説明

車両用樹脂外板およびその製造方法

【課題】部品数を増やすことなく、温度変化に伴う寸法安定性を維持するとともに、車両外側の意匠面の面品質を損なうことのない車両用樹脂外板を提供する。
【解決手段】車両用樹脂外板としてのフェンダパネル20Aは、車両1Aの外面2を構成する外側壁部21と、外側壁部21の周りに配置されたフードパネルとの見切り線23から車両内側に屈曲した内側壁部25Aと、が一体成形されている。フェンダパネル20Aの内側壁部25Aは、外側壁部21に比べて線膨張係数が低い低線膨張材を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の外側の意匠面を含む外板およびその製造方法に係り、特に、樹脂材料を主材とした車両の使用に好適な樹脂外板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の外面(意匠面)を含む外板には、加工性に優れ、所望の剛性を得ることができることから、鉄またはアルミニウムなどの金属材が使用されている。しかしながら、近年、車両の燃費を向上させるため、金属材よりも軽量である材料として、樹脂材の使用が注目されている。
【0003】
例えば、図8に示すように、車両1の前方及び後方のバンパ61,62には、既に樹脂材が適用されており、フェンダパネル20やドアアウタパネル30などの外板にも適用され始め、車両の軽量化が図られている。
【0004】
しかしながら、樹脂材を部分的に適用した場合には、以下に示す課題があった。例えば、ドアアウタパネル30およびフードパネル40に鉄などの金属材を用い、フェンダパネル20に樹脂材を用いた場合、鉄の線膨張係数が1.0×10−5/℃程度(例えば、アルミニウム:2.35×10−5/℃)であるのに対して、樹脂材の線膨張係数は6.0〜12.0×10−5/℃程度であるため、これらパネル30,40に比べて、フェンダパネル20の方が、熱膨張により寸法変形しやすい。
【0005】
これにより、同一エッジライン上となるように設計し取付けられたフェンダパネル20が、外気温度が高くなる環境に晒されると、熱膨張により寸法変形し、フェンダパネル20の周りに配置される車両部品、例えば、フードパネル40やドアアウタパネル30との境界部において、隙間や段差の変化が発生することがある(例えば、フェンダパネル20のエッジライン29と、フードパネル40のエッジライン49とのずれ・段差、フェンダパネル20とドアアウタパネル30とのパネル間の隙間C1の変化等)。これらの結果、樹脂材を部分的に適用した場合には、車両1の美観を損なう場合がある。
【0006】
このような点を鑑みて、例えば、図9(図8のA−A矢視断面図)に示すフェンダパネル20の取付け構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、図9に示すように、樹脂製のフェンダパネル20は、車両1の外面2を構成する外側壁部21と、フードパネル40との見切り線23から車両内側に屈曲したL字状断面の内側壁部25とが一体成形されている。内側壁部25には、エプロンメンバ60に取付けるための取付け穴27が形成されている。
【0007】
このフェンダパネル20を取り付ける際には、まず、フェンダパネル20をエプロンメンバ60に挟み込むように、見切り線23に沿った方向に延在した長尺状の金属製リテーナ78を配置する。次に、段付ボルト71を、リテーナ78側からワッシャ73を介して貫通させ、エプロンメンバ側のナット75で締め込む。
【0008】
これにより、フェンダパネル20を、エプロンメンバ60に固定することができる。さらに、フェンダパネル20の内側壁部25の一部を、リテーナ78とエプロンメンバ60との間に挟持したので、内側壁部25の一部は、リテーナ78によって押さえ込まれ、これまでに比べより強固に拘束される。この拘束により、見切り線23に沿った前方方向へのフェンダパネル20の膨出、およびパネル間の隙間の変動を抑制し、フェンダパネル20の寸法安定性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−297384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に示す構造とした場合、取り付けの際に、リテーナ78を新たに製作しなければならず、組み付け時の部品数も増加し、組み付け作業も煩雑なものとなる。さらに、段付ボルト71の締結力に応じて、フェンダパネル20の拘束力も変化するため、例えば、車両走行時の振動による緩みが生じた場合には、その拘束力が低下する。これにより、フェンダパネル20の寸法安定性が損なわれるおそれがある。
