説明

車両用電力制御装置

【課題】補機作動の安定化と、要求電力に対して迅速に電力供給を開始することとの両立を図った車両用電力制御装置を提供する。
【解決手段】スタータモータ(第1MG)または走行用電動モータ(第2MG)へ電力供給する主バッテリ13、および補機へ電力供給する補機バッテリ14を備えたハイブリッド車両に適用され、第1MGまたは第2MGの要求電力PBreqに対して主バッテリの供給可能電力PBmainが不足している場合(S13:YES)に、補機バッテリの電圧変化が所定の許容範囲内となるよう制限しながら、補機バッテリから主バッテリを充電する事前充電制御手段S18と、その充電の終了後に、主バッテリおよび補機バッテリの両方から同時に電動モータへ電力供給させる同時供給制御手段S20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の電動モータおよび内燃機関のいずれによっても走行可能なハイブリッド車両に適用される、車両用電力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両には、内燃機関を始動させる始動モータや走行用モータ等の高電圧系負荷へ電力供給する主バッテリと、ヘッドライトや電子制御装置等の低電圧系負荷(補機)へ電力供給する補機バッテリと、を備えるものがある。
【0003】
そして特許文献1には、主バッテリの蓄電量が低下して始動モータへの電力供給が不足する事態に陥った場合に、補機バッテリから主バッテリを充電し、その充電が十分に為された後に主バッテリから始動モータへ電力供給する制御が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−122824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記制御を実施すると、補機バッテリから主バッテリへの充電を開始する際に補機バッテリの電圧が急激に低下することになるので、補機の作動が不安定になる。例えば、ヘッドライトの明滅や電子制御装置の動作停止等の不具合が生じる。
【0006】
これに対し、充電電力を徐々に上昇させれば、補機バッテリの電圧が急激に低下することを抑制でき、補機作動の安定化を図ることができる。しかしこの場合には、徐々に上昇させる分だけ補機バッテリから主バッテリへの充電時間が長くなるので、始動モータへの電力供給開始が遅くなり、内燃機関の始動が遅くなる。
【0007】
また、加速走行や登坂走行等に伴い走行用モータの要求電力が上昇した時に、その要求電力に対する主バッテリの供給可能電力が不足していれば、補機バッテリから主バッテリへ充電させたい場合がある。この場合にも、充電電力を徐々に上昇させて補機作動の安定化を図ろうとすると、要求電力に対する電力供給開始が遅くなることが問題となる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、補機作動の安定化と、要求電力に対して迅速に電力供給を開始することとの両立を図った車両用電力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明では、走行用の電動モータおよび内燃機関のいずれによっても走行可能であり、前記内燃機関を始動させる始動用または走行用の電動モータへ電力供給する主バッテリ、および補機へ電力供給する補機バッテリを備えたハイブリッド車両に適用されることを前提とする。
【0011】
そして、前記電動モータの要求電力に対して、前記主バッテリの供給可能電力が不足しているか否かを判定する電力不足判定手段と、前記電力不足判定手段により不足と判定された場合に、前記補機バッテリから前記主バッテリを充電させる手段であって、前記補機バッテリの電圧変化が所定の許容範囲内となるよう制限しながら前記充電を行う事前充電制御手段と、前記事前充電制御手段による充電の終了後に、前記主バッテリおよび前記補機バッテリの両方から同時に前記電動モータへ電力供給させる同時供給制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
これによれば、補機バッテリから主バッテリを充電させる際に補機バッテリの電圧変化が所定の許容範囲内となるよう制限しながら充電を行うので、補機の作動が不安定になることを回避できる。
【0013】
そして、充電終了後には、主バッテリおよび補機バッテリの両方から同時に電動モータへ電力供給させるので、要求電力に対する主バッテリの負担が軽減される。そのため、主バッテリに要求される供給可能電力が低くなるので、補機バッテリから主バッテリへの充電量を少なくでき、当該充電の終了時期を早めることができる。したがって、補機作動の安定化と、電動モータへの要求電力供給を迅速に開始することとの両立を図ることができる。
