説明

車両用操舵装置

【課題】転舵軸に負荷されるラジアル荷重の影響を受け難くでき、小型で耐久性に優れた車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】第1および第2の電動モータ21,22のロータ26の回転をボールねじ機構23によって、転舵軸6の軸方向X1の移動に変換する。ボールナットが、ボール34を介して、転舵軸6の一部に設けられたねじ軸31と螺合する。ロータコア27が、ボールナットを取り囲み、ボールナットと軸方向に同行移動する。ロータコア27とボールナットをオルダム継手38によってトルク伝達可能に連結する。ロータコア27とボールナットは、互いの間にラジアル隙間S1,S2を設けて対向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラック軸が挿通される中空シャフトを、傘歯車が設けられた第1シャフトと、ボールねじ機構が設けられた第2シャフトとで構成し、これら第1シャフトおよび第2シャフトの対向端部間をオルダム継手を介して揺動可能に連結した電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば特許文献1を参照)。特許文献1では、外部入力によって、ラック軸が撓んだときに、第2シャフトが揺動することで、その衝撃荷重がハウジングに伝達されることを防止する。
【0003】
また、ラック軸を取り囲む電動モータのモータロータと、ラック軸を取り囲むボールねじ機構のボールナットとの対向する端部に、軸方向に突出する突起を設け、これらの突起間に緩衝体の突起部を介在させた電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば特許文献2を参照)。特許文献2では、緩衝体はシリコン樹脂からなり、モータロータとボールナット間にトルクを伝達する。
【0004】
また、ラック軸を取り囲むボールナットが、電動モータのロータを構成するモータシャフト内に、軸方向移動および回動を規制されて揺動可能に装着されている電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば特許文献3を参照)。具体的には、ボールナットの外周の軸方向中央部に大径部が設けられ、その大径部がモータシャフトの内周に嵌合している。大径部の両側において、ボールナットの外周とモータシャフトの内周との間には、ボールナットの揺動を許容するための隙間が設けられている。また、ボールナットの軸方向の両端に設けられた球面ワッシャを、それぞれ対応する係合ワッシャの多数の係合突起で受けるようにし、それら係合突起は、ボールナットの揺動方向に弾性変形可能としている。ボールナットは、大径部を支点としてモータシャフト内で揺動する。
【0005】
また、タイヤからステアリング・ナックルを介してラックに伝達されるラジアル荷重とスラスト荷重を弾性体を介して伝達するステアリング制御装置が提案されている(例えば特許文献4を参照)。
また、アクスルビームを板材によって左右両端面と後面を開放した箱形に形成し、その中にステアリングシリンダを横並びに配置した、産業車両のリヤアクスルが提案されている(例えば特許文献5を参照)。具体的には、車輪を支持するホイールブラケットの上部に設けた縦軸が、アクスルビームの上下の板材によって、回転可能に支持されている。上記ステアリングシリンダのピストンロッドが、ホイールブラケットの縦軸に設けられたステアリングアームに、タイロッドを介して連結されている。
【0006】
また、ハンドルと転舵輪との機械的な連結が断たれたステアバイワイヤ式の操舵装置を備えるフォークリフトが提案されている(例えば特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−8425号公報(図1、第29段落)
【特許文献2】特開2008−307911号公報(図4、要約)
【特許文献3】特開2009−74623号公報(図3、要約)
【特許文献4】特公平3−56944号公報〔FIG.6(a)〜(c)、第14頁第28欄第9行〜第16頁第32欄第42行〕
【特許文献5】特開平11−1179号公報(図1、図2、第10段落)
【特許文献6】特開2005−263392号公報(図8〜図11、第63段落、要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2では、モータロータとボールナットが軸方向に並べて配置しているので、軸方向に大型化する。
