説明

車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置

【課題】油圧センサが故障しても、エンジン回転数に基づくアイドルストップ解除時制御を可能にして、油圧センサの故障で走行不能になることのないようにする。
【解決手段】t1にアイドルストップOFF指令でエンジンが再始動により回転数Neを上昇され、エンジン駆動オイルポンプからの作動油で変速制御圧Pcが二点鎖線で示すように上昇しているのに、これを検出する油圧センサがt2に断線故障を生じて、そのセンサ検出値が最小値になった場合、油圧センサ検出値が設定油圧値以上になったことのみをもってアイドルストップ解除時制御を許可する構成では、アイドルストップ解除時制御を実行できず、走行不能になる。よって、t1での再始動によりエンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上になるt3に、油圧センサ検出値に関係なく、アイドルストップ解除時制御を許可して、エンジントルクをトルクダウン値から運転操作対応値へと上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの動力により変速機を介して走行可能であるが、停車判定時は所定条件が揃ったところでエンジンを自動的に停止させるアイドルストップを行い、上記の所定条件が揃わなくなったところで、アイドルストップの解除によりエンジンを再始動させると共に車両駆動系を運転操作対応の状態にするアイドルストップ解除時制御を行うようにしたアイドルストップ制御装置を具える車両に関し、
特に、上記のアイドルストップ解除時制御を確実に実行させるための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の燃費を向上させる一手法として、停車時に発進意志のない停車状態が設定時間だけ経過する等の所定条件が揃ったところで、エンジンを自動的に停止させるアイドルストップ制御技術がある。
このアイドルストップ制御技術は、ブレーキペダルを釈放してブレーキを作動状態から非作動状態にする等の、発進を意図したと思われる操作を運転者が行った時、アイドルストップの解除によりエンジンを自動的に再始動させるものである。
【0003】
一方で変速機は、エンジンにより駆動されるエンジン駆動オイルポンプからの油圧によって変速制御される。
ところで上記のアイドルストップ中は、エンジンが運転されていないことから、エンジン駆動オイルポンプからの油圧もなくて、変速機が動力伝達不能状態になっている。
この状態からアイドルストップの解除によりエンジンが再始動されると、これにより駆動されるエンジン駆動オイルポンプからの油圧が発生して変速機を動力伝達可能状態にするが、
エンジンの再始動によりエンジン駆動オイルポンプが油圧を発生して変速機を動力伝達可能状態にするまでには応答遅れがある。
【0004】
かかる応答遅れの間に、車両駆動系(エンジン)を運転操作対応の状態にするアイドルストップ解除時制御を行うと、これにより上昇するエンジン出力が、動力伝達可能状態になる前の(動力伝達不能状態の)変速機へ入力され、変速機の耐久性に悪影響が及ぶという問題を生ずる。
【0005】
そこで従来、アイドルストップ中はエンジン駆動オイルポンプに代えて電動オイルポンプからの作動油により、変速機を動力伝達開始直前状態に保っておく技術が提案されている。
この技術によればアイドルストップ中、電動オイルポンプからの作動油により変速機が動力伝達開始直前状態に保たれるため、アイドルストップの解除によりエンジンが再始動されたとき速やかに、エンジン駆動オイルポンプからの作動油が変速制御用油圧を、変速機が動力伝達可能状態となる値へと上昇させることができ、
再始動により上昇中のエンジントルクが、動力伝達可能状態になる前の(動力伝達不能状態の)変速機へ入力することがなく、変速機の耐久性に悪影響が及ぶという問題を解消することができる。
【0006】
しかし、かように電動オイルポンプの付加による対策によっても、上記の問題解決は確実ではなく、この問題解決を確実にするため従来、特許文献1に記載のような技術が提案された。
この技術は、エンジンを制御対象とするものではなくて変速機を制御対象とするものであるが、
エンジンの再始動後にセンサで検出した変速制御用油圧のセンサ検出値が、上記の問題を生じない設定油圧値以上になった時に、変速機の発進用摩擦要素を動力伝達開始直前状態から動力伝達可能状態にするというものである。
【特許文献1】特開2006−234013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる特許文献1に記載の技術を用いて、エンジン再始動後に変速制御用油圧のセンサ検出値が設定油圧値以上になった時、車両駆動系を運転操作対応の状態にするアイドルストップ解除時制御を実行する場合、以下のような別の問題を生ずる。
【0008】
つまり、上記の油圧センサが短絡や断線で故障し、センサ検出値が実際の変速制御用油圧を表し得なくなったとき、実際の変速制御用油圧に呼応したアイドルストップ解除時制御を行い得ない。
【0009】
油圧センサが短絡故障を生じた場合、油圧センサは一般的にセンサ検出値を最大値にすることから、実際の変速制御用油圧が発生していないときに油圧センサが短絡故障を生じた場合、実際には変速制御用油圧が発生していないのに、油圧センサ検出値が最大となる。
このため、実際には変速制御用油圧が発生していないのに、油圧センサ検出値が設定油圧値以上であることから、車両駆動系を運転操作対応の状態にするアイドルストップ解除時制御が実行される。
【0010】
実際の変速制御用油圧が発生していないということは、変速機が動力伝達不能状態にされていることを意味し、
それにもかかわらず、アイドルストップ解除時制御が実行されて車両駆動系(エンジン)が運転操作対応の出力状態にされるのでは、変速機の耐久性に悪影響が及ぶという問題を生ずる。
【0011】
油圧センサが断線故障を生じた場合、油圧センサは一般的にセンサ検出値を最小値にすることから、実際の変速制御用油圧が発生しているときに油圧センサが断線故障を生じた場合、実際には変速制御用油圧が発生しているのに、油圧センサ検出値が最小となる。
このため、実際には変速制御用油圧が発生しているのに、油圧センサ検出値が設定油圧値未満であることから、車両駆動系を運転操作対応の状態にするアイドルストップ解除時制御が実行されない。
【0012】
実際の変速制御用油圧が発生しているということは、変速機が動力伝達可能状態にされていることを意味し、
