説明

車両用電動モータの駆動制御装置

【課題】ドライバのエネルギー耐量を上げたりドライバ数を増加させること無く、かつ、高周波のデューティ駆動も行える車両用電動モータの駆動制御装置を提供する。
【解決手段】ツェナーダイオード4を用いて、通常の制御時にMOSトランジスタ3aをオフする際のエネルギーを吸収する。これにより、電動モータ2を駆動しているときにはエネルギーをMOSトランジスタ3aで消費させ、電動モータ2の駆動を停止したときにはツェナーダイオード4でエネルギーを消費させられる。また、ロードダンプ発生時には、その際に生じる電圧の大きさを第1スイッチ5のオンによりツェナーダイオード4のクランプ電圧に抑制できる。このため、MOSトランジスタ3aに過度にエネルギーを消費させることを防止でき、ドライバのエネルギー耐量を上げたりドライバ数を増加させたりしなくても済み、高周波のPWM駆動とロードダンプ対策とを両立させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体スイッチング素子をオンオフ制御することで電動モータの駆動を制御する車両用電動モータの駆動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体スイッチング素子をオンオフ制御することで電動モータをPWM駆動する車両用電動モータの駆動制御装置がある。電動モータをPWM駆動する場合、オフ時に生じるサージによるエネルギー吸収を行わなければならない。このため、従来では、電動モータを駆動するための半導体スイッチング素子で構成されるドライバを複数個設け、ドライバによりエネルギーを吸収する手法、もしくは、電動モータに並列的に接続した還流ダイオードおよびトランジスタの直列回路にてサージによるエネルギーを電動モータ、還流ダイオードおよびトランジスタにおいてジュール熱に変換する手法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2001−522636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前者の手法では、オフ時のエネルギーが大きい場合、電動モータの駆動に用いられるドライバのエネルギー耐量を上げるか、ドライバ数を増加させることが必要になる。また、後者の手法では、電動モータの発熱が大きくなるという問題が発生するのに加え、駆動制御装置が回生電圧をモニタして所定の電圧にまで落ちると再度電動モータをオンさせるというシステムに適用された場合、還流動作中は回生電圧のモニタが不可能なため、高周波のPWM駆動については、上記還流完了後に開始することとなり、その分だけPWM駆動の開始が遅れることになる。
【0004】
本発明は上記点に鑑みて、ドライバのエネルギー耐量を上げたり、ドライバ数を増加させること無く、かつ、高周波のPWM駆動も行える車両用電動モータの駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電動モータ(2)に対して第1スイッチ(5)を並列接続し、監視回路(6)にて、半導体スイッチング素子(3a)に印加される電圧に基づいて第1スイッチのオンオフを制御し、半導体スイッチング素子に印加される電圧が第1閾値未満のときには第1スイッチをオフし、その電圧が第1閾値以上のときには第1スイッチをオンすることを特徴としている。
【0006】
このようにすれば、ツェナーダイオード(4)を用いて、通常の制御時に半導体スイッチング素子をオフする際のエネルギーを吸収できる。これにより、電動モータを駆動しているときにはエネルギーを半導体スイッチング素子で消費させ、電動モータの駆動を停止したときにはツェナーダイオードでエネルギーを消費させることができる。また、ロードダンプ発生時には、その際に生じる電圧の大きさを第1スイッチのオンによりツェナーダイオードのクランプ電圧に抑制することができる。このため、半導体スイッチング素子に過度にエネルギーを消費させることを防止でき、ドライバ回路のエネルギー耐量を上げたり、ドライバ数を増加させなくても済むようにできる。また、特許文献1に示したような還流方式を採用した態様と比較して、回生電圧のモニタができない期間が短いため、その後の高周波のデューティ駆動については早期に開始することが可能となる。