説明

車体上部構造

【課題】フロントウィンドウ、リヤウィンドウに作用する低周波数領域の振動を効果的に減衰させる。
【解決手段】本発明の車体上部構造は、略四辺形状のフロントウィンドウ10F(リヤウィンドウ10R)と、フロントウィンドウ10F(リヤウィンドウ10R)が固定される枠部を含むボディシェルと、フロントウィンドウ10Fまたはリヤウィンドウ10Rの周縁部の所定領域を前記枠部21a、22、27、25、26に対して接着する接着剤12aとを備える。とくに、接着剤12aは、温度20℃におけるヤング率が50MPa以上かつ500MPa以下であり、損失係数が0.1以上かつ0.5以下の特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントウィンドウ、リヤウィンドウの周縁部がボディシェルに対して接着剤により接着固定された車体上部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントウィンドウ、リヤウィンドウの周縁部がボディシェルに対して接着剤により接着固定された車体上部構造が知られている。たとえば、フロントウィンドウは、その側辺部が一対のフロントピラーに接着固定され、その上辺部がルーフパネルの前縁部に接着固定され、その下辺部がカウル部に接着固定される。また、リヤウィンドウは、その側辺部が一対のリヤピラーに接着固定され、その上辺部がルーフパネルの後縁部に接着固定され、その下辺部がリヤデッキ部に接着固定される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−137327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の技術では、一対のフロントピラー、ルーフパネルの前縁部およびカウル部により構成されたフロントウィンドウを支持する枠部、または、一対のリヤピラー、ルーフパネルの後縁部およびリヤデッキ部により構成されたリヤウィンドウを支持する枠部は、車両の加速減、旋回、突起乗り越しなどの際に、車体が弾性変形したのちに振動しやすく、乗り心地に悪影響を及ぼす。
【0004】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、フロントウィンドウまたはリヤウィンドウを支持する枠部に作用する低周波数領域の振動を効果的に減衰させることができる車体上部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の車体上部構造は、略四辺形状のフロントウィンドウと、該フロントウィンドウが固定される、一対のフロントピラー、車幅方向に延びて両端部が前記一対のフロントピラーの基部に接続されるカウル部、および、前記一対のフロントピラーに支持されたルーフパネルの前縁部により構成される枠部を含むボディシェルと、前記フロントウィンドウの周縁部の所定領域を前記枠部に対して接着する接着剤とを備える車体上部構造であって、前記接着剤は、温度20℃におけるヤング率が50MPa以上かつ500MPa以下であり、損失係数が0.1以上かつ0.5以下の特性を有することを特徴としている。
【0006】
本発明の第2の車体上部構造は、略四辺形状のリヤウィンドウと、該リヤウィンドウが固定される、一対のリヤピラー、車幅方向に延びて両端部が前記一対のリヤピラーの基部に接続されるデッキ部、および、前記一対のリヤピラーに支持されたルーフパネルの後縁部により構成される枠部を含むボディシェルと、前記リヤウィンドウの周縁部の所定領域を前記枠部に対して接着する接着剤とを備える車体上部構造であって、前記接着剤は、温度20℃におけるヤング率が50MPa以上かつ500MPa以下であり、損失係数が0.1以上かつ0.5以下の特性を有することを特徴としている。
【0007】
この発明によれば、フロントウィンドウ(リヤウィンドウ)は、温度20℃におけるヤング率が50MPa以上かつ500MPa以下であり、損失係数が0.1以上かつ0.5以下の特性を有する接着剤を用いて、ボディシェルの枠部に対して接着固定されている。すなわち、常温におけるヤング率が従来使用されている接着剤より小さく、損失係数が所定の範囲内にある接着剤を使用している。言い換えれば、小さい荷重で大きく弾性変形しやすく、所定の減衰性能を有する接着剤を使用している。これにより、ボディシェルの枠部が振動する(変形する)と、まず、ボディシェルの枠部の振動を受けた接着剤が弾性変形し、つぎに、時間遅れを伴ってフロントウィンドウ(リヤウィンドウ)が枠部の変形方向に追随する。とくに、フロントウィンドウ(リヤウィンドウ)は、質量の大きな部材であるので、このような作用が繰り返されると、フロントウィンドウ(リヤウィンドウ)および接着剤が一体となってダンパーのごとく機能して、振動エネルギーが効率よく吸収される。とくに、上記接着剤のヤング率および損失係数の範囲は、自動車の使用時に発生しやすい15〜30Hzの周波数領域の振動をもとに決定されているので、フロントウィンドウ(リヤウィンドウ)に作用する所定の周波数領域の振動を効果的に減衰させることができる。