【0014】
請求項2記載の発明では、前記事前充電制御手段は、前記補機バッテリからの充電電力が徐々に上昇するように充電を開始させる徐変制御を行うことを特徴とする。
【0015】
このように徐変制御を行う上記発明によれば、事前充電にかかる充電電力を、図3(d)に例示するようにステップ状に上昇させて充電開始させる場合に比べて、補機バッテリの電圧が急激に低下することを抑制できる。よって、補機作動の安定化を促進できる。
【0016】
請求項3記載の発明では、前記補機バッテリから放電される電力を前記事前充電制御手段の充電に用いる事前充電モードから、前記同時供給制御手段の電力供給に用いる同時供給モードへ切り替える時期をモード切替時期とした場合において、前記電力不足判定手段により不足と判定された時の前記主バッテリおよび前記補機バッテリの蓄電量に基づき、前記モード切替時期を設定するスケジュール設定手段を備えることを特徴とする。
【0017】
例えば、事前充電モード開始時の主バッテリの蓄電量が少ない場合には、主バッテリへの充電に要する時間が長くなるので、モード切替時期を遅めに設定する必要がある。この点を鑑み、上記発明では、主バッテリおよび補機バッテリの蓄電量に基づきモード切替時期を設定し、その設定した時期(スケジュール)にしたがって事前充電モードから同時供給モードへ切り替えるので、充電時間の過不足が生じないようにモード切替時期を設定できる。
【0018】
請求項4記載の発明では、前記スケジュール設定手段は、前記同時供給モードの期間中における前記主バッテリの供給可能電力と前記補機バッテリの供給可能電力とを合わせた値が、前記要求電力に対して過不足なく一致するよう、前記モード切替時期を設定することを特徴とする。
【0019】
これによれば、事前充電モードによる充電時間が過剰に長くならないようにしつつ、同時供給モード時の供給電力不足が生じないようにできる。よって、補機作動の安定化と、電動モータへの要求電力供給を迅速に開始することとの両立性を向上できる。
【0020】
請求項5記載の発明では、前記同時供給制御手段は、前記補機バッテリの電圧変化が前記許容範囲内となるよう制限しながら前記電動モータへ電力供給させており、前記補機バッテリから前記電動モータへ放電される電力が前記制限を受ける場合には、当該制限により前記補機バッテリの供給可能電力が低くなることを加味して、前記スケジュール設定手段は前記モード切替時期を設定することを特徴とする。
【0021】
上記発明によれば、同時供給時においても充電時と同様にして、補機バッテリの電圧変化が許容範囲内となるよう制限するので、同時供給時に補機作動が不安定になることを回避できる。また、このように同時供給時の制限を実施すると、その制限実施期間には補機バッテリの供給可能電力が低くなるが、その低下分を主バッテリで補うことができるように充電時間を長めに設定することにより、補機作動の安定化と、電動モータへの要求電力供給を迅速に開始することとの両立性を向上できる。
【0022】
請求項6記載の発明では、前記主バッテリの供給可能電力が前記要求電力に対して不足するようになる時期を予測する予測手段を備え、前記事前充電制御手段は前記予測に基づき、前記補機バッテリから前記主バッテリへの充電を開始させることを特徴とする。
【0023】
これによれば、補機バッテリから主バッテリへの充電を早期に開始できるので、充電を早期に完了させて電動モータへの要求電力供給を迅速に開始することを促進できる。例えば、ナビゲーション装置が有する自車両の現在位置情報および目的位置までの走行ルート情報に基づけば、前記予測を容易に実現でき、走行用の電動モータへの要求電力供給を迅速に開始できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるシステム構成を示した図。
【図2】第1実施形態において、事前充電および同時供給の技術的意義を説明する図。
【図3】第1実施形態において、事前充電および同時供給の基本的な考え方を説明するタイムチャート。
【図4】図3に示す事前充電および同時供給に加え、徐変制御を実施した場合のタイムチャート。
【図5】第1実施形態において、事前充電、徐変制御および同時供給を実施する処理の手順を示すフローチャート。
【図6】第1実施形態にかかる充放電スケジュールの設定手法を説明するブロック図。