このように、高周波のPWM駆動とロードダンプ対策とを両立させることが可能となる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、半導体スイッチング素子の温度を検知する温度検知回路(11)と、温度検知回路にてオンオフ制御され、半導体スイッチング素子とツェナーダイオードとの接続状態の切替えを行う第2スイッチ(12)とを備え、温度検知回路にて、半導体スイッチング素子の温度が第2閾値(K2)未満のときには、第2スイッチにて半導体スイッチング素子からツェナーダイオードを切り離し、半導体スイッチング素子の温度が第2閾値以上のときには、半導体スイッチング素子にツェナーダイオードを接続することを特徴としている。
【0008】
このようにすれば、半導体スイッチング素子の温度に応じて電動モータの駆動を停止するときのエネルギーをツェナーダイオードで消費するか、ドライバ回路で消費するかを決めることができる。そして、半導体スイッチング素子が第2閾値(高温)になるまではドライバ回路で電動モータの駆動を停止するときのエネルギーを消費させることで、ツェナーダイオードでのエネルギー消費が少なくなるようにしている。これにより、ツェナーダイオードへの熱集中を抑制でき、より一層高速なPWM駆動が行えるようにすることが可能となる。
【0009】
この場合、請求項5に示すように、半導体スイッチング素子の温度が第2閾値未満の状態から第2閾値を超えたときには、半導体スイッチング素子の温度が第2閾値よりも低い第4閾値(K1)に低下するまで、半導体スイッチング素子にツェナーダイオードを接続するように、ヒステリシスを設けるようにすれば、第2スイッチのオンオフ切替を何度も繰り返してしまうような発振を防止することが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、半導体スイッチング素子とツェナーダイオードとの接続状態の切替えを行う第2スイッチ(12)を備え、ドライバ回路に備えられる半導体スイッチング素子が駆動装置(7)にてPWM制御される場合に、該駆動装置により半導体スイッチング素子の制御状態に基づいて半導体スイッチング素子の温度を推定し、該推定による半導体スイッチング素子の温度が第2閾値(K2)未満のときには、第2スイッチにて半導体スイッチング素子からツェナーダイオードを切り離し、半導体スイッチング素子の温度が第2閾値以上のときには、半導体スイッチング素子にツェナーダイオードを接続することを特徴としている。
【0011】
このように、半導体スイッチング素子のオンオフを制御する駆動装置にて半導体スイッチング素子の温度を推定することも可能である。これにより、請求項2と同様の効果を得ることが可能となる。
【0012】
この場合、請求項4に示すように、駆動装置(7)にて、推定による半導体スイッチング素子の温度が第2閾値よりも高い第3閾値(K3)以上になると、半導体スイッチング素子の単位時間当たりのオンオフの切替回数を第3閾値未満のときよりも少なくすることもできる。
【0013】
これにより、電動モータの駆動・停止による発熱自体を抑えることが可能となり、ドライバ回路およびツェナーダイオードの温度上昇を抑制することが可能となる。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる車両用電動モータの駆動制御装置1の回路模式図である。本実施形態に示す電動モータ2は、例えばブレーキ液圧制御用アクチュエータに形成される管路中のブレーキ液の吸入吐出を行うポンプを駆動するために用いられる。
【0017】
図1に示すように、電動モータ2の駆動制御装置1は、ドライバ回路3と、ツェナーダイオード4と、スイッチ(第1スイッチ)5と、IG(イグニッション)高電圧監視回路6とを備えた構成とされている。
【0018】
ドライバ回路3は、半導体スイッチング素子であるMOSトランジスタ3aにて構成され、バッテリなどの電源(+BM)から電動モータ2への通電を制御する。MOSトランジスタ3aは、ブレーキECUのCPU等で構成される駆動装置7からの制御信号によりオンオフ駆動される。このMOSトランジスタ3aは、電動モータ2に対して直列接続されており、MOSトランジスタ3aのゲート電位が制御されることにより、電動モータ2への通電が制御される。