【0008】
また、前記フロントウィンドウまたは前記リヤウィンドウの周縁部には、車両室内側へ向けて突出するようにスタッドピンが設けられ、前記フロントウィンドウまたは前記リヤウィンドウは、前記枠部に形成されたピン挿通孔に前記スタッドピンが挿通されることで位置決めされ、前記スタッドピンは、前記スタッドピンの少なくとも先端部が前記ピン挿通孔から離脱可能に設けられていることが好ましい。
【0009】
この発明によれば、フロントウィンドウまたはリヤウィンドウの組み付け時には、スタッドピンの一部をピン挿通孔に挿通して、枠部とスタッドピンとを係合させることで、フロントウィンドウまたはリヤウィンドウが枠部に対して正確に位置決めされる。さらに、フロントウィンドウまたはリヤウィンドウを枠部に対して接着した後には、スタッドピンの先端部を離脱することで、スタッドピンと枠部との係合を解いて、接着剤の変形が許容される。
【0010】
また、前記スタッドピンは、前記フロントウィンドウまたは前記リヤウィンドウの周縁部に固設される基部と、該基部に対して離脱可能に立設され、先端側が前記ピン挿通孔に挿通されるピン部とを有することが好ましい。
【0011】
この発明によれば、スタッドピンは、ピン部が基部に対して離脱可能な2つの別体により構成されているので、基部およびピン部をともに簡素な構造にしながら、接着前には、ピン部と基部とを一体にして、枠部とスタッドピンとが係合した状態、さらに、接着後には、ピン部を基部から離脱させて、枠部とスタッドピンとの係合が解けた状態という2つの状態を実現することができる。
【0012】
また、前記基部には、雌ねじ部が形成されるとともに、前記ピン部には、一方の端部に前記基部の雌ねじ部に螺合する雄ねじ部が形成され、他方の端部に前記雄ねじ部を前記雌ねじ部に螺合させるための治具を係合させる工具係合部が形成されていることが好ましい。
【0013】
この発明によれば、工具係合部がピン部の他方に形成されているので、工具をピン部の他方の端部に係合させやすく、ピン部の雄ねじ部を基部の雌ねじ部に螺合させる作業が容易になる。とくに、天井部分などの作業し難い場所に位置するスタッドピンのピン部を、車両室内側から離脱させる作業が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フロントウィンドウまたはリヤウィンドウに作用する低周波数領域の振動を効率よく減衰させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下で、本実施の形態の車体上部構造について、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、ボディシェル2に固定されたフロントウィンドウ10Fの接着位置を示す図である。
【0017】
実施の形態1の車体上部構造は、図1に示されるように、略四辺形状のフロントウィンドウ10Fと、フロントウィンドウ10Fが固定される枠部を含むボディシェル2と、フロントウィンドウ10Fをボディシェル2の枠部に対して接着する接着剤12と備えている。
【0018】
フロントウィンドウ10Fは、運転者座席の前面に位置する大型のガラスである。フロントウィンドウ10Fの車両室内側の周縁部には、接着剤12が、周縁部を1周するように塗布されている。さらに、フロントウィンドウ10Fの車両室内側の面には、後に詳述するスタッドピン13(図3参照)が、接着剤12の塗布位置より内方の位置に、数箇所固定されている。
【0019】
図2は、図1のII−II位置における断面図である。図3は、図1のIII−III位置における断面図である。図4は、図1のIV−IV位置における断面図である。図5は、図1のV−V位置における断面図である。
【0020】