【0011】
そこで、このような点を鑑みると、外板に、金属材の線膨張係数により近い繊維強化樹脂材を適用すれば、部品数を増やすことなく、このような問題点は解決される。しかしながら、繊維強化樹脂材のみを用いて外板を成形した場合、図10(a)に示すように、成形直後は、外板の外面81は平滑な面として成形されるが、その後成形時の熱が放熱され、強化繊維82に比べて、相対的にマトリクス樹脂85の方がより大きく収縮する(いわゆるヒケが発生する)。この結果、図10(b)に示すように、外面81が凹凸面となり、この凹凸面を車両の外面(意匠面)に用いた場合、塗装後の外面光沢にムラが発生する等、車両の面品質を損なうおそれがある。
【0012】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、部品数を増やすことなく、温度変化に伴う寸法安定性を維持するとともに、車両外側の意匠面の面品質を損なうことのない車両用樹脂外板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決すべく、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、外部から強制的に樹脂外板を拘束するのではなく、樹脂外板のうち意匠面を構成しない部分の線膨張係数を、他(意匠面を構成する部分)に比べて低くすることによって、意匠面の面品質を金属外板と同等のものとし、さらには、外気温度が高くなる環境下においても寸法安定性を確保することができるとの新たな知見を得た。
【0014】
本発明は、前記新たな知見に基づくものであり、本発明に係る車両用樹脂外板は、車両の外面を構成する外側壁部と、該外側壁部の周りに配置された車両部品との見切り線から車両内側に屈曲した内側壁部と、が一体成形された車両用樹脂外板であって、前記内側壁部は、前記外側壁部に比べて、線膨張係数が低い低線膨張材を含むことを特徴とするものである。
【0015】
本発明によれば、車両内側に屈曲した内側壁部に低線膨張材を含むので、外気温度が高くなる環境下において、内側壁部の膨張(伸び)は、外側壁部の膨張(伸び)に比べて小さい。この結果、内側壁部が、外側壁部の伸びを相対的に拘束することになる。このように、車両組み込み時に新たな部材を用いて拘束することなく、樹脂外板のみで、熱変化における寸法安定性を確保することができる。また、外側壁部は、樹脂のみから構成することができるので、面品質をこれまでどおり維持することが可能となる。
【0016】
さらに、外側壁部は、車両の形状に合わせて車両外側に膨らむように湾曲しており、内側壁部は、外側壁部の周部(見切り線から内側の部分)の少なくとも一部を囲繞することになる。これにより、外側壁部の伸び分は、外側壁部がさらに湾曲する(車両外側に膨らむ)ことにより吸収されることになる。これにより、組み付け後の熱変化による外板間の伸びのずれは抑制される。さらに、湾曲の増加は、車両の見栄えに影響を与えにくい。
【0017】
このようにして、樹脂外板よりも低い線膨張係数である金属製の車両部品(例えばパネル)がその周辺に存在しても、線膨張差が少なくなる分、これら部品との見切り部における変形(スキ、段差)が抑制され、車両の美観を維持することができる。
【0018】
なお、本発明でいう「車両内側」とは、車両外部(車外)に対して内側のことをいい、これに対して「車両外側」とは、車両内部(車内)に対して外側のことをいう。また、本発明でいう低線膨張材とは、外側壁部を構成する材料(樹脂)の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有した材料であり、その膨張の方向性は、等方性、または異方性いずれであってもよく、特に限定されるものではないが、より好ましくは、内側壁部の低線膨張材は、少なくとも見切り線に沿った方向の線膨張係数が、内側壁部の他の方向の線膨張係数に比べてより低くなっていることが好ましい。特に、見切り線に沿った方向の樹脂材の伸びは、車両の美観に影響しやすく、この方向の線膨張係数をより低くすることにより、この方向の伸びを抑制する。
【0019】
低線膨張材としては、上述した線膨張係数の関係を満たすものであれば特に限定されるものではない。例えば、鉄、アルミニウム等の金属材を樹脂で被覆した複合材、炭素やガラス等の繊維に樹脂材を含浸した複合材、マイカ、クレー、及び/又はガラスなどの粒子を樹脂材に含有させた複合材などを挙げることができる。しかしながら、より好ましくは、本発明に係る車両用樹脂外板の前記低線膨張材は、繊維強化樹脂材である。
【0020】