【0019】
ツェナーダイオード4は、例えばN型MOSトランジスタ3aの場合、両端(ソース−ドレイン)間に並列接続されており、カソードがMOSトランジスタ3aのハイサイド側(ドレイン)と、アノードがMOSトランジスタ3aのローサイド側(ソース)と接続されている。このツェナーダイオード4のクランプ電圧(ツェナー降伏電圧(=第1閾値))はMOSトランジスタ3aのクランプ電圧(ブレイクダウン電圧)より小さく設定されており、ツェナーダイオード4により、MOSトランジスタ3aのソース−ドレイン間にツェナー降伏電圧を超える電圧が印加されない構成とされている。
【0020】
また、スイッチ5は、例えば半導体スイッチング素子で構成され、電動モータ2に対して並列接続されている。そして、図示しないIGスイッチの投入に伴ってMOSトランジスタ3aのドレインおよびツェナーダイオード4のカソード側に印加される電圧が高電圧であるか否かがIG高電圧監視回路6にて監視され、その監視結果に基づいてスイッチ5がオンオフ制御される。これらスイッチ5とIG高電圧監視回路6は、図中に示したように1チップのIC9にて構成されているが、別々の構成であっても構わない。
【0021】
図2は、このような構成の車両用電動モータ2の駆動制御装置1の具体的な構成例を示した回路図である。
【0022】
この図に示すように、スイッチ5は、ダーリントン接続されたNPNトランジスタ5a、5bによって構成され、IG高電圧監視回路6は、抵抗6aとツェナーダイオード6bと抵抗6cとを直列接続した回路にて構成され、ツェナーダイオード6bと抵抗6cとの間の電位をNPNトランジスタ5bのベース電位として用いることで、NPNトランジスタ5a、5bのオンオフを制御することができる。なお、NPNトランジスタ5bのベースとNPNトランジスタ5aのエミッタの間にはノイズによる誤作動防止用のコンデンサ8が接続されている。
【0023】
続いて、本実施形態の電動モータ2の駆動制御装置1の作動について説明する。図3に、通常の制御時およびロードダンプ時それぞれのタイミングチャートを示し、この図を参照して説明する。
【0024】
(1)通常の制御時の動作
MOSトランジスタ3aのドレイン側に通常通りの電圧(例えばバッテリ電圧)が印加されている時には、IG高電圧監視回路6で高電圧が印加されていないと判定され、スイッチ5はオフとなる。例えば、電動モータ2の駆動制御装置1が図2の回路構成とされた場合には、ツェナーダイオード6bにて抵抗6c側に電流が流れないようにされるため、ツェナーダイオード6bと抵抗6cの電位はNPNトランジスタ5a、5bの動作電位を超えず、NPNトランジスタ5a、5bで構成されたスイッチ5がオフとなる。したがって、スイッチ5がオフされた状態で通常の制御が行われる。
【0025】
具体的には、駆動装置7からの制御信号に基づいてMOSトランジスタ3aがオンされると(図3(a)の時点T1、T3)、電動モータ2に印加される電圧VMTは通常通りの電圧となり、電動モータ2が駆動される。このとき、ツェナーダイオード4にはクランプ電圧を超える電圧が印加されないため、生じたエネルギーは、MOSトランジスタ3aで消費される。また、駆動装置7からの制御信号に基づいてMOSトランジスタ3aがオフされると(図3(a)の時点T2、T4)、瞬間的に逆起電力が発生したのち、後は電動モータ2の慣性による回転数に応じた値の電圧VMTが生じる。この逆起電力により、MOSトランジスタ3aと電動モータ2との間の電圧VMTが低下し、ツェナーダイオード4のクランプ電圧を超えてツェナーダイオード4に電流が流れる。このため、このときに生じるエネルギーは、ツェナーダイオード4で消費される。このように、電動モータ2を駆動中にはMOSトランジスタ3aでエネルギーを消費させ、電動モータ2の駆動を停止したときにはツェナーダイオード4でエネルギーを消費させることで、エネルギーを熱分散することが可能となる。
【0026】
(2)ロードダンプ時(サージ発生時)の動作
