説明

車両用空調装置

【課題】乗員の好みが反映された省燃費制御を行いつつ、異臭の発生を確実に抑制することができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】乗員の快適度を示す快適指数(IR)において快適範囲の上限を示す第1閾値(Y1)および第1閾値(Y1)以上の値に設定される第2閾値(Y2)を、省燃費モード選択手段によって選択された省燃費モードに対応した値に設定し、蒸発器(16)の温度(TE)が蒸発器(16)の湿球温度(Twet)以下に設定された第1所定温度(Twet−A)以下であること、および、快適指数(IR)が第1閾値(Y1)以下であることを判断した上で圧縮機(32)をオフするとともに、蒸発器(16)の温度(TE)が蒸発器(16)の湿球温度(Twet)より低く設定された第2所定温度(Twet−B)よりも高くなった場合、または、快適指数(IR)が第2閾値(Y2)以上となった場合には圧縮機(32)をオンする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置の冷凍サイクルを構成する蒸発器(エバポレータ)の表面には、異臭成分(香水臭、内装臭、煙草臭等)が付着しており、蒸発器の表面が凝縮水に覆われている場合には、それらの異臭成分が車室内に向けて飛散することはない。しかし、蒸発器の表面に付着していた凝縮水が乾いていくと、異臭成分が空調風と共に車室内に吹き出してしまい、乗員に対して不快感を与えてしまう。
【0003】
こうした問題を解決するため、例えば、特許文献1に記載の車両用空調装置では、蒸発器を通過した後の空気温度(以下、「エバ後温度TE」と言う。)が、湿球温度Twet以下である場合に、圧縮機のオンオフ運転(間欠運転)を行うようにしている。これにより、蒸発器の表面が乾いていく速度を小さくし、蒸発器の表面に付着していた異臭成分の多くが車室内に向けて短時間に飛散することを抑制して異臭成分による不快感を低減するようにしている。
【0004】
そして、間欠運転(省燃費モード)により圧縮機のオフ時間を設定することで、車両の省燃費を図ることができるとされていた。
【特許文献1】特開2002−248933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記構成の車両用空調装置では、車両用空調装置の運転中にエバ後温度TEが、湿球温度Twetより低温から、湿球温度Twetをまたぐようにして上昇する場合があり、このような場合には異臭成分が車室内に放出されてしまう。また、上記間欠運転を行っても、異臭成分が少しずつ車室内に放出されてしまうため、異臭軽減効果が不十分であるという問題があった。
【0006】
また、他の車両用空調装置において、省燃費モードを乗員が選択できるようにエコノミースイッチを設けたものも知られている。しかし、こうした装置においても、省燃費モードを実行するタイミングなどは予め決められたシステムの設定に制限されており、実行閾値を可変できないため乗員の好みに対応できず、乗員によっては省燃費モードを利用せずに省燃費を図ることができないといった問題も生じうる。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、乗員の好みが反映された省燃費制御を行いつつ、異臭の発生を確実に抑制することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0009】
請求項1に記載の発明では、冷媒を圧縮する圧縮機(32)と、冷媒を蒸発させることにより空気を冷却する蒸発器(16)と、蒸発器(16)の温度(TE)を検出する蒸発器温度検出手段(43)と、蒸発器(16)の湿球温度(Twet)を検出する湿球温度検出手段(44)と、圧縮機(32)の作動を制御するとともに、冷房運転時に圧縮機(32)の稼動をオンとオフとで切り替えながら間欠運転する省燃費モードを有する制御手段(36)と、省燃費モードは間欠運転を実行する条件が異なる複数レベルに設定されており、乗員によって操作されて所定のレベルの省燃費モードを選択する省燃費モード選択手段(45)と、を備え、制御手段(36)は、乗員の快適度を示す快適指数(IR)において、快適範囲の上限を示す第1閾値(Y1)および、第1閾