本発明によれば繊維強化樹脂材とすることにより、内側壁部は、金属材を用いた場合と同程度の線膨張係数を得ることができる。さらに、外側壁部を樹脂のみで構成し、内側壁部をこの樹脂の樹脂と同じ種類のマトリクス樹脂を含む繊維強化樹脂材とすることができる。外側壁部と内側壁部との接合性を高めることができる。
【0021】
本発明でいう「繊維強化樹脂材」とは、強化繊維と、この強化繊維に含浸されたマトリクス樹脂と、からなる複合材であり型で成形でき、強化繊維と合わせて所定の強度を保つことができるのであれば、特にその種類は限定されるものではない。
【0022】
本発明にいう「強化繊維」とは、複合材の機械的強度を強化するための樹脂強化用の繊維をいい、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、又は高強度ポリエチレン繊維などの繊維が挙げられ、短繊維、長繊維、布状繊維いずれであってもよい。また、布状繊維の場合には、織布、不織布いずれであってもよく、織布である場合には、その織り方としては、平織、綾織、朱子織などの織組織いずれであってもよい。なお、後述する射出成形を行う場合には、短繊維又は長繊維の繊維強化樹脂材を用いることができる。
【0023】
マトリクス樹脂は、繊維強化樹脂材用に用いられる熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂としては、結晶性熱可塑性樹脂や非結晶性熱可塑性樹脂を使用でき、例えば、ナイロン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、またはABS系樹脂等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、例えばビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、繊維強化樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂等を挙げることができる。射出成形するには、熱可塑性樹脂がより好ましい。なお、本発明にいう「同じ種類の樹脂」とは、上記に例示した樹脂の系が同じ樹脂のことをいう。
【0024】
さらに、低線膨張材が繊維強化樹脂材である場合には、これに含有する強化繊維が、少なくとも、前記見切り線に沿った方向に配向されていることがより好ましい。本発明によれば、強化繊維が、見切り線に沿った方向に配向されているので、見切り線に沿った方向の外板の膨張を確実に抑えることができる。ここで、本発明にいう強化繊維が「見切り線に沿った方向に配向されている」とは、見切り線に沿った方向と、繊維の長さ方向とが略一致することをいう。
【0025】
さらに、本発明に係る車両用樹脂外板は、前記内側壁部に、前記車両本体に直接的または間接的に取り付けるために、前記見切り線に沿った方向に形成された取付け部を有する。本発明によれば、見切り線に沿った方向に取り付け部を有することにより、より確実に見切り線に沿った方向の外板の膨張を抑えることができる。また、低線膨張材が繊維強化樹脂材からなる場合には、取り付け部の表面は、前述した図10(b)に示すような凹凸面(粗い表面)となるので、これにより車両本体(車体)の取付け表面に対して、アンカー効果を期待することができ、外板を車体により強固に拘束することができる。
【0026】
さらに、本願では、本発明として上述した車両用樹脂外板を製造するに好適な製造方法をも開示する。本発明に係る車両用樹脂外板の製造方法は、車両の外面を構成する外側壁部と、該外側壁部の周りに配置された部品との見切り線から車両内側に屈曲した内側壁部と、を一体成形する車両用樹脂外板の製造方法であって、該製造方法は、一対の成形型内に第一の樹脂材を射出することにより、前記外側壁部に相当する外側壁部材を成形する第一の成形工程と、前記外側壁部材を前記成形型の一方の型に保持した状態で、前記成形型を型開きする型開き工程と、前記外側壁部材を保持した型と、前記内側壁部に対応するキャビティが形成された第二成形型とを型締めし、該型締めした成形型内に、前記第一の樹脂材よりも線膨張係数の低い第二の樹脂材を射出することにより、前記外側壁部材に前記内側壁部を一体成形する第二の成形工程と、を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明によれば、第一の成形工程において、車両用樹脂外板の外側壁部に相当する外側壁部材を成形し、その後連続して、第一の樹脂材よりも線膨張係数の低い低線膨張材からなる内側壁部を外側壁部材に一体成形することができる。この際に、成形型の他方の型(外側壁部材を保持していない型)と、第二成形型とを同じ成形型で構成すれば、より迅速に、かつより簡単に樹脂外板を製造することができる。
