説明

車両用空調装置

【課題】エコノミーモードの設定により可変容量コンプレッサの駆動に伴う省力化を図りながら、通常モードの定常状態とほぼ同等の快適性・除湿性を確保する。
【解決手段】車両用空調装置は、エバポレータ温度を検出するエバポレータ後温度センサ51(エバポレータ後温度検出手段)と、冷媒の吐出容量を可変するソレノイドバルブ21を有する可変容量コンプレッサ20と、検出されるエバポレータ温度が目標エバポレータ温度となるようにソレノイドバルブ21に流れる電流を制御するエアコンECU30(電流制御手段)と、可変容量コンプレッサ20を通常モードからエコノミーモードに切り替えるためのエコノミースイッチ41とを備える。エアコンECU30は、エコノミースイッチ41の操作に応じてソレノイドバルブ21に流れる電流値を、通常モードの設定時に流れる最小電流値0から最大電流値Ioの範囲内で、所定の上限値Iup以下に制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関し、特に可変容量コンプレッサを備えた車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用空調装置として、例えば下記特許文献1の従来例に記載されているように、エバポレータ通過後の空気温度としてのエバポレータ温度を検出するエバポレータ後温度検出手段と、エバポレータにて蒸発した冷媒を吸入圧縮した後の同冷媒の吐出容量を電流量に応じて可変するソレノイドバルブを有する可変容量コンプレッサと、エバポレータ後温度検出手段により検出されるエバポレータ温度が車室内外の熱環境に応じて設定された目標エバポレータ温度となるように前記ソレノイドバルブに流れる電流を制御する電流制御手段と、可変容量コンプレッサを通常モードからエコノミーモードに切り替えるためのエコノミースイッチとを備えたものが知られている。この車両用空調装置では、エコノミーモード時の目標エバポレータ温度が、通常モード時の目標エバポレータ温度よりも高い値に設定される。このため、エコノミーモードでは、通常モードに比してエバポレータ温度が目標エバポレータ温度に達する時間が短くなり、可変容量コンプレッサのソレノイドバルブに流れる電流値が早めに大から小となるように制御されるので、可変容量コンプレッサの駆動に伴う省力化を図ることが可能である。
【特許文献1】特開平7−285322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の従来例に記載された車両用空調装置では、エコノミーモードの設定時からある程度の時間が経過して熱負荷が低から中程度となった定常状態(エバポレータ温度が目標エバポレータ温度とほぼ一致して冷やす度合いの小さくなった状態)におけるエバポレータ温度が、通常モードの定常状態におけるエバポレータ温度に比して高い状態にある。このため、エコノミーモードの定常状態では、通常モードの定常状態と比較した場合、快適性・除湿性が損なわれるという問題があった。
【0004】
本発明の課題は、エコノミーモードの設定により可変容量コンプレッサの駆動に伴う省力化を図りながら、通常モードの定常状態とほぼ同等の快適性・除湿性を確保し得る車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、エバポレータ通過後の空気温度としてのエバポレータ温度を検出するエバポレータ後温度検出手段と、前記エバポレータにて蒸発した冷媒を吸入圧縮した後の同冷媒の吐出容量を電流量に応じて可変するソレノイドバルブを有する可変容量コンプレッサと、前記エバポレータ後温度検出手段により検出されるエバポレータ温度が車室内外の熱環境に応じて設定された目標エバポレータ温度となるように前記ソレノイドバルブに流れる電流を制御する電流制御手段と、前記可変容量コンプレッサを通常モードからエコノミーモードに切り替えるためのエコノミースイッチとを備えた車両用空調装置において、前記電流制御手段は、前記エコノミースイッチの操作に応じて前記ソレノイドバルブに流れる電流値を、前記通常モードの設定時に流れる最小電流値から最大電流値の範囲内で、所定の上限値以下に制限する上限値制限手段を備えたことを特徴とする。この場合、前記上限値は、例えば、前記エバポレータ後温度検出手段により検出されるエバポレータ温度を、前記通常モードで設定される前記目標エバポレータ温度とほぼ一致させることが可能な大きさに設定されているとよい。
【0006】
この車両用空調装置では、上限値制限手段により、エコノミースイッチの操作に応じて可変容量コンプレッサのソレノイドバルブに流れる電流値が通常モードの設定時に流れる最小電流値から最大電流値の範囲内で所定の上限値以下に制限される。
【0007】
