説明

車両

【課題】接地状態と、倒立状態との間の遷移時に、揺動制限手段による制動を解除することにより、簡素なシステムでありながら、乗降時に搭乗部を水平な状態に保持することができ、快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価なようにする。
【解決手段】回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、車体に揺動可能に取り付けられた搭乗部と、該搭乗部の揺動を可能又は不能にする揺動制限手段とを有し、接地状態、及び、倒立状態においては揺動制限手段によって搭乗部の揺動を不能にし、接地状態及び倒立状態の間の遷移状態においては揺動制限手段によって搭乗部の揺動を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関する技術が提案されている。例えば、同軸上に配設された2つの駆動輪を有し、乗員の重心移動による車体の姿勢変化を感知して駆動する車両、球体状の単一の駆動輪に取り付けられた車体の姿勢を制御しながら移動する車両等の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この場合、センサで車体のバランスや動作の状態を検出しながら、倒立制御を行って、車両を移動させる。また、乗員が降車するときや車両の電源を遮断したときには、倒立制御を停止するのと同時にストッパを作動させ、該ストッパを接地させることによって車体の姿勢を維持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−291799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両においては、可動式のストッパを車両の前後に取り付ける必要があり、これにより、構成が複雑化するとともに、車両の軽量化及び低コスト化の妨げとなる。そこで、固定式のストッパを車両のいずれか一方側に取り付け、乗員が降車するときには、乗員が降車しやすい方向に車体を傾けて、車体に固定されたストッパを路面に接地させることが考えられる。しかし、乗降時の快適性については、必ずしも満足できるものではない。
【0006】
そもそも、倒立型の車両においては、倒立制御を停止させた状態で乗員が乗降することが望ましい。例えば、倒立制御の実行時に乗員が乗降すると、乗員の乗降の最中に車体全体の重心位置が乗員の乗降側に著しく偏るため、車両が乗降側に大きく移動してしまう。また、搭乗時における乗員の視線の高さを考慮して、搭乗部が高い位置に設置されていると、搭乗部への飛び乗りや搭乗部からの飛び降りを乗員に強いることになる。そのため、片側固定ストッパを備えた車両では、乗員の乗降時には、倒立制御を停止し、ストッパを備えた方向に車体を傾けてストッパを接地させるようになっているが、車体と共に傾いた搭乗部に乗り降りすることに、乗員が不快感や不安感を抱く場合がある。
【0007】
したがって、車体とは独立に、搭乗部の姿勢を制御できることが望ましいが、複雑な機構や高精度のサーボモータ等を用いると、小型、軽量、かつ、安価な車両の提供が困難になる。また、搭乗部の姿勢変化が、倒立制御実行時の倒立姿勢制御の妨げになる可能性がある。
【0008】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、車体の傾斜運動を所定の傾斜角で制限する姿勢制限手段と、車体と相対的に回転可能な搭乗部と、相対回転運動を制動する揺動制限手段を備える倒立型の車両において、姿勢制限手段によって所定の傾斜角で制限された状態である接地状態と、駆動トルクによって傾斜角が所定値未満で維持されるように制御された状態である倒立状態との間の遷移時に、揺動制限手段による制動を解除することにより、簡素なシステムでありながら、乗降時に搭乗部を水平な状態に保持することができ、快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価な倒立型の車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明の車両においては、回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、前記車体に固定され、車体の傾斜角を制限する姿勢制限手段と、前記車体に揺動可能に取り付けられた搭乗部と、該搭乗部の揺動を可能又は不能にする揺動制限手段と、前記駆動輪に与える駆動トルク及び前記揺動制限手段を制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、該車両制御装置は、前記姿勢制限手段によって前記車体の傾斜角が所定の角度で制限された接地状態、及び、前記駆動トルクによって前記車体の傾斜角が閾(しきい)値未満に維持された倒立状態においては前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を不能にし、前記接地状態及び倒立状態の間の遷移状態においては前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を可能にする。
【0010】
本発明の他の車両においては、さらに、前記搭乗部の揺動中心は、前記搭乗部の搭乗面が水平な状態において、前記搭乗部の重心位置の鉛直上方に位置する。
【0011】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記車体の傾斜角が第1閾値より大きく、かつ、該第1閾値より大きな第2閾値よりも小さい場合には前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を可能にし、その他の場合には前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を不能にする。
【0012】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記遷移状態から接地状態及び倒立状態になってから所定時間が経過するまでは、前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を不能にすることを禁止する。
【0013】