値(Y1)以上の値に設定される第2閾値(Y2)を、省燃費モード選択手段(45)によって選択された省燃費モードに対応した値に設定し、蒸発器(16)の温度(TE)が、蒸発器(16)の湿球温度(Twet)以下に設定された第1所定温度(Twet−A)以下であること、および、快適指数(IR)が第1閾値(Y1)以下であることを判断した上で圧縮機(32)をオフするとともに、蒸発器(16)の温度(TE)が、蒸発器(16)の湿球温度(Twet)より低く設定された第2所定温度(Twet−B)よりも高くなった場合、または、快適指数(IR)が第2閾値(Y2)以上となった場合には圧縮機(32)をオンすることを特徴とする。
【0010】
通常、圧縮機(32)をオンして作動させると冷媒が蒸発器(16)を流通することで蒸発器(16)の温度(TE)が低下するため、蒸発器(16)の表面は凝縮水で覆われた状態に維持される。一方、圧縮機(32)がオフされると、冷媒が蒸発器(16)を流通しなくなり、蒸発器(16)の温度(TE)は上昇し、蒸発器(16)の表面は徐々に乾いていく。そして、このとき蒸発器(16)の表面に付着した異臭成分が車室内に放出される。
【0011】
本構成によれば、空調運転を開始した後、蒸発器(16)の温度(TE)が第1所定温度(Twet−A)以下であることを判断することで、蒸発器(16)の表面が凝縮水で濡れた状態であることを確認した上で、圧縮機(32)がオフされる。また、圧縮機(32)がオフされた後、蒸発器(16)の温度(TE)が第2所定温度(Twet−B)よりも高くなった場合には圧縮機(32)がオンされる。
【0012】
すなわち、本構成では、圧縮機(32)のオンとオフとを切り替える間欠運転中に、蒸発器(16)の温度(TE)が湿球温度(Twet)をまたいで上昇することがなく常に蒸発器(16)の表面は凝縮水で覆われた状態となるため、蒸発器(16)の表面に付着した異臭成分が車室内に飛散されることがない。また、間欠運転モードにおいて圧縮機(32)をオフする時間を設けることで、省燃費を図ることができる。
【0013】
さらに、快適指数(IR)が第1閾値(Y1)以下となったことを判断した上で圧縮機(32)をオフするようにしており、乗員の快適性の観点から十分に冷却(冷房)がなされた後に圧縮機(32)をオフするため、冷房が不十分なままで空調がオフされることがなく、また、快適指数(IR)が第2閾値(Y2)以上となった場合には圧縮機(32)をオンするため、冷房機能を必要以上に停止することがなく乗員の快適性を維持することができる。
【0014】
そして、圧縮機(32)をオフするタイミングとなる第1閾値(Y1)および圧縮機(32)をオンするタイミングとなる第2閾値(Y2)は、省燃費モード選択手段(45)によって乗員の好みに応じて選択された省燃費モードに対応した値に設定されるため、乗員の好みに合う省燃費モードを提供することができる。
【0015】
以上のように、本構成によれば、乗員の好みが反映された省燃費制御を行いつつ、異臭の発生を確実に抑制することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、快適指数(IR)は乗員の皮膚温度(IR)であって、皮膚温度(IR)を検出する皮膚温度検出手段(42)を備えることを特徴とする。
【0017】
本構成によれば、皮膚温度検出手段(42)によって乗員の皮膚温度(IR)を検出することよって、乗員の快適性を好適に判断することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明では、制御手段(36)は、より省燃費を図るレベルである高レベルの省燃費モードにおける第1閾値(Y1)ほど、低レベルの省燃費モードにおける第1閾値(Y1)よりも高い値に設定することを特徴とする。
【0019】
本構成によれば、高レベルの省燃費モードでは、オフするタイミングとなる乗員の皮膚温度(IR)の第1閾値が、低レベルの省燃費モードと比較して高めに設定されるため、冷房が進む早い段階で間欠運転が実行されることとなり、圧縮機(32)をオフする時間が確保されて省燃費効果を高めることができる。
