び車両用前照灯装置の制御方法、特に、ハイビーム照射用の光源を用いた照射制御に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用前照灯装置は、走行ビームを照射するときに使用するハイビーム照射用の光源と、すれ違いビームを照射するときに使用するロービーム照射用の光源を備えている。このうち、ハイビームは法規で定められる明るさの範囲内で遠方をできるだけ明るく照らすことが要求される。その一方で、対向車や前走車、歩行者等に不快感を伴うまぶしさ(グレア)を与えないようにする配慮が必要になる。ロービームはグレアの抑制を考慮した配光パターンを形成しているのに対し、ハイビームは運転者の視界確保を優先させてグレアの抑制をあまり考慮しない配光パターンを形成している。そのため、車両用前照灯装置においては、ロービームモードとハイビームモードを切り換える切換スイッチを備えている。運転者は、対向車や歩行者の有無に応じていずれかのビームモードを選択することにより、ロービーム照射用の光源とハイビーム照射用の光源を用いた視界確保を優先させるかロービーム照射用の光源のみでグレア防止を優先させるかを適宜切り換えている。
【0003】
また、1つの灯具ユニットにより複数の配光パターンを形成する車両用前照灯装置の提案も行われている。例えば、特許文献1の車両用の照明装置は、マトリックス状に配置された多数の半導体光源を有している。多数の半導体光源は個別に点灯制御可能で複数種類の部分領域を形成している。そして、必要に応じて各半導体光源を個別に制御することにより所望の配光パターンを形成して、ロービームモードとハイビームモードの切り換えを可能にしている。
【特許文献1】特開2001−266620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、運転者がハイビームを点灯させるのは、夜間走行中などにロービームの照射のみでは遠方の道路形状や障害物の有無、対向車や歩行者の有無などの情報が十分に得られないと感じて、少しでも多くの情報を得ようとする場合であることが多い。その一方で、前述したように、ハイビーム点灯時には対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えないように配慮する必要がある。前述したように従来の前照灯装置は、グレアを抑制するためにハイビーム用の光源を全消灯させるものであった。このような場合、ハイビームの機能が一時的でも制限されるため、十分な視界を確保したいという運転者の要望からすると改善の余地があることを発明者らは認識するに至った。また、このことは、ハイビームを市街地などで利用しにくい原因にもなっている。
【0005】
また、特許文献1の照明装置は、マトリックス状に構成される多数の半導体光源を制御して複数種類の配光パターンを形成できるので、ハイビームを点消灯させるよりは詳細な照射制御ができる。しかし、特許文献1の照明装置は、所望の配光パターンを得る部分領域を形成するために多数の半導体光源を個別制御する必要があり、制御線が膨大な数になり制御が煩雑になるとともに多数の半導体光源を必要とするため部品コストの増大や組立の煩雑さを招いてしまうという問題がある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハイビーム照射中でも対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えない照射制御ができるとともに、ハイビーム照射による視界確保が十分にできるシンプルな構成の車両用前照灯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様では、ハイビーム照射用の光源と、前記光源を照射制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、前記複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に前記第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように前記光源の照射制御を行うことを特徴とする。
【0008】
ここで、制御手段が照射制御を行うとき配慮を必要とする点は、例えば、対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えないようにすることである。出願人らは試験を重ねた末に、遠方から接近してくる対向車や歩行者がハイビーム照射領域内において存在するのは水平線の近傍、すなわちハイビーム照射領域の鉛直方向下側部分であるという結果を得た。同様に前走者が存在するのも水平線の近傍であるという結果を得た。つまり、対向車や前走車、歩行者などが存在する可能性の高いハイビーム照射領域の下側段に形成される複数の第1領域を個別に消灯する照射制御することにより、グレアの抑制をきめ細かくかつ容易に抑制できる。また、第1領域は左右幅が狭いので、必要以上にハイビーム照射領域の広さを制限しないので十分な視界確保ができる。また、ハイビーム照射領域の上段部分は対向車や前走車、歩行者などが存在する可能性が低く、頻繁に点消灯制御する必要性は少ない。ハイビーム照射領域の上側段の第2領域は下側段の第1領域より左右方向の領域幅が広いので領域分割数が下側段より少なくできる。したがって、照射制御が容易になる。また、第2領域を形成するための光源を制御する制御線の数を低減可能となり、車両用前照灯装置の構成を簡易化できる。さらに、部品点数の削減にも寄与できる。
【0009】
また、上記態様において、前記制御手段は、前記ハイビーム照射領域がオーバーヘッドサイン領域に対応するように前記光源を照射制御するようにしてもよい。オーバーヘッドサイン領域とは、車両前方例えば25mに設定される仮想鉛直スクリーン上において水平線よりも上方向に存在する道路標識など運転者が運転中に認識することが好ましい物体が存在する領域であり、水平線の上方約2°〜4°付近をいう。ハイビーム照射領域がオーバーヘッドサイン領域に対応するように照射制御することで、夜間走行時にオーバーヘッドサイン領域を確実に照明することが可能になり、夜間走行時の運転者の視認性向上に寄与できる。
【0010】
また、上記態様において、前記制御手段は、ロービームの照射時に前記第2領域を当該ロービームに追加して照射させるようにしてもよい。この態様によれば、従来ロービームによりぼんやりと照射されている仮想鉛直スクリーンの上方部分に対し第2領域部分を追加照射することにより、運転者にとって有用な情報が多く存在する仮想鉛直スクリーンの上方部分を明るく照射することができる。この場合、第1領域は消灯となるので、対向車や前走車、歩行者などにグレアを与えることが抑制できる。また、第2領域はロービーム照射時に点灯させたまま詳細な照射制御を必要としないので、照射制御のシンプル化ができる。なお、第2領域による照射はロービーム照射時に自動で照射されるようにしてもよいし、運転者の操作により第2領域のみが照射されるようにしてもい。
【0011】
