説明

車体前部構造

【課題】車体前部構造において、前方衝突荷重を効率的に吸収可能であると共に部品コストの増加を抑制可能とする。
【解決手段】車体10の前部の左右両側に車体前後方向にフロントサイドメンバ11を配置すると共に、左右のフロントサイドメンバ11の下方に所定距離をあけてロアメンバ16を配置し、フロントサイドメンバ11の前部とロアメンバ16の前部を前部連結部材13及びフロントロアクロス14により連結し、フロントサイドメンバ11の後部とロアメンバ16の後部をフロントサスペンションメンバ15により連結して構成し、ロアメンバ16に前部の強度より後部の強度が低い4つの脆弱部21,22,23,24を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車体前部構造として、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された車体前部構造では、車体前後方向に延在するサイドメンバを配置すると共にこの下側にサブフレームを配置し、サイドメンバの水平部に対してサブフレームを略平行に配置すると共に、サブフレームの前端部を連結体を介して水平部の前端部に連結し、サブフレームの後端部を傾斜部に連結し、サイドメンバの上面の連結体の直後に第1折曲り溝を設け、サイドメンバの下面の水平部と傾斜部との間に第2折曲り溝を設け、サブフレームの上面の中間位置に第3折曲げ溝を設けている。
【0003】
従って、前面衝突時にサイドメンバ及びサブフレームが折曲り変形することで、衝突荷重を上方向と下方向の分力に分散して確実に吸収できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−297830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の車体前部構造では、サイドメンバやサイドメンバなどの複数の部材に、複数の折曲り溝をそれぞれ形成することで、平行四辺形が形成されるように変形させている。そのため、複数の部材の適正な印位置に折曲り溝をそれぞれ形成する必要があり、加工が面倒なものとなると共に、加工コストが増加してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、前方衝突荷重を効率的に吸収可能であると共に部品コストの増加を抑制可能とする車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車体前部構造は、車体前部の左右両側に配設されて車体前後方向に延在するサイドメンバと、前記左右のサイドメンバの下方に所定距離をあけてそれぞれ配置されて前部の強度より後部の強度が低い複数の脆弱部を有するロアメンバと、前記左右のサイドメンバの前部と前記左右のロアメンバの前部を連結する前部連結部材と、前記左右のサイドメンバの後部と前記左右のロアメンバの後部を連結する後部連結部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記車体前部構造にて、前記複数の脆弱部は、前部から後部にかけて徐々に強度が低下することが好ましい。
【0009】
上記車体前部構造にて、前記複数の脆弱部は、前記ロアメンバにおける前記後部連結部材との連結部側に設けられることが好ましい。
【0010】
また、本発明の車体前部構造は、車体前部の左右両側に配設されて車体前後方向に延在するサイドメンバと、前記左右のサイドメンバの下方に所定距離をあけてそれぞれ配置されて前部の強度より後部の強度が低くなる複数の折曲り点がホットプレスにより形成されるロアメンバと、前記左右のサイドメンバの前部と前記左右のロアメンバの前部を連結する前部連結部材と、前記左右のサイドメンバの後部と前記左右のロアメンバの後部を連結する後部連結部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車体前部構造は、左右のサイドメンバの下方でこのサイドメンバの前部及び後部に連結されるロアメンバに、前部の強度より後部の強度が低い複数の脆弱部を設けるので、複数の脆弱部により前方衝突荷重を効率的に吸収することができると共に部品コストの増加を抑制することができるという効果を奏する。
【0012】
本発明に係る車体前部構造は、左右のサイドメンバの下方でこのサイドメンバの前部及び後部に連結されるロアメンバを、ホットプレスにより前部の強度より後部の強度が低くなる複数の折曲り点と共に形成するので、ロアメンバに一体に形成された複数の脆弱点により前方衝突荷重を効率的に吸収することができると共に部品コストの増加を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る車体前部構造を表す車体前部の側面図である。
【図2】図2は、本実施形態の車体前部構造におけるロアメンバを表す概略図である。
【図3】図3は、本実施形態の車体前部構造における前方衝突時の作用を表す概略図である。
【図4】図4は、本実施形態の車体前部構造における前方衝突時の作用を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る車体前部構造の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
〔実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態に係る車体前部構造を表す車体前部の側面図、図2は、本実施形態の車体前部構造におけるロアメンバを表す概略図、図3は、本実施形態の車体前部構造における前方衝突時の作用を表す概略図、図4は、本実施形態の車体前部構造における前方衝突時の作用を表す概略図である。
【0016】
