説明

車両用歩行者保護装置

【課題】衝突時にボンネットフードを上昇させる車両用歩行者保護装置において、ストロークを維持しつつ歩行者がボンネットフードの前端に二次衝突する際の衝撃を低減する。
【解決手段】車体前部13のエンジンルーム3と、当該エンジンルーム3の上方を覆うボンネットフード7とを有し、フロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突を検知又は予知したときに、当該ボンネットフード7の少なくとも前部を上方へ変位させる、車体前部13に設けられた車両用歩行者保護装置5である。ボンネットフード前端部7aに設けられ、当該ボンネットフード7の前端部7aに入力される衝撃を緩和する衝撃緩和手段85を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体前部に設けられる車両用歩行者保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両に対して歩行者が正面衝突した場合、歩行者はまず車両前端のバンパに当たり、更にバンパ衝突の弾みにより、エンジンルームを覆うように設けられたボンネットフードに、二次衝突することがある。そこで、従来から、歩行者の保護を図るために、二次衝突時の衝撃を和らげる工夫がボンネットフードに施されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フードの前端部及び後端部にアクチュエータを備え、衝突時にフード全体を上方に持上げるようにした車両用フード装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−199179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものでは、以下のような問題がある。すなわち、歩行者がバンパに衝突した場合は、例えば、体格の小さい歩行者はエンジンルームを覆うボンネットフードの前端部に二次衝突することが多く、また体格の大きな歩行者は当該ボンネットフードの後端部に二次衝突することが多い。
【0005】
ここで、体格の小さい歩行者が略上方からボンネットフードの前端部に二次衝突する場合には、ボンネットフードと車体との間の所定のストローク(動作距離)を利用して、二次衝突の衝撃を低減することができるが、当該歩行者が略前方からボンネットフードの前端部に二次衝突する場合には、ボンネットフードが上昇することにより剥き出しになった高剛性のヘミング部(インナーパネルとアウターパネルとが接合されたボンネットフードの先端)と二次衝突するおそれがある。
【0006】
このように、ボンネットフードが剥き出しになるのを避けるために、車体前部におけるボンネットフードと車体との間のストロークを小さくすることが考えられるが、ストロークを小さくすると、歩行者が略上方からボンネットフードの前端部に二次衝突する際の衝撃を低減することが困難となる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車体の前端部と歩行者との衝突時にボンネットフードを上昇させる車両用歩行者保護装置において、ボンネットフードと車体との間のストロークを維持しつつ、歩行者が略前方からボンネットフードと二次衝突する際の衝撃を低減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明では、ボンネットフードと車体との間に二次衝突による衝撃を吸収するための所定のストロークを確保するとともに、ボンネットフードの上昇に伴って剥き出しになったボンネットフードの前端部及び/又は車体前端部に衝撃緩和手段を設けるようにしている。
【0009】
第1の発明は、エンジンルームと、ヒンジ部を介して後端部を中心に開閉回動自在に車体に連結され、当該エンジンルームの上方を覆うボンネットフードとを有し、車体の前端部と歩行者との衝突を検知又は予知したときに、当該ボンネットフードの少なくとも前部を上方へ変位させる車両用歩行者保護装置であって、上記ボンネットフードの前端部及び/又は上記車体の前端部に設けられ、上記歩行者とボンネットフードの前端部との二次衝突の際の衝撃を緩和する衝撃緩和手段を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
第1の発明では、車体の前端部と歩行者との衝突を検知又は予知すると、通常時は後端部を中心に回動するように車体に連結されたボンネットフードの少なくとも前部が上方へ変位する。これにより、歩行者とボンネットフードとの二次衝突の前に、ボンネットフードと車体との間に二次衝突による衝撃を吸収するための所定のストロークが、換言すると、当該ボンネットフードとエンジンルームに収められたエンジンとの間に所定の空間が確保される。したがって、ボンネットフードと車体との間の所定のストロークを利用して、二次衝突(ボンネットフードへの略上方からの衝突)による衝撃が低減される。
【0011】
また、ボンネットフード前端部及び/又は車体前端部には、歩行者とボンネットフード前端部との二次衝突の際の衝撃を緩和する衝撃緩和手段が設けられているので、ボンネットフードが上方へ変位することにより剥き出しになった当該ボンネットフード前端部への衝突による衝撃を低減することができる。
【0012】
以上により、ボンネットフードと車体との間のストロークを維持しつつ、歩行者が略前方からボンネットフードと二次衝突する際の衝撃を低減することができる。
【0013】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記ボンネットフードには、当該ボンネットフードの前端部に荷重が入力されたときに、当該ボンネットフードの前端部を下方に変形させる変形誘発部が形成されており、上記衝撃緩和手段は、上記変形誘発部及び上記ボンネットフードにおける当該変形誘発部よりも前側の部位で構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
第2の発明では、ボンネットフードの前端部に歩行者が接触すると、変形誘発部を中心として当該変形誘発部よりも前側の部位(ボンネットフードの前端部)が下方に変形するので、歩行者の運動エネルギーがボンネットフードの変形エネルギーに順次変換され吸収消化される。したがって、ボンネットフードの前端への衝突による衝撃を低減することができる。
【0015】