また、上記態様おいて、前記光源は、前記第1領域と前記第2領域を個別に形成する複数の個別光源で構成され、前記制御手段は、前記個別光源を個々に制御して前記ハイビーム照射領域を照射制御するようにしてもよい。第1領域及び第2領域をそれぞれ個別光源で構成することにより、電力供給線及び信号線は形成される第1領域及び第2領域の数分だけでよく、光源の構成を簡略化できるとともに、その制御も簡略化できる。なお、第1領域と第2領域を形成する光源は同じ光量のものを用いてもよいし、それぞれ専用の光量のものを用いてもよい。同じ光量の光源を用いる場合、第2領域は第1領域より左右幅が広いので、仮想鉛直スクリーン上における明るさは暗くなるが標識などを認識させるには十分な明るさを確保できる。なお、複数の第1領域のうち、例えば中央付近に位置する第1領域のみを用いて照射制御することにより、高速道路の走行時などで遠方を明るく照射する、いわゆるモーターウェイモードの照射制御も可能になる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある態様では、ハイビーム照射用の光源を照射制御する車両用前照灯装置の制御方法であって、前記光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割して、前記複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に前記第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように前記光源を制御するとともに、前記ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物が存在する場合、前記対象物が存在する位置に対応するハイビーム照射領域を部分的に消灯制御することを特徴とする。
【0013】
ここで、ハイビーム照射領域中の照射を抑制すべき対象物とは、例えばグレアを感じる対向車や前走車、歩行者などである。そして、対象物は、例えば、車両に搭載された各種センサによって検出され、仮想鉛直スクリーン上における位置が制御手段に認識される。ところで、自車と対象物の相対距離が変化する場合、仮想鉛直スクリーン上の対象物の位置が変化する。この位置の変化に追従して制御手段はハイビーム照射領域の一部を部分的に消灯制御する。このとき、ハイビーム照射領域において、対象物が存在する可能性の高い下側段は左右幅が狭い第1領域を複数形成している。この第1領域を個別に照射制御することにより、対象物が存在する部分のみを適切に消灯制御してグレアを与えないようにできる。一方、ハイビーム照射領域の上側段は対象物が存在する可能性が低く、照射を抑制する必要性は低い。その一方で、ハイビーム照射領域の上側段は道路標識など運転者が迅速に認識することが好ましい物体が存在するので光を簡易な制御で継続的に照射することが望ましい。そこで、第1領域より左右幅の広い第2領域を上側段に形成することにより、ハイビーム照射領域の上側段の左右方向の分割数を下側段に比べて少なくしている。その結果、制御対象を少なくできて照射制御を簡易化することができるとと共に、遠方の良好な照明ができる。
【0014】
また、上記態様において、前記消灯制御をした場合、前記対象物の存在を示唆する映像を運転者から見て前記消灯した照射領域が照射すべき方向に重畳表示するようにしてもよい。対象物が存在する部分を消灯制御した場合、運転者側から見ればその部分のみが明るい照射の中で黒く抜け落ちたブラックホールのように見える。消灯制御は照射を抑制することが望ましい対象物が存在するため行われるので、何らかの物体が存在することは報知できる。しかし、それが何であるか認識し難い場合、運転者に不安感を抱かせる原因になる。そこで、対象物の存在を示唆する映像を運転者から見て消灯した照射領域が照射すべき方向に重畳表示する。その結果、対象物にグレアを与えることなく、ハイビーム照射領域中で不認識部分が形成されることなく違和感のない前方視界を確保することができる。なお、重畳される映像は、例えば、対象物を認識するときに取得した実映像をそのまま用いてもよいし、取得した実映像に基づき歩行者や車両の映像を生成してもよい。また、対象物の検出結果に基づき予め準備された映像の中から選択して重畳表示するようにしてもよい。なお、重畳表示する映像は、実映像の歩行者や車両に対応する必要はなく、例えば、運転者の注意を引くマークやキャラクタでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用前照灯装置およびその制御方法によれば、容易な構成により対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えないように配慮しつつ、ハイビーム照射による運転者の視界確保が十分にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0017】
本実施形態の車両用前照灯装置は、ハイビーム照射用の光源と、この光源を照射制御する制御手段と、を備えている。制御手段は、光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように照射制御を行う。
【0018】
ハイビーム照射用の光源は、ハロゲンランプやディスチャージランプ、半導体発光素子など種々のタイプを採用できる。また、制御手段は光源のオン・オフ制御をするのみでもよいし、オン・オフ制御に加え光量制御をしてもよい。制御手段は、ハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を形成する。上下方向の分割段数は2段以上であれば何段でもよい。また、ハイビーム照射領域の幅方向全域について上下方向に分割するようにしてもよいし、一部を分割するようにしてもよい。一部を分割する場合には、ハイビーム照射領域の中央付近が分割領域に含まれるようにすることが望ましい。所定の領域幅とは、前照灯装置の照射領域として意味を有する最小の幅以上であることが望ましい。この最小の幅とは、車両が走行する道路で例えば前方100mの位置に存在する乗用車の幅とほぼ同等の幅を前方100mの位置に設定される鉛直スクリーン上に照射できる幅とすることができる。
【0019】
また、制御手段は、ハイビーム照射領域の上側段に第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成する。制御手段が照射制御を行うとき配慮を必要とする点は、例えば、対向車や前走者、歩行者などにグレアを与えないようにすることであり、特にその配慮を必要とするのは、主としてハイビーム照射時である。出願人らは試験を重ねた末に、遠方から接近してくる対向車や歩行者がハイビーム照射領域内において存在するのは水平線の近傍、すなわちハイビーム照射領域の鉛直方向下側部分であるという結果を得た。同様に前走者が存在するのも水平線の近傍であるという結果を得た。このとき、左側通行で走行する対向車は、自車に近づくに従って仮想鉛直スクリーン上で鉛直線と水平線の交点側から水平線に沿って右方向に変位し、その変位の度合いは自車に近づくに従って徐々に大きくなる。つまり、グレアの抑制を配慮すべきハイビーム照射領域は、当該ハイビーム照射領域を上下方向に複数段に分割した場合、下側段に位置する領域となる。したがって、対向車や前走車、歩行者などが存在する可能性の高いハイビーム照射領域の下側段に形成される複数の第1領域を個別に消灯する照射制御することにより、自車に対して相対的に移動する対向車や前走車、歩行者などに対するグレアをきめ細かくかつ容易に抑制できる。また、第1領域は左右幅が狭いので、必要以上にハイビーム照射領域の広さを制限しない。したがって、グレア抑制のために消灯す照射制御を実施しても十分な広さのハイビーム照射領域を確保して運転者の視界確保ができる。
【0020】