【0020】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1〜図5を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態における車両用空調装置1の構成を示す模式図である。図1に示すように、車室内(空調室内)を空調する車両用空調装置1(以下、単に「空調装置1」とも言う。)は、内部に空気流路が形成される空調ケーシング10を有し、この空調ケーシング10内の空気上流側部位には、内外気切換装置11が設けられている。内外気切換装置11には、内気を導入するための内気導入口12と外気を導入するための外気導入口13とが開口形成されているとともに、これらの各導入口12,13を選択的に開閉する内外気切換ドア14が設けられている。この内外気切換ドア14を回動作動させることで、各導入口12,13を選択的に開閉するようになっている。
【0022】
内外気切換装置11の下流側部位には、両導入口12,13から吸入された空気を送風する送風機15が配設されている。送風機15は、ブロワモータM1により駆動される。送風機15の空気下流側には、室内に吹き出す空気を冷却する蒸発器16が配設されている。
【0023】
蒸発器16の空気下流側には、空気を加熱するヒータコア17が配設されている。このヒータコア17は、走行用の車両エンジン18の冷却水を熱源として空気を加熱している。蒸発器16の下流側には、ヒータコア17をバイパスするバイパス流路19が形成され、ヒータコア17の空気上流側には、ヒータコア17を通る風量とバイパス流路19を通る風量との風量割合を調節するエアミックスドア21が配設されている。
【0024】
そして、空調ケーシング10の最下流側部位には、車室内乗員の上半身に空調空気を吹き出すためのフェイス吹出口22と、車室内乗員の足元に空気を吹き出すためのフット吹出口23と、フロントガラスの内面に向かって空気を吹き出すためのデフロスタ吹出口24とが形成されており、各吹出口22〜24の空気上流側部位には、吹出口モードを切り換える吹出口モード切換ドア25a〜25cが配設されている。
【0025】
なお、上記蒸発器16は、冷媒を蒸発させることにより冷凍能力を発揮する蒸気圧縮式冷凍サイクルRc(以下、単に「冷凍サイクルRc」と言う。)の低圧側の熱交換器である。冷凍サイクルRcは、車両エンジン18により電磁クラッチ31を介して駆動される圧縮機32、放熱器33、アキュムレータ34を備えている。蒸発器16の冷媒上流側(冷媒入口側の冷媒流路)には、放熱器33で放熱された冷媒の減圧手段である膨張弁35が設けられている。圧縮機32は、例えば一回転あたりの吐出容量が所定値となる固定容量タイプの圧縮機である。

さらに、空調装置1は、制御手段としてのエアコンECU36を有している。エアコンECU36は、CPU、ROMおよびRAM(いずれも図示略)等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。ROM内には、空調制御のための制御プログラムを記憶しており、その制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行う。さらに、エアコンECU36は、周知のタイマ機能を備えている。
【0026】
エアコンECU36には、送風機15、エアミックスドア21、吹出口モード切換ドア25a〜25c、圧縮機32等が電気的に接続されている。さらに、センサ群として、外気温度TAMを検出する外気温度センサ41、乗員の皮膚温度IRをスポット的に検出する皮膚温センサ42(皮膚温度検出手段)、蒸発器16の温度TE(以下、「エバ後温度TE」と言う。)を検出するエバ後温度センサ43(蒸発器温度検出手段)、蒸発器16の湿球温度Twetを検出する湿球温度センサ44(湿球温度検出手段)等のセンサおよび、省燃費制御におけるレベルを乗員による操作により切り替えるためのエコノミーレベル切替スイッチ45(省燃費モード選択手段)が電気的に接続されている。
【0027】
なお、皮膚温度IRは、本発明の「快適指数」の一実施形態である。また、湿球温度Twetとは、蒸発器16の表面が凝縮水で濡れた状態における蒸発器16の表面温度であり、蒸発器16の表面が凝縮水で濡れている間は、エバ後温度TEは湿球温度Twet以下となる。ちなみに、湿球温度Twetは、蒸発器16に流入する空気(吸い込み空気)の温度(乾球温度)と湿度(相対湿度)とから決まるものである。湿球温度センサ44は、センサ内の感湿膜の変化量を電気信号に変換させ、エアコンECU36に送出する。そして、空調装置1を作動させると、エアコンECU36は、圧縮機32を駆動制御するとともに、送風機15、各種ドア駆動用の各モータ(図示略)等の作動を制御するようになっている。