また、ボンネットフードの上昇によって、車体前端部とボンネットフードの前端部との間にはスペースが生じているが、変形誘発部を中心として下方に変形したボンネットフードの前端部により、ボンネットフード前端における当該スペースが狭まるので、歩行者のエンジンルームへの侵入を抑えることができる。
【0016】
以上により、ボンネットフードと車体との間のストロークを維持しつつ、歩行者が略前方からボンネットフードの前端部に二次衝突する際の衝撃を一層低減することができる。
【0017】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記ボンネットフードの先端は、下向きに形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
第3の発明では、歩行者とボンネットフードの先端との接触が回避されるので、車体の前端部と衝突した歩行者の保護を図ることができる。
【0019】
第4の発明は、上記第1の発明において、上記衝撃緩和手段は、上記ボンネットフードの上方への変位にともなって、当該ボンネットフードと上記エンジンルームの前方の車体部材との間に形成される空間の少なくとも一部を覆う被覆部材を有していることを特徴とするものである。
【0020】
第4の発明では、被覆部材により、ボンネットフードとエンジンルームの前方の車体部材との間に形成される空間の少なくとも一部が覆われるので、歩行者のエンジンルームへの侵入を防いで、歩行者とエンジンルーム内に収容されているエンジンとの二次衝突を抑えることができる。
【0021】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記エンジンルームの前方には、車体前部の外表面を構成するフロントバンパフェイスが設けられており、上記被覆部材は、上記ボンネットフードの前端と上記フロントバンパフェイスとの間に形成される空間に展開される衝撃吸収部材によって構成されていることを特徴とするものである。
【0022】
第5の発明では、衝撃吸収部材が、ボンネットフードの前端とフロントバンパフェイスとの間に形成される空間に展開されるので、歩行者のエンジンルームへの侵入を防ぐことができるとともに、歩行者の受ける衝撃を低減することができる。
【0023】
第6の発明は、上記第1〜第5のいずれか1つの発明において、上記車体前部には、上記エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルの上部で車幅方向に延びるカウルボックスが設けられており、車体の前端部と歩行者との衝突を検知又は予知したときに、上記カウルボックスの少なくとも一部を覆うように、上記ボンネットフード全体を上方且つ後方へ案内すると共に、上記ボンネットフードに作用する荷重が所定荷重を超えたときに、当該ボンネットフード全体を下げるボンネット案内機構をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0024】
第6の発明では、ボンネット案内機構は、カウルボックスを覆うようにボンネットフードを上方且つ後方へ案内するので、ボンネットフードの前端への衝突による衝撃を低減するのみならず、車体の前端部と衝突した歩行者が比較的硬いものが収められるカウルボックスと二次衝突するのを抑制すると共に、上記ボンネットフードに作用する荷重が所定荷重を超えたときには、当該ボンネットフード全体を下げて衝撃を吸収する。
【0025】
第7の発明は、上記第6の発明において、上記ボンネットフードには、当該ボンネットフードの上方且つ後方への変位量を調整するための変位量調整部が設けられており、上記エンジンルームの側方の車体部材には、上記変位量調整部に対応する位置に、所定の長さを有し且つ車幅方向に延びる軸周りに車両前側に略倒伏した状態から略起立した状態まで回動可能な規制部材が軸支されており、上記変位量調整部は、上記ボンネットフードがその後部を中心として回動して開くときは、当該ボンネットフードの回動を許容する一方、当該ボンネットフードが上方且つ後方へ変位するときは、上記規制部材と係合して当該規制部材が略起立した状態で止まることにより、当該ボンネットフードの過度の変位を規制するように構成されていることを特徴とするものである。
【0026】
第7の発明では、変位量調整部は、ボンネットフードがその後部を中心として回動するときは、当該ボンネットフードの回動を許容するので、通常時におけるボンネットフードの作業性が維持される。
【0027】
また、変位量調整部は、ボンネットフードが上方且つ後方へ変位するときは、当該ボンネットフードの過度の変位を規制するように構成されているので、例えば、ボンネットフードとフロントガラスとの衝突を抑えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る車両用歩行者保護装置によれば、車体の前端部と歩行者との衝突を検知又は予知すると、通常時は後端部を中心に回動するように車体に連結されたボンネットフードの少なくとも前部が上方へ変位するが、ボンネットフード前端部及び/又は車体前端部には、衝撃緩和手段が設けられているので、ボンネットフードが上方へ変位することにより剥き出しになったその前端への衝突による衝撃を緩和することができる。これらにより、ボンネットフードと車体との間のストロークを維持しつつ、歩行者が略前方からボンネットフードと二次衝突する際の衝撃を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
(実施形態1)
−車体前部の構成−
図1は、本発明に係る車両用歩行者保護装置が設けられている車両の車体前部を示す平面図であり、図2は、図1のII−II線における矢視断面図である。図1及び図2に示すように、車両1は、その車体前部13(以下、車体ともいう)に、エンジン33が収納されるエンジンルーム3と、当該エンジンルーム3と車室23とを仕切るダッシュパネル19の上部に設けられるカウルボックス9と、エンジンルーム3の上方を覆うボンネットフード7と、を備えている。
【0031】
上記カウルボックス9は、車幅方向に延びていて、その略全幅に亘ってフロントガラス11の下端を支持している。また、当該カウルボックス9の内部には、ワイパー装置(例えばワイパー駆動装置のモーターおよびカム機構)29が配設されている。なお、フロントガラス11の車幅方向両側の側縁部にはフロントピラー21,21が設けられており、カウルボックス9の車幅方向両端部の上方に、左右のフロントピラー21,21の下端部21a,21aがそれぞれ位置している。