【図7】本発明の第2実施形態において、事前充電、徐変制御および同時供給を実施した場合のタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明にかかる車両用電力制御装置を、パラレルシリーズハイブリッド車両に適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1は、本実施形態にかかるシステム構成を示した図である。図示されるように、車両には、走行用のエンジン10(内燃機関)、スタータモータとして機能する第1モータジェネレータ(第1MG11)、および走行駆動源として機能する第2モータジェネレータ(第2MG12)が搭載されている。これらのMG11,12は、3相の永久磁石同期モータ(例えば埋め込み磁石同期モータ)であり、第2MG12は第1MG11よりも高出力のモータが採用されている。なお、第1MG11が「始動用の電動モータ」、第2MG12が「走行用の電動モータ」に相当する。
【0027】
さらに車両には、端子電圧が高圧(例えば数百V以上)に設定された主バッテリ13と、低圧(例えば12V)に設定された補機バッテリ14とが搭載されている。例えば、主バッテリ13にはリチウムイオン蓄電池やニッケル水素蓄電池を採用し、補機バッテリ14には、主バッテリ13よりもエネルギ出力密度の小さい鉛蓄電池等を採用する。
【0028】
主バッテリ13は、インバータ15を介して第1MG11および第2MG12へ電力供給する。補機バッテリ14は、後述する各種ECU18〜20やヘッドライト、空調装置等の補機16へ電力供給する。また、補機バッテリ14の放電電力は、DCDCコンバータ17により昇圧されてインバータ15へ入力され、第1MG11および第2MG12へ供給することも可能である。
【0029】
第1MG11および第2MG12で発電された3相交流の電力は、インバータ15により直流に整流されて主バッテリ13へ充電されるとともに、DCDCコンバータ17により降圧されて補機バッテリ14へ充電される。なお、インバータ15は、図示しない一対のスイッチング素子(例えばIGBT)の直列接続体を3組備えており、これら各直列接続体の接続点が第1MG11および第2MG12のU,V,W相にそれぞれ接続されている。
【0030】
モータ制御装置(MGECU18)は、第1MG11および第2MG12の制御量を所望に制御すべく、インバータ15のスイッチング素子等の作動を制御する制御装置である。
【0031】
エンジン制御装置(ENGECU19)は、エンジン10の燃焼制御等に必要な各種アクチュエータを操作する制御装置である。ENGECU19は、エンジン10の燃焼室に供給される吸気量を検出するエアフローメータや、クランク角度センサの検出信号等を逐次入力し、これら入力信号に基づき、燃料噴射弁による燃料噴射制御等、エンジン10の燃焼制御を行う。詳しくは、ENGECU19は、エンジン回転速度およびエンジン負荷等に基づきエンジントルク(指令エンジントルク)を算出し、そのトルクに制御すべく上記燃焼制御を行う。
【0032】
ハイブリッド制御装置(HVECU20)は、MGECU18及びENGECU19よりも上位(アクセルペダル等のユーザインターフェースから入力されるユーザの要求からみて上流側)の制御装置である。HVECU20は、ユーザのアクセルペダルの操作量等の検出信号に基づき、エンジン10、第1MG11および第2MG12の制御量の指令値を算出する。
【0033】
本実施形態では、MG11,12の制御量の指令値を、MG11,12の生成トルクの指令値(指令モータトルク)とし、エンジン10の制御量の指令値を上記指令エンジントルクとする。そして、MGECU18に対して指令モータトルクを出力し、ENGECU19に対して指令エンジントルクを出力する。こうした指令信号により、例えば、車両の主な走行動力源をエンジン10としつつ、補助的な走行動力源として第2MG12が用いられたり、エンジン10のみが走行動力源として用いられたりする。
【0034】
さらにHVECU20は、DCDCコンバータ17による電圧の昇圧量や降圧量が所望する値となるよう、補機バッテリ14のSOC(State of charge:満充電時の充電量に対する実際の充電量の割合)や主バッテリ13のSOC等に応じてDCDCコンバータ17の作動を制御する。なお、HVECU20は、MGECU18及びENGECU19のそれぞれと互いに双方向通信が可能とされている。
【0035】
通常走行モード時には、エンジン動力は動力分割機構21により2経路に分割される。一方は、第1MG11を駆動させて発電する経路で、この電力によって第2MG12を駆動させる。もう一方は、駆動輪22を直接駆動させる経路である。そして、これらの経路の割合が効率最大になるよう制御する。
【0036】
