説明

車両用空気浄化装置

【課題】長期の使用においても臭気の発生がなく、高い浄化機能を維持できる空気浄化装置を目的とする。
【解決手段】本発明の車両用空気浄化装置8は、本体部10の内部空間にて、車両室内及び/又は車両室外の空気を洗浄水と接触させる洗浄手段、空気と接触した洗浄水を貯留する貯留槽30と、該貯留槽30の洗浄水を前記洗浄手段に供給する送液手段と、前記洗浄水を電気分解する電気分解手段と、浄化した空気を車両室内に供給する送風手段と、を有することよりなる。前記貯留槽30は、本体部10と着脱可能に接続されていることが好ましく、前記電気分解手段は、その電極が水浸透性部材に装着されていることが好ましく、前記洗浄水の遊離残留塩素濃度又は遊離残留臭素濃度が0.1〜10mg/Lに制御されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用空気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の空気浄化装置としては、フィルタで粉塵を捕捉する集塵フィルタや、ガス状物質を活性炭等の吸着・吸収剤入フィルタを用いて吸着除去を行うフィルタ式空気浄化装置がある。しかし、これらのフィルタ式空気浄化装置は、集塵フィルタの目詰まりや、吸着・吸収剤入フィルタが飽和状態になることにより、浄化能力が損なわれる。また、外気を取り込むことにより、空気の浄化を図る手段もあるが、取り込む大気の清浄度が問題になる。このような問題に対し、気液接触により空気中の塵や、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、NH等の大気汚染物質を洗浄水中に取り込み、空気の浄化と換気を行う空気浄化装置が報告されている(例えば、特許文献1)。特に車両用の空気浄化装置として、このような気液接触による空気浄化装置は、自車両及び他車両から排出されるNOx、SOxを除去するのに有効である。
【0003】
上述のような気液接触による車両用空気浄化装置では、空気と接触させる水(以下、洗浄水という)の供給が限られるため、洗浄水を循環させている。このため、長期の使用の間に洗浄水中の微生物が増殖して臭気を発生し、この臭気が車内に流入するおそれがある。こうした問題に対し、抗菌セラミックスやUV殺菌ランプを用いて洗浄水を殺菌する、空気浄化装置が報告されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−188222号公報
【特許文献2】特開2000−70644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、抗菌セラミックスによる洗浄水の殺菌では、抗菌セラミックスと接触した洗浄水のみが殺菌されるため、洗浄水の殺菌効果が低い。また、UV殺菌ランプによる殺菌は、照射面のみに有効であり、その殺菌効果の持続性が低い。持続性の高い殺菌方法として、次亜塩素酸等の殺菌剤を添加する方法があるが、洗浄剤の遊離残留塩素濃度を把握しながら、殺菌剤の補充を行うことは煩雑である。さらに、大気中より洗浄水中へ取り込まれる物質には、次亜塩素酸等を消費する物質が多く含まれ、殺菌剤の補充が必要となる。殺菌剤の補充により殺菌効果は維持できるが、殺菌剤の補充は洗浄水中の塩濃度を高めることになり、空気浄化装置の浄化機能を低下させることになる。そのため、洗浄水の交換が必要となる。
そこで、本発明は、洗浄水の交換頻度を減らし、長期の使用においても臭気の発生がなく、高い浄化機能を維持できる車両用空気浄化装置を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両用空気浄化装置は、車両室内及び/又は車両室外の空気を取り込む吸気手段と、浄化した空気を車両室内に供給する送風手段とが設けられた本体部と、車両室内及び/又は車両室外の空気と洗浄水とを接触させる洗浄手段と、前記洗浄水を電気分解する電気分解手段と、を有することを特徴とする。さらに、空気と接触した洗浄水を貯留する貯留槽と、該貯留槽の洗浄水を前記洗浄手段に供給する送液手段と、を有することが好ましく、前記貯留槽は、本体部と着脱可能に接続されていることが好ましく、前記電気分解手段は、その電極が水浸透性部材に装着されていることが好ましく、前記水浸透性部材は、陰イオン交換基を有することが好ましく、前記陰イオン交換基は、対イオンがハロゲン化物イオンであることが好ましい。前記洗浄水の遊離残留塩素濃度又は遊離残留臭素濃度が0.1〜20mg/Lに制御されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の車両用空気浄化装置によれば、次亜塩素酸等の殺菌剤を投入することなく、長期の使用においても臭気の発生を防ぎ、高い浄化機能を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下に実施形態を挙げて説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限られるものではない。
【0008】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる車両用空気浄化装置8の模式図である。なお、説明の便宜上、送風ファン26の設置されている方向を上方、貯留槽30の設置されている方向を下方として説明する。
【0009】
図1に示すように、車両用空気浄化装置8は、本体部10と貯留槽30とを有している。本体部10には、その下方の側面に吸気口12が設けられ、上方の側面に排気口14が設けられている。吸気口12は、車両室内又は車両室外の空気を取り込むダクトと接続されている(不図示)。排気口14は、車両室内に通じる送風路と接続されている(不図示)。本体部10の底面15は、吸気口12に向かって下がる傾斜面を形成し、その傾斜面の最も低い部分に排水管28が設けられている。排水管28には開閉バルブ32が設けられている。
【0010】