【0032】
ボンネットフード7は、車体13に対し第1ヒンジ部(ヒンジ部)59を介して連結されている。より詳しくは、ボンネットフード7は、カウルボックス9の車幅方向両端近傍に設けられた、第1ヒンジ部59を有する後述する変位機構45を介して当該車体13に対し、その後端部7bを中心に開閉回動自在に連結されている。
【0033】
このボンネットフード7は、車両1の外表面を構成するアウターパネル17aと、エンジンルーム3側の面を構成するインナーパネル17bとを接合することによって構成されている。当該インナーパネル17bには、凸部や、折り曲げ部等が形成されている。なお、図2中の符合17cは、インナーパネル17bの車幅方向両端部に形成され、車両前後方向に延びる外側凸部を示す。
【0034】
また、ボンネットフード7の前端部7aには、ストライカ27が設けられている一方、エンジンルーム3の前方のシュラウドメンバ(車体部材)13aに形成された開口部13dには、当該ストライカ27と係合することによりボンネットフード7の閉状態を確保するラッチ31が設けられている。
【0035】
これら第1ヒンジ部59、ストライカ27及びラッチ31により、ボンネットフード7は、通常時(後述する、フロントバンパフェイス(車体13の前端部)13bと歩行者との衝突を検知又は予知したとき以外)には、ストライカ27とラッチ31との係合を手動で解除することで、図2中の二点鎖線に示す如く、略車幅方向に延びるその後端部7bを中心に回動してエンジンルーム3を露出させる開状態となる一方、ボンネットフード7を手動で押し下げて、ストライカ27とラッチ31とを係合させることで、エンジンルーム3の上方を覆う閉状態となるように構成されている。
【0036】
−車両用歩行者保護装置の構成−
以上のように構成された車体前部13には、車体前部の外表面を構成するフロントバンパフェイス13bと衝突した歩行者がボンネットフード7と二次衝突した際に、その衝撃を和らげるための車両用歩行者保護装置5が設けられている。この車両用歩行者保護装置5は、図1及び図3に示すように、上記エンジンルーム3と、上記ボンネットフード7と、フロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突を検知又は予知したときに、カウルボックス9の少なくとも一部を覆うように、ボンネットフード7全体を上方且つ後方へ案内すると共に、ボンネットフード7に作用する荷重が所定荷重を超えたときに、当該ボンネットフード7全体を下げる左右一対のボンネット案内機構15,15と、当該ボンネットフード7の上方且つ後方への変位量を調整するための左右一対の変位量調整機構25,25と、ボンネットフード前端部7aに設けられ、当該ボンネットフード7の前端に入力される衝撃を緩和する衝撃緩和手段85と、を備えている。
【0037】
上記ボンネット案内機構15,15は、エンジンルーム3の後端近傍に、より詳しくは上記カウルボックス9の車幅方向両端部にそれぞれ設けられている。各ボンネット案内機構15は、ボンネットフード7を上方に変位させるためのアクチュエータ35と、ボンネットフード7が上昇するにつれて、当該ボンネットフード7を後方に変位させる変位機構45とを、有している。
【0038】
上記アクチュエータ35は、カウルボックス9に形成された孔9bに挿通されることで支持される有底筒状のシリンダ35aと、当該シリンダ35aに摺動自在に挿入され、その上端がインナーパネル17bの下面に当接することで、ボンネットフード7を上方に変位させるロッド35bと、シリンダ35aの底に封入されていて、ガスが発生させることで、当該ロッド35bを上昇させるインフレータ(図示せず)と、を有している。
【0039】
このアクチュエータ35は、車両1に搭載された不図示のCPUと電気的に接続されており、フロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突を検知又は予知したときに、CPUからの点火信号によりインフレータの点火部が点火してガス発生源より発生する多量のガスにより、ロッド35bが上昇するようになっている。
【0040】
より具体的には、当該車両1には、前方の歩行者との距離を測定し、車両1の速度及び予想制動距離等から衝突可能性を演算して歩行者との衝突を予知する衝突予知センサ(図示せず)、及び、フロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突を検出可能な衝突検知センサ(図示せず)が設けられていて、CPUは、これら衝突予知センサ及び衝突検知センサから入力される情報に基づいて、アクチュエータ35に点火信号を送るように構成されている。なお、衝突予知センサは、例えば、超音波センサやレーダやCCDカメラ等で構成することが可能であり、また、衝突検知センサは、例えば、Gセンサや感圧センサ等で構成することが可能である。
【0041】
また、アクチュエータ35は、図1及び図4に示すように、当該アクチュエータ35の起動に伴って、ストライカ27とラッチ31との係合を解除する解除手段としてのケーブル75を有している。このケーブル75は、ラッチ31の下端部とアクチュエータ35のロッド35bの下端部とを連結しており、エンジン33等と干渉することなく、エンジンルーム3内に、張った状態で設けられている。ケーブル75をこのように設けることにより、アクチュエータ35のロッド35bが上昇すると、ラッチ31が下方に引っ張られて、ストライカ27との係合が解除され、即座にボンネットフード7の前端部7aの固定が解かれるようになっている。
【0042】
なお、ロッド35bは、ボンネットフード7を上方に変位させた後は、自然に、又は、二次衝突時に下降したボンネットフード7と当接することで、下がって再びシリンダ35a内に収まるようになっている。
【0043】
上記各変位機構45は、図5〜図7に示すように、車体13側に取り付けられる第1ブラケット部材49と、ボンネットフード7側に取り付けられる第2ブラケット部材51と、これら両ブラケット部材49,51を連結するリンク部材47と、当該第2ブラケット部材51と当該リンク部材47とに付勢力を与えるトーションスプリング53と、当該第2ブラケット部材51と当該リンク部材47とを係合させる溝付きスペーサー63と、を有している。
【0044】