急加速モード時には、第1MG11からの発電電力に加え、主バッテリ13からも電力を供給する。エンジン駆動力とともに第2MG12の駆動力を加えることで、レスポンスの良いなめらかな動力性能を発揮し、加速性能の向上を図る。ちなみに、第2MG12の駆動力は、減速ギア23およびデファレンシャルギア24を介して駆動輪22へ伝達される。
【0037】
減速制動モード時には、駆動輪22の回転力により第2MG12を発電機として作動させ、車両の制動エネルギを回生して主バッテリ13へ充電させる。また、主バッテリ13のSOCが所定値未満になれば、エンジン10を始動させて第1MG11で発電させて充電を開始する(充電モード)。なお、走行停止時に充電を開始させる場合には、第1MG11をスタータとして作動させてエンジン10を始動させた後に、第1MG11を発電機として作動させて充電させる。
【0038】
ところで、第1MG11をスタータとして作動させてエンジン10を始動させるにあたり、主バッテリ13のSOCが著しく低下しており、第1MG11をスタータとして作動させるのに十分な電力を主バッテリ13から供給できない場合には、補機バッテリ14の電力も利用して第1MG11へ電力供給する。
【0039】
図2を用いてより詳細に説明すると、主バッテリ13のSOCが著しく低下していることが原因で、主バッテリ13からの供給可能電力が第1MG11(スタータモータ)の要求電力に対して不足している場合(図2(a)参照)には、図2(b)に示す事前充電を実施した後、図2(c)に示す同時供給を実施する。
【0040】
すなわち、事前充電では、補機バッテリ14は補機16へ電力供給しつつ、放電電力の一部をDCDCコンバータ17で昇圧して主バッテリ13へ供給する。これにより、主バッテリ13は補機バッテリ14から充電(事前充電)され、主バッテリ13のSOCは上昇する。その後、主バッテリ13および補機バッテリ14の両方から第1MG11へ電力供給(同時供給)して、第1MG11をスタータモータとして作動させる。なお、同時供給時における補機バッテリ14は、第1MG11への放電と同時に補機16へも放電している。
【0041】
図3は、上述した事前充電および同時供給の基本的な考え方を説明するタイムチャートである。図中の符号PBreqは第1MG11の要求電力を表しており、指令モータトルクから算出される。また、図中の符号PBmain,PBsubの各々は、事前充電を実施しない場合の主バッテリ13,補機バッテリ14の供給可能電力を示す。PBmain’,PBsub’の各々は、事前充電を実施した場合の充放電電力の変化を示す。
【0042】
図3(a)に示す例は、(b)に示す如くPBmain+PBsub<PBreqとなっている状況を示す。この場合、t0時点で事前充電を開始してt1時点で同時供給を開始する。すなわち、同時供給を開始するt1時点よりも前のt0時点で補機バッテリ14は放電(主バッテリ13への充電)を開始する。なお、事前充電を実施するモード(事前充電モード)から、同時供給を実施するモード(同時供給モード)へ切り替える時期(モード切替時期)は、図4のt1時点に相当する。
【0043】
(d)の例では、事前充電時および同時供給時のいずれにおいても放電電力を一定に設定している。一方、主バッテリ13では、t0時点からt1時点までは補機バッテリ14からの放電電力PBsub’により充電され、t1時点からは補機バッテリ14とともに放電を開始している。
【0044】
事前充電により主バッテリ13のSOCを上昇させた分だけ、主バッテリ13の供給可能電力は上昇する((c)中の矢印参照)。その結果、事前充電後の同時供給では、(e)に示す如くPBmain’+PBsub’=PBreqとなり、第1MG11のモータ駆動によるエンジン始動が可能となる。
【0045】
但し、t0時点にて補機バッテリ14からの放電を開始するにあたり、(d)に示す如く放電電力PBsub’をステップ状に立ち上げると、補機バッテリ14の端子電圧が一時的に大きく低下し、その結果、補機16の作動が不安定になることが懸念される。例えば、各種ECU18〜20(補機)がリセット作動したり、ヘッドライト(補機)が明滅したりすることが懸念される。
【0046】
そこで本実施形態では、図3に示す制御をさらに改良して図4に示す制御を実施している。すなわち、補機バッテリ14からの放電電力(主バッテリ13への充電電力)が徐々に上昇するように充電を開始させる徐変制御を行う。詳細には、図4(b)に示す放電電力PBsub’の上昇変化速度ΔPBを、所定値未満となるように制限する。
【0047】
図4の例では、同時供給を開始するt1時点においても放電電力PBsub’が目標値に達していない。そのため、目標値に達するt2時点までは、t1時点以降も放電電力PBsub’の上昇を継続させている。なお、前記目標値は、補機バッテリ14からの供給可能電力から補機16へ供給する電力を減算した値に設定している。