本体部10の内部空間には、吸気口12の上方で、かつ、排気口14の下方に、エリミネータ18が設けられ、エリミネータ18の上方には、エリミネータ18の上面と接して除湿機16が設けられている。そして、エリミネータ18と除湿機16により、本体部10の内部空間は、吸気側室11と排気側室13に仕切られている。排気側室13には、送風ファン26が設置されている。吸気側室11には、吸気口12の上方で、エリミネータ18の下方の位置に、噴霧ノズル20が設けられている。
【0011】
吸気側室11の吸気口12の下方には、貯留槽30が設置されている。貯留槽30の上部には、開口部31が設けられている。貯留槽30は、開口部31に排水管28が挿入されて、本体部10と着脱可能に接続されている。
【0012】
貯留槽30には、一対の電極34が設けられ、電極34は図示されない電源と接続されている。貯留槽30は、配管37によりポンプ40と接続され、ポンプ40は配管42により噴霧バルブ20と接続されている。配管37には、開閉バルブ36が設けられている。
【0013】
本実施形態において、「洗浄手段」は、吸気側室11と噴霧ノズル20とで構成されている。「電気分解手段」は、電極34と、電極34に接続されている電源とで構成されている。「送液手段」は、開閉バルブ36と配管37、42とポンプ40とで構成されている。「吸気手段」は、吸気口12である。「送風手段」は、排気口14と送風ファン26とで構成されている。
【0014】
本体部10の材質は特に限定されず、ステンレス、各種プラスチック等の中から選択することができる。車両用空気浄化装置8は、電気分解手段による洗浄水の電気分解によりCl、Br等のハロゲン単体、HClO(次亜塩素酸)、HBrO(次亜臭素酸)等の次亜ハロゲン酸、ClO、BrO等の次亜ハロゲン酸イオン、ClO、ClO、ClO等(以下、総じて次亜ハロゲン酸等ということがある)が生成される。このため、次亜ハロゲン酸等による腐食、劣化の耐性の高いものを選択することが好ましい。また、車両用であるため、軽量化の観点から、プラスチックを用いることが好ましい。
【0015】
除湿機16は、本体部10の大きさ等を勘案して決定することができる。例えば、ヒートポンプを熱源とした熱交換器で空気を冷却し、洗浄後の空気中の水分を凝縮させて取り除く手段や、デシカントロータ等を挙げることができる。
【0016】
エリミネータ18は、霧状の洗浄水を除去するための水滴除去部であり、公知のエリミネータを使用することができる。
【0017】
噴霧ノズル20は、吸気口12から取り込まれた空気と、洗浄水とを満遍なく接触できるものであればよい。ここで、吸気側室11内における水滴の落下終末速度が、空気の流速よりも大きい場合には、NOx、SOx、NH等の可溶性ガスの溶解効率は接触する洗浄水の粒子径に依存し、水滴の粒子径が小さい方が、可溶性ガスの溶解効率が高くなる。このため、洗浄水を粒子径10〜1000μmの霧状に噴霧できるものが好ましく、より好ましくは300〜1000μmの霧状に噴霧できるものである。噴霧ノズル20の数量は、吸気側室11の大きさと噴霧ノズル20の能力とを勘案して決定することができ、1個であってもよいし、2個以上が設置されていてもよい。
【0018】
貯留槽30の材質は、本体部10と同様である。
一対の電極34は、陽極と陰極である。電極34の形態は特に限定されず、板、多孔質体、パンチングメタル、エキスバンドメタル等が挙げられる。
【0019】
電極34の材質は、陽極又は陰極として機能するものであれば特に限定されず、陰極の材質は、例えば導電性炭素材料、鉄、ステンレス、その他の金属が挙げられる。陽極の材質は、白金、金等の貴金属類、チタン基板に白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、タンタル等を単独又は複数成分混合して、メッキあるいはこれらの焼結体酸化物被膜を形成させたものが挙げられる。洗浄水に硬度成分が多く含まれる場合には、定期的に陽極と陰極とを反転させることにより、陰極への硬度スケールの付着を抑制することができる。この場合、電極34には、陽極・陰極共に、上述した陽極の材質を用いることが好ましい。また、電極34における次亜塩素酸等の生成を効率よく行う観点から、陽極の材質は、イリジウム、ルテニウムが含まれることが好ましい。
【0020】
車両用空気浄化装置8を用いた、空気の浄化方法について図1を用いて説明する。
まず、貯留槽30に洗浄水を入れ、電極34が洗浄水に浸かる状態にする。電極34に直流電圧を印加する。電極34に直流電圧を印加すると、例えば洗浄水に塩化物イオンが含まれる場合には、陽極での電極反応により下記(1)〜(2)式の反応が生じ、例えば次亜塩素酸を生成する。生成した次亜塩素酸は洗浄水に溶解し、任意の次亜塩素酸濃度の洗浄水となる。
【0021】
2Cl→Cl+2e ・・・(1)
Cl+HO→HCl+HClO ・・・(2)
【0022】
また、例えば洗浄水に臭化物イオンが含まれる場合には、陽極での電極反応により下記(3)〜(4)式の反応が生じ、例えば次亜臭素酸を生成する。生成した次亜臭素酸は洗浄水に溶解し、任意の次亜臭素酸濃度の洗浄水となる。
【0023】
2Br→Br+2e ・・・(3)
Br+HO→HBr+HBrO ・・・(4)
【0024】
次いで、開閉バルブ32、36を開としてポンプ40を起動し、貯留槽30の洗浄水を配管37、ポンプ40、配管42の順に流通させ、噴霧ノズル20に供給する。噴霧ノズル20に供給された洗浄水は、噴霧ノズル20から吸気側室11に噴霧される。噴霧された洗浄水は、排水管28を経由して貯留槽30へ至る。この様に、洗浄水は、車両用空気浄化装置8の中で循環されている。
【0025】