【0028】
次に、エコノミーレベル切替スイッチ45について説明する。図2は、本実施形態におけるエコノミーレベル切替スイッチ45(エコノミーレベル切替画面51)を示す図である。本実施形態における車両は、インストルメントパネル(計器盤部)の略中央部(図示略)に、オーディオ情報やナビゲーション画面、エアコンモード画面を表示するマルチディスプレイ50を備えている。そして、所定のパネルスイッチ(ハードスイッチ)もしくはタッチスイッチによってエアコンモードを選択することで、マルチディスプレイ50上にエアコンモード画面の一画面を構成するエコノミーレベル切替画面51を表示することができる。本実施形態では、3段階のエコノミーレベル切替スイッチ45をタッチスイッチとして設けており、画面向かって左から順に低エコノミーレベルスイッチ45a、中エコノミーレベルスイッチ45b、高エコノミーレベルスイッチ45cを有して構成されている。
【0029】
なお、ここで言う「低」「中」「高」は、省燃費の度合いの高低を示しており、低エコノミーレベルスイッチ45aほど省燃費の度合いが小さく、高エコノミーレベルスイッチ45cほど省燃費の度合いが大きい、すなわち、より省燃費を図るレベルであることを意味している。そして、乗員は、上記エコノミーレベル切替画面51上で所望のレベルスイッチ45a,45b,45cをタッチ操作することで、好みのエコノミーレベル(省燃費モード)を選択できるようになっている。選択された操作信号はエアコンECU36へ入力され、エアコンECU36は入力されたスイッチ信号に従ってエアコン制御を行う(詳細後述)。
【0030】
次に、本実施形態における車両用空調装置1の制御方法について説明する。図3は、本実施形態におけるエアコンECU36が実行する車両用空調装置1の制御手順(メインフロー)の一例を示すフローチャートである。なお、図3では、簡単のため本実施形態の特徴部分におけるステップのみを記載しており、目標吹出温度TAOの算出、吸込口モード決定、吹出口モード決定等の一般的な流れについては省略しているものである。
【0031】
図3に示すように、まず、ステップS10で、キーID(ドアロック解除キーの情報)とシート位置に基づくボデーECU(図示略)からの通信情報により乗員を識別する(乗員認証)。次に、ステップS20で、外気温度センサ41により検出された外気温度TAMが、所定範囲内であるか否か判断する。本実施形態では、外気温度TAMが温度T1以上であって温度T2以下の範囲(T1≦TAM≦T2)であるか否かを判断する。ここで、温度T1は温度T2より低く設定されている(T1<T2)。そして、外気温度TAMがこの範囲内の温度であれば、ステップS30へ進み、省燃費制御(間欠運転モード)を実行する。この省燃費制御は、圧縮機32の稼動をオンとオフとで切り替えながら運転する間欠運転制御であって、本発明の要部であるため、その詳細については後述する。
【0032】
一方、ステップS20で、外気温度TAMが所定範囲外である場合、すなわち、外気温度TAMが温度T1より低い、もしくは温度T2よりも高い場合には、ステップS30の省燃費制御を行うことなく処理を終了する。 これは、外気温度TAMが温度T1より低い場合に、省燃費制御、すなわち圧縮機32の間欠運転を行うと、圧縮機32をオフした際に車両の窓が曇り易く、この条件下での間欠運転はふさわしくないためである。温度T1は、例えば、5℃〜10℃の範囲内の温度に設定できる。
【0033】
また、外気温度TAMが温度T2より高い場合に、圧縮機32の間欠運転を行うと、圧縮機をオフした際に雰囲気温度がすぐに上昇してしまう結果、オン、オフの切り替えを短時間で繰り返すこととなり(オフタイミングについては、後に詳述する。)、この場合も間欠運転はふさわしくないためである。温度T2は、例えば、30℃〜40℃の範囲内の温度に設定できる。すなわち、ステップS20では、圧縮機32の間欠運転を行うのに適した外気温度TAMであるか否かを判断しており、適している場合にのみ間欠運転を行うようにしている。