MOSトランジスタ3aのドレイン側に通常の制御時を超えるサージ電圧が印加されると、IG高電圧監視回路6で高電圧が印加されたと判定され、スイッチ5がオンされる。例えば、電動モータ2の駆動制御装置1が図2の回路構成とされた場合には、ツェナーダイオード6bのクランプ電圧を超え、抵抗6c側に電流が流れるため、ツェナーダイオード6bと抵抗6cの電位がNPNトランジスタ5a、5bの動作電位を超える。このため、NPNトランジスタ5a、5bで構成されたスイッチ5がオンする(図3(b)の時点T5)。また、それとほぼ同時にツェナーダイオード4にもクランプ電圧以上の電圧が印加されるため、ツェナーダイオード4に電流が流れる(図3(b)の時点T6)。このため、ロードダンプ電流(サージ電流)を逃がすことができる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態では、ツェナーダイオード4を用いて、通常の制御時にMOSトランジスタ3aをオフする際のエネルギーを吸収できるようにしている。これにより、電動モータ2を駆動しているときにはエネルギーをMOSトランジスタ3aで消費させ、電動モータ2の駆動を停止したときにはツェナーダイオード4でエネルギーを消費させることができる。このため、MOSトランジスタ3aに過度にエネルギーを消費させることを防止でき、ドライバのエネルギー耐量を上げたり、ドライバ数を増加させなくても済むようにできる。また、特許文献1に示したような還流方式を採用する態様と比較して回生電圧のモニタができない期間を短くすることができるため、回生電圧をモニタした後に電動モータ2を再度オンする場合であっても高周波のPWM駆動を早期に開始することが可能となる。そして、このようなツェナーダイオード4として、ロードダンプ等のサージ発生時にサージ電流を逃がすために従来から備えられているものを兼用することができる。
【0028】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。上記第1実施形態に示した電動モータ2の駆動制御装置1により、十分に高速なPWM駆動を行うことが可能になるが、車両の振動音対策として、より一層高速なPWM駆動が望まれる。しかしながら、電動モータ2のPWM駆動が高速になればなるほど、電動モータ2の駆動を停止したときのエネルギーが駆動中のエネルギーよりも大きいため、MOSトランジスタ3aでのエネルギー消費よりもツェナーダイオード4でのエネルギー消費の方が多くなり、ツェナーダイオード4への熱集中が生じるため、第1実施形態に示した電動モータ2の駆動装置7では高速なPWM駆動に限界(例えば、周期50Hz程度のPWM駆動では熱分散が可能)がある。そこで、本実施形態では、第1実施形態の電動モータ2の駆動制御装置1をより一層高速なPWM駆動が行えるようにする。
【0029】
図4は、本実施形態にかかる電動モータ2の駆動制御装置1の回路模式図である。この図に示すように、本実施形態では、第1実施形態に示した電動モータ2の駆動制御装置1に対して、ドライバ回路3に温度検知回路11を組み込んだこと、および、スイッチ(第2スイッチ)12を備えたことが異なる。
【0030】
ドライバ回路3に組み込まれた温度検知回路11は、MOSトランジスタ3aの発熱による温度上昇を検知するものであり、ドライバ回路3の温度が所定の閾値に達したか否かを判定し、その判定結果に応じた出力信号を発生するものである。スイッチ12は、温度検知回路11の出力信号に基づいてオンオフ駆動されるものであり、ツェナーダイオード4のアノードとドライバ回路3内のMOSトランジスタ3aのローサイド側(カソード)との間に備えられている。このため、スイッチ12がオンされているときにはツェナーダイオード4と電動モータ2とが接続され、スイッチ12がオフされているときにはツェナーダイオード4と電動モータ2とが接続されていない状態となる。
【0031】
図5は、このような構成の電動モータ2の駆動制御装置1の具体的な構成例を示した回路図である。なお、IG高電圧監視回路6に関しては、図2と同様であるため、ブロック図で示してある。
【0032】
この図に示すように、温度検知回路11は、例えば複数個のダイオード20の順方向電圧V1に基づいて、スイッチ12のオンオフを制御し、ツェナーダイオード4と電動モータ2の接続状態を制御する。温度検知回路11のうち、温度特性を有するダイオード20のみをドライバ回路3に形成しているが、温度検知回路11の他の構成をドライバ回路3内に形成しても良い。
【0033】