各第1ブラケット部材49は、取付孔が2つ形成された底壁部49aと、当該底壁部49aの車幅方向内側の端部から上方に延び、リベット挿通孔49cが形成された竪壁部49bとを有する断面略L字状に形成されている。この第1ブラケット部材49は、底壁部49aを、カウルボックス9の車幅方向両端部にそれぞれ設けられた断面矩形状のカウルパネル19cの上端にボルト及びナット49d,49e,…で固定することによって、車体13側に取り付けられている。
【0045】
各第2ブラケット部材51は、取付孔が2つ形成された底壁部51aと、当該底壁部51aの車幅方向外側の端部から上方に延び、リベット挿通孔51cとボルト挿通孔51dが形成された竪壁部51bとを有する断面略L字状に形成されている。この第2ブラケット部材51は、底壁部51aを、インナーパネル17bの外側凸部17cの下端に、ボルト及びナット51e,51f,…で固定することによって、ボンネットフード7側に取り付けられている。
【0046】
各リンク部材47は、底壁部47aと、当該底壁部47aの車幅方向内側の端部から上方に延び、その前端部及び後端部に前側及び後側リベット挿通孔47c,47dがそれぞれ形成された竪壁部47bとを有する断面略L字状に形成されている。このリンク部材47の竪壁部47bの中央部には、上方に開口するように切り欠かれた係合部47eと、当該係合部47eが形成されることで幅狭となった脆弱部47fが形成されている。この脆弱部47fは、リンク部材47が略起立した状態でボンネットフード7を支えた場合、当該ボンネットフード7に作用する荷重が所定荷重を超えたときに、リンク部材47の座屈変形を促すような幅寸法を有している。換言すると、リンク部材47は、ボンネットフード7とカウルボックス9との間に形成される空間を、当該ボンネット7に入力された荷重が所定の荷重量を越えるまで保持するようになっている。
【0047】
リンク部材47の後端部は、第1ブラケット部材49に対し回動可能に連結されている。より詳しくは、リンク部材47は、第1ブラケット部材49のリベット挿通孔49cとリンク部材47の後側リベット挿通孔47dとにリベット57aを挿通し、これをナット57bで固定することで、第1ブラケット部材49に対し当該リベット57aの軸部を中心として回動可能に連結されている。なお、本発明の第1ヒンジ部59は、リンク部材47、第1ブラケット部材49、リベット57a及びナット57bに対応する。
【0048】
これに対し、リンク部材47の前端部は、第2ブラケット部材51に対し回動可能に連結されている。より詳しくは、リンク部材47は、第2ブラケット部材51のリベット挿通孔51c、トーションスプリング53のコイル部、スペーサー57f、リンク部材47の前側リベット挿通孔47cの順にリベット57eを挿通し、これをナット57gで固定することで、第2ブラケット部材51に対し当該リベット57eの軸部を中心として回動可能に連結されている。なお、上記第2ヒンジ部61は、リンク部材47、第2ブラケット部材51、トーションスプリング53、スペーサー57f、リベット57e及びナット57gに対応する。
【0049】
トーションスプリング53の一方側のアーム部53aは、リンク部材47の竪壁部47bの上縁に係止している一方、他方側のアーム部53bは、第2ブラケット部材51の底壁部51aの下面に係止している。このため、リンク部材47と第2ブラケット部材51とには、トーションスプリング53によって、リベット57eの軸部を中心として両者47,51を略への字状に開かせるような付勢力が付与される。
【0050】
このように、リンク部材47は、車体13に対しリベット57aの軸部を中心として回動可能に連結される一方、ボンネットフード7に対しリベット57eの軸部を中心として回動可能に連結されているので、ボンネットフード7が上昇すると、図7に示すように、リンク部材47の長さ及び傾斜角度に応じて、当該ボンネットフード7が後方にさがる。
【0051】
一方、リンク部材47の中央部は、第2ブラケット部材51に対し着脱可能に連結されている。より詳しくは、リンク部材47は、その係合部47eを、第2ブラケット部材51のボルト挿通孔51dに挿通されたボルト57cとナット57dによって当該第2ブラケット部材51の後端部に固定された溝付きスペーサー63の溝部に圧入することで、第2ブラケット部材51に対し着脱可能に連結されている。
【0052】
溝付きスペーサー63は、弾性を有する樹脂からなっており(または、溝部に樹脂が接着されており)、通常時は、トーションスプリング53の付勢力に抗して、リンク部材47の係合部47eと係合している一方、アクチュエータ35による上方への力がボンネットフード7に作用したときに、当該ボンネットフード7との係合が解除されるように構成されている。換言すると、係合部47eは、通常時は、溝付きスペーサー63を介してボンネットフード7と係合することにより、第2ヒンジ部61の回動を規制して、外側凸部17cと平行に延びるようにリンク部材47をボンネットフード7に固定する一方、フロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突を検知又は予知したときには、溝付きスペーサー63から離脱することにより、第2ヒンジ部61の回動を許容するようになっている。
【0053】
一方、上記変位量調整機構25,25は、車両前後方向における変位機構45とストライカ27との間に、具体的には、エンジンルーム3の前端近傍にそれぞれ設けられている。各変位量調整機構25は、図1及び図3に示すように、ボンネットフード7に設けられている変位量調整部55と、当該変位量調整部55に対応して車体13側に設けられている変位量規制部65とを、有している。
【0054】
上記変位量規制部65は、車体13側に取り付けられるブラケット部材69と、当該ブラケット部材69に軸支されている規制部材67と、を有している。
【0055】
各ブラケット部材69は、取付孔が2つ形成された底壁部69aと、当該底壁部69aの車幅方向外側の端部から上方に延び、リベット挿通孔が形成された竪壁部69bとを有する断面略L字状に形成されている。このブラケット部材69は、底壁部69aを、エンジンルーム3の側方のサイドメンバ(車体部材)13cの上端にボルト及びナット69c,69d,…で固定することによって、車体13側に取り付けられている。
【0056】
各規制部材67は、所定の長さを有する細板状の部材であり、通常時において、車両前後方向に延びる基端部67aと、当該基端部67aの前端から車両前後方向前側に行くほど車幅方向内側に傾斜する中間部67bと、当該中間部67bの前端から車両前後方向前側に行くほど上方に傾斜する先端部67cと、当該先端部67cに形成されたフック状の係止部67dとを有している。