本実施形態の車体前部構造において、図1に示すように、車体10は、前部における左右の両側に、一対のフロントサイドメンバ11が車体前後方向に沿って延在するように配設されている。このフロントサイドメンバ11は、車体前後方向に沿って直線状に延びる直線部11aと、この直線部11aの後端部から斜め下方へ屈曲するように延びる屈曲部11bから構成されている。そして、この屈曲部11bは、エンジンルームとキャビンとを隔成する図示しないダッシュパネルの下端側に連結されている。なお、このフロントサイドメンバ11は、フロントサイドメンバアウタパネルとフロントサイドメンバインナパネルとを結合させることにより略筒形状をなす閉断面構造に形成されている。
【0017】
左右のフロントサイドメンバ11は、前端部同士がフロントバンパリインフォース12により連結されている。このフロントバンパリインフォース12は、車体左右方向(車幅方向)に沿って延在するように配設された長尺状の部材であり、左右端部が、左右のフロントサイドメンバ11の前端部を相互に連結するように結合されている。そして、フロントサイドメンバ11は、直線部11aの前部に複数のビードが形成されることでクラッシュ部11c,11dが形成されている。
【0018】
これにより、車体10が前面衝突したときに、フロントバンパに入力された荷重が、フロントバンパリインフォース12を介して左右のフロントサイドメンバ11におけるクラッシュ部11c,11dに効率良く伝達されることで、このクラッシュ部11c,11dが押し潰されて圧縮変形可能となっている。
【0019】
また、左右のフロントサイドメンバ11は、直線部11aの前部に車体上下方向に沿った前部連結部材13の上端部が連結されている。そして、この前部連結部材13は、下端部同士がフロントロアクロス14により連結されている。このフロントロアクロス14は、車体左右方向に沿って延在するように配設された長尺状の部材であり、左右端部が、左右の前部連結部材13の下端部を相互に連結するように結合されている。この場合、フロントサイドメンバ11は、前部連結部材13との連結部の前後に上述したクラッシュ部11c,11dが形成されている。
【0020】
更に、左右のフロントサイドメンバ11は、屈曲部11bの下部に車体左右方向に沿った後部連結部材としてのフロントサスペンションメンバ15の端部が連結されている。このフロントサスペンションメンバ15は、図示しないサスペンション装置が組み付けられる部材であり、車体左右方向に延在した一方の端部にて、前端部15aがフロントサイドメンバ11における直線部11aと屈曲部11bとの間に連結され、後端部15bがフロントサイドメンバ11における屈曲部11b後部に連結されている。
【0021】
車体10は、前部における左右の両側に、上述した左右のフロントサイドメンバ11の下方に所定距離をもって一対のロアメンバ16が車両前後方向に沿って延在するように配設されている。このロアメンバ16は、略筒形状をなす閉断面構造に形成され、前端部がフロントロアクロス14の下部に連結され、後端部がフロントサスペンションメンバ15の前端部15aに連結されている。
【0022】
このロアメンバ16は、図1及び図2に示すように、後部に複数(本実施例では、4つ)の脆弱部21,22,23,24が設けられている。この脆弱部21,22,23,24は、ロアメンバ16における車体前部側の強度より、車体後部側の強度が低く設定されており、前部側から後部側にかけて徐々に強度が低下するように設定されている。即ち、ロアメンバ16における各脆弱部21,22,23,24の強度をF1,F2,F3,F4とすると、F1>F2>F3>F4となるように設定されている。この場合、各脆弱部21,22,23,24は、ロアメンバ16における後部、つまり、フロントサスペンションメンバ15の前端部15aの連結部側に設けられている。
【0023】
そして、ロアメンバ16は、ホットプレスにより製造されてなるものであり、強度が低くなる複数の折曲り点(本実施例では、4つ)を形成するために、この折曲り点における焼入れ温度を異ならせることで、上述した脆弱部21,22,23,24を形成するホットプレス材として構成されている。
【0024】
即ち、ホットプレスとは、材料を約900℃に加熱した後に、水冷のプレス型で成形する手法で成形性と強度を同時に確保するものであり、この手法を用いて製造された超高張力鋼板をホットスタンプ材と呼ぶ。本実施例では、ロアメンバ16における4つの折曲り点の焼入れ温度を、車体前部側より車体後部側ほど低く設定することで、強度の異なる4つの脆弱部21,22,23,24を形成している。
【0025】
従って、車体10が前方衝突すると、まず、図3に示すように、衝突荷重がフロントバンパに入力し、フロントバンパリインフォース12を介して左右のフロントサイドメンバ11に作用する。すると、この左右のフロントサイドメンバ11は、各クラッシュ部11c,11dが押し潰されて圧縮変形すると共に、ロアメンバ16は、脆弱部24,23が順に折れ曲がって座屈することで、衝突荷重のエネルギを吸収する。その後、図4に示すように、衝突荷重により左右のフロントサイドメンバ11は、各クラッシュ部11c,11dが更に押し潰されて圧縮変形すると共に、ロアメンバ16は、脆弱部22,21が順に折れ曲がることで、衝突荷重のエネルギを吸収する。
【0026】
このとき、前方衝突における衝突荷重により、ロアメンバ16は、車体後部の強度が低い後方側の脆弱部24、脆弱部23、脆弱部22、脆弱部21の順で、上方側と下方側へと交互に折れ曲がる。即ち、このロアメンバ16が安定して折れ曲がることで、周囲の構成部材に接触することなく、衝突エネルギが適正に吸収される。この場合、前方衝突に車体10の前部を構成するフロントサイドメンバ11及びロアメンバ16は、順次、変形量を増大させながら変形が進行するため、衝突荷重を維持しながら変形することで、衝突エネルギの吸収効率が向上する。