また、ハイビーム照射領域の上段部分は対向車や前走車、歩行者などが存在する可能性が低く、頻繁に点消灯制御する必要性は少ない。したがって、制御手段は、ハイビーム照射領域の上側段に第1領域より左右方向の領域幅が広い第2領域を形成する。この場合、ハイビーム照射領域の上側段の領域分割数が下側段より少なくできるので、照射制御が容易になる。また、第2領域を形成するための光源を制御する制御線の数を低減可能となり、車両用前照灯装置の構成を簡易化できる。さらに、部品点数の削減にも寄与できる。
【0021】
図1は、本実施形態の車両用前照灯装置10の構成概念図である。図1に示すように、車両用前照灯装置10はランプボディ12と、透明カバー14とで略密閉空間を形成し、内部に1つのロービーム用灯具ユニット16と複数のハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cを配置している。なお、ハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cの基本構造は略同一なので、個々を特に区別する必要が無い場合、または複数を指す場合などはハイビーム用灯具ユニット18と記する場合もある。本実施形態の場合、一例としてハイビーム用灯具ユニット18を3個配置した例を示している。ここで、車両が走行する道路において、前方例えば25mの位置に設定される鉛直線Vと水平線Hを含む仮想鉛直スクリーンを考える。ロービーム用灯具ユニット16やハイビーム用灯具ユニット18の形成する照射領域は、この仮想鉛直スクリーン上で配光パターンとして投影されることになる。なお、ロービーム用灯具ユニット16やハイビーム用灯具ユニット18により形成される具体的な配光パターンは後述する。
【0022】
ロービーム用灯具ユニット16は、回転放物面等を基準に形成されたリフレクタ20を有する、いわゆるパラボラ型の灯具ユニットである。図1の場合、ロービーム用灯具ユニット16はハイビーム用灯具ユニット18より車両外側に配置されている。前照灯の光源として、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LED、ネオン管、レーザ光源などが使用可能である。本実施形態では、一例としてハロゲンランプで構成されるバルブ22を示す。バルブ22は、リフレクタ20の略中央に形成された開口部に勘合固定されると共に、ランプボディ12によって支持されている。なお、ロービーム用灯具ユニット16は光軸調整機構(図示省略)を備えてもよく、車両の姿勢に応じて光軸調整ができるようにされてもよい。バルブ22の前方にはシェード24が配置されている。シェード24はバルブ22から前方への直接光をカットする機能を有し、対向車や前走車、歩行者等に不快感を伴うまぶしさ(グレア)を与える原因を排除している。シェード24は例えばブラケットなどの支持部材を用いてリフレクタ20に固定することができる。また、シェード24を配置する代わりにバルブ22の先端部に表面処理を施しマスクを形成してシェード24と同等の機能を持たせてもよい。
【0023】
なお、ロービーム用灯具ユニット16の場合、配光の上限を限定する明瞭な明暗境界線、いわゆるカットオフラインが設けられる。このカットオフラインは、当該カットオフラインから下方は明るく、カットオフラインの上方は暗いという境界線を意味する。カットオフラインは、例えば、車幅方向の右側で光軸を横切る水平線より下側で水平に延びる右側部分と、車幅方向の左側で右側部分よりやや上方の位置を水平に延びる左側部分とが、左上がりに傾斜した中央部分によって連結された形状を有する。なお、中央部分の傾斜角度は、例えば45°である。図1に示すようなパラボラ型の灯具ユニットの場合、バルブ22の内部にカットオフオフライン形成用のシェードを内蔵することができる。また、光源の前方に凸レンズを有するプロジェクタ型と称される灯具ユニットの場合、リフレクタと、凸レンズの間に、カットオフライン形成用のシェードを配置して、シェードの先端形状を仮想鉛直スクリーン上に投影する。
【0024】
本実施形態の場合、ロービーム用灯具ユニット16より車両内側には複数のハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cが配置されている。各ハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cから照射される光の照射領域を組み合わせることによりハイビーム照射領域を形成し、仮想鉛直スクリーン上に所定の配光パターンを形成する。前述したようにハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18cの基本構造は略同一なので、ハイビーム用灯具ユニット18aを一例にその構造を説明する。また、ハイビーム用灯具ユニット18に含まれる光源ユニット27は後述する前端射出口28bの形状と位置と個数が異なるのみで、基本構造は同じなので、区別する必要がある場合は、光源ユニット27a、27b、27cと記し、それ以外の場合は光源ユニット27と記する場合もある。
【0025】
ハイビーム用灯具ユニット18aは、投影レンズ26、光源ユニット27a、ホルダ30を含んで構成される。光源ユニット27aを含むハイビーム用灯具ユニット18aは、光源ユニット27aの内部に形成された光路28aを光が通過する過程で複数回反射を繰り返えさせる。そして射出される光の明るさを均一化している。このようなタイプの灯具ユニットを反射タイプのプロジェクタ型灯具ユニットということもある。
【0026】
投影レンズ26は、車両前後方向に延びる光軸上に配置され、光源ユニット27aは、投影レンズ26の後方焦点を含む焦点面である後方焦点面よりも後方側に配置される。また、ホルダ30は、投影レンズ26及び光源ユニット27aを支持するとともに、図示を省略したブラケットによりランプボディ12に固定されている。なお、各ハイビーム用灯具ユニット18aは光軸調整を行う光軸調整機構を備えてもよい。
【0027】
投影レンズ26は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
【0028】
光源ユニット27aの内部には例えば鏡面処理された光路28aが複数形成されている。光路28aは光源ユニット27aの後端近傍部に配置された素子基板32の発光素子からの光を光源ユニット27aの先端に形成された前端射出口に導いて投影レンズ26に向かって射出する。前端射出口の構成については後述する。光源ユニット27aの後端近傍部に配置された素子基板32の背面には放熱板34は配置され、発光素子の駆動により発生する熱を効率的に放熱できるようにしている。なお、図1では、素子基板32を大型の1枚基板として図示しているが、各光路28aに対応して個別の発光素子を搭載する個別素子基板としてもよい。
【0029】
この他、車両用前照灯装置10には、前照灯の正面からの見栄えを向上するためのエクステンション36が配置されている。エクステンション36はロービーム用灯具ユニット16及びハイビーム用灯具ユニット18とランプボディ12との隙間を覆い隠すように配置される略箱型の部材であり、その表面は反射面とされることが多い。
【0030】
図2(a)〜図2(c)は、光源ユニット27a、27b、27cの外観と光路28aの配置及び光路28aの先端に形成された前端射出口28bの形状を説明するための斜視図である。前述したように本実施形態の場合、3個のハイビーム用灯具ユニット18a、18b、18c、すなわち、光源ユニット27a、27b、27cから射出される光を合成して所望のハイビーム照射領域を形成し、仮想鉛直スクリーン上にその配光パターンを形成している。
【0031】