本発明の更に他の車両においては、さらに、操縦者が入力操作可能な解除指令手段を更に有し、前記車両制御装置は、前記解除指令手段から解除指令が入力され、かつ、前記駆動輪の回転角速度の絶対値が所定値以下である場合には、前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を可能にする。
【0014】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記揺動制限手段は電力遮断時に前記搭乗部の揺動を不能にする。
【0015】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記搭乗部を車体と相対的に並進移動させるスライド機構を更に有し、前記車両制御装置は、搭乗者の乗降時に、前記車体における搭乗者が乗降する側に前記搭乗部を並進移動させる。
【0016】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記スライド機構は、前記車体と相対的に並進移動するとともに、前記搭乗部が揺動可能に取り付けられたスライド部を備え、前記搭乗部の揺動中心は前記スライド部に固定される。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の構成によれば、簡素なシステムでありながら、乗降時に搭乗部を水平な状態に保持することができ、快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価な倒立型の車両を提供することができる。
【0018】
請求項2の構成によれば、重力を利用することにより、センサやアクチュエータを用いずに搭乗部を最適な水平状態に収束させることができる。
【0019】
請求項3の構成によれば、車体姿勢制御とは無関係に、実際の車体傾斜角のみに基づいて車体の状態を判断することで、車体姿勢制御の精度に依らず、確実かつ適切に揺動制限手段の制御を実行することができる。
【0020】
請求項4の構成によれば、制動の解除に伴う搭乗部の揺動運動がある程度収束した後に搭乗部の揺動を不能にするので、搭乗部が水平状態から傾斜した状態で固定され、乗り心地や安心感を損ねることを防ぐことができる。
【0021】
請求項5の構成によれば、必要に応じて操縦者の意思で搭乗部の制動を解除して搭乗部の姿勢を再調整するための解除指令手段について、誤った判断又は操作によって走行時に搭乗部の制動解除の指令が入力されても、搭乗部が不要に揺動したり、水平から傾いた状態で再固定されることがなく、乗員の快適性を確実に保障することができる。
【0022】
請求項6の構成によれば、通電時間を短縮してエネルギの浪費を防ぐとともに、非常停止時に搭乗部が揺動することを防止する。
【0023】
請求項7及び8の構成によれば、接地状態における車体の傾斜を利用することにより、搭乗部の並進移動と共に高さを変化させることができ、より快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価な車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施の形態における起立制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態における倒立制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態における着地制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。なお、図1において、(a)は接地状態の姿勢を示す図、(b)は倒立状態の姿勢を示す図である。
【0027】
図において、10は、本実施の形態における車両であり、駆動輪12、支持部13及び搭乗者としての乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1に示される例において、車両10は右方向に前進し、左方向に後退することができる。
【0028】
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の軸は図1に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
【0029】
また、車体の一部である搭乗部14は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。なお、本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗部14に搭乗している例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物が積載されていてもよい。前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、足置き部、座面部、背もたれ部及びヘッドレストを備える。
【0030】
さらに、前記支持部13の下端には、固定式の姿勢制限手段としてのストッパ16が取り付けられている。なお、該ストッパ16は、支持部13に対して固定されている。なお、前記ストッパ16は、乗降時のみ突出して車体姿勢を保持する装置であってもよい。そして、図1(a)に示されるように、倒立制御を停止した接地状態では、前記ストッパ16の少なくとも一部、例えば、前端部が路面に接地することによって車体の姿勢角度を制限し、車体が所定角度以上に傾斜することを防止する。
【0031】
また、前記搭乗部14は取付部14aを備え、該取付部14aは前記支持部13の上端に回転軸14bを介して回転可能に取り付けられる。なお、車両10は、取付部14aと支持部13との回転を停止させる制動手段としての搭乗部ブレーキ61を備える。そして、該搭乗部ブレーキ61は揺動制限手段として機能し、搭乗部ブレーキ61が作動しているときは取付部14aと支持部13との回転が不能となって支持部13に対する搭乗部14の揺動が不能となり、搭乗部ブレーキ61が作動していないときは取付部14aと支持部13との回転が可能となって支持部13に対する搭乗部14の揺動が可能となる。
【0032】
図1(a)に示されるような接地状態及び図1(b)に示されるような倒立状態においては、搭乗部ブレーキ61が作動して車体に対する搭乗部14の揺動が不能となっている。一方、車両10が起立動作を行って接地状態から倒立状態に遷移する時、及び、車両10が着地動作を行って倒立状態から接地状態に遷移する時には、搭乗部ブレーキ61が解除されて作動せず、車体に対する搭乗部14の揺動が可能となる。
