説明

車両用防護柵用繊維ロープ

【課題】本発明は、従来の鋼材製と同等の強度及び耐候性を有するとともに施工性及び衝撃吸収度が向上した車両用防護柵用繊維ロープを提供することを目的としている。
【解決手段】芯部1及び芯部1を被覆する被覆部2を備えた二重構造の車両用防護柵用繊維ロープAであって、被覆部2は、耐候性を有するとともに12本以上のストランドを隙間なく組み合せた十二打ち以上の組紐構造からなり、芯部1は、12本以上のストランドを組み合せてリードを芯部1の外径の6倍以上に設定した組紐構造からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路において車道からの車両逸脱防止や歩道との仕切りに用いられる車両用防護柵用繊維ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
道路に用いられる車両用防護柵としては、従来より鋼製のレール部材を支柱に固定したガードレールや支柱の間に複数のケーブルを取り付けたガードケーブルといったものが施工されている。
【0003】
一般的に設置されている鋼製のガードレールは、車両衝突時にレールが破損して車両に突き刺さる等の災害による死亡事故が毎年繰り返されており、安全性の確保が課題となっている。また、積雪地域で主に使用されている鋼製のガードケーブルは、視認性が悪く、夏期にはケーブルが気温上昇により伸びて再緊張が必要になる等の欠点がある。さらに、ガードケーブルでは、ケーブルを張設した場合に端部の支柱にかかる負荷が大きくなるためケーブルが端部で抜けるトラブルが生じやすい。
【0004】
こうした防護柵に用いられるロープとしては、例えば、特許文献1では、ロープを特定の化学的成分組成の鋼素線を伸線し、撚り加工した後オーステナイト生成熱処理することで、ロープに非常に大きなエネルギー吸収性能を備えるようにした点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−191774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の車両用防護柵のガードレールやガードケーブルは鋼材のため、強い衝撃や除雪などの荷重を受けると、弾性域を超えて塑性変形や強度劣化が生じるようになる。そのたびに部材の交換が必要となり、維持管理負担が大きくなる。また、鋼材は、伸度が小さいため、車両の衝突時に乗員の受ける衝撃が大きい。
【0007】
鋼材のロープでエネルギー吸収能力を高めた点が特許文献1に記載されているが、塑性変形域を広くすることでエネルギー吸収能力を高めているので、部材の交換頻度がむしろ高くなってしまう問題がある。
【0008】
また、繊維ロープは、低荷重域の初期伸びを除けば塑性変形しにくく衝撃吸収能力も高いが、従来の市販されている繊維ロープでは、単位重量にたいして強度が不足しているという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、従来の鋼材製と同等の強度及び耐候性を有するとともに施工性及び衝撃吸収度が向上した車両用防護柵用繊維ロープを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両用防護柵用繊維ロープは、芯部及び当該芯部を被覆する被覆部を備えた二重構造の車両用防護柵用繊維ロープであって、前記被覆部は、耐候性を有するとともに12本以上のストランドを隙間なく組み合せた十二打ち以上の組紐構造からなり、前記芯部は、12本以上のストランドを組み合せてリードを前記芯部の外径の6倍以上に設定した組紐構造からなることを特徴とする。さらに、前記被覆部のストランドは、カルボジイミド基含有合成繊維又はカーボンブラック含有合成繊維からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記の構成を備えることで、従来の鋼材製と同等の強度及び耐候性を有するとともに施工性及び衝撃吸収度が向上した車両用防護柵用繊維ロープを構成することができる。
【0012】
すなわち、繊維ロープの芯部を12本以上のストランドを組み合せてリードを芯部の外径の6倍以上に設定した組紐構造で構成しているので、車両衝突時の衝撃にも耐えられる強度を備えるとともに衝撃を吸収して車両や乗員に与えるダメージを最小限とすることができる。特に、繊維ロープは、鋼材製ケーブルに比べて伸度が大きいため衝撃吸収作用が大きく、破断した場合でも車両や乗員にほとんど損害が生じることはない。
【0013】