洗浄水を循環している間、送風ファン26が起動されると、本体部10の内部空間が減圧状態となり、車両室内又は車両室外の空気(以下、単に空気ということがある)が吸気口12から吸気側室11に取り込まれる。取り込まれた空気は、吸気側室11で、噴霧された洗浄水と接触する。この際、空気中の塵、臭気成分、NOx、SOx、NH等が洗浄水によって吸収除去される。加えて、空気中の一酸化炭素は、洗浄水中の次亜ハロゲン酸等により酸化されて二酸化炭素となり、洗浄水に溶解する。こうして、浄化された空気は、エリミネータ18を通過して上昇する。この際、空気中の水分は、エリミネータ18に付着して補足され、水滴となって供給側室11に落下し、排水管28を経由して貯留槽30へと至る。エリミネータ18を通過した空気は、除湿機16を通過して排出側室13に至る。この間、空気は、除湿機16により、任意の湿度に調節される。除湿機16を通過した空気は、送風ファン26により、排出口14から送風路を経由して車両室内に送られる。汚染物質を取り込んだ洗浄水、及び、エリミネータ16から落下した水滴は、吸気側室11内を落下し、排水管28を経由して、洗浄水として貯留槽30に貯留される。貯留された洗浄水は、電極34で電気分解されて次亜ハロゲン酸等を含むこととなり、洗浄水の殺菌と、アンモニア態窒素化合物の分解が行われる。
【0026】
洗浄水に取り込まれた物質に、アンモニア態窒素化合物が含まれる場合、アンモニア態窒素化合物は、電極34で発生した次亜ハロゲン酸等により分解し除去される。例えば、電極34で発生した次亜ハロゲン酸等が次亜塩素酸の場合には、下記(5)式によって分解し除去される。
【0027】
2NH+3HClO→N+3HCl+3HO ・・・(5)
【0028】
任意の期間、車両用空気浄化装置8を運転し、洗浄水が減少、又は、洗浄水の汚染が著しい場合には、開閉バルブ32、36を閉として、貯留槽30を本体部10から取り外し、洗浄水の補充、又は、洗浄水の交換を行う。
【0029】
洗浄水に用いられる水は清浄な水であれば特に限定されず、水道水、井水、蒸留水、純水、電解水等、及び、これらの水に無機ハロゲン化物を添加して用いることができる。中でも、電極34で電解した際に、洗浄水の殺菌に必要な次亜塩素酸や次亜臭素酸等を生成させるためには、水道水等のハロゲン化物イオンを含む水や、無機ハロゲン化物を添加した水を用いることが好ましい。また、蒸留水、純水等に添加する無機ハロゲン化物としては、塩化物、臭化物、フッ化物等が挙げられ、中でも、塩化物、臭化物を添加することが好ましい。塩化物、臭化物を添加することで、電解した際に、洗浄水の殺菌に必要な次亜塩素酸や次亜臭素酸を効率的に発生することができるためである。塩化物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩酸等が挙げられ、臭化物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化水素酸等が挙げられる。なお、前記純水とは、逆浸透膜装置又はイオン交換装置によって精製された水をいう。前記電解水とは、水を電気分解した際に、陽極側に生成される陽極水、及び/又は、陰極側に生成される陰極水とをいう。
【0030】
洗浄水に発生させる次亜ハロゲン酸等は特に限定されないが、微生物の増殖抑制の観点から、塩素単体、臭素単体、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸イオン、次亜臭素酸イオンであることが好ましく、中でも次亜塩素酸、次亜臭素酸がより好ましい。洗浄水の次亜塩素酸濃度は、遊離残留塩素濃度として0.1〜20mg/Lが好ましく、0.1〜10mg/Lがより好ましく、1〜3mg/Lがさらに好ましい。洗浄水の遊離残留塩素濃度を上述の範囲とすることで、浄化後の空気における塩素の臭気を抑制し、かつ、洗浄水中の微生物増殖を有効に抑えることができるためである。なお、遊離残留塩素濃度は、DPD法(上水試験方法 2001年版 17.3 ジエチル−P−フェニレンジアミン(DPD)による吸光光度法)により測定される値である。
【0031】
洗浄水の次亜臭素酸濃度は、遊離残留臭素濃度として0.1〜20mg/Lが好ましく、0.1〜10mg/Lがより好ましく、1〜3mg/Lがさらに好ましい。洗浄水の遊離残留臭素濃度を上述の範囲とすることで、浄化後の空気における臭気を抑制し、かつ、洗浄水中の微生物増殖を有効に抑えることができるためである。なお、遊離残留臭素濃度は、DPD法(上水試験方法 2001年版 17.3 ジエチル−P−フェニレンジアミン(DPD)による吸光光度法)により測定される値である。
【0032】
洗浄水のpHは、低い方が次亜ハロゲン酸等による殺菌効果が高く、高い方がNOx、SOx等の酸性ガスが洗浄水に溶解し易い。従って、洗浄水のpHは、洗浄水の水質等を勘案して決定することができ、例えばpH3〜12が好ましく、pH4〜10がより好ましい。洗浄水のpHが上記範囲であれば、次亜ハロゲン酸等による洗浄水の殺菌効果を損ねることなく、空気からNOx、SOx等の酸性ガスを効率よく除去することができる。なお、洗浄水中の次亜ハロゲン酸等の濃度は、洗浄水の水質に応じた電極34への印加電圧の調整により、制御することができる。
【0033】
電極34に印加する電解電流密度は、電極34の材質、洗浄水の原水の水質、洗浄水に求める遊離残留塩素濃度又は遊離残留臭素濃度に応じて決定することができ、例えば、0.001〜10A/dmの範囲で決定することが好ましい。
【0034】
電極34に印加する電解電流密度は、洗浄水の水質に応じて制御してもよい。例えば、洗浄水中のNHの濃度を測定し、得られた濃度を基にNHの分解に必要な次亜ハロゲン酸等の濃度を決定し、決定した次亜ハロゲン酸等の濃度となるように電解電流密度を制御してもよい。また、例えば、洗浄水の導電率から洗浄水の塩化物イオン濃度を推定し、推定した塩化物イオン濃度に基づいて、任意の次亜ハロゲン酸等の濃度になるように、電極部に印加する電解電流密度を制御してもよい。かかる制御により、洗浄水に必要な次亜ハロゲン酸等の濃度を適切に維持することができる。
【0035】
車両用空気浄化装置8は、例えば、本体部10、貯留槽30、ポンプ40をダッシュボード内に設置し、吸気口12を既存の外気導入用の配管と接続し、排気口14を車両室内に露出させて用いることができる。また、車両用空気浄化装置8をエンジンルームに設置し、吸気口12をエアコンディショナーの外気導入用の配管と接続し、排気口14をエアコンディショナーの熱交換器の一次側と接続して用いてもよい。かかる使用態様により、車両室外の空気を浄化して、浄化した空気を車両室内に供給することができる。
【0036】