ボディシェル2は、車両の車体部分を構成する鋼板製の部材であり、強度、剛性、耐久性、衝突安全性、振動、騒音、乗り心地などに大きな影響を及ぼす部材である。図1〜図5に示されるように、フロントウィンドウ10Fの縁部分を支持する略四辺形状の枠部は、このボディシェル2のうち、車両の左右前方に位置する支柱である一対のフロントピラー22と、屋根を構成する外板であり、一対のフロントピラー22および車幅方向に延びるフロントヘッダ23によって支持されるルーフパネル21の前縁部と、車幅方向に延びて、両端部が一対のフロントピラー22の基部に接続されるように設けられたカウル部25とにより構成されている。
【0021】
図6は、フロントウィンドウ10Fを支持する枠部の変形を説明するための図である。図6に示されるように、ボディシェル2に対して荷重が加わると、枠部は、図6の2点鎖線で示されるように変形しやすい。具体的には、枠部の4辺部が曲がるのではなく、4辺部は概ね直線状を保ったまま、4隅部分がそれぞれ正規の位置から離れるように歪む。これは、スライド式中箱を外したマッチ箱の外枠部が僅かな外力で平行四辺形状に変形して潰れてしまう、いわゆるマッチ箱変形に類似した現象である。つまり、枠部の4隅部分は、中間部分より大きく変形しやすい。本実施の形態では、このような枠部の4隅部分の変形を受けて、フロントウィンドウ10F内に局所的に大きな応力が生じるのを回避するとともに、フロントウィンドウ10Fと接着剤12とが一体となって枠部(すなわちボディシェル2)の振動を減衰させるために、フロントウィンドウ10Fと枠部との接合に特殊な接着剤12を用いている。
【0022】
接着剤12は、フロントウィンドウ10Fの車両室内側の面に対して、周縁部を一周するように塗布される。これにより、フロントウィンドウ10Fがボディシェル2の枠部に組み付けられた状態で、接着剤12は、フロントウィンドウ10Fと枠部との間の隙間をシールする。接着剤12は、フロントウィンドウ10Fの車両室内側の面であって、フロントウィンドウ10Fの周縁部の四隅に塗布される第1の接着剤12aと、フロントウィンドウ10Fの車両室内側の面であって、フロントウィンドウ10Fの四隅を除く周縁部(以下、中間部という)に塗布される第2の接着剤12bとを含む。
【0023】
具体的には、第1の接着剤12aは、一対のフロントピラー22の上端部分および下端部分のフランジ22a上面と、フロントガラス10Fの両側辺部であって車両室内側の面とをフロントピラー22の長手方向に沿って接着する(図4参照)。また、第1の接着剤12aは、ルーフパネル21の前縁部から前方へ延出して設けられた延出部21aの車幅方向両外側部分の上面と、フロントガラス10Fの上辺部であって車両室内側の面とを車幅方向に沿って接着する(図2、図3参照)。また、第1の接着剤12aは、カウル部25の車幅方向両外側部分の上面と、フロントガラス10Fの下辺部であって車両室内側の面とを車幅方向に沿って接着する(図5参照)。
【0024】
また、第2の接着剤12bは、一対のフロントピラー22の中間部(上端部分および下端部分を除いた部分)のフランジ22a上面と、フロントガラス10Fの両側辺部であって車両室内側の面とをフロントピラー22の長手方向に沿って接着する。また、第2の接着剤12bは、ルーフパネル21の前縁部から前方へ延出して設けられた延出部21aの中間部(車幅方向両外側を除いた部分)の上面と、フロントガラス10Fの上辺部であって車両室内側の面とを車幅方向に沿って接着する。また、第2の接着剤12bは、カウル部25の中間部(車幅方向両外側を除いた部分)の上面と、フロントガラス10Fの下辺部であって車両室内側の面とを車幅方向に沿って接着する。
【0025】
本実施の形態では、第1の接着剤12aとして、ヤング率および損失係数に関して、所定の特性を有する接着剤を用いている。
【0026】
具体的には、第1の接着剤12aのヤング率は、温度20℃において、50MPa以上かつ500MPa以下である。第1の接着剤12aのヤング率が、50MPa未満であると、フロントウィンドウ10Fを枠部の所定の位置に取り付けておくための構造的な強度を確保し難くなる傾向がある。また、第1の接着剤12aのヤング率が、500MPaを超えると、所定の荷重が加わったときに第1の接着剤12aを弾性変形させ難くなる傾向がある。
【0027】
また、第1の接着剤12aの損失係数は、温度20℃において、0.1以上かつ0.5以下である。第1の接着剤12aの損失係数が、0.1未満であると、振動を短い時間で減衰させる効果が得られにくい傾向があり、第1の接着剤12aの損失係数が、0.5を超えると、所定のヤング率を得られにくくなる傾向がある。ここで、損失係数とは、減衰性能を示す指標であり、損失係数が大きいほど、振動エネルギーが効率よく散逸されることを意味している。図7は、接着剤の動粘性特性図である。損失係数は、図7中に示される貯蔵弾性率E’に対する損失弾性率E’’の比率(E’’/E’)で表される。
