説明

車両用操舵装置および車両用操舵装置の異常判定方法

【課題】伝達比をロックするためのロック機構の異常をより正確に検出することのできる車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】車両用操舵装置1は、ステアリングシャフト3の入力軸18と出力軸19との間の伝達比を変更可能な伝達比可変機構13と、伝達比を変更するための伝達比制御モータ14と、伝達比を固定するためのロック機構25と、制御部とを備える。ロック機構25は、キャリア57の回転を規制するためのロック部材62と、ロック部材62をキャリア57に係合する第1位置P1と係合しない第2位置P2とに変位可能に支持するソレノイド61と、を含む。制御部の判定部は、ロック部材62を第2位置P2に変位するようにロック機構25が制御された後、ロック部材62が第1位置P1にあるときに、ロック機構25に異常が生じていると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置および車両用操舵装置の異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵部材に連結される入力軸と、転舵機構に連結される出力軸との間に、入力軸と出力軸との間の回転伝達比を変更可能な伝達比可変機構を備える車両用操舵装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。伝達比可変機構は、遊星歯車機構等により構成されており、電動モータ(伝達比制御モータ)が遊星歯車機構のキャリアを回転させること等により、回転伝達比を変更できるようになっている。
【0003】
各上記引用文献の車両用操舵装置は、伝達比制御モータに異常が生じたことで回転伝達比を制御できなくなったフェール時等に伝達比制御モータの回転をロックするロック機構を備えている。ロック機構が伝達比制御モータの回転をロックすることにより、回転伝達比が固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145102号公報
【特許文献2】特開2008−24058号公報
【特許文献3】特表2006−521957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3では、伝達比制御モータによる遊星ギヤ機構の構成要素の回転を、ロック機構のロック部材により阻止するようになっている。
上記ロック部材は、遊星ギヤ機構の構成要素の回転をロックするロック位置と、構成要素の回転をロックしない非ロック位置とに変位可能に構成されている。このような構成を有していることから、ロック部材は、意図していないにも拘わらず、非ロック位置からロック位置に向かって誤作動する可能性がある。
【0006】
この誤作動は、ロック部材を駆動するソレノイド等の駆動装置の故障が原因によって生じることもあれば、車両の走行時の振動等に起因するロック部材の偶発的な変位が原因によって生じることもある。
ロック部材を駆動する駆動装置の故障であれば、修理の必要がある一方、ロック部材の偶発的な変位によるロック部材の誤作動の場合、ロック部材を駆動装置によって再度非ロック位置に変位させれば、ロック部材を非ロック位置に戻すことができる。
【0007】
しかしながら、単にロック部材が意図せずにロック位置に変位したことによりロック機構のフェールを確定する構成では、正常状態に容易に復帰可能な誤作動が生じただけでも、ロック機構のフェールが確定してしまう。その結果、ユーザが車両を整備工場に持ち込む頻度が増えてしまい、ユーザにとって不便である。したがって、ロック機構の異常を正確に検出できることが望まれている。しかしながら、特許文献1〜3では、このような、偶発的に生じた伝達比のロック状態に対する方策について触れられていない。
【0008】
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、伝達比をロックするためのロック機構の異常をより正確に検出することのできる車両用操舵装置および車両用操舵装置の異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、操舵部材(2)の操舵に応じて回転する入力軸(18)と転舵機構(9)の動作に連動して回転する出力軸(19)との間に介在し、入力軸および出力軸間の伝達比を変更可能な伝達比可変機構(13)と、前記伝達比可変機構の前記伝達比を変更するための伝達比制御モータ(14)と、前記伝達比可変機構に係合することにより前記伝達比を固定するためのロック部材(62)、および前記ロック部材を前記伝達比可変機構に係合する第1位置(P1)と前記伝達比可変機構との係合が解除された第2位置(P2)とに変位可能に支持する支持装置(61)を含むロック機構(25)と、前記ロック部材の位置を検出する検出手段(49)と、前記ロック機構を制御する制御部(37)と、を備え、前記制御部は、前記ロック部材が前記第1位置にあるときに前記ロック機構の異常の有無を判定可能な判定部(50)を含み、前記判定部は、前記ロック部材を前記第2位置に変位するように前記ロック機構が制御された後、前記ロック部材が前記第1位置にあるときに、前記ロック機構に異常が生じていると判定することを特徴とする車両用操舵装置(1)を提供する(請求項1)。
【0010】
本発明によれば、ロック機構に異常(故障)が生じている場合、第1位置にあるロック部材を第2位置に変位するようにロック機構が制御されても、ロック部材は、第1位置から変位しない。この場合、判定部は、ロック機構に異常が生じていると判定する。一方、車両の走行時等の振動に起因するロック部材の偶発的な変位が原因によって、ロック部材が第1位置に変位した場合、第1位置にあるロック部材を第2位置に変位するようにロック機構が制御されると、ロック部材は、第1位置から第2位置に変位する。この場合、判定部は、ロック機構に異常が生じているとは判定しない。