【0048】
このように、同時供給開始時においても、事前充電開始時と同様にして、補機バッテリ14からの放電電力を徐々に上昇させている。そのため、同時供給を開始するt1時点から、放電電力PBsub’が目標値に達するt2時点までの期間は、図3(d)の如くステップ状に放電させた場合に比べて、第1MG11への供給電力PBmain+PBsub’が、図4(c)中の網点を付した分だけ少なくなることが懸念される。
【0049】
そこで本実施形態では、補機バッテリ14から第1MG11へ放電される電力が制限を受けている場合には、当該制限により補機バッテリ14の供給可能電力が低くなることを加味して、事前充電期間Taを設定している。詳細には、補機バッテリ14から主バッテリ13に充電される蓄電量(図4(d)(e)に示す網点面積)が(c)に示す網点面積と一致するよう、事前充電期間Taを設定している。これにより、図4(f)に示す如くPBmain’+PBsub’=PBreqとなるようにでき、t1時点からt2時点にて供給電力PBmain+PBsub’が不足する、といった前記懸念を解消できる。
【0050】
図5は、HVECU20が有するマイクロコンピュータによる処理手順を示すフローチャートであり、当該処理により、上述した事前充電、徐変制御および同時供給が実施される。
【0051】
先ず、図5に示すステップS10においてエンジン始動要求が生じたと判定された場合に、次のステップS11において、エンジン始動に要する第1MG11のモータ駆動電力(要求電力PBreq)を算出する。続くステップS12では、主バッテリ13のSOCおよび温度に基づき、主バッテリ13の供給可能電力PBmainを算出する。
【0052】
続くステップS13(電力不足判定手段)では、要求電力PBreqに対して主バッテリ13の供給可能電力PBmainが不足しているか否かを判定し、不足していないと判定された場合(S13:NO)には、次のステップS14において、事前充電および同時供給を実施することなく、主バッテリ13から第1MG11へ電力供給してモータ駆動させ、エンジン10を始動させる。
【0053】
一方、PBreqに対してPBmainが不足していると判定された場合(S13:YES)には、次のステップS15において、補機バッテリ14のSOCおよび温度に基づき、補機バッテリ14の供給可能電力PBsubを算出する。
【0054】
続くステップS16(スケジュール設定手段)では、ステップS11〜S15で算出した各々の電力PBreq,PBmain,PBsubに基づき、充放電スケジュールを設定する。詳細には、図4で説明したモード切替時期t1または事前充電期間Taを設定するとともに、事前充電モード時の両バッテリ13,14の充放電電力、および同時供給モード時の両バッテリ13,14の充放電電力を設定する。
【0055】
この充放電スケジュールは、同時供給モードの期間中における両バッテリ13,14からの供給可能電力PBmain’+PBsub’が、PBreqに対して過不足なく一致するように設定される。図4の例では、Ta=(1/2)×(PBsub/ΔPB)となるように事前充電期間Taを設定している。なお、式中のPBsubは、先述したPBsub’の目標値を示す。上昇変化速度ΔPBは予め設定しておいた固定値であり、補機バッテリの端子電圧の変化が所定の許容範囲内となるよう設定された値である。
【0056】
続くステップS17では、事前充電を開始したt0時点からの経過時間が、ステップS16で設定した事前充電期間Taに達したか否かを判定する。事前充電期間Taに達していなければ(S17:NO)、次のステップS18(事前充電制御手段)にて、補機バッテリ14の放電電力を上昇変化速度ΔPBで増加させるとともに、主バッテリ13の充電電力を上昇変化速度ΔPBで増加させる。
【0057】
そして、事前充電期間Taに達すると(S17:YES)、続くステップS19において、主バッテリ13からの供給可能電力PBmain’(放電電力)を算出する。詳細には、事前充電開始前の主バッテリ13の供給可能電力PBmainに、補機バッテリ14から充電した電力を加算して算出する。
【0058】
続くステップS20(同時供給制御手段)では、ステップS19で算出したPBmain’の要求電力PBreqに対する不足分を、補機バッテリ14から放電させる。続くステップS21では、補機バッテリ14から放電される電力の放電先を、主バッテリ13から第1MG11へ切り替えることにより、事前充電モードから同時供給モードに切り替える。これにより、第1MG11が十分なトルクでモータ駆動することができ、エンジン始動が可能となる。