具体的には、定電圧源25から抵抗27を介してダイオード20に電圧が印加され、このダイオード20の順方向電圧V1が抵抗21を介してコンパレータ22の反転入力端子に入力され、コンパレータ22にて非反転入力端子に入力される参照電圧Vrefと大小比較されることで、半導体スイッチング素子であるMOSトランジスタ3aの温度が閾値を超えたか否かを判定している。非反転入力端子に入力される参照電圧Vrefは、例えば、5V電源とされた定電圧源の電圧を抵抗23、24で分圧することで形成される。
【0034】
コンパレータ22の出力端子と定電圧源25との間には抵抗26が備えられ、コンパレータ22からの出力がハイレベルとなったときの電位が5Vに固定されている。
【0035】
なお、コンパレータ22の出力がローレベルからハイレベルに切替わるときの閾値(第2閾値)とハイレベルからローレベルに切替わるときの閾値(第4閾値)にヒステリシスが形成されるようにしている。
【0036】
そして、このようなコンパレータ22の出力端子の電位が入力保護抵抗28を介してMOSトランジスタ29のゲート電位として入力される。これにより、MOSトランジスタ29の動作を制御すると共に、MOSトランジスタ29のハイサイド側(ドレイン)に直列接続された抵抗30、31の間の電位を制御し、抵抗31の両端をエミッタ−ベースとするPNPトランジスタで構成されたスイッチ12のオンオフを制御する。このようにして、ツェナーダイオード4と電動モータ2の接続状態を制御する。
【0037】
なお、コンパレータ22の反転入力端子に接続されているコンデンサ32は、ノイズ除去の為に備えたものである。
【0038】
このような電動モータ2の駆動制御装置1について説明する。ただし、本実施形態の電動モータ2の駆動制御装置1は、通常の制御時の動作のみが第1実施形態と異なり、ロードダンプ時の動作は第1実施形態と同様であるため、通常の制御時の動作についてのみ説明する。
【0039】
通常の制御時において、ドライバ回路3の温度が比較的低温のときには温度検知回路11の制御信号によりスイッチ12がオフされる。例えば、温度検知回路11が図5の回路構成とされた場合には、ドライバ回路3の温度が比較的低温のときにはダイオード20の順方向電圧V1が大きい。このため、コンパレータ22の反転入力端子の電位の方が非反転入力端子の電位よりも大きくなり、コンパレータ22の出力がローレベルとなる。これにより、MOSトランジスタ29がオフされ、PNPトランジスタにて構成されたスイッチ12もオフされる。
【0040】
したがって、ドライバ回路3の温度が比較的低温のときには、電動モータ2の駆動中だけでなく駆動を停止したときに発生するエネルギーもMOSトランジスタ3aで消費される。
【0041】
一方、ドライバ回路3が高温になって閾値以上になると、温度検知回路11の制御信号によりスイッチ5がオンされる。例えば、温度検知回路11が図5の回路構成とされた場合には、ドライバ回路3の温度が上昇するとダイオード20の順方向電圧V1が小さくなる。このため、コンパレータ22の反転入力端子の電位の方が非反転入力端子の電位よりも小さくなり、コンパレータ22の出力がハイレベルとなる。これにより、MOSトランジスタ29がオンされ、PNPトランジスタで構成されたスイッチ12もオンされる。
【0042】
したがって、ドライバ回路3の温度が閾値以上になると、電動モータ2の駆動中にはMOSトランジスタ3aでエネルギーが消費され、電動モータ2の駆動を停止したときにはツェナーダイオード4でエネルギーが消費される。
【0043】
また、コンパレータ22においては、その出力がローレベルからハイレベルに切替わるときの閾値とハイレベルからローレベルに切替わるときの閾値にヒステリシスを形成している。このため、コンパレータ22の出力が繰り返し切替わり、スイッチ12のオンオフ切替を何度も繰り返すような発振状態になることを防止できる。
【0044】
すなわち、ドライバ回路3の温度が比較的低温のときにはダイオード20の順方向電圧V1が参照電圧Vrefより大きいため、コンパレータ22の出力がローレベルとなるが、ドライバ回路3の温度が上昇してダイオード20の順方向電圧V1が参照電圧よりも小さくなると、コンパレータ22の出力がハイレベルとなる。このとき、ダイオード20の順方向電圧V1がノイズ等の影響で大小に変化しないように、ヒステリシスを有するコンパレータ22を用いるようにしている。図6は、ドライバ回路3の温度とダイオード20の順方向電圧V1の関係と、それに対応するコンパレータ22の出力の変化およびスイッチ12のオンオフ状態を示した図である。