【0011】
このように、判定部は、ロック部材が単に第1位置に変位したことによりロック機構の異常を判定するのではない。したがって、ロック機構に異常が生じておらず、ロック部材の偶発的な変位によってロック部材が第1位置にあるときに、ロック機構が異常を生じていると誤判定されることを防止できる。したがって、ロック機構の異常をより正確に判定することができる。その結果、誤判定に起因してユーザが車両を整備工場に持ち込むことを防止できるので、ユーザが車両を整備工場に持ち込む頻度を少なくできる。これにより、車両に対するユーザの満足度を高めることができる。
【0012】
また、本発明において、前記支持装置は、所定の変位力(F1)で前記ロック部材を前記第1位置から前記第2位置に変位可能であり、且つ前記所定の変位力よりも小さい所定の保持力(F2)で前記ロック部材を前記第2位置に保持可能である場合がある(請求項2)。
この場合、ロック部材を小さい保持力で第2位置に保持しておくことができる。例えば、支持装置が電磁ソレノイドである場合、電磁ソレノイドに供給する電力を少なくできるので、装置の消費エネルギを少なくできる。また、ロック部材を小さい保持力で保持する分、車両の走行時の振動等に起因してロック部材が偶発的に第2位置から第1位置に変位(誤作動)し易くなるけれども、このような、支持装置の駆動によって容易に回復可能な誤作動が生じても、ロック機構に異常が生じていると判定されることを抑制できる。
【0013】
また、本発明において、前記判定部は、前記制御部が前記ロック部材を前記第2位置に保持するように前記ロック機構を制御しているにも拘わらず前記ロック部材が前記第1位置にあるときに、前記ロック機構の異常の有無を判定する場合がある(請求項3)。
通常、車両の走行時には、伝達比制御モータによる伝達比の制御が行えるように、ロック部材は、第2位置に配置される。このように、ロック部材が第2位置に配置されるようにロック機構が制御されているにも拘わらず、ロック部材が第1位置に配置されている場合には、ロック機構に異常が生じている可能性がある。ロック機構に異常が生じている可能性のある場合に判定部がロック機構の異常を判定するので、ロック機構の異常をより確実に判定することができる。一方、伝達比制御モータに異常が生じたこと等により、伝達比制御モータによる伝達比の制御ができない場合に、ロック部材は意図的に第1位置に配置される。このような場合には、ロック部材が第1位置に配置されていることが正常であるので、ロック機構の異常を判定する必要がない。したがって、ロック機構の異常を判定する必要のあるときにのみ、ロック機構の異常を判定することができる。
【0014】
前記伝達比可変機構は、前記入力軸に連結される入力サンギヤと、この入力サンギヤと同軸に配置され前記出力軸に連結される出力サンギヤと、前記入力サンギヤおよび前記出力サンギヤの双方に噛み合う遊星ギヤと、この遊星ギヤを前記入力サンギヤの回りに公転可能且つ遊星ギヤの中心軸線回りに自転可能に支持するキャリアとを含み、前記伝達比制御モータのロータは、前記キャリアに一体回転可能に連結されてもよい。
【0015】
前記ロック機構は、前記キャリアに一体回転可能に設けられたリング部材を含み、前記リング部材は、前記ロック部材に係合可能な溝を外周に有していてもよい。この場合、ロック部材がリング部材の溝に嵌まることで、キャリアの回転を規制し、伝達比を機械的に固定することができる。
また、前記伝達比制御モータの回転位置を検出する回転位置センサをさらに備え、前記制御部は、前記伝達比制御モータを制御する伝達比制御部を含み、前記検出手段は、前記伝達比制御部が前記伝達比制御モータを駆動させる信号を前記伝達比制御モータに出力している場合の前記回転位置センサの検出値に変化がないときに、前記ロック部材が前記第1位置に位置していると検出する場合がある。
【0016】
この場合、ロック部材の位置を検出するための専用のセンサが不要であり、装置の製造コストを低減することができる。
また、本発明は、操舵部材の操舵に応じて回転する入力軸と転舵機構の動作に連動して回転する出力軸との間に介在し、入力軸および出力軸間の伝達比を変更可能な伝達比可変機構と、前記伝達比可変機構の前記伝達比を変更するための伝達比制御モータと、前記伝達比可変機構に係合することにより前記伝達比を固定するためのロック部材、および前記ロック部材を前記伝達比可変機構に係合する第1位置と前記伝達比可変機構との係合が解除された第2位置とに変位可能に支持する支持装置を含むロック機構と、を備える車両用操舵装置の異常判定方法において、前記第1位置にある前記ロック部材を前記第2位置に変位するように前記ロック機構が制御された後、前記ロック部材が前記第1位置にあるときに、前記ロック機構に異常が生じていると判定することを特徴とする(請求項4)。
【0017】
本発明によれば、ロック機構に異常(故障)が生じている場合、第1位置にあるロック部材を第2位置に変位するようにロック機構が制御されても、ロック部材は、第1位置から変位しない。この場合に、ロック機構に異常が生じていると判定される。一方、車両の走行時の振動等に起因するロック部材の偶発的な変位が原因によって、ロック部材が第1位置に変位した場合、第1位置にあるロック部材を第2位置に変位するようにロック機構が制御されると、ロック部材は、第1位置から第2位置に変位する。この場合には、ロック機構に異常が生じているとは判定されない。
【0018】