【0028】
また、前記第二の成形工程において、内側壁部として、外側壁部に比べて線膨張係数が低い低線膨張材を成形することができるのであれば、特にその材料及び成形方法は、限定されるものではない。例えば、第一の樹脂材に樹脂のみを用い、第二の樹脂材に、(1)鉄、アルミニウム等の金属材を含有した樹脂材、(2)炭素繊維、炭素繊維、無機繊維、及び/又は天然繊維の強化繊維を含有した樹脂材、または(3)マイカ、クレー、及び/又はガラスなどの粒子を含有した樹脂材などを用いることが好ましい。樹脂材を構成する樹脂は、上述した射出することができる熱可塑性樹脂が好ましい。そして、これらの中でも、より好ましくは、第二の樹脂材に、強化繊維を含む樹脂材を用い、さらにより好ましくは第二の成形工程において、第二の樹脂材に含有する強化繊維が見切り線に沿って流れるように、前記第二の樹脂材を射出する。
【0029】
このようにして、低線膨張材である繊維強化樹脂材の強化繊維を、少なくとも、前記見切り線に沿った方向に配向させることができ、見切り線に沿った方向の外板の膨張を確実に抑えることができる。これは、成形型の型形状、成形型の第二の樹脂材の導入口及び排出口の配置を設定することにより達成することができる。
【0030】
さらに、車両用樹脂外板を車両の本体に、ボルト等の締結部材により取付ける場合には、車両用樹脂外板の内側壁部に取付け穴を設ける必要があり、この取付け穴を設けることができるのであれば、第二成形工程時、またはその後、いずれのタイミングであってもよいが、より好ましくは、前記第二の成形工程後、前記内側壁部に取り付け穴加工を行う。
【0031】
本発明によれば、第二の工程において、第二の樹脂材に含有する強化繊維が見切り線に沿って流れるように、前記第二の樹脂材を射出して、内側壁部を成形した後、取り付け穴加工を行うので、第二の樹脂材の射出時の樹脂流れを安定させ、好適に、低線膨張材である繊維強化樹脂材の強化繊維を見切り線に沿った方向に配向させることができる。
【0032】
また、上述したように、前記第一の樹脂材の樹脂と、前記第二の樹脂材の樹脂は、同じ種類の樹脂であることがより好ましく、これにより、一体成形された外側壁部と内側壁部との接合強度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、部品数を増やすことなく、温度変化に伴う寸法安定性を維持するとともに、車両外側の意匠面の面品質を損なうことのない車両用樹脂外板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る第一実施形態の車両用樹脂外板をフェンダパネルに適用した場合の一例を説明するための図であり、フードパネル側の取付け状態を表した要部斜視図。
【図2】図1及び図8のA−A線に沿った矢視断面図。
【図3】本発明に係る第二実施形態の車両用樹脂外板をフェンダパネルに適用した場合の一例を説明する図であり、ドアアウタパネル側の取付け状態を表した要部斜視図。
【図4】図3及び図8のB−B線に沿った矢視断面図。
【図5】本発明に係る第三実施形態の車両用樹脂外板をドアアウタパネルに適用した場合の一例を説明する図であり、図8のC−C線に沿った矢視断面図。
【図6】本発明(製造方法)の実施形態に係る車両用樹脂外板の製造方法を説明するための図であり、(a)は、製造方法に用いる成形型の構造を説明するための模式的斜視図、(b)は、(a)のD−D線に沿った矢視断面図であり、第一の成形工程を説明するための図、(c)は、型開き工程を説明するための図であり、(d)は、第二の成形工程を説明するための図。
【図7】図6(c)に示す第二の成形工程における樹脂流れを説明するための図。
【図8】従来及び本発明に係る車両を説明するための模式的斜視図。
【図9】従来における図8のA−A線に沿った矢視断面図。
【図10】繊維強化樹脂材の成形時における表面状態を説明するための模式的断面図であり、(a)は、成形直後の繊維強化樹脂材の断面図、(b)は、成形後(放熱後)の繊維強化樹脂材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、いくつかの実施の形態に基づき本発明を説明する。図1は、本発明に係る第一実施形態の車両用樹脂外板をフェンダパネル20Aに適用した場合の一例を説明するための図であり、フードパネル40側の取付け状態を表した要部斜視図であり、図2は、図1及び図8のA−A線に沿った矢視断面図である。
【0036】