【0034】
次に、省燃費制御の詳細について説明する。図4は、図3のステップS30における省燃費制御の詳細を示すフローチャートである。図4に示すように、省燃費制御がスタートすると、まず、ステップS31で、エコノミーレベル情報入力がなされ、ステップS32で、入力されたエコノミーレベル(低、中、高のうちいずれか)に応じた皮膚温度IRの閾値を設定する。
【0035】
図5は、各エコノミーレベルに対応する皮膚温度IRの閾値を示している。ここで、第1閾値Y1は、圧縮機32をオフするタイミングを見るための値であって、快適範囲の上限を示す。すなわち、皮膚温度IRが第1閾値Y1以下であれば、十分に冷房が進んだことで皮膚温度IRが下がり、快適範囲となったことを意味する。一方、第2閾値Y2は、圧縮機32をオンするタイミングを見るための値であって、第1閾値Y1より高い温度に設定されている。すなわち、皮膚温度IRが第2閾値Y2以上となった場合には、冷房を停止してから時間が経過したことによって皮膚温度IRが上昇し、快適感が損なわれた状態となったことを意味する。
【0036】
本実施形態では、図5に示すように、低エコノミーレベルでは、第1閾値Y1は26℃、第2閾値Y2は27℃に設定され、中エコノミーレベルでは、第1閾値Y1は27℃、第2閾値Y2は28℃に設定され、高エコノミーレベルでは、第1閾値Y1は28℃、第2閾値Y2は29℃に設定されている。高エコノミーレベルほど低エコノミーレベルより、第1閾値Y1、第2閾値Y2は共に高くなるように設定されている。
【0037】
例えば、乗員により低エコノミーレベルが選択された場合には、ステップS32では、図5に基づき、第1閾値Y1を26℃、第2閾値Y2を27℃に設定する。そして、ステップS33で、所定のタイミングで圧縮機32をオフ、オン制御する。これは、圧縮機32の電磁クラッチ31のオフ、オン制御により行われる。
【0038】
図4に戻り、まず、オフタイミングについて説明する。本実施形態では、2つの条件(第1オフ条件、第2オフ条件)を見ており、これらの2つの条件を満たした場合に圧縮機32をオフするようにしている。
【0039】
まず、第1オフ条件は、エバ後温度センサ43により検出されたエバ後温度TEが、湿球温度Twet−A(=蒸発器16の表面が濡れた状態を維持することができる温度)以下であること(TE≦Twet−A)である。Aは0以上の任意の係数であって、例えば、0℃〜5℃程度の範囲に設定できる。第1オフ条件を満たすことで、蒸発器16がある程度冷却されたこと、および、湿球温度Twet以下であることから蒸発器16の表面が凝縮水で濡れた状態にあることが確認できる。なお、湿球温度Twet−Aが本発明の第1所定温度の一実施形態である。
【0040】
第2オフ条件は、皮膚温センサ42により検出された皮膚温度IRが第1閾値Y1以下であること(IR≦Y1)である。第1閾値Y1の値を適温に設定することで乗員の体温が適温となり快適感の得られる程度まで冷房が十分に行われたことが確認できる。また、冷房開始後、すぐに蒸発器16の温度が下降して上記第1オフ条件を満たすことが考えられるが、第2の条件を併せて見ることで、すぐに圧縮機32をオフとせず、ある程度車室内の冷房が進むまで待つため、圧縮機32のオンオフ間の時間が極端に短くなることがない。なお、本実施形態では、皮膚温度IRが第1閾値Y1以下の範囲が、「快適範囲」に相当する。
【0041】
次に、オンタイミングについて説明する。本実施形態では、2つの条件(第1オン条件、第2オン条件)を見ており、これらの2つの条件のうち、いずれか1つの条件を満たした場合に圧縮機32をオンするようにしている。
【0042】
まず、第1オン条件は、エバ後温度TEが、湿球温度Twet−Bより大きいこと(TE>Twet−B)である。Bは係数であり、上記第1オフ条件の係数Aと同じ値でも良いし、例えば、0℃より大きく5℃以下の範囲で適宜設定できる。なお、係数Bの採り得る値には、0は含まない。この第1オン条件では、エバ後温度TEが湿球温度Twetより確実に低い値であり、蒸発器16の表面が凝縮水で濡れた状態にあることが確認できる。逆に、エバ後温度TEがTwet−Bよりも上昇していきTwetを超えてしまうと、蒸発器16の表面に付着した異臭成分が車室内に向けて飛散される虞が出て来る。なお、湿球温度Twet−Bが本発明の第2所定温度の一実施形態である。