【0057】
各規制部材67は、基端部67aの後端部が、ブラケット部材69の竪壁部69bのリベット挿通孔に挿通されたリベット71を介して当該ブラケット部材69に軸支されており、当該リベット71の軸部を中心として(車幅方向に延びる軸周りに)車両前側に略倒伏した状態から略起立した状態まで回動可能となっている。
【0058】
上記各変位量調整部55は、ボンネットフード7のインナーパネル17bにおける上記規制部材67の係止部67dに対応する位置に貫通形成された孔であり、規制部材67の係止部67dは、ボンネットフード7が閉じた状態では、当該変位量調整部55を貫通して、アウターパネル17aとインナーパネル17bとの間の空間に収容されている。
【0059】
各変位量調整部55は、当該ボンネットフード7が上記第1ヒンジ部59によりその後端部7bを中心として回動して開くときは、当該ボンネットフード7の回動を許容するような、すなわち、規制部材67の係止部67dが引っ掛からないような大きさに形成されている一方、ボンネットフード7が上方且つ後方へ変位するときは、当該ボンネットフード7の過度の変位を規制するような、すなわち、規制部材67の係止部67dが引っ掛かるような大きさに形成されている。
【0060】
そうして、変位量調整部55は、ボンネットフード7がその後部を中心として回動するときは、当該ボンネットフード7の回動を許容するので、通常時におけるボンネットフード7の作業性が維持される。また、ボンネットフード7が上方且つ後方へ変位するときに変位量調整部55と規制部材67とが係合すると、規制部材67は、当該ボンネットフード7の変位に伴って略起立した状態となり、当該ボンネットフードの過度の変位を規制するので、例えば、ボンネットフード7とフロントガラス11との衝突を抑えることができる。
【0061】
上記衝撃緩和手段85は、ボンネットフード7の前端部に形成されている変形誘発部37と、当該ボンネットフード7における当該変形誘発部37よりも前側の部位とで構成されている。変形誘発部37は、図11に示すように、ボンネットフード7の前端に沿うように、当該ボンネットフード7の全幅に亘って形成されている。この変形誘発部37は、当該ボンネットフード7の前端に荷重が入力されたときに、当該変形誘発部37よりも前側の部位(ボンネットフード7の前端部)を下方に変形させるように構成されている。
【0062】
より具体的には、変形誘発部37は、図11及び図12に示すように、後方に折り返したアウターパネル17aの先端部でインナーパネル17bの先端部を挟み込んだ状態で、当該アウターパネル17aと当該インナーパネル17bとを接合した高剛性のヘミング部77の直後(直ぐ後側)におけるアウターパネル17a及びインナーパネル17bの部位で構成されている。
【0063】
インナーパネル17bの当該部位には、複数の断面楕円状の貫通孔37aが、その長軸が車幅方向にくるように形成されているとともに、相隣り合う貫通孔37a,37aの間の部分には、これらの長軸端同士を結ぶように、下方に開いた線状の浅い切欠部37bが形成されている。一方、アウターパネル17aの当該部位には、インナーパネル17bの貫通孔37a及び切欠部37bの上方に、下方に開いた線状の浅い切欠部37cがボンネットフード7の全幅に亘って形成されている。
【0064】
このように、インナーパネル17bに複数の貫通孔37a,37a,…を形成するとともに、アウターパネル17a及びインナーパネル17bに、下方に開いた切欠部37b,37c,…を形成することにより、ボンネットフード7の前端部7aは、下方に変形し易くなっている。そうして、このような変形誘発部37をボンネットフード7の全幅に亘って設けることにより、フロントバンパフェイス13bと衝突した歩行者が、ボンネットフード7の前端に二次衝突すると、当該変形誘発部37を起点としてヘミング部77が下方に変形するので、歩行者の運動エネルギーがボンネットフード7の変形エネルギーに順次変換され吸収消化される。
【0065】
−車両用歩行者保護装置の動作−
先ず、通常の状態(フロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突が検知も予知もされていない状態)では、運転者等が手動でラッチ31を操作すると、ストライカ27とラッチ31との係合が解除される。このとき、リンク部材47の係合部47eと溝付きスペーサー63との係合により、当該リンク部材47は外側凸部17cと平行に延びるようにボンネットフード7に固定されているので、ボンネットフード7は、あたかもその後端部7bが第1ヒンジ部59を介して直接車体13に連結されたような状態になっている。
【0066】
これにより、運転者等がボンネットフード7の前端部7aを持ち上げると、図8に示すように、規制部材67の係止部67dが変位量調整部55に引っ掛かることなく、第1ヒンジ部59によりその後端部7bを中心に回動して、上記図2の二点鎖線で示す如くエンジンルーム3を露出させる開状態となる。
【0067】
一方、衝突予知センサによりフロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突が予知、又は、衝突検知センサによりフロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突が検知されると、CPUから指示に基づいて、アクチュエータ35のインフレータが着火される。そうして、インフレータによるガスが発生することで、アクチュエータ35のロッド35bが上昇を開始する。
【0068】
ロッド35bが上昇すると、ケーブル75を介して当該アクチュエータ35に連結されているラッチ31が下方に引っ張られて、ラッチ31とストライカ27との係合が解除される。
【0069】
ロッド35bがさらに上昇すると、当該ロッド35bの上端が、第2ブラケット部材51の底壁部51aをインナーパネル17bの外側凸部17cの下端に固定している後側のボルト51eに当接して、ボンネットフード7を上方に押し上げる。この際、ロッド35bの上端が当接した衝撃で、係合部47eが溝付きスペーサー63から離脱し、リンク部材47と第2ブラケット部材51(ボンネットフード7)との係合が解かれる。そして、ボンネットフード7が上昇しようとする力が、第1ヒンジ部59によって、リンク部材47をその後端部を中心に回動させる力、すなわち、ボンネットフード7を上方且つ後方へ変位させる力に変換される。また、これと略同時に、トーションスプリング53の付勢力によって、リベット57eの軸部を中心として、リンク部材47と第2ブラケット部材51とが開き始める。