また、繊維ロープの被覆部を耐候性を有するとともに12本以上のストランドを隙間なく組み合せた十二打ち以上の組紐構造で構成しているので、ストランドを隙間のない密着した状態で組み合せて日光を遮蔽し芯部を構成する繊維が日光により劣化するのを防止することができる。そのため、経年劣化による繊維ロープの強度低下を抑えることができ、メンテナンス等の維持管理負担を軽減することが可能となる。
【0014】
また、合成繊維等の柔軟性のある軽量材で繊維ロープを構成すれば、車両用防護柵を容易に施工することができ、ガードケーブルに鋼材のような重量物を取り付ける場合に比べて取付構造を簡略化することが可能となる。また、変形に対する復元力が大きいため、雪害に対しても十分な耐久力を備えており、海岸に設置した場合等に発生する塩害に対しても劣化することはほとんどない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る車両用防護柵用繊維ロープに関する構成図である。
【図2】許容変位量の算出に関する説明図である。
【図3】繊維ロープの破断強度の測定結果を示す表である。
【図4】繊維ロープを用いた引張試験での張力及び伸度の推移を示すグラフである。
【図5】繊維ロープの性能確認試験の結果を示す表である。
【図6】繊維ロープの耐候性試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明に係る車両用防護柵用繊維ロープAに関する構成図である。繊維ロープAは、芯部1及び芯部1の周囲を被覆する被覆部2の二重構造からなり、芯部1は12本のストランドを組み合せて十二打ちの組紐構造とし、被覆部2は24本のストランドを2本1組で組み合せて隙間のない目の詰まった十二打ちの組紐構造としている。芯部1及び被覆部2は、それぞれ12本以上のストランドを組み合せた二重組打ちの組紐構造で構成すればよい。
【0018】
芯部1及び被覆部2は、それぞれ独立した組紐構造となっており、分離することができる構造となっている。そのため、繊維ロープに対して浅い角度で車両が衝突した場合に、まず被覆部分が破断して芯部を滑るようになり、芯部に対して車両が直接食い込んでダメージを与えることが防止されるようになっている。
【0019】
芯部1は、芯部1の外径Dの6倍以上の長さでリードLが設定されている。リードとは、1本のストランドの1回のよりてい(程)であり、リードの値が大きいほどストランドが撚りの弱い緩んだ状態で組み合わされていることになる。一方、被覆部2は、十二打ち以上の組紐構造でストランド同士が隙間のない目の詰まった状態で組み合わされている。そのため、芯部1のストランド10が撚りが弱く径方向に膨らんだ状態となる場合でも被覆部2のストランド20により周囲から芯部1のストランド10の膨らみを抑えるように作用し、繊維ロープの取り扱いを容易にするとともに芯部1を被覆部2で保護することができる。そして、車両が衝突した際に芯部1に衝撃力が加わると、芯部1が伸長して衝撃力が吸収されるようになる。
【0020】
芯部1及び被覆部2は、同じ組紐構造で構成されているため、製造する際に公知の組紐装置により芯部1とともに被覆部2を同時に形成することができ、製造の効率化を図ることが可能となる。また、ストランドは、撚りをかけずに組み合せて組紐構造を構成すれば、ストランドを構成する繊維全体が引張強度に寄与するようになり、引張強度を高めることができる。
【0021】
繊維ロープを構成するストランドは、合成繊維からなる繊維束を用いるとよい。合成繊維としては、例えば、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ビニロン等のポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン系繊維が挙げられるが、衝撃に耐えられる強度、衝撃を吸収する伸度、並びに、屋外に設置した場合の耐蝕性、耐熱性及び耐湿性の観点からポリエステル系繊維が好ましい。
【0022】
被覆部2を構成するストランドには、耐候性を備えた合成繊維からなるものが用いられる。例えば、カーボンブラックを含有する合成繊維やカルボジイミド基を含有する合成繊維を使用すれば、直射日光に含まれる紫外線に対して耐久性を備えることができる。被覆部2は、ストランドを隙間のない目の詰まった状態で構成されているので、確実に直射日光を遮蔽して芯部1を構成するストランドの経年劣化を防止することができる。
【0023】