【0043】
第2オン条件は、皮膚温度IRが第2閾値Y2以上であること(IR≧Y2)である。第2閾値Y2は、第1閾値Y1よりも高温に設定される(Y2>Y1)。第2閾値Y2の値を第1閾値Y1より大きく設定することで、オン、オフ制御が短い周期で繰り返されることを防止できる。そして、この条件を考慮することで、乗員の皮膚温度IRが上昇して不快と感じることが確認できる。例えば、エバ後温度TEがTwet−B以上となる前に、乗員の皮膚温度IRが上昇して不快となった場合に、圧縮機32をオンとするため、乗員の快適感を損なうことがない。
【0044】
一方、皮膚温度IRが第2閾値Y2より低く、まだ不快と感じる段階ではない場合であっても、第1オン条件が満たされた場合(TE>Twet−B)には、じきにエバ後温度TEが湿球温度Twetを超えて異臭が車室内に発生すると考えられるため、異臭防止の観点から圧縮機32をオンする。
【0045】
ステップS33で、所定のタイミングで圧縮機32をオフ、オン制御した後には、ステップS34へ進み、制御継続時間が所定時間S(例えば25秒〜40秒)より短いか否かを判断する。ここで、本実施形態における制御継続時間とは、圧縮機32をオフした後再びオンするまでの時間を言う。なお、この制御継続時間は、周知のタイマ機能によって計測しているものである。
【0046】
そして、制御継続時間が所定時間S以上である場合(ステップS34:NO)には、ステップS31へ戻り本制御を繰り返し行う。一方、制御継続時間が所定時間Sより短い場合(ステップS34:YES)には、ステップS35で、イグニッションスイッチがオフになるまで省燃費制御をキャンセルする。これは、あまりにオフからオンへの周期が短いと(オフ時間が短いと)、空調風の変化等により乗員への煩わしさが生じてしまい返って不快になる。このため、いったんオフした後オンにするまでの計測時間を計っておいて、その時間が所定時間Sより短ければ、省燃費制御を抜けて、例えばAuto(自動)モードに以降するようにしている。
【0047】
なお、フローチャートでは省略しているが、本実施形態では、圧縮機32のオフ、オン制御と同じタイミングで、送風機15のブロワモータM1もオフ、オン制御するようにしている。このように送風機15も併せてオフすることで、さらに省燃費効果を奏することができる。
【0048】
上記実施形態によれば、空調運転を開始した後、エバ後温度TEがTwet−A(第1所定温度)以下であることを判断し、蒸発器16の表面が凝縮水で濡れた状態であることを確認した上で、圧縮機32がオフされる(ステップS33)。
【0049】
また、圧縮機32をオフした後、エバ後温度TEがTwet−B(第2所定温度)よりも高くなった場合には圧縮機32がオンされる(ステップS33)。通常、圧縮機32がオフされると、冷媒が蒸発器16を流通しなくなり、蒸発器16の温度は上昇し、蒸発器16の表面は徐々に乾いていく。一方、圧縮機32をオンして作動させると冷媒が蒸発器16を流通することで蒸発器16の温度(表面温度)が低下するため、蒸発器16の表面は凝縮水で覆われた状態に維持される。
【0050】
本実施形態では、圧縮機32のオンとオフとを切り替える間欠運転中に、エバ後温度TEが湿球温度Twetをまたいで上昇することがなく常に蒸発器16の表面は凝縮水で覆われた状態となる。これにより、蒸発器16の表面に付着した異臭成分が車室内に飛散されることがなく、異臭の発生を確実に抑制することができる。
【0051】
また、乗員が車両から降りて、車両用空調装置1が停止された場合等の間に、蒸発器16の表面が徐々に乾いてしまい、次に車両用空調装置1が運転される最初の段階では蒸発器16の表面が乾いている場合が考えられる。しかし、この場合であっても、本実施形態によれば第1オフ条件で、蒸発器16が濡れている状態となった後に省燃費制御を行うため、車両用空調装置1の運転中に蒸発器16の表面が乾くことなく、確実に異臭を抑制することができる。なお、エバ後温度TEが湿球温度Twetより高い温度から湿球温度Twetをまたぐように下降する際には異臭は発生しないため問題は生じない。本実施形態では、運転開始後、エバ後温度TEが湿球温度Twetよりも低い温度に下がった後には、湿球温度Twetを再び超えて上昇しないように制御する点が特徴である。
