説明

車両用空調装置、車両用空調装置用の信号送信装置、車両用空調装置用の信号受信装置、および、車両用電力管理システム

【課題】プレ空調時の騒音の発生を抑制可能に構成された車両用空調装置を提供する。
【解決手段】ユーザがプレ空調の実行を要求する要求信号を発信する信号発信手段を、通常モードでのプレ空調の実行を要求する通常モード信号および静音モードでのプレ空調の実行を要求する静音モード信号の双方を送信可能に構成しておく。そして、静音モード信号によってプレ空調を作動させた際には、通常モード信号によってプレ空調を作動させた際よりも冷凍サイクル10の圧縮機11の冷媒吐出能力および送風ファン16aの送風能力を低下させて、車両用空調装置1の発生する騒音を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成された車両用空調装置、この車両用空調装置に適用される信号送信装置および信号受信装置、並びに、この車両用空調装置に電力を供給する車両用電力管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成された車両用空調装置が知られている。この種の車両用空調装置として、特許文献1には、ユーザが、無線端末(リモコン)を用いて、車両から離れた場所からプレ空調の開始を要求することのできる車両用空調装置が開示されている。
【0003】
また、この特許文献1の車両用空調装置では、ユーザのリモコン操作によって開始されたプレ空調の実行時に、リモコンを所持するユーザが車両に近づくと、車両用空調装置の構成機器である圧縮機や送風機等の能力を通常運転時よりも低下させる静音モードでの運転に切り替えて、ユーザが乗車した際の空調風による不快感を与えないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−69657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、ユーザが車両に近づいた時に静音モードの運転に切り替える構成では、ユーザが車両に近づかなければ、車両用空調装置が通常の空調能力を発揮しつづけてしまうことがある。従って、深夜から早朝などにリモコン操作によってプレ空調が開始されてしまうと、圧縮機や送風機等の作動音が車両周囲に居る人にとって耳障りとなる可能性がある。
【0006】
上記点に鑑みて、本発明は、プレ空調時の騒音の発生を抑制可能に構成された車両用空調装置を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、プレ空調時の騒音の発生を抑制可能に構成された車両用空調装置に適用可能な信号送信装置を提供することを別の目的とする。
【0008】
また、本発明は、プレ空調時の騒音の発生を抑制可能に構成された車両用空調装置に適用可能な信号受信装置を提供することを、さらに別の目的とする。
【0009】
また、本発明は、プレ空調時の騒音の発生を抑制可能に構成された車両用空調装置に電力を供給可能な車両用電力管理システムを提供することを、さらに別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成された車両用空調装置であって、
車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)と、ユーザが車両から離れた場所から、プレ空調の実行を要求する要求信号を発信する信号発信手段(91、92、93)と、要求信号を受信する信号受信手段(50a)とを備え、
信号発信手段(91、92、93)は、プレ空調の実行を要求する要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を送信可能に構成され、信号受信手段(50a)が、静音モード信号を受信してプレ空調を実行する際には、通常モード信号を受信してプレ空調を実行する際よりも、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させることを特徴とする。
【0011】
これによれば、信号発信手段(91、92、93)が、プレ空調の実行を要求する要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を送信可能に構成されているので、ユーザが静音モード信号を送信してプレ空調を実行させることにより、温度調整手段(10)を構成する構成機器の能力を低下させて、温度調整手段(10)の作動によって生じる騒音の発生を抑制できる。
【0012】
すなわち、ユーザが静音モード信号を送信してプレ空調を実行させることにより、プレ空調時の騒音の発生を抑制することができる。さらに、静音モードの選択は、ユーザの意志によって実行されるものなので、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させて空調能力を低下させたとしても、乗員に不快感を与えにくい。
【0013】
なお、請求項に記載された「温度調整手段(10)」には、例えば、蒸気圧縮式の冷凍サイクルや、熱源媒体を加熱用熱交換器へ流通させる熱源媒体回路等が含まれる。また、「温度調整手段(10)を構成する構成機器」とは、冷凍サイクルにおいては、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機、高圧冷媒を放熱させる放熱器へ空気を送風する送風機、低圧冷媒を状態させる蒸発器へ空気を送風する送風機等が含まれる。また、熱源媒体回路においては、熱源媒体を圧送するポンプ等が含まれる。
【0014】
さらに、「構成機器の能力」としては、圧縮機であれば冷媒吐出能力となり、送風機であれば送風能力となり、ポンプであれば圧送能力となる。
【0015】
請求項2に記載の発明では、ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成された車両用空調装置であって、
車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)と、プレ空調を実行する際に温度調整手段(10)の作動を開始する開始時刻およびユーザが車両に乗り込む乗車時刻のうちいずれか一方を設定する時刻設定手段(92、93)とを備え、
開始時刻あるいは乗車時刻が、一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯にプレ空調を実行する際には、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させることを特徴とする。
【0016】
これによれば、開始時刻あるいは乗車時刻が、一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯である場合には、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させて、温度調整手段(10)の作動によって生じる騒音の発生を抑制できる。すなわち、一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯には、プレ空調時の騒音の発生を抑制することができる。
【0017】
なお、請求項に記載された「騒音レベル」としては、音の客観的な大きさを数値化する騒音計によって検出された値等を採用することができる。また、「一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯」とは、深夜から早朝へ至る時間帯等が該当し、具体的には、午後10時から翌日午前7時へ至る時間帯としてもよい。
【0018】
このような一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯は、プレ空調時の騒音が車両周囲に居る人にとって耳障りとなる可能性が高く、車両駐車位置近隣に住居を有する住民の睡眠を妨害してしまう可能性が高い。従って、一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯にプレ空調時の騒音の発生を抑制できることは、近隣住民とのトラブルを回避できる点で極めて有効である。
【0019】
さらに、一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯である深夜から早朝へ至る時間帯では、日射量が少なく空調熱負荷も低くなる。従って、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させて空調能力を低下させたとしても、乗員に不快感を与えにくい。
【0020】
請求項3に記載の発明では、ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成された車両用空調装置であって、
車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)と、ユーザが車両に乗り込む乗車時刻を設定する乗車時刻設定手段(92、93)と、プレ空調を実行する際に温度調整手段(10)の作動を開始する開始時刻を決定する開始時刻決定手段(S1135)と、空調熱負荷に相関を有する物理量を検出する熱負荷検出手段(51、53)とを備え、
開始時刻決定手段(S1135)は、熱負荷検出手段(51、53)によって検出された空調熱負荷の低下に伴って、開始時刻を前記乗車時刻より早める時間を短く決定することを特徴とする。
【0021】
これによれば、開始時刻決定手段(S1135)が、空調熱負荷の低下に伴って、開始時刻を乗車時刻より早める時間を短くするので、空調熱負荷の低下に伴って、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11)が実際に作動を開始する時刻を遅くすることができる。これにより、プレ空調を実行する際の温度調整手段(10)の作動時間を短縮化させて、プレ空調時の騒音の発生を抑制することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明では、ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成されるとともに、車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)を備える車両用空調装置に適用され、車両用空調装置が備える信号受信手段(50a)に対して、車両から離れた場所からプレ空調の実行を要求する要求信号を発信する車両用空調装置用の信号送信装置であって、
要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を送信可能に構成され、静音モード信号は、通常モード信号よりも、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させる信号であることを特徴とする。
【0023】
これによれば、プレ空調の実行を要求する要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を送信可能に構成されているので、車両用空調装置に適用した際に、ユーザが静音モード信号を送信してプレ空調を実行させることにより、温度調整手段(10)を構成する構成機器の能力を低下させて、温度調整手段(10)の作動によって生じる騒音の発生を抑制できる。
【0024】
さらに、ユーザが静音モード信号を選択するだけで、車室内への送風空気の送風量や温度を細かく調整することなく、車両用空調装置が発生する騒音を抑制することができる。さらに、静音モードの選択は、ユーザの意志によって実行されるものなので、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させて空調能力を低下させたとしても、乗員に不快感を与えにくい。
【0025】
請求項5に記載の発明では、ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成されるとともに、車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)を備える車両用空調装置に適用され、プレ空調の実行を要求する要求信号を発信する信号送信手段(91、92、93)から送信された要求信号を受信する車両用空調装置用の信号受信装置であって、
要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を受信可能に構成され、静音モード信号は、通常モード信号よりも、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させる信号であることを特徴とする。
【0026】
これによれば、プレ空調の実行を要求する要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を受信可能に構成されているので、車両用空調装置に適用した際に、静音モード信号を受信した際に、温度調整手段(10)を構成する構成機器の能力を低下させて、温度調整手段(10)の作動によって生じる騒音の発生を抑制できる。
【0027】
さらに、静音モードの選択は、ユーザの意志によって実行されるものなので、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させて空調能力を低下させたとしても、乗員に不快感を与えにくい。
【0028】
請求項6に記載の発明では、ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成されるとともに、車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)を備える車両用空調装置に適用され、温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)に供給される電力を管理する車両用空調装置用の電力管理システムであって、