それにもかかわらず、アイドルストップ解除時制御が実行されないのでは、車両駆動系(エンジン)が運転操作対応の出力状態にされないこととなり、エンジン出力不足で車両の運転性が悪化したり、走行不能になるという問題を生ずる。
【0013】
本発明は、エンジン回転数がエンジン駆動オイルポンプのポンプ圧に関与し、変速制御用油圧の推定に用い得るとの事実認識に基づき、当該エンジン回転数に基づきアイドルストップ解除時制御が実行されるようにし、
もって、上記油圧センサの故障時も上記のような問題を生ずることなく、実際の変速制御用油圧に呼応した車両駆動系のアイドルストップ解除時制御を狙い通りに実行し得るようにした装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のため、本発明による車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置は、請求項1に記載のごとくに構成する。
先ず、本発明の前提となる車両を説明するに、これは、
エンジンからの動力により変速機を介し走行可能で、
該エンジンの運転中、このエンジンにより駆動されるエンジン駆動オイルポンプからの油圧で前記変速機を変速制御され、
停車判定時は所定条件が揃ったところでエンジンを自動的に停止させるアイドルストップを行い、前記所定条件が揃わなくなったところで、アイドルストップの解除によりエンジンを再始動させると共に、前記変速制御用油圧のセンサ検出値が設定油圧値以上になるとき車両駆動系を運転操作対応の状態にするアイドルストップ解除時制御を行うようにしたアイドルストップ制御装置を具える。
【0015】
本発明による車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置は、上記のアイドルストップ制御装置付き車両に対し、
前記エンジンの回転数が第1の設定エンジン回転数以上になるとき、前記変速制御用油圧のセンサ検出値に関係なく、前記車両駆動系のアイドルストップ解除時制御を行わせるアイドルストップ解除時制御手段を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
かかる本発明による車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置においては、
エンジン回転数が第1の設定エンジン回転数以上になるとき、変速制御用油圧のセンサ検出値に関係なく、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御を行わせるため、
実際の変速制御用油圧が発生していない時に変速制御用油圧センサが短絡故障を生じた場合の変速機耐久性への悪影響に関する前記の問題や、実際の変速制御用油圧が発生している時に変速制御用油圧センサが断線故障を生じた場合の車両運転性の悪化や、走行不能に関する前記の問題を生ずることなく、
実際の変速制御用油圧に呼応した車両駆動系のアイドルストップ解除時制御を狙い通りに実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、Vベルト式無段変速機を搭載するアイドルストップ制御装置付き車両用に構成した、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置の一実施例を示す。
【0018】
1は、Vベルト式無段変速機のプライマリプーリ、2は、Vベルト式無段変速機のセカンダリプーリで、これらプライマリプーリ1およびセカンダリプーリ2は、相互に略同じ軸直角面内に整列配置する。
そして、これらプライマリプーリ1およびセカンダリプーリ2間にVベルト3を掛け渡して、Vベルト式無段変速機の伝動部を構成する。
プライマリプーリ1には、前後進切り替え機構(図示せず)内における前進クラッチや後退ブレーキなどの発進用摩擦要素F/EおよびトルクコンバータT/Cを介してエンジンEを結合し、エンジンEからの回転をトルクコンバータT/Cおよび発進用摩擦要素F/Eによりプライマリプーリ1に入力可能にする。
プライマリプーリ1の回転はVベルト3を介してセカンダリプーリ2へ伝達し、セカンダリプーリ2の回転を駆動車輪へ伝達して車両の走行に供する。
【0019】
かかる伝動中Vベルト式無段変速機は、セカンダリプーリ2のV溝を形成する対向シーブ面のうち一方のV溝シーブ面(図1では、左側の可動シーブ面)を他方の固定シーブ面に対し接近、または離間させてV溝幅を小さく、または大きくすると同時に、
プライマリプーリ1の図1中右側におけるV溝シーブ面(可動シーブ面)を反対側におけるV溝シーブ面(固定シーブ面)に対し離間、または接近させV溝幅を大きく、または小さくすることにより、
プライマリプーリ1およびセカンダリプーリ2に対するVベルト3の巻き掛け円弧径を連続的に変化させて無段変速を行うものとする。
【0020】
Vベルト式無段変速機の変速制御は、セカンダリプーリ2の可動シーブ面押し付け油圧を加減することにより実行し、
この変速制御に際しては、プライマリプーリ1に結合されたエンジンにより駆動されるエンジン駆動オイルポンプ4からライン圧油路5への作動油を媒体とし、変速制御回路6(電子制御部および油圧制御部)が当該変速制御を以下のごとくに行うものとする。
ちなみにエンジン駆動オイルポンプ4は、ロータリーベーンポンプなどの、非可逆式のポンプ(停止状態において油路5内の作動油をオイルパンへ流下させることのないポンプ)とする。
【0021】
つまり運転状態検出手段7により、車両の運転状態を表すエンジンスロットル開度TVOや車速VSPなどを検出し、変速制御回路6はこれら運転情報をもとに、その内部における図示せざるレギュレータバルブにより、オイルポンプ4から油路5への作動油を変速機入力トルク対応のライン圧PLに調圧する。
このライン圧PLは、本発明における変速制御用油圧に相当し、プライマリプーリ圧油路8を経てプライマリプーリ1の可動シーブ面に作用させ、これによりプライマリプーリ1の可動シーブ面を変速機入力トルク対応のスラスト力で固定シーブ面に向け附勢して、これらシーブ面間にVベルト3を変速機入力トルク対応の力で挟圧する。
【0022】
変速制御回路6は更に、上記運転状態検出手段7で検出したエンジンスロットル開度TVOおよび車速VSPなどの運転情報をもとに予定の変速マップから現在の運転状態に適した目標入力回転数(目標変速比)を求める。
そして変速制御回路6は、油路5内のライン圧PLを元圧として、上記の目標入力回転数(目標変速比)が達成されるような変速制御圧Pcを作り出し、この変速制御圧Pcを変速制御圧油路9によりセカンダリプーリ2の可動シーブ面押し付け油圧としてセカンダリプーリ2に供給する。