なお、以下の第一及び第二実施形態に係る車両は、フェンダパネルの内側壁部の材質、及びフェンダパネルの取付け構造が異なることを除いて、例えば図8及び9に基づき一例を説明した車両と同様であってよい。従って、同じ部材には同じ符号を付すことにより、車両の詳細な説明は省略する。
【0037】
図1及び図8に示すように、本実施形態に係る車両1Aのフェンダパネル20Aは、樹脂製の車両用外板であって、少なくとも、外側壁部21と、内側壁部25Aとを少なくとも備えている。外側壁部21は、ポリプロピレン系樹脂からなり、車両1Aの外側に膨らむように湾曲している。また、外側壁部21の膨らんだ外面2は、車両1Aの外側から視認できる意匠面(車両の外面)となっており、その外面には、防錆及び美観を高めるための塗装がなされている。
【0038】
一方、内側壁部25Aは、外側壁部21の周りに(隣に)配置されたフードパネル40(車両部品)との見切り線23から、車両内側にL字状になるように屈曲している。具体的には、内側壁部25Aには、見切り線23から垂下した縦壁部26Aと、この縦壁部26Aからさらに水平方向に延出した取付け部26Bが形成されている。取付け部26Bには、見切り線23に沿った方向LAに、複数(図1では4個)の取付け穴27が形成されている。
【0039】
本実施形態では、内側壁部25Aの縦壁部26Aと取り付け部26Bは、外側壁部21に比べて線膨張係数が低い低線膨張材からなる。具体的には、この低線膨張材は、短繊維の強化繊維25a(ガラス繊維または炭素繊維)と、マトリクス樹脂(ポリプロピレン系樹脂)からなる繊維強化樹脂材であり、強化繊維25aは、図1に示すように、見切り線23に沿った方向に配向されている。
【0040】
このように、外側壁部21を樹脂のみで構成するので、車両1Aの面品質をこれまでどおり維持することが可能となり、さらに、内側壁部25Aを繊維強化樹脂材で構成することにより、外側壁部21の樹脂に比べて線膨張係数が低くなる。本実施形態の場合には、強化繊維25aを、見切り線23に沿った方向LAに配向させているので、特に、内側壁部25Aの他の方向に比べて、その方向LAにおける線膨張係数はさらに低くなる。なお、発明者の実験によれば、強化繊維にガラス繊維、マトリクス樹脂にポリプロピレンを用いた場合、見切り線23に沿った方向LAの線膨張係数は3.0×10−5/℃程度であり、この方向LAと直交方向(幅方向)の線膨張係数は6.0×10−5/℃程度となり、方向LAにおける線膨張係数はさらに低くなることがわかっている。
【0041】
この結果、車両1が、外気温度が高くなる環境においても、内側壁部25Aの膨張(伸び)は、外側壁部21の膨張(伸び)に比べて小さくなり、熱変化における見切り線23に沿った方向LAのフェンダパネル20Aの膨張を確実に抑え、その寸法安定性が確保される。
【0042】
さらに、外側壁部21は、車両1Aの形状に合わせて車両外側に膨らむように湾曲しているため、外側壁部21の見切り線23に沿った方向の僅かな伸び分は、外側壁部21がさらに湾曲する(車両外側に膨らむ)ことにより吸収されることになる。
【0043】
これにより、組み付け後の熱変化により、金属製のフードパネル40と樹脂製のフェンダパネル20Aとの伸び差による、エッジラインのずれが抑制されるとともに、フェンダパネル20Aがさらに膨らんだとしても、外板の湾曲の増加は視覚的に判別し難いため、車両1Aの美観を維持することができる。
【0044】
さらに、見切り線23に沿った方向LAに取り付け部26Bを有することにより、より確実に見切り線23に沿った方向LAのフェンダパネル20Aの膨張を抑えることができる。本実施形態では、内側壁部25Aが繊維強化樹脂材からなるので、エプロンメンバ60の締結面61に接触する取付け部26Bの表面26aは、図10(b)に示すような凹凸面となっている。これにより、締結面61に対して、アンカー効果を期待することができ、フェンダパネル20Aを車体により強固に拘束することができる。この結果、外板同士の隙間及び段差の変化を抑えることができる。
【0045】
フェンダパネル20Aは、上述したリテーナを用いずに、より少ない部品で、車両本体(車体)の一部を構成するエプロンメンバ60に取り付けることができ、車両の軽量化ならび、取り付けの煩雑さを解消することができる。
【0046】
図3は、本発明に係る第二実施形態の車両用樹脂外板をフェンダパネル20Bに適用した場合の一例を説明する図であり、ドアアウタパネル30側の取付け状態を表した要部斜視図であり、図4は、図3及び図8のB−B線に沿った矢視断面図である。なお、本実施形態のフェンダパネル20Bのフードパネル40側の内側壁部を、第一実施形態の如くしてもよい。
【0047】