【0028】
また、第1の接着剤12aの選定に関しては、自動車の使用時に発生しやすい振動数15〜30Hzの振動をもとに、第1の接着剤12aの温度が20℃における、損失係数およびヤング率が所定の範囲に収まるような接着剤をノモグラフを用いて選定している。ここで、ノモグラフは、周波数、温度、ヤング率、損失係数など変数の間の関数的関係がグラフとして表示され、変数間の数値的関係を容易に読み取れるようにした図表である。
【0029】
このように、自動車が通常使用されるときの温度と、自動車の使用時に発生し易い振動の振動数とから、所定の範囲に収まるようなヤング率および損失係数を持つ第1の接着剤12aを特定することによって、たとえば、第1の接着剤12aは、温度20℃において、周波数15Hz、振幅0.1mmの振動に対して極めて効果的な減衰性能を発揮する。なお、自動車の使用中に、接着剤の温度が20℃から離れた場合であっても、損失係数などの接着剤の性質が急激に変化するわけではない。
【0030】
第1の接着剤12aとしては、たとえば、エポキシ樹脂系準構造用の接着剤およびエラストマー系(ゴム系)接着剤などを用いることができる。エポキシ樹脂系準構造用の接着剤は、自動車が通常使用される20℃近傍の温度領域で、損失係数がピークを迎えるとともに、ヤング率が低下し、これらが車両の振動を抑制するのに適した範囲に収まるような特性を持つ(図8参照)。また、エラストマー系(ゴム系)接着剤は、自動車が通常使用される20℃近傍の温度領域で、損失係数およびヤング率がともに、車両の振動を抑制するのに適した範囲内に収まっているような特性を持つ(図9参照)。エポキシ樹脂系準構造用の接着剤としては、たとえば、サンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」、セメダイン株式会社製の商品名「EP001」などが挙げられる。また、エラストマー系(ゴム系)接着剤としては、たとえば、サンスター技研株式会社製の商品名「ペンギンシール」などが挙げられる。
【0031】
第2の接着剤12bとしては、フロントウィンドウ10Fをボディシェル2の枠部の所定の位置に取り付けておくための構造的な強度を確保できるものであれば、とくに限定されるものではない。たとえば、エポキシ樹脂系構造用の接着剤などを用いることができる。エポキシ樹脂系構造用の接着剤としては、たとえば、サンスター技研株式会社製の商品名「ペンギンセメント」、セメダイン株式会社製の商品名「EP008」、セメダイン株式会社製の商品名「EP330」などが挙げられる。
【0032】
図10は、損失係数とヤング率との関係に基づいて、接着剤の違いによる分布状態の違いを説明するグラフである。図10に示されるように、第1の接着剤12aとして使用可能な、「ADシーラー」、「EP001」および「ペンギンシール」と、第2の接着剤12bとして使用可能な「ペンギンセメント」、「EP008」および「EP330」とでは分布状態に違いがある。すなわち、第1の接着剤12aでは、Y軸方向(損失係数が大きくなる方向)に広く分布しているとともに、X軸方向の低い領域(ヤング率が低い領域)に狭く分布している。これに対し、第2の接着剤12bでは、Y軸方向の低い領域(損失係数が低い領域)に狭く分布し、X軸方向(ヤング率が大きくなる方向)の高い領域に広く分布している。
【0033】
このように、フロントウィンドウ10Fの接合位置に応じて、第1の接着剤12aおよび第2の接着剤12bを使い分けることで、枠部の変位量が大きい四隅部では、第1の接着剤12aを弾性変形させながら、振動を速やかに減衰させることができ、一方、枠部の変位量が少ない中間部では、接着強度の大きな第2の接着剤によりフロントウィンドウ10Fの枠部に対する接着強度を確保することができる。
【0034】
すなわち、ボディシェル2の枠部が変形するような荷重を受けると、接着剤12により接着固定されたフロントウィンドウ10Fは、つぎのように作用する。ボディシェル2の枠部がその4隅部分で大きく変形すると、まず、ボディシェル2の枠部の振動を受けた第1の接着剤12aが弾性変形し、つぎに、時間遅れを伴ってフロントウィンドウ10Fが枠部の変形方向に追随する。このような作用が繰り返されると、フロントウィンドウ10Fおよび第1の接着剤12aが一体となってダンパーのごとく機能して、振動エネルギーが効率よく吸収される。とくに、フロントウィンドウ10Fは、質量の大きな大型の部材であるので、効果的に減衰性能が発揮される。
【0035】