ユーザが車両に乗り込む乗車時刻を設定する乗車時刻設定手段(92、93)と、
プレ空調を実行する際に温度調整手段(10)を構成する電動式の構成機器(11)への電力の供給を開始する開始時刻を決定する開始時刻決定手段(S1135)と、
空調熱負荷に相関を有する物理量を検出する熱負荷検出手段(51、53)とを備え、
開始時刻決定手段(S1135)は、熱負荷検出手段(51、53)によって検出された空調熱負荷の低下に伴って、前記開始時刻を前記乗車時刻より早める時間を短く決定することを特徴とする。
【0029】
これによれば、開始時刻決定手段(S1135)が、空調熱負荷の低下に伴って、開始時刻を乗車時刻より早める時間を短くする。換言すると、空調熱負荷の低下に伴って、温度調整手段(10)への電力の供給を開始する時刻を遅くすることができる。これにより、プレ空調を実行する際の温度調整手段(10)の作動時間を短縮化させて、プレ空調時の騒音の発生を抑制することができる。
【0030】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置の冷房モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態の車両用空調装置の暖房モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図3】第1実施形態の車両用空調装置の第1除湿モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図4】第1実施形態の車両用空調装置の第2除湿モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図5】第1実施形態の車両用空調装置の電気制御部を示すブロック図である。
【図6】第1実施形態の車両用電力管理システムのシステム構成図である。
【図7】第1実施形態のスマートフォンの模式的な外観図である。
【図8】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理を示すフローチャートである。
【図9】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図10】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の別の要部を示すフローチャートである。
【図11】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の別の要部を示すフローチャートである。
【図12】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の別の要部を示すフローチャートである。
【図13】第1実施形態の各運転モードにおける各電磁弁の作動状態を示す図表である。
【図14】第2実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図15】第3実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1実施形態)
以下、図面を用いて、本発明の第1実施形態を説明する。まず、図1〜4は、本実施形態の車両用空調装置1の全体構成図であり、図5は、車両用空調装置1の電気制御部を示すブロック図である。さらに、図6は、この車両用空調装置1に電力を供給する車両用電力管理システムのシステム構成図である。
【0033】
まず、本実施形態の車両用空調装置1は、内燃機関(エンジン)EGおよび走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得るハイブリッド車両に適用されている。さらに、このハイブリッド車両は、車両停車時に外部電源(商用電源)から供給された電力をバッテリ81に充電することのできるプラグインハイブリッド車両として構成されている。
【0034】
また、本実施形態のプラグインハイブリッド車両は、車両走行開始前の車両停車時に外部電源からバッテリ81に充電しておくことによって、走行開始時のようにバッテリ81の蓄電残量SOCが予め定めた走行用基準残量以上になっているときには、主に走行用電動モータの駆動力によって走行する(以下、この運転モードをEV運転モードという)。
【0035】
一方、車両走行中にバッテリ81の蓄電残量SOCが走行用基準残量よりも低くなっているときには、主にエンジンEGの駆動力によって走行する(以下、この運転モードをHV運転モードという)。このように、EV運転モードとHV運転モードとを切り替えることによって、車両走行用の駆動力をエンジンEGのみから得る通常の車両に対してエンジンEGの燃料消費量を抑制して、車両燃費を向上させている。
【0036】
なお、EV運転モードは、主に走行用電動モータが出力する駆動力によって車両を走行させる運転モードであるが、車両走行負荷が高負荷となった際にはエンジンEGを作動させて走行用電動モータを補助する。同様に、HV運転モードは、主にエンジンEGが出力する駆動力によって車両を走行させる運転モードであるが、車両走行負荷が高負荷となった際には走行用電動モータを作動させてエンジンEGを補助する。このようなエンジンEGおよび走行用電動モータの作動は、後述する駆動力制御装置70によって制御される。
【0037】
また、エンジンEGから出力される駆動力は、車両走行用として用いられるのみならず、発電機80を作動させるためにも用いられる。そして、発電機80にて発電された電力および外部電源から供給された電力は、バッテリ81に蓄えることができ、バッテリ81に蓄えられた電力は、走行用電動モータのみならず、車両用空調装置1の電動式構成機器をはじめとする各種車載機器に供給できる。
【0038】
次に、本実施形態の車両用空調装置1の詳細構成を説明する。この車両用空調装置1は、車両走行時に車室内の空調を行う通常の空調の他に、乗員(ユーザ)が車両に乗り込む前に車室内の空調を行うプレ空調を行うことができる。
【0039】
まず、車両用空調装置1は、車室内を冷房する冷房モード(COOLサイクル)、車室内を暖房する暖房モード(HOTサイクル)、車室内を除湿する第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)および第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)の冷媒回路を切替可能に構成された蒸気圧縮式の冷凍サイクル10を備えている。
【0040】
図1〜4では、それぞれ、冷房モード、暖房モード、第1、第2除湿モード時の冷媒の流れを実線矢印で示している。なお、第1除湿モードは、暖房能力に対して除湿能力を優先する除湿モードであり、第2除湿モードは、除湿能力に対して暖房能力を優先する除湿モードである。従って、第1除湿モードを低温除湿モードあるいは単なる除湿モード、第2除湿モードを高温除湿モードあるいは除湿暖房モードと表現することもできる。
【0041】
冷凍サイクル10は、圧縮機11、室内熱交換器としての室内凝縮器12および室内蒸発器26、冷媒を減圧膨張させる減圧手段としての温度式膨張弁27および固定絞り14、並びに、冷媒回路切替手段としての複数(本実施形態では5つ)の電磁弁13、17、20、21、24等を備え、車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段としての機能を果たす。
【0042】
また、この冷凍サイクル10では、冷媒としてフロン系冷媒を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、この冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、この冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0043】
圧縮機11は、エンジンルーム内に配置され、冷凍サイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するもので、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機構11aを電動モータ11bにて駆動する電動圧縮機として構成されている。
【0044】
固定容量型圧縮機構11aとしては、具体的に、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用できる。電動モータ11bは、インバータ61から出力される交流電圧によって、その作動(回転数)が制御される交流モータである。また、インバータ61は、後述する空調制御装置50から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、電動モータ11bは、圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
【0045】
圧縮機11の吐出側には、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、車両用空調装置の室内空調ユニット30において車室内へ送風される送風空気の空気通路を形成するケーシング31内に配置されて、その内部を流通する冷媒と後述する室内蒸発器26通過後の送風空気とを熱交換させることで送風空気を加熱する加熱用熱交換器である。なお、室内空調ユニット30の詳細については後述する。
【0046】
室内凝縮器12の冷媒出口側には、電気式三方弁13が接続されている。この電気式三方弁13は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。
【0047】
より具体的には、電気式三方弁13は、電力が供給される通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続する冷媒回路に切り替え、電力の供給が停止される非通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続する冷媒回路に切り替える。
【0048】
固定絞り14は、暖房モード、第1および第2除湿モード時に、電気式三方弁13から流出した冷媒を減圧膨張させる暖房除湿用の減圧手段である。この固定絞り14としては、キャピラリチューブ、オリフィス等を採用できる。もちろん、暖房除湿用の減圧手段として、空調制御装置50から出力される制御信号によって絞り通路面積が調整される電気式の可変絞り機構を採用してもよい。固定絞り14の冷媒出口側には、後述する第3三方継手23の冷媒流入出口が接続されている。
【0049】
第1三方継手15は、3つの冷媒流入出口を有し、冷媒流路を分岐する分岐部として機能するものである。このような三方継手は、冷媒配管を接合して構成してもよいし、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けて構成してもよい。また、第1三方継手15の別の冷媒流入出口には、室外熱交換器16の一方の冷媒流入出口が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、低圧電磁弁17の冷媒入口側が接続されている。
【0050】
低圧電磁弁17は、冷媒流路を開閉する弁体部と、弁体部を駆動するソレノイド(コイル)を有し、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。より具体的には、低圧電磁弁17は、通電状態で開弁して非通電状態で閉弁する、いわゆるノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。
【0051】
低圧電磁弁17の冷媒出口側には、第1逆止弁18を介して、後述する第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第1逆止弁18は、低圧電磁弁17側から第5三方継手28側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0052】
室外熱交換器16は、エンジンルーム内に配置されて、内部を流通する冷媒と送風ファン16aから送風された車室外空気(外気)とを熱交換させるものである。送風ファン16aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風能力)が制御される電動式送風機である。
【0053】
さらに、本実施形態の送風ファン16aは、室外熱交換器16のみならず、エンジンEGの冷却水を放熱させるラジエータ(図示せず)にも室外空気を送風している。具体的には、送風ファン16aから送風された車室外空気は、室外熱交換器16→ラジエータの順に流れる。ラジエータは、図1〜4の破線で示す冷却水回路40を構成する冷却水配管に接続されている。この冷却水回路40については後述する。
【0054】
室外熱交換器16の他方の冷媒流入出口には、第2三方継手19の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第2三方継手19の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第2三方継手19の別の冷媒流入出口には、高圧電磁弁20の冷媒入口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、熱交換器遮断電磁弁21の一方の冷媒流入出口が接続されている。
【0055】
高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。但し、高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、通電状態で閉弁して非通電状態で開弁する、いわゆるノーマルオープン型の開閉弁として構成されている。
【0056】