特許文献3では、電動モータのロータとしての筒状のモータシャフト内で、ボールナットが揺動可能ではある。しかし、ボールナットの外周の軸方向中央部の大径部がモータシャフトの内周に嵌合しているため、モータシャフト内でボールナットの径方向移動を許容することができない。このため、ねじ軸の撓みに伴って、モータシャフトに多大なラジアル負荷が及ぼされるおそれがある。
【0009】
一方、産業車両や福祉車両においては、後輪を転舵するタイプの車両が多く、そのような車両では、所要の操舵角を確保するためには、転舵輪としての後輪を大きな転舵角で転舵する必要がある。このため、転舵軸が多大なラジアル負荷を受ける傾向にある。特に、ステアバイワイヤ式の車両では、転舵軸に設けられたボールねじ機構やこれを駆動するアクチュエータが多大なラジアル負荷を受けるおそれがあり、耐久性が問題となる。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、転舵軸に負荷されるラジアル荷重の影響を受け難くでき、小型で耐久性に優れた車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、筒状のハウジング(5)と、上記ハウジング内に挿通され軸方向に移動可能な転舵軸(6)と、上記転舵軸の一部に設けられたねじ軸(32)と、ボール(34)を介して上記ねじ軸と螺合するボールナット(33;330)と、上記ボールナットを取り囲み上記ボールナットと軸方向(X1)に同行移動可能なロータコア(27;270)を含む電動モータ(21,22)と、上記ロータコアと上記ボールナットを、上記ロータコアに対する上記ボールナットの径方向移動を許容する状態でトルク伝達可能に連結する連結機構(38;380)と、を備え、上記ロータコアは、上記ハウジングによって回転可能に且つ軸方向に移動不能に支持されている車両用操舵装置を提供する(請求項1)。
【0012】
本発明によれば、路面反力等で転舵軸にラジアル荷重が負荷されて、転舵軸(ねじ軸)が撓んだときに、その転舵軸の撓みに伴うボールナットの径方向移動を、ロータコアが拘束することを抑制できる。したがって、ロータコアの径方向の変形を抑制することができ、電動モータの耐久性を向上することができる。また、ボール嵌合部のラジアル負荷を低減することができるので、ねじ軸やボールナットを小型化することも可能となる。
【0013】
また、上記ロータコアおよび上記ボールナットは、互いの間にラジアル隙間(S1,S2;S1,S2,S3)を設けて径方向に対向する第1および第2の径方向対向部(33a,39b;40b,27b;53b,330a;54b,330a;55c,270b)をそれぞれ含む場合がある(請求項2)。この場合、ロータコアおよびボールナット間のラジアル隙間によって、ボールナットの径方向移動量を確保することができる。
【0014】
また、上記連結機構は、第1および第2の滑り対偶(42,43;56,57)を有するオルダム継手(38;380)を含む場合がある(請求項3)。この場合、簡単な構造で、ボールナットの径方向移動を許容しつつロータコアからボールナットにトルクを伝達することができる。
また、上記ロータコアの内周面(27b)に設けられた第1の環状凸部(39)と、上記ボールナットの外周面(33a)に設けられた第2の環状凸部(40)と、を備え、上記第1の環状凸部および上記第2の環状凸部は、互いの間に継手本体(41)を介して軸方向に対向し、上記第1の環状凸部および上記継手本体の互いに対向する端部(39a,41a)に、上記第1の滑り対偶が設けられ、上記第2の環状凸部および上記継手本体の互いに対向する端部(40a,41b)に、上記第2の滑り対偶が設けられている場合がある(請求項4)。この場合、ロータコアの内周面およびボールナットの外周面に、それぞれ、第1および第2の環状凸部を設けることにより、ボールナットとこれを取り囲むロータコアとの間に、オルダム継手を容易にレイアウトすることができる。
【0015】
また、上記ロータコアの内周面(270b)および上記ボールナット(330)の外周面(330a)の何れか一方に設けられた第3および第4の環状凸部(53,54)と、他方に設けられた第5の環状凸部(55)と、を備え、上記第3および第4の環状凸部は、互いの間に上記第5の環状凸部を介して軸方向に対向し、上記第3の環状凸部および上記第5の環状凸部の互いに対向する端部(53a,55a)に、上記第1の滑り対偶(56)が設けられ、上記第4の環状凸部および上記第5の環状凸部の互いに対向する端部(54a,55b)に、上記第2の滑り対偶(57)が設けられている場合がある(請求項5)。この場合、第3および第4の環状凸部間に、第5の環状凸部を介在させることにより、ボールナットとこれを取り囲むロータコアとの間に、オルダム継手を容易にレイアウトすることができる。