【0059】
図6は、本実施形態にかかる充放電スケジュールの設定手法を説明するブロック図であり、主にHVECU20が実施する処理内容について、以下に説明する。
【0060】
HVECU20は、以下に説明する各種手段201〜209を有する。手段201は、イグニッションスイッチ操作やエンジン始動スイッチ等の運転者要求の情報に基づき、エンジン始動の要求有無を検知する。
【0061】
手段202は、主バッテリ13のSOCおよび温度に基づき、主バッテリ13からの供給可能電力PBmainを算出する。手段203は、補機バッテリ14のSOCおよび温度に基づき、補機バッテリ14からの供給可能電力PBsubを算出する。
【0062】
手段204は、補機バッテリ14の放電スケジュールを算出する。詳細には、補機16への供給電力(例えば現時点での補機供給電力)を供給可能電力PBsubから減算した値を、事前充電および同時供給で用いる電力として算出する。なお、補機バッテリ14の端子電圧変化が所定の許容範囲内となるよう、放電の変化速度がΔPBを超えないように制限して、放電スケジュールを算出する。そして手段205では、補機バッテリ14の放電スケジュールにしたがって、現時点での補機バッテリ14からの放電電力PBsub’の指令値を算出する。
【0063】
手段206では、各々の手段201,202,204で算出された補機バッテリ14の放電スケジュール、主バッテリ13からの供給可能電力PBmain、および予測した要求電力PBreqの推移に基づき、主バッテリ13の充放電スケジュールを算出する。
【0064】
具体的には、供給可能電力PBmainが要求電力PBreqに対して不足することを予測判定し、不足すると予測した時点(図4の例ではt1時点)の前に、事前充電を実施するように主バッテリ13を充電させる。また、同時供給モードの期間中における両供給可能電力PBmain,PBsubの合算値が、要求電力PBreqに対して過不足なく一致するよう、事前充電期間Taを設定する。つまり、エンジン始動要求が検知された時点(図4の例ではt0時点)から事前充電期間Taが経過した時点(図4の例ではt1時点)を、モード切替時期(図4の例ではt1時点)として設定する。
【0065】
手段207では、主バッテリ13の放電スケジュールにしたがって、現時点での主バッテリ13からの充放電電力PBmain’の指令値を算出する。そして、手段208では、各々の手段201,205,207で算出された、車両走行に要する現時点での電力(要求電力PBreq)、主バッテリ13の現時点での充放電電力PBmain’、補機バッテリ14の現時点での放電電力PBsub’に基づき、第1MG11および第2MG12への指令値(指令モータトルクに相当)と、エンジン10への始動にかかる指令値を算出する。このように算出した指令値は、MGECU18およびENGECU19へ出力される。
【0066】
手段209では、手段205で算出された補機バッテリ14の現時点での放電電力PBsub’に基づき、DCDCコンバータ17の昇圧比の指令値を算出する。このように算出した昇圧比の指令値は、DCDCコンバータ17へ出力される。
【0067】
次に、以上詳述した本実施形態による効果を、以下に説明する。
【0068】
要するに、徐変制御および同時供給を実施せずに事前充電を実施しただけでは、事前充電開始時点における補機バッテリ14の端子電圧変動が大きくなり、補機16作動の不安定を招く。これに対し、徐変制御を実施しつつ事前充電を実施すると、補機16の作動安定化は図れるものの、同時供給を実施しなければ、事前充電に要する時間が著しく長くなるので、エンジン始動が要求されてから第1MG11をモータ駆動させるまでに要する時間が長くなり、迅速なエンジン始動ができない。
【0069】
そこで本実施形態では、徐変制御を実施しつつ事前充電を実施することに加え、同時供給を実施する。これによれば、補機バッテリ14からも第1MG11へ電力供給させる分だけ、主バッテリ13を事前充電させておく充電量を少なく設定できる。よって、補機16の作動安定化を図りつつ、事前充電に要する時間の短縮を図ることもできる。
【0070】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、エンジン始動時におけるスタータモータ(第1MG11)への電力不足解消を図るものであるのに対し、本実施形態では、走行用の電動モータ(第2MG12)への電力不足解消を図るものである。
【0071】