高圧電磁弁20の冷媒出口側には、第2逆止弁22を介して、後述する温度式膨張弁27の絞り機構部入口側が接続されている。この第2逆止弁22は、高圧電磁弁20側から温度式膨張弁27側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0057】
熱交換器遮断電磁弁21の他方の冷媒流入出口には、第3三方継手23の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第3三方継手23の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第3三方継手23の別の冷媒流入出口には、前述の如く、固定絞り14の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、除湿電磁弁24の冷媒入口側が接続されている。
【0058】
除湿電磁弁24は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。さらに、除湿電磁弁24もノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。そして、本実施形態の冷媒回路切替手段は、電力の供給が停止されると予め定めた開弁状態あるいは閉弁状態となる電気式三方弁13、低圧電磁弁17、高圧電磁弁20、熱交換器遮断電磁弁21、除湿電磁弁24の複数(5つ)の電磁弁によって構成される。
【0059】
除湿電磁弁24の冷媒出口側には、第4三方継手25の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第4三方継手25の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第4三方継手25の別の冷媒流入出口には、温度式膨張弁27の絞り機構部出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、室内蒸発器26の冷媒入口側が接続されている。
【0060】
室内蒸発器26は、室内空調ユニット30のケーシング31内のうち、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側に配置されて、その内部を流通する冷媒と送風空気とを熱交換させて送風空気を冷却する冷却用熱交換器である。
【0061】
室内蒸発器26の冷媒出口側には、温度式膨張弁27の感温部入口側が接続されている。温度式膨張弁27は、絞り機構部入口から内部へ流入した冷媒を減圧膨張させて絞り機構部出口から外部へ流出させる冷房用の減圧手段である。
【0062】
より具体的には、本実施形態では、温度式膨張弁27として、室内蒸発器26出口側冷媒の温度および圧力に基づいて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度を検出する感温部27aと、感温部27aの変位に応じて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度が予め定めた所定範囲となるように絞り通路面積(冷媒流量)を調整する可変絞り機構部27bとを1つのハウジング内に収容した内部均圧型膨張弁を採用している。
【0063】
温度式膨張弁27の感温部出口側には、第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第5三方継手28の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第5三方継手28の別の冷媒流入出口には、前述の如く、第1逆止弁18の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、アキュムレータ29の冷媒入口側が接続されている。
【0064】
アキュムレータ29は、第5三方継手28から、その内部に流入した冷媒の気液を分離して、余剰冷媒を蓄える低圧側気液分離器である。さらに、アキュムレータ29の気相冷媒出口には、圧縮機11の冷媒吸入口が接続されている。
【0065】
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、その外殻を形成するケーシング31内に送風機32、前述の室内蒸発器26、室内凝縮器12、ヒータコア36、PTCヒータ37等を収容したものである。
【0066】
ケーシング31は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成しており、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。ケーシング31内の送風空気流れ最上流側には、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する図示しない内外気切替箱が配置されている。
【0067】
より具体的には、内外気切替箱には、ケーシング31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口が形成されている。さらに、内外気切替箱の内部には、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる内外気切替ドアが配置されている。
【0068】
従って、内外気切替ドアは、ケーシング31内に導入される内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる吸込口モードを切り替える風量割合変更手段を構成する。より具体的には、内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータ62によって駆動され、この電動アクチュエータ62は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0069】
また、吸込口モードとしては、内気導入口を全開とするとともに外気導入口を全閉としてケーシング31内へ内気を導入する内気モード、内気導入口を全閉とするとともに外気導入口を全開としてケーシング31内へ外気を導入する外気モード、さらに、内気モードと外気モードとの間で、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整することにより、内気と外気の導入比率を連続的に変化させる内外気混入モードがある。
【0070】
内外気切替箱の空気流れ下流側には、内外気切替箱を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風能力)が制御される。
【0071】
送風機32の空気流れ下流側には、前述の室内蒸発器26が配置されている。さらに、室内蒸発器26の空気流れ下流側には、室内蒸発器26通過後の空気を流す加熱用冷風通路33、冷風バイパス通路34といった空気通路、並びに、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34から流出した空気を混合させる混合空間35が形成されている。
【0072】
加熱用冷風通路33には、室内蒸発器26通過後の空気を加熱するための加熱手段としてのヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37が、送風空気流れ方向に向かってこの順で配置されている。ヒータコア36は、冷却水回路40を構成する冷却水配管に接続されており、エンジンEGの冷却水と室内蒸発器26通過後の空気とを熱交換させて、室内蒸発器26通過後の空気を加熱する加熱用熱交換器である。
【0073】
ここで、冷却水回路40について説明する。冷却水回路40は、エンジンEGを冷却する冷却水を循環させる回路である。さらに、冷却水回路40の冷却水配管には、冷却水を圧送する電動式の冷却水ポンプ40aが配置されている。この冷却水ポンプ40aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(水圧送能力)が制御される。
【0074】
そして、空調制御装置50が冷却水ポンプ40aを作動させることによって、エンジンEGの廃熱によって加熱された冷却水が、ラジエータあるいはヒータコア36へ流入することによって冷却され、ラジエータあるいはヒータコア36にて冷却された冷却水が、再びエンジンEGへ戻るように構成されている。
【0075】
つまり、冷却水は、ヒータコア36にて車室内へ送風される送風空気を加熱する熱源媒体であり、冷却水回路40のうち、図1〜4の破線で示す冷却水ポンプ40a→ヒータコア36→エンジンEG→冷却水ポンプ40aの順に冷却水を循環させる回路は、送風空気の温度を調整する温度調整手段を構成している。
【0076】
また、PTCヒータ37は、PTC素子(正特性サーミスタ)を有し、このPTC素子に電力を供給されることによって発熱して、室内凝縮器12通過後の空気を加熱する電気ヒータである。なお、本実施形態のPTCヒータ37は、複数本(具体的には3本)設けられており、空調制御装置50が、通電するPTCヒータ37の本数を変化させることによって、複数のPTCヒータ37全体としての加熱能力が制御される。
【0077】
一方、冷風バイパス通路34は、室内蒸発器26通過後の空気を、ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37を通過させることなく、混合空間35に導くための空気通路である。従って、混合空間35にて混合された送風空気の温度は、加熱用冷風通路33を通過する空気および冷風バイパス通路34を通過する空気の風量割合によって変化する。
【0078】
そこで、本実施形態では、室内蒸発器26の空気流れ下流側であって、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34の入口側に、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34へ流入させる冷風の風量割合を連続的に変化させるエアミックスドア38を配置している。
【0079】
従って、エアミックスドア38は、混合空間35内の空気温度(車室内へ送風される送風空気の温度)を調整する機能を果たす。より具体的には、エアミックスドア38は、エアミックスドア用の電動アクチュエータ63によって駆動され、この電動アクチュエータ63は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0080】
さらに、ケーシング31の送風空気流れ最下流部には、混合空間35から冷却対象空間である車室内へ温度調整された送風空気を吹き出す吹出口(図示せず)が配置されている。この吹出口としては、具体的に、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口、および、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口が設けられている。
【0081】
また、フェイス吹出口、フット吹出口、およびデフロスタ吹出口の空気流れ上流側には、それぞれ、フェイス吹出口の開口面積を調整するフェイスドア、フット吹出口の開口面積を調整するフットドア、デフロスタ吹出口の開口面積を調整するデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。
【0082】
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切替える吹出口モード切替手段を構成するものであって、図示しないリンク機構を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータ64に連結されて連動して回転操作される。なお、この電動アクチュエータ64も、空調制御装置50から出力される制御信号によってその作動が制御される。
【0083】
また、吹出口モードとしては、フェイス吹出口を全開してフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出すフェイスモード、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出すバイレベルモード、フット吹出口を全開するとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出すフットモード、およびフット吹出口およびデフロスタ吹出口を同程度開口して、フット吹出口およびデフロスタ吹出口の双方から空気を吹き出すフットデフロスタモードがある。
【0084】
さらに、乗員が後述する操作パネル60のスイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口から車両フロント窓ガラス内面に空気を吹き出すデフロスタモードとすることもできる。
【0085】
なお、本実施形態の車両用空調装置1が適用されるハイブリッド車両は、車両用空調装置とは別に、図示しない電熱デフォッガを備えている。電熱デフォッガとは、車室内窓ガラスの内部あるいは表面に配置された電熱線であって、窓ガラスを加熱することで防曇あるいは窓曇り解消を行うものである。この電熱デフォッガについても空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動を制御できるようになっている。
【0086】
次に、図5〜図7により、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置50および駆動力制御装置70は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種機器の作動を制御する。
【0087】
駆動力制御装置70の出力側には、エンジンEGを構成する各種エンジン構成機器および走行用電動モータへ交流電流を供給する走行用インバータ等が接続されている。各種エンジン構成機器としては、具体的に、エンジンEGを始動させるスタータ、エンジンEGに燃料を供給する燃料噴射弁(インジェクタ)の駆動回路(いずれも図示せず)等が接続されている。