エコノミースイッチの操作に応じて通常モードからエコノミーモードに切り替えられ、可変容量コンプレッサのソレノイドバルブに流れる電流値が所定の上限値以下に制限されると、通常モードで使用されるコンプレッサの容量をあたかも小さくしたのと同様の効果が得られる。したがって、可変容量コンプレッサの駆動に伴う省力化を図ることが可能である。また、エコノミーモードの設定時からある程度の時間が経過した定常状態におけるエバポレータ温度は、通常モードの定常状態におけるエバポレータ温度とほぼ同じ大きさとなる。これにより、エコノミーモードの定常状態は、通常モードの定常状態とほぼ同じ状態となって、通常モードの定常状態とほぼ同等の快適性・除湿性を確保することが可能である。
【0008】
本発明の実施に際して、前記エコノミースイッチは、前記上限値を最小電流値から最大電流値の範囲内で選択可能とされていることも可能である。これによれば、上限値を最小電流値から最大電流値の範囲内で大きな値に設定することにより、エコノミーモードの設定時から定常状態となるまでの時間を短くすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は本発明の車両用空調装置の一実施形態を概略的に示したブロック図であって、この車両用空調装置(エアコン)は、エアコンユニット10、可変容量コンプレッサ20、エアコンECU30、操作パネル40および各種センサ群50を備えている。
【0010】
エアコンユニット10は、周知のものであり、空調ケーシング内にて内気吸入口または外気吸入口から空気を吸入して複数の吹出口に向けて送風するためのブロワモータを始めとする各種モータを備えるとともに、ブロワモータの下流側部位にてエバポレータ11を備えている。
【0011】
エバポレータ11は、同エバポレータ11にて蒸発した冷媒を吸入圧縮する可変容量コンプレッサ20と、この可変容量コンプレッサ20により圧縮されて高温のガス状になった冷媒ガスを冷やして液体に戻すコンデンサと、液体状の冷媒を貯蔵するレシーバと、液体状の冷媒が通過するときに冷媒が気化し易いように霧状に吹き出させる膨張弁とで周知の冷凍サイクルを構成している。これにより、ブロワモータによって送風された空気がエバポレータ11を通過することで冷却されるようになっている。
【0012】
可変容量コンプレッサ20は、例えば斜板の傾斜角が変化することで冷媒の吐出容量が可変する周知のものであり、ソレノイドバルブ21を備えている。ソレノイドバルブ21は、エアコンECU30からの制御電流に応じて斜板の傾斜角を変化させる可変機構として機能する。
【0013】
また、可変容量コンプレッサ20は、電磁クラッチ22を介してエンジンと動力伝達可能に連結されている。電磁クラッチ22は、エアコンECU30からの制御信号に応じて、エンジンに連結されたとき冷凍サイクルの冷媒を圧縮し、エンジンと遮断されたとき冷凍サイクルの冷媒を圧縮しないように機能する。
【0014】
エアコンECU30は、CPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータ31と、ソレノイドバルブ駆動回路32とを主要構成部品としており、操作パネル40のオン操作によりROMに記憶されている図2のコンプレッサ電流制御プログラムを繰り返し実行する。ソレノイドバルブ駆動回路32は、ICで構成されており、マイクロコンピュータ31による図2のコンプレッサ電流制御プログラム実行時の制御指令に応じて、可変容量コンプレッサ20のソレノイドバルブ21に駆動電流を流す。
【0015】
操作パネル40は、ブロワモータの風量を変更するためのブロワコントロールスイッチや、温度を設定するための温度コントロールスイッチ、電磁クラッチ22をオン・オフするためのA/Cスイッチなどの各種スイッチに加えて、エコノミースイッチ41を備えている。エコノミースイッチ41は、ボタンを押し下げる度にオン・オフが切り替わるプッシュロック式のものであり、オンにより可変容量コンプレッサ20を通常モードからエコノミーモードに切り替える。また、操作パネル40は、上記各種スイッチにより切り替えられた各モード、および設定温度を表示するための表示部(例えば、LCD)を備えている。
【0016】
各種センサ群50は、車室内の内気温度を検出する内気温センサ、外気温度を検出する外気温センサ、日射量を検出する日射センサに加えて、エバポレータ後温度センサ51を備えている。エバポレータ後温度センサ51は、エバポレータを通過した直後の空気温度(エバポレータ温度)を検出する。
【0017】
次に、上記のように構成した本実施形態の作動について説明する。エアコンECU30のマイクロコンピュータ31は、操作パネル40のオン操作により図2のコンプレッサ電流制御プログラムを所定の短時間毎に繰り返し実行する。