ところで、本出願人らは、走行中の運転者の視線の動きに着目し観察したところ図3(a)〜図3(d)に示すような特徴的な動きをしていることを確認した。図3(a)〜図3(c)は市街地走行中の仮想鉛直スクリーン上での視線の動きで、実線が対向車を捕らえたときの視線、破線が歩行者を捕らえたときの視線の動きである。このとき、遠方から接近してくる対向車や歩行者ははじめ仮想鉛直スクリーン上の鉛直線Vと水平線Hの交点近傍で認識される。左側通行で走行する対向車を捕らえた視線は、対向車が自車に近づくに従って水平線Hに沿って右上方向に変位する。また、路肩に駐車している車両など自車より左側に存在する車両や左側の路肩や歩道に存在する歩行者を捕らえた視線は、自車に近づくに従って水平線Hに沿って左上方向に変位する。図3(d)は高速道路走行時に対向車を捕らえたときの視線の動きを示している。この場合も運転者の視線は対向車が自車に近づくに従って水平線Hに沿って右上方向に変位する。なお、前走車は鉛直線Vと水平線Hの交点近傍に存在し続けるので、前走車に対する視線の移動は鉛直線Vと水平線Hの交点近傍からあまり動かない。
【0032】
したがって、ハイビーム用灯具ユニット18の点灯時に対向車や前走車、歩行者等にグレアを与えないように配慮する場合、ハイビーム照射領域において水平線Hの近傍である下側部分を対向車や歩行者の動きに対応させて詳細に点消灯制御すればよい。一方、ハイビーム照射領域の上側部分は対向車や歩行者などが存在する可能性が低いので、ハイビームは照射したままでもよく、簡易的な点消灯制御でよいという結果を得た。
【0033】
そこで、本実施形態の場合、各ハイビーム用灯具ユニット18が照射する光により照射されるハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割している。そして、分割される複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するようにして、各領域を個別に照射制御できるようにしている。具体的には、対向車や歩行者の存在する可能性の高いハイビーム照射領域の下側段は、領域幅の狭い第1領域を対向車や歩行者の動きに合わせて頻繁に点消灯する照射制御を行いグレアを感じさせないようにする。このように領域幅の狭い第1領域を点消灯制御することにより、消灯している領域をできるだけ少なくしてハイビーム照射時の運転者の視界確保を十分に行う。また、対向車や歩行者の存在する可能性の低い上側段に、領域幅が第1領域より広い第2領域を形成する。このように第1領域より左右方向の領域幅の広い第2領域を形成するように照射制御を行うことにより、ハイビーム照射領域の幅方向の分割数を下側段より少なくすることができる。その結果、容易な照射制御により広範囲のハイビーム照射領域の形成が可能になり広い領域に対するハイビーム照射ができる。その結果、運転者の視界確保が十分にできる。また、制御対象の光源の数を低減することができるので電力線や制御線の本数が削減できてハイビーム用灯具ユニット18の構造を簡略化できる。
【0034】
上述したような個別に点消灯が可能な第1領域と第2領域を形成するような照射制御ができる光源ユニット27a、27b、27cの構造を図2(a)〜図2(c)を用いて説明する。図2(a)〜図2(c)の場合、例えば2段構成の第1領域及び第2領域に形成するために、前端射出口28bが光源ユニット27a、27b、27cの上下方向に複数段で配置されている。また、第1領域及び第2領域を形成する光を導く光路28aは互いに隔壁により分離され、個別領域の鮮明な輪郭が形成できるようにしている。ただし、この隔壁により形成される影が合成されたハイビーム照射領域に現れると照明品質の低下を招くので好ましくない。そこで、図2(a)〜図2(c)に示すように、個々の光源ユニット27a、27b、27cの前端射出口28bを左右上下方向において互いに接触しないように分散配置している。そして、各光源ユニット27a、27b、27cの光軸の微調整を行うことにより、各光源ユニット27a、27b、27cで形成される影の部分を他の光源ユニット27a、27b、27cの前端射出口28bからの光により補完するようにしている。つまり、3個の光源ユニット27a、27b、27cからの光が合成された場合、光路28aの影の映り込みがないハイビーム照射領域が形成される。
【0035】
図4(a)〜図4(d)は図2(a)〜図2(c)に示す光源ユニット27a、27b、27cからの照射光の合成を説明する説明図である。図4(a)〜図4(d)は、3個のハイビーム用灯具ユニット18、すなわち、光源ユニット27a、27b、27cで形成される個別の照射領域を合成してハイビーム照射領域を形成する例を説明する。このハイビーム照射領域は上下方向に2段に分離し、下側段の第1領域の左右幅より上側段の第2領域の左右幅が広くなっている。なお、第1領域の左右幅とは、車両が走行する道路で例えば前方100mの位置に存在する乗用車の幅とほぼ同等の幅を前方100mの位置に設定される鉛直スクリーン上に照射できる幅とすることができる。図4(a)は、3個のハイビーム用灯具ユニット18を全点灯させたときのハイビーム照射領域38を示している。図4(a)において、下側段に第1領域38a,38bが形成されている。前述したように、ハイビーム照射領域38の下側は仮想鉛直スクリーン上の水平線Hの近傍であり、対向車や歩行者が存在する可能性の高いので左右幅の狭い第1領域38aの点消灯の照射制御が詳細にできるようにしている。一方、図4(a)において、上側段に第2領域38c,38dが形成されている。前述したように、ハイビーム照射領域38の上側は仮想鉛直スクリーン上の水平線Hから離れた位置にあり、対向車や歩行者が存在する可能性が低いので左右幅が第1領域より広い第2領域を形成して点消灯の照射制御が簡易的にできるようにしている。言い換えれば、第2領域38c、38dを用いて照射を行うことにより、ハイビームの一部機能を利用して車両前方の視界確保性を向上させることができる。
【0036】
図4(b)〜図4(d)は、各光源ユニット27a、27b、27cにおける前端射出口28bの形状と配置を説明する説明図である。なお、光源ユニット27a、27b、27cの前方には平凸非球面レンズからなる投影レンズ26が配置されているので、この投影レンズ26によりハイビーム照射領域により形成される投映像は仮想鉛直スクリーン上で逆さまになる。そのための光源ユニット27a、27b、27cにおける前端射出口28bの配置は、下側段に第2領域を形成する前端射出口28bが配置され、上側段に第1領域を形成する前端射出口28bが配置されている。図4(b)〜図4(d)において、ハッチングが施された部分が前端射出口28bが形成されている部分で、他の部分はカバーが形成されている。また、光源ユニット27a、27b、27cは投影レンズ26の略中心より上下方向下側に偏って配置されているので、ハイビーム照射領域の投影により仮想鉛直スクリーン上で形成されるハイビーム配光パターンは水平線Hに対して上側に偏った位置に現れる。
【0037】