【0088】
また、駆動力制御装置70の入力側には、バッテリ81の端子間電圧VBを検出する電圧計、バッテリ81へ流れ込む電流ABinあるいはバッテリ81から流れる電流ABioutを検出する電流計、アクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ、車速Vvを検出する車速センサ(いずれも図示せず)等の種々のエンジン制御用のセンサ群が接続されている。
【0089】
一方、空調制御装置50の出力側には、圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61、冷媒回路切替手段を構成する各電磁弁13、17、20、21、24、送風ファン16a、送風機32、PTCヒータ37、冷却水ポンプ40a、各種電動アクチュエータ62、63、64等が接続されている。
【0090】
また、空調制御装置50の入力側には、車室内温度Trを検出する内気センサ51、外気温Tamを検出する外気センサ52(外気温検出手段)、車室内の日射量Tsを検出する日射センサ53、圧縮機11の吐出冷媒温度Tdを検出する吐出温度センサ54(吐出温度検出手段)、圧縮機11の吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdを検出する吐出圧力センサ55(吐出圧力検出手段)、室内蒸発器26からの吹出空気温度(蒸発器温度)Teを検出する蒸発器温度センサ56(蒸発器温度検出手段)、第1三方継手15と低圧電磁弁17との間を流通する冷媒の温度Tsiを検出する吸入温度センサ57、エンジン冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ、車室内の窓ガラス近傍の車室内空気の相対湿度を検出する湿度センサ、窓ガラス近傍の車室内空気の温度を検出する窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度を検出する窓ガラス表面温度センサ等の空調制御用のセンサ群の検出信号が入力される。
【0091】
なお、本実施形態の圧縮機11の吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdは、冷房モードでは、圧縮機11の冷媒吐出口側から温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力であり、その他の運転モードでは、圧縮機11の冷媒吐出口側から固定絞り14入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力となる。なお、吐出圧力センサ55は、一般的な冷凍サイクルにおいても、高圧側冷媒圧力の異常上昇を監視するために設けられている。
【0092】
また、蒸発器温度センサ56は、具体的に室内蒸発器26の熱交換フィン温度を検出している。もちろん、蒸発器温度センサ56として、室内蒸発器26のその他の部位の温度を検出する温度検出手段を採用してもよいし、室内蒸発器26を流通する冷媒自体の温度を直接検出する温度検出手段を採用してもよい。また、湿度センサ、窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度センサの検出値は、窓ガラス表面近傍の相対湿度RHWを算出するために用いられる。
【0093】
さらに、空調制御装置50の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置1の作動スイッチ、オートスイッチ、運転モードの切替スイッチ、吹出口モードの切替スイッチ、送風機32の風量設定スイッチ、車室内温度設定スイッチ、エコノミースイッチ、現在の車両用空調装置1の作動状態等を表示する表示部60a等が設けられている。
【0094】
オートスイッチは、車両用空調装置1の自動制御を設定あるいは解除するスイッチである。また、エコノミースイッチは、冷凍サイクル10の省動力化を優先させるスイッチである。さらに、エコノミースイッチを投入することにより、EV運転モード時に、走行用電動モータを補助するために作動させるエンジンEGの作動頻度を低下させる信号が駆動力制御装置70に出力される。
【0095】
また、空調制御装置50は、乗員が携帯する無線端末91、92等と制御信号の送受信を行う信号受信手段(信号受信装置)としての送受信部50aを有している。無線端末91、92は、乗員(ユーザ)が車両から離れた場所から、プレ空調を実行することを要求する要求信号を出力する信号発信手段(信号発信装置)である。これにより、乗員は車両から離れた場所にて、プレ空調のために車両用空調装置1を始動させることができる。
【0096】
さらに、本実施形態では、信号発信手段として複数種の手段が設けられている。具体的には、図6に示すように、空調制御装置50の送受信部50aに直接受信される要求信号を発信するリモコン91、移動体通信手段(具体的には、携帯電話、スマートフォン)92用のアプリケーションとして提供され、携帯電話回線を介して送受信部50aへ要求信号を発信する携帯端末型発信手段、パーソナルコンピュータ(以下、パソコンと表記する)93用のアプリケーションとして提供されて、インターネット網あるいは携帯電話回線網を介して、送受信部50aへ要求信号を発信するパソコン型発信手段が設けられている。
【0097】
なお、図5では、図示の明確化のため、複数種の無線端末のうちリモコン91のみを図示している。リモコン91は、車両との距離が10m以内の近距離範囲内で超音波を用いて空調制御装置50の送受信部50aと情報の通信が可能に構成されている。もちろん、電波、赤外線等を用いて通信してもよいし、通信規格として近距離無線通信規格(例えば、Bluetooth)を用いてもよい。
【0098】
さらに、リモコン91には、車両の施錠を要求する要求信号を出力するための施錠要求信号出力手段としてのロックボタン91a、施錠の解除を要求する要求信号を出力するための施錠解除信号出力手段としてのアンロックボタン91b、通常モードのプレ空調を実行することを要求する要求信号(通常モード信号)を出力するためのエアコン(A/C)ボタン91c、さらに、プレ空調を実行する際に、後述する静音モードで実行することを要求する要求信号(静音モード信号)を出力するための静音モードボタン91dが設けられている。
【0099】
より詳細には、本実施形態のエアコン(A/C)ボタン91cおよび静音モードボタン91dは、車両用空調装置1の非作動時に1回押すことによって、プレ空調を実行することを要求する要求信号を出力し、プレ空調の実行時に1回押すことによって、プレ空調の停止を要求する要求信号を出力する。
【0100】
また、スマートフォン92では、前述のアプリケーションを作動させることによって、図7の模式的な外観図に示すように、入力画面上に、通常モードのプレ空調を実行することを要求する要求信号(通常モード信号)を出力するためのONボタン92a、プレ空調の停止を要求する要求信号を出力するためのOFFボタン92b、静音モードのプレ空調を実行することを要求する要求信号(静音モード信号)を出力するための静音モードボタン92c、さらに、プレ空調を実行する際に車両窓ガラスの曇り防止を優先する窓晴モードでの空調を実行することを要求する要求信号を出力するための窓晴モードボタン92dの機能を発揮するアイコン等が表示される。
【0101】
さらに、スマートフォン92の入力画面には、プレ空調の実行を開始する開始時刻およびユーザが車両に乗り込む予定の乗車時刻のうちいずれか一方を設定する時刻設定手段(乗車時刻設定手段)としての時刻設定メニュー、操作パネル60と同様の車室内温度設定スイッチとしての機能を発揮するアイコン、現在の車両用空調装置1の作動状態(例えば、車室内温度、送風量、吹出モード等)を表示する表示部メニュー等が表示される。
【0102】
なお、パソコン93については、アプリケーションを作動させることによって、スマートフォン92と同様の機能を発揮させることができる。
【0103】
また、図5、図6に示すように、空調制御装置50および駆動力制御装置70は、互いに電気的に接続されて通信可能に構成されている。これにより、一方の制御装置に入力された検出信号あるいは操作信号に基づいて、他方の制御装置が出力側に接続された各種機器の作動を制御することもできる。例えば、空調制御装置50が駆動力制御装置70へエンジンEGの作動要求指令を出力することによって、エンジンEGを作動させることができる。
【0104】
さらに、図6に示すように、駆動力制御装置70には、バッテリから常時電源が供給されており、空調制御装置50には、駆動力制御装置70によって作動が制御されるリレー71を介して、バッテリから電源が供給されるようになっている。
【0105】
そこで、本実施形態では、スマートフォン92およびパソコン93の入力画面にて、ユーザが車両に乗り込む予定の乗車時刻が設定された際に、当該乗車時刻から予め定めた基準時間(本実施形態では60分)前の時刻になると、駆動力制御装置70がリレー71を通電状態として、空調制御装置50を起動する。これにより、車両停車時に不必要に空調制御装置50が暗電流を消費してしまうことを抑制している。
【0106】
また、空調制御装置50および駆動力制御装置70は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御手段を構成している。
【0107】
例えば、空調制御装置50のうち、圧縮機11の電動モータ11bに接続されたインバータ61から出力される交流電圧の周波数を制御して、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が吐出能力制御手段50bを構成し、送風手段である送風機32の作動を制御して、送風機32の送風能力を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が送風能力制御手段50cを構成する。
【0108】
次に、図8〜図12により、上記構成における本実施形態の作動を説明する。図8は、本実施形態の車両用空調装置1の制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は、車両システムが停止している場合でも、駆動力制御装置70がリレー71を通電状態として、空調制御装置50に電力が供給されていれば実行される。なお、図8〜図12中の各制御ステップは、空調制御装置50が有する各種の機能実現手段を構成している。
【0109】
まず、ステップS1では、車両用空調装置1の作動スイッチが投入(ON)されているか否か、および、プレ空調のスタートスイッチが投入されているか否かを判定する。そして、車両用空調装置1の作動スイッチ、あるいはプレ空調のスタートスイッチが投入されていると判定されるとステップS2へ進む。
【0110】
なお、ステップS1では、現在の時刻が、スマートフォン92およびパソコン93によって設定された開始時刻および乗車時刻に基づいて決定される実際のプレ空調の開始時刻になった時にも、プレ空調のスタートスイッチが投入されたものと判定する。
【0111】
ステップS2では、フラグ、タイマ等の初期化、および上述した電動アクチュエータを構成するステッピングモータの初期位置合わせ等が行われる。なお、フラグの初期化には、現在のフラグの状態を維持することも含まれる。
【0112】
ステップS3では、操作パネル60の操作信号を読み込んでステップS4へ進む。具体的な操作信号としては、車室内温度設定スイッチによって設定される車室内設定温度Tset、吹出口モードの選択信号、吸込口モードの選択信号、送風機32の風量の設定信号等がある。
【0113】
ステップS4では、空調制御に用いられる車両環境状態の信号、すなわち上述のセンサ群51〜57の検出信号を読み込んで、ステップS5へ進む。ステップS5では、車室内吹出空気の目標吹出温度TAOを算出する。さらに、暖房モードでは、暖房用熱交換器目標温度を算出する。目標吹出温度TAOは、下記数式F1により算出される。
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C…(F1)
ここで、Tsetは車室内温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度、Trは内気センサ51によって検出された内気温、Tamは外気センサ52によって検出された外気温、Tsは日射センサ53によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0114】
なお、目標吹出温度TAOは空調熱負荷が変動しても、内気温Trを設定温度Tsetに近づけるために必要な車室内へ吹き出される送風空気の温度である。従って、数式F1に用いられている内気温Tr、外気温Tam、日射量Ts等は空調熱負荷に相関を有する物理量であり、内気センサ51、外気センサ52、日射センサ53は熱負荷検出手段を構成している。
【0115】
また、暖房用熱交換器目標温度は、基本的に上述の数式F1にて算出される値となるが、消費電力の抑制のために数式F1にて算出されTAOよりも低い値とする補正が行われる場合もある。
【0116】
続くステップS6〜S16では、空調制御装置50に接続された各種機器の制御状態が決定される。まず、ステップS6では、空調環境状態に応じて、冷房モード、暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードの選択およびPTCヒータ37に対する通電有無の決定が行われる。このステップS6の詳細については、図9を用いて説明する。
【0117】
まず、ステップS61では、プレ空調を実行しているか否かを判定する。ステップS61にてプレ空調を実行していると判定された場合は、ステップS62へ進み、外気温Tamが−3℃よりも低いか否かを判定する。ステップS62にて外気温Tamが−3℃よりも低いと判定された場合は、ステップS63にてPTCヒータ37への通電の必要があると判定してステップS7へ進む。