上述の通り、本体部内で洗浄水と空気とを接触させることで、空気中の塵、臭気成分、大気汚染物質(NOx、SOx等)を高度に除去することができる。洗浄水は、車両用空気浄化装置内を循環するため、新たな洗浄水を常時供給するための水源を必要とせず、水の供給源の確保が困難な車両用として好適である。加えて、洗浄水を電解することで、洗浄水は、任意の濃度の次亜ハロゲン酸等を含有することとなり、薬剤の補充や洗浄水を頻繁に交換しなくても、洗浄水中の微生物増殖を抑え、この結果、微生物増殖による臭気発生を防止することができる。加えて、洗浄水中の次亜ハロゲン酸等の濃度は、電極への印加電圧の調整により制御できる。このため、洗浄水中の微生物増殖を抑制し、かつ塩素等の臭気を抑えた、適切な次亜ハロゲン酸等の濃度の洗浄水とすることができる。さらに、洗浄水中の次亜ハロゲン酸等により、空気中の一酸化炭素は酸化されて二酸化炭素となる。二酸化炭素は一酸化炭素に比べて洗浄水への溶解度が高いため、空気中の一酸化炭素を効率的に除去できる。
【0037】
貯留槽は、本体部と着脱可能に接続されているため、洗浄水の交換が容易である。加えて、電解手段の印加電圧の調整により、洗浄水の遊離残留塩素濃度又は遊離残集臭素濃度を0.1〜20mg/Lに制御することで、洗浄水の殺菌効果の維持と、浄化後空気の塩素の臭気を抑制することができる。
【0038】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施形態にかかる車両用空気浄化装置108の模式図である。なお、説明の便宜上、送風ファン26の設置されている方向を上方、貯留槽130の設置されている方向を下方として説明する。
【0039】
図2に示すように、車両用空気浄化装置108は、本体部110と貯留槽130とを有している。本体部110には、その下方の側面に吸気口112が設けられ、上方の側面に排気口14が設けられている。吸気口112は、車両室内又は車両室外の空気を取り込むダクトと接続されている(不図示)。排気口14は、車両室内に通じる送風路と接続されている(不図示)。本体部110の底面115は、吸気口112に向かって下がる傾斜面を形成し、その傾斜面の最も低い部分に排水管128が設けられている。排水管128には、水浸透性部材133が設けられ、水浸透性部材133には、一対の電極132が装着されている。電極132は、図示されない電源と接続されている。
【0040】
本体部110の内部空間には、吸気口112の上方で、かつ、排気口14の下方に、エリミネータ18が設けられ、エリミネータ18の上方には、エリミネータ18の上面と接して除湿機16が設けられている。そして、エリミネータ18と除湿機16により、本体部110の内部空間は、吸気側室111と排気側室13に仕切られている。吸気側室111には、吸気口112の上方に支持体124が設けられ、支持体124の上方に気液接触層122が設けられている。気液接触層122の上方で、エリミネータ18の下方の位置には、散水ノズル120が設けられている。
【0041】
貯留槽130は、配管135、137と着脱可能に接続されている。貯留槽130は、配管135により排水管128と接続され、配管137によりポンプ40と接続されている。ポンプ40は配管42により、散水ノズル120と接続されている。配管135は開閉バルブ134を有し、配管137は開閉バルブ136を有している。
【0042】
本実施形態において、「洗浄手段」は、吸気側室111と散水ノズル120と気液接触層122とで構成されている。「電気分解手段」は、電極132と、電極132に接続されている電源とで構成されている。「送液手段」は、開閉バルブ136と配管137、42とポンプ40とで構成されている。「吸気手段」は、吸気口112である。「送風手段」は、排気口14と送風ファン26とで構成されている。
【0043】
本体部110の材質は、本体部10と同様のものを用いることができる。貯留槽130の材質は、貯留槽30と同様のものを用いることができる。電極132の材質、形状は、電極34と同様である。
【0044】
気液接触層122の構造は特に限定されるものではなく、空気の洗浄が充分に行えるように、洗浄水と空気とが接触できる構造であればよく、充填塔、棚段塔のいずれの構造であってもよい。この内、充填塔が、単純な構造で装置コストが小さく、かつ圧力損失が小さいために好ましい。充填塔の気液接触層122内の充填部材は特に限定されることはなく、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、サドル、スルザーパッキン、テラレット等を挙げることができる。棚段塔としては、例えば多孔板塔等を挙げることができるが、棚段数や、孔の大きさは何ら限定されることはない。
【0045】
支持体124は、気液接触層122内の充填部材を保持することができれば特に限定されず、例えば樹脂製又は金属製のメッシュや、不織布等を挙げることができる。
なお、気液接触層122が棚段塔の構造である場合には、支持体124は設置しなくてもよい。
【0046】
水浸透性部材133は、排水管128に固定されていてもよいし、洗浄水の水位の変動に追従するように、浮動させてもよい。
水浸透性部材133は、洗浄水が浸透するものであればよく、例えば、脱脂綿、布、不織布、スポンジ等の多孔質体が挙げられる。中でも、保形性、強度、被処理水の流通性の観点から、後述する多孔質体を用いることが好ましい。
【0047】
多孔質体は、空孔を多数有する基材をいい、空孔の形状、大きさ、細孔容積等は何ら限定されるものではない。多孔質体が有する空孔は、例えば発泡等により生じた空孔の他、粒子が凝集して三次元的に連続した骨格を形成し該骨格間に形成された空隙を含むものである。多孔質体の構造は、空孔が連続的及び/又は非連続的に形成されたものであればよく、特開2003−246809号、特開2002−306976号、特表平7−501140号に記載されているようなモノリス状等が挙げられる。
【0048】