【0033】
なお、搭乗部ブレーキ61には、電源遮断時に作動するブレーキ装置、例えば、無励磁作動型の電磁ブレーキを使用する。これにより、通電時間を短縮してエネルギの浪費を防ぐとともに、非常停止時に搭乗部14が揺動することを防止する。
【0034】
また、前記取付部14aは、搭乗部14の揺動中心としての回転軸14bが搭乗部重心位置17よりも上方に位置するように配設される。なお、該搭乗部重心位置17は、搭乗部14のみならず乗員15及びその他搭載物を含む搭乗部14上の全体の質量の重心位置である。そして、図1(b)に示される倒立状態のように、車体が直立した姿勢にあるときは、駆動輪12の接地点を通る鉛直線上に搭乗部重心位置17及び回転軸14bが位置する。
【0035】
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。さらに、入力装置30は、車両システムの実行指令を出力する制御切替スイッチ32、及び、搭乗部ブレーキ61の制動動作の解除指令を出力する解除指令手段としての解除ボタン33を備える。
【0036】
なお、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック31に代えて、コントローラからの走行指令を有線又は無線で受信する受信装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。また、車両10があらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する場合には、前記ジョイスティック31に代えて、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された走行指令データを読み取るデータ読取り装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。
【0037】
降車時における車体の傾斜方向、すなわち、車両10を停車させて乗員15が降車する際に車体を傾斜させる方向である降車方向は、前方又は後方のいずれであってもよいが、本実施の形態における車両10では、前記降車方向が前方であるものとして説明する。そして、降車時に倒立制御を停止すると、車体が前方に傾斜してストッパ16の前端部が路面に接地するので、車体の姿勢が安定し、乗員15は安全に降車することができる。
【0038】
このように、搭乗部14が車体と相対的に回転可能な構造とする。そして、乗員15が搭乗する搭乗部14の搭乗面(座面)が水平である状態において、搭乗部14の重心位置の鉛直上方に相対回転運動の回転軸14bが位置するように搭乗部14と車体を接続する。これにより、重力を利用することにより、センサやアクチュエータを用いずに搭乗部14を最適な水平状態に収束させることができ、快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価な車両10を提供することができる。
【0039】
車両システムは、図2に示されるように、車両制御装置としての制御ECU20(Electronic Control Unit)を有し、該制御ECU20は、主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22を備える。前記制御ECU20並びに主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、車両10の本体部に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
【0040】
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
【0041】
また、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、車体傾斜センサ41及び駆動モータ52とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。また、主制御ECU21は、作動電圧を搭乗部ブレーキ61に供給する。
【0042】
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と傾斜角速度とを決定してもよい。
【0043】
また、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令として、乗員15によるジョイスティック31の操作量が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。また、乗員15が制御切替スイッチ32を操作すると、該制御切替スイッチ32が実行指令を出力し、該実行指令を受信した主制御ECU21は、車両システムの制御を開始する。さらに、乗員15が解除ボタン33を操作すると、該解除ボタン33が解除指令を出力し、該解除指令を受信した主制御ECU21は、車両10が停止している場合に限り、搭乗部ブレーキ61を解除する。
【0044】
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。まず、車両制御処理について説明する。
【0045】
図3は本発明の第1の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0046】
本実施の形態においては、状態量やパラメータを次のような記号によって表す。
S :搭乗部総重量(乗員等を含む)〔kg〕
S :搭乗部の回転中心から重心までの距離〔m〕
S :搭乗部の回転中心周りの慣性モーメント〔kgm2
g:重力加速度〔m/s2
また、各所定値を次のような値とする。
車体傾斜角第1閾値:1度
車体傾斜角第2閾値:接地状態の車体傾斜角より1度小さい角度
駆動輪回転角速度閾値:車両速度1〔km/h〕に相当する駆動輪回転角速度
経過時間閾値:搭乗部揺動運動の固有周期
なお、搭乗部揺動運動の固有周期は、下記のように表される。
【0047】
【数1】

車両制御処理において、主制御ECU21は、まず、制御実行か否かを判断する(ステップS1)。具体的には、制御切替スイッチ32からの実行指令を受信するまで待機し、該実行指令を受信すると、制御実行と判断して制御を開始する。
【0048】
そして、制御を開始すると、主制御ECU21は、起立制御処理を実行する(ステップS2)。この場合、主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。これによって、駆動輪12に駆動トルクが付与され、車体の姿勢が接地状態から倒立状態へ遷移する。