図5(a)〜図5(d)は、各光源ユニット27a、27b、27cにおける前端射出口28bの形状と配置の他の態様を説明する説明図である。図5(a)〜図5(d)の場合、ハイビーム照射領域40の一部を上下方向に複数段に分割する例である。具体的には、仮想鉛直スクリーン上の鉛直線Vの近傍に対応する位置で上下方向に3段に分離されている。この例の場合もハイビーム照射領域の下側段から上側段に向かい左右幅が広くなるようになっている。したがって、仮想鉛直スクリーン上の水平線Hの近傍であり、対向車や歩行者が存在する可能性の高い下側段、すなわち図4(a)で第1領域38aに対応する部分は左右幅の狭い下段領域40aが形成され、点消灯の照射制御が詳細にできるようになっている。また、ハイビーム照射領域40の上側段は仮想鉛直スクリーン上の水平線Hから離れた位置にあり、対向車や歩行者が存在する可能性が低いので左右幅が第1領域より広い第2領域が形成され、点消灯の照射制御が簡易的にできるようにしている。言い換えれば、中段領域40bや上段領域40cを用いて照射を行うことにより、ハイビームの一部機能を利用して車両前方の視界確保性を向上させることができる。なお、図5(a)の場合、図4(a)で第2領域としていた部分をさらに2段階に分離して中段領域40bを設けている。この場合、中段領域40bは下段領域40a、すなわち第1領域より左右幅を広くし、上段領域40cより左右幅を狭くしている。このように第2領域を中段領域40b、上段領域40cのように細分化することにより、グレアを抑制するための照射制御が図4(a)の場合より詳細にできる。言い換えれば、消灯せずにハイビームを照射し続けるハイビーム照射領域を広げることが可能になり、より運転者の視界確保に寄与できる。
【0038】
図6(a)〜図6(d)は、各光源ユニット27a、27b、27cにおける前端射出口28bの形状と配置の他の態様を説明する説明図である。図6(a)〜図6(d)の場合も図5(a)〜図5(d)と同様に、ハイビーム照射領域42の一部を上下方向に複数段に分割している。具体的には、仮想鉛直スクリーン上の鉛直線Vの近傍に対応する位置で上下方向に2段に分離されている。この例の場合もハイビーム照射領域の上側段が下側段より左右幅が広くなるようになっている。ただし、図4(a)に示す第2領域38c、図5(a)に示す第2領域の一部を形成する上段領域40cの形状が長方形であるのに対し、図6(a)に示す第2領域42bは台形形状になっている。この台形形状は、図3(a)〜図3(d)に示す仮想鉛直スクリーン上の対向車や歩行者に対する視線移動領域より上方であり、グレアの抑制が不要であると見なせる領域形状と一致している。つまり、ハイビーム照射領域42のうち複数段に分割された領域の第2領域42b以外で下側段の第1領域42aのいずれかを消灯することにより、対向車や歩行者に対するグレアを効率的に抑制することができる。言い換えれば、第2領域42bを用いて照射を行うことにより、ハイビームの一部機能を利用して車両前方の視界確保性を向上させることができる。
【0039】
図7は、上述のように構成される車両用前照灯装置10の前照灯装置制御部と車両側の車両制御部の構成を説明する機能ブロック図である。車両用前照灯装置50の前照灯装置制御部52は、車両54に搭載された車両制御部56の指示に従って電源回路58の制御を行いロービーム60のバルブ22やハイビーム62の発光素子の照射制御を行う。
【0040】
本実施形態の場合、ロービーム60と共にハイビーム62を点灯させているときに、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物が存在する場合、前記対象物が存在する位置に対応するハイビーム照射領域を部分的に消灯制御する。ここで、照射を抑制すべき対象物とは、対向車や前走車、歩行者などである。このような消灯制御を実行するために、車両制御部56は、対象物の認識手段として例えばステレオカメラなどのカメラ64から提供される画像データを用いる。カメラ64の撮影領域は仮想鉛直スクリーンの領域と一致している。撮影画像中に予め保持している車両や歩行者を示す特徴点を含む画像が存在する場合、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物が存在すると判定する。そして、照射を抑制すべき対象物の存在する位置に対応する照射領域を形成している発光素子を消灯するように前照灯装置制御部52に情報を供給する。前述したように、ハイビーム照射領域中で照射を抑制すべき対象物は、ハイビーム照射領域のうち水平線H近傍に対応するの第1領域に存在する可能性が高いので、第1領域を形成している発光素子の照射制御が主として行われる。なお、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物を検出する手段は適宜変更可能であり、カメラ64に代えてミリ波レーダや赤外線レーダなど他の検出手段を用いてもよい。また、それらを組み合わせてもよい。
【0041】
また、車両制御部56は、車両54に通常搭載されているステアリングセンサ66、車速センサ68、車高センサ70などからの情報も取得可能であり、車両54の走行状態や走行姿勢に応じて第1領域や第2領域の照射制御を行うこともできる。例えば、車両制御部56はステアリングセンサ66からの情報に基づき車両が旋回している場合、旋回方向の視界を向上させるように第1領域や第2領域の照射制御を自動で行うことができる。このような制御モードを旋回感応モードという。また、夜間に高速走行しているときには、遠方から接近する対向車や前走車、道路標識やメッセージボードの認識をできるだけ早く行えるように前照灯による照明を行うことが好ましい。そこで、車両制御部56は車速センサ68からの情報に基づき高速走行のときに、第2領域を自動点灯させて遠方の視界を向上させる。このような制御モードを速度感応モードという。また、車両54は搭乗人数や搭載重量、加減速などにより車高が変化する。また、加減速によって車両姿勢が前傾姿勢や後傾姿勢になる場合がある。このように車高の変化に伴い光軸が上下方向に変化する。例えば、光軸が上方向に変化した場合、第1領域の照射でも対向車や歩行者にグレアを与えなくなる場合がある。逆に光軸が下方向に変化した場合、第2領域の照射でも対向車や歩行者にグレアを与えてしまう場合がある。そこで、車両制御部56は車高センサ70からの情報に基づき、車両54の姿勢を正確に把握し、カメラ64からの情報と合わせて第1領域や第2領域の照射制御をさらに適切に行うようにすることができる。このような制御モードを車高感応モードという。
【0042】
この他、車両制御部56は、ナビゲーションシステム72から道路の形状情報や形態情報、道路標識の設置情報などを取得することもできる。これらの情報を事前に取得することにより走行道路に適した第1領域や第2領域の照射制御が可能になりハイビームの照射を適切かつスムーズに行うことができる。このような制御モードをナビ感応モードという。
【0043】
なお、車両制御部56には、運転者が操作するライトスイッチ74が接続されている。ライトスイッチ74はロービーム60のオン/オフ及び、ロービーム60の点灯時におけるハイビーム62のオン/オフを手動で行うスイッチである。なお、前述したように、車両制御部56はライトスイッチ74の操作に拘わらず車両54の周囲状況や車両54の走行状態、姿勢、対向車や歩行者の有無に応じて自動的にロービーム60やハイビーム62の照射制御を行うようにしてもよい。このような制御モードをハイビーム自動モードという。
【0044】
上述したような前照灯装置制御部52により形成される照射領域により投影される配光パターンを図8のイメージ図を用いて詳細に説明する。
【0045】
図8は、車両用前照灯装置10で形成される照射領域を車両前方位置、例えば前方約25m付近に設定される仮想鉛直スクリーン上に投影してときに形成されるロービーム配光パターンPL及びハイビーム配光パターンPHを透視的に示す説明図である。
【0046】