このように、ロック部材が単に第1位置に変位したことによりロック機構の異常を判定する方法は採用していない。したがって、ロック機構に異常が生じておらず、ロック部材の偶発的な変位によってロック部材が第1位置にあるときに、ロック機構が異常を生じていると誤判定されることを防止できる。したがって、ロック機構の異常をより正確に判定することができる。その結果、誤判定に起因してユーザが車両を整備工場に持ち込むことを防止できるので、ユーザが車両を整備工場に持ち込む頻度を少なくできる。これにより、車両に対するユーザの満足度を高めることができる。
【0019】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】伝達比可変機構の概略構成を示す一部断面図である。
【図3】(A)は、ロック機構の主要部の断面図、およびロック機構のソレノイドの電圧を示すグラフであり、ロック機構のロック部材が第1位置にあることによりキャリアをロックしている状態を示しており、(B)は、ソレノイドがロック部材を第1位置から第2位置に変位させているときの状態を示しており、(C)は、ロック機構のロック部材が第2位置にあることによりキャリアをロックしていない状態を示している。
【図4】ロック機構の異常を判定する制御の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有し、自動車等の車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸8とを有している。ピニオン軸7およびラック軸8によりラックアンドピニオン機構からなる転舵機構9が構成されている。
【0022】
ラック軸8は、車体に固定されるハウジング(図示せず)内に、複数の軸受(図示せず)を介して、軸方向X1に沿って直線往復動可能に支持されている。ラック軸8の各端部には、それぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、ラック軸8の軸方向X1の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0023】
また、車両用操舵装置1は、転舵機構9に操舵補助力を付与するための操舵補助機構12と、操舵部材2の操舵角に対する転舵輪11の転舵角の比(伝達比)を変更することのできる伝達比可変機構13とを備えている。伝達比可変機構13には、伝達比を変更することのできるブラシレスモータからなる伝達比制御モータ14が設けられている。また、伝達比可変機構13には、操舵部材2に操舵反力を付与することのできるブラシレスモータからなる反力補償モータ15が設けられている。
【0024】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2と伝達比可変機構13との間に配置され操舵部材2の操舵に応じて回転する入力軸18と、伝達比可変機構13と中間軸5との間に配置され転舵機構9の動作に連動して回転する出力軸19とを含む。
入力軸18は、操舵部材2に一体回転可能に連結される第1軸18aと、第1軸18aにトーションバー20を介して連結される第2軸18bとを含む。トーションバー20を介した第1軸18aと第2軸18bの相対回転量は小さく、実質的に第1軸18aと第2軸18bとは一体回転していると考えることができる。
【0025】
操舵補助機構12は、ブラシレスモータからなる操舵補助モータ21と、操舵補助モータ21の出力回転を減速する減速機構22と、を含む。減速機構22は、例えば、ウォーム減速機構であり、操舵補助モータ21のロータ21aに一体回転可能に連結されるウォーム軸23と、出力軸19に一体回転可能に連結されウォーム軸23に噛み合うウォームホイール24とを含む。
【0026】
操舵補助モータ21は、減速機構22、出力軸19および中間軸5を介して転舵機構9に動力伝達可能に連結されている。操舵補助モータ21の出力は、減速機構22を介して出力軸19に伝達され、運転者の操舵を補助するようになっている。
車両用操舵装置1は、伝達比制御モータ14の回転をロックすることで伝達比を機械的に固定可能なロック機構25を備えている。
【0027】
また、車両用操舵装置1は、複数のセンサとして、トルクセンサ30、第1センサとしての第1レゾルバ31、第2センサとしての第2レゾルバ32、第3センサとしての第3レゾルバ33、および走行状態センサ36を備えている。
トルクセンサ30は、トーションバー20に隣接して配置されており、トーションバー20のねじれに伴う第1軸18aと第2軸18bとの相対回転量を検出することで、操舵部材2に負荷される操舵トルクを検出する。
【0028】
第1レゾルバ31は、伝達比制御モータ14の後述するロータ14aの回転位置を検出するレゾルバであり、伝達比制御モータ14に隣接して配置されている。伝達比制御モータ14は、第1レゾルバ31の検出値angle_vgrを用いるフィードバック制御により駆動制御される。
第2レゾルバ32は、反力補償モータ15の後述するロータ15aの回転位置を検出するレゾルバであり、反力補償モータ15に隣接して配置されている。反力補償モータ15は、第2レゾルバ32の検出値angle_reactを用いるフィードバック制御により駆動制御される。反力補償モータ15は、伝達比可変機構13の動作による操舵部材2の操舵反力(操舵反力の変化)を補償するためのモータである。
【0029】
第3レゾルバ33は、操舵補助モータ21のロータ21aの回転位置を検出するレゾルバであり、操舵補助モータ21に設けられている。操舵補助モータ21は、第3レゾルバ33の検出値angle_epsを用いるフィードバック制御により駆動制御される。
走行状態センサ36は、車両の走行状態(車速、転舵角、車両のヨーレート等の、車両用操舵装置1の制御に関連する車両走行状態)を検出するセンサであり、複数のセンサによって構成されている。
【0030】
車両用操舵装置1は、制御部37を備えている。制御部37は、伝達比制御モータ14、反力補償モータ15、およびロック機構25の動作を制御することにより操舵を制御する操舵制御部38と、操舵補助モータ21の動作を制御する操舵補助制御部39とを含んでいる。