水浸透性部材133の材質は特に限定されないが、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体、シリコーン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリスルホンポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン、パーフルオロアルコキシアルカン等の高分子物質を原料とした発泡材でもよいし、セラミック等の無機酸化物質を材料とした多孔質体でもよい。また、圧縮乾燥ならびに凍結乾燥(フリーズドライ)した多孔質体を用いることもできる。多孔質体は、通水性を確保する観点から、三次元的に連続した空孔が形成されたいわゆるモノリス状多孔質体であることが特に好ましい。モノリス状多孔質体は、空孔が連通し、高い吸水性ならびに通水性を有しているため好ましい。
【0049】
多孔質体が有する空孔の大きさは特に限定されないが、孔径が1〜1000μmであることが好ましい。上述の範囲であれば、良好な通水性と強度が得られるためである。多孔質体の細孔容積は特に限定されないが、例えば、1〜50mL/gであることが好ましい。上述の範囲であれば、良好な通水性と強度が得られるためである。なお、細孔容積はJIS−K1150の水銀圧入法により求められる値である。
【0050】
必要に応じて、水浸透性部材133は、導電性が付与されたもの、あるいはイオン交換基を有するものであっても良い。水浸透性部材133に導電性を付与する方法としては、導電性物質を水浸透性部材133の原料に添加する方法や、高分子反応やグラフト重合等で導入する方法が挙げられる。添加する導電性物質としては特に限定されないが、例えば、導電性金属や、グラファイト、グラッシーカーボン等の炭素材、基本骨格に共役型の二重結合を有するポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレン等の導電性高分子等を挙げることができる。また、イオン交換基を水浸透性部材133に高分子反応やグラフト重合等で導入することで、導電性を付与することができる。
【0051】
イオン交換基を有する水浸透性部材133とは、水に流出しない形態で、イオン交換体を原料に添加、あるいは水浸透性部材133に吸着させたもの、イオン交換基を水浸透性部材133に高分子反応やグラフト重合等で導入したものを含むものである。このようなイオン交換基を有する水浸透性部材133は、例えば、イオン交換繊維や、イオン交換樹脂を粉砕あるいは磨砕したイオン交換体粒子を、発泡前の原料に添加して製造したり、前記イオン交換体粒子を水浸透性部材133に塗布して製造したりすることができる。また、イオン交換繊維を織って布にしたり、磨砕し不織布とすることができる。イオン交換基の均一性から考えると、多孔質体にイオン交換基を高分子反応やグラフと重合等で導入したものや、イオン交換繊維による布や不織布が好ましい。
【0052】
水浸透性部材133に含まれるイオン交換基としては、四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等の陰イオン交換基、又は、スルホン酸基、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等の陽イオン交換基が挙げられる。この内、水浸透性部材133に含まれるイオン交換基は、陰イオン交換基であることが好ましい。陰イオン交換基を有することで、陽極側近傍に洗浄水中の陰イオン成分の濃度を高めることができ、洗浄水を電気分解した際の次亜ハロゲン酸等の発生率が向上するためである。
【0053】
加えて、水浸透性部材133に含まれる陰イオン交換基は、その対イオンがハロゲン化物イオンであることが好ましい。ハロゲン化物イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン等を挙げることができる。このようなハロゲン化物イオンが対イオンであると、洗浄水中のハロゲン化物イオンの濃度が希薄であっても、塩素、臭素等のハロゲン単体の発生率が向上し、効率的に次亜ハロゲン酸を発生することができる。この結果、電極132の電流密度を下げて、車両用空気浄化装置108を運転することができる。
【0054】
上述したものの他、水浸透性部材133としては、耐酸化性イオン交換体を使用することができる。
【0055】
水浸透性部材133への電極132の装着の形態は特に限定されず、陰極となる電極132と陽極となる電極132とが、水浸透性部材133を介して通電できるものであればよい。水浸透性部材133への電極132の装着形態を図3〜7に例示する。以下、電極が水浸透性部材に装着されたものを総じて電極部という。
【0056】
例えば、図3に示すように、板状の水浸透性部材133aが、一対の電極132で挟持された電極部を挙げることができる。
【0057】
また、他の形態として、図4に示すように、複数の水浸透性部材133bが、一対の電極132で、流体の流路310を形成するように挟持された電極部を挙げることができる。かかる電極部は、一対の電極132の間に、流路310が設けられていることで、一対の電極132間の洗浄水の流通が円滑になり、洗浄水の電気分解効率を向上させることができる。加えて、陽極から発生する酸素ガスや、陰極から発生する水素ガスが、水浸透性部材133bから放出されやすくなるためである。
【0058】
さらに他の形態として、図5に示すように、略円筒形の水浸透性部材133cに、一対の電極132が挿入されたものを挙げることができる。かかる電極部は、排水管128(図2)が円筒形である場合に、好適に設置できる。
【0059】
イオン交換基を有する水浸透性部材を用いた電極部の例として、例えば図6に示すように、陽イオン交換基を含む多孔質体331が、陰イオン交換基を含む多孔質体330で挟持された板状の水浸透性部材133dを一対の電極132で挟持した電極部を挙げることができる。電極132で挟持される水浸透性部材133dの一部を、陽イオン交換基を含む多孔質体331とすることで、洗浄水に取り込まれたNH等の陽イオン成分が電極132の間を流通できる。この結果、電極132近傍で発生した次亜ハロゲン酸等により、臭気成分の一つであるアンモニア態窒素化合物を効率的に分解することができる。
【0060】