【0016】
また、少なくとも1つの環状凸部(39,40;53,54,55)の周面(33a,39b;40b,27b;53b,330a;54b,330a;55c,270b)と、対応するボールナットの外周面(33a;330a)またはロータコアの内周面(27b;270b)との間に、上記ラジアル隙間が設けられている場合がある(請求項6)。この場合、オルダム継手用の環状凸部が、ラジアル隙間を設ける機能を果たすので、構造の簡素化を図ることができる。
【0017】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】車両用操舵装置の要部(転舵軸を駆動する機構)の概略断面図である。
【図3】図2の拡大断面図である。
【図4】オルダム継手の一部破断分解斜視図である。
【図5】図3の部分拡大断面図である。
【図6】本発明の別の実施の形態に係る車両用操舵装置の要部の拡大断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施の形態に係る車両用操舵装置の要部の拡大断面図である。
【図8】図7の実施の形態のオルダム継手の概略断面図である。
【図9】図7の実施の形態のオルダム継手の別角度からの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施の形態の車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、本車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と転舵輪3との機械的な結合が解除された、いわゆるステアバイワイヤシステムを構成している。
操舵部材2の回転操作に応じて駆動される、例えばブラシレスの電動モータを含む転舵用アクチュエータ4の動作を、ハウジング5に支持された転舵軸6の車幅方向の直線運動に変換し、この転舵軸6の直線運動を舵取り用の左右の転舵輪3の転舵運動に変換することにより転舵が達成される。
【0020】
転舵用アクチュエータ4の駆動力(出力軸の回転力)は、転舵軸6に関連して設けられた運動変換機構(たとえば、ボールねじ機構)により、転舵軸6の軸方向X1(車幅方向)の直線運動に変換される。この転舵軸6の直線運動は、転舵軸6の両端から突出して設けられたタイロッド7に伝達され、ナックルアーム8の回動を引き起こす。これにより、ナックルアーム8に支持された転舵輪3の転舵が達成される。
【0021】
転舵軸6、タイロッド7およびナックルアーム8などにより、転舵輪3を転舵するための転舵機構50が構成されている。転舵軸6を支持するハウジング5は、図示しないブラケット等を介して車体に固定されている。
操舵部材2は、車体に対して回転可能に支持された回転シャフト9に連結されている。この回転シャフト9には、操舵部材2に操作反力を与えるための反力用アクチュエータ10が付設されている。反力用アクチュエータ10は、回転シャフト9と一体の出力シャフトを有するブラシレスモータ等の電動モータを含む。
【0022】
回転シャフト9の操作部材2とは反対側の端部には、例えば渦巻きばね等からなる弾性部材11が車体との間に結合されている。この弾性部材11は、反力用アクチュエータ10が操舵部材2にトルクを付加していないときに、その弾性力によって、操舵部材2を直進操舵位置に復帰させる。
操舵部材2の操作入力値を検出するために、回転シャフト9に関連して、操舵部材2の操舵角θh を検出するための操舵角センサ12が設けられている。また、回転シャフト9には、操舵部材2に加えられた操舵トルクTを検出するためのトルクセンサ13が設けられている。一方、転舵軸6に関連して、転舵輪3の転舵角δW (タイヤ角)を検出するための転舵角センサ14が設けられている。
【0023】
これらのセンサの他にも、車速Vを検出する車速センサ15と、車体の上下加速度GZ を検出する悪路状態検出センサとしての上下加速度センサ16と、車両の横加速度Gy を検出する横加速度センサ17と、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ18とが設けられている。
上記のセンサ類12〜18の各検出信号は、マイクロコンピュータを含む構成の電子制御ユニット(ECU)からなる車両制御手段としての制御装置19に入力されるようになっている。
【0024】