【0118】
このように外気温Tamが−3℃よりも低いときにPTCヒータ37への通電が必要であると判定する理由は、外気温Tamが−3℃よりも低いときに冷凍サイクル10にて暖房を行うと、サイクルの高低圧差が大きくなり、サイクル効率(COP)が低下してしまうとともに、室外熱交換器16における冷媒蒸発温度が低くなり、室外熱交換器16に着霜するおそれがあるからである。
【0119】
ステップS62にて外気温Tamが−3℃よりも低くなっていないと判定された場合は、ステップS64へ進み、吹出口モードがフェイスモードであるか否かを判定する。ステップS64にて吹出口モードがフェイスモードであると判定された場合は、ステップS65へ進み、冷房モードを選択してステップS7へ進む。その理由は、後述するステップS9で説明するように、フェイスモードは主に夏季に選択される運転モードだからである。
【0120】
ステップS64にて吹出口モードがフェイスモードでないと判定された場合は、ステップS66へ進み、室内蒸発器26からの吹出空気温度Teの低下に伴って、除湿の必要性が高くなるものとして、暖房モード→第1除湿モード→第2除湿モードの順に選択されて、ステップS7へ進む。
【0121】
一方、ステップS61にてプレ空調を行っていないと判定された場合は、ステップS67へ進み、外気温Tamが−3℃よりも低いか否かを判定する。ステップS67にて外気温Tamが−3℃よりも低いと判定された場合は、ステップS68へ進み、冷房モードを選択してステップS7へ進む。
【0122】
ステップS67にて外気温Tamが−3℃よりも低くなっていないと判定された場合は、ステップS69へ進み、吹出口モードがフェイスモードであるか否かを判定する。ステップS69にて吹出口モードがフェイスモードであると判定された場合は、ステップS70へ進み、COOLサイクルを選択してステップS7へ進む。その理由はステップS65と同様である。ステップS69にて吹出口モードがフェイスモードでないと判定された場合は、前述のステップS66へ進む。
【0123】
ステップS7では、送風機32により送風される空気の目標送風量を決定する。具体的には、送風機32の電動モータに印加するブロワモータ電圧を決定する。このステップ7では、操作パネル60のオートスイッチが投入されていない場合には、操作パネル60の風量設定スイッチによってマニュアル設定された乗員の所望の風量となるブロワモータ電圧が決定されて、ステップS8へ進む。
【0124】
一方、操作パネル60のオートスイッチが投入されている場合には、TAOの極低温域(最大冷房域)および極高温域(最大暖房域)でブロワモータ電圧を最大値付近の高電圧にして、送風機32の風量を最大風量付近に制御する。
【0125】
さらに、TAOが極低温域から中間温度域に向かって上昇すると、TAOの上昇に応じてブロワモータ電圧を減少して送風機32の風量を減少させ、TAOが極高温域から中間温度域に向かって低下すると、TAOの低下に応じてブロワモータ電圧を減少して送風機32の風量を減少させる。また、TAOが所定の中間温度域内に入ると、ブロワモータ電圧を最小値にして送風機32の風量を最小値にする。
【0126】
なお、このステップS7では、現在の車両用空調装置1の作動がプレ空調としての作動である場合は、プレ空調としての作動でない場合よりも、ブロワモータ電圧の値が小さくなるように決定してもよい。また、プレ空調の開始から時間経過に伴って、徐々にブロワモータ電圧を小さくしてもよい。これにより、プレ空調時における送風機32の消費電力を低減させることができる。
【0127】
ステップS8では、吸込口モード、すなわち内外気切替箱の切替状態を決定する。この吸込口モードもTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、基本的に外気を導入する外気モードが優先されるが、TAOが極低温域となって高い冷房性能を得たい場合等に内気を導入する内気モードが選択される。さらに、外気の排ガス濃度を検出する排ガス濃度検出手段を設け、排ガス濃度が予め定めた基準濃度以上となったときに、内気モードを選択するようにしてもよい。
【0128】
ステップS9では、吹出口モードを決定する。この吹出口モードもTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、TAOが低温域から高温域へと上昇するにつれて吹出口モードをフットモード→バイレベルモード→フェイスモードへと順次切り替える。
【0129】
従って、夏季は主にフェイスモード、春秋季は主にバイレベルモード、そして冬季は主にフットモードが選択される。さらに、湿度センサ等の検出値から算出される窓ガラス表面の相対湿度RHWに基づいて、窓ガラスに曇りが発生する可能性が高いと判定された場合に、フットデフロスタモードあるいはデフロスタモードを選択するようにしてもよい。
【0130】
ステップS10では、エアミックスドア38の目標開度SWを上記TAO、蒸発器温度センサ56によって検出された室内蒸発器26からの吹出空気温度Te、加熱器温度に基づいて算出する。
【0131】
ここで、加熱器温度とは、加熱用冷風通路33に配置された加熱手段(ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37)の加熱能力に応じて決定される値であって、一般的には、エンジン冷却水温度Twを採用できる。従って、目標開度SWは、次の数式F2により算出できる。
SW=[(TAO−Te)/(Tw−Te)]×100(%)…(F2)
なお、SW=0(%)は、エアミックスドア38の最大冷房位置であり、冷風バイパス通路34を全開し、加熱用冷風通路33を全閉する。これに対し、SW=100(%)は、エアミックスドア38の最大暖房位置であり、冷風バイパス通路34を全閉し、加熱用冷風通路33を全開する。
【0132】
ステップS11では、圧縮機11の冷媒吐出能力(具体的には、圧縮機11の回転数)を決定する。ここで、圧縮機11の基本的な回転数の決定手法を説明する。例えば、冷房モードでは、ステップS4で決定したTAO等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、室内蒸発器26からの吹出空気温度Teの目標吹出温度TEOを決定する。
【0133】
そして、この目標吹出温度TEOと吹出空気温度Teの偏差En(TEO−Te)を算出し、今回算出された偏差Enから前回算出された偏差En−1を減算した偏差変化率Edot(En−(En−1))とを用いて、予め空調制御装置50に記憶されたメンバシップ関数とルールとに基づいたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機回転数fCn−1に対する回転数変化量Δf_Cを求める。
【0134】
また、暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードでは、ステップS4で決定した暖房用熱交換器目標温度等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdの目標高圧PDOを決定する。
【0135】
そして、この目標高圧PDOと吐出側冷媒圧力Pdの偏差Pn(PDO−Pd)を算出し、今回算出された偏差Pnから前回算出された偏差Pn−1を減算した偏差変化率Pdot(Pn−(Pn−1))とを用いて、予め空調制御装置50に記憶されたメンバシップ関数とルールとに基づいたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機回転数fHn−1に対する回転数変化量Δf_Hを求める。
【0136】
このステップS11のより詳細な制御内容については、図10、図11を用いて説明する。まず、ステップS1101では、冷房モード(COOLサイクル)時の回転数変化量Δf_Cを求める。図10のステップS1101には、ルールとして用いるファジールール表を記載している。このルール表では、上述の偏差Enと偏差変化率Edotに基づいて室内蒸発器26の着霜が防止されるようにΔf_Cが決定される。
【0137】
ステップS1102では、暖房モード(HOTサイクル)、第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)および第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)時の回転数変化量Δf_Hを求める。図10のステップS1102には、ルールとして用いるファジールール表を記載している。このルール表では、上述の偏差Pnと偏差変化率Pdotに基づいて高圧側冷媒圧力Pdの異常上昇が防止されるようにΔf_Hが決定される。
【0138】
続くステップS1103では、現在の車両用空調装置1の作動がプレ空調としての作動であるか否かを判定する。ステップS1103にて、プレ空調としての作動であると判定された際には、ステップS1104へ進み、ステップS1103にて、プレ空調としての作動ではないと判定された際には、後述するステップS1107へ進む。
【0139】
ステップS1104では、現在のプレ空調の作動がリモコン91の静音モードボタン91d、スマートフォン92あるいはパソコン93の静音モードボタン92cが投入されたことによって実行された静音モードでの作動であるか否かが判定される。そして、ステップS1104にて、静音モードでの作動ではないと判定された際には、ステップS1105へ進み、静音モードでの作動であると判定された際には、ステップS1106へ進む。
【0140】
ステップS1105およびS1106では、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxをプレ空調の作動開始から時間経過に伴って徐々に低下させるように決定して、ステップS1108へ進む。
【0141】
具体的には、ステップS1104にて静音モードでの作動ではないと判定された際には、図10のステップS1105に示すように、プレ空調の開始から2分間は、上限値IVOmax=8000rpmに決定し、次の1分間は、上限値IVOmax=6000rpmに決定し、次の1分間は、上限値IVOmax=5000rpmに決定し、これ以降は、上限値IVOmax=4000rpmに決定して、ステップS1108へ進む。
【0142】
一方、ステップS1104にて静音モードでの作動であると判定された際には、図10のステップS1106に図示するように、プレ空調の開始から4分間は、上限値IVOmax=4000rpmに決定し、これ以降は、上限値IVOmax=3500rpmに決定する。
【0143】
上記のステップS1105およびS1106にて説明したように、ステップS1104にて静音モードでの作動であると判定された際には、静音モードでの作動ではない通常モードの作動でないと判定された際よりも、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが常時低くなる。
【0144】
このことは、本実施形態の車両用空調装置1では、最大空調能力を発揮する運転状態が継続されたとしても、温度調整手段を構成する冷凍サイクル10の圧縮機11の冷媒吐出能力が、静音モード時には、通常モード時よりも低下するように決定されることを意味している。
【0145】
また、ステップS1103にて、現在の車両用空調装置1の作動がプレ空調としての作動ではないと判定された際には、図11に示すステップS1107へ進み、上限値IVOmax=10000rpmに決定してステップS1108へ進む。
【0146】
続いて、図11に示すステップS1108では、ステップS6にて決定された運転モードが冷房モードであるか否かが判定される。ステップS1108にて、ステップS6で決定された運転モードが冷房モードであると判定された場合は、ステップS1109へ進み、圧縮機11の回転数変化量ΔfをステップS1101にて決定されたΔf_Cに決定して、ステップS1111へ進む。
【0147】
また、ステップS1108にて、ステップS6で決定された運転モードが冷房モードでないと判定された場合は、ステップS1110へ進み、圧縮機11の回転数変化量ΔfをステップS1102にて決定されたΔf_Hに決定して、ステップS1111へ進む。
【0148】
続くステップS1111では、前回の圧縮機回転数fn−1に回転数変化量Δfを加えた値とIVOmaxと比較して、小さい方の値を、今回の圧縮機回転数fnと決定して、ステップS12へ進む。なお、ステップS1111における圧縮機回転数fnの決定は、制御周期τ毎に行われるものではなく、所定の制御間隔(本実施形態では1秒)毎に行われる。
【0149】
ステップS12では、室外熱交換器16に向けて外気を送風する送風ファン16aの稼働率(具体的には、送風ファン16aの回転数)を決定する。このステップS12のより詳細な制御内容については、図12を用いて説明する。まず、ステップS1201では、ステップS6で決定された運転モードが冷房モードであるか否かが判定される。
【0150】
ステップS1201にて、ステップS6で決定された運転モードが冷房モードであると判定された場合は、ステップS1202へ進み、現在の車両用空調装置1の作動が静音モードとしての作動であるか否かを判定する。
【0151】
ステップS1202にて、静音モードとしての作動であると判定された場合は、ステップS1203へ進み、冷凍サイクル10の冷媒圧力(例えば、圧縮機11の吐出冷媒圧力)が予め定めた第1基準高圧(本実施形態では、1.8MPa)以上であれば、冷媒圧力が高圧の状態であるものとし、予め定めた第2基準高圧(本実施形態では、1.5MPa)以下であれば、冷媒圧力が低圧の状態であるものとしてステップS1205へ進む。
【0152】
一方、ステップS1202にて、静音モードとしての作動ではないと判定された場合は、ステップS1204へ進み、冷凍サイクル10の冷媒圧力が予め定めた第3基準高圧(本実施形態では、1.5MPa)以上であれば、冷媒圧力が高圧の状態であるものとし、予め定めた第4基準高圧(本実施形態では、1.2MPa)以下であれば、冷媒圧力が低圧の状態であるものとしてステップS1205へ進む。