セカンダリプーリ2は、上記の油圧による可動シーブ面押し付け力と、可動シーブ面を固定シーブ面に向け附勢するセカンダリプーリ内蔵バネ(図示せず)によるバネ力とで、両シーブ面間にVベルトを挟圧することにより、Vベルト式無段変速機を、その入力回転数(変速比)が目標入力回転数(目標変速比)に一致するよう変速制御する。
従って変速制御圧Pcも、ライン圧PLと同じく、本発明における変速制御用油圧に相当する。
【0023】
ところで変速制御圧Pcは、外乱などを受けて目標入力回転数(目標変速比)を達成するのに必要な油圧値からずれ、正確な変速制御に支障をきたす虞があり、この危惧を排除するために以下のフィードバック制御系を付加する。
つまり、セカンダリプーリ2の可動シーブ面押し付け油圧を検出する油圧センサ10を設け、この油圧センサ10により検出した可動シーブ面押し付け油圧を変速制御回路6にフィードバックする。
【0024】
変速制御回路6は、当該フィードバックしたセカンダリプーリ2の可動シーブ面押し付け油圧が、目標入力回転数(目標変速比)を達成するのに必要な変速制御圧Pcの指令値からどの程度乖離しているかを演算し、この乖離が解消されるよう変速制御圧Pcの指令値を変化させ、
これにより、外乱などを受けても、変速制御圧Pcが目標入力回転数(目標変速比)を達成するのに必要な油圧値からずれることのないようにし、正確な変速制御を継続的に遂行し得るようにする。
【0025】
変速制御回路6は更に、ライン圧PLを元圧として発進用摩擦要素F/Eの締結を司る発進要素締結圧Psを作り出し、この発進要素締結圧Psを発進要素締結圧油路18により発進用摩擦要素F/Eへ供給する。
ここで発進要素締結圧Psは、発進用摩擦要素F/Eがプライマリプーリ1への入力トルクを伝達可能なトルク容量をもって締結されるような値に制御する。
【0026】
なお本実施例において、プライマリプーリ1に結合されたエンジンEは燃費向上のためにアイドルストップ制御装置付きとし、車速が停車判定用の微少設定車速未満となる停車判定状態であって、この停車判定状態が発進意思のないまま設定時間に亘って継続する等の所定条件が揃ったところで、エンジンを自動的に停止(アイドルストップ)させるものとする。
本実施例においては、上記のように車速が停車判定用の微少設定車速未満となる停車判定状態をアイドルストップ条件としたことにより、
上記のアイドルストップが停車時に行われるものを含むのは勿論であるが、停車直前における微速走行中から行われるものをも含むことは言うまでもない。
アイドルストップ制御の解除は、ブレーキペダルを釈放してブレーキを作動状態から非作動状態にする等の、発進を意図したと思われる操作を運転者が行った時、エンジンを自動的に再始動させて当該解除を行うものとする。
【0027】
ところで上記のアイドルストップ中は、エンジンが運転されないことから、これにより駆動されるエンジン駆動オイルポンプ4からの吐出油もなくて、ライン圧PLを発生させ得ないと共に、変速制御回路6が変速制御圧Pcおよび発進用摩擦要素締結圧Psを作り出すこともできない。
よって、プライマリプーリ1の対向シーブ面間、および、セカンダリプーリ2の対向シーブ面間にVベルト3を挟圧することができず、発進用摩擦要素F/Eを締結させることもできないことから、Vベルト式無段変速機は動力伝達不能状態になっている。
【0028】
この状態から、アイドルストップ制御の解除によりエンジンが再始動されると、
これにより駆動されるエンジン駆動オイルポンプ4から作動油が吐出されて、ライン圧PLを発生させ得るようになると共に、変速制御回路6が変速制御圧Pcおよび発進用摩擦要素締結圧Psを作り出すことができるようになることから、
これら油圧の発生によりVベルト式無段変速機が動力伝達可能状態になる。
【0029】
ところで、アイドルストップ制御の解除に伴うエンジンの再始動によりエンジン駆動オイルポンプ4が作動油を吐出し、これによりライン圧PL 、変速制御圧Pcおよび発進用摩擦要素締結圧Psが発生してVベルト式無段変速機を動力伝達可能状態にするまでには応答遅れがある。
かかる応答遅れの間に、車両駆動系(エンジン)を運転操作対応の状態にするアイドルストップ解除時制御を行うと、これにより上昇するエンジントルクが、動力伝達可能状態になる前の(動力伝達不能状態の)Vベルト式無段変速機へ入力され、変速機の耐久性に悪影響が及ぶという問題を生ずる。
【0030】
そこで本実施例においては、アイドルストップ中はエンジン駆動オイルポンプ4に代えて電動オイルポンプ11を作動させ、これからの作動油により後述のごとく、Vベルト式無段変速機を動力伝達開始直前状態に保っておくようにする。
なお電動オイルポンプ11は、専用モータ12により駆動し、専用モータ12は、電動オイルポンプ11を駆動するのに必要な最小限の出力を有した小型のものとする。
【0031】
電動オイルポンプ11の吐出ポートを電動オイルポンプ油路13により、ライン圧油路5に接続し、
電動オイルポンプ油路13中に、ライン圧油路5からの油流を阻止する向きに配した逆止弁14を挿置する。
この逆止弁13は、エンジン駆動オイルポンプ4から作動油が吐出される時、この作動油が電動オイルポンプ11を経てオイルパンに向け漏れ、ライン圧PLを発生させ得なくなるのを防止するためのものである。
【0032】
かかる構成によれば、エンジンのアイドルストップ中は電動オイルポンプ11からの作動油を媒体として変速制御回路6が、油路5,9,18を含む変速制御油路内に、変速機を以下のごとく動力伝達開始直前状態にする油圧を発生させることができる。
つまり変速制御回路6は油路5,9内に、Vベルト3をプライマリプーリ1の対向シーブ面間、および、セカンダリプーリ2の対向シーブ面間に丁度隙間がなくなるよう挟んでおく油圧を生じさせると共に、
油路18内に、発進用摩擦要素F/E(前後進切り替え機構内の前進クラッチや、後退ブレーキ)が内蔵リターンスプリングに抗して、締結容量を持ち始める直前状態に作動するのに必要な油圧Psを発生させ、
これらによりVベルト式無段変速機を動力伝達開始直前状態に保っておくことができる。
【0033】
従って、アイドルストップの解除によりエンジンが再始動されたとき直ちに、エンジン駆動オイルポンプ4からの作動油を媒体として変速制御回路6が変速制御用油圧を、電動オイルポンプ11からの作動油を媒体として発生させていた上記の動力伝達開始直前状態達成油圧値から、変速機を動力伝達可能状態にする油圧値へと上昇させることができ、
