説明

車体前部構造

【課題】車体の前方から荷重入力が加わった場合に、フロントサイドメンバの変形モードを制御することによってパワーユニットを車両の下方に押し下げる機能を備えた車体前部構造を提供する。
【解決手段】車両の前後方向に延設されたフロントサイドメンバ100と、フロントサイドメンバ100に車両のパワーユニット400を支持固定するマウント部材300とを備えた車両前部構造であって、フロントサイドメンバ100には、マウント部材の固定部分110Mの前後にフロントサイドメンバ100を軸周りに捻ったメンバ捻り部110Tが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の前方から荷重入力が加わった際にエンジンとトランスミッションを下方に押し下げる機能を備えた車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前方から荷重入力が加わった際に、乗員保護性能を向上するために、エンジンおよびトランスミッションで構成されるパワーユニットを車体下方に押し下げる機能を備えた車体前部構造が提案されている(特許文献1参照)。この車体前部構造では、フロントサイドメンバの下方にサブメンバが配設され、フロントサイドメンバに取り付けられたパワーユニットとサブメンバとがプルダウンロッドで連結されている。そして、車両の前方から荷重入力が加わった際に、サブメンバの折れ変形を利用してプルダウンロッドによりパワーユニットを車体下方に押し下げる機構となっている。
【特許文献1】特開2006−62587公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の車体前部構造は、サブメンバが設定されていることが前提となっており、サブメンバの設定がない車体では成立しない、という問題点があった。
【0004】
本発明では以上の問題点に鑑み、車体の前方から荷重入力が加わった場合に、サブメンバやプルダウンロッド等の追加部品を設定することなく、フロントサイドメンバの変形モードを制御することによってパワーユニットを車両の下方に押し下げる機能を備えた車体前部構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車体前部構造においては、車両の前後方向に延設されたフロントサイドメンバに、車両のパワーユニットを支持固定するマウント部材が固定されている。そして、フロントサイドメンバには、マウント部材の固定部分の前後にフロントサイドメンバを軸周りに捻ったメンバ捻り部が形成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両前方から荷重入力が印加されてフロントサイドメンバが車両の前後方向に潰れる際に、メンバ捻り部が軸周りに回転し、マウント部材を介してパワーユニットを車両の下方へ押し下げる。このため、サブメンバやプルダウンロッド等の追加部品を設定することなく、フロントサイドメンバの変形によってフロントサイドメンバに固定されたパワーユニットを車両の下方に押し下げ、パワーユニットが車室内に突出することを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面に基づき説明する。なお、以下の説明において、前後左右上下の方向は、車両の運転者を基準とした各図内に示す方向とする。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態の車両前部構造の平面図である。また、図2は、本発明の一実施形態の車両前部構造の左側面図である。
【0009】
本発明の一実施形態の車両前部構造は、フロントサイドメンバ100、バンパーレインフォース200、マウント部材300、パワーユニット400とで構成される。
【0010】
フロントサイドメンバ100は、車体の右前後方向に延設された右フロントサイドメンバ100Rと、車体の左前後方向に延設された左フロントサイドメンバ100Lとを備えている。
【0011】
右フロントサイドメンバ100Rは、車両前方の端部から車両の後方に向けて、右フロントサイドメンバ前部110RF、右前方メンバ捻り部110TRF、右マウント部110RM、右後方メンバ捻り部110TRR、右フロントサイドメンバ後部110RRで構成される。
【0012】
左フロントサイドメンバ100Lは、車両前方の端部から車両の後方に向けて、左フロントサイドメンバ前部110LF、左前方メンバ捻り部110TLF、左マウント部110LM、左後方メンバ捻り部110TLR、左フロントサイドメンバ後部110LRで構成される。
【0013】