【0049】
続いて、主制御ECU21は、倒立制御処理を実行する(ステップS3)。この場合、主制御ECU21は、車体の倒立姿勢を維持しながら、乗員15の操縦操作に応じた走行状態を実現するように、駆動輪12の駆動トルクを制御する。
【0050】
続いて、主制御ECU21は、制御停止か否かを判断する(ステップS4)。具体的には、制御切替スイッチ32からの実行指令を受信できないと、制御停止と判断する。なお、制御切替スイッチ32からの実行指令を受信できるときは、制御終了でないと判断し、倒立制御処理を繰り返し実行する。
【0051】
そして、制御停止と判断すると、主制御ECU21は、倒立制御処理を停止し、着地制御処理を実行して(ステップS5)、車両制御処理を終了する。着地制御処理においては、駆動トルクを付与するように制御することによって、車体の姿勢を倒立状態から接地状態へ遷移させる。
【0052】
なお、以降においては、起立制御処理、倒立制御処理及び着地制御処理における駆動トルクの制御に関する説明を省略する。
【0053】
次に、本実施の形態における起立制御処理について説明する。
【0054】
図4は本発明の第1の実施の形態における起立制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0055】
起立制御処理において、主制御ECU21は、まず、車体傾斜角が車体傾斜角第2閾値未満であるか否かを判断する(ステップS2−1)。
【0056】
そして、車体傾斜角が車体傾斜角第2閾値未満でない、すなわち、車体傾斜角第2閾値以上である場合、主制御ECU21は、車体が接地状態にあると判断し、ブレーキを実行して(ステップS2−6)、起立制御処理を終了する。つまり、搭乗部ブレーキ61を作動させ、搭乗部14の揺動を不能とする。
【0057】
また、車体傾斜角が車体傾斜角第2閾値未満である場合、主制御ECU21は、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値未満であるか否かを判断する(ステップS2−2)。
【0058】
そして、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値未満でない、すなわち、車体傾斜角第1閾値以上である場合、主制御ECU21は、車体が既に遷移状態にあると判断し、ブレーキを解除して(ステップS2−5)、起立制御処理を終了する。つまり、搭乗部ブレーキ61を解除させ、搭乗部14の揺動を可能とする。
【0059】
また、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値未満である場合、主制御ECU21は、時間をカウントする(ステップS2−3)。これにより、車体傾斜角が所定の車体傾斜角第1閾値未満である経過時間を取得する。なお、本実施の形態においては、時間カウント値に制御周期に相当する所定値を加える。
【0060】
続いて、主制御ECU21は、時間が経過したか否かを判断する(ステップS2−4)。つまり、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値未満である経過時間が所定の経過時間閾値を超過したか否かを判断する。
【0061】
そして、時間が経過した場合、主制御ECU21は、車体が倒立状態に遷移してから所定時間が経過したものと判断し、ブレーキを実行して(ステップS2−6)、起立制御処理を終了する。また、時間が経過してない場合、主制御ECU21は、ブレーキを解除して(ステップS2−5)、起立制御処理を終了する。
【0062】
このように、起立制御処理においては、車体傾斜角と経過時間に応じて、搭乗部ブレーキ61による制動を解除するか、実行するかを決定する。
【0063】
本実施の形態においては、車体の接地状態と倒立状態との間の遷移時に、搭乗部14の制動を解除する。
【0064】
具体的には、車体を接地状態から倒立状態に引き起こす動作である起立動作時に、搭乗部14の制動を解除する。そして、重力の作用によって、接地状態における車体と搭乗部14の大きな相対角を、車体の起立と共に漸減させる。このように、重力を利用することにより、センサやアクチュエータを用いずに搭乗部14を最適な水平状態に収束させることで、快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価な倒立型の車両10を提供することができる。
【0065】
また、車体が倒立状態にあるとき、搭乗部14の制動を実行する。この場合、搭乗部14を車体に固定し、加減速時には搭乗部14を車体と共に傾斜させる。これにより、倒立型の車両10の加減速時における車体の傾斜や慣性力の作用により搭乗部14が揺動することを防ぎ、乗員15の乗り心地や安心感を確保するとともに、車体の姿勢制御への悪影響を防ぐことができる。
【0066】
同様に、車体が接地状態にあるとき、搭乗部14の制動を実行する。この場合、搭乗部14が車体の傾斜角とは無関係な水平状態で、車体に固定される。これにより、乗員15の乗降時に搭乗部14が動いてしまい、乗降時の快適性を損ねることを防ぐことができる。
【0067】
さらに、接地状態と倒立状態の間の遷移状態にあることを、車体傾斜角の閾値で判断する。具体的には、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値よりも大きく、かつ、車体傾斜角第2閾値よりも小さい場合に相当する解除条件を満たす場合に、車体が遷移状態にあると判断して、搭乗部14の制動を解除する。このように、車体姿勢制御とは無関係に、実際の車体傾斜角のみに基づいて車体の状態を判断することで、起立制御の精度に依らず、確実かつ適切に搭乗部ブレーキ61の制御を実行することができる。
【0068】
さらに、接地状態と倒立状態の間の遷移が完了してから所定時間、制動の実行を禁止する。具体的には、起立制御において、車体が倒立状態に達してから所定時間経過後に、搭乗部14の制動を実行する。このように、制動の解除に伴う搭乗部14の揺動運動がある程度収束した後に搭乗部14を制動することで、搭乗部14が水平状態から傾斜した状態で固定され、乗り心地や安心感を損ねることを防ぐことができる。
【0069】
次に、本実施の形態における倒立制御処理について説明する。
【0070】