芯部1を構成するストランドは、繊度が800デシテックス〜2100デシテックスのものが好ましい。800デシテックスより繊度が小さいと十分な強度を得ることができず、2100デシテックスより繊度が大きくなると12本以上のストランドで組み合せた場合車両用防護柵として用いることが難しくなる。また、被覆部2を構成するストランドは、繊度が800デシテックス〜2100デシテックスのものが好ましい。
【0024】
車両用防護柵に必要な繊維ロープの強度を検討する場合、車両用防護柵に関して国土交通省において設置基準(道路局長 国道地環第93号 平成16年3月改定)が定められており、例えば、一般道路については、設置基準で決められた路側用B種(車両衝突速度60km/h)で衝撃度が60kJ以上に設定されている。
【0025】
そこで、こうした衝撃度に耐える繊維ロープの引張強度を以下の設定条件にもとで算出した。
(1)支柱間に張設された繊維ロープ4本で衝撃度を受け持つものと仮定する。
(2)繊維ロープを用いた車両用防護柵の中間支柱の間隔は、6m、7m、8mの3タイプを想定し、道路構造令に規定の設計車両が繊維ロープの衝突時に前輪のタイヤが道路端から逸脱しないようにするため、繊維ロープの原位置から道路直角方向の許容変位量を設定する。許容変位量は、図2に示すように、設計車両C(前輪から前面までの長さ1.5m、前輪から側面までの長さ0.3m)の進入角度θを繊維ロープAの長手方向に対して15°とし、繊維ロープAと道路端Rとの間の間隔を0.3mに設定して算出すると、許容変位量dは次のように算出される。
d=1.5m×sin15°+0.3m×cos15°+0.3m=0.95m
(3)繊維ロープの張力と伸度が比例する(直線性を示す)ように設置時の繊維ロープに緊張力30kNに設定する。
【0026】
以上の設定条件を満足するよう解析した結果、路側用B種に対応するためには繊維ロープの引張破断強度は230kN以上に設定すればよいことがわかった。
【0027】
次に、組紐構造で構成した繊維ロープについてストランド数及びリード値を変更して引張強度試験を行った。繊維ロープは、呼び径を35mmに設定し、ストランドとしてポリエステル繊維(東レ株式会社製)で繊度1670デシテックスに形成したものを準備した。引張強度試験は、JIS L2707−1992に準拠して定速緊張形引引張試験機に繊維ロープをセットし破断強度を測定した。測定結果を図3に示す。リード値については、芯部の外径の倍数で設定した。
【0028】
この測定結果をみると、ストランド数が12本以上でリード値が繊維ロープの外径の6倍以上で引張破断強度が230kN以上となっている。これは、ストランド数及びリード値が大きくなるに従いストランドが直線に近くなっていくため、引張荷重を加えた際にストランド間に加わる密着力が小さくなってストランドの径方向のせん断応力が小さくなり、破断しにくくなるためと考えられる。
【0029】
本発明の繊維ロープのように二重構造となっている場合には、引張力は主に芯部に加わるようになるため、芯部のストランド数を12本以上でリード値を芯部の外径の6倍以上に設定すればよい。
【0030】
なお、図3に示す測定結果では、ストランド数が3本及び8本の場合にリード値が8倍以上となると計測困難となっているが、これはリード値が大きいために引張試験で滑りが生じて正確に計測できないためである。
【0031】
図4は、ストランド数12本でリード値6倍に設定した繊維ロープを用いた引張試験での張力(kN)及び伸度(%)の推移を示すグラフである。図4をみると、張力が大きくなるに従い繊維ロープが破断するまでに20%程度伸長している。したがって、繊維ロープに対して衝撃力が加わった場合には繊維ロープが伸長して衝撃を吸収できることがわかる。
【0032】
次に、実際に繊維ロープを支柱間に張設して性能確認試験を行った。繊維ロープは、呼び径が35mmで芯部及び被覆部の二重構造とし、ストランドとしてポリエステル繊維(東レ株式会社製)を用いた。芯部は、1670デシテックスのストランドを12本用いてリード値を芯部の外径の6倍に設定した組紐構造とし、被覆部は、1670デシテックスのストランドを12本用いて目の詰まった十二打ちの組紐構造とした。そして、鋼製のガードケーブル4本を取り付けた防護柵を用い、ガードケーブルの代わりに4本の繊維ロープを上下に13cmの間隔を空けて取り付けたものを準備した。試験方法は、「車両用防護柵性能確認試験方法について」(平成10年11月5日建設省道路局道路環境課長通達)に準拠して行った。防護柵の中間支柱は土中建て込みとし、中間支柱の間隔を6m、7m、8mに設定して車両を繊維ロープに衝突させて実施した。車両の衝突速度及び衝突角度は、高速度撮影カメラの画像を解析して算出した。測定結果を図5に示す。なお、離脱速度の基準は衝突速度の60%以上であり、離脱角度の基準は衝突角度の60%以下である。また、加速度(m/s2/10ms)は、車両重心における水平2方向加速度計で測定した合成加速度の10ms移動平均の最大値である。