バンパーレインフォース200は、車両前方の車幅方向に延設され、右フロントサイドメンバ100Rおよび左フロントサイドメンバ100Lの車両前方側の端部に固定されている。
【0014】
マウント部材300は、いわゆるエンジンマウントであり、右フロントサイドメンバ100Rの右マウント部110RM上面に取り付けられる右マウント部材300Rと、左フロントサイドメンバ100Lの左マウント部110LM上面に取り付けられる左マウント部材300Lとを備えている。マウント部材300は、後述するパワーユニット400の左右を、曲折部300Cを介して支持固定する。すなわち、右マウント部材300Rは、曲折部300RCを介してパワーユニット400の右側を支持固定し、左マウント部材300Lは、曲折部300LCを介してパワーユニット400の左側を支持固定する(図3、図4下図、図5右上図参照)。
【0015】
パワーユニット400は、エンジン410とパワートレイン420とを備えており、その右側が右マウント部材300Rに、左側が左マウント部材300Lに固定され支持される。
【0016】
図3に、左フロントサイドメンバ100Lを斜め左上方から見た斜視図を、図4に、左フロントサイドメンバ100Lの左側面図および平面図を示す。
【0017】
左フロントサイドメンバ100Lは、左マウント部110LMが、左フロントサイドメンバ100Lの車体前後方向の支軸回りに90度車体外側(左側)に捻れた状態となっている。この構造により、左マウント部110LMの前方および後方には、左フロントサイドメンバ100Lに対して捻れた左前方メンバ捻り部110TLFおよび左後方メンバ捻り部110TLRが所定の長さで形成されている。
【0018】
すなわち、左フロントサイドメンバ前部110LFの上面FSUは、左前方メンバ捻り部110TLFを介して左マウント部110LMの左側面MSLにつながり、左フロントサイドメンバ前部110LFの左側面FSLは、左前方メンバ捻り部110TLFを介して左マウント部110LMの下面MSDにつながり、左フロントサイドメンバ前部110LFの下面FSDは、左前方メンバ捻り部110TLFを介して左マウント部110LMの右側面MSRにつながり、左フロントサイドメンバ前部110LFの右側面FSRは、左前方メンバ捻り部110TLFを介して左マウント部110LMの上面MSUにつながっている。
【0019】
同様に、左フロントサイドメンバ後部110LRの上面RSUは、左後方メンバ捻り部110TLRを介して左マウント部110LMの左側面MSLにつながり、左フロントサイドメンバ後部110LRの左側面RSLは、左後方メンバ捻り部110TLRを介して左マウント部110LMの下面MSDにつながり、左フロントサイドメンバ後部110LRの下面RSDは、左後方メンバ捻り部110TLRを介して左マウント部110LMの右側面MSRにつながり、左フロントサイドメンバ後部110LRの右側面RSRは、左後方メンバ捻り部110TLRを介して左マウント部110LMの上面MSUにつながっている。
【0020】
右フロントサイドメンバ100Rは、左フロントサイドメンバ100Lと左右対称の構造を有している(図示省略)。
【0021】
なお、上記右前方メンバ捻り部110TRF、右後方メンバ捻り部110TRR、左前方メンバ捻り部110TLF、左後方メンバ捻り部110TLRが、請求項におけるメンバ捻り部に相当し、以下、まとめてメンバ捻り部110Tと表記する。
【0022】
また、右マウント部110RM、左マウント部110LMが、請求項におけるマウント部材の固定部分に相当し、以下、まとめてマウント部材の固定部分110Mと表記する。
【0023】
次に、図5〜図7を用いて、本実施形態の車両前部構造の動作を説明する。
【0024】
図5の左上図は、本実施形態の車両前部構造の荷重入力が加わる前の左側面図、右上図は、左上図のSA−SA断面図、左下図は、荷重入力が加わった後の左側面図、右下図は、左下図のSA−SA断面図である。
【0025】
図6の上図は、荷重入力が加わる前の左フロントサイドメンバ100Lを斜め左上方から見た斜視図、下図は荷重入力が加わった後の左フロントサイドメンバ100Lを斜め左上方から見た斜視図である。
【0026】
図7の左図は、荷重入力が加わる前の左フロントサイドメンバ前部110LFにおける断面図、中央図は、荷重入力が加わっている間の左フロントサイドメンバ前部110LFにおける断面図、右図は、荷重入力が加わった後の左フロントサイドメンバ前部110LFにおける断面図である。
【0027】