【0153】
つまり、ステップS1203では、ステップS1202よりも各基準高圧が低く設定されているので、静音モード時には、通常モード時よりも冷媒圧力が低圧の状態と判定されやすい。なお、第1基準高圧と第2基準高圧との差、および、第3基準高圧と第4基準高圧との差は制御ハンチング防止のためのヒステリシス幅である。
【0154】
次に、ステップS1205では、外気センサ52によって検出された外気温Tamが高外気温の状態であるか低外気温の状態であるか、内気センサ51によって検出された車室内温度Trが高室温の状態であるか低室温の状態であるか、および、車速が高車速の状態であるか低車速の状態であるかといった空調熱負荷状態が判定されて、ステップS1206へ進む。なお、これらの判定は、ステップS1202、S1203と同様に検出値と予め設定された基準値との比較によって行われる。
【0155】
ステップS1206では、ステップS1203〜S1205にて決定された冷媒圧力、外気温Tam、車室内温度Tr、車速の状態に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して送風ファン16aの稼働率が決定されて、ステップS13へ進む。
【0156】
具体的には、ステップS1206では、冷媒圧力が低圧の状態であって、外気温Tamが低外気温、かつ、車室内温度Trが低車室内温度、かつ、車速が低車速の状態であれば、送風ファン16aをLOモード(小風量)とする。また、冷媒圧力が低圧の状態であって、外気温Tamが低外気温、かつ、車室内温度Trが低車室内温度、かつ、車速が高車速の状態であれば、送風ファン16aをOFFモード(停止)とする。
【0157】
また、冷媒圧力が低圧の状態であって、外気温Tamが低外気温、かつ、車室内温度Trが低室温の状態になっていなければ、送風ファン16aをHiモード(大風量)とする。さらに、冷媒圧力が低圧の状態であれば、外気温Tam、車室内温度Tr、車速の状態によらず、送風ファン16aをHiモード(大風量)とする。
【0158】
一方、ステップS1201にて、ステップS6で決定された運転モードが冷房モードではないと判定された場合は、ステップS1207へ進み、ステップS1202と同様に、現在の車両用空調装置1の作動が静音モードとしての作動であるか否かを判定する。
【0159】
さらに、ステップS1207にて、静音モードとしての作動であると判定された場合は、ステップS1208へ進み、ステップS1203と同様に冷凍サイクル10の冷媒圧力の状態が判定されて、ステップS1210へ進む。また、ステップS1207にて、静音モードとしての作動ではないと判定された場合は、ステップS1209へ進み、ステップS1204と同様に冷凍サイクル10の冷媒圧力の状態が判定されて、ステップS1210へ進む。
【0160】
ステップS1210では、ステップS1205と同様に、外気温Tamが高外気温の状態であるか低外気温の状態であるか、車室内温度Trが高室温の状態であるか低室温の状態であるか、および車速が高車速の状態であるか低車速の状態であるかが判定されて、ステップS1211へ進む。
【0161】
なお、ステップS1210における判定は、ステップS1205と同様に、予め設定された基準値との比較によって行われるが、ステップS1210にて用いられる基準値は、図12に示すように、ステップS1205にて用いられる基準値と異なっている。
【0162】
例えば、ステップS1210では、ステップS1205よりも、外気温Tamについては基準値が低いので高外気温の状態であると判定されやすく、車室内温度Trについては基準値が低いので高室温の状態であると判定されやすく、さらに、車速については、基準値が高いので、低車速の状態であると判定されやすい。
【0163】
ステップS1211では、ステップS1206と同様に、ステップS1208〜S1210にて決定された冷媒圧力、外気温Tam、車室内温度Tr、車速の状態に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して送風ファン16aの稼働率が決定されて、ステップS13へ進む。
【0164】
具体的には、ステップS1211では、冷媒圧力が低圧の状態であって、かつ、車速が低車速の状態であれば、送風ファン16aをLOモード(小風量)とする。また、冷媒圧力が低圧の状態であって、かつ、車速が高車速の状態であれば、送風ファン16aをOFFモード(停止)とする。
【0165】
また、冷媒圧力が高圧の状態であって、外気温Tamが低外気温、車室内温度Trが低車室内温度、かつ、車速が低車速の状態であれば、送風ファン16aをHiモード(大風量)とし、冷媒圧力が低圧の状態であって、外気温Tamが低外気温、車室内温度Trが低車室内温度、かつ、車速が低車速の状態でなければ、送風ファン16aをOFFモード(停止)とする。
【0166】
さらに、冷媒圧力が低圧の状態であって、外気温Tamが低外気温、かつ、車室内温度Trが低室温の状態であれば、外気温Tam、車室内温度Tr、車速によらず、低車速の状態では、送風ファン16aをLoモード(小風量)とし、高車速の状態では、送風ファン16aをOFFモード(停止)とする。
【0167】
上記のステップS1202およびS1203にて説明したように、静音モード時には、通常モード時よりも冷媒圧力が低圧の状態と判定されやすい。一方、ステップS1206およびS1211にて説明したように、冷媒圧力が低圧の状態では、高圧の状態よりも送風ファン16aはHiモード(大風量)となりにくい。
【0168】
このことは、本実施形態の車両用空調装置1では、温度調整手段を構成する冷凍サイクル10の送風ファン16aの送風能力が、静音モード時には、通常モード時よりも低下するように決定されることを意味している。
【0169】
ステップS13では、PTCヒータ37の作動本数の決定および電熱デフォッガの作動状態の決定が行われる。PTCヒータ37の作動本数は、例えば、ステップS6にてPTCヒータ37への通電の必要があるとされたときに、暖房モード時にエアミックスドア38の目標開度SWが100%となっても、暖房用熱交換器目標温度を得られない場合に、内気温Trと暖房用熱交換器目標温度との差に応じて決定すればよい。
【0170】
また、車室内の湿度および温度から窓ガラスに曇りが発生する可能性が高い場合、あるいは窓ガラスに曇りが発生している場合は、電熱デフォッガを作動させる。
【0171】
ステップS14では、ヒータコア36とエンジンEGとの間で冷却水を循環させる冷却水ポンプ40aを作動させるか否かを決定する。具体的には、冷却水温度Twが室内蒸発器26からの吹出空気温度Teより高い場合には、冷却水ポンプ40aを停止(OFF)させ、冷却水温度Twが吹出空気温度Te以下となっている場合に、冷却水ポンプ40aを作動(ON)させる。
【0172】
その理由は、冷却水温度Twが吹出空気温度Te以下となっている場合に冷却水をヒータコア36へ流すと、ヒータコア36を流れる冷却水が蒸発器13通過後の空気を冷却して、かえって吹出口からの吹出空気温度を低下させてしまうからである。冷却水温度Twが吹出空気温度Te以下となっている場合は、冷却水を冷媒水回路40内を循環させることで、ヒータコア36を通過する空気とを熱交換させて送風空気を加熱することができる。
【0173】
ステップS15では、上述のステップS6で決定された運転モードに応じて、冷媒回路切替手段である各電磁弁13〜24の作動状態を決定する。
【0174】
具体的には、図13の図表に示すように、運転モードが冷房モード(COOLサイクル)に決定されている場合は、全ての電磁弁を非通電状態とする。また、暖房モード(HOTサイクル)に決定されている場合は、電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とする。
【0175】
また、第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)に決定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24および熱交換器遮断電磁弁21を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とする。また、第2除湿モード(DRY_ALLサイクルに決定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とする。
【0176】
つまり、本実施形態では、いずれの運転モードの冷媒回路に切り替えた場合であっても、各電磁弁13〜24のうち少なくとも1つの電磁弁に対する電力の供給が停止されるように構成されている。これにより、本実施形態の各電磁弁13〜24の合計消費電力を低減できるようにしている。
【0177】
ステップS16では、上述のステップS6〜S16で決定された制御状態が得られるように、空調制御装置50より各種機器61、13、17、20、21、24、16a、32、37、62、63、64に対して制御信号および制御電圧が出力される。例えば、圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61に対しては、圧縮機11の回転数がステップS11で決定された回転数となるように制御信号が出力される。
【0178】
ステップS17では、制御周期τの間待機し、制御周期τの経過を判定するとステップS3へ戻る。なお、本実施形態は制御周期τを250msとしている。これは、車室内の空調制御は、エンジン制御等と比較して遅い制御周期であってもその制御性に悪影響を与えないからである。さらに、車両内における空調制御のための通信量を抑制して、エンジン制御等のように高速制御を行う必要のある制御系の通信量を充分に確保することができる。
【0179】
本実施形態の車両用空調装置1は、以上の如く制御されるので、制御ステップS6にて選択された運転モードに応じて以下のように作動する。
【0180】
(a)冷房モード(COOLサイクル:図1参照)
冷房モードでは、空調制御装置50が全ての電磁弁を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続し、低圧電磁弁17が閉弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0181】
これにより、図1の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→第1三方継手15→室外熱交換器16→第2三方継手19→高圧電磁弁20→第2逆止弁22→温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0182】
この冷房モードの冷媒回路では、電気式三方弁13から第1三方継手15へ流入した冷媒は、低圧電磁弁17が閉弁しているので低圧電磁弁17側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第2三方継手19へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の可変絞り機構部27bから流出した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。さらに、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって第2逆止弁22側に流出することはない。
【0183】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却され、さらに、室外熱交換器16にて外気と熱交換して冷却され、温度式膨張弁27にて減圧膨張される。温度式膨張弁27にて減圧された低圧冷媒は室内蒸発器26へ流入し、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却される。
【0184】
この際、前述の如くエアミックスドア38の開度が調整されるので、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が冷風バイパス通路34から混合空間35へ流入し、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が加熱用冷風通路33へ流入してヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて混合空間35へ流入する。
【0185】
これにより、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の冷房を行うことができる。なお、冷房モードでは、送風空気の除湿能力も高いが、暖房能力は殆ど発揮されない。
【0186】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部61aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0187】
さらに、この冷房モードの冷媒回路では、図1の記載から明らかなように、冷凍サイクル10の冷媒流路内の異なる2箇所の部位が互いに連通している。換言すると、冷房モードの冷媒回路では、冷凍サイクル10を構成する冷媒流路内に他の部位と連通しない閉塞回路が形成されていない。
【0188】
(b)暖房モード(HOTサイクル:図2参照)
暖房モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が閉弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0189】
これにより、図2の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0190】