操舵制御部38および操舵補助制御部39は、それぞれ電子制御ユニット(ECU:Electronic ControlUnit)により構成され、例えば車載ネットワーク40を介して互いに信号伝達可能に接続されている。
【0031】
操舵制御部38には、トルクセンサ30、第1レゾルバ31、第2レゾルバ32、第3レゾルバ33、および走行状態センサ36がそれぞれ接続されており、各センサ30〜33,36からの検出信号が、操舵制御部38に入力されるようになっている。
操舵制御部38は、ドライバ41を介して伝達比制御モータ14に接続されており、ドライバ42を介して反力補償モータ15に接続されている。また、操舵制御部38は、ロック機構25と、報知手段としての警告ランプ44およびスピーカ45とに接続されている。
【0032】
操舵制御部38は、所定のプログラムを実行することによってソフトウェア的に実現される機能処理部として、伝達比制御部46と、反力制御部47と、ロック制御部48と、検出手段としてのロック部材位置検出部49と、判定部50と、カウンタ51と、を含んでいる。
伝達比制御部46は、伝達比を制御するべく、伝達比制御モータ14の駆動を制御するようになっている。反力制御部47は、操舵部材2に負荷される反力を制御するべく、反力補償モータ15の駆動を制御するようになっている。
【0033】
ロック制御部48は、ロック機構25の駆動を制御するようになっている。ロック部材位置検出部49は、後述するロック部材62の位置を検出するようになっている。判定部50は、ロック機構25の異常の有無を判定するようになっている。
操舵制御部38内において、伝達比制御部46は、ロック制御部48およびロック部材位置検出部49に接続されており、これらロック制御部48およびロック部材位置検出部49に信号を出力するようになっている。反力制御部47は、ロック制御部48に接続されており、ロック制御部48に信号を出力するようになっている。ロック制御部48は、判定部50に接続されており、双方向に信号伝達可能になっている。ロック部材位置検出部49は、伝達比制御部46および第1レゾルバ31に接続されており、これらからの信号に基づいて、ロック部材62の位置を検出するようになっている。また、ロック部材位置検出部49は、判定部50に接続されており、判定部50に信号を出力するようになっている。判定部50は、カウンタ51に接続されている。
【0034】
車両用操舵装置1は、報知手段としての警告ランプ44およびスピーカ45を含んでいる。警告ランプ44およびスピーカ45は、操舵制御部38に接続されており、フェール状態が確定したときに、警告ランプ44が点灯するとともに、スピーカ45が警告音を発するようになっている。これにより、フェール状態を運転者に報知可能となっている。なお、フェール状態とは、車両用操舵装置1に何らかの異常が生じ、この異常が制御部37によって検出された状態をいう。本実施形態において、フェール状態は、伝達比制御モータ14および反力補償モータ15の少なくとも一方に異常が生じたときのモータフェール状態と、ロック機構25に異常が生じたときのロック機構フェール状態とを含む。操舵補助制御部39は、ドライバ43を介して操舵補助モータ21に接続されている。
【0035】
図2は伝達比可変機構13の概略構成を示す一部断面図である。図2に示すように、入力軸18の第2軸18bおよび出力軸19は、互いの先端を相対向させて同軸上に配置されている。
伝達比可変機構13は、入力軸18の第2軸18bと出力軸19との間の伝達比を変更可能とされている。伝達比可変機構13は、全体として筒状をなすハウジング53に収容されている。
【0036】
伝達比可変機構13は、入力軸18の第2軸18bと同軸に並んで一体回転可能な入力サンギヤ54と、入力サンギヤ54と同軸に配置され、出力軸19と一体回転可能な出力サンギヤ55と、各サンギヤ54,55の双方に噛み合う遊星ギヤ56と、遊星ギヤ56を遊星ギヤ56の中心軸線L2回りに自転可能且つ各サンギヤ54,55の中心軸線L1回りに公転可能に支持するキャリア57と、を含んでいる。
【0037】
遊星ギヤ56は、入力サンギヤ54および出力サンギヤ55を互いに関連付けるための一体成形品であり、中心軸線L1回りに複数(本実施の形態において、2つ)配置されている。入力サンギヤ54、出力サンギヤ55および遊星ギヤ56は、キャリア57の回転がロックされているときに、入力サンギヤ54と出力サンギヤ55の回転伝達比が例えば1になるように設計されている。
【0038】
キャリア57は、筒状に形成されており、出力軸19が挿通されている。キャリア57は、各サンギヤ54,55の中心軸線L1の回りを回転可能である。キャリア57は、第1軸受58を介してハウジング53に支持され、且つ各遊星ギヤ56の支軸56aの一端を支持する第1部分57aと、支軸56aの他端を支持する第2部分57bと、第2部分57bから減速機構22に向けて延び第2軸受59を介してハウジング53に支持される第3部分57cと、を含んでいる。
【0039】
キャリア57の第2部分57bを取り囲むようにして、伝達比制御モータ14が配置されている。伝達比制御モータ14は、第2部分57bの外周に一体回転可能に連結されたロータ14aと、ロータ14aを取り囲みハウジング53に固定されたステータ14bとを含んでいる。伝達比制御モータ14の駆動によって、キャリア57が中心軸線L1回りを回転するようになっている。
【0040】
伝達比制御モータ14に関連して、第1レゾルバ31が配置されている。第1レゾルバ31は、キャリア57の第3部分57cの外周に一体回転可能に連結されたロータ31aと、ロータ31aを取り囲みハウジング53に固定されたステータ31bとを含んでいる。キャリア57に伝達比制御モータ14のロータ14aおよび第1レゾルバ31のロータ31aの双方が連結されていることにより、第1レゾルバ31は、キャリア57の回転位置(回転角)および伝達比制御モータ14のロータ14aの回転位置を検出することが可能である。