車両前方からバンパーレインフォース200に荷重入力が加わると、右フロントサイドメンバ100Rおよび左フロントサイドメンバ100Lは車両前後方向に圧縮されて潰れる。このとき、左フロントサイドメンバ100Lに設けられた左前方メンバー捻り部110TLFおよび左後方メンバ捻り部110TLRにより、左マウント部110LMは、左フロントサイドメンバ100Lの車体前後方向の支軸回りに90度内側(右側)に回転する(図5〜図7の矢印AL)。
【0028】
すなわち、図6、図7において、左マウント部110LMは、矢印AL方向に回転し、左マウント部110LMの前方の左上角部d2は右上に、左下角部a2は左上に、右下角部b2は左下に、右上角部c2は右下に位置する。また、左マウント部110LMの後方の左上角部d3は右上に、左下角部a3は左上に、右下角部b3は左下に、右上角部c3は右下に位置する。
【0029】
同様に、右フロントサイドメンバ100Rに設けられた右前方メンバー捻り部110TRFおよび右後方メンバ捻り部110TRRにより、右マウント部110RMは、右フロントサイドメンバ100Rの車体前後方向の支軸回りに90度内側(左側)に回転する(図5右下図の矢印AR)。
【0030】
この回転に伴い、右マウント部材300Rと左マウント部材300Lのパワーユニット400の支持点間の距離が縮小するが、右マウント部材300Rと左マウント部材300Lはそれぞれ曲折部300LCおよび300RCが下方に折れ曲がりながら、この縮小分を吸収する。この作用により、右マウント部材300Rおよび左マウント部材300Lに左右を固定支持されたパワーユニット400は、車両の下方にズムーズに押し下げられる(図5左下図の矢印AD)。
【0031】
この動作により、車体の前方から荷重入力が加わった場合に、フロントサイドメンバ100に固定されたパワーユニット400を、サブメンバやプルダウンロッド等の追加部品を設定することなく、フロントサイドメンバ100の変形のみによって車両の下方に押し下げることができ、パワーユニット400が車室内に突出することを確実に防止することができる。
【0032】
なお、パワーユニットは一般に防振支持体であるエンジンマウントを介してフロントサイドメンバに取り付けられるが、特許文献1に記載の車体前部構造は、プルダウンロッドによってパワーユニットがサブメンバに固定されるため、エンジンマウントの防振性能を抑制してしまう。これに対し、本発明では、パワーユニットを拘束するプルダウンロッド等の新たな部品を必要としないため、エンジンマウントであるマウント部材300の防振性能を抑制することがない、という効果も得られる。
【0033】
また、プルダウンロッドが不要であるため、質量とコストの増加を招くことがない、という効果も得られる。
【0034】
以上のように、本発明の実施の形態の車両前部構造においては、車両の前後方向に延設されたフロントサイドメンバ100と、フロントサイドメンバ100に車両のパワーユニット400を支持固定するマウント部材300とを備え、フロントサイドメンバ100には、マウント部材の固定部分110Mの前後にフロントサイドメンバ100を軸周りに捻ったメンバ捻り部110Tが形成されている。
【0035】
この構成によれば、車両前方から荷重入力が印加されてフロントサイドメンバ100が車両の前後方向に潰れる際に、メンバ捻り部110Tが軸周りに回転し、マウント部材300を介してパワーユニット400を車両の下方へ押し下げる。このため、サブメンバやプルダウンロッド等の追加部品を設定することなく、フロントサイドメンバ100の変形によってフロントサイドメンバ100に固定されたパワーユニット400を車両の下方に押し下げ、パワーユニット400が車室内に突出することを確実に防止することができる。
【0036】
また、本発明の実施の形態の車両前部構造においては、メンバ捻り110Tは、マウント部材の固定部分110Mの前後において捻り方向が逆向きに形成されている。
【0037】
また、本発明の実施の形態の車両前部構造においては、車両前方から荷重入力が印加されてフロントサイドメンバ100が車両の前後方向に潰れる際に、マウント部材の固定部分110Mが車両内側方向に回転するようにメンバ捻り部110Tの捻り方向が形成される。
【0038】
この構成によれば、車両前方から荷重入力が印加されてフロントサイドメンバ100が車両の前後方向に潰れる際に、マウント部材の固定部分110Mが車両内側方向に回転し、マウント部材300を介してパワーユニット400を車両の下方へ確実に押し下げることができる。
【0039】
さらに、本発明の実施の形態の車両前部構造においては、マウント部材300は、フロントサイドメンバ100の上面に取り付けられるとともに、メンバ捻り部110Tが軸周りに回転する際に、下方に曲折する曲折部300Cを備えている。
【0040】