図7は、本実施形態にかかる事前充電、徐変制御および同時供給を説明するタイムチャートである。HVECU20は常時、ナビゲーション装置が有する自車両の現在位置情報および目的位置までの走行ルート情報を取得しており、これらの情報から、急加速モード等により第2MG12の要求電力PBreqが急増することを予測する。図7の例では、車両走行中のt3時点にて前記予測を行った結果、t4時点から登坂路を走行する予定であることに起因して、要求電力PBreqに対する主バッテリの供給可能電力PBmainがt4時点にて不足すると予測している。
【0072】
すなわち、図7(a)中の点線は、主バッテリの供給可能電力PBmainを表しており、実線に示す要求電力PBreqに対してPBmainが不足する状況である。そこで本実施形態では、t3時点で事前充電を開始してt4時点(モード切替時期)で同時供給を開始する。すなわち、同時供給を開始するt4時点よりも前のt3時点で補機バッテリ14は放電(主バッテリ13への充電)を開始する。
【0073】
また、図7(c)に示すように、本実施形態においても徐変制御を実施する。すなわち、事前充電モード時および同時供給モード時における補機バッテリ14からの放電電力を、その放電電力の変化速度が所定値未満となるように制限する。これにより、図7(d)に示すように、補機バッテリ14の端子電圧VBsubの電圧変化が所定の許容範囲内となっている。よって、補機16の作動安定化を図ることができる。
【0074】
但し、このように徐変制御を実施すると、同時供給モードの開始直後においては、補機バッテリ14の放電電力が最大値に達していない場合がある。この場合には、最大値に達するまでのt4〜t5期間、主バッテリ13からの放電電力(第2MG12への供給電力)を増大させている(図7(b)参照)。なお、この増大が可能となるように事前充電期間Taは設定されている。
【0075】
図7の例では、同時供給モードをt6時点で終了させているが、この終了時においても、補機バッテリ14の端子電圧VBsubの電圧変化が所定の許容範囲内となるように徐変制御を実施している。そのため、同時供給モードの終了に伴い端子電圧VBsubが急上昇することを抑制できる。よって、例えばヘッドライトの輝度が一時的に高くなる等の不具合を抑制でき、同時供給モードの終了時においても補機16の作動安定化を図ることができる。
本実施形態では、図6中の一点鎖線に示すように、第1実施形態にかかる手段201が予測手段としても機能する。すなわち、手段201(予測手段)は、ナビゲーション装置が有する自車両の現在位置情報および目的位置までの走行ルート情報等のナビ情報と、アクセルペダルの踏込量等の運転者要求の情報に基づき、車両走行に要する現時点での電力(要求電力PBreq)を算出するとともに、走行ルートを走行する場合の要求電力PBreqの推移を予測する。
また、本実施形態では、図6の手段206において、供給可能電力PBmainが要求電力PBreqに対して不足することを予測判定し、不足すると予測した時点(図7の例ではt4時点)の前に、事前充電を実施するように主バッテリ13を充電させる。また、同時供給モードの期間中における両供給可能電力PBmain,PBsubの合算値が、要求電力PBreqに対して過不足なく一致するよう、事前充電期間Taを設定する。つまり、不足すると予測したt4時点よりも事前充電期間Taだけ前の時点(図7の例ではt3時点)を、事前充電の開始時期として設定する。
【0076】
また、手段208では、各々の手段201,205,207で算出された、車両走行に要する現時点での電力(要求電力PBreq)、主バッテリ13の現時点での充放電電力PBmain’、補機バッテリ14の現時点での放電電力PBsub’に基づき、第1MG11および第2MG12への指令値(指令モータトルクに相当)と、エンジン10への指令値(指令エンジントルクに相当)を算出する。このように算出した指令値は、MGECU18およびENGECU19へ出力される。
【0077】
以上により、本実施形態によれば、走行用の電動モータ(第2MG12)への電力不足が予測される場合に、徐変制御を実施しつつ事前充電を実施することに加え、同時供給を実施する。これによれば、補機バッテリ14からも第2MG12へ電力供給させる分だけ、主バッテリ13を事前充電させておく充電量を少なく設定できる。よって、補機16の作動安定化を図りつつ、事前充電に要する時間の短縮を図ることもできる。
【0078】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0079】
・図4(b)や図7(c)では、PBsubを徐々に変化させる徐変制御を実施しているが、補機バッテリの電圧変化が所定の許容範囲内となるように制限してPBsubを変化させれば、徐変制御を廃止して、図3(d)に示すようにステップ状にPBsubを変化させてもよい。但しこの場合には、徐変制御を実施する場合の方が、補機バッテリ14の電圧が急激に低下することを抑制でき、補機作動の安定化を促進できる点で有利である。