エンジンの始動直後からVベルト式無段変速機がスリップ無しに動力伝達を行い得て車両の再発進応答を改善し得ると共に、動力伝達可能状態になる前の変速機へエンジン動力が入力されて、変速機の耐久性に悪影響が及ぶという問題を回避することができる。
【0034】
しかし、上記電動オイルポンプ11の付加による対策によっても、上記の問題解決は確実ではなく、この問題解決を確実にするため本実施例においては、図1に示すごとくエンジン自動停止コントローラ15を設け、
これにより、前記したアイドルストップ制御(アイドルストップON,OFF指令)および電動オイルポンプ11(専用モータ12)のON,OFF指令を行うほかに、図2に示す制御プログラムを実行して、図3のタイムチャートにより示すような、車両駆動系(エンジン)のアイドルストップ解除時制御を行うようになす。
そして、エンジン自動停止コントローラ15には、アイドルストップ許可条件検出部16からの信号と、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ17からの信号と、前記した油圧センサ10からの信号とを入力する。
【0035】
アイドルストップ許可条件検出部16が検出するアイドルストップ許可条件としては、Vベルト式無段変速機のプーリ1,2間における回転速度比であるプーリ比や、変速機作動油温や、ブレーキ作動状態や、車速VSPや、アクセル開度APOや、停車路面の勾配度などがある。
【0036】
ちなみに、プーリ比は最ロー変速比近辺の領域におけるプーリ比であることが、アイドルストップを許可される条件であり、
変速機作動油温は暖機運転終了後の温度域であることが、アイドルストップを許可される条件であり、
ブレーキが作動状態であることが、アイドルストップを許可される条件であり、
車速VSPが前記した停車判定用の微少設定車速未満の値であることが、アイドルストップを許可される条件であり、
アクセル開度APOが零近辺の領域における値であることが、アイドルストップを許可される条件であり、
停車路面の勾配度は零近辺の領域における平坦路勾配であることが、アイドルストップを許可される条件である。
【0037】
先ず、エンジン自動停止コントローラ15が実行するアイドルストップ制御(アイドルストップON,OFF指令)、および電動オイルポンプ11(専用モータ12)のON,OFF指令を説明する。
検出部16で検出したアイドルストップ許可条件(プーリ比、変速機作動油温、ブレーキ作動状態、車速VSP、アクセル開度APO、および路面勾配度)に基づく、アイドルストップ制御許可判断を行い、アイドルストップを許可すべきか、禁止すべきかを判断する。
【0038】
このアイドルストップ制御許可判断が「許可」でない場合(「禁止」である場合)、
コントローラ15は、アイドルストップOFF指令をエンジン側に発すると共に、電動オイルポンプ11(専用モータ12)へ電動オイルポンプOFF指令を発し、アイドルストップをさせずにエンジンを運転させ続け、
Vベルト式無段変速機は、エンジン駆動オイルポンプ4からの作動油によって通常通りに変速制御する。
【0039】
上記のアイドルストップ制御許可判断が「許可」である場合、
コントローラ15は、アイドルストップON,OFF指令の決定の前に、先ず電動オイルポンプ11(専用モータ12)へ電動オイルポンプON指令を発する。
電動オイルポンプ11がこの電動オイルポンプON指令に呼応した実駆動を行ったか否かを、油圧センサ10によるセンサ検出値により判定し、油圧センサ10のセンサ検出値が電動オイルポンプ11の実駆動を示す値であるとき、電動オイルポンプ11(専用モータ12)に係わる電力系および制御系が正常であると共に、電動オイルポンプ11が異物噛み込みによる故障も生じていないと判定し得る。
【0040】
電動オイルポンプ11(専用モータ12)が正常である場合、上記アイドルストップ制御許可判断の「許可」と相まって、コントローラ15は、アイドルストップON指令をエンジン側に発し、エンジンを自動停止させる。
なお、上記したごとく既に電動オイルポンプ11(専用モータ12)へ電動オイルポンプON指令が出力されていることから、電動オイルポンプ11は引き続き駆動されて、アイドルストップ後は、電動オイルポンプ11からの作動油によりVベルト式無段変速機を前記した動力伝達開始直前状態にしておくことができる。
よって、アイドルストップの解除によりエンジンが再始動されるとき、エンジン駆動オイルポンプ4からの作動油で直ちに、Vベルト式無段変速機を動力伝達可能状態にすることができる。
【0041】
電動オイルポンプ11(専用モータ12)が故障している場合、また、電動オイルポンプ11(専用モータ12)正常であっても前記アイドルストップ制御許可判断が「禁止」である場合、
コントローラ15は、アイドルストップOFF指令をエンジン側に発し、エンジンを自動停止させるアイドルストップを実行させないと同時に、電動オイルポンプ11(専用モータ12)へ電動オイルポンプOFF指令を発して、電動オイルポンプ11を停止させる。
【0042】
よって、電動オイルポンプ11(専用モータ12)が故障しているのにアイドルストップが実行されることがなくなり、当該アイドルストップの強行によって、その後におけるアイドルストップの解除に伴うエンジン再始動時に、動力伝達不能状態のVベルト式無段変速機へエンジン回転が入力されて、変速機の耐久性に悪影響が及ぶという問題を回避することができる。
また、アイドルストップ制御許可判断が「禁止」である場合は、要求通りにアイドルストップを行わせないようにすることができる。
【0043】
前記した通り、アイドルストップ中、電動オイルポンプ11からの作動油でVベルト式無段変速機を動力伝達開始直前状態にしておき、アイドルストップの解除に伴うエンジンの再始動直後に、動力伝達不能状態のVベルト式無段変速機へエンジン回転が入力されてその耐久性に悪影響が及ぶことのないようにするが、これを補佐して、
エンジンの再始動直後に、動力伝達不能状態のVベルト式無段変速機へエンジン回転が入力されるのを防止するという上記の機能を一層確実なものにするため、
本実施例においてはコントローラ15が、図2に示す制御プログラムを実行して、図3のタイムチャートにより示すような、車両駆動系(エンジン)のアイドルストップ解除時制御を行うものとする。
【0044】
図2のステップS11においては、前記のアイドルストップが実行されている最中か否かをチェックし、アイドルストップ中であれば、ステップS12において、エンジンを運転操作対応の出力状態に向かわせるアイドルストップ解除時制御を禁止する。