【0018】
このコンプレッサ電流制御プログラムは、ステップS10にてその実行が開始され、ステップS11にて、エバポレータ後温度センサ51により検出されたエバポレータ温度を入力する。
【0019】
次に、ステップS12にて、操作パネル40のスイッチや各種センサ群50の入力値に応じて、周知の方法により目標エバポレータ温度を決定する。具体的には、外気温センサにより検出された外気温度に基づいて計算される第1目標エバポレータ温度と、車室内へ吹き出す空調風の目標吹出温度(TAO)に基づいて計算される第2目標エバポレータ温度との低い方を目標エバポレータ温度として決定する。ステップS12の処理後、ステップS13に進む。
【0020】
ステップS13では、上記目標エバポレータ温度とエバポレータ温度に基づいて、例えば比例積分(PI)制御により可変容量コンプレッサ20のソレノイドバルブ21への制御電流を最小電流値0から最大電流値Ioの範囲(例えば、0〜1A)で決定する。次いで、ステップS14では、操作パネル40のエコノミースイッチ41の操作によりエコノミーモードがオンとなっているか否かを判定する。
【0021】
ここで、エコノミースイッチ41の操作に応じたエコノミーモードのオン・オフの切り替えについて、図3のエコノミーモード切り替えプログラムを用いて説明しておく。このエコノミーモード切り替えプログラムは、操作パネル40のオン操作によりステップS20にてその実行が開始され、ステップS21にてエコノミースイッチ41が押されたか否かを判定する。エコノミースイッチ41が押され(ステップS21にて「Yes」)、現在エコノミーモードがオンである場合(ステップS22にて「Yes」)は、エコノミーモードをオフに切り替える(ステップS23)。一方、現在エコノミーモードがオフである場合(ステップS22にて「No」)は、エコノミーモードをオンに切り替える(ステップS24)。ステップS23またはS24の処理後、ステップS25にてこのエコノミーモード切り替えプログラムの実行を終了する。
【0022】
エコノミーモードがオフ、すなわち通常モードに設定されている場合は、ステップS14にて「No」と判定し、ステップS17以降の処理を実行する。ステップS17では、ステップS13にて決定した制御電流に基づいてデューティ比を算出する。ステップS19では、算出したデューティ比に基づいてソレノイドバルブ駆動回路32にPWM波形を出力する。以後、ステップS10〜S14,S17〜S19の処理が繰り返し実行される。これにより、例えば図4(a)に示すように、エバポレータ温度が目標エバポレータ温度(例えば、1℃)となるように、制御電流が最小電流値0から最大電流値Ioの範囲で連続的に可変される。
【0023】
これに対して、エコノミーモードがオン、すなわちエコノミーモードに設定されている場合は、ステップS14にて「Yes」と判定し、ステップS15以降の処理を実行する。ステップS15,S16では、ステップS13にて決定した制御電流が上限値Iupを超える場合(ステップS15にて「Yes」)は、ステップS16にて制御電流の上限値をIupに制限して制御電流が上限値Iupを超えないようにする。ここで、上限値Iupは、エバポレータ後温度センサ51により検出されるエバポレータ温度を、通常モードで設定される目標エバポレータ温度とほぼ一致させることが可能な大きさ(例えば、0.5A)に設定されている。
【0024】
ステップS17では、ステップS16にて設定した上限電流値Iupを加味して、ステップS13にて決定した制御電流に基づいてデューティ比を算出する。ステップS18では、ステップS17にて算出したデューティ比に基づいてソレノイドバルブ駆動回路32にPWM波形を出力する。これにより、エバポレータ温度が目標エバポレータ温度(例えば、1℃)となるように、制御電流が最小電流値0から上限電流値Iupの範囲で連続的に可変される。
【0025】
以上の説明から明らかなように、この実施形態では、エコノミースイッチ41のオン操作に応じてステップS15,S16の処理により、可変容量コンプレッサ20のソレノイドバルブ21に流れる電流値が通常モードの設定時に流れる最小電流値0から最大電流値Ioの範囲内で所定の上限値Iup以下に制限される。
【0026】
すなわち、エコノミースイッチ41のオン操作に応じて通常モードからエコノミーモードに切り替えられ、可変容量コンプレッサ20のソレノイドバルブ21に流れる電流値が所定の上限値Iup以下に制限されると、通常モードで使用されるコンプレッサの容量をあたかも小さくしたのと同様の効果が得られる。したがって、可変容量コンプレッサ20の駆動に伴う省力化を図ることが可能である。
【0027】