イオン交換基を有する水浸透性部材を用いた電極部の他の例として、図7に示すように、陽イオン交換基を有する板状の多孔質体341の両面に、陰イオン交換基を有する多孔質体340が配置された略円筒形の水浸透性部材133eに、一対の電極132が、陽イオン交換体340と略平行に、かつ、陽イオン交換基を含む水浸透性部材340と接触しない状態で配置されたものが挙げられる。かかる形態の電極部は、円筒形状の配管途中への設置に好適であり、かつ、アンモニア態窒素化合物を効率的に分解することができる。
【0061】
また、電極132の表面に耐酸化性イオン交換膜を配置してもよい。耐酸化性イオン交換膜を配置した電極132を多孔質体133に装着することで、多孔質体133の劣化を防止することができるためである。
【0062】
車両用空気浄化装置108を用いた、空気の浄化方法について図2を用いて説明する。
まず、バルブ134、136を開として、貯留槽130に洗浄水を入れ、水浸透性部材133が洗浄水に浸かる状態にする。電極132に直流電圧を印加する。電極132に直流電圧を印加すると、水浸透性部材133に浸透した洗浄水の電解反応を生じる。洗浄水に塩化物イオンが含まれる場合には、第一の実施形態の電極34と同様に、陽極側で例えば次亜塩素酸が生成する。生成した次亜塩素酸は、洗浄水に溶解し、任意の次亜塩素酸濃度の洗浄水となる。同様に、洗浄水に臭化物イオンが含まれる場合には、第一の実施形態の電極34と同様に、陽極側で例えば次亜臭素酸が生成する。生成した次亜臭素酸は、洗浄水に溶解し、任意の次亜臭素酸濃度の洗浄水となる。
【0063】
次いで、ポンプ40を起動し、貯留槽130の洗浄水を配管137、ポンプ40、配管42の順に流通させ、散水ノズル120に供給する。散水ノズル120に供給された洗浄水は、散水ノズル120から気液接触層122の上面に向けて散水される。散水された洗浄水は、気液接触層122の充填部材表面や多孔板表面に濡れ面を形成しながら底面115に至り、底面115から排水管128に流れ、配管134を経由して貯留槽130に至る。この様に、洗浄水は、車両用空気浄化装置108の中で循環されている。
【0064】
洗浄水を循環している間、送風ファン26が起動されると、吸気口112から吸気側室111に空気が取り込まれる。取り込まれた空気は、気液接触層122の下方から気液接触層122を上昇する。この間、気液接触層122内では、洗浄水と空気とが接触し、空気中の塵、臭気成分、NOx、SOx、NH等の汚染物質が洗浄水によって吸収除去される。加えて、空気中の一酸化炭素は、洗浄水中の次亜ハロゲン酸等により酸化されて二酸化炭素となり、洗浄水に溶解する。浄化された空気は、エリミネータ18を通過して上昇する。この際空気中の水分は、エリミネータ18に付着して補足され、水滴となって供給側室111に落下し、排水管128を経由して貯留槽130へと至る。エリミネータ18を通過した空気は、除湿機16を通過し、送風ファン26により、排出口14から送風路を経由して車両室内に送られる。汚染物質を取り込んだ洗浄水、及び、エリミネータ16から落下した水滴は、気液接触層122を流下し、排水管128に至り、洗浄水として貯留槽130に貯留される。この間、洗浄水は電極132で電気分解されて次亜ハロゲン酸等を含むこととなり、洗浄水の殺菌と、アンモニア態窒素化合物の分解が行われる。
【0065】
任意の期間、車両用空気浄化装置108を運転し、洗浄水が減少、又は、洗浄水の汚染が著しい場合には、開閉バルブ134、136を閉として、貯留槽130を本体部110から取り外し、洗浄水の補充、又は、洗浄水の交換を行う。
【0066】
第二の実施形態における洗浄水は、第一の実施形態の洗浄水と同様である。また、電極132へ印加する電流、及び、電極間の電解電流密度は、第一の実施形態と同様である。
【0067】
車両用空気浄化装置108の車両上での設置箇所は、車両用空気浄化装置8と同様である。
【0068】
空気浄化装置を車両用として適用する場合、車両の振動や傾き等により、洗浄水の水位が大きく変化する。本発明によれば、水浸透性部材に電極を挿入することで、洗浄水が浸透・保持できるため、車両の振動や傾きにより電極から洗浄水が切れて電流が流れなくなることを防ぎ、安定して通電する事が可能となり電流制御が行いやすくなる。さらに、水浸透性部材に導電性を付与又はイオン交換基を導入したものを使用することで、印加電圧を下げることができる。また、陰イオン交換基を有する水浸透性部材を使用することで、次亜ハロゲン酸等の発生効率が高くなり電流密度を下げることができる。さらに、水浸透性部材の有する陰イオン交換基は、対イオンをハロゲン化イオンとすることで、次亜ハロゲン酸等の発生効率をさらに高めることができる。
この結果、洗浄水の次亜ハロゲン酸等の濃度を任意の範囲で安定的に制御することができる。
【0069】
(第三の実施形態)
本発明の第三の実施形態について、図8を用いて説明する。図8は、本発明の実施形態にかかる車両用空気浄化装置400の模式図である。
【0070】
図8に示すように、車両用空気浄化装置400は、吸気口412と排気口414とが設けられた本体部410を有している。吸気口412は、車両室内又は車両室外の空気を取り込むダクトと接続されている(不図示)。排気口414は、車両室内に通じる送風路と接続されている(不図示)。本体部410の内部空間420には、一対の電極430が設けられ、電極430は図示されない電源と接続されている。そして、内部空間420には、洗浄水が貯留されている。本実施形態における「洗浄手段」は、内部空間420である。「吸気手段」は吸気口412であり、「送風手段」は排気口414である。
【0071】
本体部410の形状は、吸気口412から取り込んだ空気と、内部空間420内の洗浄水とを接触させて、空気の洗浄を行えるものであればよく、例えば、立方体形状、円柱形状や、ホースのような管状のものが挙げられる。
【0072】
電極430は、第一の実施形態の電極34と同じである。また、電極430は、第二の実施形態の電極132のように、水浸透性部材に装着されていてもよい。
【0073】