前述したように、ロービーム配光パターンPLは、配光の上限を限定する明瞭な明暗境界線であるカットオフラインを有する。このカットオフラインは、当該カットオフラインから下方は明るい領域であり、カットオフラインの上方は暗い領域を区分けする境界線である。左通行用の車両の車両用前照灯装置のカットオフラインは、例えば、車幅方向の右側で光軸を横切る水平線より下側で水平に延びる右側部分CL1と、車幅方向の左側で右側部分よりやや上方の位置を水平に延びる左側部分CL2とが、左上がりに傾斜した中央部分CL3によって連結された形状を有する。中央部分の傾斜角度は、例えば45°である。前述したように、対向車や前走車、歩行者などは、仮想鉛直スクリーン上で鉛直線Vと水平線Hの交点近傍及び水平線Hの近傍に存在する。したがって、上述のようなカットオフラインを有するロービーム配光パターンPLを形成するロービームのみを使用する場合、対向車や前走車、歩行者などにグレアを与えることを抑制することができる。
【0047】
図8に示すハイビーム配光パターンPHは、図6で示したハイビーム照射領域の投影により形成される配光パターンである。そして、配光パターンの略中央部分が上下2段に分割され、台形形状の第2配光パターン100bと、第2配光パターン100bの下方に位置し第2配光パターン100bより左右幅の狭い第1配光パターン100a1〜100a6を形成している。なお、本実施形態の場合、第1配光パターン100a1〜100a6のうち第1配光パターン100a1,100a2,100a5,100a6が第2配光パターン100bの台形形状の斜辺に対応した斜辺を含む形状をしている。また、鉛直線Vと水平線Hの交点O付近の第1配光パターン100a3,100a4より面積が大きくなっている。前述したように、交点O付近に存在する対向車や歩行者は自車に接近するほど仮想鉛直スクリーン上の見かけ上の大きさが大きくなる。したがって、第1配光パターン100aの大きさを中心から外側に向けて徐々に大きくして、対向車や歩行者の自車接近に伴う見かけ上の大きさ変化に対応させている。このように第1配光パターンの大きさに変化を設けることにより、グレア抑制のために光源を消灯制御する場合の制御回数を低減できる。つまり第1領域の点消灯の照射制御が簡略化できる。なお、カメラ64などにより検出された対向車や歩行者の大きさが設定された第1配光パターン100aの1つの大きさより大きい場合には、複数の第1配光パターン100aを同時に消灯させるように第1領域の点消灯の照射制御を実施すればよい。
【0048】
なお、図8に示すように、ハイビーム配光パターンPHの両側端の端部配光パターン100cは複数段に分割されていない。図8からも分かるように、端部配光パターン100cは第2配光パターン100bと同様に対向車や歩行者が存在する可能性の低い領域である。したがって端部配光パターン100cはハイビーム使用時に頻繁に点消灯する必要がないと見なし、簡易的に点消灯ができる部分としている。なお、この端部配光パターン100cは第2配光パターン100bと一体化して単一第2領域の照射制御で形成するようにしてもよい。
【0049】
このような配光パターンを形成する車両用前照灯装置10の制御手順を説明する。
【0050】
車両制御部56はライトスイッチ74が操作され運転者がロービーム60を点灯することを要求していることを検出した場合、前照灯装置制御部52にロービーム60の点灯指令を提供する。前照灯装置制御部52は取得した点灯指令に従い電源回路58を制御し所定の電圧をロービーム60のロービーム用灯具ユニット16に提供して点灯させて、ロービーム照射領域を形成するように照射制御を行う。そして、図8の示すようなロービーム配光パターンPLを投影して、ロービーム60の照射により運転者の視界確保を行う。
【0051】
一方、ロービーム60の照射制御中にライトスイッチ74が操作され、ハイビーム62の点灯を要求する指令を車両制御部56が受けた場合、車両制御部56は前照灯装置制御部52にハイビーム62の点灯指令を提供する。前照灯装置制御部52は取得した点灯指令に従い電源回路58を制御し所定の電圧をハイビーム62の各ハイビーム用灯具ユニット18に提供して点灯させて、ハイビーム照射領域を形成するように照射制御を行う。そして、図8の示すようなハイビーム配光パターンPHを投影して、ハイビーム62の照射により運転者の視界確保を行う。
【0052】
このとき、車両制御部56は、少なくともカメラ64から車両54前方の仮想鉛直スクリーン上の映像に関する情報を取得して前照灯装置制御部52に提供する。前照灯装置制御部52は、車両制御部56を介してカメラ64からの情報を取得すると、その情報の中にハイビーム配光パターンPHの一部を消灯する必要がある対象物が存在するか否かを判定する。この判定は、例えば、取得した情報の中に対向車や前走車、歩行者などグレアを抑制すべき対象物が存在するか否かの判定である。この対象物の検出に方法は、周知の方法を利用可能である。例えば、予対向車や前走車、歩行者などの特徴を示す特徴点情報を予め準備しておき、カメラ64で取得した情報にその特徴点情報が含まれれば、対象物がハイビーム配光パターンPHの中に含まれると判断する。そして、ハイビーム配光パターンPHで対象物が存在する部分に対応するハイビーム照射領域を消灯するように、電源回路58を制御しハイビーム62の一部を消灯させる。その結果、対象物に対するグレアは抑制できる。このような制御モードをハイビーム照射時におけるグレア抑制モードという。この場合、消灯の対象となるのは前述したように主として第1配光パターン100a1〜100a6のいずれかを投影する第1領域になる。対向車や歩行者の場合、走行中の自車と対象物との相対距離は変化する。そして、対象物は、自車接近に従い仮想鉛直スクリーン上の水平線Hに沿って左または右に移動する。前照灯装置制御部52は対象物の移動をカメラ64からの情報により認識可能なので、対象物の移動に対応して消灯する対象を第1配光パターン100a1〜100a6のうちから選択し順次消灯する。その結果、ハイビーム62を点灯させても対向車や前走車、歩行者などの対象物にグレアを与えてしまうことが抑制できると共に、グレアを抑制しなくてもよい領域については、ハイビーム62により明るい遠方照射が継続的に可能になる。その結果、運転者の視界確保を良好に行うことができる。
【0053】
また、第2配光パターン100bで照射する領域には、対向車や前走車、歩行者などグレアを抑制すべき対象物が存在する可能性は低く頻繁な消灯制御を必要としない。また、第2配光パターン100bは、仮想鉛直スクリーン上の水平線Hの上方の領域であるオーバーヘッドサイン領域を照射する。したがって、本実施形態の車両用前照灯装置10によれば、対象物に対するグレアを抑制しつつ、運転者にとって道路標識等の確認のために必要な領域を明るく継続的に照明できて運転者の視界確保を良好に行うことができる。このような制御モードをオーバーヘッドサイン領域認識モードという。
【0054】
なお、この例では、運転者がライトスイッチ74を操作してハイビーム62を点灯させた場合を説明したが、運転者の操作に拘わらず上述のようなグレア抑制の照射制御を行うハイビーム62の点灯を自動で行ってもよい。
【0055】
また、ロービーム60の点灯と連動してハイビーム62の第2領域のみを点灯して第2配光パターン100bのみを照明するようにしてもよい。この場合、従来ロービーム60によりぼんやりと照らされていたオーバーヘッドサイン領域をハイビーム62の一部機能を用いて明るく照らすことができるので、対向車や先行車、歩行者などの存在に拘わりなく運転者の前方視界を向上することができる。
【0056】