【0070】
一方、ボンネットフード7前側では、ボンネットフード7を上方且つ後方へ変位することによって、図9に示すように、規制部材67のフック状の係止部67dが、変位量調整部55の前側の孔壁を構成するインナーパネル17bの上面に引っ掛かる。これにより、規制部材67は、ボンネットフード7を上方且つ後方へ変位に伴って、車両前側に略倒伏した状態からリベット71の軸部を中心として起き上がるように回動する。
【0071】
こうしてボンネットフード7は上方且つ後方へ変位していくが、規制部材67は略起立した状態までしか回動しないように構成されているので、図10に示すように、規制部材67及びリンク部材47が、車体13に対し共に略起立した状態で、ボンネットフード7の上方且つ後方への変位が完了する。このとき、リンク部材47は、トーションスプリング53の付勢力により、インナーパネル17bの下面に対し略直角方向に延びた状態となる。
【0072】
このように、ボンネット案内機構15によって、上方且つ後方へ案内されたボンネットフード7は、少なくとも、剛性の高いフロントピラー21,21の先端部及びカウルボックス19を覆う。これにより、ボンネットフード7の前端への衝突による衝撃を低減するのみならず、歩行者が剛性の高いフロントピラー21,21やワイパー装置29が収められるカウルボックス9と二次衝突するのを抑制することができる。
【0073】
そうして、フロントバンパフェイス13bとの衝突の弾みにより、エンジンルーム3を覆うように設けられたボンネットフード7の例えば中央部に歩行者が二次衝突すると、規制部材67及びリンク部材47が、それぞれリベット71及びリベット57aの軸部を中心として車両前側に倒伏するように回動し、ボンネットフード7が前方且つ下方へ移動する。移動したボンネットフード7はカウルボックス9を覆うと共に、当該ボンネットフード7に作用する荷重が所定荷重を超えたときには、当該ボンネットフード7全体が下がることで衝撃を吸収する。このように、規制部材67及びリンク部材47により、ボンネットフード7と車体13との間に確保された所定のストローク(動作距離)の分だけ、ボンネットフード7はあたかも弾性的に変位して、二次衝突による衝撃を吸収する。
【0074】
また、歩行者とボンネットフード7との二次衝突による衝撃が大きく、ボンネットフード7に作用する荷重が所定荷重を超えたときには、脆弱部47fがリンク部材47の座屈変形を促すので、二次衝突の際の運動エネルギーがリンク部材47の変形エネルギーに順次変換される。したがって、ボンネットフード7と車体13との間に確保された所定のストロークによる衝撃吸収と、リンク部材47の座屈変形による衝撃吸収が相俟って、二次衝突による衝撃をより一層吸収する。
【0075】
さらに、比較的撓みやすいボンネットフード7の中央部ではなく、例えば、ボンネットフード7におけるボンネット案内機構15近傍の部分に衝突しても、リンク部材47は、剛な状態を維持することなく脆弱部47fを起点として即座に座屈変形するので、二次衝突の際の運動エネルギーがリンク部材47の変形エネルギーに順次変換される。
【0076】
一方、フロントバンパフェイス13bとの衝突の弾みにより、ボンネットフード7が上方且つ後方へ変位することにより剥き出しになった当該ボンネットフード7の前端に歩行者が二次衝突すると、変形誘発部37を起点として当該変形誘発部37よりも前側の部位が下方に変形して、歩行者とボンネットフード7の前端との二次衝突による衝撃が緩和される。
【0077】
−効果−
本実施形態によれば、フロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突を検知又は予知すると、通常時は後端部を中心に回動するように車体に連結されたボンネットフード7が上方且つ後方へ変位する。これにより、歩行者と車体前部13との二次衝突の前に、ボンネットフード7と車体13との間に二次衝突による衝撃を吸収するための所定のストロークが、換言すると、当該ボンネットフード7とエンジンルーム3に収められたエンジン33との間に所定の空間が確保される。そして、ボンネットフード7に作用する荷重が所定荷重を超えたときには、当該ボンネットフード7全体を下げて衝撃を吸収する。これにより、ボンネットフード7と車体13との間の所定のストロークを利用して、二次衝突(ボンネットフードへの略上方からの衝突)による衝撃を低減することができる。
【0078】
また、ボンネットフード前端部7aには、当該ボンネットフード7の前端に入力される衝撃を緩和する衝撃緩和手段85としての変形誘発部37が設けられており、ボンネットフード7の前端に歩行者が接触すると、変形誘発部37を中心としてボンネットフード7における当該変形誘発部37よりも前側の部位が下方に変形するので、歩行者の運動エネルギーがボンネットフード7の変形エネルギーに順次変換され吸収消化される。上方へ変位したボンネットフード7の前端部7aへの二次衝突による衝撃を低減することができる。
【0079】
また、ボンネットフード7の上昇によって、車体前端部とボンネットフード前端部7aとの間にはスペースが生じているが、変形誘発部37を中心として下方に変形したボンネットフード前端部7aにより、当該スペースが塞がれるので、歩行者のエンジンルーム3への侵入を防ぐことができる。
【0080】
以上により、ボンネットフード7の全域に亘って、フロントバンパフェイス13bと衝突した歩行者の保護を図ることができる。
【0081】
(実施形態2)
本実施形態は、衝撃緩和手段85の構成が上記実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0082】
衝撃緩和手段85は、図13に示すように、下向きに形成されたボンネットフード7のヘミング部77(先端)により構成されている。これにより、ボンネットフード7が上方へ変位することにより剥き出しになった当該ボンネットフード7のヘミング部77が歩行者の方に向くのを抑えることができる。
【0083】
また、ボンネットフード7の上昇によって、車体前端部とボンネットフード前端部7aとの間にはスペースが生じているが、ボンネットフード7のヘミング部77を下向きに形成するにより、当該スペースが若干狭まるので、歩行者のエンジンルーム3への侵入が抑えられる。
