説明

車体パネル構造

【課題】部品点数の増加や生産性の低下を招くことなく、形状急変部に作用した荷重による大きな応力の発生を抑制可能な車体パネル構造を得る。
【解決手段】センターピラーインナー16には、開口18が形成されて断面急変部42が生じている。断面急変部42の上側部分44及び下側部分46での補強ビード32の立上り面36の屈曲高さH1に対し、断面急変部42では屈曲高さH1よりも高い屈曲高さH2の高さ最大部36Aが構成される。さらに、高さ最大部36Aの上側及び下側に、立上り面36の屈曲高さHが、高さ最大部36Aから漸減された高さ漸減部36B、36Cが構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体パネル構造、すなわち、自動車等の車体を構成するパネルの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のピラー等を構成する車体パネルには、補強のための各種の構造が採用されることがある。たとえば、特許文献1には、ピラーの上端と下端の間に設定された強度変化点の上方の強度を下方の強度よりも高くした構造や、ピラーの断面係数をピラーの上端から下端に向かって漸減させた構造が開示されている。
【0003】
ところで、ピラー等には、断面形状が急変する部分(以下「断面急変部」という)が生じてしまうことがあるため、この部分に荷重が作用すると、作用する応力も大きくなる。このように大きな応力が局所的に発生することを抑制するためには、たとえば、補強部材を取り付けることが考えられるが、部品点数が増加(車体重量の増加)し、生産性も低下する。
【特許文献1】特開2001−225563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、部品点数の増加や生産性の低下を招くことなく、形状急変部に作用した荷重による大きな応力の発生を抑制可能な車体パネル構造を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明では、車体を構成する車体パネルと、前記車体パネルを屈曲させることで形成され、車体パネルの断面形状が急変する断面急変部では屈曲高さが高くなり、断面急変部から離間するにしたがって屈曲高さが漸減する屈曲部と、を有する。
【0006】
この車体パネルに形成された屈曲部は、その屈曲高さが、断面急変部で高くなっている。断面急変部に作用した荷重によって、車体パネルには引っ張り力が作用することがあるが、断面急変部近傍では屈曲高さが高くなっているので、断面急変部での応力集中、すなわち、断面急変部での大きな応力の発生を抑制できる。
【0007】
しかも、屈曲部の屈曲高さは、断面急変部から離間するにしたがって漸減している。したがって、上記した引っ張り荷重に対し、この引っ張り荷重の方向に追従して車体パネルが変形しやすくなり、応力を分散させることができる。
【0008】
そして、本発明では、断面急変部での大きな応力の発生を抑制するために、補強部材を取り付ける必要がない。このため、部品点数の増加や生産性の低下を招くこともない。
【0009】
なお、屈曲部の屈曲高さが「高い」とは、断面急変部から離れた部位での屈曲部の屈曲高さと比較して高いことをいう。
【0010】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記車体パネルに、この車体パネルを板厚方向に貫通する貫通孔が形成され、前記貫通孔によって生じる前記断面急変部に、前記屈曲部の屈曲高さが高い部位が設けられている。
【0011】
したがって、この貫通孔内に他の部材等を配設することが可能になるが、貫通孔によって、車体パネルには断面急変部が生じる。本発明では、断面急変部に、屈曲部の屈曲高さが高い部位が設けられているので、貫通孔近傍の車体パネルに発生する大きな応力を抑制できる
【0012】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、前記車体パネルに、車両のピラーを構成すると共に前記貫通孔が貫通されたピラー構成部が形成され、前記屈曲部が、前記ピラー構成部の長手方向に沿って形成されている。
【0013】
したがって、ピラーに形成された貫通孔に他の部材を配設することが可能になる。そして、屈曲部がピラー構成部の長手方向に沿って形成されているので、応力をピラー構成部の長手方向に分散させることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記構成としたので、部品点数の増加や生産性の低下を招くことなく、形状急変部に作用した荷重による大きな応力の発生を抑制可能な車体パネルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1には、本発明の一実施形態に係るサイドメンバーアウターパネル14が示されている。このサイドメンバーアウターパネル14は、車体の側部を構成するパネルである。以下、図面において、図面において車両前方を矢印FRで、上方を矢印UPで、車幅方向内側を矢印INで、車幅方向外側を矢印OUTでそれぞれ示す。
【0016】
サイドメンバーアウターパネル14には、車両前後方向の略中央位置に、上下方向に延在するピラー構成部14Pが形成されている。図3及び図4に示すように、ピラー構成部14Pの車幅方向内側には、センターピラーアウターリインフォースメント24、センターピラーインナー16が、車幅方向内側へ向かって順に配設されている。後述するように、このセンターピラーインナー16に、本発明の車体パネル構造12が適用されている。
【0017】