制御装置19は、操舵角センサ12によって検出された操舵角θh および車速センサ15によって検出された車速Vに基づいて、目標転舵角を設定し、この目標転舵角と転舵角センサ14によって検出された転舵角δW との偏差に基づいて、駆動回路20Aを介し、転舵用アクチュエータ4を駆動制御(転舵制御)する。
一方、制御装置19は、センサ類12〜18が出力する検出信号に基づいて、操舵部材2の操舵方向と逆方向の適当な反力が発生されるように、駆動回路20Bを介して、反力用アクチュエータ10を駆動制御(反力制御)する。
【0025】
図2を参照して、転舵軸6の途中部は、筒状のハウジング5内に挿入されている。ハウジング5の内周面5aとハウジング5内に挿入された転舵軸6との間に、転舵用アクチュエータ4を構成する第1および第2の電動モータ21,22と、これら電動モータ21,22の出力回転を転舵軸6の軸方向移動に変換する運動変換機構としてのボールねじ機構23とが配置されている。
【0026】
転舵用アクチュエータ4を構成する第1の電動モータ21および第2の電動モータ22は、ハウジング5内に、軸方向X1に並んで配置されている。第1の電動モータ21は、ハウジング5の内周面5aに固定された第1のステータ24を備えており、第2の電動モータ22は、ハウジング5の内周面5aに固定された第2のステータ25を備えている。第1の電動モータ21および第2の電動モータ22は、転舵軸6の周囲を取り囲む共通の筒状のロータ26を有している。
【0027】
ロータ26は、転舵軸6の周囲を取り囲む筒状のロータコア27と、ロータコア27の外周面27aに同伴回転可能に嵌合された第1および第2の永久磁石28,29とを有している。第1の永久磁石28および第2の永久磁石29は、軸方向X1に並んで配置されている。第1の永久磁石28は第1のステータ24に対向し、第2の永久磁石29は第2のステータ25に対向している。
【0028】
ハウジング5は、第1および第2の軸受30,31を介して、ロータ26の軸方向の両端部を回転可能に支持している。具体的には、ロータコア27は軸方向に関して第1および第2の端部271,272を有している。ハウジング5は、第1の軸受30を介して、ロータコア27の第1の端部271を回転可能に支持している。また、ハウジング5は、第2の軸受31を介して、ロータコア27の第2の端部272を回転可能に支持している。第1の軸受30および第2の軸受31の各外輪は、ハウジング5に対する軸方向移動が規制され、また、第1の軸受30および第2の軸受31の各内輪は、ロータコア27に対する軸方向移動が規制されている。これにより、ハウジング5に対するロータコア27の軸方向移動が規制されている。
【0029】
ボールねじ機構23は、転舵軸6の一部に形成されたねじ軸32と、ねじ軸32の周囲を取り囲み、上記ロータコア27と同伴回転するボールナット33と、列をなす多数のボール34とを備えている。上記ボール34は、ボールナット33の内周に形成された螺旋状のねじ溝35(雌ねじ溝)と、ねじ軸32の外周に形成されたらせん状のねじ溝36(雄ねじ溝)との間に介在している。
【0030】
ボールナット33は、ロータコア27の径方向内方に配置されている。具体的には、ロータコア27の内周面27bに形成された凹部37に、ボールナット33の一部が収容されている。ロータコア27およびボールナット33は、ロータコア27の径方向内方に配置された連結機構としてのオルダム継手38を介して、トルク伝達可能に連結されている。
【0031】
図2の拡大図である図3に示すように、ロータコア27とボールナット33との間には、ロータコア27に対するボールナット33の径方向を移動を許容するために第1および第2のラジアル隙間S1,S2が設けられている。
また、ボールナット33の軸方向の第1および第2の端部331,332が、それぞれ、凹部37の第1および第2の内壁面371,372に当接している。これにより、ロータコア27に対するボールナット33の軸方向移動が規制されている。一方、前述したように、ハウジング5に対するロータコア27の軸方向移動が第1および第2の軸受30,31を介して規制されている。したがって、ハウジング5に対するボールナット33の軸方向移動が規制されることになる。
【0032】
ロータコア27の内周面27bに、第1の環状凸部39が設けられ、ボールナット33の外周面33aに、第2の環状凸部40が設けられている。第1の環状凸部39および第2の環状凸部40は、軸方向X1に対向しており、第1の環状凸部39および第2の環状凸部40の間には、オルダム継手38の環状の継手本体41が介在している。継手本体41は、径方向に関して、ロータコア27とボールナット33との間に配置されている。