【0041】
伝達比制御モータ14に対して入力軸18側(図2の右側)には、反力補償モータ15が配置されている。反力補償モータ15は、入力軸18の第2軸18bの外周に連結されたロータ15aと、ロータ15aを取り囲みハウジング53に固定されたステータ15bとを含んでいる。
反力補償モータ15に隣接して、第2レゾルバ32が配置されている。第2レゾルバ32は、第2軸18bの外周に連結されたロータ32aと、ロータ32aを取り囲みハウジング53に固定されたステータ32bとを含んでいる。第2軸18bに反力補償モータ15のロータ15aおよび第2レゾルバ32のロータ32aの双方が連結されていることにより、第2レゾルバ32は、入力軸18の回転位置(転舵角)および反力補償モータ15のロータ15aの回転位置を検出することが可能である。
【0042】
ロック機構25は、モータフェール時にキャリア57の回転をロックすることにより、入力軸18と出力軸19との間の伝達比を所定値(本実施形態において、1)に固定するためのものである。
図3(C)は、ロック機構25の主要部の断面図、およびロック機構25のソレノイド61の電圧を示すグラフであり、ロック機構25がキャリア57をロックしていない状態を示している。
【0043】
図2および図3(C)を参照して、ロック機構25は、キャリア57の第3部分57cに一体回転可能に連結されたリング部材60と、このリング部材60に係合可能な軸状のロック部材62と、ロック部材62が一端に固定されたロッド61aを有するソレノイド61とを含んでいる。本実施形態において、ロック部材62は、ロッド61aとは単一の材料を用いて一体に形成されている。
【0044】
リング部材60の外周には、複数の溝60aが周方向に等間隔に複数配置されている。ソレノイド61は、ハウジング53に取り付けられている。ソレノイド61は、ロック部材62を第1位置P1と第2位置P2とに変位可能に支持する支持装置である。このソレノイド61は、ロッド61aと、電磁石(図示せず)と、ロッド61aをリング部材60に向けて付勢するばね61bとを含んでおり、操舵制御部38(図1参照)によって駆動制御される。
【0045】
図2および図3(A)を参照して、車両の電源オフ時には、ソレノイド61への通電がオフにされており、ソレノイド61の電圧はゼロ(V)である。このとき、ロッド61aに固定されたロック部材62は、ばね61bの付勢力によって、リング部材60の溝60aに嵌まるようになっている。モータフェール時も同様に、ソレノイド61への通電がオフにされることで、ロッド61aに固定されたロック部材62は、リング部材60の溝60aに嵌まるようになっている。ロック部材62がリング部材60の溝60aに嵌まっているとき、ロック部材62は、リング部材60を介してキャリア57に係合している。このときのロック部材62の位置が、第1位置P1として定義される。
【0046】
一方、車両用操舵装置1がフェール状態にない主モード状態のときには、図3(C)に示すように、ソレノイド61への通電がオンにされた状態となっている。このときのソレノイド61の磁力によって、ロック部材62は、リング部材60に係合しない第2位置P2に維持される。これにより、ロック部材62がキャリア57の回転を規制しないようになっている。このように、リング部材60およびキャリア57に係合していないときのロック部材62の位置が、第2位置P2として定義される。
【0047】
図1および図2を参照して、上記の構成を有する車両用操舵装置において、車両の通常走行時(異常が生じていない状態での走行時。主モード時。)、操舵部材2が操舵されると、この操舵部材2に連結された入力軸18が回転することで、伝達比可変機構13の入力サンギヤ54が回転する。
このとき、操舵制御部38の伝達比制御部46は、操舵制御部38に接続された各センサ30〜33,36からの入力信号等に基づいて、伝達比制御モータ14および反力補償モータ15の目標駆動量を設定する。そして、操舵制御部38は、伝達比制御モータ14および反力補償モータ15のロータ14a,15aの回転位置と目標回転位置との偏差がゼロになるように、伝達比制御モータ14および反力補償モータ15を駆動する。
【0048】
この操舵制御部38の伝達比制御部46の制御により、伝達比制御モータ14のロータ14aが回転されない場合、入力サンギヤ54の回転により、各遊星ギヤ56、出力サンギヤ55および出力軸19が回転する。
このとき、入力軸18から出力軸19への回転伝達比は、前述の所定の伝達比(例えば、1)である。この結果、転舵輪11は、操舵部材2の操作方向に、この操舵部材2の操舵角に前記回転比を乗じた角度相当分だけ転舵されることになり、操舵部材2から操舵用の転舵輪11への伝達比は一定値となる。
【0049】
一方、操舵制御部38の伝達比制御部46の制御により、伝達比制御モータ14を駆動することでキャリア57を回転させた場合、入力軸18から出力軸19への回転伝達は、前述した所定の伝達比からキャリア57の回転分だけ増減された伝達比にてなされる。これにより、入力軸18および出力軸19間の伝達比、すなわち操舵部材2から転舵輪11への伝達比を無段階に変更することができることになる。
【0050】
また、伝達比制御モータ14の駆動に伴う操舵部材2への反力を補償するために、反力制御部47は、反力補償モータ15を駆動する。これにより、伝達比制御モータ14の駆動に伴う操舵部材2のトルク変動を打ち消すように、反力トルクが入力軸18に伝達される。これにより、運転者の違和感が軽減される。