図11は、図1のIII−III位置における断面図であり、スタッドピン13のピン部13bを基部13aから離脱させた状態を示す。
【0036】
本実施の形態では、接着剤12が固まるまでの間に、フロントウィンドウ10Fが自重で枠部に対して位置ずれするのを防ぐためのスタッドピン13を用いている。図3および図11に示されるように、フロントウィンドウ10Fは、スタッドピン13がフロントウィンドウ10Fに対して所定の位置に固定された状態でボディシェル2に対して組み付けられる。具体的には、フロントウィンドウ10Fの組み付け時には、スタッドピン13の一部(後述のピン部13b)がルーフパネル21の延出部21aの所定の位置に形成された挿通部21a1に車両室内方向へ向けて挿し込まれ、フロントウィンドウ10Fがボディシェル2の枠部に対して位置決めされる。
【0037】
図12は、スタッドピン13を説明するための図であり、図12(a)は基部13aに対してピン部13bが立設された状態を示し、図12(b)は基部13aからピン部13bを離脱させた状態を示す。
【0038】
スタッドピン13は、フロントウィンドウ10Fの周縁部であって、フロントウィンドウ10Fの車両室内側の面に対して所定の位置に固定されている。具体的には、スタッドピン13は、フロントウィンドウ10Fがボディシェル2に対して、正規の姿勢で組み付けられたときに、挿通孔21a1の位置とスタッドピン13の位置とが対応するように設けられている。そして、フロントウィンドウ10Fがボディシェル2に対して組み付けられると、スタッドピン13は、その一部がフロントウィンドウ10Fと枠部との間に挟み込まれた状態になる。
【0039】
図12に示されるように、スタッドピン13は、フロントウィンドウ10Fに固設される基部13aと、基部13aに対して離脱可能に設けられたピン部13bとを含む。
【0040】
基部13aは、扁平な直方体状を呈した部材であり、一方の面がフロントウィンドウ10Fの車両室内側の面であって、フロントウィンドウ10Fの周縁部に固定されている。また、基部13aには、他方の面に、凹状の雌ねじ部13a1が形成されている。
【0041】
ピン部13bは、外径が挿通孔21a1の内径にほぼ等しく設定された略円柱状を呈している。ピン部13bの一方の端部には、雄ねじ部13b2が形成されており、ピン部13bの他方の端部には、端面に十字状の溝(以下、工具係合部という)13b1が形成されている。工具係合部13b1は、ピン部13bを基部13aに連結するときに、プラスドライバーやマイナスドライバーなどの工具の先端を係合させるための部分である。このように、工具係合部13b1がピン部13bの他方の端に形成されているので、工具をピン部13bに係合させやすく、工具を用いてピン部の雄ねじ部を基部の雌ねじ部に螺合させやすい。したがって、スタッドピン13が作業し難い位置に設けられていても、ピン部13bの着脱をスムーズに行うことが可能である。ピン部13bは、その雄ねじ部13b2が基部13aの雌ねじ部13a1に螺合されることで基部13aの一方の面に対して略垂直に、すなわち、フロントウィンドウ10Fの面方向に対して略垂直に立設される。
【0042】
基部13aとピン部13bとは互いに別体の部材であるが、フロントウィンドウ10Fの接着時には、基部13aとピン部13bとが一体となって機能し、フロントウィンドウ10Fの接着後には、ピン部13bのみが基部13aから取り外される。このように、ピン部13bを基部13aから取り外すことによって、ピン部13bとルーフパネル21の延出部21aとの間の係合が解け、フロントウィンドウ10Fは、ルーフパネル21に対して接着剤12のみを介して接された状態になる。
【0043】
したがって、第1の接着剤12aの変形が、スタッドピン13のピン部13bによって規制されることなく、柔軟に変形し易い状態が実現される。スタッドピン13は、ピン部13bが基部13aに対して離脱可能な2つの別体により構成されているので、基部13aおよびピン部13bをともに簡素な構造にしながら、接着前には、ピン部13bと基部13aとを一体にして、枠部とスタッドピン13とが係合した状態、さらに、接着後には、ピン部13bを基部13aから離脱させて、枠部とスタッドピン13との係合が解けた状態という2つの状態を実現することができる。
【0044】