【0045】
この図に示すように、ドライバ回路3の温度がK2(第2閾値)になるとコンパレータ22の出力(Vcom)がローレベルからハイレベルに切替わり、スイッチ12もオフからオンに切替わる。そして、一旦コンパレータ22の出力がハイレベルになると、ドライバ回路3の温度がK2よりも低いK1(第4閾値)になるまでコンパレータ22の出力がハイレベルからローレベルに切替わらず、スイッチ12もオンからオフに切替わらない。これにより、コンパレータ22の出力が発振状態になることが防止される。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、ドライバ回路3の温度に応じて電動モータ2の駆動を停止するときのエネルギーをツェナーダイオード4で消費するか、ドライバ回路3で消費するかを決めている。そして、ドライバ回路3が高温になるまではドライバ回路3で電動モータ2の駆動を停止するときのエネルギーを消費させることで、ツェナーダイオード4でのエネルギー消費が少なくなるようにしている。これにより、ツェナーダイオード4への熱集中を抑制でき、より一層高速なPWM駆動が行えるようにすることが可能となる。
【0047】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。図7は、本実施形態にかかる電動モータ2の駆動制御装置1の回路模式図である。この図に示すように、本実施形態は、第2実施形態と同様、スイッチ12によりツェナーダイオード4と電動モータ2との接続状態の切替えを行うが、第2実施形態のようにドライバ回路3の温度を温度検知回路11にて直接検知するのではなく、ドライブ回路を構成するMOSトランジスタ3aを駆動する駆動装置7にてドライバ回路3の温度を推定する。例えば、MOSトランジスタ3aの発熱は、MOSトランジスタ3aの駆動パターン、例えば通電時間や非通電時間に基づいて推定できる。このため、駆動装置7によるドライバ回路3の温度の推定結果に基づいて、スイッチ12のオンオフの切替えを行う。
【0048】
続いて、本実施形態の電動モータ2の駆動制御装置1の作動について説明する。ただし、本実施形態の電動モータ2の駆動制御装置1も、通常の制御時の動作のみが第1実施形態と異なり、ロードダンプ時の動作は第1実施形態と同様であるため、通常の制御時の動作についてのみ説明する。
【0049】
図8は、通常の制御時のタイミングチャートを示している。この図の期間Taに示すように、駆動装置7で推定されるドライバ回路3の温度が温度K2(第2閾値)未満のときにはスイッチ12をオフさせる。このため、ドライバ回路3の温度が温度K2となるまでは、ドライバ回路3で電動モータ2の駆動を停止するときのエネルギーを消費させることで、ツェナーダイオード4でのエネルギー消費が少なくなるようにする。
【0050】
続いて、図中の期間Tbのように、駆動装置7で推定されるドライバ回路3の温度が温度K2から温度K3(第3閾値)の間には、スイッチ12をオンさせる。これにより、ドライバ回路3の温度が温度K2〜K3の間には、電動モータ2の駆動中にはドライバ回路3でエネルギーを消費させ、電動モータ2の駆動を停止したときにはツェナーダイオード4でエネルギーを消費させる。
【0051】
そして、さらに駆動装置7で推定されるドライバ回路3の温度が上昇し、図中の期間Tcのように温度K3を超えると、MOSトランジスタ3aの通電パターン、つまり電動モータ2の駆動パターンを変更し、単位時間当たりの電動モータ2の駆動・停止回数をドライバ回路3の温度が温度K3未満のときよりも少なくなるようにする。これにより、電動モータ2の駆動・停止による発熱自体を抑えることが可能となり、MOSトランジスタ3aおよびツェナーダイオード4の温度上昇を抑制することが可能となる。
【0052】
以上説明したように、MOSトランジスタ3aの通電のオン・オフを制御する駆動回路にて、ドライバ回路3の温度を推定し、その推定結果に基づいてスイッチ12のオンオフを制御することもできる。