【0080】
・上述の如くPBsubをステップ状に上昇させるにあたり、図3(d)に示すように1回だけPBsubをステップ上昇させてもよいし、複数回のステップ上昇によりPBsubを上昇させてもよい。このように多段階でステップ上昇させれば、1段階でステップ上昇させる場合に比べて、補機バッテリ14の電圧が急激に低下することを抑制できる。
【0081】
・上記各実施形態では、パラレルシリーズ式のハイブリッド車両に本発明を適用しているが、例えばエンジンは発電のためだけに使い走行は電動モータだけで行うシリーズ式に適用してもよいし、走行はエンジンが主体で、発進時や高負荷運転時に電動モータがエンジン出力をサポートするパラレル式に適用してもよい。
【符号の説明】
【0082】
10…エンジン(内燃機関)、11…第1MG(始動用の電動モータ)、12…第2MG(走行用の電動モータ)、13…主バッテリ、14…補機バッテリ、16…補機、201…予測手段、S13…電力不足判定手段、S16…スケジュール設定手段、S18…事前充電制御手段、S20…同時供給制御手段、t1…モード切替時期。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の電動モータおよび内燃機関のいずれによっても走行可能であり、前記内燃機関を始動させる始動用または走行用の電動モータへ電力供給する主バッテリ、および補機へ電力供給する補機バッテリを備えたハイブリッド車両に適用され、
前記電動モータの要求電力に対して、前記主バッテリの供給可能電力が不足しているか否かを判定する電力不足判定手段と、
前記電力不足判定手段により不足と判定された場合に、前記補機バッテリから前記主バッテリを充電させる手段であって、前記補機バッテリの電圧変化が所定の許容範囲内となるよう制限しながら前記充電を行う事前充電制御手段と、
前記事前充電制御手段による充電の終了後に、前記主バッテリおよび前記補機バッテリの両方から同時に前記電動モータへ電力供給させる同時供給制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用電力制御装置。
【請求項2】
前記事前充電制御手段は、前記補機バッテリからの充電電力が徐々に上昇するように充電を開始させる徐変制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用電力制御装置。
【請求項3】
前記補機バッテリから放電される電力を前記事前充電制御手段の充電に用いる事前充電モードから、前記同時供給制御手段の電力供給に用いる同時供給モードへ切り替える時期をモード切替時期とした場合において、
前記電力不足判定手段により不足と判定された時の前記主バッテリおよび前記補機バッテリの蓄電量に基づき、前記モード切替時期を設定するスケジュール設定手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用電力制御装置。
【請求項4】
前記スケジュール設定手段は、前記同時供給モードの期間中における前記主バッテリの供給可能電力と前記補機バッテリの供給可能電力とを合わせた値が、前記要求電力に対して過不足なく一致するよう、前記モード切替時期を設定することを特徴とする請求項3に記載の車両用電力制御装置。
【請求項5】
前記同時供給制御手段は、前記補機バッテリの電圧変化が前記許容範囲内となるよう制限しながら前記電動モータへ電力供給させており、
前記補機バッテリから前記電動モータへ放電される電力が前記制限を受ける場合には、当該制限により前記補機バッテリの供給可能電力が低くなることを加味して、前記スケジュール設定手段は前記モード切替時期を設定することを特徴とする請求項4に記載の車両用電力制御装置。
【請求項6】
前記主バッテリの供給可能電力が前記要求電力に対して不足するようになる時期を予測する予測手段を備え、
前記事前充電制御手段は前記予測に基づき、前記補機バッテリから前記主バッテリへの充電を開始させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両用電力制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−31320(P2013−31320A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166651(P2011−166651)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】