この暖房モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。また、熱交換器遮断電磁弁21から第2三方継手19へ流入した冷媒は、高圧電磁弁20が閉弁しているので高圧電磁弁20側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉じているので温度式膨張弁27側へ流出することはない。
【0191】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて送風機32から送風された送風空気と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。この際、エアミックスドア38の開度が調整されるので、冷房モードと同様に、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の暖房を行うことができる。なお、暖房モードでは、送風空気の除湿能力は発揮されない。
【0192】
また、室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室外熱交換器16へ流入する。室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0193】
(c)第1除湿モード(DRY_EVAサイクル:図3参照)
第1除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、熱交換器遮断電磁弁21および除湿電磁弁24を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0194】
これにより、図3の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0195】
この第1除湿モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第1逆止弁18の作用によって第1逆止弁18側へ流出することはない。
【0196】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室内蒸発器26へ流入する。
【0197】
室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。すなわち、車室内の除湿を行うことができる。なお、第1除湿モードでは、送風空気の除湿能力を発揮できるが、暖房能力は小さい。
【0198】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部61aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0199】
(d)第2除湿モード(DRY_ALLサイクル:図4参照)
第2除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0200】
これにより、図4の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環するとともに、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0201】
つまり、第2除湿モードでは、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒が熱交換器遮断電磁弁21側および除湿電磁弁24側の双方に流出して、第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒および温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒の双方が第5三方継手28にて合流してアキュムレータ29側へ流出する。
【0202】
なお、この第2除湿モードの冷媒回路では、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。
【0203】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧された後、第3三方継手23にて分岐されて室外熱交換器16および室内蒸発器26へ流入する。
【0204】
室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、第5三方継手28へ流入する。室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。
【0205】
従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。この際、第2除湿モードでは、第1除湿モードに対して、室外熱交換器16にて吸熱した熱量を室内凝縮器12にて放熱することができるので、送風空気を第1除湿モードよりも高温に加熱できる。すなわち、第2除湿モードでは、高い暖房能力を発揮させながら除湿能力も発揮させる除湿暖房を行うことができる。
【0206】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、第5三方継手28へ流入して室外熱交換器16から流出した冷媒と合流し、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0207】
さらに、上記の如く、冷房モードの冷媒回路、暖房モードの冷媒回路、および第1除湿モードの冷媒回路は、いずれも圧縮機11に吸入される冷媒を室外熱交換器16と室内熱交換器(具体的には、室内凝縮器12、室内蒸発器26)とのうちいずれか一方に流通させる単独熱交換器モードの冷媒回路であり、第2除湿モードの冷媒回路は、圧縮機11に吸入される冷媒を室外熱交換器16と室内熱交換器(具体的には、室内蒸発器26)との双方に流通させる複合熱交換器モードの冷媒回路であると表現することもできる。
【0208】
本実施形態の車両用空調装置は、以上の如く作動するので、以下のような優れた効果を発揮することができる。
【0209】
まず、本実施形態の車両用空調装置1によれば、制御ステップS1105およびS1106にて説明したように、空調制御装置50の送受信部50aが静音モード信号を受信して静音モードでのプレ空調を実行する際に、通常モード信号を受信して通常モードでのプレ空調を実行する際よりも、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが常時低くなる。
【0210】
これにより、静音モード時には、通常モード時よりも圧縮機11の冷媒吐出能力を低下させることができる。さらに、制御ステップS1202およびS1203にて説明したように、車両用空調装置1が静音モードで作動する際には、通常モードで作動する際よりも、送風ファン16aの送風能力を低下させることができる。
【0211】
従って、プレ空調時の圧縮機11および送風ファン16aの作動によって生じる車両用空調装置1の騒音の発生を抑制できる。さらに、静音モードの選択は、ユーザの意志によって実行されるものなので、圧縮機11および送風ファン16aの能力を低下させて車両用空調装置1の空調能力を低下させたとしても、乗員に不快感を与えにくい。
【0212】
なお、圧縮機11、送風ファン16aはエンジンルームに配置されることから、その作動音が車両周囲に居る人に聞こえやすい。従って、本実施形態のように、静音モード時に圧縮機11および送風ファン16aの低下させることは、車両用空調装置1の騒音の発生を効率的に抑制できる点で有効である。
【0213】
また、本実施形態では、要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を送信可能に構成された信号送信装置(リモコン91、スマートフォン92、パソコン93)を採用しているので、ユーザが静音モード信号を選択するだけで、車室内への送風空気の送風量や温度を細かく調整することなく、プレ空調時に車両用空調装置1が発生する騒音を抑制することができる。
【0214】
また、本実施形態では、要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を受信可能に構成された信号受信装置(空調制御装置50の送受信部50a)を採用しているので、プレ空調時の騒音の発生が抑制された車両用空調装置1を実現することができる。
【0215】
(第2実施形態)
第1実施形態では、信号送信手段であるリモコン91、スマートフォン92、パソコン93に設けられた静音モードボタン91d、92cが投入されたことによって、静音モードでのプレ空調を実行する例を説明したが、本実施形態では、第1実施形態の図8の制御ステップS11を図14に示すように変更して、実際にプレ空調が実行される時間帯に基づいて静音モードでのプレ空調を実行する例を説明する。
【0216】
具体的には、本実施形態の制御ステップS11では、第1実施形態の図10のステップS1104を図14のS1124に示すように変更している。ステップS1124では、プレ空調を実行する時間、すなわち車両用空調装置1の各構成機器の作動を開始させる時間が静音時間帯か否か判定する。そして、プレ空調を実行する時間が静音時間帯であれば、ステップS1106へ進み、静音時間帯でなければ、ステップS1105へ進む。
【0217】
なお、本実施形態における静音時間帯とは、一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯である。より具体的には、深夜から早朝へ至る時間帯であり、およそ午後10時から翌日午前7時へ至る時間帯である。ステップS1105およびS1106以降の制御フローは第1実施形態と同様である。
【0218】
また、本実施形態の信号送信手段91、92、93では、静音モードボタン91d、92cを廃止している。その他の車両用空調装置1の構成および作動は、第1実施形態と同様である。従って、本実施形態では、静音時間帯にプレ空調が実行される際に、圧縮機11の冷媒吐出能力および送風ファン16aの送風能力を低下させて、圧縮機11および送風ファン16aの作動によって生じる車両用空調装置1の騒音の発生を抑制できる。
【0219】
上述の如く、本実施形態の静音時間帯は、騒音レベルが一日の平均騒音レベルよりも低い時間帯である。そのため、プレ空調を実行することによる車両用空調装置1の騒音が車両周囲に居る人にとって耳障りとなる可能性が高く、車両駐車位置近隣に住居を有する住民の睡眠を妨害してしまう可能性が高い。従って、静音時間帯にプレ空調時の騒音の発生を抑制できることは、近隣住民とのトラブルを回避できる点で極めて有効である。
【0220】
さらに、本実施形態で採用されている静音時間帯は、深夜から早朝へ至る時間帯であるから、日射量が少なく空調熱負荷も低くなる。従って、圧縮機11および送風ファン16aの能力を低下させて空調能力を低下させたとしても、乗員に不快感を与えにくい。
【0221】
なお、本実施形態では、信号送信手段91、92、93では、静音モードボタン91d、92cを廃止しているが、もちろん信号送信手段91、92、93に静音モードボタン91d、92cを設けて、乗員の意志に基づいて静音モードでのプレ空調を実行可能に構成してもよい。
【0222】
この際、静音時間帯にプレ空調を実行する場合は、静音モードボタン91d、92cによってプレ空調の要求信号が送信されたか否かを問わず、静音モードでプレ空調を実行することが望ましい。これにより、静音時間帯には、確実に車両用空調装置1の騒音の発生を抑制できるので、上述した車両駐車位置近隣に住居を有する近隣住民とのトラブルを回避できる。
【0223】
また、本実施形態では、制御ステップS1124にて、車両用空調装置1の各構成機器の作動を開始させる時間が静音時間帯か否か判定しているが、乗員が車両に乗り込む時間が静音時間帯か否かを判定するようにしてもよい。これにより、静音時間帯となる直前にプレ空調が実行される場合であっても、静音モードでのプレ空調が実行されるので、静音時間帯における騒音の発生を確実に抑制できる。
【0224】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1実施形態の図8の制御ステップS11を図15に示すように変更して、空調熱負荷に基づいてプレ空調の開始からユーザ(乗員)が車両に乗車するまでのプレ空調の継続実行時間を変化させることによって、プレ空調時の騒音の発生を抑制する例を説明する。
【0225】
まず、図15に示すように、本実施形態のステップS1101〜S1103では、第1、第2実施形態と全く同様に、それぞれ冷房モードにおける圧縮機11の回転数の変化量Δf_Cおよび暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードにおける圧縮機11の回転数の変化量Δf_Hが決定される。
【0226】
さらに、ステップS1103では、現在の車両用空調装置1の作動がプレ空調としての作動であるか否かが判定される。なお、図15のステップS1101およびS1102は、第1実施形態の図10と全く同様なので、図15では、図示の明確化のため、ルールとして用いるファジールール表の記載を省略している。
【0227】
ステップS1103にて、プレ空調としての作動ではないと判定された際には、ステップS1107へ進み、圧縮機11の回転数の上限値IVOmax=10000rpmに決定して、ステップS1108へ進む。
【0228】
一方、ステップS1103にて、プレ空調としての作動であると判定された際には、ステップS1134へ進む。ステップS1134では、空調制御装置50の起動が乗車時刻の基準時間(本実施形態では60分)前の起動であるか否か、すなわちスマートフォン92およびパソコン93の入力画面にて、開始時刻ではなく乗車時刻が設定されたことによってプレ空調が実行されているか否かを判定する。
【0229】