【0027】
このように本実施形態の車体前部構造にあっては、車体10の前部の左右両側に車体前後方向にフロントサイドメンバ11を配置すると共に、左右のフロントサイドメンバ11の下方に所定距離をあけてロアメンバ16を配置し、フロントサイドメンバ11の前部とロアメンバ16の前部を前部連結部材13及びフロントロアクロス14により連結し、フロントサイドメンバ11の後部とロアメンバ16の後部をフロントサスペンションメンバ15により連結して構成し、ロアメンバ16に、前部の強度より後部の強度が低い4つの脆弱部21,22,23,24を設けている。
【0028】
従って、フロントサイドメンバ11の下方に前部及び後部で連結されるロアメンバ16を配置し、前部の強度より後部の強度が低い4つの脆弱部21,22,23,24を設けることで、前方衝突時にこの脆弱部21,22,23,24が強度の低い順に折れ曲がり、衝突荷重を効率的に吸収することができる。この場合、ロアメンバ16に容易に脆弱部21,22,23,24を設けることで、部品コストの増加や製造コストの増加を抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態の車体前部構造では、各脆弱部21,22,23,24を前部から後部にかけて徐々に強度が低下するように設定している。従って、衝突荷重により、ロアメンバ16は、脆弱部24、脆弱部23、脆弱部22、脆弱部21の順に安定して折れ曲がることとなり、衝突エネルギを適正に吸収し、且つ、変形量を増大させながら変形が進行するため、衝突荷重を維持しながら変形して衝突エネルギの吸収効率を向上することができる。
【0030】
また、本実施形態の車体前部構造では、4つの脆弱部21,22,23,24を、ロアメンバ16におけるフロントサスペンションメンバ15との連結部側に設けている。従って、衝突荷重により、ロアメンバ16は、脆弱部21,22,23,24がある後端部側から順次変形することとなり、このロアメンバ16を安定して変形させることで、周囲の部材を変形させずに効率的に衝突荷重のエネルギを吸収することができる。
【0031】
また、本実施形態の車体前部構造にあっては、ロアメンバ16をホットプレスにより、焼入れ温度を異ならせることで4つの強度が異なる脆弱部21,22,23,24を形成し、強度が低くなる4つの折曲り点を形成している。従って、ロアメンバ16に一体に形成された複数の脆弱点(脆弱部21,22,23,24)により、前方衝突荷重を効率的に吸収することができる。また、ロアメンバ16をホットプレスにより製造して脆弱部21,22,23,24を一体的に設けることで、別途ロアメンバ16に対する加工を不要とし、部品コストの増加や製造コストの増加を抑制することができる。
【0032】
なお、上述した実施形態では、ロアメンバ16をホットプレスにより強度が異なる4つの脆弱部21,22,23,24を設けたが、この構成に限定されるものではない。例えば、ビード、切欠、薄肉、凹凸などを設けることで、強度が異なる4つの脆弱部を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明に係る車体前部構造は、ロアメンバに前部の強度より後部の強度が低い複数の脆弱部を設けることで、前方衝突荷重を効率的に吸収可能であると共に部品コストの増加を抑制可能とするものであり、いずれの車体前部構造に有用である。
【符号の説明】
【0034】
11 フロントサイドメンバ
12 フロントバンパリインフォース
13 前部連結部材
14 フロントロアクロス
15 フロントサスペンションメンバ(後部連結部材)
16 ロアメンバ
21,22,23,24 脆弱部(折れ曲がり点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の左右両側に配設されて車体前後方向に延在するサイドメンバと、
前記左右のサイドメンバの下方に所定距離をあけてそれぞれ配置されて前部の強度より後部の強度が低い複数の脆弱部を有するロアメンバと、
前記左右のサイドメンバの前部と前記左右のロアメンバの前部を連結する前部連結部材と、
前記左右のサイドメンバの後部と前記左右のロアメンバの後部を連結する後部連結部材と、
を備えることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記複数の脆弱部は、前部から後部にかけて徐々に強度が低下することを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記複数の脆弱部は、前記ロアメンバにおける前記後部連結部材との連結部側に設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
車体前部の左右両側に配設されて車体前後方向に延在するサイドメンバと、
前記左右のサイドメンバの下方に所定距離をあけてそれぞれ配置されて前部の強度より後部の強度が低くなる複数の折曲り点がホットプレスにより形成されるロアメンバと、
前記左右のサイドメンバの前部と前記左右のロアメンバの前部を連結する前部連結部材と、
前記左右のサイドメンバの後部と前記左右のロアメンバの後部を連結する後部連結部材と、
を備えることを特徴とする車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207241(P2011−207241A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73733(P2010−73733)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】