ステップS11でアイドルストップ中でないと判定するときは、油圧センサ故障検知手段に相当するステップS13において、変速制御用油圧を検出する油圧センサ10(図1では、変速制御圧Pcを検出するセンサであるが、ライン圧PLを検出する油圧センサでもよい)が正常か否かをチェックする。
このチェックに際しては、油圧センサ10の検出油圧値がオイルポンプ4,11の回転数対応値から設定範囲内の値である時をもって正常と判定し、この設定範囲から外れている時をもって故障であると判定し得る。
【0045】
ステップS13で油圧センサ10が正常であると判定するときは、ステップS14において、油圧センサ10による変速制御用油圧(変速制御圧Pc)のセンサ検出値が設定油圧値以上であるか否かをチェックする。
この設定油圧値は、変速機へエンジン出力が入力されても変速機の耐久性に悪影響が及ぶことのない変速制御用油圧(変速制御圧Pc)の下限値とする。
【0046】
ステップS14で油圧センサ10による変速制御用油圧(変速制御圧Pc)のセンサ検出値が設定油圧値以上であると判定するに至る前は、ステップS15において、かかる低い変速制御用油圧(変速制御圧Pc)のもとでもエンジントルクが変速機の耐久性に悪影響を及ぼすことのないようにエンジントルクを低下させるエンジントルクダウン指令を、図1に示すごとくエンジン側に発する。
その後、制御をステップS13に戻し、ステップS14で油圧センサ10による変速制御用油圧(変速制御圧Pc)のセンサ検出値が設定油圧値以上であると判定するに至るようになるまで、上記のエンジントルクダウンを継続する。
【0047】
ステップS14で油圧センサ10による変速制御用油圧(変速制御圧Pc)のセンサ検出値が設定油圧値以上であると判定するに至った後は、ステップS16において、エンジンのアイドルストップ解除時制御を許可する。
このアイドルストップ解除時制御は、上記ステップS15で図1に示すように出力していたエンジントルクダウン指令を出さないようにすることで、エンジントルクが運転操作対応値へショック対策下に徐々に増大するようエンジン側に制御を任せる制御である。
【0048】
ステップS13で油圧センサ10が正常でない(故障している)と判定するときは、ステップS17において、エンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上か否かをチェックする。
ここで第1の設定エンジン回転数は、後述の作用効果を確実に達成するため、エンジン駆動オイルポンプ4が車両の緩発進時に要求される変速制御用油圧(変速制御圧Pc)を発生させるのに必要な緩発進時要求油圧発生エンジン回転数とする。
【0049】
よって、エンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上であるということは、エンジン出力が変速機へ入力されても変速機の耐久性に悪影響が及ぶことのない変速制御用油圧(変速制御圧Pc)の発生状態であることを意味し、
ステップS14で油圧センサ10による変速制御用油圧(変速制御圧Pc)のセンサ検出値が設定油圧値以上であると判定した場合に等価である。
【0050】
ステップS17でエンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上であると判定するに至る前は、ステップS18において、かかる第1の設定エンジン回転数よりも低いエンジン回転数Neのもとでも、つまり、当該低エンジン回転数により発生する低い変速制御用油圧(変速制御圧Pc)のもとでも、エンジントルクが変速機の耐久性に悪影響を及ぼすことのないようエンジントルクを低下させるエンジントルクダウン指令を、図1に示すごとくエンジン側に発する。
その後、制御をステップS17に戻し、ステップS17でエンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上であると判定するに至るようになるまで、上記のエンジントルクダウンを継続する。
【0051】
ステップS17でエンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上であると判定するに至ったとき、制御をステップS16に進め、上記ステップS18でのエンジントルクダウン指令を終了させてエンジンのアイドルストップ解除時制御を許可し、エンジントルクを運転操作対応値へ増大させ、以後の通常走行に備える。
従って、ステップS17はステップS16とで、本発明におけるアイドルストップ解除時制御手段を構成する。
【0052】
なお前記では、ステップS17における第1の設定エンジン回転数は、エンジン駆動オイルポンプ4が車両の緩発進時に要求される変速制御用油圧(変速制御圧Pc)を発生させるのに必要な緩発進時要求油圧発生エンジン回転数であると述べたが、
かかる第1の設定エンジン回転数の設定に際しては、例えば、エンジン駆動オイルポンプ4が必要最低限の変速制御用油圧(変速制御圧Pc)を発生させるのに必要な最低エンジン回転数(具体的には、例えばエンジンアイドリング回転数)に、上記の判断が誤判定となるのを防止するための上乗せ回転数を加算したエンジン回転数を第1の設定エンジン回転数と定めるのが有利である。
この場合、上記の上乗せ回転数を誤判定防止用に必要最小限の回転数とすることで、誤判定を確実に防止しつつ、速やかな判定完了を実現することができる。
【0053】
図2による上記のアイドルストップ解除時制御を、図3のタイムチャートにより以下に詳述する。
図3は、瞬時t1にアイドルストップOFF指令でエンジンが再始動されて、エンジン回転数Neが図示の時系列変化をもって上昇し、これによりエンジン駆動オイルポンプ4からの作動油で変速制御圧Pcが二点鎖線で示すように上昇しているのに、この変速制御圧Pcを検出する油圧センサ10が瞬時t2に断線故障を生じて、そのセンサ検出値が最小値になった場合の動作タイムチャートである。
【0054】
特許文献1に基づき前記した従来装置にあっては、油圧センサ10のセンサ検出値のみにもとづき、このセンサ検出値が設定油圧値以上になったときのみに(ステップS14)、エンジンのアイドルストップ解除時制御を許可するものであるため(ステップS16)、
油圧センサ10が瞬時t2に断線故障を生じて、そのセンサ検出値が最小値になった場合、それ以後エンジンのアイドルストップ解除時制御を実行することができない。
実際の変速制御圧Pcが二点鎖線で示すように上昇しているということは、変速機が動力伝達可能状態にされていることを意味し、それにもかかわらず、アイドルストップ解除時制御が実行されないのでは、車両駆動系(エンジン)がトルクダウンされたままとなり、運転操作対応のトルク発生状態にされ得ないこととなり、エンジン出力不足で車両の運転性が悪化したり、走行不能になるという問題を生ずる。