【0052】
そして、圧縮機32をオフした後、再びオンする第1オン条件および第2オン条件を設けることで、各条件のいずれか満たすまではオフ時間を確保できるため、さらなる省燃費効果を奏することができる。
【0053】
さらに、乗員の皮膚温度IRが第1閾値Y1以下となったことを判断した上で圧縮機32をオフするようにしており、乗員の快適性の観点から十分に冷却(冷房)がなされた後に圧縮機32をオフするため、冷房が不十分のままで空調がオフされることがなく、また、皮膚温度IRが第2閾値Y2以上となった場合には圧縮機32をオンするため、冷房機能を必要以上に停止することがなく乗員の快適性を維持することができる。
【0054】
そして、圧縮機32をオフするタイミングとなる第1閾値Y1および圧縮機32をオンするタイミングとなる第2閾値Y2は、省燃費モード選択手段としてのエコノミーレベル切替スイッチ45によって乗員の好みに応じて選択された省燃費モードに対応した値に設定されるため、乗員の好みに合う省燃費モードを提供することができる。
【0055】
具体的には、低エコノミーレベルが選択されたときには、皮膚温度IRが低め(第1閾値Y1=26℃)で圧縮機32をオフする一方、高エコノミーレベルが選択されたときには、皮膚温度IRが高め(第1閾値Y1=28℃)でオフする。このように、各エコノミーレベルスイッチ45a,45b,45cごとに制御定数の違いを持たせることで、乗員の温感に合わせた省燃費制御をすることができる。
【0056】
また、上記実施形態では、マルチディスプレイ50のエコノミーレベル切替画面51上におけるエコノミーレベル切替スイッチ45をタッチ操作することによって、簡単に所望のエコノミーレベルを選択でき、操作が非常に分かり易く、誰でも省燃費モードのシステムを享受することができる。また、同じ乗員であっても希望するレベルは状況によって異なり、本実施形態によれば、その日の体調やガソリンの量等によって適宜エコノミーレベルを選択できるため、自由度が広がり省燃費モードの活用率をさらに上げることができる。
【0057】
また、オフタイミングにおける閾値である第1閾値Y1とオンタイミングにける閾値である第2閾値Y2とに温度差を設けることで(Y2>Y1)、すぐに圧縮機32がオンされることが防止され、オンオフの切り替えが極端に短い周期で繰り返される所謂ハンチング現象を効果的に抑制することができる。
【0058】
以上、本実施形態によれば、異臭発生低減に加えて、空調快適性を確保し、さらに、乗員の好みが反映された省燃費を図ることが可能な車両用空調装置1として構成されている。
【0059】
(その他の実施形態)
・ 上記実施形態では、固定容量タイプの圧縮機32としたが、可変容量タイプの圧縮機として構成しても良い。
【0060】
・ 上記実施形態では、蒸発器16の温度(エバ後温度TE)は、蒸発器16を通過した後の空気温度から読み取るようにしたが、蒸発器16のフィンに直接取り付けられたエバフィンセンサーから検出するようにしても良い。
【0061】
・ 上記実施形態では、低、中、高の3段階のエコノミーレベル(省燃費モード)を有する構成としたが、2段階、4段階以上の複数のエコノミーレベル(省燃費モード)を設定しても良い。
【0062】
・ 上記実施形態では、乗員の快適度を示す快適指数として皮膚温度IRを用いたが、スポット的に乗員の皮膚温度を検出するのみではなく、例えば乗員の周辺空気温度を併せて検出する視野角の広いセンサを用いて広義の皮膚温度を快適指数として実施しても良い。
【0063】
・ 上記実施形態では、図5において示すように、皮膚温度IRの第1閾値Y1および第2閾値Y2を、概ね26℃〜29℃の範囲で設定したが、この数値(範囲)に限定されるものではない。
【0064】
・ また、例えば、第1閾値Y1は上記実施形態における値のままで、第2閾値Y2の値を全て29℃に共通としても良い。この場合であっても、第1閾値Y1が異なることでオフタイミングを異ならせることができ、制御閾値が異なる複数のエコノミーレベルを設定することができる。
【0065】