図5は本発明の第1の実施の形態における倒立制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0071】
倒立制御処理において、主制御ECU21は、まず、解除指令があるか否かを判断する(ステップS3−1)。具体的には、解除ボタン33が出力した解除指令を受信したか否かを判断する。そして、解除指令を受信していない場合、主制御ECU21は、乗員15が搭乗部ブレーキ61による制動の解除を指令していないと判断し、ブレーキを実行して(ステップS3−4)、起立制御処理を終了する。つまり、搭乗部ブレーキ61を作動させ、搭乗部14の揺動を不能とする。
【0072】
また、解除指令を受信した場合、主制御ECU21は、車両停止か否かを判断する(ステップS3−2)。具体的には、駆動輪回転角速度が所定の駆動輪回転角速度閾値以下であるか否かを判断する。そして、駆動輪回転角速度が所定の駆動輪回転角速度閾値を超過している場合、主制御ECU21は、車両10が停止状態にないと判断し、ブレーキを実行して(ステップS3−4)、起立制御処理を終了する。
【0073】
一方、駆動輪回転角速度が所定の駆動輪回転角速度閾値以下である場合、主制御ECU21は、車両10が停止状態にあると判断し、ブレーキを解除して(ステップS3−3)、起立制御処理を終了する。つまり、搭乗部ブレーキ61を解除させ、搭乗部14の揺動を可能とする。
【0074】
このように、倒立制御処理においては、乗員15がブレーキ解除を指令し、かつ、車両10が停止している場合に限り、搭乗部ブレーキ61を解除する。
【0075】
本実施の形態において、倒立制御処理の実行中は、乗員15の制動解除指令に応じて、搭乗部14の制動を解除する。つまり、乗員15による解除ボタン33の操作に伴う解除指令信号を主制御ECU21が受信した場合に、搭乗部14の制動を解除する。このように、乗員15が自身の意思で制動を解除できる手段を備えることで、仮に搭乗部14が水平から傾いた状態で固定され、それを乗員15が不快に感じた場合でも、その状態を乗員15自身によって解消できる。
【0076】
また、駆動輪回転角速度の絶対値が所定の駆動輪回転角速度閾値よりも大きい場合には、解除ボタン33の操作による制動の解除を禁止し、搭乗部14の制動を続行する。これにより、乗員15の誤った判断又は操作によって走行時に搭乗部14の制動が解除されることで、搭乗部14の揺動や水平から傾いた状態で搭乗部14が再固定されることを防ぐことができるので、乗員15の快適性を確実に保障することができる。
【0077】
次に、本実施の形態における着地制御処理について説明する。
【0078】
図6は本発明の第1の実施の形態における着地制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0079】
着地制御処理において、主制御ECU21は、まず、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値超過であるか否かを判断する(ステップS5−1)。
【0080】
そして、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値超過でない、すなわち、車体傾斜角第1閾値以下である場合、主制御ECU21は、車体が倒立状態にあると判断し、ブレーキを実行して(ステップS5−6)、着地制御処理を終了する。つまり、搭乗部ブレーキ61を作動させ、搭乗部14の揺動を不能とする。
【0081】
また、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値超過である場合、主制御ECU21は、車体傾斜角が車体傾斜角第2閾値超過であるか否かを判断する(ステップS5−2)。
【0082】
そして、車体傾斜角が車体傾斜角第2閾値超過でない、すなわち、車体傾斜角第2閾値以下である場合、主制御ECU21は、車体が既に遷移状態にあると判断し、ブレーキを解除して(ステップS5−5)、着地制御処理を終了する。つまり、搭乗部ブレーキ61を解除させ、搭乗部14の揺動を可能とする。
【0083】
また、車体傾斜角が車体傾斜角第2閾値超過である場合、主制御ECU21は、時間をカウントする(ステップS5−3)。これにより、車体傾斜角が所定の車体傾斜角第2閾値超過である経過時間を取得する。なお、本実施の形態においては、時間カウント値に制御周期に相当する所定値を加える。
【0084】
続いて、主制御ECU21は、時間が経過したか否かを判断する(ステップS5−4)。つまり、車体傾斜角が車体傾斜角第2閾値超過である経過時間が所定の経過時間閾値を超過したか否かを判断する。
【0085】
そして、時間が経過した場合、主制御ECU21は、車体が接地状態に遷移してから所定時間が経過したものと判断し、ブレーキを実行して(ステップS2−6)、着地制御処理を終了する。また、時間が経過してない場合、主制御ECU21は、ブレーキを解除して(ステップS5−5)、着地制御処理を終了する。
【0086】
このように、着地制御処理においては、車体傾斜角と経過時間に応じて、搭乗部ブレーキ61による制動を解除するか、実行するかを決定する。
【0087】
本実施の形態においては、車体の接地状態と倒立状態との間の遷移時に、搭乗部14の制動を解除する。
【0088】
具体的には、車体を倒立状態から接地状態まで傾斜させる動作である着地動作時に、搭乗部14の制動を解除する。そして、重力の作用によって、倒立状態では零である車体と搭乗部14の相対角を、車体の傾斜と共に漸増させる。このように、重力を利用することにより、センサやアクチュエータを用いずに搭乗部14を最適な水平状態に収束させることで、快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価な倒立型の車両10を提供することができる。
【0089】
また、車体が倒立状態にあるとき、搭乗部14の制動を実行する。この場合、搭乗部14を車体に固定し、加減速時には搭乗部14を車体と共に傾斜させる。これにより、倒立型の車両10の加減速時における車体の傾斜や慣性力の作用により搭乗部14が揺動することを防ぎ、乗員15の乗り心地や安心感を確保するとともに、車体の姿勢制御への悪影響を防ぐことができる。
【0090】
同様に、車体が接地状態にあるとき、搭乗部14の制動を実行する。この場合、搭乗部14が車体の傾斜角とは無関係な水平状態で、車体に固定される。これにより、乗員15の乗降時に搭乗部14が動いてしまい、乗降時の快適性を損ねることを防ぐことができる。