【0084】
−効果−
本実施形態によれば、歩行者とボンネットフードの先端との接触が回避されるので、車体の前端部と衝突した歩行者の保護をより一層図ることができる。
【0085】
(実施形態3)
本実施形態は、衝撃緩和手段85の構成が上記各実施形態と異なるものである。以下、実施形態1及び2と異なる点について説明する。
【0086】
図14及び図15に示すように、衝撃緩和手段85は、ボンネットフード7の前端部に設けられている係合部97と、シュラウドメンバ13aに設けられている被覆部材としてのカーテン部材93と、を備えている。係合部97は、弾性を有する樹脂からなっていて、後方に屈曲したフック状に形成されている。この係合部97は、上記ストライカ27前側でヘミング部77の下面に取り付けられている。
【0087】
一方、カーテン部材93は、ナイロン等の繊維製の帯体であり、ボンネットフード7の略全幅に亘って設けられている。このカーテン部材93は、通常時において、その後端がシュラウドメンバ13aに固定される起端部93aと、当該起端部93aの前端に連続し波状に折り畳まれた折畳部93bと、当該折畳部93bの前端から車両前後方向前側に延び、中央部に上方に突出するコ字状の被係合部93dが形成された衝撃吸収部93cとを有している。
【0088】
カーテン部材93は、通常時においてボンネットフード7が閉じた状態では、係合部97が被係合部93dの前方に位置するとともに、フック状の係合部97の先端と、コ字状の被係合部93dで囲まれた空間の中央部とが略一致するようにシュラウドメンバ13aに配設されている。
【0089】
係合部97と被係合部93dとを、このような位置関係とすることにより、係合部97は、当該ボンネットフード7が上記第1ヒンジ部59によりその後部を中心として回動して開くときは、カーテン部材93の被係合部93dに引っ掛からない一方、ボンネットフード7が上方且つ後方へ変位するときは、当該被係合部93dに引っ掛かるようになっている。
【0090】
そうして、係合部97が被係合部93dに引っ掛かると、ボンネットフード7の上方且つ後方への変位にともなって、折畳部93bが拡がるとともにシュラウドメンバ13aに固定される起端部93aの後端を中止としてカーテン部材93が図14の時計回りに回動し、基端部93aを下側且つ衝撃吸収部93cを上側として当該ボンネットフード7とシュラウドメンバ13aとの間で張った状態となる。これにより、当該ボンネットフード7とエンジンルーム3の前方のシュラウドメンバ13a及びフロントバンパフェイス13bとの間に形成される空間が覆われる。
【0091】
また、係合部97が被係合部93dに引っ掛かると、図14に示すように、衝撃吸収部93cが、ボンネットフード7が上方且つ後方へ変位することにより剥き出しになった当該ボンネットフード7の前端を覆う。
【0092】
−効果−
本実施形態によれば、衝撃緩和手段85のカーテン部材93により、ボンネットフード7とエンジンルーム3の前方のシュラウドメンバ13aとの間に形成される空間が覆われるので、歩行者のエンジンルーム3への侵入を防いで、歩行者とエンジンルーム3内に収容されているエンジンとの二次衝突を抑えることができる。
【0093】
さらに、衝撃吸収部93cが、ボンネットフード7の前端を覆うので、歩行者と剥き出しになったボンネットフード7の前端との二次衝突を抑えることができる。
【0094】
(実施形態4)
本実施形態は、衝撃緩和手段85の構成が上記各実施形態と異なるものである。以下、実施形態1〜3と異なる点について説明する。
【0095】
衝撃緩和手段85は、図16に示すように、被覆部材としてのエアバッグ(衝撃吸収部材)99と不図示のインフレータとを有している。エアバッグ99は、エンジンルーム3に形成された収納部(図示せず)に折り畳まれた状態で収納されたナイロン等の繊維製の袋体である。また、インフレータは、点火部とガス発生源とから構成されている。点火部には、上記衝突予知センサ及び衝突検知センサから入力される情報に基づいて、上記CPUから点火信号が送られるようになっており、当該点火信号により点火部が点火してガス発生源より発生する多量のガスにより、エアバック99を膨張展開させる。なお、ガスの種類としては、不活性ガスであることが好ましい。
【0096】
インフレータにより膨張されたエアバッグ99は、ボンネットフード7の前端とフロントバンパフェイス13bとの間に形成される空間に展開され、これと同時に、ボンネットフード7が上方且つ後方へ変位することにより剥き出しになった当該ボンネットフード7の前端を覆う。
【0097】
−効果−
本実施形態によれば、エアバッグ99が、ボンネットフード7の前端とフロントバンパフェイス13bとの間に形成される空間に展開されるので、歩行者のエンジンルーム3への侵入を防ぐことができるとともに、歩行者の受ける衝撃を低減することができる。
【0098】
さらに、エアバッグ99が、ボンネットフード7の前端を覆うので、歩行者と剥き出しになったボンネットフード7の前端との二次衝突を抑えることができる。
【0099】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0100】
上記実施形態1では、衝撃緩和手段85を、変形誘発部37とヘミング部77とで、また、上記実施形態2では、下向きに形成されたボンネットフード7の先端部でそれぞれ構成したが、これに限らず、例えば、衝撃緩和手段85を、下向きに形成されたヘミング部77と当該ヘミング部77の直ぐ後側に形成された変形誘発部37とで構成してもよい。このようにすれば、フロントバンパフェイス13bと衝突した歩行者の保護をより一層図ることができる。
【0101】
また、上記各実施形態では、アクチュエータ35でボンネットフード7を上方に変位させるとともに、リンク部材47を用いた変位機構でボンネットフード7を後方に変位させるようにしたが、これに限らず、例えば、上方且つ後方へ延びるスライド機構によって、ボンネットフード7を上方且つ後方へ案内するようにしてもよい。
【0102】
さらに、上記各実施形態では、サイドメンバ13cに回動可能に軸支された規制部材67の係止部67dを変位量調整部55に引っ掛けることで、ボンネットフード7の後方への過度の変位を規制するようにしたが、これに限らず、例えば、コイルばねによって上方に付勢されており、フロントバンパフェイス13bと歩行者との衝突を予知又は検知したときにサイドメンバ13cから突出して変位量調整部55に挿通される棒状部材により、ボンネットフード7の後方への過度の変位を規制するようにしてもよい。