【0033】
図4に示すように、オルダム継手38は、第1の滑り対偶42および第2の滑り対偶43を有している。第1の滑り対偶42の第1のスライド方向Y1と、第2の滑り対偶43の第2のスライド方向Y2とは、直交している。第1の環状凸部39および継手本体41の互いに対向する端部39a,41aに、上記第1の滑り対偶42が設けられている。また、第2の環状凸部40および継手本体41の互いに対向する対向する端部40a,41bに、第2の滑り対偶43が設けられている。
【0034】
継手本体41の端部41aに、第1のスライド方向Y1に沿って延びる一対の第1のスライド溝44が形成されている。また、第1の環状凸部39の端部39aに、一対の第1のスライド溝44にそれぞれ嵌合する一対のスライダとしての第1のスライド突起45が形成されている。
一方、継手本体41の端部41bに、第2のスライド方向Y1に沿って延びる一対の第2のスライド溝46が形成されている。また、第2の環状凸部40の端部40aに、一対のスライド溝46にそれぞれ嵌合する一対のスライダとしての第2のスライド突起47が形成されている。
【0035】
また、拡大図である図5に示すように、ボールナット33の外周面33a(第1の径方向対向部に相当)とロータコア27の第1の環状凸部39の内周面39b(第2の径方向対向部に相当)との間に、第1のラジアル隙間S1が形成されている。同じく、ボールナット33の第2の環状凸部40の外周面40b(第2の径方向対向部に相当)とロータコア27の内周面27b(より具体的には、内周面27bの凹部37の底であり、第1の径方向対向部に相当)との間に、第2のラジアル隙間S2が形成されている。
【0036】
本実施の形態によれば、路面反力等で転舵軸6にラジアル荷重が負荷されて、転舵軸6およびその一部であるねじ軸32が撓んだときに、そのねじ軸32の撓みに伴うボールナット33の径方向移動を、ロータコア27が拘束することを抑制できる。したがって、ロータコア27の径方向の変形を抑制することができ、各電動モータ21,22の耐久性を向上することができる。また、ボール嵌合部のラジアル負荷を低減することができるので、ねじ軸32やボールナット33を小型化することも可能となる。
【0037】
具体的には、ロータコア27およびボールナット33が、互いの間に第1および第2のラジアル隙間S1,S2を設けて径方向に対向しているので、これらのラジアル隙間S1,S2によって、ボールナット33の径方向移動量を確保することができる。
ロータコア27とボールナット33間にトルクを伝達する連結機構として、第1の滑り対偶42および第2の滑り対偶43を有するオルダム継手38を用いているので、簡単な構造で、ボールナット33の径方向移動を許容しつつロータコア27からボールナット33にトルクを伝達することができる。
【0038】
また、ロータコア27の内周面27bに設けられた第1の環状凸部39と、ボールナット33の外周面33aに設けられた第2の環状凸部40との間に、オルダム継手38の継手本体41を介在させ、第1の環状凸部39および継手本体41の互いに対向する端部39a,41aに、第1の滑り対偶42を設け、第2の環状凸部40および継手本体41の互いに対向する端部40a,41bに、第2の滑り対偶43を設けた。したがって、ボールナット33とこれを取り囲むロータコア27の間に、オルダム継手38を容易にレイアウトすることができる。
【0039】
しかも、オルダム継手38のための第1の環状凸部39および第2の環状凸部40が、第1および第2のラジアル隙間S1,S2を設ける機能を果たすので、構造の簡素化を図ることができる。
図6は本発明の別の実施の形態を示している。図6を参照して、ロータコア27の凹部37の第1の内壁面371に保持された環状のすべり軸受48が、ボールナット33の第1の端部331に摺動するようにされている。また、ロータコア27の凹部37の第2の内壁面372に保持された環状のすべり軸受49が、ボールナット33の第2の端部332に摺動するようにされている。
【0040】
ただし、ボールナット33の第1の端部331に保持されたすべり軸受が、ロータコア27の凹部37の第1の内壁面371に摺動するものであってもよい。また、ボールナット33の第2の端部332に保持されたすべり軸受が、ロータコア27の凹部37の第2の内壁面372に摺動するものであってもよい。
すべり軸受48,49としては、低摩擦部材を含む環状板であってもよいし、低摩擦部材の被覆層であってもよい。低摩擦部材として、例えばPTFEを用いることができる。また、低摩擦部材として、銅を含む金属を用いてもよい。