また、従来のエコノミーモードでは、例えば図4(c)に示すように、エコノミーモード時の目標エバポレータ温度が、通常モード時の目標エバポレータ温度(例えば、1℃)よりも高い値(例えば、10℃)に設定されていたので、熱負荷が低から中程度となった定常状態におけるエバポレータ温度が、通常モードの定常状態におけるエバポレータ温度に比して高い状態にあって、通常モードの定常状態と比較して、快適性・除湿性が損なわれていた。これに対して、本実施形態では、例えば図4(b)に示すように、エコノミーモードの設定時からある程度の時間が経過した定常状態におけるエバポレータ温度が、通常モードの定常状態におけるエバポレータ温度とほぼ同じ大きさとなる。これにより、エコノミーモードの定常状態は、通常モードの定常状態とほぼ同じ状態となって、通常モードの定常状態とほぼ同等の快適性・除湿性を確保することが可能である。
【0028】
(変形実施形態)
上記実施形態では、エコノミースイッチ41として、ボタンを押し下げる度にオン・オフが切り替わるプッシュロック式のものを使用したが、これに代えて、例えばダイアル式のものを使用し、前記上限値Iupを最小電流値0から最大電流値Ioの範囲内で任意の値に設定できるようにすることも可能である(例えば、0.75A)。また、例えば前記上限値Iupを最小電流値0から最大電流値Ioの範囲内で予め複数個設定し、複数個のうちから任意の値を選択できるようにすることも可能である。
【0029】
この変形実施形態によれば、上限値Iupを最小電流値0から最大電流値Ioの範囲内で大きな値に設定することにより、エコノミーモードの設定時から定常状態となるまでの時間を短くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の車両用空調装置の一実施形態を概略的に示したブロック図。
【図2】図1のエアコンECUによって実行されるコンプレッサ電流制御プログラムを示すフローチャート。
【図3】図1のエアコンECUによって実行されるエコノミーモード切り替えプログラムを示すフローチャート。
【図4】(a)は図2のコンプレッサ電流制御プログラムの実行による通常モード時におけるエバポレータ温度と時間の関係を示す説明図。(b)は図2のコンプレッサ電流制御プログラムの実行によるエコノミーモード時におけるエバポレータ温度と時間の関係を示す説明図。(c)は従来のエコノミーモード時におけるエバポレータ温度と時間の関係を示す説明図。
【符号の説明】
【0031】
10 エアコンユニット
11 エバポレータ
20 可変容量コンプレッサ
21 ソレノイドバルブ
22 電磁クラッチ
30 エアコンECU(電流制御手段、上限値制限手段)
31 マイクロコンピュータ
32 ソレノイドバルブ駆動回路
40 操作パネル
41 エコノミースイッチ
50 センサ群
51 エバポレータ後温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エバポレータ通過後の空気温度としてのエバポレータ温度を検出するエバポレータ後温度検出手段と、前記エバポレータにて蒸発した冷媒を吸入圧縮した後の同冷媒の吐出容量を電流量に応じて可変するソレノイドバルブを有する可変容量コンプレッサと、前記エバポレータ後温度検出手段により検出されるエバポレータ温度が車室内外の熱環境に応じて設定された目標エバポレータ温度となるように前記ソレノイドバルブに流れる電流を制御する電流制御手段と、前記可変容量コンプレッサを通常モードからエコノミーモードに切り替えるためのエコノミースイッチとを備えた車両用空調装置において、
前記電流制御手段は、前記エコノミースイッチの操作に応じて前記ソレノイドバルブに流れる電流値を、前記通常モードの設定時に流れる最小電流値から最大電流値の範囲内で、所定の上限値以下に制限する上限値制限手段を備えたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記上限値は、前記エバポレータ後温度検出手段により検出されるエバポレータ温度を、前記通常モードで設定される前記目標エバポレータ温度とほぼ一致させることが可能な大きさに設定されている請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記エコノミースイッチは、前記上限値を最小電流値から最大電流値の範囲内で選択可能とされている請求項1または2に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−56840(P2009−56840A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223729(P2007−223729)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】