以上の実施の形態によれば、フロントウィンドウ10Fは、温度20℃におけるヤング率が50MPa以上かつ500MPa以下であり、損失係数が0.1以上かつ0.5以下の特性を有する第1の接着剤12aを用いて、ルーフパネル21の前縁部、一対のフロントピラー22およびカウル部25により構成された枠部に対して接着固定されている。すなわち、常温におけるヤング率が従来使用されている接着剤より小さく、損失係数が所定の範囲内にある接着剤を第1の接着剤12aとして使用している。言い換えれば、小さい荷重で大きく弾性変形しやすく、所定の減衰性能を有する接着剤を、第1の接着剤12aとして使用している。これにより、ボディシェル2の枠部が振動する(変形する)と、まず、ボディシェル2の枠部の振動を受けた第1の接着剤12aが弾性変形し、つぎに、時間遅れを伴ってフロントウィンドウ10Fが枠部の変形方向に追随する。このような作用が繰り返されると、フロントウィンドウ10Fおよび第1の接着剤12aが一体となってダンパーのごとく機能して、振動エネルギーが効果的に吸収される。とくに、上記第1の接着剤12aのヤング率および損失係数の範囲は、自動車の使用時に発生しやすい15〜30Hzの周波数領域の振動をもとに決定されているので、フロントウィンドウ10Fに作用する所定の周波数領域の振動を効果的に減衰させることができる。しかも、フロントウィンドウ10Fからルーフパネル21に伝達される振動を低減させることができ、ルーフパネル21の振動をも抑制して乗り心地が大幅に向上する。また、振動を効率よく減衰させることで、フロントウィンドウ10Fの4隅部分に大きな応力が局所的に集中して発生するのを回避でき、フロントウィンドウ10Fの強度をさらに上げる必要もない。
【0045】
なお、上記実施の形態では、車両の前方に設けられるフロントウィンドウ10Fを所定の特性を持つ接着剤で、ルーフパネル21の前縁から延出する延出部21a、一対のフロントピラー22およびカウル部25により構成された枠部に固定した形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。図13は、車体に固定されたリヤウィンドウ(リヤガラス)10Rの接着位置を示す図である。たとえば、図13に示されるように、車両の後方に設けられるリヤウィンドウ10Rを、実施の形態1と同様の特性を持つ接着剤12で、ボディシェル2の枠部に固定する形態であってもよい。
【0046】
この場合、枠部は、ルーフパネル21の後縁から延出する延出部、一対のリヤピラー27、および、リヤピラー27の基端部から車幅方向に延びるデッキ部26により構成される。この場合であっても、枠部は、図6に示されるように変形しやすいため、リヤウィンドウ10Rの周縁部のうち、4隅を第1の接着剤12aで枠部に接着し、残る部分を第2の接着剤12bで接着する。なお、リヤウィンドウ10Rを車体の後方に固定する際にも、図12に示されるような、ピン部13bが基部13aに対して離脱可能なスタッドピン13を用いることで、リヤウィンドウ10Rのボディシェル2に対する位置決め精度を確保するとともに、第1の接着剤12aの弾性変形を許容し、振動の減衰効果をより高めることができる。
【0047】
すなわち、第1の接着剤12aおよび第2の接着剤12bの硬化後に、スタッドピン13のピン部13bを離脱し、リヤウィンドウ10Rの4隅部分を、弾性変形しやすい第1の接着剤12a上に固定する。これによって、リヤウィンドウ10Rの4隅部分では、枠部の四隅が繰り返し変形したとしても、第1の接着剤12aがその弾性変形によりエネルギーを吸収し、振動を効果的に減衰させる。したがって、リヤウィンドウ10Rの4隅部分に大きな応力が局所的に集中して発生するのを回避できる。
【0048】
また、上記実施の形態では、車体のフロントウィンドウ10Fのみを所定の特性を持つ第1の接着剤12aで枠部に接着した形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。フロントウィンドウ10Fを所定の特性を持つ第1の接着剤12aで、ボディシェル2に対して接着するとともに、リヤウィンドウ10Rを所定の特性を持つ第1の接着剤12aでボディシェル2に対して接着する形態であってもよい。この場合には、フロントウィンドウ10Fおよびリヤウィンドウ10Rの上縁部から、ルーフパネル2に伝達される振動を大幅に低減させることができる。
【0049】
また、上記実施の形態では、フロントウィンドウ10Fの周縁部の4隅部分のみを第1の接着剤12aでボディシェル2の枠部に接着固定した形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1の接着剤12aが、所定のヤング率および所定の損失係数に加えて、構造的な接着強度をも併せ持つものであれば、フロントウィンドウ10Fの周縁部全体を第1の接着剤12aで接着固定する形態であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】車体に固定されたフロントウィンドウの接着位置を示す図である。