【0041】
本実施の形態では、ロータコア27に対してボールナット33をスムーズに径方向移動させることができる。したがって、ロータコア27にかかるラジアル負荷をより低減することができる。
次いで、図7は本発明のさらに別の実施の形態を示している。図7を参照して、ロータコア270の内周面270bに、第3の環状凸部53および第4の環状凸部54が、軸方向X1に対向するように設けられている。また、ボールナット330の外周330aに、第5の環状凸部55が設けられている。第5の環状凸部55は、軸方向X1に関して、第3の環状凸部53と第4の環状凸部54との間に配置されている。
【0042】
第3、第4および第5の環状凸部53〜55によって、連結機構としてのオルダム継手380が構成されている。具体的には、第3の環状凸部53および第5の環状凸部55の互いに対向する端部に、第1の滑り対偶56が設けられている。また、第4の環状凸部54および第5の環状凸部55の互いに対向する端部に、第2の滑り対偶57が設けられている。
【0043】
第3の環状凸部53は、ロータコア270の内周面270bに同伴回転可能に嵌合された環状部材により構成されている。ロータコア270の内周面270bに設けられた環状溝に、止め輪58が嵌合されており、その止め輪58によって、第3の環状凸部53の軸方向移動が規制されている。ロータコア270に対する軸方向移動が規制された第3の環状凸部53および第4の環状凸部54の間に、ボールナット330に対する軸方向移動が規制された第5の環状凸部55が、軸方向X1に挟持されることにより、ロータコア270に対するボールナット330の軸方向移動が規制されている。すなわち、ロータコア270とボールナット330とは、軸方向X1に一体移動する。
【0044】
第4の環状凸部54は、ロータコア270と単一の材料で一体に形成されている。また、第5の環状凸部55は、ボールナット330と単一の材料で一体に形成されている。
図7において、第1の滑り対偶56および第2の滑り対偶57は、簡略化して示してある。具体的には、図8に示すように、第1の滑り対偶56は、第3の環状凸部53の端部53aおよび第5の環状凸部55の端部55aの何れか一方(例えば端部53a)に設けられた第1のスライド溝59と、他方(例えば端部55a)に設けられた第1のスライド突起60とにより構成されている。
【0045】
また、図9に示すように、第2の滑り対偶57は、第4の環状凸部54の端部54aおよび第5の環状凸部55の端部55bの何れか一方(例えば端部54a)に設けられた第1のスライド溝61と、他方(例えば端部55b)に設けられた第1のスライド突起62とにより構成されている。
本実施の形態によれば、路面反力等で転舵軸6にラジアル荷重が負荷されて、転舵軸6およびその一部であるねじ軸32が撓んだときに、そのねじ軸32の撓みに伴うボールナット330の径方向移動を、ロータコア270が拘束することを抑制できる。したがって、ロータコア270の径方向の変形を抑制することができ、各電動モータ21,22の耐久性を向上することができる。また、ボール嵌合部のラジアル負荷を低減することができるので、ねじ軸32やボールナット330を小型化することも可能となる。
【0046】
具体的には、ロータコア270およびボールナット330が、互いの間に所定のラジアル隙間S1,S2,S3を設けて径方向に対向しているので、これらのラジアル隙間S1,S2,S3によって、ボールナット330の径方向移動量を確保することができる。
ロータコア270とボールナット330間にトルクを伝達する連結機構として、第1の滑り対偶56および第2の滑り対偶57を有するオルダム継手380を用いているので、簡単な構造で、ボールナット330の径方向移動を許容しつつロータコア270からボールナット330にトルクを伝達することができる。
【0047】
また、第3の環状凸部53および第4の環状凸部54間に、第5の環状凸部55を介在させることにより、ボールナット330とこれを取り囲むロータコア270との間に、オルダム継手380を容易にレイアウトすることができる。
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0048】