車両のイグニッションがオフにされており、車両の電源がオフにされているときには、ソレノイド61に電力は供給されておらず、ソレノイド61の電圧はゼロ(V)である。このとき、図2および図3(A)に示すように、ロック部材62は、ばね61bの付勢力によって、第1位置P1に位置している(図2において、第1位置P1のロック部材62を2点鎖線で図示)。これにより、ロック部材62は、キャリア57の回転を規制している。したがって、操舵部材2を回転したとき、操舵部材2の回転に連動して、入力軸18、入力サンギヤ54、遊星ギヤ56、出力サンギヤ55、出力軸19等が連動して回転し、その結果、図1に示すように、転舵輪11が操向される。したがって、車両の電源オフ時には、操舵部材2の位置と転舵輪11の向きとが常に一定の関係にあり、車両の電源オフ時に、操舵部材2の位置と転舵輪11の向きとにずれが生じることを防止できる。
【0051】
車両のイグニッションがオフの状態からオンの状態にされたとき、図3(B)に示すように、ソレノイド61(ソレノイド61の電磁石)には、第1電圧として、例えば、12(V)の電圧が印加されるようになっている。これにより、ロッド61aには、ロッド61aの軸方向に関して、電磁石による吸引力からばね61bの付勢力を減じた所定の変位力F1が作用し、ロック部材62は、第1位置P1から第2位置P2に向けて変位する。
【0052】
図3(C)に示すように、ロック部材62が第2位置P2に変位すると、ソレノイド61の電圧は、第1電圧よりも低い第2電圧、例えば8(V)にされる。これにより、ロッド61aには、ロッド61aの軸方向に関して変位力F1よりも小さい所定の保持力F2、すなわち、電磁石による吸引力からばね61bの付勢力を減じた所定の保持力F2が作用する。これにより、ロック部材62は、第2位置P2に位置している状態が維持される。
【0053】
図2を参照して、制御部37が主モードを設定しているとき(車両用操舵装置1が主モード状態にあるとき)には、ロック部材62が第2位置P2に位置していることによりキャリア57の回転が可能である。この状態で、上記のように、伝達比制御モータ14によって伝達比が制御され、且つ、反力補償モータ15によって操舵部材2に作用する操舵反力が制御される。
【0054】
一方、伝達比制御モータ14および反力補償モータ15の少なくとも一方が故障し、制御部37が当該モータの故障を検出すると、制御部37は、モータフェールモードを設定する。モータフェールモードが設定されることで、車両用操舵装置1がモータフェール状態になると、ロック機構25のソレノイド61への電力供給が遮断され、図2および図3(A)に示すように、ソレノイド61の電圧がゼロになる。これにより、ロック部材62は、ばね61bの付勢力によって、第1位置P1に変位して、リング部材60の溝60aに嵌まり、リング部材60を介してキャリア57の回転を規制する。
【0055】
このとき、ロック部材62は、リング部材60、キャリア57および伝達比制御モータ14のロータ14aの回転を規制する。これにより、遊星ギヤ56の公転が規制される。その結果、入力サンギヤ54と出力サンギヤ55との間の回転の伝達比が所定値(本実施形態において、1)に固定される。
モータフェールモードにおいて、伝達比制御モータ14による伝達比制御および反力補償モータ15による反力制御は停止されるけれども、このような緊急時の操舵を、操舵部材2から転舵機構9への機械的な動力伝達によるマニュアル操舵によって行わせることができる。モータフェールモードのとき、伝達比制御モータ14、反力補償モータ15およびソレノイド61への電力供給は遮断される。
【0056】
次に、車両用操舵装置1の主な制御の流れを説明する。
以下では、操舵制御部38による、ロック機構25の異常を判定する制御の流れを説明する。図4は、ロック機構25の異常を判定する制御の流れを説明するためのフローチャートである。図4に示す制御が行われている間、操舵制御部38は、適宜、センサ30〜33,36の検出値を読み込んでいる。図4に示すように、主モード時、操舵制御部38のロック部材位置検出部49は、ロック機構25のロック部材62が第1位置P1に位置しているか否かを判定する(ステップS1)。
【0057】
具体的には、伝達比制御部46が、伝達比制御モータ14を回転駆動させる制御信号を発したにも拘わらず、第1レゾルバ31の検出値angle_vgrが変化しないとき、ロック部材62が第1位置P1に位置していると判定される。伝達比制御部46が、伝達比制御モータ14を回転駆動させる制御信号を発したにも拘わらず、第1レゾルバ31の検出値angle_vgrが変化しないときは、ロック部材62が第1位置P1に位置しており、伝達比制御モータ14のロータ14aの回転が規制されているからである。
【0058】
なお、ロック部材62の位置を直接検出する位置センサ等の他の一般のセンサを設け、このセンサの検出値に基づいてロック部材62の位置が判定されてもよい。
ロック部材62が第1位置P1に位置していないとき(ステップS1でNO)、ロック部材62は第2位置P2に位置している。このとき、カウンタ51によるカウント値countがゼロに設定される(ステップS2)。ロック部材62が第2位置P2に位置しているときには、ソレノイド61が正常に動作しているので、ロック機構フェールモードは設定されない。
【0059】
一方、ロック部材62が第1位置P1に位置していると判定されたとき(ステップS1でYES)、操舵制御部38は、モータフェールモードが設定されているか否かを判定する(ステップS3)。モータフェールモードのとき、ソレノイド61への電力供給が遮断されているので、ロッド61aが第1位置P1に位置していることは正常である。したがって、モータフェールモードが設定されているとき(ステップS3でYES)、カウンタ51によるカウント値countがゼロに設定され(ステップS2)、ロック機構フェールモードは設定されない。