【0055】
ところで本実施例においては、瞬時t1での再始動によりエンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上になる(ステップS17)瞬時t3に、油圧センサ10のセンサ検出値に関係なく、ステップS16でのエンジンのアイドルストップ解除時制御を許可するため、
油圧センサ10が瞬時t2に断線故障を生じ、そのセンサ検出値が最小値になったとしても、エンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上になれば(エンジン駆動オイルポンプ4からの作動油が十分であれば)、エンジンのアイドルストップ解除時制御を実行することができ、
これによりエンジントルクを瞬時t3以後、トルクダウン値から運転操作対応のトルク値へと増大させることができる。
【0056】
一方、故障でセンサ検出値が最小値になっても、実際には、エンジン駆動オイルポンプ4からの作動油により変速制御圧Pcが二点鎖線で示すように上昇していることから、変速機は動力伝達可能状態にされ得る。
よって、上記したアイドルストップ解除時制御の実行によるエンジントルクの増大は、油圧センサ10の故障でセンサ検出値が最小値になった時の運転性の悪化に関する問題や、走行不能になるという問題を回避することができる。
【0057】
油圧センサ10が短絡故障を生じて、実際には変速制御圧Pcが発生していないのに、油圧センサ10のセンサ検出値が最大値になる場合も、ステップS13が制御をステップS13へ進めて、油圧センサ10の断線故障時と同様、油圧センサ10のセンサ検出値(ステップS14)に関係なく、エンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上になる(ステップS17)瞬時t3に、ステップS16でのエンジンのアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)を許可する。
【0058】
このため、実際には変速制御圧Pcが発生していないのに、油圧センサ10のセンサ検出値が最大値になる故障時に、油圧センサ10のセンサ検出値のみをもってエンジンのアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)が許可されることはなく、
実際には変速制御圧Pcが発生していないのに、つまり、変速機が動力伝達可能状態でないのに、エンジンのアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)が行われて、変速機の耐久性に悪影響が及ぶという問題も回避することができる。
【0059】
なお、ステップS13で油圧センサ10が故障していると判定した場合に、ステップS17およびステップS16でのエンジン回転数Neに基づくアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)の許可判断を行う本実施例によれば、
上記したように油圧センサの断線故障時および短絡故障時の問題解決を実現できるほか、以下のような作用効果をも達成することができる。
【0060】
つまり、ステップS17およびステップS16でのエンジン回転数Neに基づくアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)の許可判断は、あくまでエンジン回転数Neから変速制御用油圧(変速制御圧Pc)を推定してのものであり、ステップS14およびステップS16での油圧センサ検出値に基づくアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)の許可判断ほど高精度ではない。
この意味合いにおいて、本実施例のごとくステップS13で油圧センサ10が故障していると判定した場合にのみ、ステップS17およびステップS16でのエンジン回転数Neに基づくアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)の許可判断を行い、ステップS13で油圧センサ10が故障していないと判定する場合は、ステップS14およびステップS16での油圧センサ検出値に基づくアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)の許可判断を行うようにする構成によれば、
油圧センサ10が故障していない間は、油圧センサ検出値に基づきアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)の許可判断を高精度に行い得るという作用効果を達成できるし、
油圧センサ10が故障している間は、エンジン回転数Neに基づくアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)の許可判断により、前記した問題解決を確実に実現することができるという作用効果を奏し得る。
【0061】
図4は、本発明の他の実施例を示すアイドルストップ解除時制御プログラムで、この図4は、図2の制御プログラムにおけるステップS17をステップS21〜ステップS24に置換したものに相当する。
ステップS13で油圧センサ10が正常でない(故障している)と判定したときに選択されるステップS21においては、エンジン回転数Neが、前記した第1の設定エンジン回転数よりも低い第2の設定エンジン回転数以上であるか否かをチェックする。
第2の設定エンジン回転数は、後述の作用効果を確実に達成するため、エンジン駆動オイルポンプ4が必要最低限の変速制御用油圧を発生させるのに必要な最低エンジン回転数(例えばエンジンアイドリング回転数)とする。
【0062】
ステップS21でエンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上であると判定するに至る前は、ステップS22において、タイマTMを0にリセットする。
このタイマTMは、ステップS21でエンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上であると判定する間、ステップS22において歩進(インクリメント)され、エンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上である継続時間を計測するものである。
ステップS24においては、上記タイマTMの計測時間(エンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上である継続時間)が設定時間を示しているか否かをチェックする。