この構成によれば、車両の前方から荷重入力が加わって、マウント部材の固定部分110Mが回転し、右マウント部材300Rと左マウント部材300Lのパワーユニット400の支持点間の距離が縮小した場合に、曲折部300Cが下方に折れ曲がりながらこの縮小分を吸収し、パワーユニット400を車体の下方に確実に押し下げることができる。
【0041】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、実施例は本発明の例示にしか過ぎず、本発明は実施例の構成にのみ限定されるものではない。したがって本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれることはもちろんである。
【0042】
例えば、バンパーレインフォース200とフロントサイドメンバ100の配置関係は一例であり、車両前方からの荷重入力がフロントサイドメンバ100に確実に入力されるものであれば良い。
【0043】
また、マウント部材300の形状は一例であり、本発明の作用効果を有するものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態の車両前部構造の平面図である。
【図2】本発明の実施形態の車両前部構造の左側面図である。
【図3】本発明の実施形態の車両前部構造における左フロントサイドメンバの斜視図である。
【図4】本発明の実施形態の車両前部構造における左フロントサイドメンバの左側面図および平面図である。
【図5】本発明の実施形態の車両前部構造において、荷重入力が加わる前後の左側面図および断面図である。
【図6】本発明の実施形態の車両前部構造において、荷重入力が加わる前後の左フロントサイドメンバの斜視図である。
【図7】本発明の実施形態の車両前部構造において、荷重入力が加わる前〜後の間の左フロントサイドメンバ前部における断面図である。
【符号の説明】
【0045】
100 フロントサイドメンバ
100R 右フロントサイドメンバ
100L 左フロントサイドメンバ
110RF 右フロントサイドメンバ前部
110LF 左フロントサイドメンバ前部
110RR 右フロントサイドメンバ後部
110LR 左フロントサイドメンバ後部
110M マウント部(マウント部材の固定部分)
110RM 右マウント部
110LM 左マウント部
110T メンバ捻り部
110TRF 右前方メンバ捻り部
110TLF 左前方メンバ捻り部
110TRR 右後方メンバ捻り部
110TLR 左後方メンバ捻り部
200 バンパーレインフォース
300 マウント部材
300R 右マウント部材
300L 左マウント部材
300C、300RC、300LC 曲折部
400 パワーユニット
410 エンジン
420 パワートレイン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に延設されたフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバに前記車両のパワーユニットを支持固定するマウント部材と、
を備えた車両前部構造であって、
前記フロントサイドメンバには、前記マウント部材の固定部分の前後に前記フロントサイドメンバを軸周りに捻ったメンバ捻り部が形成されることを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記メンバ捻り部は、前記マウント部材の固定部分の前後において捻り方向が逆向きに形成されることを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
車両前方から荷重入力が印加されて前記フロントサイドメンバが前記車両の前後方向に潰れる際に、前記マウント部材の固定部分が車両内側方向に回転するように前記メンバ捻り部の捻り方向が形成されることを特徴とする請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記マウント部材は、前記フロントサイドメンバの上面に取り付けられるとともに、前記メンバ捻り部が前記軸周りに回転する際に、下方に曲折する曲折部を備えることを特徴とする請求項1ないし3に記載の車両用前部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−40310(P2009−40310A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209256(P2007−209256)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】