【0060】
一方、モータフェールモードが設定されていない場合(ステップS3でNO)、ロック部材62を第2位置P2に保持する制御が行われているにも拘わらず、ロック部材62が第1位置P1に位置していることになる。
この場合、ロック機構制御部37の制御により、ソレノイド61が励磁される(ステップS4)。具体的には、ロック部材62に変位力F1が作用し、ロック部材62が第1位置P1から第2位置P2に変位するように、ソレノイド61に第1電圧が印加される。
【0061】
次いで、カウント値countが1加算される(ステップS5)。カウント値countが所定値c1(例えば、10)未満である場合(ステップS6でNO)、ステップS1に戻り、ロック部材62が第1位置P1に位置したままであるか否かが判定される。
車両の走行時の振動に起因するロック部材62の偶発的な変位が原因によって、ロック部材62が第2位置P2から第1位置P1に変位した場合であれば、ロック部材62は、ステップS4でソレノイド61に第1電圧が印加されたことで、第1位置P1から第2位置P2に変位する。この場合、ステップS1で、ロック部材62が第1位置P1から第2位置P2に変位したことが判定され(ステップS1でNO)、ロック機構フェールモードは設定されない。
【0062】
一方、ステップS4でソレノイド61に第1電圧が印加されることにより、ロック部材62が第1位置P1から第2位置P2に変位するようにロック機構25が制御されても、ロック部材62が第1位置P1から変位しない場合、ステップS1,S3,S4,S5,S6が繰り返される。その結果、ロック部材62が第1位置P1にある状態でカウント値countが所定値c1に達すると(ステップS6でYES)、判定部50によって、ロック機構25に異常が生じていると判定され、操舵制御部38によって、ロック機構フェールモードが設定される(ステップS7)。
【0063】
ロック機構フェールモードが設定されると、伝達比制御モータ14、反力補償モータ15およびソレノイド61への電力供給が遮断される。また、警告ランプ44が点灯されるとともに、スピーカ45から警告音が発せられることで、フェールモードに移行したことが運転者に報知される。これにより、車両を整備工場に入庫させることを運転者に促すことができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によれば、ロック機構25に異常(故障)が生じている場合、第1位置P1にあるロック部材62を第2位置P2に変位するようにロック機構25が制御されても、ロック部材62は、第1位置P1から変位しない。この場合、判定部50は、ロック機構25に異常が生じていると判定する。
一方、車両の走行時の振動等に起因するロック部材62の偶発的な変位が原因によって、ロック部材62が第1位置P1に変位した場合、第1位置P1にあるロック部材62を第2位置P2に変位するようにロック機構25が制御されると、ロック部材62は、第1位置P1から第2位置P2に変位する。この場合、判定部50は、ロック機構25に異常が生じているとは判定しない。
【0065】
このように、判定部50は、ロック部材62が単に第1位置P1に変位したことによりロック機構25の異常を判定するのではない。したがって、ロック機構25に異常が生じておらず、ロック部材62の偶発的な変位によってロック部材62が第1位置P1にあるときに、ロック部材62が異常を生じていると誤判定されることを防止できる。したがって、ロック機構25の異常をより正確に判定することができる。その結果、誤判定に起因してユーザが車両を整備工場に持ち込むことを防止できるので、ユーザが車両を整備工場に持ち込む頻度を少なくできる。これにより、車両に対するユーザの満足度を高めることができる。また、ロック部材62の偶発的な変位によってロック部材62が第1位置P1にあるときに、ソレノイド61を再度励磁することで、ロック部材62を第1位置P1から第2位置P2に即座に復帰させることができる。
【0066】
また、ソレノイド61は、変位力F1でロック部材62を第1位置P1から第2位置P2に変位可能であり、且つ変位力F1よりも小さい保持力F2でロック部材62を第2位置P2に保持可能である。これにより、ロック部材62を小さい保持力F2で第2位置P2に保持しておくことができる。このため、ソレノイド61に供給する電力を少なくできるので、車両用操舵装置1の消費エネルギを少なくできる。また、ロック部材62を小さい保持力F2で保持する分、車両の走行時の振動等に起因してロック部材62が偶発的に第2位置P2から第1位置P1に変位(誤作動)し易くなるけれども、このような、ソレノイド61の駆動によって容易に回復可能な誤作動が生じても、ロック機構25に異常が生じていると判定されることを抑制できる。
【0067】
さらに、判定部50は、制御部37がロック部材62を第2位置P2に保持するようにロック機構25を制御しているにも拘わらずロック部材62が第1位置P1にあるときに(主モードが設定されているにも拘わらずロック部材62が第1位置P1にあるときに)、ロック機構25の異常の有無を判定する。
主モード時には、伝達比制御モータ14による伝達比の制御が行えるように、ロック部材62は、第2位置P2に配置される。このように、ロック部材62が第2位置P2に配置されるようにロック機構25が制御されている主モード時にも拘わらず、ロック部材62が第1位置P1に配置されている場合には、ロック機構25に異常が生じている可能性がある。ロック機構25に異常が生じている可能性のある場合に判定部50がロック機構25の異常を判定するので、ロック機構25の異常をより確実に判定することができる。
【0068】