このように、本実施形態によれば、ハイビーム照射時でも対向車や先行車、歩行者などにグレアを与えないようにできる。したがって、市街地等従来ハイビームの使用があまり行われていなかった場所でもハイビームを気軽に使用することが可能となり、車両用前照灯装置の機能を十分に利用できるようになる。
【0057】
また、高速道路などの自動車専用道路を高速走行している場合、遠方を明るく照射したいという要望がある。このようなとき、本実施形態の場合、ハイビーム62の第1領域の一部のみを点灯させることができる。例えば図8の中央寄りに配置された第1配光パターン100a3、100a4のみを照射するように第1領域を点灯させることにより、高速走行時に特に視界を確保したい部分の照射制御、いわゆるモーターウェイモードの照射制御が可能になる。この場合、必要な領域の照明を最小限の照射で実現できるので、省エネルギーを配慮した点灯制御ができる。また、ハイビーム62のうち一部の第1領域の点灯のみでモーターウェイモードを実現できるので、もし、対向車が存在する場合でもグレアを軽減できる。
【0058】
ところで、図9(a)に示すように、ハイビーム配光パターンPHの中に照射を抑制すべき例えば歩行者などの対象物76が存在する場合、図9(b)に示すように、対象物76が存在する部分に対応する第2配光パターン100a6のみが非照射になるように照射制御される。したがって、運転者側から見ればその部分のみが明るい照射の中で黒く抜け落ちたブラックホールのように見える。消灯制御は照射を抑制することが望ましい対象物76が存在するため行われるので、何らかの物体がそこに存在することを報知できる。しかし、それが何であるか認識し難い場合、運転者に不安感を抱かせる原因になる。そこで、本実施形態では、図9(c)、図9(d)に示すように、例えば、オーバーヘッドディスプレイ78(図7参照)などを用いて対象物76の存在を示唆する映像82を運転者から見て消灯させた第2領域42aが照射すべき方向、つまり第2配光パターン100a6の方向に重畳表示するようにしている。仮想鉛直スクリーン上に重畳される映像80は、例えば、対象物76を認識するときに取得した実映像(対象物76)をそのまま用いてもよいし、取得した実映像に基づき歩行者や車両の映像を生成してもよい。また、対象物76の検出結果に基づき予め準備された映像の中から選択して重畳表示するようにしてもよい。ここで、オーバーヘッドディスプレイ78で表示する映像は実際の歩行者や車両に対応する必要はなく、例えば、運転者の注意を引くマークやキャラクタでもよい。前述したように、対象物76は自車への接近に伴い見かけ上の大きさが大きくなり、対象物76に対応した映像80をオーバーヘッドディスプレイ78で表示する場合、その大きさの変化に応じて映像80の大きさを変化させないと違和感を生じさせてしまう場合がある。また、リアルタイムで映像80を変化させる場合、画像処理の負荷が大きくなる。一方、映像80を予めマークやキャラクタにしておけば、その大きさや鮮明さが変化しなくても違和感を運転者に与えることが少ない。また、容易な画像処理で対象物76の存在を運転者に通知することができる。なお、このような、映像80の表示を行う場合、音声で、「消灯部分に歩行者がいます。」などのアナウンスを運転者が煩わしさを感じない範囲内で行えば、運転者の注意喚起に寄与できる。このような映像80の表示やアナウンスの出力を行う制御モードを対象物報知モードという。
【0059】
上述した実施形態においては、ハイビーム配光パターンPHを第1配光パターン及び第2配光パターンの組み合わせによって形成する例を説明した。すなわち、第1領域と第2領域の組み合わせによってハイビーム照射領域を形成するために複数のハイビーム用灯具ユニット18を用いた例を説明した。それに対し、図10に示す例では、ハイビーム用灯具ユニットを1灯で構成している。
【0060】
図10に示す車両用前照灯装置110は、1灯のロービーム用灯具ユニット16と1灯のハイビーム用灯具ユニット112で構成されている。なお、ハイビーム用灯具ユニット112以外の構成は図1に示す車両用前照灯装置10と同じ構成とすることができる。したがって、同様な機能を果たす部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0061】
車両用前照灯装置110はランプボディ12と、透明カバー14とで略密閉空間を形成し、内部にロービーム用灯具ユニット16とハイビーム用灯具ユニット112をそれぞれ1灯ずつ配置している。ロービーム用灯具ユニット16やハイビーム用灯具ユニット112は、車両が走行する道路において、前方例えば25mの位置に設定される鉛直線Vと水平線Hを含む仮想鉛直スクリーン上に所定の配光パターンを投影するような照射領域を形成する。
【0062】
ハイビーム用灯具ユニット112は、投影レンズ26、ホルダ30を含んで構成される。ホルダ30は、前端部分に投影レンズ26を保持し、後端部分に放熱板34と接続された素子基板32を支持している。素子基板32上には、1つまたは複数の発光素子が配置されている。また、投影レンズ26と素子基板32との間には、素子基板32から照射される光を選択的に遮り、図9(b)に示すように所望の配光パターンのみが非照射となるような遮光部材114が配置されている。この遮光部材114は例えば、液晶フィルなどを用いることが可能である。図11に遮光部材114が形成する遮光領域114aの一例を示す。この遮光領域104aは、図6に示す光源ユニット27a、27b、27cの前端射出口28bで形成する第1領域42aや第2領域42bの形状と略同一とすることができる。例えば、図9(b)で示すようにグレア抑制のためにハイビーム配光パターンPHの一部分を非照射にする場合、対応する遮光領域114aを遮光状態に制御すればよい。遮光部材114として液晶フィルタを用いる場合、電圧制御により容易に遮光部分を形成することができる。この場合、素子基板32はグレア抑制のために消灯制御する必要がなく、ハイビームの使用中は点灯したままでよいので、光源に対する特別な制御が不要になり、ハイビーム点灯時の光源の制御が容易になる。なお、遮光部材114として液晶フィルタを用いる場合、遮光領域の形状は任意に設定することができので、図4(a)や図5(a)に示すような照射領域を形成することも容易にできる。つまり、用途に応じた照射領域を形成することができる。
【0063】
また、図1及び図2(a)〜図2(c)で示す構造においては、複数の光源ユニット27を用いてハイビーム照射領域を合成する例を示したが、光源ユニット27を省略して素子基板32上に第1領域の形状や第2領域形状の発光素子を直接配置してもよい。この場合、ハイビーム用灯具ユニット18の構造が簡略化されるメリットがある。ただし、各形状の素子間に境界線が現れ易くなるので、必要に応じて境界線の発生を低減または抑制するための光学素子やフィルタを配置することが望ましい。
【0064】
なお、本実施形態では、ハイビーム照射領域を形成するハイビーム用灯具ユニット18が3灯の場合と1灯の場合を説明したが、ハイビーム用灯具ユニット18の灯数は任意であり、形成する第1領域や第2領域の数に応じて適宜選択することができ、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
また、ハイビーム照射領域を上限方向に分割する段数を2段の場合と3段の場合を説明したが、分割段数は適宜変更してもよい。また、幅方向の分割数も適宜変更してももよい。ハイビーム照射領域で対象物が存在し得る部分に対応する照射領域を細分化することによってグレア防止のための制御がよりきめ細かくできる。