ピラー構成部14Pと、センターピラーアウターリインフォースメント24はいずれも、車両前後方向の中央部分が、車幅方向外側に向かって凸となるように形成されており、これらピラー構成部14P及びセンターピラーアウターリインフォースメント24と、センターピラーインナー16によって、全体として所定形状のセンターピラー30が構成されている。
【0018】
図2にも示すように、センターピラーインナー16の下部には、センターピラーインナー16を板厚方向(車幅方向)に貫通する開口18が形成されている。開口18には、車両のシートベルト(図示省略)を巻き取るためのリトラクタ20が配設されており、リトラクタ20は、上下一対の取付具22によってセンターピラーインナー16に取り付けられている。
【0019】
また、図4に示すように、開口18が形成された部分よりも上方の所定位置では、センターピラーアウターリインフォースメント24の車幅方向内側に、センターピラーヒンジリインフォースメント28が配置されている。
【0020】
図5に示すように、センターピラーインナー16には、上下方向、すなわちセンターピラー30の長手方向に沿って補強ビード32が形成されている。特に本実施形態では、センターピラー30の開口18の車両前方側と車両後方側にそれぞれ1本ずつ、合計で2本の補強ビード32が形成されている。なお、以下では説明の便宜上、センターピラーインナー16のうち、補強ビード32以外の部分を一般面34ということとする。
【0021】
補強ビード32のそれぞれは、センターピラーインナー16を局所的に車幅方向内側へと屈曲させることで形成されており、開口18側に位置する立上り面36と、開口18の反対側に位置する立上り面38、さらに、これら立上り面36、38の間の中間連続面40を有する略ハット状の断面形状とされている。この補強ビード32(より具体的には、立上り面36)が、本発明における屈曲部となっている。
【0022】
センターピラーインナー16には、開口18が形成されているため、上下方向と直交する断面を考えたときに、この断面形状が急変する断面急変部42が生じている。すなわち、開口18よりも上側の部分(開口18が形成されていない部分、以下では上側部分44という)では、センターピラーインナー16の断面形状は略一定であり、また、開口18の側辺18Sに対応した部分(以下では下側部分46という)でも、センターピラーインナー16の断面形状は略一定である。しかし、開口18の上辺18Uの近傍部分は、センターピラーインナー16の断面形状が急激に変化している。
【0023】
ここで、本実施形態では、上側部分44及び下側部分46に対応した部位では、補強ビード32の立上り面36の屈曲高さHを、所定の屈曲高さH1に設定している。この立上り面36の屈曲高さHとは、一般面34から補強ビード32の中間連続面40までの高さを、一般面34の法線方向に測った長さをいう。
【0024】
これに対し、断面急変部42に対応した部位においては、補強ビード32の立上り面36の屈曲高さHを、上側部分44あるいは下側部分46よりも高い屈曲高さH2としており(H2>H1)、高さ最大部36Aを構成している。さらに、高さ最大部36Aの上側には、立上り面36の屈曲高さHが、高さ最大部36Aから上方にいくに従って漸減された高さ漸減部36Bが形成され、高さ最大部36Aの下側にも、下方にいくに従って屈曲高さHが漸減された高さ漸減部36Cが構成されている。すなわち、補強ビード32の立上り面36の屈曲高さHは、断面急変部42から離間するに従って漸減されている。そしてこれらにより、センターピラー30の構造(センターピラー構造)に対し、本実施形態の車体パネル構造12が構成されている。
【0025】
なお、図5では、開口18よりも車両前方側の補強ビード32のみを示しているが、車両後方側の補強ビード32にも、同様に高さ最大部36A及び高さ漸減部36B、36Cが形成されている。また、図5では、開口18の上辺18Uの近傍に生じた断面急変部42に対応して高さ最大部36A及び高さ漸減部36B、36Cが形成されているが、開口18の下辺18L(図2参照)の近傍にも同様の断面急変部が生じている場合には、これに対応した高さ最大部36A及び高さ漸減部36B、36Cが補強ビード32に形成されていてもよい。
【0026】
次に、本実施形態の車体パネル構造12が適用されたサイドメンバーアウターパネル14の作用を説明する。
【0027】
センターピラー30の下部に対し、図6に矢印F1で示すように、車幅方向外側から内側へ向かう荷重F1が作用した場合を考える。このとき、破線で示すように、センターピラー30の下部が車幅方向内側に湾曲するように変形することが想定される。そして、センターピラーインナー16には、この変形により、図5に示す上下方向の引張荷重F2が作用する。
【0028】
ここで、図7には比較例として、本実施形態のような高さ最大部36Aや高さ漸減部36Bが形成されておらず、立上り面36の屈曲高さHが略一定とされた補強ビード32を有するセンターピラーインナー50が部分的に示されている。この比較例では、断面急変部42に対応した部位に局所的に大きな応力が作用することになる。この応力によるセンターピラーインナー16の破断等を防止するためには補強部材等を取り付ける必要があるが、補強部材により部品点数が増加する。また、補強部材の取り付け作業によって、生産性も低下する。
【0029】