車両用空気浄化装置400を用いた空気の浄化方法の一例について説明する。内部空間420に洗浄水を入れ、電極430が洗浄水に浸かる状態とする。電極430に直流電圧を印加する。電極430に直流電圧を印加すると、電極430近傍で洗浄水の電解反応が生じる。洗浄水中に塩化物イオンが含まれる場合には、第一の実施形態の電極43と同様に、陽極側で例えば次亜塩素酸が生成する。生成した次亜塩素酸は、洗浄水に溶解し、任意の次亜塩素酸濃度の洗浄水となる。同様に、洗浄水に臭化物イオンが含まれる場合には、第一の実施形態の電極34と同様に、陽極側で例えば次亜臭素酸が生成する。生成した次亜臭素酸は、洗浄水に溶解し、任意の次亜臭素酸濃度の洗浄水となる。
【0074】
電極430に直流電圧を印加した状態で、車両用空気浄化装置400を搭載した車両を走行させることで、自然吸気により吸気口412から車両室外の空気を内部空間420に取り込む。この際、車両の運転に伴う振動により、洗浄水は、内部空間420内で攪拌されながら、取り込んだ空気と接触する。そして、空気中の塵、臭気成分等が洗浄水に移行し、空気は浄化される。浄化された空気は、排気口414から送風路を経由して車両室内に送られる。
【0075】
任意の期間。車両用空気浄化装置400を運転し、洗浄水の減少、又は、洗浄水の汚染が著しい場合には、内部空間420内の洗浄水の補充、もしくは、洗浄水の交換を行う。
【0076】
車両用空気浄化装置400の車両上での設置箇所は、車両用空気浄化装置8と同様である。
【0077】
本実施形態では、車両の走行により内部空間への空気を取り込み、及び、車両の走行により浄化した空気の送風が行える。加えて、空気と洗浄水との接触は、車両走行等による振動を利用している。このため、洗浄水の噴霧や、洗浄水の送液手段等を有することなく、単純な構造で空気の浄化が行える。この結果、電極に印加する直流電圧以外には、電源を必要としないため、車両に搭載するバッテリーの容量の大型化あるいはバッテリーの増設を最小限とすることができる。
【0078】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
第一の実施形態では、洗浄手段が、噴霧ノズルと吸気側室とで構成されているが、洗浄手段はこれに限られず、第二の実施形態のごとく、散水ノズルと気液接触層と吸気側室とで構成されていてもよい。同様に、第二の実施形態において、第一の実施形態のごとく、噴霧ノズルと吸気側室とで洗浄手段が構成されていてもよい。
【0079】
第一の実施形態では、電極が直接洗浄水に浸けられているが、第二の実施形態のように水浸透性部材に挿入されていてもよい。
【0080】
第一の実施形態では貯留槽に電極が設置され、第二の実施形態では排水管に電極が設置されているが、電極の設置位置はこれに限られない。例えば、貯留槽の洗浄水を洗浄手段に送液する配管内に、電極が設置されていてもよい。
【0081】
第一、第二の実施形態では、洗浄手段の上方にエリミネータと除湿機とが設けられているが、エリミネータと除湿機のどちらか一方のみであってもよい。
【0082】
第一、第二の実施形態では、貯留槽が本体部から着脱可能となっているが、貯留槽は本体部に固定されて接続されていてもよい。
【0083】
第三の実施形態では、内部空間には特段の部材を設けていないが、例えば、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、サドル、スルザーパッキン、テラレット等の充填部材を充填してもよい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
図1の車両用空気浄化装置8と同様の車両用空気浄化装置を用い、下記条件にて洗浄水を貯留槽から噴霧ノズルへ送液し、噴霧ノズルから散水して、貯留槽に回収するように運転した。運転開始前と運転開始1週間後の洗浄水を採取し、一般細菌数を測定した。その結果を表1に示す。
【0086】
<運転条件>
洗浄水原水:活性炭処理した市水
洗浄水遊離残留塩素濃度:1.0mg/Lとなるように、電解装置の電流値を調整
貯留槽内水温:22〜26℃
【0087】
(比較例1)
電解装置の電極への印加を停止した以外は、実施例1と同様にして運転を行った。運転開始前と運転開始1週間後の洗浄水を採取し、一般細菌数を測定した。その結果を表1に示す。
【0088】
(比較例2)
電解装置の電極への印加を停止し、洗浄水原水に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、遊離残留塩素濃度が1.0mg/Lとなるように調製した以外は、実施例1と同様にして運転を行った。運転開始前と運転開始1週間後の洗浄水を採取し、一般細菌数を測定した。その結果を表1に示す。
【0089】
(一般細菌数の測定)
一般細菌数の測定は、衛生試験法1.3.1.2(4)に従い、標準寒天培地を用いて測定した。
【0090】
(遊離残留塩素濃度の測定)
洗浄水の遊離残留塩素濃度は、DPD法(上水試験方法 2001年版 17.3 ジエチル−P−フェニレンジアミン(DPD)による吸光光度法)により、24時間毎に測定した。
【0091】
【表1】

【0092】
表1の結果の通り、本発明の車両用空気浄化装置を用いた実施例1では、運転1週間後においても、一般細菌数の増加は見られなかった。一方、活性炭処理した市水を用い、洗浄水の電解処理を行わなかった比較例1では、運転1週間後の洗浄水の一般細菌数は80000個/mLとなっていた。このことから、本発明の車両用空気浄化装置は、洗浄水中の一般細菌の増殖を有効に防止できることが判った。なお、実施例1の結果は、次亜塩素酸ナトリウムで、遊離残留塩素濃度を1.0mg/Lに調製して行った比較例2と同等の効果を示すことが判った。
【0093】
(実施例2)
図9に示すように、ルテニウムメッキを施したチタン製の平板状(縦:50mm、横:60mm)の一対の電極510で、多孔質体520であるモノリス状陰イオン交換体(縦:46mm、横:60mm、材質:スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、構造:孔径80μmの空孔が三次元的に連続した構造、イオン交換容量:5.4mg当量/g(乾燥)、イオン交換基:四級アンモニウム基)を挟持させて、電極部を作成した。この電極部をビーカー500内の逆浸透膜濃縮水(導電率:350μS/cm、200mL)に浸漬し、電流値:0.226Aで通電した。通電開始5分後における遊離残留塩素濃度を測定した。また、電極部を水中から引き上げ、電極部の上端部と水面530との距離Lを0mm(電極部全体を水に浸漬した状態)、25mm、45mm、60mm(電極部全体を水面から引き上げた状態)とした場合における電圧値を測定し、その結果を表2に示す。