図3及び図8に示すように、本実施形態に係る車両1Bのフェンダパネル20Bの外側壁部21は、第一実施形態と同様であり、内側壁部25Bは、外側壁部21の周りに配置されたドアアウタパネル30(車両部品)との見切り線23Bから、車両内側に屈曲している。
【0048】
具体的には、内側壁部25Bには、見切り線23Bから折返すように屈曲した折返し壁部28Aと、この折返し壁部28Aからさらに車両内側に延出した取付け部28Bが形成されている。取付け部28Bには、見切り線23Bに沿った方向LBに、複数の取付け穴27Bが形成されている。
【0049】
本実施形態では、内側壁部25Bの折返し壁部28Aと取付け部28Bは、第一実施形態と同様に、外側壁部21に比べて線膨張係数が低い低線膨張材である繊維強化樹脂材からなり、強化繊維25aは、図3に示すように、見切り線23Bに沿った方向に配向されている。なお、鉄製のドアアウタパネル30は、内側に折り返した部分において、接着剤77を介してドアインナパネル38に接着されている。
【0050】
このような結果、第一実施形態と同様に、ドアアウタパネル30が鉄などの金属製であったとしても、フェンダパネル20Bと、ドアアウタパネル30との見切り部における変形(スキ、段差)が抑制される。
【0051】
このようにして、樹脂外板よりも低い線膨張係数である周辺部品(例えば鉄部品)が存在しても、線膨張差が少なくなる分、違和感のない見栄えを確保することができる。また、従来の如きリテーナが不要となり、車両の軽量化ならび、取り付けの煩雑さを解消することができる。
【0052】
また、フェンダパネル20Bは、上述したリテーナを用いずに、車体の一部を構成するガイド62に取り付けることができ、車両の軽量化ならび、取り付けの煩雑さを解消することができる。
【0053】
図5は、本発明に係る第三実施形態の車両用樹脂外板をドアアウタパネルに適用した場合の一例を説明する図であり、図8のC−C線に沿った矢視断面図である。その他の部材等は、第一実施形態で述べたように、同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0054】
図5及び図8に示すように、本実施形態に係るドアアウタパネル30Aの外側壁部31は、第一実施形態と同様の材質からなり、車両1Cの外側に膨らむように湾曲している。外側壁部31の膨らんだ外面3は、車両1Cの外側から視認できる意匠面(車両の外面)となっており、その外面には塗装がなされている。
【0055】
さらに、内側壁部35は、外側壁部31の周りに配置された前方ドアパネル(車両部品)との見切り線33から、折返すように車両内側に屈曲している。また、内側壁部35の折り返部分(取付け部)は、接着剤77を介してドアインナパネル38に接着されている。
【0056】
本実施形態では、内側壁部35は、第一実施形態と同様に、外側壁部31に比べて線膨張係数が低い低線膨張材である繊維強化樹脂材からなり、強化繊維は、図5に示すように、見切り線33に沿った方向に配向されている。
【0057】
このような結果、ドアアウタパネル30Aとその周りの部品との見切り部における変形(スキ、段差)が抑制され、温度変化に伴う寸法安定性を維持するとともに、車両外側の意匠面の面品質を損なうことのない。
【0058】
具体的には、サイドドアパネルやバックドアパネルなどのドアアウタパネルでは、内側壁部は、インナパネルとの接着面を兼ねることになるが、これを、繊維強化樹脂材を用いることにより、接着剤77の焼き付け時の接着ひずみを抑制でき、さらに見栄えの低下を抑制することができる。これは、繊維強化樹脂材は非繊維強化樹脂材に比べて繊維強化されている分、弾性率が高い(剛性が高い)ため、接着ひずみの要因である接着剤の収縮に伴う引張り応力に対して、より耐えることができるので、接着ひずみが小さくなるからである。
【0059】
また、低線膨張材が繊維強化樹脂材からなる場合には、取り付け部の表面は、前述した図10(b)に示すような凹凸面(粗い表面)となるので、これにより車両本体(車体)の取付け表面に対して、アンカー効果を期待することができ、外板を車体により強固に拘束することができる。
【0060】
以下に、上述した実施形態のフェンダパネル、及びドアアウタパネル等の樹脂外板を製造するに好適な実施形態を説明する。
【0061】
図6は、本実施形態に係る車両用樹脂外板の製造方法を説明するための図であり、(a)は、製造方法に用いる成形型の構造説明するための模式的斜視図、(b)は、(a)のD−D線に沿った矢視断面図であり、第一成形工程を説明するための図、(c)は、型開き工程を説明するための図であり、(d)は、第二成形工程を説明するための図である。図7は、図6(c)に示す第二の成形工程における樹脂流れを説明するための図である。