【図2】図1のII−II位置における断面図である。
【図3】図1のIII−III位置における断面図である。
【図4】図1のIV−IV位置における断面図である。
【図5】図1のV−V位置における断面図である。
【図6】フロントウィンドウまたはリヤウィンドウを支持する枠部の変形を説明するための図である。
【図7】接着剤の動粘性特性図である。
【図8】エポキシ樹脂系準構造用の接着剤の特性を示すグラフである。
【図9】エラストマー系(ゴム系)接着剤の特性を示すグラフである。
【図10】損失係数とヤング率との関係に基づいた、接着剤の違いによる分布状態の違いを説明するためのグラフである。
【図11】図1のIII−III位置における断面図であり、スタッドピンのピン部が枠部に形成された挿通孔から離脱された状態を示す。
【図12】スタッドピンを説明するための図であり、(a)は基部に対してピン部が立設された状態を示し、(b)は基部からピン部を離脱させた状態を示す。
【図13】車体に固定されたリヤウィンドウの接着位置を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10F フロントウィンドウ
10R リヤウィンドウ
12a 第1の接着剤(接着剤)
13 スタッドピン
13a 基部
13a1 雌ねじ部
13b ピン部
13b1 工具係合部
13b2 雄ねじ部
2 ボディシェル
21 ルーフパネル
21a 延出部(枠部)
21a1 ピン挿通部
22 フロントピラー(枠部)
25 カウル部(枠部)
26 デッキ部(枠部)
27 リヤピラー(枠部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略四辺形状のフロントウィンドウと、
該フロントウィンドウが固定される、一対のフロントピラー、車幅方向に延びて両端部が前記一対のフロントピラーの基部に接続されるカウル部、および、前記一対のフロントピラーに支持されたルーフパネルの前縁部により構成される枠部を含むボディシェルと、
前記フロントウィンドウの周縁部の所定領域を前記枠部に対して接着する接着剤とを備える車体上部構造であって、
前記接着剤は、
温度20℃におけるヤング率が50MPa以上かつ500MPa以下であり、
損失係数が0.1以上かつ0.5以下の特性を有する車体上部構造。
【請求項2】
略四辺形状のリヤウィンドウと、
該リヤウィンドウが固定される、一対のリヤピラー、車幅方向に延びて両端部が前記一対のリヤピラーの基部に接続されるデッキ部、および、前記一対のリヤピラーに支持されたルーフパネルの後縁部により構成される枠部を含むボディシェルと、
前記リヤウィンドウの周縁部の所定領域を前記枠部に対して接着する接着剤とを備える車体上部構造であって、
前記接着剤は、
温度20℃におけるヤング率が50MPa以上かつ500MPa以下であり、
損失係数が0.1以上かつ0.5以下の特性を有する車体上部構造。
【請求項3】
前記フロントウィンドウまたは前記リヤウィンドウの周縁部には、車両室内側へ向けて突出するようにスタッドピンが設けられ、
前記フロントウィンドウまたは前記リヤウィンドウは、前記枠部に形成されたピン挿通孔に前記スタッドピンが挿通されることで位置決めされ、
前記スタッドピンは、前記スタッドピンの少なくとも先端部が前記ピン挿通孔から離脱可能に設けられている請求項1または2記載の車体上部構造。
【請求項4】
前記スタッドピンは、前記フロントウィンドウまたは前記リヤウィンドウの周縁部に固設される基部と、該基部に対して離脱可能に立設され、先端側が前記ピン挿通孔に挿通されるピン部とを有する請求項3に記載の車体上部構造。
【請求項5】
前記基部には、雌ねじ部が形成されるとともに、
前記ピン部には、一方の端部に前記基部の雌ねじ部に螺合する雄ねじ部が形成され、他方の端部に前記雄ねじ部を前記雌ねじ部に螺合させるための治具を係合させる工具係合部が形成されている請求項4に記載の車体上部構造。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−125980(P2010−125980A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302495(P2008−302495)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】