【0094】
(比較例3)
多孔質体520を電極510で挟持させずに、電極510のみを逆浸透膜濃縮水に浸漬した以外は、実施例2と同様にして電極510に、電流値:0.209Aで通電した。通電開始5分後における遊離残留塩素濃度を測定した。また、電極部を水中から引き上げ、電極部の上端部と水面530との距離Lを0mm(電極部全体を水に浸漬した状態)、45mm、60mm(電極部全体を水面から引き上げた状態)とした場合における電圧値を測定し、その結果を表2に示す。
【0095】
(電圧値の測定)
電圧値の測定は、電源として用いた直流安定化電源(PA36−3A、株式会社ケンウッド製)にて、電圧値を確認した。
【0096】
【表2】

【0097】
表2の結果の通り、モノリス状陰イオン交換体に電極を装着した実施例2は、電極部全体を水に浸漬した状態での電圧値が3.9Vであり、通電5分後における遊離残留塩素濃度が4.56mg/Lであった。これに対し、モノリス状陰イオン交換体に電極を装着しなかった比較例3は、電極部全体を水に浸漬した状態での電圧値が10.5Vであり、通電5分後の遊離残留塩素濃度が1.25mg/Lであった。このことから、モノリス状陰イオン交換体に電極を装着した実施例2において、低い電圧で効率よく次亜塩素酸を発生できることが判った。
【0098】
また、実施例2では、電極部を水面から45mm上げた状態で電圧値は7.3Vであり、電極部全体を水面から引き上げた状態での電圧値は7.3Vであった。これに対し、比較例3では、電極部を水面から45mm上げた状態で電圧値は62.5Vであり、電極部全体を水面から引き上げた状態では電極間に通電できなかった。このことから、実施例2のように、モノリス状陰イオン交換体に装着した電極を用いることで、水への電極部の浸漬の状態が変動しても、電極から洗浄水が切れて電流が流れなくなることを防ぎ、安定して通電できることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる車両用空気浄化装置を示す模式図である。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかる車両用空気浄化装置を示す模式図である。
【図3】本発明の車両用空気浄化装置にかかる水浸透性部材への電極の装着形態の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の車両用空気浄化装置にかかる水浸透性部材への電極の装着形態の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の車両用空気浄化装置にかかる水浸透性部材への電極の装着形態の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の車両用空気浄化装置にかかる水浸透性部材への電極の装着形態の一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の車両用空気浄化装置にかかる水浸透性部材への電極の装着形態の一例を示す斜視図である。
【図8】本発明の第三の実施形態にかかる車両用空気浄化装置を示す模式図である。
【図9】実施例2の試験方法を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0100】
8、108、400 車両用空気浄化装置
10、110、410 本体部
11、111 吸気側室
12、112、412 吸気口
14、414 排気口
20 噴霧ノズル
26 送風ファン
30、130 貯留槽
34、132、430 電極
36、136 開閉バルブ
37、42、137 配管
120 散水ノズル
122 気液接触層
133 水浸透性部材
420 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室内及び/又は車両室外の空気を取り込む吸気手段と、浄化した空気を車両室内に供給する送風手段とが設けられた本体部と、
車両室内及び/又は車両室外の空気と洗浄水とを接触させる洗浄手段と、
前記洗浄水を電気分解する電気分解手段と、
を有する車両用空気浄化装置。
【請求項2】
空気と接触した洗浄水を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽の洗浄水を前記洗浄手段に供給する送液手段と、
を有する、請求項1に記載の車両用空気浄化装置。
【請求項3】
前記貯留槽は、本体部と着脱可能に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用空気浄化装置。
【請求項4】
前記電気分解手段は、その電極が水浸透性部材に装着されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用空気浄化装置。
【請求項5】
前記水浸透性部材は、陰イオン交換基を有することを特徴とする、請求項4に記載の車両用空気浄化装置。
【請求項6】
前記陰イオン交換基は、対イオンがハロゲン化物イオンであることを特徴とする、請求項5に記載の車両用空気浄化装置。
【請求項7】
前記洗浄水の遊離残留塩素濃度又は遊離残留臭素濃度が0.1〜20mg/Lに制御されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両用空気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−105619(P2010−105619A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282066(P2008−282066)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】