【0062】
本実施形態では、上述した樹脂外板を、以下に示す第一および第二の樹脂材を成形型50に射出成型することにより、製造することができる。図6(a)に示すように、成形型50は、円盤状の上型51及び下型52の一対の成形型からなる。
【0063】
上型51は、可動型であり、中心軸CLを回転軸として、回転可能にターンテーブル(図示せず)に連結されており、さらに、下型52に対して型開きまたは型締めを行うために、上下に昇降する昇降装置(図示せず)に連結されている。
【0064】
上型51及び下型52を型締めした際には、図6(b)に示すように、少なくとも2種類の形状のキャビティ57、58が形成されている。また、下型52は、固定型であり、下型52には、キャビティ57、58に連通し、樹脂材を導入するための導入口54,55が形成されている。キャビティ57は、外板10の外側壁部11に相当する外側壁部材11Aの形状に一致した成形空間であり、キャビティ58は、外板10の形状に一致した成形空間である。
【0065】
このような成形型50、ターンテーブル、昇降装置、及び射出装置を備えた射出成形装置を用いて、上述したフェンダパネル20A,20B、及びドアアウタパネル30A等の車両用樹脂外板10を成形する。
【0066】
まず、図6(b)に示す型締め状態の成形型50を用いて、第一の成形工程を行う。具体的には、第一の成形工程において、下型52の導入口54から、成形型50のキャビティ57内に、第一の樹脂材(例えばポリプロピレン系樹脂)R1を射出することにより、外側壁部11に相当する外側壁部材11Aを成形する。
【0067】
次に、図6(c)に示すように、外側壁部材11Aを成形型の上型51(一方の型)に保持した状態で、昇降装置を用いて、成形型50を型開きする型開きを行う(型開き工程)。さらに、ターンテーブルを用いて、中心軸CLを回転軸として上型51を180°回転させる。外側壁部材11Aの保持は、上型51に吸引する等により行うことができ、上型51に外側壁部材11Aを残し、第二の射出工程を行うことができるのであれば、その方法は特に限定されるものではない。
【0068】
さらに、図6(d)に示すように、第二の成形工程を行う。具体的には、昇降装置を用いて、外側壁部材11Aを保持した上型51を下降して、上型51と下型(第二成形型)52との型締めを行う。この際、型締め時には、成形すべき形状の樹脂外板に相当するキャビティ58を有するので、その一部には、外側壁部材11Aが配置され、残りの部分には、内側壁部15に対応するキャビティが形成される。
【0069】
そして、該型締めした成形型(キャビティ)内に、第一の樹脂材R1よりも線膨張係数の低い第二の樹脂材R2を射出することにより、外側壁部材11Aに内側壁部15を一体成形する。具体的には、第二の樹脂材R2に、短繊維の強化繊維と、樹脂材R1と同種のマトリクス樹脂とからなる樹脂を用いる。
【0070】
図7に示すように、第二の成形工程において、強化繊維25aが、周辺の車両部品(隣り合う部品)との見切り線に沿った方向Lに流動するように、第二の樹脂材R2を射出する。このような樹脂の流れは、第二の樹脂材R2の導入口55と、排出口56との配置を、図7に示すように流したい方向の上流と下流に配置することにより達成することができる。このようにして、繊維強化樹脂材に含有する強化繊維25aは、少なくとも見切り線に沿った方向Lに配向させることができる。
【0071】
第一の成形工程において、車両用樹脂外板10の外側壁部11に相当する外側壁部材11Aを成形し、その後連続して、繊維強化樹脂材からなる内側壁部15を外側壁部材11Aに一体成形することができる。
【0072】
さらに、図7に示すように、低線膨張材である繊維強化樹脂材の強化繊維を、見切り線に沿った方向Lに配向させることができるので、見切り線に沿った方向の外板の膨張を確実に抑えることができる。
【0073】
さらに、車両用樹脂外板10を車両の本体に、ボルト等の締結部材により取付けるために、前記第二の成形工程後、前記内側壁部に取り付け穴加工を行う。第二の射出工程において、第二の樹脂材R2に含有する強化繊維が見切り線に沿って流れるように、第二の樹脂材R2を射出し、内側壁部15を成形した後、取り付け穴加工を行うので、第二の樹脂材の射出時の樹脂流れを安定させ、好適に、低線膨張材である繊維強化樹脂材の強化繊維を見切り線に沿った方向に配向させることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、本実施形態として、車両前方のフェンダパネル、車両側面のドアアウタパネル等を例示したが、フードパネル、バックドアパネル等の樹脂外板に適用してもよい。