【0033】
図5に示す測定結果では、中間支柱間隔が6mの場合に衝突角度が基準より小さくなって衝撃度が基準を満足していない結果となっているが、中間支柱間隔が広い7m及び8mでは、標準値及び基準を満足する結果が得られた。
【0034】
車両が衝突した際には、繊維ロープの被覆部が剥離して芯部が露出した状態となったが、芯部自体は破断することなく車両が道路外に飛び出すことはなかった。したがって、被覆部は衝突の際に芯部を保護する機能も果たしているといえる。また、衝突の際に芯部が伸長することで衝撃が吸収されて車両や乗員に大きなダメージを与えることもなかった。
【0035】
以上の説明した試験結果に基づけば、芯部を12本以上のストランドを組み合せてリードを芯部の外径の6倍以上に設定した組紐構造に構成し、芯部を被覆する被覆部を12本以上のストランドを隙間なく組み合せた十二打ち以上の組紐構造で構成した二重構造の繊維ロープを車両用防護柵に用いることで、設置基準に十分適合した車両用防護柵とすることができる。
【0036】
次に、被覆部に耐候性を備える合成繊維からなるストランドを用いた場合の耐候性試験を行った。繊維ロープは、呼び径が30mmで芯部及び被覆部の二重構造とし、芯部をストランド(ユニチカ株式会社製カルボジイミド基含有繊維、繊度1100デシテックス)16本でリード値が芯部の外径の8倍とした組紐構造で構成し、被覆部をストランド(ユニチカ株式会社製カルボジイミド基含有繊維、繊度1100デシテックス)12本で目の詰まった十二打ちの組紐構造で構成した。試験方法は、JIS B7753に準拠したサンシャインカーボンアーク灯式耐光性及び耐候性試験機を用いて行った。そして、照射前及び所定の照射時間毎に、JIS L2707−1992に準拠した定速緊張形引引張試験機を用いて繊維ロープの引張破断強度を測定した。測定結果を図6に示す。
【0037】
引張強度保持率(%)は、照射前(照射時間が0)に測定した引張破断強度に対する照射後の測定強度の比率である。測定結果をみると、25年経過後(3750時間)では引張強度の低下が約13%で抑えられており、鋼製の防護柵と遜色のない耐候性を備えていることがわかる。
【0038】
また、繊維ロープとして、呼び径が30mmで芯部及び被覆部の二重構造とし、芯部をストランド(東レ株式会社製カーボンブラック含有繊維、繊度1100デシテックス)16本でリード値が芯部の外径の8倍とした組紐構造で構成し、被覆部をストランド(東レ株式会社製カーボンブラック含有繊維、繊度1100デシテックス)12本で目の詰まった十二打ちの組紐構造で構成したものを用いて、上述した耐候性試験と同様の試験を行ったところ、鋼製の防護柵と遜色のない耐候性を備えていることがわかった。
【符号の説明】
【0039】
A 車両用防護柵用繊維ロープ
1 芯部
2 被覆部
10 ストランド
20 ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部及び当該芯部を被覆する被覆部を備えた二重構造の車両用防護柵用繊維ロープであって、前記被覆部は、耐候性を有するとともに12本以上のストランドを隙間なく組み合せた十二打ち以上の組紐構造からなり、前記芯部は、12本以上のストランドを組み合せてリードを前記芯部の外径の6倍以上に設定した組紐構造からなることを特徴とする車両用防護柵用繊維ロープ。
【請求項2】
前記被覆部のストランドは、カルボジイミド基含有合成繊維又はカーボンブラック含有合成繊維からなることを特徴とする請求項1に記載の繊維ロープ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維ロープを支柱間に張設した車両用防護柵。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−179176(P2011−179176A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41822(P2010−41822)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(595064887)小浜製綱株式会社 (3)
【出願人】(502121247)西田殖産株式会社 (5)
【Fターム(参考)】