【0066】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態の車両用前照灯装置の構成概念図である。
【図2】本実施形態の車両用前照灯装置の光源ユニットの外観と、光路の配置及び光路の先端に形成された前端射出口の形状を説明する斜視図である。
【図3】走行中の運転者の視線の動きを説明する説明図である。
【図4】本実施形態の車両用前照灯装置の光源ユニットからの光の合成を説明する説明図である。
【図5】本実施形態の車両用前照灯装置の光源ユニットからの光の合成を説明する他の説明図である。
【図6】本実施形態の車両用前照灯装置の光源ユニットからの光の合成を説明する他の説明図である。
【図7】本実施形態の車両用前照灯装置の前照灯装置制御部と車両側の車両制御部の構成を説明する機能ブロック図である。
【図8】本実施形態の車両用前照灯装置による形成される照射領域により投影される配光パターンのイメージを説明する説明図である。
【図9】本実施形態の車両用前照灯装置により非照射となる部分に映像を重畳させることを説明する説明図である。
【図10】本実施形態の車両用前照灯装置の他の構成を説明する構成概念図である。
【図11】図10の車両用前照灯装置に用いる遮光部材を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0068】
10 車両用前照灯装置、 12 ランプボディ、 14 透明カバー、 16 ロービーム用灯具ユニット、 18 ハイビーム用灯具ユニット、 20 リフレクタ、 22 バルブ、 24 シェード、 26 投影レンズ、 27 光源ユニット、 28b 前端射出口、 32 素子基板、 34 放熱板、 38a、38b 第1領域、38c、38d 第2領域 、 50 車両用前照灯装置、 52 前照灯装置制御部、 54 車両、 56 車両制御部、 58 電源回路、 60 ロービーム、 62 ハイビーム、 64 カメラ、 66 ステアリングセンサ、 68 車速センサ、 70 車高センサ、 72 ナビゲーションシステム、 74 ライトスイッチ、 PL ロービーム配光パターン、 PH ハイビーム配光パターン、 76 対象物、 78 オーバーヘッドディスプレイ、 80 映像。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイビーム照射用の光源と、
前記光源を照射制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、前記複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に前記第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように前記光源の照射制御を行うことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ハイビーム照射領域がオーバーヘッドサイン領域に対応するように前記光源を照射制御することを特徴とする請求項1記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記制御手段は、ロービームの照射時に前記第2領域を当該ロービームに追加して照射させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記光源は、前記第1領域と前記第2領域を個別に形成する複数の個別光源で構成され、
前記制御手段は、前記個別光源を個々に制御して前記ハイビーム照射領域を照射制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
ハイビーム照射用の光源を照射制御する車両用前照灯装置の制御方法であって、
前記光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割して、前記複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に前記第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように前記光源を制御するとともに、前記ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物が存在する場合、前記対象物が存在する位置に対応するハイビーム照射領域を部分的に消灯制御することを特徴とする車両用前照灯装置の制御方法。
【請求項6】
前記消灯制御をした場合、前記対象物の存在を示唆する映像を運転者から見て前記消灯した照射領域が照射すべき方向に重畳表示することを特徴とする請求項5記載の車両用前照灯装置の制御方法。
【請求項1】
ハイビーム照射用の光源と、
前記光源を照射制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割したとき、前記複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に前記第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように前記光源の照射制御を行うことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ハイビーム照射領域がオーバーヘッドサイン領域に対応するように前記光源を照射制御することを特徴とする請求項1記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記制御手段は、ロービームの照射時に前記第2領域を当該ロービームに追加して照射させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記光源は、前記第1領域と前記第2領域を個別に形成する複数の個別光源で構成され、
前記制御手段は、前記個別光源を個々に制御して前記ハイビーム照射領域を照射制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
ハイビーム照射用の光源を照射制御する車両用前照灯装置の制御方法であって、
前記光源が照射するハイビーム照射領域の少なくとも一部を上下方向に複数段に分割して、前記複数段の一部について下側段に左右方向に所定の領域幅の第1領域を複数形成し上側段に前記第1領域より左右方向に領域幅が広い第2領域を形成するように前記光源を制御するとともに、前記ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物が存在する場合、前記対象物が存在する位置に対応するハイビーム照射領域を部分的に消灯制御することを特徴とする車両用前照灯装置の制御方法。
【請求項6】
前記消灯制御をした場合、前記対象物の存在を示唆する映像を運転者から見て前記消灯した照射領域が照射すべき方向に重畳表示することを特徴とする請求項5記載の車両用前照灯装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−179121(P2009−179121A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18378(P2008−18378)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】
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