【0091】
さらに、接地状態と倒立状態の間の遷移状態にあることを、車体傾斜角の閾値で判断する。具体的には、車体傾斜角が車体傾斜角第1閾値よりも大きく、かつ、車体傾斜角第2閾値よりも小さい場合に相当する解除条件を満たす場合に、車体が遷移状態にあると判断して、搭乗部14の制動を解除する。このように、車体姿勢制御とは無関係に、実際の車体傾斜角のみに基づいて車体の状態を判断することで、着地制御の精度に依らず、確実かつ適切に搭乗部ブレーキ61の制御を実行することができる。
【0092】
さらに、接地状態と倒立状態の間の遷移が完了してから所定時間、制動の実行を禁止する。具体的には、起立制御において、車体が倒立状態に達してから所定時間経過後に、搭乗部14の制動を実行する。このように、制動の解除に伴う搭乗部14の揺動運動がある程度収束した後に搭乗部14を制動することで、搭乗部14が水平状態から傾斜した状態で固定され、乗り心地や安心感を損ねることを防ぐことができる。
【0093】
なお、本実施の形態においては、標準的な体重、体型及び搭乗姿勢の乗員15を想定し、該乗員15が搭乗したときの搭乗部14の姿勢が水平になるように回転軸14bの位置をあらかじめ設定しているが、そのような力学的パラメータの標準値に対する偏差を考慮してもよい。例えば、搭乗部14に荷重分布センサ、能動重量及び能動重量移動手段を備え、起立制御の開始前に、荷重分布センサによって乗員15の体重と重心位置を取得し、その取得値に基づいて、水平な搭乗部14の重心位置が回転軸13の鉛直下方に位置するように、能動重量移動手段によって能動重量を適切な位置に移動させ、その後に起立制御を開始してもよい。これにより、あらゆる乗員15に対して、快適な乗降を可能とする倒立型の車両10を提供できる。
【0094】
このように、本実施の形態において、車両10は、車体の傾斜運動を所定の傾斜角で制限するストッパ16と、車体と相対的に回転可能な搭乗部14と、相対回転運動を制動する搭乗部ブレーキ61を有し、ストッパ16によって所定の傾斜角で制限された状態である接地状態と、駆動トルクによって傾斜角が所定値未満で維持されるように制御された状態である倒立状態との間の遷移時に、搭乗部ブレーキ61による制動を解除する。
【0095】
また、乗員15が搭乗する搭乗部14の搭乗面が水平である状態において、搭乗部14の重心位置の鉛直上方に相対回転運動の回転軸14bが位置する。
【0096】
さらに、車体が倒立状態及び/又は接地状態にあるときには、搭乗部ブレーキ61による制動を実行する。具体的には、車体の傾斜角が所定の車体傾斜角第1閾値よりも大きく、かつ、所定の車体傾斜角第2閾値よりも小さい条件である解除条件を満たす場合に制動を解除し、それ以外の場合に制動を実行する。また、倒立状態及び/又は接地状態に遷移完了してから所定時間、制動の実行を禁止する。
【0097】
さらに、乗員15が入力操作可能な解除ボタン33を備え、該解除ボタン33が入力状態にあり、かつ、駆動輪回転角速度の絶対値が所定の閾値以下である場合に、制動を解除する。
【0098】
さらに、搭乗部ブレーキ61は、電力遮断時に制動力を発生する。
【0099】
これにより、簡素なシステムでありながら、乗降時に搭乗部14を水平な状態に保持することができ、快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価な倒立型の車両10を提供することができる。
【0100】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0101】
図7は本発明の第2の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図8は本発明の第2の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。なお、図7において、(a)は接地状態の姿勢を示す図、(b)は接地状態においてスライド部をスライドさせた状態を示す図、(c)は倒立状態の姿勢を示す図である。
【0102】
前記第1の実施の形態においては、乗降時に搭乗部14が水平であっても、その位置が高いと、乗員15は満足できない可能性がある。つまり、搭乗部14が高すぎると、乗員15は搭乗部14への飛び乗りや搭乗部14からの飛び降りを強いられる。しかし、走行時における乗員15の視線の高さを考慮すると、搭乗部14の高さを過剰に低減することはできない。したがって、乗降時のみ、搭乗部14の高さを低減できるシステムが望ましい。
【0103】
そこで、本実施の形態においては、搭乗部14を車体と相対的に並進移動させるスライド機構を備え、乗員15の乗降時に、乗降する側の方向に搭乗部14を並進移動させる。この場合、スライド機構によって、搭乗部14の回転中心を並進移動させる。また、車体と相対的に並進移動するスライド部18を備え、搭乗部14の回転軸14bはスライド部18に固定される。これにより、乗降時にのみ、搭乗部14の高さを下げることが可能となり、より快適な乗降が可能な倒立型の車両10を提供することができる。
【0104】
図8に示されるように、本実施の形態における車両10は、支持部13の上端に固定された基部11と、該基部11にスライド機構を介してスライド可能に取り付けられたスライド部18とを有する。なお、該スライド部18は、その上面から上方に延出する支持柱部18aを備える。また、本実施の形態において、支持部13は、前記第1の実施の形態よりも短く形成されている。
【0105】
前記スライド部18は、車両10の前後方向に基部11に対して相対的に並進可能となるように、換言すると、車体回転円の接線方向に相対的に移動可能となるように、取り付けられている。また、前記スライド機構は、リニアガイド装置等の低抵抗の直線移動機構、及び、スライドアクチュエータとしてのスライダモータ72を備え、該スライダモータ72によってスライド部18を駆動し、基部11に対して進行方向に前後させるようになっている。なお、スライドアクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、リニアモータ等を使用することもできるが、ここでは、回転式の電気モータであるスライダモータ72を使用するものとして説明する。
【0106】