これに対し、本実施形態では、断面急変部42に対応した部位に高さ最大部36Aを構成し、補強ビード32の立上り面36の屈曲高さHを、上側部分44や下側部分46よりも高くしている。加えて、本実施形態では、高さ最大部36Aの上方及び下方に高さ漸減部36B、36Cを構成し、立上り面36の屈曲高さH1を上方及び下方にいくに従って漸減させている。したがって、本実施形態では、断面急変部42およびその近傍において、実質的に断面高さが高くなっており、断面急変部42での応力を低減することができる。また、センターピラーインナー16の下端が、矢印F2方向、すなわち引張荷重の方向に変形しやすくなっているので、この変形によって、断面急変部42の応力を分散させることができる。
【0030】
このようにして、本実施形態では、断面急変部42に、補強部材等を取り付けることなく、車幅方向外側からの荷重F1が作用したときの応力を低減あるいは分散させることができ、さらには、センターピラーインナー16の破断等を抑制することもできる。補強部材等が不要なので、部品点数が増加することはない。補強部材等を取り付ける手間もかからないので、生産性の低下も招かない。
【0031】
なお、上記では、断面急変部が、開口18が形成されたことによって生じるものを例に挙げたが、断面急変部は、このようなものに限定されない。たとえば、板材に開口が形成されていなくても、板材の幅が急激に変化していると、断面形状も急激に変化することになり、本発明に係る断面急変部となる。このような場合に、本発明を適用することができる。
【0032】
また、断面急変部における断面形状の急変の程度も特に限定されるものではないが、外部から荷重が作用した場合に、断面形状の変化に起因して局所的に大きな応力が発生することが予想される部位は、断面急変部に該当する。
【0033】
高さ最大部36Aの屈曲高さHの具体的数値(特に上側部分44及び下側部分46に対応した部位での高さとの差)も特に限定されるものではないが、屈曲高さHを高くするほど、応力を低減させる効果は高くなる。したがって、高さ最大部36Aの周辺の部材との関係等も考慮して、この屈曲高さHを設定すればよい。高さ漸減部36B、36Cにおける、屈曲高さHが漸減する程度も特に限定されるものではない。
【0034】
さらに、上記では、本発明の車体パネル構造が適用された車体パネルとして、センターピラーインナー16を挙げたが、これに限定されない。ただし、センターピラーインナー壱拾六では、その下部に側突等によって大きな荷重が作用することが想定される。また、センターピラーインナー16の下部には、リトラクタの配設用等に開口が形成されることで断面急変部42が生じていることが多い。したがって、センターピラーインナー16に本発明を適用することが好ましい。
【0035】
このようなピラー構造以外にも、たとえば、車体を構成するロッカ等の部材(車体骨格部材)のパネルに、本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係るサイドメンバーアウターパネルの全体構成を概略的に示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態の車体パネル構造が適用されたセンターピラーインナーを開口の近傍で拡大して示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るセンターピラーを図1のIII−III線に対応する断面で示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るセンターピラーを図1のIV−IV線に対応する断面で示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態の車体パネル構造が適用されたセンターピラーインナーを開口の近傍で拡大して示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るセンターピラーを図1のVI−VI線に対応する断面で示す断面図である。
【図7】比較例のセンターピラーインナーを開口の近傍で拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
12 車体パネル構造
14 サイドメンバーアウターパネル
14P ピラー構成部
16 センターピラーインナー(車体パネル)
18 開口(貫通孔)
20 リトラクタ
22 取付具
24 センターピラーアウターリインフォースメント
28 センターピラーヒンジリインフォースメント
30 センターピラー
32 補強ビード
34 一般面
36 立上り面(屈曲部)
38 立上り面
36A 高さ最大部
36B、36C 高さ漸減部
42 断面急変部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を構成する車体パネルと、
前記車体パネルを屈曲させることで形成され、車体パネルの断面形状が急変する断面急変部では屈曲高さが高くなり、断面急変部から離間するにしたがって屈曲高さが漸減する屈曲部と、
を有する車体パネル構造。
【請求項2】
前記車体パネルに、この車体パネルを板厚方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記貫通孔によって生じる前記断面急変部に、前記屈曲部の屈曲高さが高い部位が設けられている請求項1に記載の車体パネル構造。
【請求項3】
前記車体パネルに、車両のピラーを構成すると共に前記貫通孔が貫通されたピラー構成部が形成され、
前記屈曲部が、前記ピラー構成部の長手方向に沿って形成されている請求項2に記載の車体パネル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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