【0103】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上説明したように、本発明は、車体の前端部と歩行者との衝突時にボンネットフードを上昇させるようにした車両用歩行者保護装置等について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の実施形態1に係る車両の車体前部の平面図である。
【図2】図1のII−II線における矢視断面図である。
【図3】図1のIII−III線における矢視断面図である。
【図4】図1のIV−IV線における矢視断面図である。
【図5】変位機構の分解斜視図である。
【図6】図3のVI−VI線における矢視断面図である。
【図7】ボンネット案内機構の動作を模式的に説明する図である。
【図8】通常時におけるボンネットフードの開閉動作を模式的に説明する図である。
【図9】フロントバンパフェイスと歩行者との衝突を検知又は予知したときの、ボンネットフードの上方且つ後方へ変位動作を模式的に説明する図である。
【図10】ボンネットフードの上方且つ後方への変位が完了した形態を示す側面図である。
【図11】ボンネットフードのヘミング部を示す部分拡大図である。
【図12】(a)は、図11のXIIa−XIIa線における矢視断面図であり、(b)は、図11のXIIb−XIIb線における矢視断面図である。
【図13】実施形態2に係る、図1のIII−III線における矢視断面図に相当する図である。
【図14】実施形態3に係る、車体前部の拡大図である。
【図15】衝撃緩和手段の分解斜視図である。
【図16】実施形態4に係る、図1のIII−III線における矢視断面図に相当する図である。
【符号の説明】
【0106】
3 エンジンルーム
5 車両用歩行者保護装置
7 ボンネットフード
7a 前端部
7b 後端部
9 カウルボックス
13 車体前部(車体)
13a シュラウドメンバ(車体部材)
13b フロントバンパフェイス(車体の前端部)
13c サイドメンバ(車体部材)
15 ボンネット案内機構
19 ダッシュパネル
23 車室
37 変形誘発部
55 変位量調整部
59 第1ヒンジ部(ヒンジ部)
67 規制部材
85 衝撃緩和手段
93 カーテン部材(被覆部材)
99 エアバッグ(衝撃吸収部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと、ヒンジ部を介して後端部を中心に開閉回動自在に車体に連結され、当該エンジンルームの上方を覆うボンネットフードとを有し、車体の前端部と歩行者との衝突を検知又は予知したときに、当該ボンネットフードの少なくとも前部を上方へ変位させる車両用歩行者保護装置であって、
上記ボンネットフードの前端部及び/又は上記車体の前端部に設けられ、上記歩行者とボンネットフードの前端部との二次衝突の際の衝撃を緩和する衝撃緩和手段を備えていることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用歩行者保護装置において、
上記ボンネットフードには、当該ボンネットフードの前端部に荷重が入力されたときに、当該ボンネットフードの前端部を下方に変形させる変形誘発部が形成されており、
上記衝撃緩和手段は、上記変形誘発部及び上記ボンネットフードにおける当該変形誘発部よりも前側の部位で構成されていることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用歩行者保護装置において、
上記ボンネットフードの先端は、下向きに形成されていることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項4】
請求項1記載の車両用歩行者保護装置において、
上記衝撃緩和手段は、上記ボンネットフードの上方への変位にともなって、当該ボンネットフードと上記エンジンルームの前方の車体部材との間に形成される空間の少なくとも一部を覆う被覆部材を有していることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項5】
請求項4記載の車両用歩行者保護装置において、
上記エンジンルームの前方には、車体前部の外表面を構成するフロントバンパフェイスが設けられており、
上記被覆部材は、上記ボンネットフードの前端と上記フロントバンパフェイスとの間に形成される空間に展開される衝撃吸収部材によって構成されていることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両用歩行者保護装置において、
上記車体前部には、上記エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルの上部で車幅方向に延びるカウルボックスが設けられており、
車体の前端部と歩行者との衝突を検知又は予知したときに、上記カウルボックスの少なくとも一部を覆うように、上記ボンネットフード全体を上方且つ後方へ案内すると共に、上記ボンネットフードに作用する荷重が所定荷重を超えたときに、当該ボンネットフード全体を下げるボンネット案内機構をさらに備えていることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項7】
請求項6記載の車両用歩行者保護装置において、
上記ボンネットフードには、当該ボンネットフードの上方且つ後方への変位量を調整するための変位量調整部が設けられており、
上記エンジンルームの側方の車体部材には、上記変位量調整部に対応する位置に、所定の長さを有し且つ車幅方向に延びる軸周りに車両前側に略倒伏した状態から略起立した状態まで回動可能な規制部材が軸支されており、
上記変位量調整部は、上記ボンネットフードがその後部を中心として回動して開くときは、当該ボンネットフードの回動を許容する一方、当該ボンネットフードが上方且つ後方へ変位するときは、上記規制部材と係合して当該規制部材が略起立した状態で止まることにより、当該ボンネットフードの過度の変位を規制するように構成されていることを特徴とする車両用歩行者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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