【0053】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。図9は、本実施形態にかかる電動モータ2の駆動制御装置1の回路模式図である。この図に示すように、第1実施形態の回路構成に対してMT(モータ)モニタ回路40を備えている。このようなMTモニタ回路40を備えているため、駆動装置7が半導体スイッチング素子であるMOSトランジスタ3aをオフしているにも拘わらず、駆動装置7がMTモニタ回路40からMOSトランジスタ3aをオンしている旨の信号を検出した場合に、MOSトランジスタ3aのショートもしくはツェナーダイオード4のショート故障を検出することができる。
【0054】
さらに、MTモニタ回路40に加えて電源モニタ回路41も備えられている。このような電源モニタ回路41を追加すれば、MOSトランジスタ3aおよびツェナーダイオード4の両端の電位差(電源モニタ回路41の検出電圧とMTモニタ回路40の検出電圧との差)の大きさに基づいて、ショート故障を起こした素子を特定できる。すなわち、MOSトランジスタ3aのショート故障時の両端電位差(0.2V程度)<ツェナーダイオード4のショート故障時の両端電位差(1V程度)であるため、その中間値を閾値として比較すれば、素子の特定が可能となる。
【0055】
なお、本実施形態においても、ノイズによる誤検出を防ぐために、所定時間連続して異常を検出した場合にのみ、故障と判定するようにすると好ましい。
【0056】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。図10は、本実施形態にかかる電動モータ2の駆動制御装置1の回路模式図である。この図に示すように、第1実施形態の回路構成に対してドライバ回路3内にクランプ回路42を備えている。このような構成では、クランプ回路42にて、駆動装置7がドライバ回路3がクランプしていることを検出することにより、ツェナーダイオード4の断線異常を検出することが可能となる。
【0057】
なお、本実施形態においても、ノイズによる誤検出を防ぐために、所定時間連続して異常を検出した場合にのみ、故障と判定するようにすると好ましい。
【0058】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について説明する。図11は、本実施形態にかかる電動モータ2の駆動制御装置1の回路模式図である。この図に示すように、本実施形態では、第2実施形態に対して駆動装置7内の構成を加えている。駆動装置7の駆動信号に基づいてドライバ回路3がPWM制御されるため、駆動装置7でMOSトランジスタ3aの制御状態に基づいてMOSトランジスタ3aの温度を推定することができる。このため、駆動装置7にて、その推定結果と、MOSトランジスタ3aの温度検知結果とを比較することにより、結果に乖離が生じればツェナーダイオード4の断線異常を検出することができる。
【0059】
なお、本実施形態においても、ノイズによる誤検出を防ぐために、所定時間連続して異常を検出した場合にのみ、故障と判定するようにすると好ましい。
【0060】
(他の実施形態)
上記第1〜第3実施形態では、各回路の具体例をそれぞれ挙げているが、これらは単なる一例を挙げたに過ぎず、同様の動作を行う他の回路構成を適用しても良い。
【0061】
また、上記第1〜第3実施形態では、ドライバ回路3を構成する半導体スイッチング素子としてMOSトランジスタ3aを例に挙げて説明したが、その他の素子、例えばIGBTなどにより構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用電動モータの駆動制御装置の回路模式図である。
【図2】図1に示す車両用電動モータの駆動制御装置の具体的な構成例を示した回路図である。
【図3】通常の制御時およびロードダンプ時それぞれのタイミングチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態にかかる車両用電動モータの駆動制御装置の回路模式図である。
【図5】図4に示す車両用電動モータの駆動制御装置の具体的な構成例を示した回路図である。
【図6】ドライバ回路の温度とダイオードの順方向電圧V1の関係と、それに対応するコンパレータの出力の変化およびスイッチのオンオフ状態を示した図である。