一方、伝達比制御モータ14に異常が生じたこと等により、伝達比制御モータ14による伝達比の制御ができない場合には、モータフェールモードが設定される。これにより、ロック部材62は意図的に第1位置P1に配置される。このような場合には、ロック部材62が第1位置P1に位置されていることが正常であるので、ロック機構25の異常を判定する必要がない。したがって、ロック機構25の異常を判定する必要のあるときにのみ、ロック機構25の異常を判定することができる。
【0069】
また、ロック機構25は、キャリア57に一体回転可能に設けられたリング部材60を含み、リング部材60は、ロック部材62に係合可能な溝60aを外周に有している。このため、ロック部材62がリング部材60の溝60aに嵌まることで、キャリア57の回転が規制され、伝達比を機械的に固定することができる。
さらに、伝達比制御部46が伝達比制御モータ14を駆動させる信号を伝達比制御モータ14に出力している場合の第1レゾルバ31の検出値angle_vgrに変化がないときに、ロック部材62が第1位置P1に位置していると検出するようになっている。このため、ロック部材62の位置を検出するための専用のセンサが不要であり、車両用操舵装置1の製造コストを低減することができる。
【0070】
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、ロック部材62を支持する支持装置としてソレノイド61を例示したけれども、これに限定されない。支持装置は、ロック部材62を第1位置P1と第2位置P2とに変位可能に支持できるものであればよく、例えば、クラッチ機構等の他の一般の装置を用いて支持装置を構成してもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、ソレノイド61によるロック部材62の保持力F2と変位力F1とを異ならせる構成を説明したけれども、保持力F2と変位力F1とを等しくしてもよい。
さらに、上記実施形態では、ステアリングシャフト3の出力軸19から転舵機構9に操舵補助力を負荷するコラムアシストタイプの操舵補助機構12を説明したけれども、これに限定されない。例えば、ピニオン軸7やラック軸8から転舵機構9に操舵補助力を負荷する構成でもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…車両用操舵装置、2…操舵部材、9…転舵機構、13…伝達比可変機構、14…伝達比制御モータ、18…入力軸、19…出力軸、25…ロック機構、37…制御部、50…判定部、61…ソレノイド(支持装置)、62…ロック部材、49…ロック部材位置検出部(検出手段)、F1…変位力、F2…保持力、P1…第1位置、P2…第2位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操舵に応じて回転する入力軸と転舵機構の動作に連動して回転する出力軸との間に介在し、入力軸および出力軸間の伝達比を変更可能な伝達比可変機構と、
前記伝達比可変機構の前記伝達比を変更するための伝達比制御モータと、
前記伝達比可変機構に係合することにより前記伝達比を固定するためのロック部材、および前記ロック部材を前記伝達比可変機構に係合する第1位置と前記伝達比可変機構との係合が解除された第2位置とに変位可能に支持する支持装置を含むロック機構と、
前記ロック部材の位置を検出する検出手段と、
前記ロック機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ロック部材が前記第1位置にあるときに前記ロック機構の異常の有無を判定可能な判定部を含み、
前記判定部は、前記ロック部材を前記第2位置に変位するように前記ロック機構が制御された後、前記ロック部材が前記第1位置にあるときに、前記ロック機構に異常が生じていると判定することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、前記支持装置は、所定の変位力で前記ロック部材を前記第1位置から前記第2位置に変位可能であり、且つ前記所定の変位力よりも小さい所定の保持力で前記ロック部材を前記第2位置に保持可能であることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記判定部は、前記制御部が前記ロック部材を前記第2位置に保持するように前記ロック機構を制御しているにも拘わらず前記ロック部材が前記第1位置にあるときに、前記ロック機構の異常の有無を判定することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
操舵部材の操舵に応じて回転する入力軸と転舵機構の動作に連動して回転する出力軸との間に介在し、入力軸および出力軸間の伝達比を変更可能な伝達比可変機構と、
前記伝達比可変機構の前記伝達比を変更するための伝達比制御モータと、
前記伝達比可変機構に係合することにより前記伝達比を固定するためのロック部材、および前記ロック部材を前記伝達比可変機構に係合する第1位置と前記伝達比可変機構との係合が解除された第2位置とに変位可能に支持する支持装置を含むロック機構と、を備える車両用操舵装置の異常判定方法において、
前記第1位置にある前記ロック部材を前記第2位置に変位するように前記ロック機構が制御された後、前記ロック部材が前記第1位置にあるときに、前記ロック機構に異常が生じていると判定することを特徴とする車両用操舵装置の異常判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−230698(P2011−230698A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104011(P2010−104011)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】