【0075】
また、外側壁部の延びを抑えることができるのであれば、取り付け部以下の見切り線からパネルの周縁の間のすべての部分を、繊維強化樹脂材にしてもよく、例えば、第一実施形態の縦壁部26A、第二実施形態の折返し壁部28Aのみを強化繊維樹脂材にしてもよい。
【0076】
さらに、本実施形態では、射出成型により樹脂外板を製造したが、例えば、一方向に強化繊維を引き揃えたプリプレグのテープ(いわゆるUDテープ等)をインサート材として用いてインサート成型により樹脂外板を製造してもよく、繊維は、ガラス繊維、炭素繊維の他にも、有機繊維、天然繊維を用いてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1A〜1C:車両、2:車両の外面、10:車両用樹脂外板、11:外側壁部、11A:外側壁部材、15:内側壁部、20A,20B:フェンダパネル、21:外側壁部、23、23B:見切り線、25A,25B:内側壁部、25a:強化繊維、26B:取付け部、27B:取付け穴、28B:取付け部、30A:ドアアウタパネル、31:外側壁部、33:見切り線、50:成形型、51:上型、52:下型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外面を構成する外側壁部と、該外側壁部の周りに配置された車両部品との見切り線から車両内側に屈曲した内側壁部と、が一体成形された車両用樹脂外板であって、
前記内側壁部は、前記外側壁部に比べて線膨張係数が低い低線膨張材を含むことを特徴とする車両用樹脂外板。
【請求項2】
前記低線膨張材は、繊維強化樹脂材であることを特徴とする請求項1に記載の車両用樹脂外板。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂材に含有する強化繊維は、少なくとも前記見切り線に沿った方向に配向されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用樹脂外板。
【請求項4】
前記内側壁部のうち前記繊維強化樹脂材を含む部分に、前記車両の本体に取付けるための取付け部を有することを特徴とする請求項2または3に記載の車両用樹脂外板。
【請求項5】
前記外側壁部を構成する樹脂と、前記繊維強化樹脂材に含有するマトリクス樹脂は、同じ種類の樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両用樹脂外板。
【請求項6】
車両の外面を構成する外側壁部と、該外側壁部の周りに配置された部品との見切り線から車両内側に屈曲した内側壁部と、を一体成形する車両用樹脂外板の製造方法であって、
該製造方法は、一対の成形型内に第一の樹脂材を射出することにより、前記外側壁部に相当する外側壁部材を成形する第一の成形工程と、
前記外側壁部材を前記成形型の一方の型に保持した状態で、前記成形型を型開きする型開き工程と、
前記外側壁部材を保持した型と、前記内側壁部に対応するキャビティが形成された第二成形型とを型締めし、該型締めした成形型内に、前記第一の樹脂材よりも線膨張係数の低い第二の樹脂材を射出することにより、前記外側壁部材に前記内側壁部を一体成形する第二の成形工程とを含むことを特徴とする車両用樹脂外板の製造方法。
【請求項7】
前記第二の樹脂材に、強化繊維を含む樹脂材を用いることを特徴とする請求項6に記載の車両用樹脂外板の製造方法。
【請求項8】
前記第二の成形工程において、前記強化繊維が、見切り線に沿った方向に流れるように、前記第二の樹脂材を射出することを特徴とする請求項7に記載の車両用樹脂外板の製造方法。
【請求項9】
前記第二の成形工程後、前記内側壁部のうち第二の樹脂材からなる部分に、前記車両本体に取付けるための取付け穴加工を行うことを特徴とする請求項8に記載の車両用樹脂外板の製造方法。
【請求項10】
前記第一及び第二の樹脂材を構成する樹脂に、同じ種類の樹脂を用いることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の車両用樹脂外板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−121420(P2011−121420A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279039(P2009−279039)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】