また、前記支持柱部18aは、スライド部18の本体に固定された柱状の部材であり、その長軸は支持部13の長軸と平行である。そして、前記支持柱部18aの上端には、回転軸14bを介して、搭乗部14の取付部14aが回転可能に取り付けられる。そして、搭乗部ブレーキ61は、取付部14aと支持柱部18aとの回転を停止させ、搭乗部ブレーキ61が作動しているときは取付部14aと支持柱部18aとの回転が不能となって車体に対する搭乗部14の揺動が不能となり、搭乗部ブレーキ61が作動していないときは取付部14aと支持柱部18aとの回転が可能となって車体に対する搭乗部14の揺動が可能となる。
【0107】
本実施の形態における車両システムは、図8に示されるように、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、スライダモータ72を制御するスライダ制御ECU23と、エンコーダ等から成り、スライド部18の移動状態を示すスライド部位置及び/又は移動速度を検出して主制御ECU21に送信するスライダセンサ71とを有する。そして、主制御ECU21は、スライダ制御ECU23、スライダセンサ71及びスライダモータ72とともに、スライド部18の動作を制御するスライダ制御システム70の一部として機能する。前記主制御ECU21は、スライダトルク指令値をスライダ制御ECU23に送信し、該スライダ制御ECU23は、受信したスライダトルク指令値に相当する入力電圧をスライダモータ72に供給する。
【0108】
図7(a)に示されるような接地状態においては、車体が前傾してストッパ16が路面に接地し、かつ、スライド部18がスライド可能範囲の前端であって基部11の前端近傍に位置する。これにより、搭乗部14の高さが低く、乗員15の乗降が容易になっている。なお、搭乗部ブレーキ61が作動して搭乗部14の揺動が不能となっている。
【0109】
また、図7(c)に示されるような倒立状態においては、車体が直立してストッパ16が路面から離間し、かつ、スライド部18がスライド可能範囲の中間であって基部11の中間に位置する。この場合、駆動輪12の接地点を通る鉛直線上に搭乗部重心位置17及び回転軸14bが位置する。なお、搭乗部ブレーキ61が作動して搭乗部14の揺動が不能となっている。
【0110】
さらに、図7(b)に示される状態は、車体が前傾してストッパ16が路面に接地している接地状態であるが、スライド部18が後方にスライドしてスライド可能範囲の後端であって基部11の後端近傍に位置している。この場合、駆動輪12の接地点を通る鉛直線上に搭乗部重心位置17及び回転軸14bが位置する。これにより、搭乗部14の高さが高くなっている。なお、搭乗部ブレーキ61が作動して搭乗部14の揺動が不能となっている。
【0111】
そして、図7(a)に示される状態と図7(b)に示される状態との間においては、スライド部18が基部11に沿ってスライドする。なお、搭乗部ブレーキ61が作動して搭乗部14の揺動が不能となっている。
【0112】
また、図7(b)に示される状態と図7(c)に示される状態との間においても、スライド部18が基部11に沿ってスライドするが、搭乗部ブレーキ61が解除され、搭乗部14の揺動が可能となっている。
【0113】
このように、本実施の形態においては、車体と相対的に並進移動可能な構造を有する。具体的には、スライド機構によって車体と相対的に並進移動するスライド部18が配設され、該スライド部18の支持柱部18aに具備された回転軸14bを中心に、スライド部18と相対回転可能な状態で搭乗部14が接続される。そして、接地状態における車体の傾斜を利用することにより、搭乗部14の並進移動と共に高さを変化させることで、より快適な乗降が可能で、小型、軽量、かつ、安価な車両10を提供することができる。
【0114】
なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0115】
次に、本実施の形態における車両制御処理について説明する。
【0116】
図9は本発明の第2の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0117】
車両制御処理において、主制御ECU21は、まず、制御実行か否かを判断する(ステップS11)。具体的には、制御切替スイッチ32からの実行指令を受信するまで待機し、該実行指令を受信すると、制御実行と判断して制御を開始する。
【0118】
そして、制御を開始すると、主制御ECU21は、起立前制御処理を実行する(ステップS12)。この場合、主制御ECU21は、スライダトルク指令値をスライダ制御ECU23に送信し、該スライダ制御ECU23は、受信したスライダトルク指令値に相当する入力電圧をスライダモータ72に供給する。これによって、スライド部18にスライダトルクが付与され、図7(b)に示されるように、搭乗部重心位置17が駆動輪12の接地点の鉛直上方に位置するまで、搭乗部14が移動する。
【0119】
続いて、主制御ECU21は、起立制御処理を実行する(ステップS13)。この場合、主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信するとともに、スライダトルク指令値をスライダ制御ECU23に送信する。すると、駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給し、スライダ制御ECU23は、受信したスライダトルク指令値に相当する入力電圧をスライダモータ72に供給する。これによって、駆動輪12に駆動トルクが付与されるとともに、スライド部18にスライダトルクが付与され、車体の姿勢が図7(b)に示されるような接地状態から、図7(c)に示されるような倒立状態へ遷移する。
【0120】
続いて、主制御ECU21は、倒立制御処理を実行する(ステップS14)。この場合、主制御ECU21は、車体の倒立姿勢を維持しながら、乗員15の操縦操作に応じた走行状態を実現するように、駆動輪12の駆動トルクを制御する。
【0121】
続いて、主制御ECU21は、制御停止か否かを判断する(ステップS15)。具体的には、制御切替スイッチ32からの実行指令を受信できないと、制御停止と判断する。なお、制御切替スイッチ32からの実行指令を受信できるときは、制御終了でないと判断し、倒立制御処理を繰り返し実行する。
【0122】
そして、制御停止と判断すると、主制御ECU21は、倒立制御処理を停止し、着地制御処理を実行する(ステップS16)。着地制御処理においては、駆動トルク及びスライダトルクを付与するように制御することによって、車体の姿勢を図7(c)に示されるような倒立状態から図7(b)に示されるような接地状態へ遷移させる。