【図7】本発明の第3実施形態にかかる車両用電動モータの駆動制御装置の回路模式図である。
【図8】通常の制御時のタイミングチャートである。
【図9】本発明の第4実施形態にかかる車両用電動モータの駆動制御装置の回路模式図である。
【図10】本発明の第5実施形態にかかる車両用電動モータの駆動制御装置の回路模式図である。
【図11】本発明の第6実施形態にかかる車両用電動モータの駆動制御装置の回路模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1…駆動制御装置、2…電動モータ、3…ドライバ回路、3a…MOSトランジスタ、4…ツェナーダイオード、5…スイッチ、6…高電圧監視回路、7…駆動装置、11…温度検知回路、12…スイッチ、20…ダイオード、21…抵抗、22…コンパレータ、29…MOSトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(2)に対して直列接続され、前記電動モータの駆動を制御する半導体スイッチング素子(3a)を備えたドライバ回路(3)と、
前記半導体スイッチング素子に対して並列接続されたツェナーダイオード(4)と、
前記電動モータに対して並列接続された第1スイッチ(5)と、
前記半導体スイッチング素子に印加される電圧に基づいて前記第1スイッチのオンオフを制御し、前記電圧が第1閾値未満のときには前記第1スイッチをオフし、前記電圧が前記第1閾値以上のときには前記第1スイッチをオンする監視回路(6)と、を備えていることを特徴とする車両用電動モータの駆動制御装置。
【請求項2】
前記半導体スイッチング素子の温度を検知する温度検知回路(11)と、
前記温度検知回路にてオンオフ制御され、前記半導体スイッチング素子と前記ツェナーダイオードとの接続状態の切替えを行う第2スイッチ(12)と、を備え、
前記温度検知回路は、前記半導体スイッチング素子の温度が第2閾値(K2)未満のときには、前記第2スイッチにて前記半導体スイッチング素子から前記ツェナーダイオードを切り離し、前記半導体スイッチング素子の温度が第2閾値以上のときには、前記半導体スイッチング素子に前記ツェナーダイオードを接続することを特徴とする請求項1に記載の車両用電動モータの駆動制御装置。
【請求項3】
前記半導体スイッチング素子と前記ツェナーダイオードとの接続状態の切替えを行う第2スイッチ(12)を備え、
前記ドライバ回路に備えられる前記半導体スイッチング素子は、駆動装置(7)にてPWM制御され、該駆動装置により前記半導体スイッチング素子の制御状態に基づいて前記半導体スイッチング素子の温度を推定し、該推定による前記半導体スイッチング素子の温度が第2閾値(K2)未満のときには、前記第2スイッチにて前記半導体スイッチング素子から前記ツェナーダイオードを切り離し、前記半導体スイッチング素子の温度が第2閾値以上のときには、前記半導体スイッチング素子に前記ツェナーダイオードを接続することを特徴とする請求項1に記載の車両用電動モータの駆動制御装置。
【請求項4】
前記駆動装置(7)は、前記推定による前記半導体スイッチング素子の温度が前記第2閾値よりも高い第3閾値(K3)以上になると、前記半導体スイッチング素子の単位時間当たりのオンオフの切替回数を前記第3閾値未満のときよりも少なくすることを特徴とする請求項3に記載の車両用電動モータの駆動制御装置。
【請求項5】
前記半導体スイッチング素子の温度が第2閾値未満の状態から第2閾値を超えたときには、前記半導体スイッチング素子の温度が前記第2閾値よりも低い第4閾値(K1)に低下するまで、前記半導体スイッチング素子に前記ツェナーダイオードが接続されることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1つに記載の車両用電動モータの駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−228371(P2008−228371A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58942(P2007−58942)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】