ステップS1134にて、乗車時刻の設定によるプレ空調の実行であると判定された際にはステップS1135へ進み、空調熱負荷に相関を有する物理量である内気温Trおよび日射量Tsに基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、実際に車両用空調装置1の開始する時刻を、乗車時刻より早めるための補正時間を決定する。なお、この補正時間は、プレ空調の開始からユーザ(乗員)が車両に乗車するまでのプレ空調の継続実行時間に相当する。
【0230】
具体的には、図15のステップS1135に示すように、内気温Trが予め定めた基準空調温度(本実施形態では、25℃)よりも上昇あるいは低下するに伴って、補正時間が長くなるように決定する。さらに、内気温Trが基準空調温度以上であれば、日射量Tsの増加に伴って、補正時間が長くなるように決定し、内気温Trが基準空調温度未満であれば、日射量Tsの増加に伴って、補正時間が短くなるように決定する。
【0231】
なお、図15のステップS1135では、日射量Ts=1000Wの際の内気温Trの変化に対する補正時間の変化を細実線で表し、日射量Ts=0Wの際の内気温Trの変化に対する補正時間の変化を太実線で表している。
【0232】
さらに、ステップS1135では、実際にプレ空調を実行する開始時刻を、乗車時刻よりも補正時間分前の時刻に決定する。換言すると、圧縮機11への電力の供給を開始する時刻を乗車時刻よりも補正時間分前の時刻に決定する。従って、本実施形態の制御ステップS1135は、特許請求の範囲に記載された開始時刻決定手段を構成している。
【0233】
ここで、基準空調温度は、一般的なユーザが車室内にて快適に過ごすことのできる温度として決定されている。従って、内気温Trが基準空調温度(本実施形態では、25℃)以上であれば、車室内温度を低下させるために、車両用空調装置1は冷房モードで運転することになる。このため、内気温Trの上昇および日射量Tsの増加は空調熱負荷の増加を意味している。
【0234】
一方、内気温が25℃未満であれば、車室内温度を上昇させるために、車両用空調装置1は暖房モード等で運転することになる。このため、内気温Trの低下および日射量Tsの減少は空調熱負荷の増加を意味している。つまり、本実施形態の開始時刻決定手段を構成する制御ステップS1135では、空調熱負荷の低下に伴って、開始時刻を乗車時刻より早める補正時間を短く決定している。
【0235】
続くステップS1136では、現在の時刻が実際にプレ空調を実行する開始時刻を過ぎているか否かを判定する。ステップS1136にて、現在の時刻が実際にプレ空調を実行する開始時刻を過ぎていなければ、ステップS1137へ進み、圧縮機11の回転数の上限値IVOmax=0rpmに決定して、ステップS12へ進む。つまり、ステップS1137では、圧縮機11を停止させることが決定される。
【0236】
一方、ステップS1136にて、現在の時刻が実際にプレ空調を実行する開始時刻に到達していると判定された場合は、ステップS1106へ進む。ステップS1106では、第1実施形態と全く同様に、上限値IVOmaxが決定される。また、前述のステップS1134にて、乗車時刻の設定によるプレ空調の実行ではないと判定された際には、ステップS1105へ進む。ステップS1105では、第1実施形態と全く同様に、上限値IVOmaxが決定される。
【0237】
なお、図15のステップS1105およびS1106は、第1実施形態の図10と全く同様なので、図15では、図示の明確化のため、制御マップ等の記載を省略している。また、ステップS1105およびS1106以降の制御フローは第1実施形態と同様である。さらに、本実施形態の信号送信手段91、92、93では、静音モードボタン91d、92cを廃止している。その他の車両用空調装置1の構成および作動は、第1実施形態と同様である。
【0238】
従って、本実施形態の車両用空調装置1によれば、開始時刻決定手段を構成する制御ステップS1135が、空調熱負荷の低下に伴って、開始時刻を乗車時刻より早める補正時間を短くなる。つまり、空調熱負荷の低下に伴って、圧縮機11が実際に作動を開始する時刻を遅くなる。その結果、プレ空調を実行する際の圧縮機11の作動時間を短縮化させて、プレ空調時の騒音の発生を抑制することができる。
【0239】
また、本実施形態は、温度調整手段である冷凍サイクル10の圧縮機11に供給される電力を管理する車両用空調装置用の電力管理システムについて説明したものでもある。すなわち、第1実施形態にて説明した図6に示す構成の車両用空調装置用の電力管理システムについて説明したものでもある。
【0240】
そして、この車両用空調装置用の電力管理システムでは、空調熱負荷の低下に伴って、圧縮機11へ電力が供給される時刻を遅くしているので、プレ空調を実行する際の圧縮機11の作動時間を短縮化させて、プレ空調時の騒音の発生を抑制することができる。
【0241】
なお、本実施形態では、信号送信手段91、92、93では、静音モードボタン91d、92cを廃止しているが、もちろん信号送信手段91、92、93に静音モードボタン91d、92cを設けて、乗員の意志に基づいて静音モードでのプレ空調を実行できるようにしてもよい。
【0242】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0243】
(1)上述の各実施形態では、例えば、静音モードでのプレ空調時に、冷凍サイクル10(温度調整手段)を構成する構成機器である圧縮機11、送風ファン16aの能力を低下させることによって、車両用空調装置1が発生する騒音を抑制した例を説明したが、温度調整手段あるいはその構成機器はこれに限定されない。
【0244】
例えば、静音モードでのプレ空調時に、冷凍サイクル10の送風機32の送風能力を低下させるようにしてもよい。また、冷却水回路40(温度調整手段)を構成する構成機器である冷却水ポンプ40aの冷却水圧送能力を低下させることで、車両用空調装置1が発生する騒音を抑制してもよい。
【0245】
また、上述の各実施形態では、温度調整手段として、蒸気圧縮式の冷凍サイクル10、冷却水回路40等について例示しているが、温度調整手段はこれに限定されない。つまり、車両用空調装置1において、車室内へ送風される空気の温度調整を行う構成であれば、広く温度調整手段に含まれる。
【0246】
例えば、温度調整手段として、乗員が着座するシートに設けられた吹出穴から空調されたシート空調用の空気を送風するシート空調装置を温度調整手段としてもよい。そして、静音モードでのプレ空調時に、シート空調用の空気を送風するシート空調用送風機の能力を低下させてもよい。
【0247】
(2)上述の第3実施形態では、空調熱負荷に相関を有する物理量を検出する熱負荷検出手段のうち内気センサ51および日射センサ53の検出値TrおよびTsを用いて、補正時間を決定した例を説明したが、熱負荷検出手段はこれに限定されない。もちろん、外気センサ52によって検出された外気温Tamを用いて、補正時間を決定してもよい。
【0248】
(3)上述の第1〜第3実施形態では、冷媒回路を切り替えることによって車室内へ送風される送風空気を加熱あるいは冷却する冷凍サイクル10を採用した例を説明したが、もちろん、送風空気を冷却する機能のみを有する冷凍サイクル10を採用してもよい。また、圧縮機11吐出冷媒を放熱させる放熱器を室内熱交換器として、冷媒を蒸発させる蒸発器を室外熱交換器として送風空気を加熱するヒートポンプサイクルを採用してもよい。
【0249】
(4)上述の実施形態では、本発明の車両用空調装置1を、プラグインハイブリッド車両の車両走行用の駆動力について詳細を述べていないが、本発明の車両用空調装置1は、エンジンEGおよび走行用電動モータの双方から直接駆動力を得て走行可能な、いわゆるパラレル型のハイブリッド車両に適用してもよいし、エンジンEGを発電機80の駆動源として用い、発電された電力をバッテリ81に蓄え、さらに、バッテリ81に蓄えられた電力を供給されることによって作動する走行用電動モータから駆動力を得て走行する、いわゆるシリアル型のハイブリッド車両に適用してもよい。
【0250】
また、本発明の車両用空調装置1は、走行用電動モータを備えることなく、エンジンEGのみから走行用の駆動力を得る通常の車両に適用してもよいし、逆に、エンジンEGを備えることなく、走行用電動モータのみから走行用の駆動力を得る電気自動車に適用してもよい。
【符号の説明】
【0251】
10 冷凍サイクル
11 圧縮機
16a 送風ファン
50 空調制御装置
50a 送受信部
51 内気センサ
53 日射センサ
91 リモコン
92 スマートフォン
93 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成された車両用空調装置であって、
前記車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)と、
ユーザが前記車両から離れた場所から、前記プレ空調の実行を要求する要求信号を発信する信号発信手段(91、92、93)と、
前記要求信号を受信する信号受信手段(50a)とを備え、
前記信号発信手段(91、92、93)は、前記プレ空調の実行を要求する要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を送信可能に構成され、
前記信号受信手段(50a)が、前記静音モード信号を受信して前記プレ空調を実行する際には、前記通常モード信号を受信して前記プレ空調を実行する際よりも、前記温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成された車両用空調装置であって、
前記車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)と、
前記プレ空調を実行する際に前記温度調整手段(10)の作動を開始する開始時刻およびユーザが車両に乗り込む乗車時刻のうちいずれか一方を設定する時刻設定手段(92、93)とを備え、
前記開始時刻あるいは前記乗車時刻が、一日の平均騒音レベルよりも低い騒音レベルとなる時間帯に前記プレ空調を実行する際には、前記温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成された車両用空調装置であって、
前記車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)と、
ユーザが車両に乗り込む乗車時刻を設定する乗車時刻設定手段(92、93)と、
前記プレ空調を実行する際に前記温度調整手段(10)の作動を開始する開始時刻を決定する開始時刻決定手段(S1135)と、
空調熱負荷に相関を有する物理量を検出する熱負荷検出手段(51、53)とを備え、
前記開始時刻決定手段(S1135)は、前記熱負荷検出手段(51、53)によって検出された前記空調熱負荷の低下に伴って、前記開始時刻を前記乗車時刻より早める時間を短く決定することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成されるとともに、前記車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)を備える車両用空調装置に適用され、
前記車両用空調装置が備える信号受信手段(50a)に対して、前記車両から離れた場所から前記プレ空調の実行を要求する要求信号を発信する信号送信装置であって、
前記要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を送信可能に構成され、
前記静音モード信号は、前記通常モード信号よりも、前記温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させる信号であることを特徴とする車両用空調装置用の信号送信装置。
【請求項5】
ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成されるとともに、前記車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)を備える車両用空調装置に適用され、
前記プレ空調の実行を要求する要求信号を発信する信号送信手段(91、92、93)から送信された前記要求信号を受信する信号受信装置であって、
前記要求信号として、少なくとも通常モード信号および静音モード信号を受信可能に構成され、
前記静音モード信号は、前記通常モード信号よりも、前記温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)の能力を低下させる信号であることを特徴とする車両用空調装置用の信号受信装置。
【請求項6】
ユーザが車両に乗り込む前に車室内の空調を開始するプレ空調を実行可能に構成されるとともに、前記車室内へ送風される送風空気の温度を調整する温度調整手段(10)を備える車両用空調装置に適用され、
前記温度調整手段(10)を構成する構成機器(11、16a)に供給される電力を管理する電力管理システムであって、
ユーザが車両に乗り込む乗車時刻を設定する乗車時刻設定手段(92、93)と、
前記プレ空調を実行する際に前記温度調整手段(10)を構成する電動式の構成機器(11)への電力の供給を開始する開始時刻を決定する開始時刻決定手段(S1135)と、
空調熱負荷に相関を有する物理量を検出する熱負荷検出手段(51、53)とを備え、
前記開始時刻決定手段(S1135)は、前記熱負荷検出手段(51、53)によって検出された前記空調熱負荷の低下に伴って、前記開始時刻を前記乗車時刻より早める時間を短く決定することを特徴とする車両用空調装置用の電力管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−81869(P2012−81869A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229841(P2010−229841)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】