【0123】
続いて、主制御ECU21は、着地後制御処理を実行して(ステップS17)、車両制御処理を終了する。着地後制御処理においては、スライダトルクを付与するように制御することによって、搭乗部14を移動させる。この場合、図7(a)に示されるように、搭乗部14の高さが十分に低くなる位置にまで、搭乗部14を移動させる。
【0124】
このように、車体の起立動作前及び着地動作後に、搭乗部14を適切な位置まで移動させる。つまり、起立前制御として、搭乗部14の相対回転運動が制動された状態で、搭乗部14の重心が駆動輪12の接地点の鉛直上方に位置するまで、搭乗部14を車両後方に並進移動させる。これにより、車体を引き起こす駆動トルクを小さくすることができ、車体の起立に伴う車両10の前方移動量を低減できる。
【0125】
また、着地後制御として、搭乗部14の相対回転運動が制動された状態で、搭乗部14の高さが十分に低くなるまで、搭乗部14を車両前方に並進移動させる。これにより、その後の降車、及び、次回の乗車を、より快適なものとすることができる。
【0126】
なお、本実施の形態においては、スライド機構を起立前制御と着地後制御だけでなく、倒立制御、起立制御、着地制御等の車体の姿勢制御にも利用しているが、起立前制御と着地後制御だけにスライド機構を用いてもよい。例えば、起立前制御として、車体の倒立時に目標位置となる搭乗部14の位置である基準位置までしか搭乗部14を移動させず、その後、搭乗部14に備えるブレーキによって搭乗部14の位置を固定してもよい。また、着地制御後に基準位置で固定されていた搭乗部14のブレーキを解除した後に、着地後制御として、搭乗部14を基準位置から前方に移動させてもよい。
【0127】
このように、本実施の形態においては、搭乗部14を車体と相対的に並進移動させるスライド機構を備え、乗員15の乗降時に、乗降する側の方向に搭乗部14を並進移動させる。具体的には、スライド機構によって、搭乗部14の回転中心を並進移動させる。また、車体と相対的に並進移動するスライド部18を備え、搭乗部14の回転軸14bはスライド部18に固定される。
【0128】
これにより、乗降時にのみ、搭乗部14の高さを下げることが可能となり、より快適な乗降が可能な倒立型の車両10を提供することができる。
【0129】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0131】
10 車両
12 駆動輪
14 搭乗部
14b 回転軸
16 ストッパ
18 スライド部
20 制御ECU
33 解除ボタン
61 搭乗部ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、
前記車体に固定され、車体の傾斜角を制限する姿勢制限手段と、
前記車体に揺動可能に取り付けられた搭乗部と、
該搭乗部の揺動を可能又は不能にする揺動制限手段と、
前記駆動輪に与える駆動トルク及び前記揺動制限手段を制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、
該車両制御装置は、
前記姿勢制限手段によって前記車体の傾斜角が所定の角度で制限された接地状態、及び、前記駆動トルクによって前記車体の傾斜角が閾値未満に維持された倒立状態においては前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を不能にし、
前記接地状態及び倒立状態の間の遷移状態においては前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を可能にすることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記搭乗部の揺動中心は、前記搭乗部の搭乗面が水平な状態において、前記搭乗部の重心位置の鉛直上方に位置する請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記車両制御装置は、前記車体の傾斜角が第1閾値より大きく、かつ、該第1閾値より大きな第2閾値よりも小さい場合には前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を可能にし、その他の場合には前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を不能にする請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記車両制御装置は、前記遷移状態から接地状態及び倒立状態になってから所定時間が経過するまでは、前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を不能にすることを禁止する請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項5】
操縦者が入力操作可能な解除指令手段を更に有し、
前記車両制御装置は、前記解除指令手段から解除指令が入力され、かつ、前記駆動輪の回転角速度の絶対値が所定値以下である場合には、前記揺動制限手段によって前記搭乗部の揺動を可能にする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項6】
前記揺動制限手段は電力遮断時に前記搭乗部の揺動を不能にする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
前記搭乗部を車体と相対的に並進移動させるスライド機構を更に有し、
前記車両制御装置は、搭乗者の乗降時に、前記車体における搭乗者が乗降する側に前記搭乗部を並進移動させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両。
【請求項8】
前記スライド機構は、前記車体と相対的に並進移動するとともに、前記搭乗部が揺動可能に取り付けられたスライド部を備え、前記搭乗部の揺動中心は前記スライド部に固定される請求項7に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−241399(P2010−241399A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95712(P2009−95712)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】