この設定時間は、後述の作用効果を確実に達成するため、アイドルストップの解除でエンジンが再始動により上記第2の設定エンジン回転数となるまでに要する時間とする。
【0063】
ステップS21でエンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上でないと判定する間や、ステップS21でエンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上であると判定しても、ステップS24において、当該エンジン回転状態の継続時間(タイマTMの計測時間)が未だ設定時間に満たないと判定する間は、
ステップS18において、かかる第2の設定エンジン回転数よりも低いエンジン回転数Neのもとでも、つまり、当該低エンジン回転数により発生する低い変速制御用油圧(変速制御圧Pc)のもとでも、エンジントルクが変速機の耐久性に悪影響を及ぼすことのないようエンジントルクを低下させるエンジントルクダウン指令を、図1に示すごとくエンジン側に発する。
その後、制御をステップS21に戻し、ステップS21でエンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上であると判定し、且つ、ステップS24で当該エンジン回転状態が設定時間に続いたと判定するに至るようになるまで、上記のエンジントルクダウンを継続する。
【0064】
ステップS21でエンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上であると判定し、且つ、ステップS24で当該エンジン回転状態が設定時間に続いたと判定するに至るとき、制御をステップS16に進め、上記ステップS18でのエンジントルクダウン指令を終了させてエンジンのアイドルストップ解除時制御を許可し、エンジントルクを運転操作対応値へ増大させる。
従って、ステップS21〜ステップS24はステップS16とで、本発明におけるアイドルストップ解除時制御手段を構成する。
【0065】
図4による上記のアイドルストップ解除時制御を、図5のタイムチャートにより以下に詳述する。
図5は、第1実施例の動作タイムチャートである図3と同様、瞬時t1にアイドルストップOFF指令でエンジンが再始動されて、エンジン回転数Neが図示の時系列変化をもって上昇し、これによりエンジン駆動オイルポンプ4からの作動油で変速制御圧Pcが二点鎖線で示すように上昇しているのに、この変速制御圧Pcを検出する油圧センサ10が瞬時t2に断線故障を生じて、そのセンサ検出値が最小値になった場合の動作タイムチャートである。
【0066】
本実施例(第2実施例)においては、瞬時t1での再始動によりエンジン回転数Neが、第1実施例における第1の設定エンジン回転数よりも低い第2の設定エンジン回転数以上になる(ステップS21)瞬時t2'に、タイマTMが起動されて当該エンジン回転状態の継続時間を計測し(ステップS22)、この継続時間(タイマTMの計測値)が設定時間となる瞬時t3'に(ステップS24)、油圧センサ10のセンサ検出値に関係なく、ステップS16でのエンジンのアイドルストップ解除時制御を許可するため、
油圧センサ10が瞬時t2に断線故障を生じ、そのセンサ検出値が最小値になったとしても、エンジン回転数Neが第2の設定エンジン回転数以上である状態が設定時間継続すれば(エンジン駆動オイルポンプ4からの作動油が十分であれば)、エンジンのアイドルストップ解除時制御を実行することができ、
これによりエンジントルクを瞬時t3'以後、トルクダウン値から運転操作対応のトルク値へと増大させることができる。
【0067】
一方、故障でセンサ検出値が最小値になっても、実際には、エンジン駆動オイルポンプ4からの作動油により変速制御圧Pcが二点鎖線で示すように上昇していることから、変速機は動力伝達可能状態にされ得る。
よって、上記したアイドルストップ解除時制御の実行によるエンジントルクの増大は、油圧センサ10の故障でセンサ検出値が最小値になった時の運転性の悪化に関する問題や、走行不能になるという問題を回避することができる。
【0068】
油圧センサ10が短絡故障を生じて、実際には変速制御圧Pcが発生していないのに、油圧センサ10のセンサ検出値が最大値になる場合も、ステップS13が制御をステップS21へ進めて、油圧センサ10の断線故障時と同様、油圧センサ10のセンサ検出値(ステップS14)に関係なく、エンジン回転数Neが設定時間以上継続して第2の設定エンジン回転数以上であったと判定する(ステップS21、ステップS24)瞬時t3'に、ステップS16でのエンジンのアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)を許可する。
【0069】
このため、実際には変速制御圧Pcが発生していないのに、油圧センサ10のセンサ検出値が最大値になる故障時に、油圧センサ10のセンサ検出値のみをもってエンジンのアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)が許可されることはなく、
実際には変速制御圧Pcが発生していないのに、つまり、変速機が動力伝達可能状態でないのに、エンジンのアイドルストップ解除時制御(エンジントルク増大復帰)が行われて、変速機の耐久性に悪影響が及ぶという問題も回避することができる。
【0070】
なお第1実施例のように、エンジン回転数Neが第1の設定エンジン回転数以上になるとき(ステップS17)、油圧センサ10のセンサ検出値に関係なく、エンジンのアイドルストップ解除時制御を許可する場合、第1の設定エンジン回転数に内包させるべき前記した誤判定防止用の上乗せ回転数を相当に大きくせざるを得ず、結果として第1の設定エンジン回転数がかなり高くなること必至である。
このため、図3に示すように、また比較のため図5に破線で併記したように、アイドルストップ解除時制御の許可判断タイミング、および、これにより行われるエンジントルクの運転操作対応値への上昇開始タイミングが、エンジン回転数Neの上昇速度に大きく依存して、エンジン回転数Neの上昇速度が遅い場合、例えば図3,5の瞬時t3のごとく遅くなる傾向にある。
【0071】
これに対し、本実施例(第2実施例)のように、そして図5に実線で示すように、エンジン回転数Neが低い第2の設定エンジン回転数以上であることをアイドルストップ解除時制御の第1許可条件とし、誤判定防止用に当該エンジン回転状態が設定時間に亘って継続することをアイドルストップ解除時制御の第2許可条件とし、これら2条件が揃った時にアイドルストップ解除時制御を実行させるようにすれば、