・ 上記実施形態では、省燃費モード選択手段としてのエコノミーレベル切替スイッチ45(低エコノミーレベルスイッチ45a、中エコノミーレベルスイッチ45b、高エコノミーレベルスイッチ45c)をタッチスイッチとして設けたが、その他の形態のスイッチにより構成しても良い。例えば、図6に示すように、ハードスイッチとしてのロータリダイヤル入力タイプのスイッチ45Bにより構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1実施形態における車両用空調装置の構成を示す模式図である。
【図2】エコノミーレベル切替スイッチ(エコノミーレベル切替画面)を示す図である。
【図3】エアコンECUが実行する車両用空調装置の制御手順(メインフロー)の一例を示すフローチャートである。
【図4】図3のステップS30における省燃費制御の詳細を示すフローチャートである。
【図5】各エコノミーレベルに対応する皮膚温度IRの閾値を示す図である。
【図6】その他の実施形態における、エコノミーレベル切替スイッチを示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 車両用空調装置
10 空調ケース
15 送風機
16 蒸発器
32 圧縮機
36 エアコンECU(制御手段)
42 皮膚温センサ(皮膚温度検出手段)
43 エバ後温度センサ(蒸発器温度検出手段)
44 湿球温度センサ(湿球温度検出手段)
45 エコノミーレベル切替スイッチ(省燃費モード選択手段)
45a 低エコノミーレベルスイッチ(省燃費モード選択手段)
45b 中エコノミーレベルスイッチ(省燃費モード選択手段)
45c 高エコノミーレベルスイッチ(省燃費モード選択手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機(32)と、
前記冷媒を蒸発させることにより空気を冷却する蒸発器(16)と、
当該蒸発器(16)の温度(TE)を検出する蒸発器温度検出手段(43)と、
前記蒸発器(16)の湿球温度(Twet)を検出する湿球温度検出手段(44)と、
前記圧縮機(32)の作動を制御するとともに、冷房運転時に前記圧縮機(32)の稼動をオンとオフとで切り替えながら間欠運転する省燃費モードを有する制御手段(36)と、
前記省燃費モードは前記間欠運転を実行する条件が異なる複数レベルに設定されており、乗員によって操作されて所定のレベルの前記省燃費モードを選択する省燃費モード選択手段(45)と、を備え、
前記制御手段(36)は、
前記乗員の快適度を示す快適指数(IR)において、快適範囲の上限を示す第1閾値(Y1)および、当該第1閾値(Y1)以上の値に設定される第2閾値(Y2)を、前記省燃費モード選択手段(45)によって選択された前記省燃費モードに対応した値に設定し、
前記蒸発器(16)の温度(TE)が、前記蒸発器(16)の湿球温度(Twet)以下に設定された第1所定温度(Twet−A)以下であること、および、前記快適指数(IR)が前記第1閾値(Y1)以下であることを判断した上で前記圧縮機(32)をオフするとともに、前記蒸発器(16)の温度(TE)が、前記蒸発器(16)の湿球温度(Twet)より低く設定された第2所定温度(Twet−B)よりも高くなった場合、または、前記快適指数(IR)が前記第2閾値(Y2)以上となった場合には前記圧縮機(32)をオンすることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記快適指数(IR)は前記乗員の皮膚温度(IR)であって、当該皮膚温度(IR)を検出する皮膚温度検出手段(42)を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御手段(36)は、より省燃費を図るレベルである高レベルの前記省燃費モードにおける第1閾値(Y1)ほど、低レベルの前記省燃費モードにおける第1閾値(Y1)よりも高い値に設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−30326(P2010−30326A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191405(P2008−191405)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】