1…車両用操舵装置、2…操舵部材、3…転舵輪、4…転舵用アクチュエータ、5…ハウジング、6…転舵軸、7…タイロッド、21…第1の電動モータ、22…第2の電動モータ、23…ボールねじ機構、24…第1のステータ、25…第2のステータ、26…ロータ、27,270…ロータコア、27a…(ロータコアの)外周面、27b,270b…(ロータコアの)内周面(径方向対向部)、271…第1の端部、272…第2の端部、28…第1の永久磁石、29…第2の永久磁石、30…第1の軸受、31…第2の軸受、32…ねじ軸、33,330…ボールナット、33a,330a…(ボールナットの)外周面(径方向対向部)、34…ボール、35…(ボールナットの)ねじ溝、36…(ねじ軸の)ねじ溝、37…凹部、38,380…オルダム継手(連結機構)、39…第1の環状凸部、39a…(第1の環状凸部の)端部、39b…(第1の環状凸部の)内周面(径方向対向部)、40…第2の環状凸部、40a…(第2の環状凸部の)端部、40b…(第2の環状凸部の)外周面(径方向対向部)、41…継手本体、41a,41b…(継手本体の)端部、42…第1の滑り対偶、43…第2の滑り対偶、44…第1のスライド溝、45…第1のスライド突起、46…第2のスライド溝、47…第2のスライド突起、53…第3の環状凸部、53a…(第3の環状凸部の)端部、53b…(第3の環状凸部の)内周面(径方向対向部)、54…第4の環状凸部、54a…(第4の環状凸部の)端部、54b…(第4の環状凸部の)内周面(径方向対向部)、55…第5の環状凸部、55a,55b…(第5の環状凸部の)端部、55c…(第5の環状凸部の)外周面(径方向対向部)、56…第1の滑り対偶、57…第2の滑り対偶、59…第1のスライド溝、60…第1のスライド突起、61…第2のスライド溝、62…第2のスライド突起、X1…軸方向、S1…第1のラジアル隙間、S2…第2のラジアル隙間、S3…第3のラジアル隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジングと、
上記ハウジング内に挿通され軸方向に移動可能な転舵軸と、
上記転舵軸の一部に設けられたねじ軸と、
ボールを介して上記ねじ軸と螺合するボールナットと、
上記ボールナットを取り囲み上記ボールナットと軸方向に同行移動可能なロータコアを含む電動モータと、
上記ロータコアと上記ボールナットを、上記ロータコアに対する上記ボールナットの径方向移動を許容する状態でトルク伝達可能に連結する連結機構と、を備え、
上記ロータコアは、上記ハウジングによって回転可能に且つ軸方向に移動不能に支持されている車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、上記ロータコアおよび上記ボールナットは、互いの間にラジアル隙間を設けて径方向に対向する第1および第2の径方向対向部をそれぞれ含む車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2において、上記連結機構は、第1および第2の滑り対偶を有するオルダム継手を含む車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項3において、上記ロータコアの内周面に設けられた第1の環状凸部と、上記ボールナットの外周面に設けられた第2の環状凸部と、を備え、
上記第1の環状凸部および上記第2の環状凸部は、互いの間に継手本体を介して軸方向に対向し、
上記第1の環状凸部および上記継手本体の互いに対向する端部に、上記第1の滑り対偶が設けられ、
上記第2の環状凸部および上記継手本体の互いに対向する端部に、上記第2の滑り対偶が設けられている車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項3において、上記ロータコアの内周面および上記ボールナットの外周面の何れか一方に設けられた第3および第4の環状凸部と、他方に設けられた第5の環状凸部と、を備え、
上記第3および第4の環状凸部は、互いの間に上記第5の環状凸部を介して軸方向に対向し、
上記第3の環状凸部および上記第5の環状凸部の互いに対向する端部に、上記第1の滑り対偶が設けられ、
上記第4の環状凸部および上記第5の環状凸部の互いに対向する端部に、上記第2の滑り対偶が設けられている車両用操舵装置。
【請求項6】
請求項3から5の何れか1項において、少なくとも1つの環状凸部の周面と、対応するボールナットの外周面またはロータコアの内周面との間に、上記ラジアル隙間が設けられている車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−6515(P2012−6515A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145118(P2010−145118)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】