アイドルストップ解除時制御の許可判断タイミング、および、これにより行われるエンジントルクの運転操作対応値への上昇開始タイミングが、エンジン回転数Neの上昇速度に大きく依存しなくなり、エンジン回転数Neの上昇速度が遅い場合でも、図5の瞬時t3よりも前の瞬時t3'にはアイドルストップ解除時制御を許可して、エンジントルクをトルクダウン値から運転操作対応値へと上昇開始させることができる。
【0072】
なお、上記では変速機がVベルト式無段変速機である場合について述べたが、変速機が有段式自動変速機や、マニュアルトランスミッションを自動変速化させた自動マニュアルトランスミッションなどである場合も、本発明の前記した着想はそのまま適用して同様な作用効果を奏し得ること勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】Vベルト式無段変速機を搭載するアイドルストップ制御装置付き車両用に構成した、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置の一実施例を示すシステム図である。
【図2】図1におけるエンジン自動停止コントローラが実行するアイドルストップ解除時制御のプログラムを示すフローチャートである。
【図3】図2のアイドルストップ解除時制御プログラムによる動作タイムチャートである。
【図4】本発明の他の実施例を示す、図2と同様な、アイドルストップ解除時制御プログラムのフローチャートである。
【図5】図4のアイドルストップ解除時制御プログラムによる動作タイムチャートである。
【符号の説明】
【0074】
E エンジン
T/C トルクコンバータ
F/E 発進用摩擦要素
1 プライマリプーリ
2 セカンダリプーリ
3 Vベルト
4 エンジン駆動オイルポンプ
5 ライン圧油路
6 変速制御回路
7 運転状態検出手段
8 プライマリプーリ圧油路
9 変速制御圧油路
10 油圧センサ
11 電動オイルポンプ
12 専用モータ
13 電動オイルポンプ油路
14 逆止弁
15 エンジン自動停止コントローラ
16 アイドルストップ許可条件検出部
17 エンジン回転センサ
18 発進用摩擦要素締結圧油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力により変速機を介し走行可能で、
該エンジンの運転中、このエンジンにより駆動されるエンジン駆動オイルポンプからの油圧で前記変速機を変速制御され、
停車判定時は所定条件が揃ったところでエンジンを自動的に停止させるアイドルストップを行い、前記所定条件が揃わなくなったところで、アイドルストップの解除によりエンジンを再始動させると共に、前記変速制御用油圧のセンサ検出値が設定油圧値以上になるとき車両駆動系を運転操作対応の状態にするアイドルストップ解除時制御を行うようにしたアイドルストップ制御装置を具える車両において、
前記エンジンの回転数が第1の設定エンジン回転数以上になるとき、前記変速制御用油圧のセンサ検出値に関係なく、前記車両駆動系のアイドルストップ解除時制御を行わせるアイドルストップ解除時制御手段を設けて成ることを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置において、
前記アイドルストップ解除時制御手段は、エンジン回転数が前記第1の設定エンジン回転数に代え、該第1の設定エンジン回転数よりも低い第2の設定エンジン回転数以上である状態が設定時間以上継続したとき、前記変速制御用油圧のセンサ検出値に関係なく、前記車両駆動系のアイドルストップ解除時制御を行わせるものであることを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置において、
前記第2の設定エンジン回転数は、前記エンジン駆動オイルポンプが必要最低限の前記変速制御用油圧を発生させるのに必要な最低エンジン回転数であることを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置において、
前記第2の設定エンジン回転数は、エンジンアイドリング回転数であることを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置において、
前記設定時間は、前記エンジンが再始動により前記第2の設定エンジン回転数となるまでに要する時間であることを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置において、
前記第1の設定エンジン回転数は、前記第2の設定エンジン回転数に誤判定防止用の上乗せ回転数を加算したエンジン回転数であることを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置において、
前記第1の設定エンジン回転数は、前記エンジン駆動オイルポンプが緩発進時に要求される前記変速制御用油圧を発生させるのに必要な緩発進時要求油圧発生エンジン回転数であることを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置において、
前記アイドルストップ制御装置は、アイドルストップの解除によるエンジンの再始動によっても、前記変速制御用油圧のセンサ検出値が前記設定油圧値以上になる前は、エンジンをトルクダウンさせるものであり、
前記変速制御用油圧のセンサ検出値が前記設定油圧値以上になった時にアイドルストップ制御装置が実行する前記アイドルストップ解除時制御は、エンジンを前記トルクダウンの解除により運転操作対応のトルクを発生する状態にするものであることを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置において、
前記変速制御用油圧検出センサの故障を検知する油圧センサ故障検知手段を設け、
該手段により前記変速制御用油圧検出センサの故障が検知されたときのみ、前記アイドルストップ解除時制御手段による制御を行わせるよう構成したことを特徴とする、車両駆動系のアイドルストップ解除時制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−293408(P2009−293408A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145230(P2008−145230)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】